質問 - みる会図書館


検索対象: カラマーゾフの兄弟 下巻
91件見つかりました。

1. カラマーゾフの兄弟 下巻

ろうぜき んだ。「怠惰と乱暴狼藉の罪も認めます。運命に足をすくわれた、まさにあの瞬間、わたしは、水 久に誠実な人間になろうと思っていましたー しかし、わたしの敵であり、父親であるあの老人 の死に関しては無実です ! そして、父の金を強奪したという件に関しては、とんでもない、無 実です、また罪のあるはずなどありません。 ドミートリイ・カラマーゾフは卑劣漢ではあっても、 泥棒ではありません ! 」 はため こう叫び終ると、彼は傍目にもわかるほど全身をふるわせながら、席に坐った。裁判長がふた たび彼に向って、質問にだけ答えるようにし、関係のない気違いじみた絶叫は慎むよう、短いが 審噛んで含めるような注意を与えた。それから、審理にとりかかるよう命じた。宣誓のために全証 人が中に人れられた。このときわたしは全部の証人を一度に見たのである。もっとも、被告の弟 誤 二人は宣誓をせずに証言することを許された。司祭と裁判長の訓告のあと、証人たちは連れ去ら 二れ、できるだけ離ればなれに坐らされた。ついで証人が一人ずつ喚問されることになった。 第 一一危険な証人たち 検事側と弁護側の証人が裁判長によってグループ分けされていたのか、またどういう順番で喚 問する予定になっていたのか、わたしは知らない。おそらく、そうなっていたのだろう。わたし にわかっているのは、最初に検事側の証人が喚問されたことだけである。くりかえしておくが、 わたしはすべての尋問を逐一ここに記すつもりはない。おまけに、わたしの記述はある意味で余 分のものになってしまうにちがいない。なぜなら、検事と弁護人が弁論にとりかかるに及んで、 293

2. カラマーゾフの兄弟 下巻

「このごろになってみんなが言いだすまで、そんなお金の話などだれからもきいたことがない」 と答えた。フェチュコーウイチは、ちょうど検事が領地の配分のことをたずねたときと同じよう なしつこさで、封筒に関するこの質問を、証人のうちたずねうる人すべてに発していたが、やは りその人たちすべてから得たのは、きわめて多くの人が話にこそきいていたが、だれ一人として 封筒は見ていない、という返事だけだった。この質問に対する弁護人の執拗さには、いちばん最 初からだれもが気づいた。 「それでは、もしお差支えなければ、質問させていただきたいのですが」突然、まったく唐突に 弟フェチュコーウイチがたずねた。「予審で明らかなように、あなたはあの晩、寝る前に、腰の痛 のみを癒そうと思って、。ハルサムというか、いわば薬酒を腰に塗ったそうですが、その薬酒の成分 フ ゾはどういうものですか ? 」 マグリゴーリイは愚鈍そうに尋問者を眺め、しばらく沈黙していたあと、つぶやいた。 力「サルビヤの葉を人れました」 「サルビャだけですか ? ほかに何か思いだせませんか ? 」 「オオバコも人っていました」 こしよう 「それに、おそらく胡椒もね ? 」フェチュコーウイチが興味ありげにたずねた。 「胡椒も人れました」 「その他いろいろですね。それを全部ウォトカに漬けたんですね ? 「アルコールです」 法廷にかすかな笑声が流れた。 っ

3. カラマーゾフの兄弟 下巻

それらすべてはさしあたりまだ準備できておらず、用意できていたのはただ、『父の死に関して は無実だ ! 』という根拠のない否定だけでした。これが当座の防壁であり、この防壁の背後にお そらく、さらに何かを、何らかのバリケードを築こうとしたのであります。自分の名誉を傷つけ た最初の叫びを、彼は、われわれの尋問を予測して、召使グリゴーリイの死に関してのみ自分を 有罪と認めるという説明を、あわててしました。『その血に関してなら罪があります、それにし ても、だれが親父を殺したんでしよう、みなさん、だれが殺したんです ? 僕でないとすると、 殺すことのできたのはだれでしようね ? 』どうですか、彼はわれわれにこうたずねたのです、同 弟じその質問をたずさえて彼自身のところにおもむいたわれわれに、です ! 〈僕でないとすると〉 のという、この先まわりした一言を、この動物的な老獪さを、この単純さを、このカ一フマーゾフ的 ゾな性急さを、おききになりましたか ? 殺したのは俺じゃない、俺だなどと考えてもらっては困 マる、というわけです。『殺したいと思ったことはあります、みなさん、殺したいと思ったことは 力ある』彼は急いでこう認めました。 ( あわててです、そう、ひどくあわてていました ! ) 『でも、 やはり僕は無実です、殺したのは僕じゃない ! 』彼はわれわれに対して、殺したいと思ったこと はある、と譲歩してみせたのです。僕がどんなに誠実か、わかったでしよう、ですからこれで、 僕が殺したんじゃないってことを早く信じてください、というわけです。ああ、こういう場合、 犯罪者は往々にして信じられぬくらい軽率で、欺されやすくなるものなのです。このときも、予 審調査官が突然、ごくさりげない態度で、『それじゃ殺したのは、スメルジャコフではないだろ うか ? 』と、きわめて素朴な質問を出してみました。ところが、予期したとおりのことが起った のです。彼はまだ準備ができておらず、いちばん確実にスメルジャコフを引っぱりだすべき時期

4. カラマーゾフの兄弟 下巻

「ご心配なく、裁判長閣下、僕は申し分なく健康ですし、興味のある事実を二、三お話しするこ とができます」突然まったく平静に、丁寧な口調でイワンが答えた。 「何か特別の情報を提供してくださるおつもりなんですか」なおも信じかねるように、裁判長が つづけた。 イワンは目を伏せ、数秒ためらっていたが、ふたたび顔をあげると、ロごもるように答えた。 「いえ : : : べつに。何も特別の情報などありません」 尋問がはじまった。彼はまったく気のない態度で、ひどく言葉少なく、ますます強まる嫌悪の 弟気持すら露骨に示しながら答えたが、それでもその答えは一応筋が通っていた。たいていの質問 のは、知らないと言ってはぐらかした。父親とドミートリイの貸借勘定なぞ、何一つ知らなかった。 ゾ「それに、興味もありませんでしたしね」と彼は言った。父を殺すという脅し文句は、被告から マきいていた。封筒に人れた金のことは、スメルジャコフからきいた。 力「どれも同じことの蒸し返しですよ」ふいに彼は疲れた様子で話を打ち切った。「僕はこの法廷 に何一つ特別の事実をお伝えできません」 「お見受けしたところ、お加減がわるいようですね、それにあなたのお気持もわかりますし : 」裁判長が言いかけた。 裁判長は検事と弁護人の双方に、もし必要があれば質問を出すよう促して、声をかけようとし たが、このときだしぬけにイワンがぐったりした声で頼んだ。 「裁判長閣下、もう勘弁してください。ひどく気分がわるいので」 この一言葉とともに、彼は許可も待たずに突然、身をひるがえして法廷を出て行こうとしかけた。 334

5. カラマーゾフの兄弟 下巻

四幸運がミーチャにほほえむ シャにとっても、まったく思いがけないことだった。彼は宣誓なしに喚問 それは当のアリヨー されたし、検事側と弁護側の双方とも彼に対しては、尋間の最初からきわめてもの柔らかな、同 情的な態度をとったのを、わたしはおぼえている。彼の前評判がよかったことは明らかだった。 アリヨーシャは謙虚に控え目に証言したが、その証言には不幸な兄に対する熱烈な同情がありあ お 審りとほとばしっていた。ある質問に答えながら、兄はことによると情熱に溺れやすい激しい人間 かもしれないが、それでもやはり高潔で、誇り高く、寛大で、求められれば犠牲さえいとわぬ人 誤 間であると、兄の性格を浮彫りにした。もっとも、兄が最後の数日、グルーシェニカに対する熱 「情や、彼女をめぐっての父との競り合いのために、堪えがたい状態におちいっていたことは、彼 第も認めた。しかし、例の三千ループルがミーチャの頭の中で何かほとんど偏執にひとしいものと 化し、兄がそれを父に欺しとられた遺産の不足分と見なしていたことや、まったく私欲のない兄 だったのに、この三千ループルのことを話すときだけは、必ず気違いのように怒ったことなどを 認めはしたものの、兄が盗みの目的で殺したかもしれぬという仮定を、アリヨーシャは憤りをこ めて否定し去った。検事の表現を借りるならば二人の〈ご婦人〉、つまりグルーシェニカとカー 、一一の質問にはまったく答えたが チャのライバル関係については、どっちつかずの返事をし、一 らなかった。 「お兄さんは少なくともあなたには、父親を殺すつもりだと話したんじゃありませんか ? 」検事 317

6. カラマーゾフの兄弟 下巻

「あなたご自身のことでもあり、兄のことでもありますね」彼は低い声で言った。 「そうですの」なにか怒ったように彼女は歯切れよく言うと、ふいに赤くなった。「あなたはま おど だ、あたくしという人間をご存じないわ、アレクセイ・フヨードロウイチ」彼女は脅すように言 った。「それにあたくしもまだ自分がわからないんです。もしかすると、明日の尋問のあとで、 あなたはあたくしを踏みにじりたくなるかもしれませんわ」 「あなたは正直に証言なさるでしようよ」アリヨーシャは言った。「それだけが必要なんですか ら」 ン「女は不正直になることが多いものですわ」彼女は歯がみして言った。「あたくし、つい一時間 イほど前までは、あんな悪党にかかり合うのが恐ろしいと思っていたんです : : : 毒蛇にさわるみた いで : : : でも、そうじゃないんです、あの人はあたくしにとって、いまだにやはり人間なんで 一す ! あの人が殺したのかしら ? あの人が殺したの ? 」すばやくイワンをかえりみて、彼女は 第突然ヒステリックに叫んだ。アリヨーシャは一瞬のうちに、この同じ質問を彼女がすでにイワン に、おそらく自分の来る一分ほど前に発したことや、しかもそれがはじめてではなく、百遍目の 質問であり、口論に終ったことを、さとった。 「あたし、スメルジャコフのところに自分で行ってみたわ : : : あの男が父親殺しだなんて、あん たが言い張るんだもの、あんたがそう言ったのよ。あたしが信じたのはあんたの言葉だけよ ! 」 なおもイワンをかえりみながら、彼女はつづけた。イワンはむりをしたように、薄笑いをうかべ た。アリヨーシャはこの言葉づかいをきいて、ぎくりとした。それほどの間柄とは想像もできな かったのである。 175

7. カラマーゾフの兄弟 下巻

376 ートリイの《酔余の〉手紙の中にあった、『イワンが出かけさえしたら、親父を殺してやる』と いう表現を思いだしていただきたい。これでみると、イワンの存在はだれにとっても、家の中の 平穏と秩序の保証のように思われていたのです。ところがその彼が出発してしまい、スメルジャ コフはとたんに、若主人の出発後ほとんど一時間もたたぬうちに、癲剃の発作で倒れたのです。 しかし、これは十分理解できます。ここでついでに触れておく必要がありますが、恐怖と一種の 絶望に打ちひしがれていたスメルジャコフは、その数日というもの癩癇の発作の近づく可能性を 特に感じていたのであり、それまでにも常に発作は精神的緊張と動揺の瞬間に起っていたのであ 弟ります。発作の日時を予測することは、もちろんできませんが、癲癇患者はだれでも発作の起り のそうな気配をあらかじめ感ずることができるのです。これは医学の告げるところであります。こ ゾうしてイワンの馬車が庭を出て行くやいなや、スメルジャコフはいわば天涯孤独と心細さの感を マ強めながら、家の用事で穴蔵へ行き、階段をおりながら『発作が起りやしないだろうか、もし今 カ起ったらどうしよう ? 』と考えた。そして、まさしくそうした気分、その懸念、その疑問のため けいれん に、いつも発作に先立っ咽喉の痙攣が起り、彼は意識を失って穴蔵の底へもんどり打ってころげ 落ちたのであります。ところが、このきわめて自然な偶然の中に何らかの疑惑を見いだそうとし、 彼がわざと仮病を使ったのだとほのめかし、指摘する人もいるのです ! しかし、もしわざとで あれば、いったい何のためにという疑問が生じます。どんな打算から、どんな目的があってか ? 医学のことはもう申しますまい。医学は嘘をつく、科学は間違えることもある、医者が本当の病 気と仮病を区別できなかったのだ、などと言われるからです。言わせておけばよろしい。だが、 それなら、何のために彼は仮病を使う必要があったのかという、わたしの質問に答えていただき

8. カラマーゾフの兄弟 下巻

ていたからだ。しかし、今のところ彼はやはり、自分の力を意識して、遊んだり、ふざけたりし ているかのようだった。たとえば、フヨードル・く ーヴロウイチのかっての侍僕であり、〈庭に 通ずるドアが開いていた〉というもっとも重大な証言を行なったグリゴーリイの尋問の際もそう で、弁護人は自分が反対尋問をする番になると、しつこく食いさがった。ここでぜひ指摘してお かねばならないが、グリゴーリイは法廷の厳粛さにも、また自分の話をきいているおびただしい 傍聴人の存在にもまるきりうろたえることなく、落ちついた、むしろ堂々とした態度で、法廷に 立った。まるで老妻のマルフアと差向いで話しているかのように、確信をこめて証一一「を行い、た 弟だ一言葉づかいがいくぶん丁寧なだけだった。彼をまごっかせることなど不可能だった。最初に検 の事がカ一フマーゾフ家の家庭のこまごました事情を、永いこと質間した。家庭の情景が鮮やかに浮 フ ゾ彫りにされた。話しぶりや態度から、証人が純朴で公平であることもわかった。かっての主人の マ思い出に対するきわめて深い敬意にもかかわらず、彼はやはり、たとえば主人がミーチャに対し カて不公平であったことを申し立て、「お子さまをちゃんとお育てになりませんでした。あの方だ しらみ ってごく幼いころ、わたしがいなければ、虱たかりになっていたことでしよう」と、ミーチャの 幼年時代を語りながら、付け加えた。「母方から相続した領地のことで、実のご子息を欺したり したのも、やはり父親としてふさわしいことではございません」しかし、フヨードルが息子との 勘定をごまかしたと主張するだけの、どんな根拠があるのかという検事の質問に対して、グリゴ ーリイは、みなのおどろいたことに、根拠となる資料を何一つ示さず、それでもやはり、息子と の勘定が《不正な〉ものであり、たしか「あと数千ループル払わねばならぬはずだった」と主張 しつづけた。ついでに指摘しておくが、本当にフヨードルはミーチャに対して未払い分があった 296

9. カラマーゾフの兄弟 下巻

ない、理性的な、もはや本当に人類愛的な行為となることでしよう : : : 」 このくだりで弁論は、場内のあちこちから起ったさかんな拍手に中断されかけたが、フェチュ コーウイチは、さえぎらずにしまいまで話させてほしいと頼むかのように、両手を振りさえした。 とたんにみなが静粛になった。弁護人はさらに話をつづけた。 「陪審員のみなさん、こういう問題がわれわれの子供たちに、かりにもう青年になって判断力が つきはじめているとしても、われわれの子供たちに無関係でありうるとお考えでしようか ? い いえ、そんなはずはありません、彼らに不可能な節制を求めるのはやめようではありませんか , 審父とよぶに値せぬ父親の姿は、特に自分と同年輩の他の子供たちの立派な父親とくらべた場合、 思わず青年にやりきれぬ疑問を吹きこむのです。その疑問に対して、彼は紋切り型の返事をされ 誤 る。『あの人はお前を生んだのだ、お前はあの人の血肉なのだ、だから愛さなければいけない』 二青年は思わず考えこむでしよう。『だって親父は俺を作りにかかったとき、俺を愛していただろ 第うか』ますますいぶかしく思いながら、青年はたずねるのです。『はたして俺を作ろうと思って 作ったんだろうか ? その瞬間、ことによると酒で情欲を燃え立たせたかもしれぬその瞬間には、 俺のことも、俺の性別も知らなかったくせに。だから、俺に譲り伝えたのは飲酒癖くらいしかあ りやしない、それが親父の恩恵のすべてなんだ : : : 親父が俺を作っただけで、そのあとずっと愛 してもくれなかったのに、なぜ俺が愛さなけりやいけないんだろう ? 』ああ、ことによると、あ なた方にはこんな質問はぶしつけな、残酷なものに思えるかもしれません。しかし若い頭脳にむ りな節制を求めてはならないのです。『本性を戸口から追いだせば、窓からとびこんでくる』 ( 心 と言うではありませんか。何より肝心なのは、《金属〉や《硫黄〉をこわが の性格』の中の「行詩 )

10. カラマーゾフの兄弟 下巻

が光っていた。指摘しておかねばならないが、のちに大多数の人が強調したように、この瞬間の 彼女はおどろくばかり美しかった。彼女は低い声で、しかし法廷じゅうにきこえるようにはっき りと話しだした。その話し方はきわめて静だった。少なくとも冷静になろうと努めていた。裁 判長はさながら《ある種の琴線〉に触れるのを恐れるかのように、大きな不幸を参酌しながら、 慎重な、たいそういんぎんな態度で質間をはじめた。しかし、カテリーナ・イワーノヴナは与え られた質問の一つに答えて、すすんで最初から、自分が被告の婚約者であったことをはっきり申 し述べ、「あの人自身があたくしを見棄てたときまで、ではございますけれど」と小さな声で言 弟い添えた。親戚に郵送するためにミーチャに預けた一二千ループルのことを質問されると、彼女は のしつかりした口調で言いきった。「あたくしはすぐに郵送してもらうつもりで、お預けしたので ゾはございません。あのときあたくし、あの人が、あの瞬間、とてもお金が必要だったのを予感し マておりました : : : あたくしはあの三千ループルを、よかったらひと月以内に送ってくれるように 力という約束で、あの人にお預けしたのです。ですから、あの人があとであんな借金のことでご自 分をあれほど苦しめる理由なぞなかったのです : : : 」 わたしはすべての質問や、彼女の答えを正確に伝えるつもりはない。ただ、彼女の証言の本質 的な意味を伝えるだけにとどめよう。 「あの人がお父さまから受けとりしだい、いつでもあの三千ループルを送ってくださるものと、 あたくしは固く信じておりました」質問に答えて、彼女はつづけた。「あたくし、あの人の無欲 と正直さ : : : 金銭面での : : : この上ない正直さとを、かねがね信じておりました。あの人はお父 さまから三千ループルもらえると固く信じてらして、何度かあたくしにその話をなさったもので