たとえば、小山田修委員 ( 専門・原子炉構造工学 ) が、「空間線量率が非常に高いのは建 屋の中だけであり、屋外では異常な数値は計測されていません」という文言に対し「今の 屋外の数値もやはり異常ではあると思います。従いまして、ここは『屋外ではこれほど高 い数値は計測されていません』というふうに書く方がよろしいのでは」と提案すると、班 しろや 目委員長が「確かに異常な数値ですね」と他人事のように言い、すると代谷誠治委員 ( 専 ・原子炉物理、原子炉工学 ) が、「『異常な数値』というのは『特に異常な』、『特段に異常 な数値』ぐらいにしてはいかがでしようか」と提案する。このどこが「専門的」なのでし ようか。しかも彼らの関心は、、かに事故を過小評価するか、だけのようです。こんな瑣 末な「議論」をしていて、果たして事故が収束できるものでしようか。言葉のお遊びをし ているような原子力安全委などいりません。国民を馬鹿にするにも程があります。この人 たち、みんな自称「専門家」に過ぎないですよ。 四月四日以降は保安院の次長や審議官らの報告を元に臨時会議が開かれているのですが、 くすみ 一〇日の会議では、久住静代委員 ( 専門・放射線影響学 ) の提案で、原発の半径二〇キロ圏 外で高い放射能汚染にさらされた場所については、事故発生という「緊急時」だからと言 まっ 1 ろ 2
明石コーデックスの基準は、 ( 国際放射線防護委員会日専門家の立場から放射線防 護に関する勧告をおこなう国際学術組織 ) がつくっているのですよね。 広瀬私は強く言いたいのだが、 — O そのものがおかしな組織だよ。 O という のは、そもそも大気中の核実験時代に、世界中にばらまいた放射能の危険性をごまかすた めにできた組織ですからね。彼らは内部被曝を全然考慮していない。そういう組織が今の 食品の安全基準をつくっている。私はや、それに頼る日本の食品安全委員会を信 じる日本人が心配です。委員会のメンバーし。 こよ、放射能の専門家がひとりもいなかったの ですよ。今度の事故があってから、放射能について、原子力産業から一夜漬けのレクチャ ーを受けた集団だ。何も知らない人間たちが専門家ヅラして議論してきた。 私みたいな年寄りはい、。 早く死ねばいいので、何でもバクパク食いますよ。数千倍に 放射能汚染しているかも知れないマグロのトロだってあきらめて食いますよ。だけど若い 人に食わせるわけにはいかんのですよ。私は、福島周辺の子供たちを逃がしたいのだよ。 放射線量のグラフが上がったり下がったり、なんて言っている時じゃない。土にも水にも、 毎日どんどん放射能がたまっている。累積量がこわい。本当に日に日に危なくなっている
場が私はものすごくこわい。日本に核兵器の技術がないということは、裏を返せば、臨界 事故を起こす可能性がすごく高いということになる。一九九九年の事故の時、日本 人が最近になって臨界の研究をしているのを知ってゾッとしました。基本的な学問がない のですよ。したがって、事故が起こると、専門家が計算さえできない。それが、福島原発 事故でテレビに出てきた自称 " 専門家 , のコメンテーターたちの無能さで証明された。ま ともな事故解説さえできない。地上波テレビ局から招かれなかった田中三彦さんや、東芝 の格納容器設計者だった後藤政志さんたちが、最も正確に事故の解析をして、危険性を教 えてくれるのが、日本の実情だ。 機 危 る 明石日本はロポット開発が盛んな国なのに、原発事故でまともに働く口ポットは一台も あ なかった。人間が近づけないこんな非常時こそのロポットでしよう。東電は他で準備をし ていたと言っていますが、実際に使えるものは何も出てこなかった。今、事故現場で活躍今 中のものはすべて外国製です。なぜか ? 電力会社が必要ないとしてきたからなのです。 つまり、日本の電力会社は、見たくない現実からどれだけ目をそらしてきたかということ です。結局、被曝覚悟の決死隊に事故処理を頼んでいるのですからね。 * 6 * 7 87 第一章
島根原発三号機の建設にゴーサインが出てしまった。 広瀬安全審査をする側の保安院も原子力安全委員会も、みんなグルだからね。 明石当時、安全委員会の「耐震指針検討分科会」委員をしていた神戸大の石橋克彦教授 は、お手盛りであまりに無責任な審査の実態に激怒して、二〇〇六年に委員を辞任しまし こ。石橋教授は「原子力における活断層研究の世界は異常だ。非常に特殊なごく一部の人 が牛耳っている。電力側と審査側の両方に同じ少数の専門家が深く関わっているという、 信じがたいことがまかり通っている」と僕にもおっしやっていました。むろん、衣笠を指 してのことです。 広瀬もちろん、石橋先生の参加を悪用して、あたかも正しい議論がおこなわれたかのよ うに演出しようとしたのが原子力安全委員会の意図だが、石橋先生のような良識を持った 信頼できる専門家がどんどん離れていくのは、逆の意味でこわいことだね。彼らの思い通 りにことが進んでしま , つ。 明石衣笠の取材を続けていったら、島根原発だけでなく、それはもうあちこちで活断層 をカットした「過小評価」をしていたことが明らかになったのですよ。北陸電力の志賀原 185 第二章原発事故の責任者たちを糾弾する
が止まらなかった。 こうした真剣な科学者たちに対抗して、悪質な自称専門家が、現在は「クリアランス分 科会」という組織をつくって、今度の福島原発事故の汚染水処理にも関係して、放射能汚 染水を濃縮してドラム缶詰めする処理などを考えている。クリアランスというのは、とん でもなく危険な放射能を「これ以下は安全」とスソ切りをして流してしまうことです。原 子力安全専門部会と連絡を取り合い、次々つながっていって、そのすべての元締めが原子 力安全委員会。そういう構造になっています。 明石早い話、この「クリアランス制度」を導入することによって、放射能ゴミの一部を 一般ゴミとして捨ててしまうか、資源として再利用する形で「放射能ゴミ」でないことに してしまおうと彼らは画策しているわけですね。それこそ、このままだとリサイクルに回 されて見た目が変った「元・放射能ゴミ」が、気がっかないうちにドシドシ一般家庭の中 にまで入り込んでくる恐れがあります。「クリアランス制度」など導入されなければ、こ んなことはそもそもありえない話だったのです。なので僕もこの「クリアランス制度」は、 はら かなり危険を孕んでいると捉えています。ともかく「原子力シンジケート」の繁栄のため 178
出身の岩崎民子という御用学者をフランスに派遣し、疫学調査の結果に茶々を入れようと していました。その連載記事は拙著『責任者、出て来い ! 』 ( 毎日新聞社 ) にも収録してあ りますが、記事では「疫学の専門家」を自称していた岩崎という人が実は疫学のイロハさ え知らない人物であり、ニセモノの科学者だったことを暴いてしまいました。 実を一一 = ロうと岩崎には、前述した敦賀原発周辺で僕らがおこなった住民健康調査にも難癖 をつけてきたという " 前科〃があったんですね。当時の科学技術庁に担ぎ出され、「疫学 やゅ の専門家」を自称しながら、僕らの調査には何の科学的根拠もないと揶揄してきたわけで ひっちゅう す。それだけに、容赦なく筆誅を加えることにしました。 被曝と悪性リンバ腫の発症に因果関係がある可能性を世界で初めて指摘したのは、実は 「週プレ」の調査だったんです。僕らが一九九四年に問題提起をするまで、被曝と悪性リ ンバ腫の発症を関連づける研究は世界中のどの国でもおこなわれていませんでした。白血 病以外のガンは被曝と関係ないとされていたんです。しかし、僕らの連載記事が発表され てから一五年後の二〇〇九年、労災認定の対象疾患として、放射線による悪性リンバ腫と 多発性骨髄腫 ( 悪性リンバ腫の一種 ) が加えられることになりました。
ゼロですよ。ほとんどが年間五ミリ以下だというのに、その四倍を児童に浴びさせるのは、 殺人に等しい 明石ヒロシマ、ナガサキという被爆地の看板を使って″被曝安全説〃を振りまくことは、 ばうとく 被爆者への冒濱以外の何ものでもありません。「被爆地から来た専門家の言うことだから」 という意識を逆手に取ろうという魂胆ですね。おまけに高村に至っては、自分の専門外で ある「原発事故」の話にまで踏み込み、「大きな爆発はちょっと考えにくい」とまで語っ ている。勇み足をして " 本音〃を吐いてしまった好例です。「医歯薬学総合研究科の教授」 、原発御用学者でさえ先が見通せない原発事故のいったい何が分るというのですか。正 体見たり、ですね。 被爆者や、その地元の新聞社である「中国新聞」や「長崎新聞」は、今の彼らの " 大活 躍…ぶりをどう見ているのでしよう。ちなみに「中国新聞」は三月三〇日の社説で、中国 電力島根原発二号機で二〇一四年度から計画されているプルトニウム・ウラン混合酸化物 (>0><) 燃料の装荷に対し「おいそれと受け入れることはできまい」と異を唱え始めま した。また「長崎新聞」は五月二日、「二〇ミリシーベルト無害論」に対して長崎県の被 158
で進めてきた原発新設プロジェクトのために、福島の原発事故を早く収束させたいという 思惑がある。実際、福島のことでアメリカ国内でも反原発運動が巻き起こっているし、早 く始末しないと政権運営に関わってくるからね。しかし、私としてはもっと早くアメリカ の力を借りるべきだったと思う。自衛隊じゃ駄目だから、最初から米軍に来てくれと思っ た。彼らは核の専門部隊を持っている。事故後すぐの初動が最重要だったのに、菅政権が 「自国で対処する」とアメリカの協力を断ったから、ここまでひどくなってしまった。 私は阪神大震災が起こった後、『柩の列島』 ( 光文社 ) と題して地震の問題を書いたので すが、そこで一番に訴えたのが「自衛隊を全部改組して災害救助隊にしろ」ということで 機 した。今でもそれを、日本人に訴えたいです。戦争部隊を持つより前に、日本は人命救助る の部隊を持つべきじゃないですか。迷彩服を着て人命救助をするのはおかしいと思いませ んか。こんな非常事態が起こった時に何でもできる体制がアメリカにはある。だから私は 今 こういう時にアメリカ頼みの心境になる。彼らは危険な事態へのきわめて高い対応能力を 持っている。陸から海上から、州政府が強い政治力で専門救助隊を育てて防災体制を整え ている。日本はこれだけ天災を受ける国でありながら、災害救助隊というものがない。、冫 ひつぎ 4 ろ第一章
専門家を名乗る御用学者は「水素爆発で原子炉建屋は吹き飛んでも、圧力容器は健全だ」 と解説をしていた。が、しばらくすると圧力容器「健全」説は破綻し、メルトダウンして いたことが明らかになる。環境への放射能の放出量にしても、事故発生からの数日間だけ で実に七七京べクレル ( 行 x 川の乗べクレル ) にも及んでいるのだという。住民の健康被 害が顕在化するのも時間の問題だろう。 と思う。ただし、電力会社 そんな中、おそろしい本が出来上がってしまったものだ や御用学者にとって、ではあるが。 誰が見ても最悪の状況になっているにもかかわらず、それでも「安全」「大丈夫」と叫 び続けている人々がいる。これだけの事故を起こしてもなお「それでも原発は日本に必要 うそぶ だ」と嘯き続けている人々もいる。そんな彼らの正体をここまでストレートに暴いている 書籍は他にないだろう。 なぜ彼らはことさらに「安全」を叫び、原発を擁護しなければならないのか。その背景 とインチキ満点のカラクリが分ってしまえば、怒りの感情しか湧いてこない。今回、久し ぶりに広瀬さんととことん語り合って、ます私自身が大変勉強になった。 251 あとがきにかえて
ところが、「今のところ安定」という東電の発表や、あんな単純なマンガみたいな図解 で「大丈夫、安全」という嘘をメディアは鵜呑みにして報道し続けた。とくにテレビは、 これでもかこれでもかと御用学者を出していた。東電がテレビの大事なスポンサーだから といって、国民の命と引き換えに、よくもこういう報道ができるものだと、放送業界の人 間性がおそろしくなった。あの連中だって、家に帰れば自分の家族や子供がいるだろうに、 なぜ危険な状況を黙認するのか。人間として、親として、自分の家族に対してよく恥ずか しくないものだ。戦時中の大日本帝国軍部の大本営発表だけを報じて、国民を最後の地獄 まで連れ込んだ報道界が、当時と何も変っていなかったのはおそるべきことだ。 明石 " 識者〃や " 専門家〃〃科学者〃の中には原発に反対する人も数多くいるのですが、 彼らが報道に登場する頻度は原発推進派のそれに遠く及びません。「不偏不党」「中立公 正」とは名ばかりで、明らかな偏向報道状態にある。 例えば、四月一〇日に東京・高円寺で繰り広げられ、一万人以上が参加した反原発デモ は、共同通信と日本テレビ以外の大手マスメディアから黙殺されました。今、反原発運動 が世界規模で拡大していますので、″実はあの日、高円寺の反原発デモを私たちも取材し うの