ルでの体験などを思い出しながら、コマ 1 シャリズムに支配さ れたアメリカのデザインのあり方を、思わずやや強い口調で批 判した。会場は静まり返り、ほとんど拍手も起きなかったとい と部 宿舎に戻った柳氏が、「ちょっと言い過ぎたかな : ・ 屋でうなだれていると、ヨーロッパのある大学の教授がドアを ノックして訪ねてきたそうだ。「あなたのお話に共感した。私 も最近のアメリカの商業的なデザインには違和感を感じてい る」などのコメントをもらい、この出会いが発端となって、一 九六一年の一年間、ドイツの大学で教鞭をとることになったと し、つ どのような分野にも、技術進化の過程で起こる倒錯現象があ る。目的と手段が入れ替わってしまう現象だ。一種のオタク化 と言ってよいかもしれない。写真を撮るべく機材を揃えるうち に、機材を集める行為そのものが目的性を持ち始めてしまうこ と。生活を支えることが目的であるにもかかわらず、建築物と 0 7 2 1 : 働き方がちがうから結果もちがう
出会った。六〇年代にアメリカで大ヒットした "One Minute Manager" の翻訳版。部下の創造性を向上させるにはどうした らしいか、と頭を悩ませている多くのマネ 1 ジャ 1 層に対し、 「人は気持ちよく働いている時にいい成果を出す。という、い たってシンプルな事実を提示し、そのための方法論を具体的に 記述している。 この本は、ケネス・プランチャ】ドとスペンサ 1 ・ジョンソ ンという二人の博士によって書かれている。ちなみに ()0 ・ジョ ンソンは、日本でヒットした『チ 1 ズはどこへ消えた ? 』 ( 扶 ハ 1 ドビジネスレピュ 桑社 ) の著者でもある。彼らは、ハ 1 のように四角張った言葉ではなく、平易な寓話形式でマネ 1 ジ メント論をやさしくひもとくのが得意だ。 "One Minute Manager" は、当時日本製品などにおされて意 気消沈していたアメリカの産業界を奮い立たせたという。その 。、ツカ メソッドは、アップル・コンピュ 1 タやヒューレット・ 1 ド、 & など多くのメジャーカンパニーで採用され、実 2 5 5 1 分間マネジャー
氏による民芸運動の影響もあるだろう。 柳氏の話にアメリカのア 1 トセンタースク 1 ルの話が顔をの ぞかせているが、そのエピソ 1 ドを少し補足したい。 アートセンタ 1 スクール (Art Center College of Design) は、世界的に有名なデザイン教育機関だ。とくに列車や乗用車 など、移動体のデザイン分野に強く、日本人の卒業生も多い 同校のカリキュラムには、完成予想図としてのレンダリング やパ 1 ス絵をともなうデザイン実習が多い。が、柳氏が指摘す るとおり、車の魅力は色や形だけでなく、むしろ触り心地や乗 り心地にある。形にしたところで、実際は三次元のカープの連 続で出来上がっているのだから、そもそも車の魅力は平面的な 絵として表現できるものではない。にもかかわらず、同校のス タッフは訪問した柳氏に、得意満面で生徒たちが描いたレンダ リング・スケッチを見せてくれたそうだ。 後日、同じくアメリカで開催されたアスペン世界デザイン会 議にスピーカ 1 として出席した際、彼はア 1 トセンタースクー 柳宗理さんを東京・四谷に訪ねる
いため、全面ガラス張りの新しい外観をつくり出すことができ る。カーテンウォールという名前で呼ばれたこれらの建築物は、 モダニズムの象徴となった。 オフィス・ランドスケ 1 プは、ヨ 1 ロッパとアメリカで一時 期プレイクし、家具メ 1 カ 1 もそのアイデアに沿った商品開発 を推し進めた。現在のオフィスでも多く見られるパーテーショ ン型のプ 1 スシステムは、この動きの中から生まれたものだ。 しかし企業組織の規模が大きくなり、ワンフロア 1 内の処理能 力を越えてしまったこと、あるいは頻繁なレイアウト変更が求 められるようになって、コミュニケーション解析の作業がビジ ネスの実態に追いつけなくなったことなどにより、オフィス・ ランドスケ 1 プの手法は下火となっていった。 クイックポナー社は、オフィス・デザインではなくビジネス コンサルティングの会社だった。企業のコンサルテーションを 通じて、組織間の断絶が企業活動に負荷を与えることを痛感し 2 4 4 3 : 「ワーク・デサイン」の発見
悪くないことだと思いませんか ? 社内のほかの業務経験を通 じて、パタゴニアが手がけているビジネスの全体像も見えてく るでしよう。自分たちの会社が何のために、どういうビジネス をしているかについても、より深く理解できると思います。 理想的な制度ですね。流動が激しいアメリカの労働市場に おいても、社員の定着率はかなり高いのではないですか ? セトニカ人によりますね。でも、ストアーや支店の勤務を希 望して、世界各地での暮らしを楽しんで回っている人も多いで すよ。社内のフレキシビリティはかなり高いと思います。 たとえば私たちはインタ 1 ンシップ・プログラムという制度 を用意していて、パタゴニアの仕事を二カ月ほど一時的に離れ、 非営利組織のために働くことを奨励しています。 (lnternship program 【給料とポジションはそのまま保留しな がら、フルタイムあるいはパ 1 トタイムでほかの組織で働ける 制度。対象となる非営利組織は、環境保護団体など、パタゴニ 0 9 7 バタゴニア社をベンチュラに訪ねる
大机。しかも長方形などの対面型とせず、できるだけ円か正方 形に近い方がよい 余談になるが、あたらしい事務所用の家具を探していた時、 あるインテリアショップで、「対面型のテ 1 プルだと緊張して 商談がまとまりませんよーと、おむすび型のテ 1 プルを薦めて くれた店員さんがいた。この人は家具ではなく、家具を通じた コミュニケーションを見据えているんだなあ、と感心したのを 思い出す。 椅子も重要だ。重役会議室にあるような安楽椅子は、座り心 ( ししカ参加者の姿勢が後方傾斜してしまうので、積極的 地よ、、ゞ、 な参加を求めたいミーティングには向いていない。そんな時は、 無理なく前方傾斜が取れる椅子が望ましい。 アメリカのあるオフィスを視察してきた友人が、会議室にロ ッキングチェア 1 を使っている事例を見せてくれた。前にも後 ろにも自由に傾けることが出来、こまかいモードの切替を可能 2 4 7 空間は人に働きかける
パタゴニア社をベンチュラに訪ねる【 1996 年・夏】 「お互いを信用することが、 私たちらしさかもしれない」 ハタゴニアというアウトドアウェアの会社は、アメリカのヤ ッピ 1 世代が自分たちに相応しいプランドとして製品を選んだ ことを通じ、現在の大きなプランドに成長した。西海岸のカウ ンターカルチャ 1 にも通じるリべラリズムと、クオリティの追 求による決して安くない商品価格。創業者のイヴォン・シュイ ナード氏の生き方にヤッピ 1 世代は憧れ、自己を投影した。 ハタゴニアの本拠地は、ロサンジェルスから海岸沿いに八〇 キロほど北上した、べンチュラという町にある。町はすれの岬 に ( いい波の立っサ 1 フポイントがあり、車で数分以内に行く ことができる。オフィスの受付脇に掛けられた小さな白板には その日の波の高さがマ 1 カーで書かれ、裏庭にはまだ海水を垂 らしているウェットス 1 ツが何着も干されていた。 0 9 1 パタゴニア社をベンチュラに訪ねる
スク 1 ルっていうのがあるでしよ。僕、戦後に訪問したことが あるんだよ。だけどね、アメリカの自動車のデザインを見て、 こりやひどいことになっているなあって思った。彼らはスタイ リングを追求して、机の上でレンダリングばかり描いてた。 でもそんなものからいいデザインなんて、絶対に出てこない からね。それは絵でしかないんだから。まあ素人に見せるには わかりやすいだろうけど ( 笑 ) 。でもインチキだと思ったね。 スケッチも描かずに、いきなり模型材料に手をつけるので すか。 : ど、つもイメ 1 ジしきれません。 柳あの、だからね ( 笑 ) 。僕のデザインでバタフライスツー ルっていうのがあるでしよ。あれをつくるときにはどうしたか っていうとね。え 1 と、あのときは塩化ビニ 1 ルの板を使って ね。椅子をつくるともなんとも思わないで、それを曲げたりな んだかしていた。 そのうちに、このような形で椅子を作ったらいいんじゃない バタフライスツール ( 模型 ) 19 5 6 生・ ニ枚の成形合板を組み合わせ た、極めてシンプルな構造。 ルーブル美術館やニューヨー ク近代美術館などの、永久コ レクションにも選ばれている。 0 6 5 柳宗理さんを東京・四谷に訪ねる
外がない限り、僕はそれを人間の仕事として受容します。 しかし自己疎外の度合いが強いと、それは仕事というよりただの労働になってしまう。 ただの労働の中でも、ベストを尽くし心血を注いでいる人はいると思いますが、僕がここ で書いている「労働」には、自分の気持ちや感情を度外視して働くことを指すニュアンス があります。それはちょっとどうかな、と思うわけです。 仕事という言葉は、「稼ぎ」や「つとめ」という言葉で語られることもあります。後者 は、自分が属している世界に責任を果たすということです。 っとめとして働く只中では、一時的に自分の気持ちをおさえたり・ひかえたり、膨らん でくる感情を殺さないと機能できないような瞬間が、当然のように混じるでしよう。この ような胆力の有無は、人の成熟をしめすものでもあると思う。 しかしやはり、自分をいかして生きてゆくことこそ、一人ひとりの人間の仕事だろうと 僕は思うので、できれば殺さないで欲しいという気持ちがあります。 どんな仕事でも、本人の現場で一所懸命に働いている人には、かけがえのない尊さがあ る。イラクに派兵された若いアメリカ兵の中にも、ベストを尽くしている人は多々いるで しよう。人間性が必要とされないような極限的な現場で、でも人間的であろうとする人た 3 2 1 文庫版あとがき
ある狭い給湯室のイメージしか持てずにいた自分の目に、画期 的なデザイン・アイデアとして映った。 「オフィス・ランドスケープ」 中でも興奮したのは、ドイツのクイックポナー社が一九六〇 年代初頭に提唱したオフィス・ランドスケープという概念だ 蟻の巣のように有機的なオフィスのレイアウトプラン ( 次頁 ) が、強く印象に残った。 この一見グラフィカルなレイアウトは、一九五〇年代のビル 建築における構造的な技術革新を背景に可能となったものだ。 それまでの建築物では、各フロア 1 の壁も構造体の一部であっ たため、大きなワンフロアーをつくり出すことが出来なかった。 いくつかの部屋が小割に存在し、人々は部門ごとに分かれて働 いていた。 しかし五〇年代のアメリカで、壁を構造体としない、柱構造 のビルが建ちはじめる。これらは外壁面を構造体として使わな 、出典「インテリア」 19 75 年材月増刊号 ( インテリ ア出版 ) 「オフィス・ランド スケープ〈オープンオフィス のプランニングと方法〉」 2 4 2 3 : 「ワーク・デサイン」の発見