雪 - みる会図書館


検索対象: 注文の多い料理店
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1. 注文の多い料理店

雪渡り 123 こぎつわこんざふろう 雪渡りその一 ( 小狐の紺三郎 ) なめ 雪がすっかり凍って大理石よりも堅くなり、空も冷たい滑らかな青い石の板で出来ている らしいのです。 ( 六九 ) かたゆき 「堅雪かんこ、しみ雪しんこ。」 お日様がまっ白に燃えて百合の匂を撒きちらし又雪をぎらぎら照らしました。 木なんかみんなザラメを掛けたように霜でびかびかしています。 し 「堅雪かんこ、凍み雪しんこ。」 ゆきぐっ ( 七 0 ) 四郎とかん子とは小さな雪沓をはいてキックキックキック、野原に出ました。 こんな面白い日が、またとあるでしようか。いつもは歩けない黍の畑の中でも、すすきで いつばい 一杯だった野原の上でも、すきな方へどこ迄でも行けるのです。平らなことはまるで一枚の たくさん 板です。そしてそれが沢山の小さな小さな鏡のようにキラキラキラキラ光るのです。 「堅雪かんこ、凍み雪しんこ。」 ゆきわた 雪 ( 波り おもしろ きび

2. 注文の多い料理店

渡 雪 129 そこで三人は又叫びました。 よめい 「堅雪かんこ、凍み雪しんこ、しかの子あ嫁ほしい、ほし、。 すると今度はずうっと遠くで風の音か笛の声か、又は鹿の子の歌かこんなように聞えまし 「北風びいびい、かんこかんこ 西風ど、つど、つ、どっこどっこ。」 狐は又ひげをひねって云いました。 「雪が柔らかになるといけませんからもうお帰りなさい。今度月夜に雪が凍ったらきっとお いで下さい。さっきの幻燈をやりますから。」 そこで四郎とかん子とは 「堅雪かんこ、凍み雪しんこ。」と歌いながら銀の雪を渡っておうちへ帰りました。 「堅雪かんこ、凍み雪しんこ。」 ゆきわた 雪渡りその一一 ( 狐小学校の幻燈会 ) かみやま ( 七三 ) 青白い大きな十五夜のお月様がしずかに氷の上山から登りました。 かたこお かんすいせき ( 七四 ) 雪はチカチカ青く光り、そして今日も寒水石のように堅く凍りました。 やくそく 四郎は狐の紺三郎との約束を思い出して妹のかん子にそっと云いました。 きつわ やわ

3. 注文の多い料理店

り来たりしました。もうどこが丘だか雪けむりだか空だかさえもわからなかったのです。聞 かわむち ゆきば えるものは雪婆んごのあちこち行ったり来たりして叫ぶ声、お互の革鞭の音、それからいま ゆきわらす くひき は雪の中をかけあるく九疋の雪狼どもの息の音ばかり、そのなかから雪童子はふと、風にけ されて泣いているさっきの子供の声をききました。 ひとみ 雪童子の瞳はちょっとおかしく燃えました。しばらくたちどまって考えていましたがいき なり烈しく鞭をふってそっちへ走ったのです。 けれどもそれは方角がちがっていたらしく雪童子はずうっと南の方の黒い松山にぶつつか 理りました。雪童子は革むちをわきにはさんで耳をすましました。 料 「ひゅう、ひゅう、なまけちゃ承知しないよ。降らすんだよ、隆らすんだよ。さあ、ひゅう。 多 今日は水仙月の四日だよ。ひゅう、ひゅう、ひゅう、ひゅうひゅ、つ。」 の 文そんなはげしい風や雪の声の間からすきとおるような泣声がちらっとまた聞えてきました。 雪童子はまっすぐにそっちへかけて行きました。雪婆んごのふりみだした髪が、その顔に気 みわるくさわりました。峠の雪の中に、赤い毛布をかぶったさっきの子が、風にかこまれて、 もう足を雪から抜けなくなってよろよろ倒れ、雪に手をついて、起きあがろうとして泣いて いたのです。 「毛布をかぶって、うっ向けになっておいで。毛布をかぶって、うつむけになっておいで。 ひゅう。」雪童子は走りながら叫びました。けれどもそれは子どもにはただ風の声ときこえ、 そのかたちは眼に見えなかったのです。 けっと

4. 注文の多い料理店

しゅ、つしゆと噴かせ。」 力いカら ゆきわらす 雪童子は、風のように象の形の丘にのばりました。雪には風で介殻のようなかたがっき、 いたたき その頂には、一本の大きな栗の木が、美しい黄金いろのやどりぎのまりをつけて立っていま した。 ゆきおいの 「とっといで。」雪童子が丘をのばりながら云いますと、一疋の雪狼は、主人の小さな歯の ちらっと光るのを見るや、ごむまりのようにいきなり木にはねあがって、その赤い実のつい 四た小さな枝を、がちがち噛じりました。木の上でしきりに頸をまげている雪狼の影法師は、 しん 月 大きく長く丘の雪に落ち、枝はとうとう青い皮と、黄いろの心とをちぎられて、いまのほっ 水 てきたばかりの雪童子の足もとに落ちました。 あい 理「ありがとう。」雪童子はそれをひろいながら、白と藍いろの野はらにたっている、美しい 料 川がきらきら光って、停車場からは白い煙もあがっていました。 町をはるかにながめました。 あかけっと の雪童子は眼を丘のふもとに落しました。その山裾の細い雪みちを、さっきの赤毛布を着た子 駐供が、一しんに山のうちの方へ急いでいるのでした。 きのうすみ 「あいつは昨日、木炭のそりを押して行った。砂糖を買って、じぶんだけ帰ってきたな。」 雪童子はわらいなから、手にもっていたやどりぎの枝を、ぶいっとこどもになげつけました。 枝はまるで弾丸のようにまっすぐに飛んで行って、たしかに子供の目の前に落ちました。 子供はびつくりして枝をひろって、きよろきよろあちこちを見まわしています。雪童子は わらって革むちを一つひゅうと鳴らしました。 かわ たま おか

5. 注文の多い料理店

うひゅう、ひゅひゅう。」雪婆んごは、また向、つへ飛んで行きました。 ゆきわらす 子供はまた起きあがろうとしました。雪童子は笑いながら、も一度ひどくつきあたりまし こ、日か暮れるよ、つに田 5 た。もうそのころは、ばんやり暗くなって、まだ三時にもならない : われたのです。こどもは力もっきて、もう起きあがろうとしませんでした。雪童子は笑いな がら、手をのばして、その赤い毛布を上からすっかりかけてやりました。 「そうして睡っておいで。布団をたくさんかけてあげるから。そうすれば凍えないんだよ。 あしたの朝までカリメラの夢を見ておいで。」 店 雪わらすは同じとこを何べんもかけて、雪をたくさんこどもの上にかぶせました。まもな 理 料 く赤い毛布も見えなくなり、あたりとの高さも同じになってしまいました。 多 「あのこどもは、ぼくのやったやどりぎをもっていた。」雪童子はつぶやいて、ちょっと泣 の 文くよ、つにしました。 すいせんづき 「さあ、しつかり、今日は夜の二時までやすみなしだよ。ここらは水仙月の四日なんだから、 やすんじゃいけない。さあ、降らしておくれ。ひゅう、ひゅうひゅう、ひゅひゅう。」 雪婆んごはまた遠くの風の中で叫びました。 そして、風と雪と、ばさばさの灰のような雲のなかで、ほんとうに日は暮れ雪は夜じゅう 降って降って降ったのです。やっと夜明けに近いころ、雪婆んごはも一度、南から北へまっ すぐに馳せながら云いました。 「さあ、もうそろそろやすんでいいよ。あたしはこれからまた海の方へ行くからね、だれも わむ ふとん

6. 注文の多い料理店

をあるいていました。こいつらは人の眼には見えないのですが、一。へん風に狂い出すと、台 地のはずれの雪の上から、すぐほやばやの雪雲をふんで、空をかけまわりもするのです。 しろくま 「しゅ、あんまり行っていけないったら。」雪狼のうしろから白熊の毛皮の三角帽子をあみ ゆきわらす だにかぶり、顔を苹果のようにかがやかしなから、雪童子がゆっくり歩いて来ました。 雪狼どもは頭をふってくるりとまわり、またまっ赤な舌を吐いて走りました。 「カシオピィア、 もう水仙が咲き出すぞ みすぐるま 理おまえのガラスの水車 料 きっきとまわせ。」 多 雪童子はまっ青なそらを見あげて見えない星に叫びました。その空からは青びかりが波に の ほのお 文なってわくわくと降り、雪狼どもは、ずうっと遠くで餡のように赤い舌をベろべろ吐いてい ます。 もど 「しゅ、戻れったら、しゅ、」雪童子がはねあがるようにして叱りましたら、いままで雪に くつきり落ちていた雪童子の影法師は、ぎらっと白いひかりに変り、狼どもは耳をたてて一 もど さんに戻ってきました。 「アンドロメダ、 ( 二九 ) あぜみの花がもう咲くぞ、 ( 三 0 ) おまえのラムプのアルコホル、 め おいの くる

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いです。雪だか雲だかもわからないのです。 丘の稜は、もうあっちもこっちも、みんな一度に、軋るように切るよ、つに鳴り出しました。 地平線も町も、みんな暗い烟の向うになってしまい、雪童子の白い影ばかり、ばんやりまっ すぐに立っています。 その裂くような吼えるような風の音の中から、 「ひゅう、なにをぐずぐすしているの。さあ降らすんだよ。降らすんだよ。ひゅうひゅうひ 四ゅう、ひゅひゅう、降らすんだよ、飛ばすんだよ、なにをぐずぐすしているの。こんなに急 岫かしいのにさ。ひゅう、ひゅう、向うからさえわざと三人連れてきたじゃないか。さあ、降 水 らすんだよ。ひゅう。」あやしい声がきこえてきました。 店 理 雪童子はまるで電気にかかったように飛びたちました。雪婆んごがやってきたのです。 料 ばちつ、雪童子の革むちが鳴りました。狼どもは一ペんにはねあがりました。雪わらすは 多 の百、、 しろも青ざめ、唇も結ばれ、帽子も飛んでしまいました。 文 駐「ひゅう、ひゅう、さあしつかりやるんだよ。なまけちゃいけないよ。ひゅう、ひゅう。さ すいせんづき ( 三四 ) あしつかりやってお呉れ。今日はここらは水仙月の四日だよ。さあしつかりさ。ひゅう。」 うず 雪婆んごの、ばやほやつめたい白髪は、雪と風とのなかで渦になりました。どんどんかけ る黒雲の間から、その尖った耳と、ぎらぎら光る黄金の眼も見えます。 西の方の野原から連れて来られた三人の雪童子も、みんな顔いろに血の気もなく、きちっ たがいあいさっ と唇を噛んで、お互挨拶さえも交わさずに、もうつづけざませわしく革むちを鳴らし行った くちひる

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ぐんじよ・つ すると、雲もなく研きあげられたような群青の空から、まっ白な雪が、さぎの毛のように、 いちめんに落ちてきました。それは下の平原の雪や、ビール色の日光、茶いろのひのきでで きれい きあがった、しずかな奇麗な日曜日を、一そう美しくしたのです。 子どもは、やどりぎの枝をもって、一生けん命にあるきだしました。 けれども、その立派な雪が落ち切ってしまったころから、お日さまはなんだか空の遠くの 方へお移りになって、そこのお旅屋で、あのまばゆい白い火を、あたらしくお焚きなされて しるようでした。 理そして西北の方からは、少し風が吹いてきました。 料 もうよほど、そらも冷たくなってきたのです。東の遠くの海の方では、空の仕掛けを外し 多たような、ちいさなカタッという音か聞え、 いっかまっしろな鏡に変ってしまったお日さま 文の面を、なにかちいさなものがどんどんよこ切って行くようです。 雪童子は革むちをわきの下にはさみ、堅く腕を組み、唇を結んで、その風の吹いて来る方 をじっと見ていました。狼どもも、まっすぐに首をのばして、しきりにそっちを望みました。 風はだんだん強くなり、足もとの雪は、さらさらさらさらうしろへ流れ、間もなく向、つの 山脈の頂に、ばっと白いけむりのようなものが立ったとおもうと、もう西の方は、すっかり 灰いろに暗くなりました。 するど 雪童子の眼は、鋭く燃えるように光りました。そらはすっかり白くなり、風はまるで引き かわ 裂くよう、早くも乾いたこまかな雪がやって来ました。そこらはまるで灰いろの雪でいつば めん みが くちびる はす

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注 解 313 雪渡り ( , ハ九 ) 堅雪かんこ、しみ雪しんこ岩手の伝承童謡にあるもの。岩波文庫「わらべうた』は「堅雪かん こ」 ( 堅雪渡り ) 〔青森〕として「堅雪かーんこ白雪か 0 こ一以下を本文に掲げ ( 三二六頁参 照 ) 、第二句のヴァリアントとして「しみ雪しんこ」 ( 岩手県九戸 ) を挙げている。 ゆきぐっ ( 七〇 ) 雪沓足くびより上まで来る、わらでつくったはきもの。 陵や高山帯の日あたりのいい湿地に生える。高さは川、 4 夏から初秋に梅鉢紋に似た白い花 ( 雄しべは黄色 ) をつける。賢治の最初期の短歌に、「ひがしぞら / かゞやきませど丘はなほ / う めばちさうの夢をたもちつ」とある。 くちはつば ( 六〇 ) ロ発破爆薬をしかけた餌で野獣を捕える仕掛け。 ( 六一 ) なじよだたどんなだった 何だった ? ( 六一 I) ぜんたいなにだけあいったいぜんたい、 ( 六三 ) ごまざいの毛「ごまざ いは「ガガイモ蕓 ( 寰一こ 0 三ミ」の数多い別名の一つ。ガガイモ科 ガガイモ属の多年草で、各地の日当りのいい野原に生えるつる草。種子に白い絹糸状の毛があり、 この毛を綿の代用として針さしゃ印肉に用いる。 ( 六四 ) すっこんすっこゴクリゴクリ。呑みこむ擬声。ここでは、思わす唾をゴクリと呑みこむほどお いしそうな、の意。 ( , ハ五 ) いからだ厳めしく ハ ) ふんながす足を投げ出す ( 六七 ) はんぐはぐ バクバク。食べる擬声。 ( 六八 ) 愛どしおえどしかわいらしい、かわいらしい かた 0 き の

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注 解 307 すいせんづき 星」は東のタ空にまたたき出す点でこれと異なる ) じゅんしかん かー ) か・ヘ へいそ・つちょう ( 二〇 ) 兵曹長旧海軍の官階名で、兵科准士官。上等下士官 ( 上等兵曹 ) の上、少尉の下。陸軍の特務 曹長にあたる。 ( 「饑餓陣営」を参照 ) 一 ) マジェル様北斗七星のあるおおぐま座はラテン語で Ursa Major という、その「マジョール」 からの命名。 水仙月の四日 ( 二一 l) 雪婆んご「爺んご」 ( 「十月の末、参照 ) と並んで「婆んご」おばあさんの意の方言。しかし " 雪婆んご ~ という名称そのものは伝承になく、広く雪女や山姥、岩手の " 雪婆様 ~ 等の伝承を 背景とした賢治の造語。 " 風の三郎様 ~ から「風の又三郎」などとともに、賢治における伝承から の創造の秘密が、この名称の異同に隠されていると考えられる。また、《二、三月頃からしきり に空を巡回する母ーーー東進する低気圧》《大づかみに雪婆んごを、里雪をもたらす低気圧とみな すことができる》 ( 谷川雁氏 ) という見方も、科学者賢治の発想の特質を示唆している。 ゆきおか 二 lll) 象の頭のかたちをした、雪丘「ひかりの素足」にも「大きな象のような形の丘。 ( 傍点天沢 ) が 出てきて、やはり子どもたちが吹雪にあって遭難する。不吉な運命を予告する表徴。童話「若い かん」 / 、 木霊一にも「象の頭のかたちをした灌木の丘」が出てくる。 ( 二四 ) 雪花石膏アラバスター。石膏 CaS04 ・ 2H6 の一変種。細粒で白色、ときにかすかに帯色。 ゆきおいのゆきわらす ( 二五 ) 雪狼「雪童子」「雪婆んご」とともに、名称そのものは伝承になく、いわば賢治の準創造。 ( 二六 ) カシオピィア Cass 一 ( も三 a. 北空によく目立っ字型の線図をもっ星座。「よだかの星」の最後に、 「すぐとなりは、カシオピア座でした。」とある。 ( 二七 ) もう水仙が咲き出すぞこの物語の季節の指標。《水仙の開花、満開の期日は ( : : : ) 東北地方 ゆきば じ