らゆる場面で自分の実力を最大限に活用できるだろう。 世間が与えてくれる保証など : ・ こんなわけだから、ごく人並みの力しかない平凡な人でも、活力にあふれた目的意 に刺激されると、思いもよらぬ結果を生むことがあるのだ。 世界に強い影響を及ばした人の多くは特に天才的な能力があったのではなく、あふ れんばかりの活力と強い決意に駆り立てられて黙々と仕事に励んだのである。マホメ ット、ルタ 1 、カルヴィンなどがそのよい例である。 活力と忍耐力を伴った勇気があれば、どんな障害をも克服できるはすだ。勇気は努 力する力を与え、逃げ出すことを許さない っ 勝忍耐力は、正しく使えば時間とともに強くなる。身分はいやしくとも、常に根気強 負さを忘れなければ、必ず何らかの形で報われるものである。他人の助けを借りるのは の意味のないことだ。頼りにしていたパトロンが死んだ時、ミケランジェロは次のよう 人 に一一一口った。 9. 「世間が与えてくれる保証など、その多くは空しい一時の夢にすぎない。自分の力を
薄弱な人間は何の功績も残さない。まっすぐな精神をもったエネルギッシュな人の一 生は、世界を照らす光の軌跡にも似ている。 その手本は人びとの脳裏に刻み込まれて永遠に訴えかける。彼の思想や精神、そし て勇気は世代から世代へと受け継がれ、人を感動させるのである。 いつの時代でも、熱狂的な奇跡を生み出したのは活力であり、それは意志を貫くた めにはもっとも大切なものである。活力は人格の力と言われるものの源であり、すべ ての偉大な行動を支えるものである。 強い意志をもった人物は、御影石のように固い勇気をよりどころとして正義の道を 切り開いていく。あのダビデのように、目の前に陣を布く敵の大軍に臆することなく、 敢然と巨人ゴリアテに立ち向かっていくにちがいない っ 勝必ずやり遂げることができると感じていれば、困難を乗り越えられることがよくあ 負るものだ。その時の自信は、他人への刺激剤にもなる。 の 航海の途中、シーザーの乗った船が暴風雨にあったことがある。恐ろしさの余り、 生 人船長はすっかりおじけづいてしまった。すると、この偉大な指揮官は大声でこう叫ん だものだ。
「偉大な生き方」は時をこえて生き続ける 偉大な人の示した手本は永久に消えることがない。、 しつまでも生き続け、後の世代 伝記小説は、精一杯に生きればどんな人間に成長して、どんな仕事を成し遂げられ るかを教えてくれる。それを読めば新しい自信と力が湧いてくる。登場する人物が自 分には手の届かないほど偉大であっても、やはりあこがれと希望を抱くよう勇気づけ られるだろう。 体内にはわれわれと同じ赤い血が流れ、同じ世界に生きた大先輩たちの生涯は万国 共通の力をもっている。彼らは今もなお草葉の陰からわれわれに語りかけ、彼らの歩 んだ道に導いてくれる。彼らが身をもって示した手本は、われわれに教えを授け影響 あを与え、正しい人生を歩ませるために生き続けている。 っ 高潔な人格は時代から時代へと永久に受け継がれる遺産であり、同じような人格を A 」 人 絶え間なく生み出していくのである。 2 2
という兵士たちが殺し合う大戦争や、雲霞のごとき軍隊を率いて町を攻め落とす話な どよりも、はるかにその人物の性格をよく物語ることもある。 肖像画家は、性格がいちばんよくあらわれる顔の輪郭・表情・目の動きなどを正確 にとらえ、身体の他の部分には一切注意を払わないものだが、それと同じことで、私 も人間の心の動きや兆候には特に注目しなければならない。私はこのやり方で英雄た ちの一生を描くことに専念し、彼らが成し遂げた偉業や大戦争については、他の作家 の手に委ねることにしよう」 このよ、つにプルタークはっている 何が「クレオバトラの鼻」になるかわからない 伝記は歴史と同じで、明らかにつまらぬ事柄にも意味があり、とるに足りないこと めが原因で大きな結果を招くものである。 高 ハスカルは「クレオパトラの鼻がもう少し低ければ、世界の歴史はちがっていただ ろう」と指摘している。また、七世紀のフランク王国皇帝ピピンの恋愛事件がなけれ ば、ヨーロッパはサラセン人に征服されていたかもしれない。そのロマンスの落とし
人たちに紹介してくれる。 われわれは彼らの言葉や行動を目のあたりにし、まるでその人たちが現実に生きて いるような気になる。自分もその思想に参加し、ともに喜び、悲しみ、共鳴し合、つ。 作者の経験は自分の経験となり、彼らが描き出した舞台を背景に一緒に主役を演じて いるような気分になるのである。 この舞台でも、偉大でりつばな人は退場することがない彼らの精神は書物の中に 塗り込められて世界中に広がっていく。書物は生きた声、われわれが今でも耳を傾け る知性の声である。それゆえにこそわれわれは、過去の偉大な人物の影響をいつまで も受けるのだ。 たとえばホメロスのように世界的に名をはせた偉大な知識人たちは、昔のままの姿 で今も生き続けている。彼の人生の細かいことは古代の霧のかなたに包まれてわから る めなくなっているが、彼の詩には最近書き上げられたような新鮮さがある を プラトンはすぐれた哲学を今も説き、ホラテイウス、ヴェルギリウス、ダンテはま 見 るで生きているかのように詩を歌い続けている。 われわれは、たとえ学問がなく貧しくとも文句を言われすに、この偉大な人びとの
「そんなことをしてまで故郷に帰りたくはない。君もしくは他の誰かがダンテの名誉 と名声を傷つけない道を開いてくれた時には、駆け足で戻るだろう。だがそうでなけ れば、二度とフィレンツェの町に足を踏み入れるつもりはない」 しかし敵の追及は執拗で、ダンテは姿をくらましてから二十年目に亡命先で死亡し 彼が死んでからも敵の恨みは晴れす、その作品『単一神論』はローマ法皇使節の命 令によりポローニヤで焚書に処された。 あのミケランジェロでさえ、彼の才能を理解しない愚かな貴族や牧師、それにあら ゆる階層の貪欲な人間たちにねたまれ、ほとんど一生涯にわたって彼らの迫害にあっ た。法皇パウロ四世がシスティナ礼拝堂の壁画「最後の審判」の一部に文句をつける っ 勝と、彼はこう反論した。 負「私の絵のあらさがしよりも、世界中を汚している法皇自身の不品行と無秩序を何と 生かするように考えたほうかいいのではあるまいか」 人 科学の世界にも迫害や苦しみや困難と戦った殉教者たちがいる。異端の説をかかげ たために迫害を受けたプルーノー、ガリレオ・ガリレイについては、語る必要もない
最良の人生がきっしり詰まった " 上等な壺。 良書は、一人の人間の生涯をおさめたこの上なく上等な骨壺である場合が多い。な かにはその人が身につけた最高の思想がぎっしりと詰まっている。 人間の一生とはその人がつくり上げた思想の世界にほかならない。 つまり最良の書 物とはすぐれた言葉や輝かしい思想の宝庫であり、それはわれわれの胸に刻み込まれ て常に慰めを与えてくれる友達となるのである。 十六世紀の詩人・軍人であるフィリップ・シドニ 1 は、「気高い思想を伴侶とすれ ば、人はけっして孤独ではない」と言っている。 先人たちの純粋で正しい田 5 想は、われわれが誘惑に負けそうになった時に、慈悲深 い天使のように次にとるべき行動の芽を示して導いてくれる。りつばな仕事の多くが、 る めすぐれた言葉に奮い立って成し遂げられているのを見れば、そのことがすぐにわかる。 を たとえば、インド行政官を務めた軍人の、サー・ヘンリー・ロレンスは、ワーズワ 見 ースの『キャラクター・オプ・ザ・ハッピ 1 ・ウオリアー ( 幸福な戦士の人格 ) 』を高 く評価し、この作品を自分の生活にそのままとり入れようと努力した。彼は常にこの
務の観念に目覚め、どんな犠牲を払っても勇敢にその目的を遂行しようという気にな る。この時こそ人生の究極をきわめたと言えよう。そして、人間らしい人間の理想像 として堂々と自分の人格を世間に示すのである。 こんな人物の行動は、他人の人生や行動の中でくりかえされる。口から出た言葉そ のものが、息を吹き込まれて行動になる。かくしてルターの言葉は一つ残らす、トラ ンペットの響きにも似て、ドイツ国中に鳴り渡ったのである。 ドイツの政治家リヒターが言っているように「ルターの言葉があるだけで、戦いは 勝ったも同然」であった。ルターの生き方は祖国のすみずみにまで浸透し、現代でも なお、ドイツ人の国民性の中に生き生きと脈打っているのである。 清廉潔白で善良な心がなければ、 いくら活力にあふれていても災いのもとになるだ けであろう。こんなタイプの人物には、神がそのはかり知れない神意をもって、地球 る を滅亡させるためにお選びになった悪者たちゃ、世界を踏みにじった野蛮な征服者た 盟ちの姿が見えるのである。 使これと正反対なのは、崇高な精神に導かれたエネルギッシュな人格者である。彼ら は、仕事の面でも社会的な行動の面でも、公平な判断力をもち、義務を第一とすると
256 自分を " 解放。しなければ足は前に出ないー 経験から得たものは、当然、日常生活の中に何らかの形となってあらわれる。生活 すなわち時間である。経験豊かな人は、時間をよき協力者として頼ることを知ってい る。 「時間と私が組めば、怖いものはない」とは、栄華をきわめたルイ十四世の宰相を務 めたマザランの金言だった。 時間は過去のできごとを美化し、人の心を慰めるものと解されてきたが、同時に時 間はまた教師でもあるのだ。時間は経験を養い、知識を育む。時間は若者の友となる が、敵にもなる。時間を上手に使ったか、むだに浪費してしまったかによって、年老 いた時の明暗が分かれてしまうからである。 若者にとって、新しい世界は新鮮な喜びと楽しさにあふれ、輝いて見える。しかし、 時が経つにつれて、われわれはそれが喜びばかりか悲しみの世界であることを知らさ れる。 人生の道を歩むにつれて、苦しみ・悲しみ・悩み・不幸・失敗などの暗い情景が道
し、自分だけでなく他人にも賢明な指図を与えるような注意深い自己訓練が必要なの である。 忍耐と自制心は人生街道を平らにし、閉ざされているはずの道をいくつも切り開い てくれるだろう。自尊心をもっことも同じく大切だ。自分自身を尊ぶ者は、他人も尊 敬するのが普通だからである。 この分野で成功をおさめるには能力 政治の世界もビジネスの世界と変わりがない。 よりも性癖、非凡な才能よりも人格がものを言う。自制心がなければ忍耐力も弱く、 思いやりにも欠けて自分はおろか他人を指導する力もない。 ある時、政治家のピットを囲んで総理大臣としていちばん大事な才能は何か、とい う話が出たことがある。「上手に演説すること」「豊富な知識をもっこと」「骨身を惜 します働くこと」などと意見が出た。するとピットは、「いや、どれもちがうー ちばん大事なのは忍耐だ」と答えた。つまり忍耐とは自制することであり、ピット自 身この点では完璧に近かった。 と感服している。忍 友人は、ピットが癇癪を起こしたのを一度も見たことがない、 耐は一般に消極的な美徳だと言われているが、ピットは行動だけでなく、気力とすば