侵害 - みる会図書館


検索対象: 新特許法の実務解説
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1. 新特許法の実務解説

当額の金銭を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができる。 この実施料相当額は、賠償額として最低であって、これ以上の損害があればもちろんその分を加 えて請求することは可能である。ただし、それを加えるについて、もし侵害者に故意または重大な 過失がなかったときは、裁判所はその額を定めるについて、その事情を参酌することができる。 なお、故意または過失により特許権を侵害したことにより特許権者の業務上の信用を害したとき は、裁判所は特許権者の請求により損害賠償に代え、または損害の賠償とともに、当該侵害者に対 し特許権者の業務上の信用を回復するに必要な措置、たとえば謝罪広告などを命ずることができる ( 特許法第百六条、民法第七百一一十三条 ) 。 特許権侵害に対する損害賠償請求権は、特許権者またはその法定代理人が損害および加害者を知 った時から三年間、または侵害のときから二十年間これを行使しないでいると、当該請求権は時効 により消滅する ( 民法第七百二十四条 ) 。 さて、ここで損害賠償請求権と不当利得返還請求権との間で問題になるが、特許権者が適法にど ちらかの請求権を行使してその給付を受ければ、他の一方の請求権は行使できないことになる。ど ちらを行使するかは、どちらが有利であるかを判断して適宜選択すればいい。損害賠償請求権にも とづいて訴えを起こしたが、それがいれられないときは、訴えの変更により不当利得返還請求権に もとづいて、その給付を求めることができる。 186

2. 新特許法の実務解説

許権の譲渡は、その旨を登録しないと効力が生じないことになっている。そこで、は訴えを起 こしたが、判決があるまで日数がかかるし、このまま放置すると、その間にはその特許権を他 へ二重に売り払ったり質に入れそうだ。いまのうちにが特許権を売却などしないよう禁じてお いて、特許権をはっきり自己の名義に登録させる請求権を確保しておこうというのが、この種の 仮処分である。ついでながら、この処分禁止の仮処分命令が裁判所から発せられたときは、当該 裁判所の嘱託によりその旨特許原簿に登録することになっている。 仮の地位を定める仮処分Ⅱ仮の地位を定める仮処分とは、係争物に関する仮処分と異な り、自分がその正当な権利者である地位を仮に定め、さらにその地位にもとづいて行使すること ができる権利により、現在または目前の急迫な危害または侵害を排除することである ( 民事訴訟 法第七百六十条 ) 。 たとえば、が自分の特許権を侵害している。しかしの製品がはたして特許侵害品であるか 害どうかは裁判してみなければ客観的にわからない。だからといって、本訴の判決があるまで待っ のていたのでは、いいように侵害され、損害が大きくなり、また当方の信用も彼が粗悪品を出して いるため棄損するおそれがある。あるいは、本品は短期的に売れるもので、判決が下るころには もはや売れなくなる。そこで、一応自分はの製品についての権利者である旨を仮に定め ( 仮の 特許権者として ) 、その特許権にもとづいて現在または目前の急迫な危害または侵害を差し止め 191

3. 新特許法の実務解説

ているときは、その賠償を負担しなければならない。 ③損害賠償請求権Ⅱ不法行為による損害賠償請求について民法第七百九条では、故意または過 失によって他人の権利を侵害した者は、これにより生じた損害を賠償する責任があると規定してい る。特許権侵害についても全く同様の責任があるわけである。まず、侵害者に故意または過失によ り特許権を侵害したことが要求されるが、故意、過失の有無は本損害賠償請求者の方で立証しなけ ればならないとするのが民法の原則である。しかし、その有無は内心的なもので、その立証がむず かしいから、特許権侵害者は一応過失があると推定して挙証責任の転換を図っている ( 特許法第百 三条 ) 。そこで、過失がなかったことは侵害者の方で立証しなければならないことになる。 次に、以上の故意または過失により特許権侵害があり、これによって特許権者が現に損害 ( 現実 に被った損害と侵害がなかったら当然得たであろう利益が生じなかったことによる損害の両者を含 む ) を受けたときは、特許権者は侵害者に対し受けた損害の賠償を請求することができるが、この 害損害の額を定めるのが、またきわめて困難である。そこで、特許法第百二条では特許権者のために の次のような特則を定めている。 侵害者が侵害行為により利益を得ているときは、その利益の額は特許権者が受けた損害の額 と推定する。 @ 特許権者は、もし他人にその特許発明の実施をさせたとしたら普通受けるであろう実施料相 185

4. 新特許法の実務解説

いて、その発明の実施にのみ使用する物を業とし ば、第三者に対抗することができない。 て生産し譲渡し貸し渡し譲渡若しくは貸渡のため 第ニ節権利侵害 に展示し又は輸入する行為 ( 損害の額の推定等 ) ( 差止請求権 ) 第百条特許権者又は専用実施権者は、自己の特許権第百ニ条特許権者又は専用実施権者が故意又は過失 により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に 又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれが ある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求する対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求 する場合において、その者がその侵害の行為により ことができる。 利益を受けているときは、その利益の額は、特許権 2 特許権者又は専用実施権者は、前項の規定による 請求をするに際し、侵害の行為を組成した物 ( 物を者又は専用実施権者が受けた損害の額と推定する。 生産する方法の特許発明にあっては、侵害の行為に 2 特許権者又は専用実施権者は、故意又は過失によ り自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対 より生じた物を含む。 ) の廃棄、侵害の行為に供し し、その特許発明の実施に対し通常受けるべき金銭 た設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請 の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額 求することができる。 としてその賠償を請求することができる。 ( 侵害とみなす行為 ) 3 前項の規定は、同項に規定する金額をこえる損害 第百一条次に掲げる行為は、当該特許権又は専用実 の賠償の請求を妨げない。この場合において、特許 施権を侵害するものとみなす。 権又は専用実施権を侵害した者に故意又は重大な過 一特許が物の発明についてされている場合におい て、その物の生産にのみ使用する物を業として生失がなかったときは、裁判所は、損害の賠償の額を 産し譲渡し貸し渡し譲渡若しくは貸渡のために展定めるについて、これを参酌することができる。 ( 過失の推定 ) 示し又は輸入する行為 一一特許が方法の発明についてされている場合にお第百三条他人の特許権又は専用実施権を侵害した者

5. 新特許法の実務解説

刑事上の救済 刑事責任の追及 特許権侵害に対しては、民事責任を追及するだけでなく刑事責任を負わせることができる。ただ し、当然のことだが、刑事責任の追及の場で損害賠償とか不当利得の返還などを求めることはでき ない。特許権侵害の罪を負わせるには、その者が正当な権限なしに故意に自己の特許権を侵害し、 かっ、その者が刑事上の責任能力者であることが必要である。正当な権限を有する者には、専用ま たは通常の実施権者があり、その者の実施行為は侵害にならない。また、業としない実施や試験ま たは研究のためにだけ当該発明の実施をする行為などに対しては、特許権の効力が及ばないので、 このような場合は侵害を構成しない 次にきわめて重要なことは、侵害者が故意に実施していることである。つまり、その実施行為が 特許権の侵害になることを認識しながら実施したときは、刑事責任を負わなければならない。侵害 になることを全く知らないで実施しているときは、故意なしとして罰せられないが、一応侵害にな るのではなかろうかと疑いながら、あるいはなんらかの犯罪意識をいだきながら実施し、その結果 がやはり侵害を構成したという場合は故意ありとされるだろう。そこで、自分の製造しているもの は、その特許権を犯さないと自分に有利に解釈して製造販売などした場合、後日あなたの製品は本 196

6. 新特許法の実務解説

の規定だけでは不十分な点もあるので、これを補充する意味で特許法では第百条から第百六条まで にわたって侵害に関する規定を設けている。民事上の救済方法の種類として、差し止め請求権、不 当利得返還請求権および損害賠償請求権の三種があげられる。 ①差し止め請求権Ⅱ特許法第百条では、差し止め請求権について次のように規定している。特 許権者は自己の特許権を侵害する者または侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止または 予防を請求することができる。この請求をする場合、その請求権行使の一態様として、もし必要な らば、侵害の行為を組成した物 ( 物を生産する方法の特許発明にあっては侵害行為により生じた物 を含む ) の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な、たとえば侵害行為 をしないことの保証として担保を提供させるなどの行為を請求することができる。 なお、ここに組成物とは、たとえばテレビについて特許がされている場合に、そのテレビを製 作、販売、使用していれば、そのテレビまたはそのテレビ・セットが組成物となる。また侵害行為 害に供した物とは、そのテレビを製造するための設備などをいう。 この差し止め請求権を行使するときは、現実に侵害がある場合またはたとえば特許品を所持して 許後日販売もしくは使用して侵害をするおそれがきわめて明白にある場合であればよく、その者に故 意または過失があることを必要としない。ただし、権利の乱用となるような差し止め請求権の行使 は認められない。 183

7. 新特許法の実務解説

②不当利得の返還請求権Ⅱ不当利得の返還請求権について民法第七百三条、第七百四条では、 法律上の原因なくして他人の財産または労務により利益を受け、そのために他人に損害を及ぼした 場合は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。悪意の受益者は、その受け た利益に利息をつけてこれを返還すること。なお、損害を与えたときは、その賠償の責を負うこと と規定している。 不当利得の例として、たとえばが千円の本を買うとき、五千円と千円の紙幣を間違ってに渡 し、が四千円のつりを善意でまたは悪意で返さなかった場合は、そのは四千円の不当利得をし ていることになる。 他人の特許権を法律上の原因なくして実施することにより、特許権者に損失 ( 既存財産の減少の みならず侵害がなかったら当然得たであろう利益の喪失をあわせて損失という ) を及ぼし、それに よって実施者が利益を得ているときは、特許権者は自己の被った損失の限度でその実施者に対し不 当利得の返還の請求ができる。この請求権は、客観的に右のような実施行為があれば、実施者に故 意または過失があるなしにかかわらず行使することができるし、また損害賠償請求権が時効により 消滅した場合にも、有効に本権利を行使して侵害者の責任を追及することができるわけである。 なお、侵害者が善意の場合は、その利得の返還を請求された時点で現にその利得が存する限度に おいて、これを返還すれま、 悪意の受益者は受けた利益に利息をつけ、さらに損害を及ぼし 184

8. 新特許法の実務解説

に従属的に加工した者、つまりほう助行為をなした者もしくは支持行為をなした者は、従犯者とし て罰せられる。ただし、その罰は減軽される。 刑事責任追及の具体的措置 特許権侵害の罪は告訴をまって論ずる ( 特許法第百九十六条第三項 ) とある。殺人や強盗のよう に、きわめて強烈な反社会的行為については、被害者などの申し出 ( 告訴 ) をまたず、国家の力を もって、すみやかにその責任を追及しなければならないが、特許権侵害は特許権者の経済的収益の 減少または名誉棄損という形で特許権者を圧迫することになるので、特許権侵害の罪は、特許権者 またはその法定代理人自らの訴をまって ( 告訴をまって ) 、はじめて国家の関係機関が侵害者の責 任追及の活動をなすことにしている。これを親告罪という。 ①告訴Ⅱ告訴は、原則として特許権者またはその法定代理人が、できることなら侵害者の住 所または居所あるいは侵害の行なわれた地の検察官または司法警察員に対し、書面または口頭です る ( 刑事訴訟法第二百四十一条 ) 。 もっとも、口頭でいいとあるが、特許権侵害は特殊な事案であるから、できるだけ書面の方がい い。その書面には、特許番号、発明の名称、侵害者の氏名 ( 名称 ) および住所、いつごろからどの 地域で、どのような状態で侵害を行なっているかの事実などを詳細に記述した方がいい。また、当 該特許権の存在と、自分がまさにその特許権者である旨を証明できる特許原簿の謄本 ( 特許庁で交 198

9. 新特許法の実務解説

このようにして、特許庁を介して特許異議申立人と特許出願人とが書面による主張のやりとりを 行ない、また論争するが、これだけでは不足であるとして、当事者が証人尋間などの申し立てをし てきた場合で審査官がその必要を認めるときは、裁判における口頭弁論のように当事者や証人、鑑 定人などが特許庁へ出頭して論争することもある。 なお、特許異議の申し立てに対して出願人は全面的にカプトをぬいで引き下がる場合は、答弁書 も出さないで放っておくといい。これと反対に、異議申し立ての理由が全然マトはずれで、放って おいても大丈夫と考える場合でも、一応念のため答弁書を差し出しておく方が無難である。また反 論する必要があるときは、答弁書を提出するのは論をまたないが、この場合証拠があれば、これを 「乙〇号証ーとして提出すればい > 特許出願公告の効果 特許出願公告があってから特許権の設定登録があるまでの間は、いわゆる仮保護期間中の権利と して、特許権に認められたのとほとんど同じような強力な保護がなされている。 したがって、この間の権利侵害に対しては、侵害行為の差し止めや損害贈償の請求や不当利得の 返還の請求をすることができる。 そして、侵害者には一応過失があると推定されるので、侵害の事実さえあれば、その者が事情を 知りながら侵害行為をなしているいないにかかわらず、その責任を追及することが可能である。こ

10. 新特許法の実務解説

でにお知らせしますというような意味の警告を発することができることにした ( 特許法第六十五条 の三の一項 ) 。 そして普通の場合、この警告を与えた後にも、なおその相手がその発明を業として実施している ときは、その特許出願について出願公告があったあとで、その警告から出願公告されるまでの間に 行なわれたその者の実施行為に対して、実施料相当額の補償金を請求できるようにしたわけであ これは、出願公開から出願公告までの間の問題であるが、出願公告から特許権の設定登録される までの間のいわゆる仮保護期間中の権利侵害については、今回の新法により、特許権侵害と全く同 様に製造販売、使用などの差し止めを請求したり、損害賠償請求権や不当利得の返還請求権を行使 できるようになったのである。従来は、このような権利行使は特許権発生後つまり設定登録後で ないと認めなかった。それが今回の改正で行使できるようになったわけであるが、問題はここにあ つまり、特許出願人が補償金をその模倣者 ( 実施者 ) から受領したり、仮保護期間中の侵害者に 対し製造中止などの強い措置を講じたり、損害賠償や不当利得の返還を受領したあとに、その特許 出願に対し特許異議の申し立てがあって、特許権発生がだめになり、あるいは後日発見された新資 料により発明が新規でなかったと査定されたり、特許出願人が不注意にも最初の特許料を納付する 194