ー 36 心の正しい人は、自分のいつわりの姿を見るのをためらったりはしない。金もない のに金持ちぶって見せたり、自分のおかれた環境にそぐわない生活をしてみたいと思 ったりはしない。不正に他人の金に頼ろうなどとはせす、自分の収入の範囲でまじめ に暮らしていこうという勇気をもっている。収入以上の生活をしたいばかりに借金を つくる人は、不正という点では堂々と他人の財布を盗むスリと何ら変わりがないので ある 読者の多くはこの考えが極端すぎると思われるだろうが、実際にはこの世でもっと もきびしい試練なのである。人の金で暮らすことは不正な手段であるばかりか、いっ わりの行動でもある。それは、嘘が言葉のうえで真実を語らないのに似ている。 ートの格一言は、衂社験から一一一口っ 「金を借りる人間は嘘つきだ」というジョージ・ てももっともである。 ある時、政治家シャフッペリーは、「自分がもっていないものをほしがり、いつも 自分の立場を考えすに他の地位を得たいといらいらしている気持ちが、すべての不道 徳の根源である」と話している。 「小さな道義にこだわっていると大きな道義を見失ってしまう」というフランスの革
「暗闇を恐れてはいけない。それが生命の泉を隠しているかもしれない」 と、ベルシャの賢人も言っている。 経験は往々にして苦々しいものだが有益である。経験を通してのみ、われわれは悩 み、そして強くなることを学ぶ。人格は試練によって鍛えられ、苦しみを通して完成 される。 だから、人が忍耐強く思慮深ければ、はかり知れぬ悲しみからも豊かな智恵を授け られるのである。ジェレミー ・テイラーは教えている 「悲しいできごとや災いは、自分を向上させるための試練と考えよ。それはわれわれ の気持ちを引き締め、節度ある考えをもたせ、軽率な態度をいましめ、罪深い行動か ら遠ざける。われわれは、不幸を通じてますます徳を高め智恵を働かせ、耐える心を っ 勝鍛え、勝利と栄光を目ざしてひたすら前進しなくてはならない 負逆境にあわなかった人間ほど不幸な者はいない。本人がよい悪いではなく、その人 のは試練を受けていないからである。才能があるとか性格がよいというだけでなく、徳 人 にあふれた行動こそ勝利の王冠にふさわしいのである」
天才たちはすべてずばぬけた " 働き者。だったー 実務の才能を発揮して偉大な業績を遺した人は、男であれ女であれ名誉に値する。 名画を描く画家、名作を世に送る文学者、戦いで勝利をおさめる将軍にも匹敵するだ ろう。彼らは多くの困難に直面し、すさまじい争いを経験して成功を手にしたにちが いない。だが戦いに勝ったとは言え、平和的な勝利であり、その手が血に染まること はなかった。 天才と呼ばれる人間は、骨の折れる仕事をいやがるものだ、という考えをもってい る人がいる。だが、 これほどあやまった考えはない。 偉大な天才は例外なくみな、どんなに骨の折れる仕事でもいとわすに働いた。普通 の人よりもきびしい労働に耐えたばかりか、自分の仕事により高い才能と燃えるよう りな情熱を捧げたのである。 や を 後世に遺る偉大な作品はけっして一朝一タには生まれない。不屈の忍耐力とたゆま 仕ぬ労働があってこそ、天才たちの傑作は陽の目を見たのである。
人生は自分の選んだとおりに " 姿。を変えてくれる 悪い考えを避けてよい考えに従うかどうかの選択しだいで、意固地で心の曲がった 人間にも、あるいはその反対にもなれるのである 世の中は自分の選んだとおりに姿を変えてくれる。世界を本当に自分のものにする のは、明るく朗らかな人たちだ。この人たちこそ、毎日の生活の中に喜びを見出し、 享受することができるからである。 一方、年中いらいらと不安にさいなまれ、満足することを知らない性格の人は、不 安や苦労に押し流されやすいために、幸せや心の平和を手にすることはおばっかない。 たとえば、まるでごわごわした固いプラシのような態度をとるので、まわりの人は その固い毛に突き刺されるのが恐ろしくて側へも近寄れないといった人たちを、なん 彼らは自分の性分をほんの少し抑えられないばかりに、想 とよく見かけることかー 像もできないほど恐ろしい事態を引き起こしているのだ。喜びは苦しみに変身し、人 生は素足のままでいばらやとげを敷き詰めた道を歩く旅になってしまう。 「時には小さな災いが、目に飛び込んだ虫のように激しい痛みを与えたり、たった一
にその人物はみんなにとってなくてはならない存在になっている。かくして、信頼は 人びとの尊敬と信用を集めるためのパスポートになるのである。 「良識」にまさる知恵はない 人生で起こるさまざまなできごとや職業において、知性は人格ほど役に立たないし、 頭畄は、いほど効果的には働かない。非凡な才能でも、自制心や忍耐、公平な判断に立 脚した信念にはかなわない 個人の生活、あるいは社会での生活を円滑に送る手だてとしては、公平さに導かれ た良識を身につけておくのがいちばん役に立つ。経験に育てられ、善意から発した良 識は、実際的な智恵となってあらわれる。 知的な才能をフルに活動させ、なおかっ他人に多大の感化を与える人をよく見かけ る。それは、こんな賢明な抑制力が働いているからにほかならない。彳 皮らは、表面に はあらわれない何らかの潜在的な力、つまり抑制力に従って行動しているように思わ れる。彼らの目的には邪念がなく、潔白で、他人に自分の考えを無理強いしたりしな いのである。
いなければ、他の美徳を身につけることはおばっかない 自分の信念を貫き通す勇気 われわれに宇宙のことや地球のこと、そして自分自身のことをさらにくわしく教え てくれる知識は、いずれも過去の偉大な人びとの活力と献身、自己犠牲と勇気によっ て広められてきた。 どんな反対や悪口にも屈しなかった彼らには、人間社会に貢献した人の中でももっ とも名誉ある地位を与えられる資格があるのだ。 過去において科学者に向けられた不公平で狭い考え方は、現代にも通用する教訓を 含んでいる。すなわち辛抱強く観察を続け、真剣に考え抜いた末に得た確信を自由に 正直に発表するのであれば、たとえ自分と考えのちがう人にも寛容な気持ちをもたな ければならないことを教えてくれるのである。 「世界は、神が人間に送られた手紙である」と言ったのはプラトンである。 その中に含まれた本当の意味を引き出すためにその手紙を読んだり研究したりする ことは、神の力をより深く知り、神の智恵をよりはっきりと確認し、神の善により感
り、枕であり、たのもしい味方である。ものぐさな大の毛は不潔で皮膚病だらけにな る。怠け癖のある人間が、同じ状態を避けることができるだろうか ? 孤独に生きるな、ーーなまけるな 「身体を動かすのか億劫になることよりも、精神が怠隋になることのほうがはるかに 恐ろしい。頭がいいのに何も仕事をしないのは一種の病気である。悪い病であり、精 神を腐らせるさびであり、地獄そのものである。よどんだ水たまりにうじが湧くよう に、怠け者の頭の中には腐った悪い考えがはびこってしまう。魂が悪魔のとりこにな ってしまうのである。 とにかくあまり金持ちで もっと大胆な表現をしよう。どんな社会的地位でもいい はないが、似たりよったりの幸せな暮らしをしている怠惰な人に、あり余るほどのも のと望むだけの幸せと満足を与えたとする。 を怠け癖が消えない限り、彼らはいつまで経ってもこれでいいということがなく、心 仕も身体も病んだままに、相変わらす疲れ切った表情でいらいらと不満を並べ立て、涙 を流し、ため息をついて自分の不幸を嘆き、疑心暗鬼で社会のあらゆることにたてつ
「何というすばらしい仲間だったろう ! 彼は卑劣な悪人には恐れられ、勤勉で正直 な人には頼りにされ、若者のよき友人であり助言者でもあった ベルテスは別の機会にこうも言った。 「人生で悪戦苦闘している人は、同じようなつらい経験をした頼りになる人たちにい つも囲まれているほうがいし 邪悪な考えは、りつばな人物の肖像画を見たとたんに どこかへ吹き飛んでしまう。その生き方を考えれば、肖像画をもっているのが気恥す かしくなるだろう」 あるカソリック教徒の金貸しは、誰かをだまそうと悪だくみする時は、いつも自分 が尊敬している聖人の肖像画を布で隠した。 「美しい婦人の肖像画を前にして不作法なことはできないはずだ」と評論家ハズリッ トが言ったのもこれと同じ理由からである。 ああるドイツの貧しい女性も、壁にかかっているルターの肖像画を指さして、「男ら っしくて誠実なこの顔をじっと見ていると、心が洗われたようになるのです」と言った 人 AJ い、つ 部屋に飾っている偉人の肖像画との間にも、不完全ながら交流をもっことができる。
に正直に宣言しておきたい。すなわち私は、与えられた名誉ある職務にふさわしいカ など、とても自分にはないと思っているのだ」 ワシントンは最高司令官として、そしてのちには大統領として義務を遂行すること をためらわす、清く正しい人生を全うした。よい噂にも、また彼の権威と信望を危機 におとしいれるような下心のある噂にも惑わされす、人気を気にせずに初志を貫徹し たのである。 たとえば、ジョン・ジェイが英国との間に締結しようとした和平協定の批准が問題 になった時のことだ。そんな条約は否認すべきだという声が上がったが、ワシントン は自分と国の名誉を守るために、反対を押し切ってこの条約を批准した。 けんけんごうごう 結果的には世間から喧々囂々たる非難を浴び、彼の人気も地に落ち、集まった群衆 に石を投げつけられたことも実際にあったという。しかし彼は屈せす、条約を批准す る 燃るのは自分の仕事、使命であるという考えを曲げなかった。そして国中から寄せられ 盟た陳情や抗議をふり切って、条約を発効させた。 使抗議した人びとに対して、彼はこう答えている。 「私は自分を支持してくれる多くの人たちへ深い感謝を捧げている。だから、自分の
244 大衆にへつらい、真理を隠し、俗受けすることを話したり書いたり、さらには人び との階級意識にあくどく訴え、上流階級に対する憎しみをあおり立てて得た人気は、 ヘンサムは、 誠実な人の目には見下げ果てた浅ましいものとして映るにちがいなし ある有名な政治家について次のように述べている。 「彼の政治信条は、多くの人に愛された結果というより、少数の人の憎しみにあって 生まれたものだ。ひとりよがりの勝手な依怙ひいきに左右されるようではどうしよう もない」 この言葉が当てはまる人間が今の世の中に果たして何人いるだろうか 「もっとも通俗的な人気というものはあまり価値のあるものではない。全力を尽くし て与えられた義務を果たし、自己の良心に忠実であれば本当の意味での次元の高い人 気が自然に生まれるはすだ」と、ある人は語っている。 人が独立独行で活力にあふれた状態を保っためには、知性を伴う大胆さも必要であ る。われわれは自分を貫く勇気をもつべきである。他人の影であったり、こだまであ ったりしてはならない。自分の力を試し、自分の頭で考え、自分の意見を発表すべき なのだ。自分自身の考えを練り上げて、自分だけの信念を築かなければならない。