突然 - みる会図書館


検索対象: カラマーゾフの兄弟 下巻
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1. カラマーゾフの兄弟 下巻

ったらしい手紙が届くようになったが、申し込む借金の額はしだいに減ってゆき、やがて百ルー プル、二十五ループル、十ループルにまで落ち、最後に突然、ポーランド人が二人してたった一 ループルの無心をし、しかも二人連署の借用証まで添えた手紙を、グルーシェニカは受けとった。 こうなるとグルーシェニカはふいに哀れになり、あるタ方、みずから一走りしてポーランド人の こじき ところに行ってみた。 , 彼女は、ポーランド人が二人とも乞食同然のひどい貧乏暮しで、食べ物も、 薪も、煙草もなく、下宿のおかみにまで借金しているのを見いだした。モークロエでミーチャか ら巻きあげた二百ループルは、とっくにどこかへ消えてしまったのだ。しかし、グルーシェニカ ンがおどろいたのは、ポーランド人が二人とも、だれの世話にもならぬと言わんばかりの、尊大な イもったいぶった態度で彼女を迎え、最上級のエチケットをふりまわして、大ぼらを吹いてみせた ことだった。グルーシェニカは一笑に付して、〈前の男〉に十ループル与えた。このことはその チャに話したし、ミー チャも全然妬かなかった。だが、それ以来、 一ときすぐ、笑いながら、ミー じゅうたん 第二人のポーランド人はグルーシェニカにとりつき、連日、金の無心の手紙で絨毯爆撃を浴びせる チャがはげしい ようになり、彼女もそのたびに少しずつ送っていた。それなのに突然今日、ミー 嫉妬心を燃やしたのだった。 チャに面会に行くとき、ほ 「あたしってばかね、あの以前の男も病気になったというから、ミー んのちょっとの間、あの男のところにも寄ってみたの」グルーシェニカがそわそわと落ちつかぬ チャに話してきかせたの。あの 様子で、また話しはじめた。「あたし、それを笑いながら、ミー ねえ、あのポーランド人たらギターをとって昔の歌をうたいはじめるのよ、あたしがほろりとし チャったら、いきなり跳ね起きて て舞い戻るとでも思ってるのかしらね、って。ところが、ミー

2. カラマーゾフの兄弟 下巻

の声は、いや、叱りつけちゃいけないと言いますでしよう。ところが、もう一つの声がそう言っ たとたん、あたくしはいきなり大声をあげて、ふいに気を失ってしまいましたの。もちろん、大 騒ぎですわ。あたくしは突然起きあがって、ラキーチンに、こんなことを言うのは悲しいのだけ れど、今後この家には出人りしていただきたくないと、申し渡むましたのよ。こうして追い返し てしまったんです。ああ、アレクセイ・フヨードロウイチ ! あたくし自分でも、まずいことを してしまったと承知しています。心にもないことばかり言って。あの人に全然腹を立ててなぞい なかったんですもの。それなのに突然、何より肝心なことに突然、そうするのがいいんだ、これ ンはお芝居なんだ、という気がしたんですわ : : : ただ、本当の話、あのお芝居はやはりごく自然で イしたのよ、なぜってあたくし泣きくずれてしまいましたし、そのあと何日も泣いていましたもの。 そのうち、食後にふと何もかも忘れてしまいましたけれど。あの人が出人りしなくなって、もう 一二週間になりますけれど、あたくしのほうは、ほんとにもう来ないつもりかしら、なんて考えて 第いましたわ。それがつい昨日のことですけれど、だしぬけにタ方この『人の噂』が届いたんです の。読むなり、あたくしあっと声をあげましたわ。だれの仕業でしよう、これはあの人が書いた んですわ。あの日家に帰って、テープルに向って書きあげて、投稿したのが、掲載されたんです。 だって、あれ以来二週間になりますもの。ただ、アリヨーシャ、あたくしってひどいおしゃべりで すわね、肝心のことはさつばりお話ししないで。ああ、ひとりでにしゃべってしまうんですわ ! 」 シャ 「僕は今日、どうしても時間内に兄のところへ駆けつけなければなりませんので」アリヨー がたどたどしく言いかけた。 アフェ 「そうですわ、そうですとも ! やっとすべて思いださせてくださいましたわ ! あのね、心神

3. カラマーゾフの兄弟 下巻

んできます。僕も大を連れてきたんだ」ふいに彼はイリュー シャをふりかえった。「なあ、爺さ ん、ジューチカをおぼえてるかい ? 」突然彼はこんな質問でイリューシャにすごい。ハンチを浴び ィリュ ーシャの顔がゆがんだ。彼は苦痛の色をうかべてコーリヤを見た。戸口に立っていたア リヨーシャは眉をひそめ、ジューチカの話はせぬようにと、ひそかにコーリヤに合図しかけたが、 相手は気づかなかった。あるいは気づこうとしなかったのだ。 「どこにいるの・ ・ジューチカは ? 」張り裂けるような声で、イリューシャがたずねた。 弟「おい、君、君のジューチカなんか、ふん、だー 君のジューチカはどこかへ行っちまったじゃ のないか ! 」 ゾィリュ シャは黙りこんだが、また食い人るようにまじまじとコーリヤを見つめた。アリヨー マシャは、コーリヤの視線をとらえて、必死にまた合図を送ったが、相手も今度も気づかなかった カふりをして、目をそらした。 「どこかへ逃げてって、そのまま行方知れずさ。あんなご馳走をもらったんだもの、行方不明に なるのも当然だよ」コーリヤは無慈悲に言い放ったが、その実、当人もなぜか息をはずませはじ めたかのようだった。「その代り、僕のペレズヴォンがいるさ : : : ス一フプ的な名前だろ : : : 君の ところへ連れてきてやったよ : : : 」 「いらないよ ! 」突然ィリュー シャがロ走った。 「いや、いや、いるとも。ぜひ見てくれよ : : : 気がまぎれるから。わざわざ連れてきたんだもの : あれと同じように、むく毛でさ : : : 奥さん、ここへ大をよんでもかまいませんか ? 」だしぬ ちそう

4. カラマーゾフの兄弟 下巻

「そうよ」 「手紙をやって ? 「ええ」 「わざわざその子供の話をたずねるためにね ? 」 「違うわ、全然そうじゃないの、全然。でも、その人が人ってきたとたんに、あたしは突然その ことをきいてしまったのよ。その人は返事をして、笑いだすと、立ちあがって、出て行ってしま ったわ」 弟「その人はあなたに対して誠実に振舞ったわけだ」アリョ ーシャは小さな声でロ走った。 の「でも、あたしを軽蔑したのね ? ばかにしたのね ? ゾ「そうじゃありませんよ、だってその人自身、。ハイナップルの砂糖漬を信じてるかもしれないん マですからね。その人も今、病気が重いんですよ、リーザ」 力「そうね、あの人も信じているんだわ ! 」リーザは目をきらりとさせた。 「その人はだれのことも軽蔑しません」アリヨー シャはつづけた。「ただ、だれのことも信じな いだけです。しかし、信じないとすると、もちろん、軽蔑しているわけですね」 「とつまり、あたしのことも ? あたしもね ? 」 「あなたのことも」 「すてきだわ」リーザはなにか歯ぎしりをした。「あの人が笑って出て行ったとき、あたし、軽 蔑されるのもすてきだって感じたわ。指を斬りおとされた子供もすてきだし、軽蔑されるのもす てきだわ : : : 」 146

5. カラマーゾフの兄弟 下巻

わらし ずないと、そう思っているのよ。ただ、だしぬけに、童のことを、つまり、どこか田舎の子供の ことを話すようになって、『なぜ童はみじめなんだ ? 』だとか、『俺は今、童のためにシベリヤへ 行くんだ。殺しなんぞしていないけど、俺はシベリヤへ行かなければいけないんだ』だとかって 言うのよ。これは何のこと、どこの童のこと、あたしには全然わからなかったわ。ただ、あの人 がその話をしたとき、あたし泣いてしまったわ。だって、とっても上手に話して、自分から泣く んですもの、あたしまで泣けちゃった。そしたらあの人、突然あたしにキスして、片手で十字を 切ってくれたわ。これはどういうこと、アリヨーシャ、〈童〉って何のことか教えて」 弟「それは、どういうわけかラキーチンがしきりに面会に行くようになったんで : : : 」アリヨーシ のヤは徴笑した。「もっとも : : : その話はラキーチンのせいじゃないな。僕は昨日、面会に行かな ゾかったから、今日行ってみましよう」 マ 「いいえ、これはラキートカじゃないわ、弟のイワン・フヨードロウイチがあの人の心を掻き乱 力すのよ、よくあそこに来ているから、そうだわ : : : 」グルーシェニカはロ走り、突然はっと口を つぐんだ。アリヨーシャはびつくりしたように彼女を見つめた。 「よく来てる ? ほんとに来たことがあるんですか ? ミー チャ自身は僕に、イワンは一度も来 たことがないって言ってたけど」 「それは : : : だめね、あたしって ! つい口をすべらしちゃったわ ! 」グルーシェニカはふいに 真っ赤になり、どぎまぎして叫んだ。「待ってよ、アリヨーシャ、黙って。口をすべらせた以上、 しようがない、本当のことを全部言うわね。あの人、二度来たことがあるの。最初はあのとき帰 ってくるなりすぐにーーだってあのとき、あの人はすぐモスクワからとんできたのよ、あたしが

6. カラマーゾフの兄弟 下巻

少年たちは無ロな厳粛な様子で見守っていたが、いちばん幸せそうなのは、イリューシャを見つ めている二等大尉だった。コーリヤが大砲を拾いあげ、ばら弾や火薬ともども、さっそくイリュ ーシャに進呈した。 「これは君のためにもらったんだよ、君のために ! ずっと前から用意しといたんだ」完全な幸 福感にひたって、彼はもう一度くりかえした。 「あら、わたしにちょうだい ! だめよ、その大砲はわたしにくれるほうがいいのよ ! 」突然、 まるで幼い子供のように、かあちゃんがせがみはじめた。もらえないのではないかという心配に、 ちその顔が悲痛な不安の色をうかべた。コーリヤはうろたえた。二等大尉は落ちつかぬ様子でそわ そわしはじめた。 年 少「かあちゃん、かあちゃん ! 」彼は妻のそばに駆けよった。「あの大砲はお前のだよ、お前のだ 編とも。だけど、イリューシャに持たせておこうじゃないか、あの子がもらったんだから。でも、 第お前のものも同然さ、イリューシャはいつでも貸してくれるからね。あれは二人のお仲間にする といいよ、お仲間に : : : 」 「いやよ、お仲間なんていや。ィリューシャのじゃなく、すっかりわたしのものでなけりやいや だ」かあちゃんは、もはやすっかり泣きだすばかりになって、ごねつづけた。 「ママ、あげるよ、ほら、あげるってば ! 」だしぬけにイリューシャが叫んだ。「ねえ、クラソ ートキン、ママにこれあげてもいい ? 」せつかくのプレゼントを他人にやったりして、気をわる くせぬかと案ずるように、突然彼は祈るような顔つきでコーリヤに話しかけた。 「いいとも、もちろんさ ! 」コーリヤはすぐに同意し、イリューシャの手から大砲をとると、こ

7. カラマーゾフの兄弟 下巻

はあとにしよう : ・ : さて、アリヨーシャとの話のあと、自分の下宿の呼鈴をつかんでから、突然 スメルジャコフを訪ねる決心をすると、イワンはふいに心の中に煮え返った一種特別な憤りに屈 した。たった今カテリーナが、アリヨーシャのいる前で、「あの人 ( つまり、ミー チャ ) が犯人 だと、あたしに言い張ったのは、あんたよ、あんただけよ ! 」と叫んだことを、ふいに思いだし たからだ。それを思いだして、イワンは呆然とさえなった。犯人はミーチャだなどと、これまで 彼はただの一度も彼女に主張したことはなかったし、それどころか、スメルジャコフのところか ら帰ってきたあのときなぞ、彼女の前で自分自身に嫌疑をかけたほどだった。むしろ反対に、彼 ン女こそ、あのとき〈文書〉を取りだして、兄の有罪を証明したではないか ! それなのに突然今 イになって、「あたし、スメルジャコフのところに自分で行ってみたのよ ! 」などと叫ぶとはー いつ行ったのだろう ? イワンはそのことを全然知らなかった。つまり、彼女はミーチャの有罪 一をすっかり信じているわけではないのだ ! それに、スメルジャコフが彼女に何を言うかわかっ 第たものではない。いったい何を、何をあの男は彼女に言ったのだろう ? 恐ろしい怒りが彼の心 に燃えあがった。どうして三十分ほど前に彼女のそんな一一一口葉をきき流し、その場でどなりつけず にいられたのか、わからなかった。彼は呼鈴を放りだすと、スメルジャコフの家に向って走りだ した。『今度ばかりは、ことによると、あいつを殺すかもしれない』道々、彼は思った。 八スメルジャコフとの三度目の、そして最後の対面 まだ道半ばで、この日の朝と同じように、身を切るような乾いた風が吹き起り、細かいばさっ 215

8. カラマーゾフの兄弟 下巻

カラマーゾフの兄弟 幻 6 いた雪がさかんに降りはじめた。雪は地面に落ちても積ることなく、風に巻き上げられ、間もな く本格的な吹雪になった。この町の、スメルジャコフが住んでいるあたりには、ほとんど街燈も ない。イワンは吹雪にも気づかず、本能的に道を選り分けながら、闇の中を歩いて行った。頭痛 けいれん がし、こめかみの辺がやりきれぬくらいずきずきした。両の手首が痙攣しているのを、彼は感じ た。マリヤの家までもう少しというところで、イワンは突然たった一人でやってくる酔払いに出 会った。つぎだらけの外套を着た小柄な百姓で、千鳥足で歩きながら、ぶつくさと毒づいていた が、ふいに悪態をやめると、酔払いのかすれ声で歌をうたいだした。 ああ、ワーニカはピーテルに行っちゃった、 あたしは彼を待ったりしない , しかし、百姓はいつもこの二行目で歌をやめて、まただれかを罵り、それからまた同じ歌をう たいはじめるのだった。イワンはもうだいぶ前から、この百姓のことなぞまだ全然考えてもいな いのに、恐ろしい憎しみを感じていたが、突然この百姓を意識した。とたんに百姓の頭を拳で殴 りつけてやりたい気持を抑えきれぬほど感じた。たまたまその瞬間、百姓がひどくまろけて、い きなりイワンに力いつばいぶつかった。イワンは狂暴に突きとばした。百姓はすっとんで、凍り ついた地面に丸太のようにころがり、一度だけ「おお ! 」と病人のように唸って、ひっそりとな った。イワンはそばに歩みよった。百姓は意識を失って、まったく身動きもせず、仰向けに倒れ ていた。『凍死するぞ ! 』イワンはこう思っただけで、ふたたびスメルジャコフの家をさして歩 ののし

9. カラマーゾフの兄弟 下巻

「やつばりあたしを見くびっているのね ! あたしはただ良いことをしたくないだけ。あたしは 悪いことをしたいのよ。病気なんか全然関係ないわ」 「なぜ悪いことをしたいの ? 「どこにも何一つ残らないようにするためよ。ああ、何一つ残らなかったら、どんなにすてきか しら ! ねえ、アリヨーシャ、あたし時々、さんざ悪事の限りをつくし、ありとあらゆるいまわ しいことをやってのけたいと思うわ、それも永いことかかってこっそりやるのよ、そして突然み んなが感づくのね。みんながあたしを取り囲んで、あたしを指さしているのに、あたしはみんな ンを笑ってやるんだわ。とっても楽しいじゃないの。なぜこれがこんなに楽しいのかしら、アリョ ワ シャ ? 」 兄 「そうだな。何か立派なものを踏みにじりたい、でなければあなたの言ったように、火をつけて 一みたいという欲求でしようね。これも往々にしてあるもんですよ」 第「だって、あたしはロで言うだけじゃなく、ほんとにやってみせるわ」 「信じますよ」 「ああ、あなたって大好き。信じますよ、なんて言うんだもの。あなたって全然、まるきり嘘が つけないのね。でも、ひょっとしたら、あなたをからかうために、わざとあたしがこんなことを 言っていると、思っているのかもしれないわね ? 」 「いいえ、思ってませんよ : : : もっとも、ことによると、多少そういう気持はあるかもしれませ んね」 「多少はあるわよ。あたし、あなたに対しては決して嘘をつかないわ」彼女は何かの炎に目を燃 141

10. カラマーゾフの兄弟 下巻

「きっとあるでしようよ」 「アリヨーシャ、はっきり言うけれど、これはひどく重大なことよ」リーザは何かもはや極度の おどろきにかられて、一「ロ葉をつづけた。「重大なのは夢じゃなくて、あなたがあたしとまったく 同じ夢を見ることができたという点なのよ。あなたはあたしに決して嘘をつかないんだから、今 も嘘を言ったりしないでね。それ、本当 ? からかっているんじゃないの ? 「本当ですとも」 リーザは何事かにひどく心を打たれ、三十秒ほど黙りこんだ。 弟「アリヨーシャ、時々あたしのところに来てね、もっとひんばんに来て」突然、祈るような声で の彼女は言った。 ゾ「僕はいつになっても、一生あなたのところへ来ますよ」アリヨーシャがしつかりした口調で答 マえた。 ラ 力「だってあたしが言えるのは、あなただけですもの」リ ーザがまた話しはじめた。「自分自身と、 あなただけ。世界じゅうであなた一人よ。それに、自分自身に一一口うより、あなたに言うほうが、 すすんで話せるわ。あなたなら、全然恥ずかしくないし。アリョ ーシャ、なぜあなただと全然恥 すぎこし ずかしくないのかしら、全然 ? ねえ、アリヨーシャ、ユダヤ人は過越の祭に子供たちをさらっ て、斬り殺すっていうけど、あれは本当なの ? 」 「知りませんね」 「あたし、ある本で、どこかの裁判のことを読んだのよ。ユダヤ人が四歳の男の子を、最初まず くぎ 両手の指を全部斬りおとして、それから壁にはりつけにしたんですって。釘で打ちつけて、はり 144