丘に案内すると、こんなもので日本人が安心しているのかとたまげて「クレイジー」の連 発だったそうです。すると今度は、その内側に民家の塀みたいなものを建てるという。こ の対策が、ジョークではなく、電力会社の真剣な対策だ。呆れてものも一一一一口えない。安政東 海大地震では、六〇〇メートルも内陸まで津波が押し寄せたのですよ。今回も、仙台平野 の名取市一帯で六〇〇〇メートルも奥深くまで陸地をなめつくした濁流を見て、日本人は ふるえあがったじゃよ、ゝ。 オしカ中部電力は、電源を高いところに設置するとか、こざかしい 対策を発表しているけれど、まるで分っていない。、 津波というのは、さらった自動車でも、 船でも、岩でも、家屋でも、一緒に運んでくるのだから、高いところに電源を置いたって、 その電源のケープルがズタズタに切れて何の役にも立たなくなることぐらい、誰でも分る だろうに。津波に対しては、危険物を海岸線に建てないことのほかに対策はないのです。 たろう 明石岩手県宮古市の田老地区にあった津波防潮堤は全国最大規模で、「日本一の防潮堤」 「万里の長城」と呼ばれていました。土地の人々もこの防潮堤があれば大丈夫と思ってい た。それでも田老は破壊されましたものね。一〇メートルの津波には一平方メートルにつ き二五トンもの力があるそうです。それを上回る規模の津波となれば、どんな堅固な建造
の原因さえ知らすに、病に苦しむのだろうと思って。 明石「安全」だけを連呼する原発産業の御用学者たちの話を紹介するばかりが、報道機 関の仕事ではないはすなのですが : 今や「被曝量管理」が必要なのは、福島第一原発で事故収束作業に当たる人々ばかりで はないのです。東電や保安院の記者発表ばかりに頼っている報道機関はこのことにまだ気 づいていないようですが、日本はこの冷酷な現実と率直に向き合う必要がある。 すなわち、広範な国土が放射能で汚染されてしまったという現実を踏まえれば、今すぐ にでも取り掛かるべきことは、原発の半径三〇キロ圏内や飯舘村など高濃度の汚染地帯か 機 らの避難民や子供を中心に、福島県民一人ひとりの被曝量を評価し、将来にわたっての健る あ とい , っことです。 康管理をおこなわなければならない 彼らは、広島や長崎で被爆した被災者と同様の「ヒバクシャ」なんですね。将来ガンな 今 章 どを発病したとしても、現状のままでは福島原発事故による被曝との因果関係を何ら証明 第 できなくなる恐れがある。今後の健康管理対策として、被曝した避難民や子供一人ひとり に対し、ホールボディカウンターを使って体内に吸飲した放射能量とその種類の評価、そ
明石こうなってみて初めて分った話で、大事故が起こることを本当に何も想定していな い。だから、備えもない。対策はすべて泥縄式になる。 広瀬ストロンチウムが検出されても、「ただちに健康に問題はない」「微量」でごまかし ている。放射性物質が体内に取り込まれて蓄積していく体内被曝は晩発性の被害なのだと いうことは、広島、長崎、チェルノブイリの一〇年後、二〇年後を見れば、誰でも分るじ なしか。チェルノブイリでは、たくさんの村が、なくなってしまった。日本の人口密度 は、ロシアやウクライナと比較にならないというのに。 明石原発のすぐ近くから避難してきた住民たちが被曝していることが判明し始めた三月 一三日頃は、放射線測定器で毎分一万三〇〇〇カウント以上を計測した人すべ てを「全身の除染が必要な被曝」とみなして、シャワーで全身を洗い流していたのですね。 ところが、除染を受ける人が増え始めた一四日になると、福島県はいきなりその基準を引 き上げた。国が派遣したという " 放射線専門家〃の意見を聞き入れて、基準を七倍以上の 「一〇万以上」としたのだそうです。 たぐい それ以降、「今日は何人の市民を除染」といった類の情報が報道から消えてしまった。
「原爆実験が盛んだった時代には、日本中どこでも今くらいの値はあたりまえに測定で きていた。それでも今は一〇〇〇分の一に減っている。官房長官も安全だと言っている。 過剰な反応はよくない」 ( 三月三〇日、テレビ朝日「ワイド ! スクランプル」 ) 「大気中一万倍程度の放射性物質くらいならば安全だ、気にすることはない」 ( 同 ) ・星正治 ( 広島大学原爆放射線医科学研究所教授 ) 「一分浴びただけなら放射線量は六〇分の一となるわけで、一瞬ならば、そうした健康 被害が出るわけではなく、また距離が離れると放射線量は減る」 ( 三月一五日、 E 産 経ニュース ) ろか 「浄水場で水を濾過する際、細菌やゴミと同時に放射性物質も取り除かれ、人体に心配 ないレベルになる。過剰な心配をする必要はない」 ( 三月一七日、産経新聞 ) ・前川和彦 ( 東京大学名誉教授。救急医学 ) 「一連の事故で放出されたのは、核分裂生成物質 ( 放射性物質 ) を含む気体で、核燃料 そのものが爆発したわけではない。 これらは風に乗って運ばれるが、遠方で観測されて もごく微量のため、健康に影響を与える可能性は低いと思われる。被ばく線量が一五〇 160
信じさせられてきたのか。これは、笑い話のような本当の話だが、わが国は、大量の発電 能力を持った天然ガス火力の発電所を抱えながら、その稼働率を五 5 六割に意図的におさ えてきたのです。天然ガス火力とは、最もクリーンで、すべての先進国で現在の発電のエ ース設備なのです。さらに石油火力もある。ところがこちらは驚いたことに、一 5 二割の 稼働率しかない。 これらの火力をフル稼働させれば、すべての原発を止めても、ピーク時 にまだ二割ぐらいの火力が余ってしまう。これに、ほとんど遊んでいる水力を加えれば、 とてつもない発電能力を持っていることになる。 明石そういう事実をほとんどの国民が知らないと思います。「停電になる」という脅し もありますが、東京を中心とした東電管轄地域の人々は、福島の原発は首都圏や関東で使 う電気をつくっていたのだからと、必死で節電に協力しています。 広瀬真相は、今回の大震災後に東電が計画停電を強行したのは、火力発電所も一時的に 被害を受けたからです。津波をかぶっただけでなく、輸送路が途絶えて発電用の燃料搬入 に支障が出たせいもあります。だから震災後すぐ「壊れた火力発電所を復旧させれば」何 も問題は起こらなかった。原発に比べたら火力発電所の復旧は容易ですからね。部品がこ 21 ろ第三章私たちが知るべきこと、考えるべきこと
であれば、日本国民がどれだけ危険にさらされようとかまわないとでもアイソトープ協会 では考えているのでしようね。 広瀬そうだよ。原子力安全委員会をバックに日本アイソトープ協会の連中が今何をやっ ているかというと、高レベル放射性廃棄物の、最終処分場探しだ。国が任命している原子 カ災害専門家グループの長瀧重信と佐々木康人、二人とも日本アイソトープ協会の常務理 る す 弾 事をやっているけれど、この協会がすべての元凶ですよ。先ほど話した、高レベ を ルの核燃料廃棄物処分をやっている原子力発電環境整備機構を調べていくと、みんなここ ち につながっていく。 者 やから 任 明石「福島の放射能汚染水を六ヶ所再処理工場へ持って行ナま、、 , レししし」と主張している輩責 故 がいるとの話を耳にしたのですが、これまでの″前科〃から類推すれば、こういうことを 事 発 原 言い出しそうな御用機関の筆頭に挙げられるのが、日本アイソトープ協会とかで 章 あり、ここに関わる人たちなんでしようね。 第 広瀬まず間違いないでしよう。私は最終処分地候補になっている岡山県の人形峠の人々 と反対運動をすっとやってきたから、どういう構造で動いているのか分ります。表に出て
「放射能安全論」の源流 広瀬さきほども言ったように、原爆を落とされた広島や長崎の学者を引っ張り出して安 全論を語らせれば国民が信用するだろうと、原発推進の国策として昔からやってきた手口 が出てきて、じつに無気味ですね。重松は、 ( 成人細胞白血病 ) の原因ウイルスの る す 弾 母子感染について、一九九〇年度に「全国一律の検査や対策は必要ない」との報告書をま を とめた旧厚生省研究班の班長、元日本公衆衛生学会理事長でもある。 ち 明石この重松は、それこそありとあらゆる場面で登場してくる「御用学者」の見本か手 任 本みたいな人物ですね。まるで便利屋のようです。僕が「週刊プレイボーイ」で連載した の 故 敦賀湾周辺の「悪性リンバ腫多発」報道の際も、″あの記事はいかがなものか〃と疑問視 事 発 原 する内容の原発安全記事に登場していました。 章 広瀬歴史的なことを一一 = ロえば、世界各地で大気中の核実験がおこなわれた一九四〇年代、 第 一九五〇年代の日本の放射線科学者は、良心的で、世界最高でした。その人たちが核実験 反対運動を起こして、一九五四年一二月半ばまでに、当時の日本の人口八八〇〇万人余り
災者も多かったはすだ。自然環境に膨大な放射能をバラまく重大事故を引き起こし、人命 救助を阻んだ東京電力の罪は重い。 また、そうした重大事故を未然に防ぐことのできなか った原子力安全・保安院や原子力安全委員会も、その責任と無縁ではありえない。 さしあたって、告発する際の罪状は刑法二一一条の「業務上過失致死傷罪」あたりが妥 当かっ順当な線ではないかと思っている。いすれにせよ、告発状の提出までにはどれでい くか、そして、被告発人の欄に名を連ねるべき責任者は誰なのか、検討していくつもりだ。 おそらくそのほとんどは、本書の″登場人物。ということになるだろう。 彼らは「原子力ムラ」の住民であり、「原発安全神話」の担い手であり、原発利権の恩 恵を被ってきた者たちである。彼らの刑事責任を問うのは、悲劇と惨劇を招いた関係者の 悪事と不誠実さとインチキを白日の下に晒し、責任を取らせたいからだ。現に彼らは、責え 任を果たすべき立場にありながら、原発震災では何の責任も果たせていないのである。 当然のことながら、本書は刑事告発の際、告発状とともに提出する「証拠」の一つとな ちょっこく あ るだろう。版元から見本が到着次第、東京地検特捜部の直告班あるいは警視庁のいずれ かに直ちに提出する予定だ。
キロ、三〇キロ圏内に住む人たちの避難や自主避難とか言っていましたが、とてもそれじ ゃあ追いっかない事態になったでしよう。 福島から他県に避難した住民の子供たちが「福島から来た」と言うと、「放射能がうつ る」といって他の子供たちがみんな逃げてしまったという。いわきナンバーの車を停めて いると「どかしてくれ」と言われるのだともいう。家も仕事も奪われた人々に対して、そ ひど ういう差別が生じて、「風評」被害は酷くなる一方です。福島で有機栽培を営んでいた人 に自殺者も出ました。二〇キロ圏内には当然、病院もあったわけで、病人や具合の悪いお 年寄りを無理やり避難させたことで、すでに何人も亡くなっています。 四月二六日の「毎日新聞」によれば、福島第一原発の南西約四キロにある双葉病院 ( 福 島県大熊町 ) の患者と近くの介護老人保健施設の入所者、四五人が避難中や避難後に死亡 したのだそうです。また、五月七日の「朝日新聞」は、周辺市町村の話として、避難後に 死亡した高齢者らは少なくとも六〇人以上にのばると伝えています。東日本大震災が「原 発震災」とならずにすめば、死なすにすんだ人たちです。原発事故さえなければ、津波に 襲われた他地域と同様に、原発近隣でも命を救われた被災者はきっと多かったことでしょ
ー問題について何も知らないくせに、原発震災の渦中にいる福島の人々をどこまで愚弄し ているのか。こうした文言を見れば、原発推進の経産省官僚としか思えないでしよう。 明石規制といえば、保安院を監視する役目の原子力安全委員会が、事故直後からまった くろこ く姿を見せませんでしたね。非難されるまで「黒衣に徹してきた」 ( 班目春樹委員長 ) そう ですが、肝心な時に「黒衣」では、存在している意味などありません。事故の時こそ、保 安院以上の「主役」になるべきでした。 広瀬そう、出てくるのは保安院ばかりで、原子力安全委員会の連中は何をしているのか、 と思った。おかしいですよ。こんな大事故の際は、保安院ではなく、安全委員会が出てき て国民に説明するのが筋でしよう。彼らは原子力災害から国民を守る最高責任者なのだか ら。 明石四月五日の「朝日新聞」の記事によれば、安全委は四月四日に開いた定例会で「地 震後初めて保安院から事故の正式な報告を受けた」と言っています。しかも報告内容は 「すでに安全委が入手済みの情報ばかり」だったという。記者に質問されて、班目春樹委 員長は「保安院とのコミュニケ 1 ションが足りないと思っていた。今回の報告が改善の一 ぐろう 1 ろ 0