みたま られたあとーー主よ、あの方の御霊に安らぎを ! ( 夫人は十字を切った ) 、あの方の亡くなられ たあと、あたくし、あなたをスヒマ僧として見ておりますのよ、もっともその新しい服装もあな たにはとてもよくお似合いですけれど。どこでそんな上手な仕立屋を見つけなさいましたの ? いいえ、いいえ、そんなの大事なことではありませんわ、そのお話もあとで。ごめんなさい、時々 あなたをアリヨーシャなんて心安だてにおよびしてしまいますけど、こんなお婆さんですもの、 何事も大目に見ていただけますわね」彼女はコケティッシュにほほえんだ。「でも、そのお話も あとにしましよう。肝心なのは、大切なお話を忘れないようにすることですわ。あたくしがちょ 弟っとでも脱線しかけたら、あなたのほうで注意して、『大事な話は ? 』と、おっしやってくださ のいませね。ああ、でも何が今や大事な話か、どうしてこのあたくしにわかりますかしら ! リー ゾザがあなたとのお約束を、アレクセイ・フヨードロウイチ、あなたと結婚するという子供つぼい マお約束を取り消して以来、もちろんあなたは、あんなことがみな車椅子に永いこと坐りどおしだ カった病気のあの子の、子供つぼいたわむれの空想でしかなかったことを、理解してくださいまし たわね。もっとも、おかげさまで、あの子も今では歩けるようになりましたけれど。あなたの不 幸なお兄さまのために、カーチャがモスクワからよんでくださった、あの新しいお医者さまが : そう言えばあのお医者さまも明日は : : : まあ、どうして明日の話なんかを ! 明日のことを 考えただけで、あたくし死にそうになりますわ ! 何より、好奇心のために : : : つまり一言で言 うと、あの先生が昨日うちにいらして、リーズを見てくださいましたの : : : 往診料としてあたく し、五十ループル差し上げましたのよ。でも、そんなことはどうでもいいんです、また見当違い の話を : : : ごらんのとおり、あたくし今やすっかり混乱してしまいましたわ。あたくし、あせつ 120
もそのときは : : : そう、そうなったら、もう堪えられませんわ、あたくし自殺します ! あの晩 あなたがいらしたので、あなたに亠尸をかけ、あの方にも一民るように一言ったとき、あの方があなた けいべつまなざ といっしょに部屋に人ってきたとたん、ふとあたくしを眺めた憎悪と軽蔑の眼差しに、あたくし 思わずかっとなってしまって、おぼえてらっしやるでしよう、あたくし突然あなたに向って、お 兄さまのドミートリイが犯人だと言い張っているのはこの人よ、この人だけなのよ、と叫びまし たわね ! あたくし、もう一度あの方を傷つけてやるために、わざと中傷したんです。だってあ の方は、兄が犯人だなんて、ただの一度もおっしやったことはありませんでしたもの。反対に、 グあたくしのほうがそう言い張っていたんです ! ああ、何もかも、何もかも、あたくしの気違い のろ 一じみた怒りが原因なんです ! 法廷でのあの呪わしい一幕を用意したのも、あたくしですわ ! ロあの方は、自分が高潔な人間であり、たとえあたくしがお兄さまを愛していても、やはり復讐や 嫉妬から兄を破滅させたりはしないということを、あたくしに証明しようとなさったんです。だ 工から、出廷なさったんですわ : : : 何もかもあたくしが原因なんです、あたくし一人がわるいんで す ! カーチャがアリヨーシャにこんな告白をしたことは、いまだかって一度もなかったので、彼は、 ごうまん 今の彼女がまさしく、このうえなく傲慢な心でさえ苦痛とともに自己の傲慢さを粉砕し、悲しみ に打ち負かされて倒れるほどの、堪えきれぬ苦悩にとらえられていることを感じた。おお、ミー チャの判決後のこの数日間、彼女がどんなに隠そうとしても、アリヨーシャには今の彼女の苦し みの、もう一つの恐ろしい原因がわかっていた。だが、もし彼女が意を決してひれ伏し、今すぐ 自分からその原因を語りはじめたとしたら、なぜか彼はあまりにも苦痛だったにちがいない。彼 463
りをさしとめられたのかは、彼からもききませんでした。それに大体、僕はめったに彼とは会い ませんし。べつに友達じゃないんです」 ざんげ 「じゃ、何もかも打ち明けますわ。仕方がありません、懺悔します。だって、あたくし自身にも ささい 罪があるかもしれぬような点があるんですもの。ごく些細な、ほんのちょっとしたことで、こと によるとまったく取るに足らぬようなことかもしれませんけれど。実はね、あなた」ホフ一フコワ 夫人は突然なんとなくはしたない態度になった。ロもとに、謎めいてこそいるが愛くるしい徴笑 シャ、あたくしあなたに : ごめんなさい、アリヨー がちらついた。「実はあたくしの想像だと・ ン母親のような気持で : : : いいえ、そうじゃないわ、反対にあたくし今、父親に対するような気持 イでおりますの : : : だってこの場合、母親なんて、まるきりふさわしくございませんものね : : : そ う、ゾシマ長老に懺悔するのと同じ気持、これがいちばん正確で、とてもしつくりしますわ。だ ってさっきあなたをスヒマ僧とおよびしたくらいですもの。ところで、あなたのお友達の、あの 第気の毒なラキーチン青年 ( ああ、あたくしどうしてもあの人を怒る気になれませんわ ! そりや 怒って、むかっ腹を立ててはいますけれど、たいしたことはありませんのよ ) 、でまあ、一口に 言うと、あの軽薄才士が突然、どうでしよう、あたくしに恋をする気になったらしいんですの。 あたくし、だいぶあとになってからやっと、ふいに気づいたんですけれど、最初のうち、つまり ひと月ほど前から、あの人は妙に足しげく、ほとんど毎日のように訪れるようになりましたのよ、 もっとも前から知合いではあったんですけど。あたくし何も知らなかったんですけれど、突然、 なにか啓示でも受けたみたいに、気づくようになってびつくりしましたわ。ご承知のように、も うふた月ほど前から、あたくし、この町に奉職してらっしやる、あの謙虚でかわいらしい、立派 なぞ
喪失って何のことですの ? 」 シャはびつくりした。 「心神喪失って ? 」アリヨー 「裁判で言う心神喪失ですわ。すべて赦してもらえるという、あの心神喪失です。どんなことを しても、すぐ赦してもらえるんですって」 「でも、何のためにそんなことを ? 」 「つまり、こういうわけなんです。あのカーチャが : : : ああ、あの人はほんとにかわいらしい方 ですけど、ただ、あの人がだれに恋しているのか、あたくしにはさつばりわかりませんのよ。こ 弟の間もここへいらしたんですけれど、あたくし何一つ探りだせませんでしたわ。おまけに、あの の人はこのごろあたくしとは当りさわりのない話ばかりなさるようになって、一口に言えば、あた ゾくしの健康のことばかり話して、それ以上は何も言いませんもの、おまけによそ行きの口調で。 マですからあたくしも内心、どうぞご勝手に、お好きになさい、と言ってたんですわ : : : あら、ま 力あ、心神喪失の話でしたわね。あのお医者さまがいらしたでしよう。お医者さまがいらしったこ とは、ご存じですわね ? もちろんご存じのはずですね、精神異常の鑑定をなさるお医者さまで すわ、あなたがおよびになったんですもの。いえ、つまり、あなたじゃなく、カーチャが。何も かもカーチャですわね ! だって、そうでしよう、まったく気違いじゃない人がいて、突然その 人が心神喪失になるんですの。正気も失わず、自分のしていることもわかっているけれど、それ にもかかわらず心神喪失なんですわ。だからドミートリイ・フヨードロウイチも、きっとむ神喪 失でしたのね。新しい裁判が開かれるようになって、すぐに心神喪失ということに気づいたんで すって。これは新しい裁判の恩恵ですわ。そのお医者さまもあたくしに、あの夜のことや、金鉱 130
461 けんか っしやるかしら、ちょうどあのときですわ、ほら、あたくしたちが喧嘩していたところへ、あな たがいらしたことがあったでしよう。あの方が階段をおりかけていたのに、あたくしがあなたの 姿を見てよび戻したことがありましたわね、おぼえてらして ? あのときあたくしたち、何が原 因で喧嘩したか、おわかりになる ? 」 「いいえ、わかりません」アリヨーシャは言った。 「もちろん、あの方はあのときあなたには隠したんですわ。まさしくこの脱走計画が原因でした のよ。あの三日前にあの方が要点を全部あたくしに打ち明けてくださったんですけど、その間に グ喧嘩がはじまって、それ以来一二日間ずっと喧嘩しつづけていたんです。喧嘩などしたのも、もし ばいた 一有罪になったらドミートリイ・フヨードロウイチをあの売女といっしょに国外へ逃がそうと、あ ロの方が言ったので、あたくしが突然かっとなったからですわ。なぜかは申しません。自分でも理 ピ由はわかりませんもの : : : ええ、もちろん、その時はあたくし、あの売女のことでかっとなった 工んですわ、つまり、あの女までドミートリイといっしょに国外へ逃げるってことに対してで す ! 」突然カテリーナは怒りに唇をふるわせて叫んだ。「あのときイワン・フヨードロウイチは、 あたくしがあの売女のことでかっとなったのを見たとたん、すぐに、あたくしがドミートリイを めぐってあの女に嫉妬している、してみると相変らずドミートリイを愛しつづけているのだ、と 思ったんです。それで最初の喧嘩が起ったんですわ。あたくし、弁解する気にもなれませんでし たし、詫びることもできませんでしたの。だって、あれほどの人が、あの男へのあたくしの愛情が 今までと変らないと疑ったりするなんて、つらかったんですもの : : : しかも、そのずっと以前に、 あたくしは自分ではっきり、ドミートリイなぞ愛していない、愛しているのはあなただけだって、 しっと
きと言ったのは、息子が父親を殺したからじゃありませんわ。あたくし、そんなことをほめたり しません、とんでもない、子供は親を敬わなければいけませんもの。ただ、お兄さまの犯行だと したら、やつばりすてきですわ。だって、そうなれば、あなたは何一つ泣くことはありませんも のね。お兄さまはわれを忘れて、と言うより、ちゃんとおぼえてはいても、どうしてそんなこと になったかわからぬまま、殺したからですわ。そう、お兄さまを無罪にさせるんですわ。それこ そ実に人道的ですし、新しい裁判の恩恵を目のあたりに見ることになりますものね。あたくし存 じませんでしたけれど、もうだいぶ以前からそういう裁判なんですってね。昨日それをきかされ 弟て、あたくしすっかり感激してしまって、すぐにあなたのところへお迎えを出そうと思ったほど のですのよ。そしてやがて、お兄さまが無罪になったら、法廷からまっすぐあたくしの家の祝宴に ゾお連れして、親しい方たちを集めて、新しい裁判のために乾杯しようじゃありませんか。あたく マし、お兄さまが危険な人物だなどと思っておりませんし、それにお客さまをうんとたくさんおよ カびしますから、万一お兄さまが何かなさろうとしても、いつでもつまみだせますもの。やがてお 兄さまはどこか別の町で、治安判事か何かにおなりになる。だって、みずから不幸に会った人は、 だれよりも正しく裁いてくれますものね。何よりも、今の時代に心神喪失でない人などいるもの でしようか。あなただって、あたくしだって、みんな心神喪失ですわ。例はいくらでもあります もの。それまでおとなしく坐って、ロマンスなんぞきいていた人が、突然何かが気に人らずに、 ピストルをつかむなり、たまたまそこにいた人を射ち殺したんですって。でもあとで、すべて赦 されるんですわ。そんな話をこの間読みましたけど、医者もみんな裏付けていましたわ。医者も このごろはのべっ裏付けだの、確認だのばかりやっていますわね。そうそう、うちのリーズも心
で、あんなご不幸に見舞われた方だというのにつて。だって、やはり今度の一件は、幸福なこと ではなく、不幸ですもの、そうじやございませんこと ? ところがあの子はあたくしのそんな一一一口 葉をきくと、いきなり笑いだすじやございませんか、それもさも人をばかにしたみたいに。でも、 あたくしは、やっとあの子を笑わせることができた、これで発作もおさまるだろうと思って、喜 んでおりましたのよ。ましてあたくし自身も、あたくしの承諾もなしに妙な訪問をなさったりし たことに対して、イワン・フヨードロウイチに釈明を求めて、お出人りをお断わりするつもりで したから、なおさらのことですわ。ところが突然、今朝リーズが目をさますなり、ユーリヤに腹 ンを立てて、どうでしよう、顔に平手打ちを食わせたじやございませんか。あたくしだって小間使 イたちには丁寧な一「ロ葉を使うようにしているというのに、滅相もないことですわ。そして一時間後 には、あの子はだしぬけにユーリヤを抱きしめて、足に接吻するんだそうですの。そのうえ、あ 一たくしのところへ女中をよこして、もうママのところへなんか行かない、今後も絶対に行くつも ことづ 第りはないから、なんて一「ロ伝てさせましてね。あたくしのほうから足をひきずって出向いて行くと、 いきなりとびついて接吻するやら泣くやら大騷ぎをしたうえ、接吻しながら、一言も一言わずに、 そのまま部屋から押しだすんですのよ。ですから結局何もわかりませんでしたわ。アレクセイ・ フヨードロウイチ、今やあたくしの期待はすべてあなたにかかっておりますのよ、ですから、も ちろん、あたくしの人生の運命はあなたに握られているわけですわ。おねがいですから、どうか リーズのところへいらして、あなたでなければできない流儀であの子からすべてをききだして、 母親のあたくしに話しにいらしてくださいませな。だって、おわかりになっていただけるでしょ うけれど、もしすべてがこの調子でつづくとしたら、あたくし死んでしまうか、この家から逃げ せつぶん
ているんです。あせっている理由ですか ? わかりませんわ。あたくしこのごろ、ひどく何もか もわからぬようになってしまって。あたくしにとっては、何もかもがごっちゃになって一つの塊 になってしまいましたのよ。あなたが退屈のあまり、いきなりここからとびだしていらっしやり はしないかと、心配ですわ。やっとお目にかかれたばかりですのに。あら、どうでしよう ! ぼ んやり坐っているなんて、何よりもまずコーヒーですわね。ューリヤ、グラフィーラ、コーヒー をちょうだい ! 」 アリヨーシャは急いで礼を言い、たった今コーヒーを飲んだばかりだからと告げた。 ン 「どちらで ? 」 ワ イ「アグラフェーナ・アレクサンドロヴナのところでです」 「あの : : : あの女のところで ! まあ、あの女がみんなを破滅させたんですのよ。もっとも、あ 一たくしは存じませんけれど、あの女も遅ればせながら、聖女になったという噂ですわね。それく 第らいならいっそ、もっと前に、必要なときにそうなればよかったんですのにね。今ごろ何になる んですの、何の得に ? いえ、何もおっしやらないで、アレクセイ・フヨードロウイチ、だって あたくし、お話ししたいことが山ほどありながら、結局何一つ言わずじまいになりそうな気がす るんですもの。あの恐ろしい裁判 : : : あたくし必ず参りますわ、心構えはできています、車椅子 で運んでもらいますもの。それに、坐っている分には大丈夫ですし、付添いの者もおりますしね。 だってご存じのとおり、あたくしは証人の一人ですもの。あたくし、どう言えばいいんでしよう、 どう言えば ! 何を話すのか、あたくしにはわかりませんわ。だって、宣誓しなければいけない んでしよう、そうなんでしよう、そうですわね ? 」 121
Ⅷかに書いてありますから ! 」彼女は息をあえがせながら、叫んだ。「そのころその人はあたくし ばいた を憎んでいました。それというのも、自分から卑劣な振舞いをして、あの売女に走ったからです : それともう一つ、あたくしに例の三千ループルを借りていたからですわ : : : ああ、その人は 自分の卑しい心根のために、あの三千ループルがいまいましくてならなかったのです ! あの三 千ループルは、こういうお金でした。どうぞきいてください、おねがいです。父親を殺す一二週間 ほど前、ある朝、その人はあたくしのところにやってきました。あたくし、その人にお金が必要 なことは存じていましたし、何に使うかも知っていました。そう、あの売女をたぶらかして、駆 弟落ちするためなんです。あたくしはそのとき、その人がもう心変りして、あたくしを棄てる気で のいることを知っていました。ですからあたくし、そのとき自分からあのお金をさしだして、モス ゾクワにいる姉に送ってもらうためのようなふりをして提供したんです。お金を渡すとき、その人 マの顔を見つめて、送るのはいつでもいい、『たとえ一カ月後でもかまわない』と、言いました。 力あたくしが面と向ってはっきり『あなたはあの売女とぐるになってあたしを裏切るために、お金 が要るんでしよう。だったら、このお金をあげます。あたしのほうからあげます。これを受けと れるほど恥知らずなら、持っていくといいわ』と言ったにひとしいことを、どうしてその人がわ からぬはずがありましよう ! あたくしはその人の正体をあばいてやりたかったんです、ところ がどうでしよう ? その人は受けとったんですわ。受けとって、持って行って、あの売女とあそ こで一晩で使いはたしてしまったんです : : : でも、あたくしが何もかも知っているってことを、 その人もわかったんです、わかったんですわ。はっきり申しあげますけれど、あたくしがお金を 預けるのは、これを受けとるほど恥知らずかどうか、試しているだけだってことも、そのときそ
あの方に言ったというのに ! あたくしはただ、あの売女に対する憎しみから、あの方に腹を立 てただけなんです ! その三日後、あなたがいらしたあの晩、あの方は密封した封筒を持ってら して、もし自分の身に何か起ったら、すぐ開封するようにと、おっしゃいましたの。そう、ご病気 を予感してらしたのね ! あの方は、封筒の中に詳細な脱走計画が人っているから、もし自分が 死ぬとか、重病になるとかした場合には、あたくし一人でミーチャを救出するようにと、打ち明 けたんですの。そのときにお金を、一万ループル近く、あたくしに預けたんです。あの方が現金 に換えたのを検事がだれかから聞きこんで、論告の中で言及した、あのお金ですわ。あたくし突 弟然、イワン・フョ 1 ードロウイチが相変らずあたくしに嫉妬して、あたくしがミーチャを愛してい のると信じながら、それでも兄を救おうという考えを棄てずに、その救出の仕事をほかならぬこの ゾあたくしに託そうとなさっていることに、ひどく心を打たれたんです ! そう、これは犠牲です マもの , いいえ、これほどの自己犠牲はあなたには完全にはおわかりになりませんわ、アレクセ けいけん カイ・フヨードロウイチ ! あたくし敬虔な気持であの方の足もとにひれ伏そうとしかけたんです けれど、ても、ミー チャを救えるのをあたくしが喜んでいるとしか受けとってくれないだろうと 思うと ( きっとそう思うにきまってますもの ! ) 、あの方がそんな間違った考えをいだくかもし いらだ かんしやく れぬという、そのことだけでひどく苛立って、また癇癪を起してしまったものですから、あの方 の足に接吻する代りに、またぞろあんな一幕を演じてしまったんですわ ! ああ、あたくしって 不幸な女 ! そういう性格なんです、とってもいやな、不幸な性格ですわ ! ええ、見ていてご らんなさい、あたくしってこんなふうにしていて結局、もっと気楽につきあえるほかの女のため にあの方も、ドミートリイと同じように、あたくしを棄てるような羽目にしてしまうんです、で 462 せつぶん