電話 - みる会図書館


検索対象: 亀裂
29件見つかりました。

1. 亀裂

て、内ポケットにねじこんだ。 「あら、もう交渉したのー 「あとからフロントに電話する。名前は ? 「いや、上司が、そういうんですよ」 「や、安田てす」 「そんなに出すもんですか。スクープといったっ て、すぐに犯人があがるものじゃないんだし、そ「十分後に電話する」 と、言い捨てて、おれは〔ビレーネ〕を出た。 れに、警察で公開してしまえば、一文の価値もな 階段の下のビンク電話で、アコは必死にデスクを くなるのよ」 口説いていた。 「それもそうですが : ・・ : 」 スクープよ、いい絵があるの、犯人の筆跡 「とにかく、デスクに聞いてみるわ」 ⅱし一いだ。おれは、その隙よ、だから、五万・ : ・ : 」 アコはビンク電話こ急 しぶ その表情から見て、よほど吝いデスクらしい。 おれは階段の上から、安田をふりかえって見 「二十万出すぜ」突然のことに驚いた顔におれ た。ラムネの瓶の底のような眼鏡が、まだ驚きか は、繰り返した。「売りたいものはわかってい らさめずに、おれを追っていた。 る。二十万で買おう、これは手付けだ」 十分後におれは電話をかけ、安田を呼びだし おれは一万円札を二枚、握らせて立ち上がっ た。安田は、交替の時間まで、フロントを離れる ことは出来ないと答えた。 こういうときは、呼吸の問題だ。おれが出した 「じゃ、何時ー 二万円を、フロントの男はひったくるようにとっ ) 0 ホシ ホシ

2. 亀裂

二杯飲んだ。 「桂たまきさんを : ・ と、おれはとばけこ。 このあたりのサテンはボーイの訓練がゆきとど いていて、十分も立っと、コーヒーを片付けにく る。しかたがない。おれは三杯目はレモンティー 「もしもし、ポポロですね」 を注文した。 三十分待った。電話はなかった。さらに十五 返事はなかった。 分、待った。が、やはり、何の連絡もなかった。 「お電話、代わりました」受付嬢の声だ。すぐに おれは不安を感じた。この不安は、何に由来するおれに気がついたように、「あ、さっきの御万て のか。 すね。桂さんは、やはり、リザープなさっていま たまきが美容院に来たら、電話があるなり、イせんでした」 ンターンが、呼びにくるなりするはずだ。 「そうですか」 あのインタ 1 ンのやつめ、余分なことを言いや おれは電話をかけてみた。 がるから、四十五分、損をした。 「桂たまきさん、来ていますか ? 」 「あの、何か、お約東 : 「失礼ですが、どなたさまですか」 「いや、そうじゃないんですが」 受話器をとった女は、こう切りかえしてきた。 あの受付嬢の声ではなかった。さっきのインター 「メッセージでもございましたら、お伝えします ンの声とも違った。気取った声だ。

3. 亀裂

「ああ、お話、伺ってましたわ。もうお見えにな 早ロだから、聞きとり難かったが、たしか、そう るでしよう。何を召し上がる ? 」 い、つ説明だっこ 0 プランディに口をつけない、っちに、アコが飛び 神宮前二丁目の交叉点の右側にサントロべの小 こむように入ってきた。彼女は、店内を一暼する さな看板が見えた。おれは車を停めようとした。 と、ママに、やア、と親しげに言って、迷いもせ 、つつかり・していた。 この車は盗品だ。この近くに停めていては、ジずにまっすぐに、おれのところへやってきた。 「あなたね、お電話下さったの」 エフから盗難届けが出ていると、すぐに足がっ く。おれは、三百メートルばかり引きかえしてわ「そうだ」 びつくり 「吃驚したわ」 き道に入れた。このあたりはマンションが多いか 「何が」 ら、たとえ発見されても、こっちまて捜索の手が 「予感がしたの。ママ、あたしは水割り」 伸びるのは時間がかかるだろう。 「プランディにしないか。たまには、男に合わせ おれは歩いて、サントロべにいった。まだアコ は来ていなかった。小さなスナックだが、内装のるもんだぜ」 感じはいい。 三十くらいのママが、客の男と話し「言うわね」 はんばっ 意外に反撥しなかった。アコは嬉しそうにマ ているだけだった。静かな音楽が流れている。 マ、あたしもカレと同じものを、と言った。 「新聞のアコと待ち合わせているんだが」 「どうして、あたしを知っていたのーアコはプラ と、おれは言った。 いちべっ

4. 亀裂

( どこへ行っちまったのか。こんなときに ) 「七時過ぎるといいんですが」 おれにとって、生きるか死ぬかの瀬戸際だ。 「よし、七時半だ。そうだな場所は」 直接、たまきの家にも〔夜の女王〕にも行けな 「あのビレーネでは」 。多分、おれが一歩でも入れば、警察が待ちか 「そいつアやばい。あの女記者が嗅ぎつける。花 まえているだろう。たまきには、事を説明して 園神社にしよう : : : 」 むろん、おれは二十万なんて払う気はない。そおきたかった。 れくらい高くいわないと、あの野郎がこっちに渡おれの殺人容疑が濃くならないうちに、どうし てこういうことになったか、明らかに罠であるこ さないからだ。 七時まで時間がある。その間、おれは、桂たまとを説明しておかないと、あとからでは、何を言 っても弁解に聞こえる。 きに連絡をとることにした。 おれの立場は危険なものだ。強力な後ろ楯が要 たまきの行き先を、あれこれ考えた。大体、彼 る。万一の場合は、日木脱出するしかない。その女の行動半径は知っているつもりだが、この時間 とき費用やパスポートの世話を頼むのは、桂たまとなると、一寸、見当がっかない。食事か、美容 きしかオし 院か、買い物か。 おれは、たまきに電話をかけた。たまきは不在たまきは、逗子マリーナのプールではじめて逢 だった。お手伝いが出てきて、何処へ行ったか、 ったときから見ると随分、肥った。あのときが、 行き先はわからないという。おれは焦った。 少なくとも美人の範疇に入る最後だったろう。お だてい はんちゅう 120

5. 亀裂

はげしく否定しながら、ユカリはおれにしがみ「ひどい ! 」 両手で顔を蔽った。 「蛸の電話だって ? 」 「ふざけるんじゃねえ、おれを甘く見やがって、 蛸と桔梗は、殺し屋だ。おれのあとをつけて来なんだ、この番号は」 やがった。逆におれが殺している。 「だって : : : 蛸さんの電話 : : : 」 : 四 X >< ヒトゴロシ、人殺し、か。 あんな奴らの電話番号を聞いたって、いまさ「馬鹿野郎 : ら、どうにもならない。四 >< x ・一五六四番。おふざけるな」 れは何気なく片手でメモに書き込みながら、渋谷「ヒトゴロシ ? : : : あ、そう読めるわ、ああおか 辺だなと思った。 しようしゃ ・、、十っ 枕元の受話器は最新式のコードレス。瀟洒て豪 ュカリは笑いだした。おれの掌のあとカ あか 華で新しいもの好きが、とびつくやつだ。 きりと赧らんでいる。 いや、そんなことよりも、おれはイチゴロクョ 「やい、笑いごとじゃねえぞ」おれは女の首に両 ン、と書き終えて、「この野郎 ! 」かっとなつ手をかけた。「おれは、男を小莫迦にする女を、 許さない」 「ふざけるな」 「あ、く、苦しい : びしっと、思いきり、ユカリを撲った。ュカリ 「死ね ! 」 はひえーっと、悲鳴をあげた。 「やめて ! こ 0 バカにしたんじゃないわ、ほんと こばか 巧 7

6. 亀裂

ポポロ美容室に電話した。むろん、閉店してい は、考えを変えた。 外人は習慣的に、たいてい。ハスポートをいつもる。消息が知れれば、と思ったのだが、今夜は来 携帯している。そいつを見たかった。おれはロッ なかったという。マキシムか橋善でよく食事をす カーの前に誰もいないのを幸い、奴の背広のポケるのだが、食道楽だから、行くところが多すぎ ットをさぐった。分厚い財布が触れた。 る。ポポロにはユカリが戻っているはずだと思っ 中身を調べているひまはない。そのままイタダたが、ユカリもいない。どこにいっているのだろ キだ。別のポケットから、キイの東が出てきた。 う。あの恰好ではとても帰れないので、友人のと しめた、と思った。そのときまて思いもしなか ころにでもいったのか。 ったことだ。キイがあれば、あの車を無断借用で おれは急に思いついて、アコの新聞社に電話し きるわけだ。これで足に不自由しない。 た。社会部だ。こんな時間だが、ひょっとして、 おれは何食わぬ顔て、サウナを出た。小豆色のまだ働いているかもしれないと思ったのだ。 いる ? 」 キャデラックだ。新車じゃないがエンジンのかか「アコ、 おれは馴れ馴れしく、言った。 りはよかった。おれはふっとばした。快適だっ こ 0 友達からかかってきたような調子だった。こち 六本木の〔夜の女王〕に戻るつもりだった。 らの名前を聞かれても、どうせアコが知るはずが が、途中で気が変わった。桂たまきの家へ電話しない。もしも警察におれの名前が密告されている た。やはり不在だっこ。 としたら、尚更、ロにできない。アコのような婦 202

7. 亀裂

人記者が、そいつを秘密にしてくれるはずはなか「 : 「安田から、情報を買ったのさ」 幸い、受話器をとったのは男だった。 「え」 「ああ、いるよ」 「あんたより一足先にな」 それから、アコを呼ぶ声が聞こえた。あら、あ「まあ : : : 」 たしに電話 ? カレかな : : : そんなはしゃいだ声 「お宅はデスクがケチりやがるから、スクープは で、アコが出てきた。 できないな」 「あたし・ : ・ : 」 「それで、その情報は」 「おれだ」 「おれが持っている」 だれ ? 」 「幾らなの」 「名前言ったって、知らないだろうな。ホテル 「その相談をしたいな」 のフロントの安田、といえば思いだしてくれたろ「 : 「お宅のデスクじやア話が出来ないのは、先刻御 承知だ。だから、あんたに電話したのさ」 「ええ : : : でも」 安田とは声も感じも違うからだろう。アコは言 「どこで逢って下さる」 上ど い澱んでいる。 「もう遅いから、あんたのほうで指定してくれ」 「いや、安田じゃない」 「青山の神宮前二丁目に、サントロべというスナ っこ 0 203

8. 亀裂

もう一人の奴に視線を向けると、そいつは、も と一一一口った。 う、ロもきけないようだ。 「松濤の家に一度、お伺いしたんですが、番地を の家を聞かなきやアな。 忘れてしまって : : : ュカリさんなら、御存じだと 「ほかの奴からもエミー 誰かいるだろう」 思って」 そいつは、失いかけた思考力をはたらかせて、 「どうして、私の名前を」 あの美容室のユカリなら知っている、と言った。 「いや、エミーさんが、そう言っていたから」 「あら、そうなのー嬉しそうに、ユカリは、声を 「ユカリ ? 「インターンなんだ。エミーが家でセットさせる弾ませて、「松濤にゆけば、すぐわかりますわ。 こともあるんだ」 山本富士子の家の前をずっと来て : : : 」 電話番号を奴はそらんじていた。おれはすぐに また山本富士子か。これじやア山本富士子が風 ・カゞー子′ 邪をひいちまうぜ。 電話口に出てきた声を聞いたとき、おれはあっ 「赤い風見鶏があるから、すぐわかりますわー と思った。おれに、待つようにと言ったあの声じ「そうだったな。一度いったときは、暗くて」 「番地をお教えしますわ、ちょっと待ってね」 ゃないか。 顧客名簿を見ているんだろう。二、三分して出 ( あいっか ) てきたユカリは、番地と号数まで、言った。 何だか、漸く、謎がほぐれてゆく感じだった。 「有難う」と、おれはソフトな声で甘く言った。 おれは声を変え、エミーさんのともだちだが、

9. 亀裂

た。それが来ても、ロをつけようとせず、夢中に 「そうだ、もう少しで、ポカやるところだった」 記者は首をすくめた。「仮面の女の名前が中島薫なっている。面自い女だ。こういう女は、セック って、もう少しで電話でいうところだったよ」 スに夢中になれる女だ。浅茅陽子に似ている。お 「デスクに怒鳴られるところだったわね」 れは、ああいう女はあまり好きじゃない。うるさ 「だが、誰だって、薫なんて名前聞くと、女だとすぎる。が、べッドでは面自いだろう。アコの脣 思うぜ。フロントの奴が意地が悪いんだな」 のたえまない動きを見ていると、おれはふっと、 くわ 「だから、警察の発表を待てばいいんだといわれ男のものを咥えて、緊めたり弛めたりしている部 るのさ」 分を想像した。こういう女は、尻の穴まで舐めて 「そいつが出来ないのが、駈け出し記者だ。薫な くれる。 んて : : : 女の名前だ」 「ーー・・・住所はどうなっているのよ、電話番号だっ 「あら、庄司薫って、小説家がいるじゃないのー て書いてあったんでしよ。そんなところをびしび 「顧客名簿に書いてあったんだろ、誰だって殺さしあたってみなくちゃ れた女の名前と思うさ」 「そんなことは、とっくに警察がやったさ。表ん 「男のところにチェックしてあったんだって」 な出鱈目だってよ」 「そのカードは、見せて貰えないのか」 「そこよ、みんながウトイのは」 「証拠品として、警察が持っていったらしいわ」 「ウトイ、御挨拶だな」 アコと呼ばれた女は、クリームパフェを注文し「ウトイじゃないの。男のくせに、みんなだらし ビジター・カード ゆる

10. 亀裂

ヒステリックな金切り声に、営業所のおやじが るつもりだった。が、待てなかった。二年のと 電話でペこペこ頭を下げて謝る。その反動が、お き、おれも飛びだしてしまった。 そのとき、おれは五、六十万持っていた。アルれの上に落ちる。 バイトで稼いだのだ。どうせ、まともなバイトじ「この馬鹿野郎、さっさと届けてこい。怒ってや やよ、 0 められたら、一年間、お前の給料から差っ引くか らな」 はじめのうちは、それでもまともなやつをやっ おれは、怒鳴られて、横っ飛びに走りだす。 た。新聞や牛乳の配達さ。御多分に洩れずな。 だが、馬鹿馬鹿しくなった。おれにいいバイトま、そんなことくらいで、中止する家はなかった が、こっちは真剣だった。そのマンションの奥さ を教えてくれたのは、牛乳の配達先の奥さんだ。 伯母の家は横浜の霞町にあったが、牛乳の営業んは、いっか見たことがある。学校の帰りに、表 所は野毛だった。この辺から真金町あたりはごちを通りかかったら、丁度外出しようとしたところ やごちゃしていた。普通の家と商店とマンションだった。 やア。ハートがあちこちにあって、一軒一軒、間違 ( きれいだな ) と、そのとき思った。岩下志麻に似ていた。 いなく配達するのも、容易なことじゃない。 ( あの奥さんなら、大して怒らないだろう ) おれはよく間違った。よその家へ入れてしまっ と、おれは、階段を上がりながら思った。マン たり、入れ忘れたりした。すると、電話がかかっ ションの二階だったのだ。 てくる。