笠井 - みる会図書館


検索対象: 点と線
18件見つかりました。

1. 点と線

三原は、本庁にもどると、主任の笠井警部に話した。それは報告というほどではない。たた 四分間のホームの透視のことが興味があったから話したのである。ついでに安田辰郎に会ってき 点たしだいも、言い添えた。 ところが、笠井主任の顔色は予期以上に動いた。 「そりや、おもしろいね」 と、主任は机の上で両手を握り合せた。 「そんなことがあるのかね。僕らは気がっかなかったが」 主任が、あんまり興がるので、三原はポケットから例の十七時五十七分から十八時一分を中心 とする十三、十四、十五番線の列車の出入り表を出して見せた。笠井主任はそれを手にとって熱 線 「どういたしまして、ご参考にならなかったでしよう。また、ご用がありましたら、いつでもい らしてください」 安田辰郎は、まるい目を細めて微笑し、ていねいに言った。 ( 安田はあの四分間の見通しを知っている。鎌倉の妻のところへ始終行っているのだから、いっ かそれに気づいていたに違いない。少なくともその可能性はある ) 三原は、天気のいい通りを歩きながら、そう思った。

2. 点と線

線 と 108 朝、三原紀一が出勤すると、主任の笠井警部はもう登庁していた。 点「お早うございます」 あいさっ 三原が挨拶すると、書類を見ていた主任は首を上げて、 「お早う。君、ちょっと」 と手まねぎした。 「どうだね、九州の旅の疲れは、もうなおったのかね ? 」 ちやわん すし屋が出しそうな大きな茶碗で茶を飲みながら言った。 「はあ。二晩寝たから、う大丈夫です」 「残念なことに、その車掌は空席のことをおぼえていないのた。前のことだから記憶がないとい うのだ。・ほんくらな車掌だ。それさえおぼえていてくれたら、お時がどこで降りたか、すぐわか るんたがなあ」 八北海道と九州

3. 点と線

点 女房孝行一途の亭主かもしれない。じっさい、調査すると、夫婦仲は円満らしいからね」 三原はうなずいた。それは彼も鎌倉に行って、安田の妻に会ったとき感じたことであった。 「どうも、お時といい、佐山といし 、安田といし いや、もし安田に女があったとすればだが、 三人とも情事の秘密をずいぶんうまく外部にかくしたものだね」 三原は、その言葉で、どきんとした。いままで、ぼんやりとひろがっていた予感が、急速に一 個の形に収縮されてゆくのを感じた。 線「主任」 三原は動悸をお・ほえながら叫んだ。 と「何かあったのですか」 「あった」 笠井主任は言下に言った。 「課長がね、この情死事件に急に熱心になったのだ」 課長が熱心になったという一句で、三原は、それはもっと上の方から急に課長に来たのだと直 感した。 これは当っていた。主任がそれを話した。 どうき いちず

4. 点と線

点 「このとおりです。福岡署では情死と認定して処置しております 「ふむ」 主任は、現場写真だの、警察医の死体検案書たの、現場報告書など子細に見たり、読んだりし 「そうか。やつばり心中か」 主任は資料を指から放すと、厚い唇でつぶやくように言った。念を押してみたが、これで諦め 線たといったような口ぶりだった。 「むだ足踏ませたな」 と、ねぎらうように、あらためて三原を見あげて言った。 しいえ、まんざらむだ足でもありませんでした」 三原が言ったので、笠井警部は少し驚いた表情をした。 「どういう話たね ? 」 「少しおもしろいことを聞いてきました」 「うむ」 「これは福岡署の意見ではありませんが、同署の鳥飼というべテランの刑事が、興味のある話を してくれましたよ」 そこで三原は、食堂車の伝票の話、国鉄香椎駅と西鉄香椎駅での実験の話などくわしく述べた。 と あきら

5. 点と線

は驚嘆した。 三原は、笠井主任の机に歩いてゆき、時刻表を見せていっさいを説明した。話しながらも彼の 声はまたたかぶってふるえていた。 「やったね、君 ! 」 主任は聞きおわると、三原の顔を正面から直射するように見た。彼の目にも怒りに似たような 興奮があらわれていた。 「やったな、よくやった」 咽喉の奥から自然にもれるように二度もつぶやいた。 と「これで、安田のアリバイは崩れたね。あ、アリバイといっては、おかしいかね ? 」 しばらくして主任は言った。 点「いや、おかしくありません。安田が情死の時間に現場にいるはずがないという条件は、これで 消えたのですから」 三原は主張した。じっさいにそれは信念たった。 「いるはすがない、という条件が消えれば」と主任は、机の端を指でこっこっと叩いた。 「いたかもしれぬという条件が起るのか ? 」 「そうです」 こうぜん 三原は昻然と答えた。 166 たた

6. 点と線

14.50 ( D 4)) ↓群ュ 20.34 。 ( 第ⅱ圧 A し 21 工 ( 」 L 薹鳶 ) ー 24 コ。亘ロ . 25 口。 三原がこれを眺めていると、注文のコーヒーを持ってきた女の子が、 「あら、三原さん。北海道に旅行なさるの ? 」 と、紙を上からのそきこんできいた。 「うん。まあね」 三原が苦笑すると、女の子は、 「いいわね。このあいた、九州にいらしたばかりで、こんどは北海道なの ? 西のはてから北の とはてまで飛びまわるのね」 と、うらやましそうだった。 点そうだ。確かに舞台は、日本の両端にひろがったといえそうだった。 117 線 ひろう 本庁に帰ると、三原は笠井主任の前に報告した。安田の話と自分の作った表を披露した。 「うん、うん。なるほど」 主任は熱心に表を見た。 「しかし、北海道とはおどろいたね。九州とはあべこべではないか」

7. 点と線

点 主任は、すでにその意見であった。 「それで、これから北海道へやらせていただきたいと思うのです。安田が、情死の当日、北海道 たくら に向っていたということが、どうも肚におさまらない。札幌署の報告は信じるとしても、何か企 まれた事実のような気がするのです。この企みを発見した時が、なぜ安田が、東京駅で佐山課長 なぞ 補佐の出発に第三の目撃者を必要としたか、という謎を解いた時と思います」 主任はすぐに返事をせずに目を逸らせて考えていたが、 線「よかろう。ここまで来たのだ。とことんまで追って見たまえ。課長を僕が説いてみる」 と。ほっりと言った。その言い方が少し変たったので、三原は主任の表情を思わず見つめた。 と「課長は、この捜査に反対なのですか ? 」 「反対というほどではないが」 主任は言葉を・ほかした。 「情死と分っているものを、深追いしても無意味じゃないかと言ったことがある。その意味で積 極的でなかった。が、、い配しなくてもいい。僕が説く」 笠井主任は、三原をなぐさめるように微笑した。 136

8. 点と線

点 のアリバイは、安田が「九州に行っていなかった」という不在の証明である。 三原は、また電報をとり上け、繰り返して読みおわると、指の間に紙の端をもてあそんだ。こ の電文を信頼しないわけではない。事実はこのとおりであったに違いない。しかし、表通りから 建築の正面を眺めるような感しがしていた。建築のどこかに見えざる工作がほどこされているよ うな気がした。 ( 北海道に行ってみよう ) 線組み立てられた建築の不正の部分を発見するには、いちおう、それを叩いて調べねばならぬ。 三原は一つ一つに当り、どんな反応があるか、自分で確かめようと決心した。 と翌朝、三原は、笠井主任の出勤するのを待って、その机の前に立った。 「札幌から返電がありました」 彼は電報を主任に見せた。主任は読みくだして、 「安田の言ったとおりだねー と言って、三原を見上けた。 「はあ」 「まあ掛けてくれ」 主任は、三原が長い話をしたそうにしていると思ったのか、そう言った・ 「じつは、昨日、鎌倉に行きました。主任はお出かけのときでしたが」 134 たた

9. 点と線

この作為には目的がない。作為がある以上、目的がなければならないが、今のところわからない」 「しかし、作為の必然性を追及してゆくと、その目的もわかりますよ」 三原が言うと、 「そうだ」 と、笠井主任は答えた。二人は熱意の浮いた目を見あわせた。 かんげきねら 「君は、安田が、わざわざ十三番ホームから四分間の間隙を狙って、十五番ホームの特急列車を 線女たちに見せた意味はわかるかね ? 見せるためだったら十五番ホームに行ったらいいじゃない カ ? 」 と主任は試験でもするようにきいた。 「そりやわかりますよ。十五番は長距離列車専用発車ホームですから、そこに行ったのでは、わ 点ざとらしくなるからです。それよりも、鎌倉に行く用事があるとい 0 て、十三番から望見させた ほうが、自然ですよ。四分間のねらいの苦心は、まさにこの自然らしさを装うためです」 主任は微笑した。賛成している意味であった。 「あ、それから、一月十四日の《あさかぜ》の車掌の報告がはいったよ」 主任が言った。 三原は体をのり出した。 107

10. 点と線

197 線 こんでいたのだ。なるほど、一省の部長クラスともなれば事務官ぐらいは随行するであろう。 三原は、それから xx 省にまわって、一月二十日から石田部長に、随伴して、北海道に出張した 事務官の名前をひそかに調べた。 「佐々木喜太郎」というのがその名前だ 0 た。この名前なら、石田部長の命をうけて数日前に、 笠井主任に安田辰郎が《まりも》に乗ったことを証明しに来た男である。 翌日三原は青森に飛んでいた。 せいかん 一月二十一日乗船の青函連絡船の名簿をかたつばしから調べた。 石田部長の名も安田辰郎の名もある。しかし佐々木喜太郎の名はどこにもなかった。 めいりよう と木が安田辰郎の名前で乗船したことは、この結果で明瞭だった。 きつりつ がんべきくず 三原の前に屹立していた巌壁は崩れた。彼はこんどこそ勝利をつかんだ ! あとは安田の筆跡がどうして名簿に載ったかということを追及するたけである。がここまで来 てしまえば、それはさしたることではなかった。 佐々