行っ - みる会図書館


検索対象: 注文の多い料理店
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1. 注文の多い料理店

てみると、まわりの山は、みんなたったいまできたばかりのようにうるうるもりあがって、 まっ青なそらのしたにならんでいました。一郎はいそいでごはんをたべて、ひとり谷川に沿 ( 四 ) ったこみちを、かみの方へのばって行きました。 すきとおった風がざあっと吹くと、栗の木はばらばらと実をおとしました。一郎は栗の木 をみあげて、 「栗の木、栗の木、やまねこがここを通らなかったかい。」とききました。栗の木はちょっ としずかになって、 理「やまねこなら、けさはやく、馬車でひがしの方へ飛んで行きましたよ。」と答えました。 「東ならばくのいく方だねえ、おかしいな、とにかくもっといってみよう。栗の木ありがと 多 の 文栗の木はだまってまた実をばらばらとおとしました。 たき ( 五 ) 一郎がすこし行きますと、そこはもう笛ふきの滝でした。笛ふきの滝というのは、まっ白 な岩の崖のなかほどに、 小さな穴があいていて、そこから水が笛のように鳴って飛び出し、 すぐになって、ごうごう谷におちているのをいうのでした。 一郎は滝に向いて叫びました。 「おいおい、笛ふき、やまねこがここを通らなかったかい。」 滝がびーびー答えました。 「やまねこは、さっき、馬車で西の方へ飛んで行きましたよ。」

2. 注文の多い料理店

ついて来ないでいいよ。ゆっくりやすんでこの次の仕度をして置いておくれ。ああまあい あんばいだった。水仙月の四日がうまく済んで。」 かみ やみ その眼は闇のなかでおかしく青く光り、ばさばさの髪を渦巻かせ口をびくびくしながら、 東の方へかけて行きました。 おか 野はらも丘もほっとしたようになって、雪は青じろくひかりました。空もいっかすっかり ききょ・つ 霽れて、桔梗いろの天球には、いちめんの星座がまたたきました。 四 雪童子らは、めいめい自分の狼をつれて、はじめてお互挨拶しました。 の 月 「ずいぶんひどかったね。」 水 「ああ、」 理「こんどはいっ会うだろう。」 料 「いつだろうねえ、しかし今年中に、もう二へんぐらいのもんだろう。」 の「早くいっしょに北へ帰りたいね。」 駐「ああ。」 「さっきこどもがひとり死んだな。」 「大丈夫だよ。眠ってるんだ。あしたあすこへばくしるしをつけておくから。」 「ああ、もう帰ろう。夜明けまでに向、つへ行かなくちゃ。」 「まあいいだろう。ほくね、どうしてもわからない。あいつはカシオペーアの三つ星だろう。 みんな青い火なんだろう。それなのに、どうして火がよく燃えれば、雪をよこすんだろう。」 たいじようふ おいの

3. 注文の多い料理店

「みなみへ行ったなんて、一一とこでそんなことを一言うのはおかしいなあ。けれどもまあもす こし行ってみよう。りす、ありがとう。」りすはもう居ませんでした。ただくるみのいちば えた ん上の枝がゆれ、となりのぶなの葉がちらっとひかっただけでした。 一郎がすこし行きましたら、谷川にそったみちは、もう細くなって消えてしまいました。 かや ( 七 ) そして谷川の南の、まっ黒な榧の木の森の方へ、あたらしいちいさなみちがついていました。 一郎はそのみちをのほって行きました。榧の枝はまっくろに重なりあって、青ぞらは一きれ あせ も見えず、みちは大へん急な坂になりました。一郎が顔をまっかにして、汗をほとほとおと 理しなから、その坂をのほりますと、にわかにばっと明るくなって、眼がちくっとしました。 料 そこはうつくしい黄金いろの草地で、草は風にざわざわ鳴り、まわりは立派なオリーヴいろ 多 のかやの木のもりでかこまれてありました。 の ひざ かわむち 文その草地のまん中に、せいの低いおかしな形の男が、膝を曲げて手に革鞭をもって、だま ってこっちをみていたのです。 一郎はだんだんそばへ行って、びつくりして立ちどまってしまいました。その男は、片眼 で、見えない方の眼は、白くびくびくうごき、上着のような半纒のようなへんなものを着て、 だいいち足が、ひどくまがって山羊のよう、ことにそのあしさきときたら、ごはんをもるヘ らのかたちだったのです。一郎は気味が悪かったのですが、なるべく落ちついてたずねまし 「あなたは山猫をしりませんか。」 ふた はんてん

4. 注文の多い料理店

るだけだ。 しかしお前らはも、つ少し語に気をつけないといかんぞ。」 「、つん。行っても ) ) 。 小猿の大将は、むやみに沢山うなすきながら、腰掛けの上に立ちあがりました。 見ると、栗の木の三つのきのこの上に、三つの小さな入口ができていました。それから栗 の木の根もとには、楢夫の入れる位の、四角な入口があります。小猿の大将は、自分の入口 に一寸顔を入れて、それから振り向いて、楢夫に申しました。 たたいま 「只今、電燈を点けますからどうかそこからおはいり下さい。入口は少し狭う ) 」ざいますが、 中は大へん楽でございます。」 し ゞヾッと占 ~ きました。 小猿は三疋、中にはいってしまい、それと一緒に栗の木の中に、電燈カノ の檎夫は、入口から、急いで這い込みました。 えんとっ る 小さな電燈がついて、 栗の木なんて、まるで煙突のようなものでした。十間置き位に、 さ かべ さな小さなはしご段がまわりの壁にそって、どこまでも上の方に、のほって行くのでした。 「さあさあ、こちらへおいで下さい。」小猿はもうどんどん上へ昇って行きます。楢夫は一 ペんに、段を百ばかりずつ上って行きました。それでも、仲々、三疋には敵いません。 楢夫はつかれて、はあはあしながら、云いました。 「ここはもう栗の木のてつべんだろう。」 猿か、一度にきやっきやっ笑いました。 「まあいいからついておいでなさい。」 145 たくさん いっしょ のぼ せも

5. 注文の多い料理店

り来たりしました。もうどこが丘だか雪けむりだか空だかさえもわからなかったのです。聞 かわむち ゆきば えるものは雪婆んごのあちこち行ったり来たりして叫ぶ声、お互の革鞭の音、それからいま ゆきわらす くひき は雪の中をかけあるく九疋の雪狼どもの息の音ばかり、そのなかから雪童子はふと、風にけ されて泣いているさっきの子供の声をききました。 ひとみ 雪童子の瞳はちょっとおかしく燃えました。しばらくたちどまって考えていましたがいき なり烈しく鞭をふってそっちへ走ったのです。 けれどもそれは方角がちがっていたらしく雪童子はずうっと南の方の黒い松山にぶつつか 理りました。雪童子は革むちをわきにはさんで耳をすましました。 料 「ひゅう、ひゅう、なまけちゃ承知しないよ。降らすんだよ、隆らすんだよ。さあ、ひゅう。 多 今日は水仙月の四日だよ。ひゅう、ひゅう、ひゅう、ひゅうひゅ、つ。」 の 文そんなはげしい風や雪の声の間からすきとおるような泣声がちらっとまた聞えてきました。 雪童子はまっすぐにそっちへかけて行きました。雪婆んごのふりみだした髪が、その顔に気 みわるくさわりました。峠の雪の中に、赤い毛布をかぶったさっきの子が、風にかこまれて、 もう足を雪から抜けなくなってよろよろ倒れ、雪に手をついて、起きあがろうとして泣いて いたのです。 「毛布をかぶって、うっ向けになっておいで。毛布をかぶって、うつむけになっておいで。 ひゅう。」雪童子は走りながら叫びました。けれどもそれは子どもにはただ風の声ときこえ、 そのかたちは眼に見えなかったのです。 けっと

6. 注文の多い料理店

来さんの祭へ行くたい」と、その子は寝ていて、毎日毎日云 「如来さんの祭へ行くたい。如 いました。 「祭延ばすから早くよくなれ」本家のおばあさんが見舞に行って、その子の頭をなでて云い ました。 その子は九月によくなりました。 なまり いままで祭を延ばされたり、 そこでみんなはよばれました。ところがほかの子供らは、 うさぎ の兎を見舞にとられたりしたので、何ともおもしろくなくてたまりませんでした。あいつの やくそく なためにめにあった。もう今日は来ても、何たってあそばないて、と約束しました。 窈「おお、来たぞ、来たぞ」みんながざしきであそんでいたとき、にわかに一人が叫びました。 童「ようし、かくれろ」みんなは次の、小さなざしきへかけ込みました。 はず しそしたらどうです、そのざしきのまん中に、今やっと来たばかりの筈の、あのはしかをや んだ子が、まるつきり瘠せて青ざめて、泣き出しそうな顔をして、新らしい熊のおもちやを 持って、きちんと座っていたのです。 「ざしきばっこだ」一人が叫んで遷げだしました。みんなもわあっと遁げました。ざしきば っこは泣きました。 こんなのがざしきばっこです。 ふち ( 七六 ) わたもり また、北上川の朗明寺の淵の渡し守が、ある日わたしに云いました。 141

7. 注文の多い料理店

くちばし えら 「うん、眼玉が出しやばって、嘴が細くて、ちょっと見掛けは偉そうだよ。しかし訳ない 0 「ほんとう。」 たいじようぶ 「大丈夫さ。しかしもちろん戦争のことだから、どういう張合でどんなことがあるかもわか らない。そのときはおまえはね、おれとの約束はすっかり消えたんだから、外へ嫁ってく 「あら、どうしましよう。まあ、大へんだわ。あんまりひどいわ、あんまりひどいわ。それ 理ではあたし、あんまりひどいわ、かあお、かあお、かあお、かあお」 料 「泣くな、みつともない。そら、たれか来た。」 へいそうちょう ( 一一 0 ) 多烏の大尉の部下、烏の兵曹長が急いでやってきて、首をちょっと横にかしげて礼をして云 文いました。 「があ、艦長殿、点呼の時間でございます。一同整列して居ります。」 そっこく 「よろしい。本艦は即刻帰隊する。おまえは先に帰ってよろしい。」 「承知いたしました。」兵曹長は飛んで行きます。 「さあ、泣くな。あした、も一度列の中で会えるだろう。 丈夫でいるんだぞ。おい、、 お前ももう点呼だろう、すぐ帰らなくてはいかん。手を出せ。」 二疋はしつかり手を握りました。大尉はそれから枝をけって、急いでじぶんの隊に帰りま こお した。娘の島は、もう枝に凍り着いたように、じっとして動きません。 0 めたま やくそく

8. 注文の多い料理店

した。 「山男、これからいたずら止めて呉ろよ。くれぐれ頼むぞ、これからいたずら止めで呉ろ きょ・つしゆく 山男は、大へん恐縮したように、頭をかいて立って居りました。みんなはてんでに、自分 の農具を取って、森を出て行こうとしました。 すると森の中で、さっきの山男が、 「おらさも粟餅持って来て呉ろよ。」と叫んでくるりと向うを向いて、手で頭をかくして、 理森のもっと奥の方へ走って行きました。 また 料 みんなはあっはあっはと笑って、うちへ帰りました。そして乂粟餅をこしらえて、狼森と 多 笊森に持って行って置いて来ました。 の と一一ろ 文次の年の夏になりました。平らな処はもうみんな畑です。うちには木小屋がついたり、大 きな納屋が出来たりしました。 それから馬も三疋になりました。その秋のとりいれのみんなのびは、とても大へんなも のでした。 今年こそは、どんな大きな粟餅をこさえても、大丈夫だとおもったのです。 そこで、やつばり不思議なことが起りました。 ある霜の一面に置いた朝納屋のなかの粟が、みんな無くなっていました、みんなはまるで ひとつぶ 一生けん命、その辺をかけまわりましたが、どこにも粟は、一粒もこほれて 気が気でなく、 なや や たいじようぶ たの お よろこ

9. 注文の多い料理店

きゅうれき 「旧暦八月十七日の晩に、おらは酒のんで早く寝た。おおい、おおいと向うで呼んだ。起き て小屋から出てみたら、お月さまはちょうどおそらのてつべんだ。おらは急いで舟だして、 向うの岸に行ってみたらば、紋付を着て刀をさし、袴をはいたきれいな子供だ。たった一人 しらお で、白緒のぞうりもはいていた。渡るかと云ったら、たのむと云った。子どもは乗った。舟 ひざ がまん中ごろに来たとき、おらは見ないふりしてよく子供を見た。きちんと膝に手を置いて、 そらを見ながら座っていた。 お前さん今からどこへ行く、どこから来たってきいたらば、子供はかあいい声で答えた。 理そこの笹田のうちに、ずいぶんながく居たけれど、もうあきたから外へ行くよ。なぜあきた さらき ( 七七 ) 料 ねってきいたらば、子供はだまってわらっていた。どこへ行くねってまたきいたらば更木の さいと・つ 多 斎藤へ行くよと云った。岸に着いたら子供はもう居ず、おらは小屋の入口にこしかけていた。 の ゅめ 、。けれどもきっと本当だ。それから笹田がおちぶれて、更木の斎 文夢だかなんだかわからなし 藤では病気もすっかり直ったし、むすこも大学を終ったし、めきめき立派になったから こんなのがざしき童子です。 142 ささた もんっき

10. 注文の多い料理店

「そだら行がんす。」一郎が云いました。 のこぎり 「うん、それがら家さ戻ったらお母さんさ、ついでの人さたのんで大きな方の鋸をよごして 昊ろって云えやいな、いいが。忘れなよ。家まで丁度一時間半かがらはんてゆっくり行って かわ も三時半にあ戻れる。のどあ乾いでも雪たべなやい。」 ならお 「うん。」楢夫が答えました。楢夫はもうすっかり機嫌を直してピョンピョン跳んだりして いました。 馬をひいた人は炭俵をすっかり馬につけてつなを馬のせなかで結んでから 理「さ、そいでい、行ぐまちゃ。わらし達あ先に立ったら好がべがな。」と二人のお父さんに 料たずねました。 多 「なあに随で行ぐごたんす。どうがお願あ申さんすじゃ。」お父さんは笑っておじぎをしま の 文した。 「さ、そいであ、まんつ、。その人は牽づなを持ってあるき出し鈴はツアリンツアリンと鳴 り馬は首を垂れてゆっくりあるきました。 っ 一郎は楢夫をさきに立ててそのあとに跡いて行きました。みちがよくかたまってじっさい 気持ちがよく、空はまっ青にはれて、却って少しこわいくらいでした。 ふさ 「房下ってるじゃい。」にわかに楢夫が叫びました。一郎はうしろからよく聞えなかったの で 「何や。」とたすねました。 168 ひき