その一つは職務発明に関する通常実施権で、他の一つはいわゆる先使用による通常実施権である。 ①職務発明による通常実施権日たとえば、繊維会社の研究所に研究員として研究に従事して いたが、社に勤めている間に社の業務範囲に属する繊維に関して発明甲をしたとしよう。か かる場合、かりにが自己の名義で特許権を取得したり、他社にその特許権を譲渡したり、あるい は社を退職しても社はその甲特許発明を無償で数量や地域に関係なく実施できるとしている これは従業者が研究所などにいて発明することに経済的、物質的支援をしてきた使用者に対し て、その代償として認められた通常実施権である。 この例は、きわめて典型的なものを引用したが、実際に起こるケースはもっと複雑で、デリケー トで、職務発明にもとづく通常実施権がはたして成立するか否かむずかしいのが現状である。 前例の場合、経理課の者や人事課の者とか単なる運搬者とかエレベーターの電気工事者などが、 仮に社と関係ある繊維織機について発明しても、それは彼らにとっては自分の本来の職務とはあ まりにも離れているので、その発明は職務発明にならないといえる。 また、研究者が、研究所にはいたが、そのころは発明が全く実らないで、社から退職後努力 した結果やっと甲発明を完成したとか、社の業務範囲と全く関係のない自動車のエンジンについ て発明したという場合は、いずれも職務発明にはならない。したがって、このような場合は、 << 社 ( 第三十五条 ) 。 172
の場合とか、実施の事業とともにするときは特許権者の承諾なく移転することができる。 この通常実施権を共同で所有することも可能である。この場合、各共有者は特に別段の定めがなⅱ ければ、その範囲で自山に活動することができる。しかし、通常実施権は、単に適法に特許発明を 一定の範囲で業として実施できるにすぎないので、自己の通常実施権の下にさらに他の通常実施権 ( 孫実施権 ) を設定することはできない。 通常実施権はその成立原因により、契約により発生する通常実施権と特許法などにより当然に発 生する法定通常実施権と、特許庁長官や通商産業大臣の行政処分により発生するいわゆる裁定通常 実施権の三つがある。 契約による通常実施権 いちばん件数も多く、かっオーソドックスなものがこの契約によって発生する通常実施権であ 特許権者は ( 共有の場合は他の共有者の同意を得て ) 、他人に有償または無償で、その範囲を定 めて、契約で通常実施権を許諾することができるわけであるが、同一内容 ( 範囲 ) について数個の 通常実施権を同時にまたは日を異にして許諾することができる。 専用実施権者も、特許権者の承諾を得て ( 専用実施権が共有の場合は他の共有者の同意も得て ) 他人に通常実施権を付与することができる。この通常実施権は、契約で定めた時期にその効力が生 る。
いことになっている。 また、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その特許権について専用実施権を設定した り通常実施権を許諾することは認められない。もっとも、これらは特許の処分に関する場合におい ては制約を受けるが、特許発明の実施については、各共有者は契約で別段の定めがないかぎり、他 の共有者の同意を得ないでも自由に実施できるわけである。 2 実施権 実施権とは何か 特許権者は、特許発明を独占的に実施する権能を有するが、ただ特許権者だけが一人で独占する だけでなく、他人と契約して、その発明を実施させ、その者から実施料を受け取って経済的利益を うることもできるわけである。 特許権者以外の者が、特許発明を業として実施したり、利用したりできる権利を実施権といって いる。実施権には、前記のように専用実施権と通常実施権の二種類がある。 専用実施権 166
専用実施権は、同一範囲については一つしか存在しないが、その専用実施権を数人で所有するこ とは可能である。 この場合、各共有者は特別の取り決めがないかぎり自由にその範囲内で活動することができる。 また、専用実施権者は特許権者の承諾を得て、自己の専用実施権の範囲内で他人に通常実施権を許 諾することができる。 さらに、特許権者の承諾を得て、他人に自己の専用実施権を譲渡することも差しつかえない。も ちろん、相続や会社合併によるときとか、実施の事業とともにするときは、特許権者の承諾なくし て移転することができる。 通常実施権 通常実施権は、専用実施権と異なり、非独占的な実施権である。したがって、同一範囲について も数個の通常実施権が存在することもできる。非独占であるから、第三者がその実施権の範囲に属 。オオい。このような場合は、特許権または 許する行為をなしても、通常実施権を侵害することにまよらよ 専用実施権があればその専用実施権を侵害することになるので、特許権者などからその行為の排除 をしてもらうことになる。 通常実施権は、特許権者の承諾を得た場合は、他人に譲渡することができるし、相続や会社合併 169
展示し、または輸入する行為。 以上のように特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有することになるが、例外と して独占的実施権である専用実施権を他人に与え ( 設定という ) た場合は、その契約で定めたその 専用実施権の範囲については、特許権者は実施を専有する権利はない。 つまり特許権は一種の財産権であるので、他人に利用させることができるが、この利用する権利 を実施権という。そしてこの実施権には、前記の専用実施権と通常実施権の二種類がある。専用実 施権者は、設定行為で定めた範囲内において、その特許発明の実施をする権利を専有できるので、 その範囲については、特許権者といえどもその専用実施権者の許諾がないかぎり実施できないわけ である。 実施権の範囲として、地域とか期間とか製造、販売、使用だけとかいろいろ制限をつけて設定す ることができるので、たとえば東京一円と地域的制限が専用実施権に付されている場合には、特許 権 権者は、他の地域ではなお特許発明を実施する権利を専有することになるわけである。 許なお、通常実施権には、当事者の許諾により発生するものと、従業員の発明については一定の場 合は会社は当然その発明を実施できるというように、法律の規定により自動的に発生するものなど 特 あるが、この権利はその特許発明を一定の範囲について非独占的に実施できるものにすぎず、単に 債権的なものである点専用実施権と違っている。したがって、特許権者は、同じ内容 ( 地域や製造 161
( 自己の特許発明の実施をするための通常実施権の設きないときは、その特許発明の実施をしようとする 者は、通商産業大臣の裁定を請求することができ新 定の裁定 ) 第九十ニ条特許権者又は専用実施権者は、その特許る。 発明が第七十二条に規定する場合に該当するとき ( 通常実施権の移転等 ) は、特許庁長官の許可を受けて、同条の他人に対し第九十四条通常実施権は、第八十三条第二項若しく その特許発明の実施をするための通常実施権又は実は第九十二条第二項、実用新案法第二十二条第二項 用新案権若しくは意匠権についての通常実施権の許又は意匠法第三十三条第二項の裁定による通常実施 諾について協議を求めることができる。 権を除き、実施の事業とともにする場合、特許権者 2 前項の協が成立せず、又は協議をすることがで ( 専用実施権についての通常実施権にあっては、特 きないときは、特許権者又は専用実施権者は、特許許権者及び専用実施権者 ) の承諾を得た場合及び相 庁長官の裁定を請求することができる。 続その他の一般承継の場合に限り、移転することが 3 特許庁長官は、前項の場合において、当該通常実できる。 施権を設定することが第七十二条の他人の利益を不 2 通常実施権者は、第八十三条第二項若しくは第九 当に害することとなるときは、当該通常実施権を設十二条第二項、実用新案法第二十二条第二項又は意 定すべき旨の裁定をすることができない。 匠法第三十三条第二項の裁定による通常実施権を除 き、特許権者 ( 専用実施権についての通常実施権に ( 公共の利益のための通常実施権の設定の裁定 ) あっては、特許権者及び専用実施権者 ) の承諾を得 第九十三条特許発明の実施が公共の利益のため特に た場合に限り、その通常実施権について質権を設定 必要であるときは、その特許発明の実施をしようと する者は、通商産業大臣の許可を受けて、特許権者することができる。 又は専用実施権者に対し通常実施権の許諾について 3 第八十三条第二項の裁定による通常実施権は、実 協議を求めることができる。 施の事業とともにする場合及び相続その他の一般承 2 前項の協議が成立せず、又は協議をすることがで継の場合に限り、移転することができる。
専用実施権とは、その特許発明を業として、設定行為で定めた範囲内において独占的に実施する ことのできる権利である。 専用実施権は、当事者の契約 ( 専用実施権設定契約 ) によってのみ成就し、その旨を特許登録原 簿に登録 ( 専用実施権設定登録 ) することによってはじめてその効力が生じることになっている。 このように、専用実施権は、契約だけでは成立しないで、登録して効力が発生するようになって いるが、この権利は文字通り独占的実施権であるので、同一の範囲については、ただ一個しか設定 できない。そして、その設定された範囲について、専用実施権者は、業としてその特許発明を自己 だけがもつばら実施できるので、その範囲では、特許権者といえども実施する権能はないわけであ つまり、専用実施権を設定した範囲では、特許権者は実質的にはカラの権利を保有していること になる。したがって、専用実施権を他人に設定するときは、このことに十分留意されたい。 専用実施権の範囲の中味 ( 契約などによる通常実施権も同じ ) には、次のようなものがある。 許①期間Ⅱこの期間は、契約により自由に定めることができるが、その特許権の存続期間を越え ることはできない。 ②地域Ⅱ地域は、日本全国でも東京都一円に限定しても差しつかえない ③実施の態様Ⅱ特許発明の実施の意味についてはすでに説明したが ( 一六〇ページ参照 ) 、要 167
第七十七条特許権者は、その特許権について専用実出願の際 ( 第四十条又は第五十三条第四項 ( 第百五 施権を設定することができる。 十九条第一項 ( 第百七十四条第一項において準用す 2 専用実施権者は、設定行為で定めた範囲内におい る場合を含む。 ) 及び第百六十一条の三第一項にお て、業としてその特許発明の実施をする権利を専有 いて準用する場合を含む。 ) の規定によりその特許 出願が手続補正書を提出した時にしたものとみなさ 3 専用実施権は、実施の事業とともにする場合、特れたときは、もとの特許出願の際又は手続補正書を 許権者の承諾を得た場合及び相続その他の一般承継提出した際 ) 現に日本国内においてその発明の実施 である事業をしている者又はその事業の準備をして の場合に限り、移転することができる。 いる者は、その実施又は準備をしている発明及び事 4 専用実施権者は、特許権者の承諾を得た場合に限 り、その専用実施権について質権を設定し、又は他業の目的の範囲内において、その特許出願に係る特 許権について通常実施権を有する。 人に通常実施権を許諾することができる。 5 第七十三条の規定は、専用実施権に準用する。 ( 不実施の場合の通常実施権の設定の裁定 ) ( 通常実施権 ) 第八十三条特許発明の実施が継続して三年以上日本 第七十八条特許権者は、その特許権について他人に国内において適当にされていないときは、その特許 通常実施権を許諾することができる。 発明の実施をしようとする者は、特許庁長官の許可 2 通常実施権者は、この法律の規定により又は設定を受けて、特許権者又は専用実施権者に対し通常実 行為で定めた範囲内において、業としてその特許発施権の許諾について協議を求めることができる。た 明の実施をする権利を有する。 だし、その特許発明に係る特許出願の日から四年を 経過していないときは、この限りでない。 録 ( 先使用による通常実施権 ) 第七十九条特許出願に係る発明の内容を知らないで 2 前項の協議が成立せず、又は協議をすることがで 付自らその発明をし、又は特許出願に係る発明の内容きないときは、その特許発明の実施をしようとする を知らないでその発明をした者から知得して、特許者は、特許庁長官の裁定を請求することができる。 0
のを除く。 ) 、放棄による消滅又は処分の制限 4 第九十二条第一一項、実用新案法第一一十二条第二項 又は意匠法第三十三条第一一項の裁定による通常実施二専用実施権の設定、移転 ( 相続その他の一般承 継によるものを除く。 ) 、変更、消滅 ( 混同又は特 権は、その通常実施権者の当該特許権、実用新案権 許権の消滅によるものを除く。 ) 又は処分の制限 又は意匠権に従って移転し、その特許権、実用新案 三特許権又は専用実施権を目的とする質権の設 権又は意匠権が消滅したときは、消滅する。 定、移転 ( 相続その他の一般承継によるものを除 5 第七十三条第一項の規定は、通常実施権に準用す る。 。 ) 、変更、消滅 ( 混同又は担保する債権の消滅 によるものを除く。 ) 、又は処分の制限 ( 質権 ) 第九十五条特許権、専用実施権又は通常実施権を目 2 前項各号の相続その他の一般承継の場合は、遅滞 なく、その旨を特許庁長官に届け出なければならな 的として質権を設定したときは、質権者は、契約で 別段の定をした場合を除き、当該特許発明の実施を することができない。 第九十九条通常実施権は、その登録をしたときは、 第九十六条特許権、専用実施権又は通常実施権を目その特許権若しくは専用実施権又はその特許権につ 的とする質権は、特許権、専用実施権若しくは通常 いての専用実施権をその後に取得した者に対して 実施権の対価又は特許発明の実施に対しその特許権も、その効力を生ずる。 者若しくは専用実施権者が受けるべき金銭その他の 2 第三十五条第一項、第七十九条、第八十条第一 物に対しても、行うことができる。ただし、その払項、第八十一条、第八十二条第一項又は第百七十六 渡又は引渡前に差押をしなければならない。 条の規定による通常実施権は、登録しなくても、前 項の効力を有する。 録 ( 登録の効果 ) 第九十八条次に掲げる事項は、登録しなければ、そ 3 通常実施権の移転、変更、消滅若しくは処分の制 限又は通常実施権を目的とする質権の設定、移転、 付の効力を生じない。 一特許権の移転 ( 相続その他の一般承継によるも変更、消滅若しくは処分の制限は、登録しなけれ 257
じ、その旨を特許原簿に登録することは単に第三者に対抗できるにすぎない。 対抗できるとは、もし通常実施権の発生したことを登録していなければ、特許権の所有者が相続 や会社合併による以外の原因で交代したときは、その交代の時期に通常実施権も消滅するし、もし 以後も実施したい場合は、あらためてその承継人と通常実施権の設定契約をしなければならない しかし、通常実施権の設定登録をしていると、特許権の所有者が転々と交代しても、特許原簿に 登録してある期間はその通常実施権の存在をその承継人に対して主張することができる。つまり、 交代により通常実施権は消滅しないのである。この種の登録は、第三者に対抗するための要件 ( 一 般に対抗要件といっている ) である。 通常実施権の設定契約が有償の場合は、定められた実施料を、通常実施権者はその設定者に支払 う義務があることはいうまでもない。 法定通常実施権 法定通常実施権とは、特許法などの規定により当然に発生する権利であるから、その存在を別に 許特許登録原簿に登録しなくても、第三者に対抗できるわけであるが、特許権者が交代などするごと に、いちいちその存在を説明して納得させることが困難な場合は、いわゆる保存登録をして、その 特 存在を明確にさせておく方が得策である。 法定通常実施権には数えると五つくらいあるが、その中で現実によく問題にされるのが二つある。 171