子 - みる会図書館


検索対象: 「家族」という名の孤独
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1. 「家族」という名の孤独

ちょうしゅ ついての情報を聴取することを依頼した。 木下氏と子との面接は、弁護活動に役立っただけでなく、まさに〃治療的〃であったと思 う。しかしここで問題にしたいのはそのことではなく、木下氏が << 子の話から受けたショックの ことである。 子は現在の夫の前に三人の男と同棲していたが、この四人の男と子の父親には驚くべき共 通性が見られた。木下氏は事件の概要と、子の面接内容とをすばやく文書にまとめ、私のとこ ろへ送付してこられた。 「あなたは、これをどう考えますかーと、その書類は毎朝私に問いかけるのである。 ち * 最初の男 (m 一 ) は子より一歳年長で、 < 子が一五歳から一六歳までの一年間同棲してい 女た。髪を茶色にしたつつばり。最初の三カ月間はやさしかったが、そのうち酒を飲むと暴れたり なぐ くちびる る殴ったりするようになった。 < 子の顔が腫れて唇が鼻につくくらい殴った。 << 子の外出をいや げきど 族 がり、帰ったときに子がいないと激怒した。 家 かくせいざい この少年が覚醒剤に手を出したことをきっかけに、子は父親のもとに逃げ帰り、そこにもい 一られずに友人宅に身を寄せるようになって二と知り合った。 * 二も一歳年長で、 < 子が一六歳から一七歳にかけての一年間同棲していた。この男も、最

2. 「家族」という名の孤独

も、誰による暴力かはわからない。母と姉と一緒にいるときには << 子だけが「あの人の子」だっ そういうわけで、子には情緒的な安全も与えられなかった。子は小学校の初めから学校へ お、つレ」 行くと発熱し、嘔吐した。 一から四までの男たちがやさしいとき、子は「お父さんがこんなだったら、どんなにい いだろう」と思った。男に求められるセックスが誇らしかった。この関係の中にいるときだけ寂 しさを免れたので、子は何人もの男を受け入れた。中学三年で堕胎し、一との間で妊娠した 胎児も堕ろした。 一らが << 子を殴るようになると「男はみんな、お父さんと同じだ。男は女を殴るんだ」と思 った。さんざんに傷ついて父のところへ戻っても、安全ではなかった。母のところへ移っても、 傷つけられた。一六歳のとき、母は < 子の首をしめて失神させている。このときは眼球結膜が出 血して真っ赤になった。このとき以来、 < 子は耳が遠い。 子は A2 一たちに対して、母のように振る舞った。彼らをなじり、もっとしつかりするよう に、私を大事にするようにと求めて殴られた。一度殴られると、それが二人の暮らしのルールに なった。帰宅した二に、「おかえりなさい」と言っただけで殴られたとき、子は自分が男を 怒らせる存在であると思うようになった。怠け者の三との生活では、自分が母親とそっくりの

3. 「家族」という名の孤独

初はやさしかった。二の家には母がおらず、父がアル中で一日中飲んでいた。弟二人と妹がい た。二がこの家の働き手で、はじめのうちは土木工事で真っ黒になって働いていたが、酒とシ ンナ 1 がひどくなって、やがて仕事へ行けなくなった。 子ははじめのうち、弟妹の母親がわりをつとめる気になっていたが、二の父親が性関係を 迫るようになり、二のほうは外でナンパした女を連れ込んできて、子や弟の寝ているところ でセックスするようになった。この男も、 < 子をボコボコに殴った。 << 子は母親のもとに逃げた が、そこにも居場所がなかったので三と知り合うと間もなく同棲をはじめた。 * 三は六歳年長で元暴力団員のパチンコ店店員。 < 子が一七歳から一八歳までの一年間同棲 していた相手だが、彼もまた初めはやさしかったが、前の二人と同様 << 子の外出をきらった。 こぶし 三は酒は飲まないが、シンナーと覚醒剤をやり、シンナーで酔うと攻撃的になって、壁を拳で殴 った。子も殴った。元ボクシングの選手で、たくさんは殴らないが一発がひびく。子をトイ レに追いつめ、逃げられなくして殴った。 やがて << 子は妊娠し、三は喜んでいたが、そのうち家出して転がり込んできた子の友人の 少女とセックスをはじめた。 < 子は手首切りをした。胎児を堕した。三と友人の少女との関係 どな は切れず、 < 子は三に「死にたいー と言った。三は「口先だけで言うな。と怒鳴り、子は ライター・オイルを頭からかけて火をつけ、救急車で病院に運ばれた。このときのケロイドが手 おろ

4. 「家族」という名の孤独

ぞ ! も , う幻こ 0 れ。を 0 5 ・ ) シ と腹に残っている。これがきっかけで、三は << 子を残して家を出て行った。 結局 << 子は父親のもとへ戻ったが、間もなく遊び相手の紹介で四に出会って結婚した。 * 四は二歳年長で、少年院出のヤクザの組員であり、シンナー、覚醒剤の吸引歴がある。こ の男とは子が一九歳のときに婚姻届を出したが、その三カ月後に今回の事件を起こした。現在 ( < 子拘置中 ) までのところ子を叩くことはないが、 < 子はこの男にはいつも敬語で接してお り、気が休まらない。離婚したいと子は言っている。 かこく 人は、同じ人間関係を繰り返す。それがどんなに苛酷なものであっても繰り返すのは不思議な ことのようであるが、それなりの必然性がある。 ち た子は実家でのつらい生活を逃れて、一から四までの男たちに出会った。実家では父も母 女もよく飲み、酔うと乱暴した。酔っていなくても乱暴した。父と母はいつもいがみ合い、父は母 るに「お前たちを拾ってやったのは、誰だと思ってんだ」と怒鳴っては殴りつけた。 族父は母の連れ子である子の姉にセックスしようとして、これがきっかけで両親は離婚した。 母が一緒にいたころ母は << 子を殴り、髪の毛をつかんで蹴り上げた。幼稚園のころには、線香の 一火を押しつけられた。 父も小さいときから << 子を殴っていたので、乳児の << 子が七カ月の間に二回も骨折したこと

5. 「家族」という名の孤独

口調で男をなじっていることに気づいた。「母のようにはなるまい」とあんなに思っていたはず なのに。 < 子が繰り返す人間関係は、幼い子が実家の中で身につけたものである。それがどんなに痛 ーダーの < く、つらいものであっても見捨てられるよりはましなのである。被害者の少女は、リ 子にそむいてグループを抜け、自分を見捨てようとした。それが << 子を逆上させたのだ。 今や仲間内で強いのは、ヤクザの女房である自分だ。弱い者は強い者に従わなけりゃならない彡 ことを体に覚えさせてやる。 << 子は母にされたように被害少女の髪をわしづかみにして蹴りまく 小 ) さいときから馴氿木ん った。少女の顔は、満月のように膨らんで唇が鼻にくつついた。それは、 だ自分の顔だった。 ち た子の愛着する父が、子を安全にしてくれる、やさしい父だったらどんなにいいだろう。心 女のどこかで子はそんなふうに考えているはずだ。だから子は〃父の特徴〃を備えた男たちを る愛した。 族粗野で乱暴で女を人間扱いしない男、クスリかアルコールをやっていて酔うとおかしくなる 男、自分の女を囲「て外、出さない男、気に入らないと女を殴る男。そんな男たちが、もし << 子亠 一の愛で成長し、 < 子を大切にし、安全にしてくれるやさしい男に変身するとしたら、彼女は自分 の人生のすべてを受け入る・こどカきるようになる。 ? ・

6. 「家族」という名の孤独

は、前述の憤怒に支えられたものだったから、そのことに焦点の当たらないカウンセリングは効 果を見せなかった。もちろん、抗うつ剤も効かなかった。 「桜の木の下」とつぶやいていた母親の場合と同様、この「物語」においても子を救ったの は、子どもたちだった。新生児のころ子の嫉妬の的だった長男は、活発で社交的で、学校に行 きたがらないなどということはなかった。それどころか家にいっかないと一言えるくらいで、子 との仲はどこかよそよそしかった。 長男とちがって、次男は母親の競争心を刺激しない子だった。彼は、乳児のころから母親の分 身をつとめた。子は彼女の母とちがってバイオリン人形を欲しがらなかったので、分身は子 と同じように「む人」になった。 関 すでに幼稚園のときから登園拒否児で、小学校も途中から行けなくなった。子は次男を連れ て、児童相談所や登校拒否児の親の会を巡り歩いたが、自分の母が自分を連れてバイオリンの先 の生のもとへ、せっせと通ったこととの類似には気づかなかった。 とそうこうしているうちに、中学生になった長男が c-v 子に反抗するようになった。そして、こう 母 一 = ロった。 五「僕は寂しい、「お母さんは僕にしかり向き合ってくれたことがなかったじゃないか」 言うまでもなくこれば子がかって夫にねだったことであり にねたりたかたことで 1 3 9

7. 「家族」という名の孤独

そうした友人たちは、何かと母性的な世話を子に焼いて子を援助しようとするのだが、そ のことが子には煩わしい いらだ 一方では子の男性的な部分というものが、周囲の男性たちを苛立たせるらしく、なかなか異 性との間の関係が安定しない。彼女自身も無能であったり・、空威張りする男性に許しがたいもの を感じ、そのように振る舞ってしまう。 最近母親を亡くして、子はようやく母親を拒否するあまりに取り落としてきてしまったもの こつけい の存在に気づくようになってきた。 , 彼女の回想の中で、女性性というのは、いつも哀れで滑稽な ものだった。それは田舎のデコボコ道をョロヨロと歩くハイヒ 1 ルを履いた母の後ろ姿のような ものだった。 最近の子は死んだ母の父に対する絶望や恨みを、より深く理解し、共感する必要を感じるよ うになっている。このように全面的に否定してしまった母親というものが彼女の中に肯定的にと らえ返されるようなことがあるのだろうか。子にはそれがどんな形になるのか予想もっかない のだが、それが実現したときには彼女の人間関係はもっと豊かなものになっているかもしれな ゝ 0 142

8. 「家族」という名の孤独

し、衣服を整え、娘の装いにも工夫を凝らして生き生きとした表情になって外出する。こうした ときにしか町を歩かなかったし、それだけが彼女の活動だった。 要するに子はこの女性の外出用のアクセサリ 1 の一つだったのであり、その点で可愛らしい 顔立ちの子は母の期待を満たしていたのであろう。 こうして子は幼いときからバイオリンのお稽古に通い、土地の子どもたちの行かない私立の ミッション・スクールに通い、上品なお母さまのお人形の役を上手につとめた。 ハイオリン人形の子は、母親が音楽への関心を失ってしまうと、どうしていいかわからなく なった。母の代わりになって、自分の成長を見守ってくれる対象が必要になり、レッスンの先生 3 にしがみつこうとしたが、うまくいかなかった。 関 音楽大学の上級生を、勝手に自分の対象に選んだりもしてみたのだが、これもうまくいかない 危ことがはっきりしてきた。 このとき子は、突然バイオリンを捨てた。音楽大学を中退し、それから一〇年以上、バイオ の 娘 とリンに触らなくなった。母親はもはや、子の突然の訓練放棄と退学に大した関心も払わずに、 母 自分のうつ病に没頭していた。 章 五大学をやめてすぐ、子は結婚した。相手はコンピュータ技師だった。妻になってからの子 は、「母に何一つ言えないおとなしい娘」のときとは見違えるようになって、夫にわがままを言 リ 7

9. 「家族」という名の孤独

ン。家での復習。そこには、子の母親がいつもっき添っていた。自分で譜面をチェックして何 度も練習させる。レッスン場での先生の言葉をノ 1 トして、それをまた家で繰り返す。 こういう母親だから、自分自身が音楽家になりたかったり、あるいは音楽が好きだったかとい うと、そういうわけではない。 そのことに子自身が気づいたのは、高校生のころだったようである。訓練がどんどん進ん で、子なりの才能も順調に展開し、いよいよ高度な訓練に進むということになると、お母さん の音楽の素養では太刀打ちできなくなってきた。 そのころになると、この母親は急速に娘の訓練の進み方に関心を払わなくなり、同時に音楽へ ゅううつ の関心も失ってしまった。そして、憂鬱になってしまった。 もともと他人と関係をつくることのむずかしい人で、夫 ( つまり子の父親 ) の前では、ゝ も体の弱い病気がちな妻を演じていた。父は妻の機嫌をうかがっていて、その分兄と子には関 心を払わなかった。もちろん、近所づき合いは苦手で、同年配の友人もいないという母であっ 子は幼いころ地方都市に住んでいたが、母はその土地の人々にまったく近寄ろうとせず、体 の調子が悪いといっては家に閉じこもっていた。 ところが子のレッスンにつき添って上京するなどということになると、この母は入念に化粧

10. 「家族」という名の孤独

子が生きるということは、 << 子がこのゲームに勝ちをおさめることである。だから子は、 この種のパ 1 トナーを繰り返し求めた。 これからも求め続けずにすむためには、どうしたらいいのだろうか。 木下氏の文書が私に求めている解答とは、そのことである。 家族の定義 子の親たちは獣のような面構えをしているわけではあるまい。父親は実直そうな職人とし て、今日もどこかの建築現場で仕事をしているはずだ。弁護士によれば、母親は小柄な美しい人 であるという。彼女の経営するマージャン屋で、今夜も客たちにやさしい笑顔を振りまいている ことだろう。 彼らは九割方まっとうな、普通の人たちだと思うが、少しだけ私に理解できないことがある。 なぜ、彼らはあんなに危険で不愉快な家族をわざわざっくったのだろう。 < 子の父親は母親になじられるといつも、「お前たちを拾ってやったのは誰だと思ってんだ」 と怒鳴っていたというから、幼児 ( 子の姉 ) を抱えた母のほうが、経済的な理由で結婚を必要 としていたのかもしれない。 それにしても父がその気にならなければ一緒にならなかったわけだが、父は結婚に何を期待し つら