123 仕事をやり抜く ! 激を切り抜けられたのは、感情を抑制する努力を常に怠らなかったからである。彼は 激しい感情をもっていて、歯どめがきかなくなる時もあったが、ただちにそれを抑制 する力ももってした。彳 、 ' 皮の人格でいちばん目立つのは自制心の強さではないだろうか 訓練の結果そうなった部分もあるが、他人には与えられていないこの力を、彼は生ま れつきある程度もっていたように田 5 われる」 詩人ワーズワースは子供の頃、強情で気まぐれで乱暴で、折檻されても意地をはっ て反抗していた。だが人生経験が彼の性格を鍛え、しだいに自制心を働かせることを 学んでいったのである。 子供の頃の性格は、後年、彼の作品を批評攻撃する人に立ち向かう時に役立ったの である。自分の才能に対する自己意識とともに、ワーズワースの一生をもっとも特徴 づけるのは自尊心と独立独行の精神であろう。 刹那的に生きることのむなしさ 身体は弱くても明るい性格に恵まれれば、その人の魂は行動的で力強く、きわめて すぐれたものになる。 せつかん
112 ものである。 聖書は「町を占領した」カの強い者よりも、「自分の気持ちを抑えた」心の強い者 をほめたたえている。心の強い者とは、きびしく自分を鍛えながら、考え方や話す一言 葉、あるいは行動を常にコントロールしている人を言、つ。 社会をむしばみ、社会に恥をさらすような犯罪を起こす恐れのある邪悪な欲望も、 そのほとんどは、勇気ある自己鍛練、自尊心、そして自制心の前では影が薄れてしま うだろう。これらの美徳を身につけるように努力すれば、いっしか清らかな心でいる ことが習慣となり、人格は純潔無垢の美徳と自制心に育まれながら形成されていくの である。 どれだけ良い習慣を身につけたかで人間の価値は決まる 人格を支える最良の柱となるのは、いつの場合にも習慣である。その習慣に従って 意志のカかよいほうにも悪いほうにも働き、場合に応じて慈悲深い支配者になったり 残酷な独裁者になったりする。 われわれは習慣に自ら喜んで従う家臣になるか、屈従する奴隷になるかである。習
し、自分だけでなく他人にも賢明な指図を与えるような注意深い自己訓練が必要なの である。 忍耐と自制心は人生街道を平らにし、閉ざされているはずの道をいくつも切り開い てくれるだろう。自尊心をもっことも同じく大切だ。自分自身を尊ぶ者は、他人も尊 敬するのが普通だからである。 この分野で成功をおさめるには能力 政治の世界もビジネスの世界と変わりがない。 よりも性癖、非凡な才能よりも人格がものを言う。自制心がなければ忍耐力も弱く、 思いやりにも欠けて自分はおろか他人を指導する力もない。 ある時、政治家のピットを囲んで総理大臣としていちばん大事な才能は何か、とい う話が出たことがある。「上手に演説すること」「豊富な知識をもっこと」「骨身を惜 します働くこと」などと意見が出た。するとピットは、「いや、どれもちがうー ちばん大事なのは忍耐だ」と答えた。つまり忍耐とは自制することであり、ピット自 身この点では完璧に近かった。 と感服している。忍 友人は、ピットが癇癪を起こしたのを一度も見たことがない、 耐は一般に消極的な美徳だと言われているが、ピットは行動だけでなく、気力とすば
8 よ、 8 / し ほどほどの自制心をもたない人間は、仲間にとって我慢のならない存在である。 つも周囲に厄介ばかり起こすので、誰も進んでつき合おうとはしない。大勢の人が、 自制心がないばかりに世間を狭くして出世をはばまれ、根性のねじけた思いやりのな い性格のために、成功を手にすることができずにいる。 反対に才能は劣るかもしれないが、自分を抑制し、辛抱強く冷静さを失わぬように 努めるだけで、成功への道を切り開いている人たちがいるのである。 このように、人生で成功をおさめた人たちの中には、才能ばかりではなく、その気 性によった例もある。それも特に、陽気で明るい気性が幸せをもたらすことは確かな ようだ。愛想のよい柔らかな物腰、人間同士のつき合いに欠かせない当たりさわりの ない話題、いつでも喜んで他人のために奉仕する気持ちが彼らに幸せを運ぶのである。 一方、他人を尊重できない気持ちはいろいろぶしつけな形であらわれる。たとえば、 身だしなみが悪い 、清潔感がない、人に不快感を与える癖をやめないなどである。だ らしのないうす汚れた人間は、見た目の不愉快さで周囲の人たちの感情を害する。形 こそちがえ、これもやはり礼儀をわきまえぬ無礼な態度にほかならない
明るい気質にも病的な気質にもなり得るのである。 ものごとをよいほうに明るく解釈し、人生を希望的に考える習慣は、他の習慣と同 じように育てられるものなのだ。 「何が起こっても、いちばん好ましい部分だけを見るようにする習慣は、一年に千ポ ンドもらうよりも価値がある」とい、つジョンソンの言葉も、けっして大げさではない。 忍耐と自制心は人生街道を平らにしてくれる 信仰に厚い人の一生は、きびしい自己修養と自制心によって支えられている。まじ めで注意深く、悪を避けて善を行ない、魂の領域に足を踏み入れ、死に対しては忠実 で、不運に耐え、すべてを成し遂げた後はじっと運命を待つ。 よこしまな精神と闘い、 この世の邪悪を支配する者には敢然と立ち向かう。固い信 り仰心で心を清め、善を施すのに疲れを知らない。気力を失わぬ限り、時が来ればどれ を もこれもみな収穫できるからである。 事 仕 実務に長じた人間も、きびしいルールや手順に従う必要がある。仕事でも人生と同 様に道徳的な資質が大きな役割を果たす。成功するためには、どちらにも性癖を規制
心の鍛え方しだいで 「人生の迷い」は吹っ切れる 自分を制するとは、言ってみれば別の形をとった勇気のことである。そして人格に なくてはならない基本要素であると考えられている。 シェークスピアが『ハムレット』の中で、人間を「後先を考える生き物」と定義し たのは、この自制という美徳について言ったのである。これが人間とただの動物を分 ける大きなちがいである。事実、自制心なくして本当の人間らしさはあり得ない 自制はあらゆる美徳の根源である。衝動と情熱のおもむくままに行動すれば、人は その瞬間から精神的な自由を明け渡すことになる。そして思うがままに人生の波に押 抜 りし流され、しばらくは自らのもっとも強い欲望の奴隷になり下がってしまうのだ。 を 動物よりもましな状態、つまり精神的に自由であるためには、本能的な衝動を抑え 事 仕 なければならない。それは自制心を働かせることによってのみ可能なのである。この カこそ肉体と精神をはっきり区別するものであり、われわれの人格の基礎を形づくる
ロ 3 仕事をやり抜く ! 慣は善の道を歩む者を助けてくれるか、破滅への道に人を追いやるか、どちらかなの 習慣は用意周到な訓練によってつくられる。規則正しい訓練と実習がどれほどの効 果を上げるか、それはまさに驚異である。 たとえば、町でつかまえられたならす者や草深い田舎から連れてこられたがさつな 野生児のように、先の見通しが絶望的な人間でも、まじめに訓練と実習をくりかえせ ば正真正銘の勇気と忍耐力と自己犠牲の精神が身につくようになるのである。 激しい戦場や、船火事の起きたサラ・サンド号や難破したバーケンヘッド号のよう な恐ろしい災害に出合った時、精神を鍛え抜いた人がどれほど勇敢で英雄的な行動に 出たことだろうー 道徳的な精神を鍛え、実習してみることは人格を形成するうえでも影響がある。こ れがなければ正常で規律正しい日常生活を送ることはできない。自尊心を養い、服従 する習慣を学び、義務の観念に目覚めるのも、みなこの鍛練と実習を通してである。 独立独行の精神をもった自制心の強い人には、みな鍛練の積み重ねがある。その鍛 練がきびしければきびしいほど、道徳的にも高められるのだ。
どれだけ良い習慣を身につけたかで人間の価値は決まる 人生に不満な顔は似合わない 忍耐と自制心は人生街道を平らにしてくれる 5 自分の中の「未知のエネルギー」 時には嵐の海で〃ただ耐える岩〃のごとくに 大成する人は「はげしい感情と抑制ーのバランスをとるのがうまい 刹那的に生きることのむなしさち 6 これだけは心しておきたい処世の知恵 言葉ひとつに運命さえも託される " 沈黙にまさる言葉。を口にせよ 相手に好かれたければ、ます自分から好きになれ 7 これまでの「生き方の枠」を一度こわしてみる 金については分をわきまえ、「天上の花」を追わない 125 117 135 132 ー 37 1 12 1 つ 2
ロ 4 自分の欲望を努めて抑え、それよりももっと強い力をもった天性に服従するのであ る。心の中に住む訓戒者、つまり良心の命令に従わなければならない。さもなければ、 衝動と感情に任せて自分の好き勝手に行動する、ただの遊び人になり下がってしまう のはまちがいない。 ート・スペンサーは述べている 社会学者ハ 「すぐれた自制心は、理想的な人間がもっ完璧さの一つに数えられる。われわれは衝 動に走らず、次々に自分を襲うさまざまな欲望にも惑わされず、自制し、心の平衡を 保ち、頭に浮かんだいくつかの感情を整理整頓してその最終的な決定に従わねばなら ない。そうすれば、とるべき行動はいずれも熟考を重ねたうえで冷静に決められるは すである。この努力がすなわち教育、いや少なくとも道徳教育を施すことにつながる のだ」 人生に不満な顔は似合わない 最初で最高の道徳的訓練を積む義務教育は、家庭で行なわれる。その次が学校で、 最後は実生活の巨大な道場、すなわち社会である。それぞれが次の段階への準備期間
にその人物はみんなにとってなくてはならない存在になっている。かくして、信頼は 人びとの尊敬と信用を集めるためのパスポートになるのである。 「良識」にまさる知恵はない 人生で起こるさまざまなできごとや職業において、知性は人格ほど役に立たないし、 頭畄は、いほど効果的には働かない。非凡な才能でも、自制心や忍耐、公平な判断に立 脚した信念にはかなわない 個人の生活、あるいは社会での生活を円滑に送る手だてとしては、公平さに導かれ た良識を身につけておくのがいちばん役に立つ。経験に育てられ、善意から発した良 識は、実際的な智恵となってあらわれる。 知的な才能をフルに活動させ、なおかっ他人に多大の感化を与える人をよく見かけ る。それは、こんな賢明な抑制力が働いているからにほかならない。彳 皮らは、表面に はあらわれない何らかの潜在的な力、つまり抑制力に従って行動しているように思わ れる。彼らの目的には邪念がなく、潔白で、他人に自分の考えを無理強いしたりしな いのである。