基礎編 5 2 ④ スピード ( 話す速さ ) 舌の速度は , 話す場面や相手によって変わる。若者同士であれば多少早ロでも理解でき るであろうが , 高齢者や子どもには比較的ゆっくり丁寧に話す方がよい。ただ早ロすぎて はついていけなくなり , 遅すぎると相手をイライラさせてしまう。また , 難しい内容や相 手を説得する場合などは特にゆっくりと , 漫才やスポーツ放送などを話すときは軽快にテ ンポよく話す方がそれらしく聞こえる。一般的には 1 分間に 300 ~ 350 字程度が聞きやす い速度といわれている。いすれにしても聞き手によく理解できるスピードで話すことが基 本である。 ⑤チェンジ・オプ・ペース ( 緩急自在 ) チェンジ・オプ・ペースは緩急自在である。イントネーションやプロミネンス , ポーズ , スピードをその場の状況に合わせて自在におりまぜながら表現する , 総合した技術のこと である。例えば野球でピッチャーが , ストレート , カープ , スライダーなどの球種やポー ルの速度を相手のバッターに合わせて投げ分けるというようなイメージである。チェンジ・ オプ・ペースの技術が身につくと , メリハリのある生き生きとした話し方ができるように なる。 以上のような話し方の五つの基本技術を身につけ , 聞き手をひきつける話し方をするこ とでプレゼンテーションを成功へと導こう。 二二ロ 4 . バーバル表現とノンバーバル表現 プレゼンテーションを行うには , その目的に沿って言いたい事や考えていることを表現 していかなければならない。表現のための技術には , バーバルとノンバーバルがある。そ れぞれ言語と非言語と言い換えることができるが , 表現技術を磨くためにはその両方が大 切である。 会話や文字など言語によるコミュニケーションをバーバル・コミュニケーションといい , 話し手の表情や態度 , 服装や身だしなみ , そしてボディーランゲージとしてのジェスチャ ーや身振り手振り , 聞き手との視線のやりとりやアイコンタクトなどの非言語によるコミ ュニケーションをノンバーバル・コミュニケーションという。聞き手を納得させるにはこ のノンバーバル・コミュニケーションを効果的に活用して表現することが大切である。 二一口
第 2 章 ( 2 ) ポスター ポスターは , ポスターセッションや展示会場などで掲示し , ツールの種類と活用 理解を促すツールである。 映画の宣伝ポスターや , 工場見学などで目にする「商品のできるまで」などである。 このポスターは , 事前に時間をかけて検討を繰り返し , 納得のいく形で表示できるため , 比較的完成度の高いものである。しかも , 話の構成を考えて流れのよい順序で掲示され , その前でプレゼンテーション行うため , 難解な内容や時間の掛かる説明もわかりやすく親 近感のもてるツールである。作りやすく運搬に便利であるが , 大きさや使用できる枚数に 制限があったり , ものによっては耐久性に欠ける場合がある。 ( 3 ) マイク マイクは耳に訴えるツールで , 台のついているスタンドマイクや , 衣服に止めるピンマ イク , そして , 最近では一番使用頻度の高いハンドマイクがある。どのマイクを使用する かは , 当人に選択の余地がある場合と , 限定されたものしか使用できない場合とがある。 いずれにしても , 事前に音声や使い勝手のチェックが必要である。また , たとえ声に自 信があっても , 30 人以上の会場ではマイクを使う方が迫力があり , 説得力が増すもので ある。加えて , プレゼンテーター用以外にも , マイクの用意をしておく必要がある。会場 内などとのマイクの使いまわしは , その場の雰囲気を中断させることがある。 また一般的に , 動きのあるプレゼンテーションのときには , 体や両手が使えるピンマイ クが便利である。しかし , 電池切れや , 音の死角があるので注意が必要である。 スタンドマイクは音や姿勢に安定感があるが , 動きのあるプレゼンテーションができな い欠点がある。これらの中間が , ハンドマイクである。可動性があり , 臨場感のある参加 型のプレゼンテーションができるが , 雑音が入ったり電池切れなどが起こることもある。 ( 4 ) BGM バック・グラウンド・ミュージックである。この BGM は , プレゼンテーションのイメ ージを増幅することや , 事前に脳に心地良さを伝え , 心身を整えるとともに , これから始 まるプレゼンテーションへのウキウキ感・期待感を高める役目もしている効果音である。
基礎編 い ) コミュニケーションの基本 プレゼンテーションについて学ぶうえでは , おく必要がある。 ①コミュニケーションの基礎用語 次表は前頁の図に出てくる , 基本的なコミュニケーション関連用語である。 先にコミュニケーションについて理解して メッセーシ b . 発信者 c . 受信者 コード化 コンテクスト フィードバック g . f . d . a . 発信者 ( 話し手 ) は , 伝達する内容 話し手 , メッセージを伝える人 聞き手 , メッセージを受け取る人 メッセージ ( 伝達事項 ) を受信者 ( 聞き手 ) に送る。発信者は自 メッセージを受け取った人が送り手に返す反応のこと コミュニケーションの背景にある文脈のこと コード ( 記号 ) 化されたメッセージを解釈すること 概念を記号 ( 多くの場合 , 言葉 ) に置き換えること 分が伝えたい概念を言葉に置き換えるコード化 ( 記号化 ) をして声に出して話す。受信者 はメッセージを耳で聞いて , 自分の中にある知識や考え方をもとに解読するのである。メ ッセージがどのように解読され , 認知・解釈されるかは受け手次第といえる。 このときの , 発信者・受信者それぞれがもっている , ものごとの概念 , 解釈の枠組み がコード (code = 記号 ) である。ーっの言葉に対して , 双方が同じ解釈の土俵に立って , 共通のイメージを持ち合わせていれば , 話が通じているという状況になる。 ローマン・ヤーコプソンによる , 「コミュニケーションで最も大切なことは , 自分の伝 えたいことが聞き手に正しく伝達されているかどうか」ということなのである。 コンテクスト (context) とは , 日本語では文脈と訳されるが , コミュニケーションの 場合は , メッセージの背景にある状況のことで , 場所・場面と規定される。 例えば , 「まとまったお金が必要」というメッセージに対して , どのくらいの金額を思 い浮かべるか , 自分にとっては 1 万円ぐらいからがまとまったお金と感じる人もいるだろ うし , 事業を展開している人であれば億単位 , 高度先進医療の治療を希望する人なら数 百万円から数千万円を想定するかもしれない。
第 1 章 プレゼンテーションとは 3 . プレゼンテーションへの準備 ( 1 ) プレゼンテーションの準備の進め方 2 1 いよいよプレゼンテーションを行うことになり , 日時と会場が決まり , その準備を進め ていくことになった。プレゼンテーションの成否は , この準備段階で決定するといえるほ ど重要なプロセスである。 はちぶ 「段取り八分」という言葉は , 仕事を進める上で , 事前の準備がいかに重要かを表して いる。プレゼンテーションも段取りをキッチリしておけば , 8 割は完了したも同然である。 プレゼンテーションの準備に何が必要なのか , 何からどのようにして進めていけばよい のか , 準備から本番終了までのプロセスを以下に示す。 ( 2 ) 準備のための注意点 ①目的を明確にする一何のためのプレゼンテーションかー プレゼンテーションの準備の最初にすべきことは , プラン ( 構成 ) の作成である。事前 準備の中でも「プレゼンテーションはプラン ( 構成 ) が命」といわれるほど , 重要である。 何のためにプレゼンテーションをするのか , このプレゼンテーションでは , 聞き手に何 を伝えたいのか , 聞き手にどうしてほしいのか , つまり , このプレゼンテーションの最終 的な目標を明確にして , プランを作成することである。 ②聞き手を分析する一誰に対するプレゼンテーションかー 次にこのプレゼンテーションは誰に対して行うのかを把握することである。 プレゼンテーションの準備は聞き手の人数や年齢層 , 性質によって異なる。たとえば , 同じ趣旨の内容を伝える場合でも , 小学生を対象にしたイベントと専門家を対象にしたア カデミック・プレゼンテーションでは , 伝える内容のレベル設定が違ってくる。 また , 話し手のプロフィールをどの程度事前に紹介しておくか , ということも聞き手を 分析して , その性質によって決定する。
108 ー実践編 どをチェックするという目的がある。この時点で , 成果発表 ( それに加えて論文・レポー トの執筆 ) に向かう方向性を確定しなければならないので , このまま研究を進めていって よいのか , 軌道修正の必要はないのかについて , 教員から適切なアドバイスを得る必要が は共通して念頭に置いておくべきポイントを示しておく。 それぞれの発表の段階における詳しいポイントは , 実践例で述べるものとして , ( 3 ) ゼミ発表のポイント あろう。 a . b . c . d . あくまでも調査・研究発表であるので , 誇張やウケを狙った表現は極力避ける 引用あるいは参照した部分と , 自分の考え等を述べた部分が区別できるようにする 質疑応答が活発になることを意識した内容とする 強調したい部分を明確にし , 聞き手に要点を確実に伝えるようにする e . 与えられた発表時間を厳守する 質疑応答における心構えとしては , 全般的に以下のようなことが考えられる。 モしておくことを忘れてはならない。 は資料を手もとに準備するなどしておく必要があるだろう。もちろん , 質問内容を常にメ される場合もある。あらかじめ , どのような質問が寄せられるかを予想し , 場合によって などを得ることができるからだ。一方で , 質疑応答の際の受け答えが , 発表と同等に評価 重要な意味を成す。質疑応答から , 研究に関する重要なヒントや未知の資料 , 新しい視点 これまでに述べてきたことからわかるように , ゼミ発表では発表後の質疑応答が非常に ( 4 ) ゼミ発表後の質疑応答 できるだけ簡潔に答える d . 冷静さを保っ 質問者をやりこめない 知らないことは知らないという a . 答える際は質問者だけでなく全員に向かって答える e . c . b .
第 3 章話し方の基本 4 5 2 . 聞き取りやすい話し方 い ) はっきり発音するために 聞き取りやすい発声や発音はトレーニングすることで磨くことができる。スポーツ選手 が常にトレーニングを欠かさないように , また音楽家が常に発声や楽器の練習を重ねてい るように , プレゼンテーションを行う際もはっきりと聞きやすい声で話せるようトレー ングしておくとよい。またプレゼンテーションは 1 対 1 ではなく , 対複数の場合が多いの で , 人前で尻込みせずに話せるよう , 普段から話すことに慣れておくことも大切である。「習 うより慣れよ」というように , プレゼンテーションのべテランといわれる人でも練習や経 験を積んで上達しているのである。 プレゼンテーション直前には早ロ言葉でロの体操をし , ウォーミングアップしておくと , ・早ロよりも正確に発音することを心がけて読んでみよう。 ・相乗り , 追い合い , 青信号 ・お綾や母親におあやまり , お綾や八百屋におあやまり ・緊急出動の救急車が急接近してきた ・この杭の釘は引き抜きにくい ・新設診察室視察 ・新進歌手総出演新春シャンソンショー ・隣の客はよく柿食う客だ ・笑わば笑え , わらわは笑われるいわれはないわい ・蛙びよこびよこ三びよこびよこ合わせてびよこびよこ六びよこびよこ ・抜きにくい釘引き抜きにくい釘抜きにくい釘抜きで抜く人 ・書写山の社僧正 , 今日の奏者は書写じゃぞ書写じゃぞ ・アンリ・ルネ・ルノルマンの流浪者の群れ
第 1 章 自己紹介と自己 P R 14 3 やはり持ち運ぶため だから重くなるのは いやですね そうですね , いっそ 割り切って小さいの にしちゃった方がい いんでしようかね 重さと性能やバッテ リの持ちはやはり比 例するのは致し方な いことですね。その 辺は割り切りが必要 なんじゃないでしょ うか それでしたら , C 社 のこれなんかは , と にかく軽くて小さい ですよ。どうです か ? 複数の点で迷っている顧客に対して は , 店員が優先順位を決めるのでは なく , 対応を通して , 顧客が自分で 意思を決めていくようにする方がよ い。この対応はその点どうだろう か ? 顧客はかなりうんざりしているよう である。このあとどうしたら再び顧 客の気持ちをつかめるだろうか ?
1 0 5 第 2 章 l. アカデミック・プレゼンテーション アカデミック・プレゼンテーション い ) アカデミック・プレゼンテーションとは テーションの方法や留意点は , 他のプレゼンテーションと特に異なるというわけではない。 特に「アカデミック・プレゼンテーション」と呼ぶことにする。アカデミック・プレゼン 大学や研究機関 , 各種の学会などで行う調査・研究を発表するプレゼンテーションを , しかし , a . レポートや論文と連動している場合が多い b . 調査・研究の成果を単に披露するというだけではなく , 集するという目的を持っ 聞き手から広く意見を収 という点を特に意識してプレゼンテーションを行う必要がある。 ここでは , 学会発表のようなレベルのプレゼンテーションはひとます置いておいて , 主 に大学で学生が行うゼミ ( ゼミナール ) 発表を念頭に , 効果的なプレゼンテーションを考 つながっていくだろう。 ンバーに理解された場合 , その喜びは何物にも代え難く , 大きな達成感が得られ自信にも 表は自分が研究したものを的確に伝えることが要求されるが , 研究成果や自分の意見がメ とめられたレポートや論文が成績評価に大きな比重を占めることになる。一方で , ゼミ発 で調査や研究を行うことである。そして , たいていの場合は , 数回の発表と , 最終的にま えていきたい。ゼミとは , 大学で教員の指導の下に , テーマごとに学生が個人やグループ
8 6 ー基礎編 地域ごとの人口動態を説明したり , 天気 図に記号を重ねて , 天候の状態を説明し たりする。 テレビのニュースや天気予報などの番 組で用いられている。 ①引用とは ( 1 ) 引用と要約とは 2 . 引用と要約 ンに効果的な情報となるか検証しながら , 引用をしたい。 点から , そのことについて説明している。そうした文献などの表現が , プレゼンテーショ その目的を達成するために , その目的をより適切に表現している。あるいは , 異なる観 を明確にすることである。 る。そのため , まず , 大切なことは , プレゼンテーションで何を伝えるのか , 目的は何か 引用とは , プレゼンターの主張したいことに客観性や説得力をもたせることを目的とす を行うことである。 私たちは受ける。引用とは , 他の人の調査や考察を原文のままで直接取り入れ , 資料作成 プレゼンテーションを行う際 , 他の人が調査したり考察したりした多くの情報の恩恵を
第 4 章内容の構成ー で , 伝えたい内容を事実や , 数値 , 事例などをもとに筋道立てて具体的に話していく。結 論はまとめにあたる。話した内容を要約し , 序論で示した意義について , 最終的な結果を 提示する。 ( 1 ) 序論の役割 聞き手のいないプレゼンテーションはない。聞き手が聞いてくれて初めてプレゼンテー ションは成立する。序論の役割は , 聞き手に「よし , 聞いてみよう」という意欲を起こさ せるために , そのテーマとともに , これから話そうとする内容が聞き手にとっていかに大 切かを知らせ , 聞こうという意欲をもってもらい , 話の方向を指し示すことである。 序論で話すことは , まず , これから話す内容について聞き手に興味・関心を起こしても らうための背景情報を紹介する。つぎに , 何について話すのか ( テーマ ) , なぜこのテー マを取り上げたか ( 問題提起 , 理由づけ ) , 話の主旨 ( 目的とゴール , 項目の順序 ) とす すめていく。場合によっては , 最初に結論を簡潔に話すことによって , 聞き手の理解を促 すこともある。 ( 2 ) 本論の役割 本論の役割は , 序論で示した内容を具体的なデータや事例などを根拠にし , 筋道を立て て詳しく提示していくことである。ます , 話したいポイントとなる項目をキー・ポイント ( 大 項目 ) として示し , それを支えるサプ・ポイント ( 中項目 ) についてデータや事実 , 事例 など ( 小項目 ) を挙げて話す。その際 , 推論や俗説などは聞き手に誤解を与え , 誤った結 果に導く恐れがあるので , 提示する場合には注意しなければならない。そして , どの項目 から順番に話せば , 聞き手にわかりやすく理解されやすいかをしつかり吟味する必要があ る。また , 内容を詰め込みすぎて , 伝えたいポイントがすれないように気をつけなければ ならない。 舌す順番は , 伝えたい内容によってその重要度や時系列 ( 過去・現在・未来 ) , 因果関係 ( 原 因結果 ) などを考慮し並べる方法がある。 ( 3 ) 結論の役割 結論はプレゼンテーション全体の要約である。序論や本論で示した目的や意義 , 問題な 5 9 一三ロ