人たち - みる会図書館


検索対象: 自分の仕事をつくる
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1. 自分の仕事をつくる

は精神のバランスを崩してしまう。 と思いながらっくられたものは、それを 「こんなものでいし 手にする人の存在を否定する。とくに幼児期に、こうした棘に 囲まれて育っことは、人の成長にどんなダメ 1 ジを与えるだろ 大人でも同じだ。人々が自分の仕事をとおして、自分たち自 身を傷つけ、目に見えないボデイプロ 1 を効かせ合うような悪 循環が、長く重ねられている気がしてならない。 しかし、結果としての仕事に働き方の内実が含まれるのなら、 「働き方」が変わることから、世界が変わる可能性もあるので はないか。 この世界は一人一人の小さな「仕事ーの累積なのだから、世 界が変わる方法はどこか余所にではなく、じつは一人一人の手 元にある。多くの人が「自分」を疎外して働いた結果、それを 手にした人をも疎外する社会が出来上がるわけだが、同じ構造 で逆の成果を生み出すこともできる。 0 1 1 まえがき

2. 自分の仕事をつくる

甲田このパンに日の目を見せてあげたい、 という気持ちがだ んだん大きくなっていたんです。工場からの卸し先は、自然食 関係の店でしたから、限られた人たちを相手にしていました。 それに卸しだと、どうしても翌日の販売になってしまう。でも 僕たちは焼きたてを食べていて、「こんなにおいしいパンはな い」って思っているわけです ( 笑 ) 。 だから、その思いがどれだけ一般的なものになるのか。街の ハン屋さんと同じ列に並んで、通りがかりの人がオッと思って 買っていってくれたり、その人の話を聞いてまた買いに来てく れる人が生まれたり。このパンがどれくらい広がっていくだろ う、っていう興味があったんです。 ルヴァンはパンも美味しいけど、スタッフ一人一人が釀し 出す雰囲気がとてもいいですね。この店に来て、嫌な気持ちに なったことは一度もありません。 甲田そうなんですよね ( 笑 ) 。それは本当によく言われます。 甲田幹夫さんのバンづくりを訪ねる

3. 自分の仕事をつくる

彼の言葉を聞きながら強く思ったのは、エコロジ 1 とはイデ オロギーの間題ではなく、センスの問題であるということだ。 環境問題にしてもトップダウンの理念ではなく、何を美しいと 思うか、心地よく感じるかという世界の感じ方から捉えること が、大切なのだと思う。 たったひとつの言葉も、人のロを割って出てくるまでには、 その内面で、時には何年間にもわたる旅をしている。デザイン もモノづくりも同様だ。その人が感じた世界、経験した出来事 がそこに結品化する。 「モノを通じて、それをつくった人が生きてきた経験のあり方 はわかります。衣服からでも、その人の生き方だとかなんでも わかります。それは言葉と一緒です , 私たちが店先で買っている商品は、ただの家具や食器ではな ヨーガン・レ 1 ル氏がつくり出すモノの繊細さとは、彼が 生きている世界、感じている世界の繊細さだ。私たちは、一人 一人が世界のレコ 1 ダーであり、互いのレコードに針を落とし ながら、さらに大きなレコ 1 ドを織りなし合って生きている。 1 9 0 2 : 他人事の仕事と「自分の仕事」

4. 自分の仕事をつくる

ちは戦場に限らず、無数にいると思う。 一所懸命にやっている人、生きている人を責める気はない。しかし、人間を粗末に扱っ ている人間がいることは頭に来る。 ベストを尽くして記事を書いている人を責める気はない。が、広告媒体として雑誌を発 刊し、安い人件費で働いてくれる編集者や、都合のいいネタを提供してくれる人をある意 味搾取している人間がいることは、頭に来るわけです。僕の憤りは後者の方に向けられて います。 と同時に、これは本当に余計なお世話なんですが、前者に対しても「それでいいの ? という想いは出てくる。 与えられた仕事に疑問はあるが、でもやらざるを得ない状況に立たされている : ・という 人たちは、不利な取引をしています。 たとえばイラク派兵でいうと、アメリカでは軍隊が、大学で学びたい優秀な若者を対象 とする奨学制度を設けています。学費全額支給十奨学金数百ドルで、引き替えに軍事への 参加が義務づけられるらしい。軍人教育を目的とした制度なので、そもそも看板に偽りは ないのですが、非常事態時には在学中でも召集される。 「でもやらざるを得ない」という状況に立たされる人は、なんらかの人質をとられていま 3 2 2

5. 自分の仕事をつくる

いずれにしても、自分をどこで・どういかして生きてゆくかということは、その人自身 の手元にあると思うのです。 後半部分に多少手を加えたが、これもほぼ原文通りである。 この人に長い返信を戻したい気持ちになった理由はいくつかあるが、一つには彼女のメ 僕が次に書きたいと思っている本のある部分を、射抜いてきた感じがあったから だと思う。 「自分の仕事をつくる」というタイトルには、他人事ではないこと、他の人には肩代わり できないこと、任せたくないこと、ほかでもない「自分の仕事をしよう ! とい、つ願し が強く含まれている。実際、自分もそうしたいと思っているし、分かれ道に差し掛かった 時は、より「自分の仕事ー感のある方へ足を進めてきた。 この価値観はそうでない人、つまり社会的な要請への適合に明け暮れているような人の あり方を、あまり認めようとしない。 しかし言動 (doing) についてならまだしも、あり 方 (being) について他人がとやかく意見するのは、ひとことで言って僭越だ。それをど 3 2 4

6. 自分の仕事をつくる

あの本で僕がなんとしても一言葉にしたかったのは、広告頁の多い雑誌や水増しされたテ レビ番組は良くないということではなく、「こんなもんでいい」というような、他人を軽 く疎んじる働き方は、人間を互いに傷つけるということでした。 他人を疎んじることは、自分をも疎んじない限り出来ないことですから、そのような働 き方を通じて、結局は自己疎外の連鎖が深まってゆきます。その人がそこに「いる」感じ のしない働き手や仕事が、世の中で増えてゆく。それは僕には耐え難いことです。 たとえばあなたが、仕事の現場でどんなものをつくろうと、そこに本人による本人の疎 あの本を読んで「きれいな話ばっかり ! 」と反発を感じる人。それを表明してくる人は、 何人かいました。僕には見えていない方々も含めれば、そんな感覚を持った人は多々いる 、、象します。 だろうと想イ そもそも、自分の憧れの人たちの働き方を知りたくて始めた取材群でしたし、感じ・考 えたことをより強く伝えたいという気持ちから、世の中で働いている人々が否応なく抱え ている現実の、「それを一一一一口われると困ってしまう」ような弱い部分に、少し踏み込んだ書 き口をとっている側面もある。読み返してみると、そういうところは嫌らしいなと思いま す。 3 2 0

7. 自分の仕事をつくる

す。あるいは暗黙の契約を交わしている。 最近の日本でいえば、ワーキングプアーや、派遣労働をめぐる問題が取りざたされてい ますよね。 しかし、たとえば都会に固執しないで地方へいけば、人間的な仕事はまだいくらでもあ るというのが僕の実感です。かっこいい仕事ではなく賃料も低いかもしれないけど、ハロ ーワークに募集掲一小がないわけじゃないし、労働搾取的な案件ばかりでもない。お金がな いと何も手に入れることができないという思い込みについても、それを手放すことで、あ るゲームから降りることもできる。 あの本では「いい仕事」をしているデザインやものづくりの先達の、余裕のある働きっ ぶりが目立ったかもしれません。でもどんな人にも、その人なりの切実な現実はある。そ してその現実を選択しているのは、いつもその人自身だと思うんです。 たとえばトップデザイナーと呼ばれるような人たちは、すごく華やかに見えるだろうし、 力を持っているように見えるかもしれません。実際、素晴らしいカ能と運と条件を持って いる人たちだと思う。けど見方によっては、なにか別の力によって奴隷的に働かされてい る側面も、ないとは言えないんじゃないか 3 2 3 文庫版あとがき

8. 自分の仕事をつくる

外がない限り、僕はそれを人間の仕事として受容します。 しかし自己疎外の度合いが強いと、それは仕事というよりただの労働になってしまう。 ただの労働の中でも、ベストを尽くし心血を注いでいる人はいると思いますが、僕がここ で書いている「労働」には、自分の気持ちや感情を度外視して働くことを指すニュアンス があります。それはちょっとどうかな、と思うわけです。 仕事という言葉は、「稼ぎ」や「つとめ」という言葉で語られることもあります。後者 は、自分が属している世界に責任を果たすということです。 っとめとして働く只中では、一時的に自分の気持ちをおさえたり・ひかえたり、膨らん でくる感情を殺さないと機能できないような瞬間が、当然のように混じるでしよう。この ような胆力の有無は、人の成熟をしめすものでもあると思う。 しかしやはり、自分をいかして生きてゆくことこそ、一人ひとりの人間の仕事だろうと 僕は思うので、できれば殺さないで欲しいという気持ちがあります。 どんな仕事でも、本人の現場で一所懸命に働いている人には、かけがえのない尊さがあ る。イラクに派兵された若いアメリカ兵の中にも、ベストを尽くしている人は多々いるで しよう。人間性が必要とされないような極限的な現場で、でも人間的であろうとする人た 3 2 1 文庫版あとがき

9. 自分の仕事をつくる

齋藤孝氏は『「できる人」はどこがちがうのか』 ( ちくま新 書 ) の一部で、人間存在のエネルギー問題に触れている。いわ く、人は誰もが高いエネルギーを内側に抱えている。それは子 どもや青年だけでなく、高齢者も同じであり、問題はそれをう まく昇華させるチャンネルがないことにある。内在的なエネル ギ 1 をよい形で燃焼させている人々はいきいきとしているが、 出来ない人は別の歪んだ形でそれを処理せざるをえず、結果と してキレやすい若者のような現象が生まれているというものだ。 氏はつづけて、何かを学び・会得してゆく「上達ーのプロセス は、人のエネルギーが最も理想的に昇華される活動であり、そ れゆえに上達論についてまとめたいと考えたと述べている。 性善説的な響きが強すぎるかもしれないが、私たちは少しで もいい形で働き、いい仕事をしたいというエネルギーをもっ生 き物ではないだろうか。働くことそのものに、手応えと喜びと、 自身の存在価値を見いだしたい生き物。ギリシャのコス島で、 門弟に医学を教えていたヒボクラテスは、人が健康になるため 1 2 9 ドラフトの宮田識さんを東京・恵比寿に訪ねる

10. 自分の仕事をつくる

その人が光る仕事をね。 みんな、それぞれの夢や希望があって、できれば一から十ま でやりたいような人たちです。若い時の自分もそうだった。そ んな人を迎える以上、いい仕事をさせる責任があるし、デザイ ナーとしての自分の立場も変えていかざるを得ない」 ドラフトは請け負ったデザイン業務の範疇を越えて、クライ アントと徹底的に意見やアイデアを交わし合う仕事ぶりでも有 名だ。 「打合わせで僕は一種のホラを吹くわけです。そのホラを実現 しなければならないが、自分の手にはあまる。そこで、スタッ フひとりひとりの中から、できるだけいい能力を引き出す必要 があるわけです。 その人が持っているもの、ちょっとした光っている部分に気 付いて、ポッと焦点の合った仕事を与えると、人はかならず成 しくらでも 長する。与えることが大事なんです。そんな時は、、 平気な顔で働いているし、時間の使い方や他人との兼ね合いに 宮田識 1948 年生まれ。 日本デザインセンターを経て、 祀年宮田識デサイン事務所 ( 現、ドラフト ) 設立。年 「 D ・ BROS 」をスタートさせ プロダクトデザインの世界に 参入する。代表作に、日本鉱 業、横浜ゴム (PRGR) 、モ スパーガー、ラコステ、キリ ン一番搾り、キリン淡麗、ブ ライトリング、ウンナナクー ル、キリンビバレッジ「世界 のキッチンから」、など。主 1 0 4 1 : 働き方がちがうから結果もちがう