5 7 第 4 章 内容の構成 l. 目的の明確化 私たちは , しばしば , あれもこれもと話したくなることがある。それは , 話し手の自己 満足であり , 聞き手には「この人は一体何が言いたいの ? 」と思わせるだけで , 理解でき ない結果となってしまう。プレゼンテーションには時間の制約もあり , 内容を絞り込み , 簡潔 , 明快に話すことが大切である。 プレゼンテーションは聞き手に何らかの働きかけをする。したがって , 何のためにプレ ゼンテーションをするのか , その目的を明確にし , 目指すゴールは何かを事前にはっきり させておく必要がある。目的は , 大きく次のような分類ができる。 a . b . c . d . e . 聞き手に情報を伝達し , 認知を求める 聞き手に説明 , 理解を求める 聞き手を説得し , 納得してもらう 聞き手に行動を促す 聞き手を楽しませ , リラックスしてもらう 目的は一つとは限らないこともある。たとえば , 新商品を説明し , その商品を買っても らいたいという場合もある。つまり , 説明し行動を促すということである。いすれにせよ , 目的を明らかにすることによって , その目的を達成するために何を伝えるべきか , それを どのように話すかを検討することが大切である。 目的やゴールが設定されれば , 2 . 伝えたいメッセージの明確化 テーマに沿った内容の選択と伝えたいメッセージの絞り
基 礎 2 4 聞き手分析のチェックリスト 事項 項目 マ 年 月 平成 実 施 日 名 , ( 男 名 , 女 名 ) , ( 30 代名 ) , ( 10 代 名 ) , ( 20 代 名 ) ( 40 代 名 ) , ( 50 代 名 ) , ( 60 代以上 不明 聞き手の年齢構成 テーマに関する聞き手 の専門知識のレベル 話し相手に対する印象 良い 普通 不明 ノーン、 普通 ・事例 ・技術に関する事 ・統計類 ・理論 ・その他 ( ・費用 ・実演 ・利益 ( ・不利益 ( ・ありそう 聞き手の関心ある事柄 テーマが聞き手にとっ て利益・不利益な点 質問があるかどうか ・不明 ・ない 句 ( タブー ) ( 出典 : 福永弘之「プレゼンテーション概論及び演習」樹村房 , 2000 )
第 4 章内容の構成ー で , 伝えたい内容を事実や , 数値 , 事例などをもとに筋道立てて具体的に話していく。結 論はまとめにあたる。話した内容を要約し , 序論で示した意義について , 最終的な結果を 提示する。 ( 1 ) 序論の役割 聞き手のいないプレゼンテーションはない。聞き手が聞いてくれて初めてプレゼンテー ションは成立する。序論の役割は , 聞き手に「よし , 聞いてみよう」という意欲を起こさ せるために , そのテーマとともに , これから話そうとする内容が聞き手にとっていかに大 切かを知らせ , 聞こうという意欲をもってもらい , 話の方向を指し示すことである。 序論で話すことは , まず , これから話す内容について聞き手に興味・関心を起こしても らうための背景情報を紹介する。つぎに , 何について話すのか ( テーマ ) , なぜこのテー マを取り上げたか ( 問題提起 , 理由づけ ) , 話の主旨 ( 目的とゴール , 項目の順序 ) とす すめていく。場合によっては , 最初に結論を簡潔に話すことによって , 聞き手の理解を促 すこともある。 ( 2 ) 本論の役割 本論の役割は , 序論で示した内容を具体的なデータや事例などを根拠にし , 筋道を立て て詳しく提示していくことである。ます , 話したいポイントとなる項目をキー・ポイント ( 大 項目 ) として示し , それを支えるサプ・ポイント ( 中項目 ) についてデータや事実 , 事例 など ( 小項目 ) を挙げて話す。その際 , 推論や俗説などは聞き手に誤解を与え , 誤った結 果に導く恐れがあるので , 提示する場合には注意しなければならない。そして , どの項目 から順番に話せば , 聞き手にわかりやすく理解されやすいかをしつかり吟味する必要があ る。また , 内容を詰め込みすぎて , 伝えたいポイントがすれないように気をつけなければ ならない。 舌す順番は , 伝えたい内容によってその重要度や時系列 ( 過去・現在・未来 ) , 因果関係 ( 原 因結果 ) などを考慮し並べる方法がある。 ( 3 ) 結論の役割 結論はプレゼンテーション全体の要約である。序論や本論で示した目的や意義 , 問題な 5 9 一三ロ
ー基礎編 5 8 宀 込みに移る。聞き手はどんなことにこだわりがあり , 何を知りたいのか , 自分は何を伝え たいのか , 何を説得したいのかなどを考えよう。たとえば , ペットとして大を飼いたい人 に向かって , 猫がどんなに賢く , 飼いやすいかなどをいくら一生懸命提案しても , 話は聞 いてもらえない。また , どの大にするかを決めたい人に対して , 大の品種や習性 , 特徴な 聞き手は理解しにくく , どの大にするか決め ど , 相手の聞きたい内容が不足していては , かねることになる。聞き手のニーズと自 伝えたいメッセージを明確にするための準備 分の伝える内容が一致し理解されること で聞き手に何らかの影響を与えることが ① 目的の明確化 できて , 初めてプレゼンテーションの目 ② 聞き手のニーズの分析 的を達成したといえる。 ③ 理解しやすい内容の構成 3 . 内容の構成 聞き手についての分析ができ , 何について話すかその目的が明確になれば , 次の段階は , それをどう話すか , つまり , 筋道を立ててわかりやすく理解してもらえるように , 話す内 容の構成を考えることである。この作業をすることによって , 限られた時間の中で , 話し 手にとっては自分の伝えたいことが整理でき , 聞き手には話された内容がわかりやすく , 全体像が把握しやすいというメリットがある。 全体の構成としては , 一般的に序論 (lntroduction) ・本論 (Body) ・結論 (Conclusion) の 3 部構成が基本である。 序論はプレゼンテーションの導入部である。これから何を伝えるのか , 伝える内容の背 景 , 意義 , ポイントなどを簡単に述べる。本論は , プレゼンテーションの中核をなすもの プレゼンテーションの構成 本論 ( 80 % ) 伝えたい内容を順番に その裏付けとともに話す 結論 ( 5 ~ 10 % ) 舌した内容を要約し , 結果を提示する 序論 ( 1 0 ~ 1 5 % ) 何を伝えるのか , その内容の背景 , 意義 , ポイントを話す 一三ロ 宀
2 8 基礎 プレゼンテーションの評価のチェックポイント ( 2 ) 聞き手の分析。 ③時間の配分はうまくいって , 時間内に終わることができたか。 ②競争相手 ( ライバル社 ) の動きに関しては , 情報を十分につかんでい ①目標・目的が具体的なものになったか。 ( 1 ) 目標や目的はどうであったか。 ・企画に際してのチェックポイント ① ② ③ ① ② ③ ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ 結論は , うまくまとめられ , 行動に変化をもたらすようなことがあっ 導入部の切り込みはうまくいったか。 話しの組み立て , 発表の順序はうまくいったか。 ・発表に際してのチェックポイント 配布資料は , きちんと作られ , 要領よくまとまっていたか。 視覚資料は , 見やすく , わかりやすく , 順序よく作られていたか。 聞き手にとってメリットになるようなことが具体的に示してあったか。 ・立案に対してのチェックポイント 聞き手の関心事は何であったか。 聞き手のレベルにあった話し方になっていたか。 聞き手は男性か女性か , 両方混じっていたか , 年齢層はどうであったか。 わかりやすいような表現になっていたか。声の大きさ , 会場はどうであったか。交通の便 , 部屋の照明 , 広さ , 質問にうまく応答できたか。 ボデイランゲージはうまく活用できたか。 ツールはタイミングよく利用できたか。 ったか。 テンポはよか 装飾など。 ( 出典 : 福永 ; 前掲書 )
5 6 ー基礎編 のためには , 原稿内容を読みながら話すのではなく , 自分の言葉で話すことが大切である。 相手が一人なら , やわらかな視線を合わせ , 優しさや落ち着き , 信頼感を与えるように する。大勢の時には , 心持ちしつかりと目を合わせるようにすると印象に残りやすい。話 の大事な場面では , 伝わっているかどうかを確認するように相手の目を見て , 適度の相槌 を打つ。 ① アイコンタクトの 2 つの手法 「 Look , smile, Talk の原則」 まず最後列の一人を Look ( 見て ) , Smile ( 笑顔 ) で , 第一声を Talk ( 話し ) 始める。 声が最後列まで届いているかを確認し , 話し始めたら最後列から前の方に左右交互にジ グザグに , 一人ずつ話しかけるように視線を移していく。 Z 型や S 字型が一般的である が , 中心から左右へとまんべんなく視線を送るようにするのも効果的である。こうする ことで , 聞き手一人ひとりを大事にしながら全員に話しかけているように感じさせるこ とができる。 ⅱ . 「 One Sentence, One person の原則」 文章の One sentence ( 一段落 ) を話す間は One person ( 一人 ) を見ておくという原 則である。聞き手が多人数でも , 一対一で話しているかのようにすることを特に One on Communication という。アイコンタクトを小刻みに行うと落ち着きなく見えるので , ワンセンテンス分もしくは時間にすると約 3 ~ 4 秒ほどは一人の人に視線を止め , それ から次の聞き手に視線を移すようにするとよい。 会場にはうなずきながら一生懸命聞いている聞き手が必ずいる。そうした人に向かって アイコンタクトをとると , 話し手と聞き手に一体感が生まれる。また , 決定権をもってい るようなキーマンに多めにアイコンタクトをとることも有効である。 いすれにしても , 緊張したり自信がなかったりすると , つい落ち着きなく目を動かして しまうので , 目を泳がせないようにしよう。「目を泳がす」とは , 聞き手の目を見ず , 天 井や壁に視線を向けてしまうことである。そうならないためにもしつかりと準備をしてお と非言語がお互いに重なり合い影響し合って聞き手にイン プレゼンテーションは , に 1 ロロ パクトを与えるものである。
第 1 章 プレゼンテーションとは 3 . プレゼンテーションへの準備 ( 1 ) プレゼンテーションの準備の進め方 2 1 いよいよプレゼンテーションを行うことになり , 日時と会場が決まり , その準備を進め ていくことになった。プレゼンテーションの成否は , この準備段階で決定するといえるほ ど重要なプロセスである。 はちぶ 「段取り八分」という言葉は , 仕事を進める上で , 事前の準備がいかに重要かを表して いる。プレゼンテーションも段取りをキッチリしておけば , 8 割は完了したも同然である。 プレゼンテーションの準備に何が必要なのか , 何からどのようにして進めていけばよい のか , 準備から本番終了までのプロセスを以下に示す。 ( 2 ) 準備のための注意点 ①目的を明確にする一何のためのプレゼンテーションかー プレゼンテーションの準備の最初にすべきことは , プラン ( 構成 ) の作成である。事前 準備の中でも「プレゼンテーションはプラン ( 構成 ) が命」といわれるほど , 重要である。 何のためにプレゼンテーションをするのか , このプレゼンテーションでは , 聞き手に何 を伝えたいのか , 聞き手にどうしてほしいのか , つまり , このプレゼンテーションの最終 的な目標を明確にして , プランを作成することである。 ②聞き手を分析する一誰に対するプレゼンテーションかー 次にこのプレゼンテーションは誰に対して行うのかを把握することである。 プレゼンテーションの準備は聞き手の人数や年齢層 , 性質によって異なる。たとえば , 同じ趣旨の内容を伝える場合でも , 小学生を対象にしたイベントと専門家を対象にしたア カデミック・プレゼンテーションでは , 伝える内容のレベル設定が違ってくる。 また , 話し手のプロフィールをどの程度事前に紹介しておくか , ということも聞き手を 分析して , その性質によって決定する。
5 4 ( 3 ) ボディーランゲージを効果的に用いる に合わせて選ぶ a . 身だしなみ : 服装 , ヘアスタイル , ことが多いので , 第一印象が重要である。第一印象は次のことに気をつけよう。 ー基礎編 化粧 , 靴などを , TPO ( 時間 , 場所 , 場合 ) b . 姿勢と動作 : 背筋を伸ばし , 正しい姿勢で向い合う。動作はきびきびと 聞き手の意識を散漫にして , 話の内容に集中してもらえない原因を作ることになる 髪をさわる」「ポケットに手を入れる」「腕組みをする」「手を後ろに組む」などは d . 態度 : 聞き手に不快感を与えたり , 生意気だと思われるような態度は避ける。「 る c . 表情 : 明るく豊かな表情を身につける。特に笑顔は好感と安心感を聞き手に与え 好印象を与える外見「セメテアシフクの原則」 C 0 ー u m n フク : 服装を整える アシ : 足を揃えてしつかり立つ ァ : 手は両脇に安定させる メ : 視線を聞き手にしつかりと向け セ : 背筋をまっすぐに ( 出典 : 関根建夫・北山国夫「プレゼンテーションこれが基本」日本経営協会総合研究所 , 1993 ) ノンバーバル表現の一つに ボディーランゲージがある。聞き手の視覚に訴えるボディ ーランゲージは話の内容をよりビジュアルに表現できる重要な表現技術である。 ボディーランゲージの種類は「指示的」「写生的」「数量的」「形態的」「象徴的」の五つ に大別される。 a . 指示的 : 腕や手を使って , 左右 , 上下などの方向や , 位置などを指し示す。 また
基礎編 2 6 ③ 舌し手の人柄 Personality プレゼンテーション内容を聞き手に伝えるための究極の要因は , 話し手の人柄なのでは ないか。聞き手は話し手の人格的な信頼性を敏感に嗅ぎ分けている。話し手は , 誠実さ , 余裕 , 情熱など人間性を聞き手に感じさせる必要がある。 礼儀をわきまえた感じのよい態度 , 聞き手に不快さを感じさせないクセのないしぐさや 話し方など , 聞き手を納得させたり , 魅了するのも , 最後は話し手の人間性にかかってい るのである。 ( 4 ) 説得力のあるプレゼンテーションを目指して ①リハーサルの重要性 たとえば , 自己紹介や何かの説明や発表など , 人前で話をしたときのことを思い出して ほしい。このような経験はないだろうか , 多くのスピーカーがロにする感想である。 「緊張してアタマの中が真っ白になった」 「何を言っているのか , 自分でもわからなくなった」 「アガってしまい , 用意していたことの半分も話せなかった」 これらは , 緊張とアガリから起こることで , 事前に「リハーサル」をすることで , 上記 のような事態を緩和することは可能である。リハーサルをすることが , 気持ちを落ち着か せ , 本番の緊張を緩和し , よりよいプレゼンテーションができることにつながっていくの である。 まったくしたことがないことと , 1 回でもしたことがあることをイメージしてみると , 「まったくしたことがない」ことと「 1 回でもしたことがある」ことでは , 「まったく別の もの」だと感じるはずである。過去に経験したことは , そのまま知識となり , いわゆる経 験則として残っている。今からすることは , 以前にもしたことがあって , どのようなこと か予測ができる , と考えることができるから気持ちの余裕が違うはすである。「本番に強 い」人はいるが , その人は , 決して「ぶつつけ本番に強い」わけではない。本番を想定し て , 謙虚な気持ちを持ってリハーサルをするとよい。 ②アガリとうまく付き合う 前述したように , アガリを緩和するためには , リハーサルを何回か行うことは有効であ る。しかしそれでもアガってしまって・・・・・・とか , 緊張してしまって・・・・・・という感想はよく ニ = ロ
1 6 ー基礎編 「話し手が , あらゆる場所で , ある目的をもって , 一定の限られた時間の中で , 視聴覚 機材などの助けを借りて , 情報を伝達し , さらに説得したり , 論証を行って , 聞き手の判 断や意思決定を助け , 進んで行動を起こすことを促すコミュニケーションである」。 今日では , 受け手に対するお知らせや周知してもらうための説明や発表であっても , プ レゼンテーションと言うようになり , 社会人全般にいきわたり , 学生も使うようになって いる。 ( 3 ) プレゼンテーションの種類 前述したように , もともとプレゼンテーションといえば , ビジネス・プレゼンテーショ ンのイメージがある。ビジネスで発信される情報は , 提示や提案といった性格を持ち合わ せていて , 受信者に「売り込み」を連想させる。しかしながら現在では , プレゼンテーシ ョンはビジネスに関連したものだけに限らす , 自分の意見や学説についての発表 , 説明な プレゼンテーションの種類 ど , 一般的なものと捉えられてきている。 a . 説得型プレゼンテーション = 提案型プレゼンテー 聞き手に企画案や商品などを , 取入れさせたり , き手に行動を起こさせることを目的としている。 例 : ビジネス・プレゼンテーションなど。 ション 購入させるなど , 最終的に聞 b . 説明型プレゼンテーション 聞き手に情報を知らせて , 例 : オリエンテーション , 論証型プレゼンテーション C . 情報伝達型プレゼンテー 内容を周知 , 理解させることを目的としている。 報告会 , 説明会など。 ション ・プレゼンテーション アカデミック・プレゼンテーション , テクニカル 自分の意見や学説などについて , その内容を周知させ , 正当性を証明すること を目的としている。聞き手 ( 参加者 ) と話し手 ( 発表者 ) との質疑応答 , 意見交 換を想定した研究発表などがある。 例 : 研究発表・学術発表・学会発表など。 d . 説得型十説明型の複合・連動型 先に情報伝達を目的にした「説明型」のプレゼンテー ションを行い , 聞き手に