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検索対象: 半径500mの日常
244件見つかりました。

1. 半径500mの日常

たのが災いしてミッキー吉野。体調を崩して体重が二十キロ減った大学時代はデビュ 1 したばか りの岩崎宏美 ( ちなみに彼女は今より太っていた ) 。そして五年程前にショ 1 トカットにしたと きは小林聡美とか長与千種などという人々の名前がでた。私にもこのような「そっくりの歴史」 がある。するときっと他の人もあるんじゃないかとだんだん興味がわいてきて、まわりにいる人 たちに片っ端から誰に似ているといわれたか調査した。 まず、うちの弟の幼少時代は玖保キリコの『いまどきのこども』に登場する、しもぶくれの へヴィメタ少年、ツグムくんである。そして成長した現在は、コラムニストの泉麻人氏とウリふ たつである。私の小学校からの親友は片平なぎさ。知り合いの少々頭髪が薄くなってきた男性は、 「ジョン・ロ 1 ンに似ている」といわれて天にも昇る気持ちでいたが、よく話をきいてみると、 『ラストエンペラ 1 』のときに「弁髪」にしたジョン・ロ 1 ンだといわれてくさっていた。次は 担当編集者を間い詰めてみた。はきはきして元気のいい二十二歳の女性編集者は、 「私は特に誰かに似てるといわれたことはありませんが、うちの弟は島田紳助にそっくりです」 と胸を張っていた。小学校から有名なお嬢様学校に通い、大学は東大という二十二歳の女性編 集者は、おっとりとした口調で、 「わたくしは河本敏夫に似ているといわれました , とほほえみながらいった。「えつ」とびつくりしてロングへアーの彼女の顔をじっと見ると、

2. 半径500mの日常

などといいながら腕組みをして、持ち主が戻ってきてあわてふためく姿を見るまでは帰らない 雰囲気のおじさんもいた。その証拠に車がレッカ 1 移動されても、見物人はなかなかその場を立 ち去らない。彼らが一番見たがっているのは、ひきずっていこうとする瞬間に戻ってくる持ち主 のあわてぶりである。レッカ 1 移動の作業をしている最中にも、内心、 「早く運転手が戻ってこないか」 とわくわくしているに違いない。世の中そううまくいかないから、たいしたトラブルもないま ま、車はひつばられていく。そして見物人は自分が立ち去った後に展開されるであろう光景を想 像して、 「くくく」 と笑うのである。 私の実家のそばには、ある大学の水泳部のプールがある。夏場になるとそのプールは一般に開 放され、近隣近在の人々の憩いの場となっていた。かっては電車でくる人がほとんどだったのだ く、だんだん車を使う人が多くなり、それにともなって駅のそばに路上駐車する人がとても多く なった。実家は駅から歩いて五分くらいだが、プ 1 ルが開放される時期になると、私の実家のそ ばまで車がずらっと止まっていることもあった。別に交通渋滞を引き起こしているわけでもなさ そうだったが、それを見た警察は律義に「路上駐車許すまじ」といった具合に、次々とレッカー

3. 半径500mの日常

たほうがいいわよ」といってやりたかった。喫茶店で待ち合わせをして、胸をわくわくさせてい 自た私の目の前に現れたのは、でれっとした友だちとせんだみつおだったからである。いちゃいち のやしている彼女たちを見ながら、どこをどの角度で見たらせんだみつおが加藤剛になるんだろう 女とずっと考えていた。彼の顔をいくら見つめても加藤剛の顔は全く浮かんでこない。結局はこれ なは彼女だけに見えるものだったのだ。他人がいくら「あれはせんだみつおだ」といっても彼女が 「加藤剛」と思っていれば万事うまくおさまる。しかし私はそれ以来、ジョン・ロ 1 ンに似てい れる彼がいるといわれようが、坂本龍一に似ている彼がいるといわれようが、ちっとも動じなくな み てった。会ってみたら絶対に似ておらず非なるものが登場するに決まっているからである。私は自 会 分の経験をリエちゃんに話し、 け 「いくら彼女が彼のことを鈴木大地に似ているって自慢したからって、絶対に本人にそっくりじ 言 とやないから、そんなにうらやましがるこたあないわよ」 と肩を叩いてなぐさめたのだが、万が一よく似ていたらやつばりうらやましいなと思ったのだ っ そっ ( 0 大 鈴 は 彼 215

4. 半径500mの日常

み車を繰り出していたのである。 お夏場、周辺住民のいちばんの楽しみは、レッカー移動された持ち主のうろたえぶりを無関心を 幸装いながら眺めることだった。だいたい、プ 1 ルに入ったあとはとってもけだるい。髪の毛もべ の とっと濡れていて何となくしまりがない。おまけに子連れで来る人がほとんどだから大騒ぎにな るのである。仲よくホットドッグを食べながらやってきて、あるべきところに車がないのを見て、 コ ホットドッグを取り落した親子。車がないのがわかって、どういう意味があるのか、ちりぢりに なって車を捜しにい 0 た四人家族。突然道路に書かれたチ , ークを指さしながら、子供がわんわ ん泣くのもかまわずに喧嘩をしはじめた夫婦。みんな気持ちよく泳いだあとの出来事だけに、何 ツが起こったのか一瞬わからなくなってしまうようである。中でも一番悲惨だったのは、お父さん 主と坊やの二人連れだった。レッカー車でまさにひつばっていこうとした瞬間、プールサイドにい でたお父さんが気がついた。 移「待って、待ってくれえ」 カ と叫びながら、彼は黒い海。ハンひとつで飛び出してきた。坊やもわけがわからず顔をこわばら レ せて後について走ってきた。ところが非情にもレッカー車は車をびきずって行ってしまったのだ。 反 車お父さんと坊やはぼたぼたと海。ハンからしずくを落したまま、呆然とレッカー車を見送っていた。 車が見えなくなるまでじ 1 っと見ていた。二人はひとことも喋らず、手をつないで肩を落してプ

5. 半径500mの日常

「本当に想像力が貧困なんだから」 彼女はブップッいっている。どうも理由は他にあるらしい。よく話をきいてみると、彼女のア 。ハ 1 トの二階に住んでいる女子大生二人が夜な夜なドンチャン騒ぎをして眠れないというのであ 畷る。そのア。ハ 1 トは世田谷区の住宅地の中にあり、六畳二間と八畳の台所にバス・トイレという 二人暮らしだ 0 たら充分の広さである。びどいときには十人位の人間が集ま 0 て深夜の酒宴をく 女りひろげているというのだ。その女子大生二人というのも別に服装も化粧も容姿も普通のごく平 の 階凡な風体で、あんなにギャ 1 ギャ 1 と大ぎするようには見えないらしい。 広「それがね、連れこんでるのが全部男なの、全然そんなことするように見えないのよ。だからよ 日けい恐ろしいね」 のそういえば私たちのころは見るからにあばずれという感じの女の子がいてみんなが敬遠したも せのだけど、今は本当に誰が何をやってんのか全然見当がっかないからこわいのだ。髪の毛をピン ピン立てて鎖をジャラジャラつけた男の子が年寄りに席を譲ったり、きちんとした身なりの若い を 人男が我れ先にと空席を陣取ったり : : : 本当に見かけで人を判断できない時代になってきた。 の 月その子たちの蛮行が連日続くにつれ、近所の人々が怒り、夜どれだけ騷いでどれだけうるさか 婚ったかというのを毎日ノ 1 トに書いてそれをつきつけ、静かにするか出ていくのかはっきり結着 新 をつけようと緊急町内会で決まったのであった。そこで白羽の矢が立ったのが彼女である。理由 199

6. 半径500mの日常

ら狙いうちしてきた。あまりにあくどいではないか。動物のくせに素直さが欠けている。それ以 ん来、どうもカラスを見ると面白くないのである。 ち ところが最近、うちの近所でカラスが異常発生し、異様な雰囲気になってきた。一羽や二羽な のらまだしも、あっちこっちで徒党を組んでカアカアやっている。志村けんが歌ってたみたいに、 世 力アカア鳴くのはカラスの勝手だが、どうもカラスの鳴き声というのは陰気くさくていけない。 の はいい気分で青空を見上げていたのに、あのカアカアがきこえるとだんだん首うなだれて最後には ス 背中が丸まってしまうのである。朝、ゴミを出しに行くと連中はポリ袋をつつつきまわして中の カ のゴミを漁っている。道路には残飯が散らばってものすごい臭いが漂っている。人が近づいても逃 生げない。人間のほうが遠慮して、そーっとゴミを置いて足早に立ち去る始末なのだ。電線に止ま のって平気でフンをたれるので、フン爆弾を被弾した人を何人も目撃した。 ス エサに不自由していないらしく、体はコロコロに太って黒光りしている。くちばしも太くてカ カ 生強いし、ただ見ている限りでは、なかなか堂々としている。カラスのほうが、うちの実家で飼っ れ ているインコのピ 1 コちゃんより、はるかにきれいなのである。しかしあの目つきは恐い。鳥の て し 世界のヤッちゃんのようである。私はなにしろ過去に苦い経験があるので、ついカラスのそばに んいくとおびえてしまう。すると彼らはそれを見すかしたように、びと声、カア 1 と大きく鳴いた な たり、突然羽ばたきしてこちらに来ようとしたりして挑戦的態度をとるのである。内心、 235

7. 半径500mの日常

と催すタイプなのである。そこでちょっと大胆だとは思ったが、気分のいい草の上で用を足すこ とにした。巨大ナメクジにでつくわすよりも、地元の人に見られる危険性のほうを選んだのだ。 。ハンツをおろし、さて、と思った瞬間、遠くからザワザワという音がきこえてきた。誰か来たか と中腰になって身構えたが人の気配はない。不安になってまた出るものがひっこんでしまった彼 女の耳に、ザワザワという不気味な音が近づいてくる。おそるおそるあたりを見回しながら。ハン ツをはきかけると、何とこんどは彼女の背後からものすごい数の尺取り虫の大群が、くねくねと 体をうごめかせながらおし寄せてきたところだったのであった。 「ひえーっ」 彼女はズボンのジツ。ハ 1 を開けっ放したまま、ともかくすさまじい勢いで山を降りた。逃げま どうフナムシもどきを踏み潰しながら必死でバスの停留所までたどりついた。停留所といっても ただ雨避けの屋根があるだけ。そこにへたりこんでいると、ヘビは徒党を組んで「こんにちは」 と挨拶しにくるし、蚊もプンプン飛んでくる。ヘビに噛まれるくらいなら蚊にくわれたほうがマ シだと、集中的にヘビを刺激しないように気をつけていたら、蚊にくいたいだけくわれて、体中 真っ赤に腫れあがってしまった。マプタまでくわれて、形相はまるで半魚人。バスに乗った彼女 の姿をみて、乗り合わせた地元の人々は、楽しそうにニコニコ笑っていたそうである。 蛭、巨大ナメクジ、尺取り虫の大群に攻められたあげく、最後に待っていたのは地元の人たち

8. 半径500mの日常

で会い、駅まで歩くうちに彼女が・ハッグから財布を出そうとしたので、その間、私が子供を抱い ていただけなのだ。 よく学生時代から老けている人はいるが、彼女はそのようなタイプではなかった。年相応にみ えるふつうの女学生だった。きっと彼女は卒業してから一年に二歳ずつ、自分が気がっかないく 不 の らいに、じわりじわりと老けていき、三十六歳になったときには、私の義理の母と間違われるく 体らいまでになってしまったのだろう。 「他人事じゃないわよねえ。彼女だって何も悪いことをしてないのに、どうしてあんなふうに老 の 人けちゃったのかしら」 思私と目撃者の友だちは電話ロでため息をついた。若いときから老けてみられた人は、歳をとれ みば逆に若くみられるともいう。しかしそういうタイプだった人に聞いてみると、歳をとってもそ し れなりに老けてしまい、未だに「若くみえますね」といわれたことがないそうだ。だんだん歳を れ わ とるにつれて、個体差は如実に体に現れてくる。別に若くみられるからといって長生きするわけ 違 ではないが、同性としては個体差だから仕方ないじゃないかと割り切れないものがある。義理の 義母親に間違えられた彼女のことを考えると、つくづく、 級「個体差って、なかなかつらいものだな」 同 と思ってしまうのである。

9. 半径500mの日常

と、声がかかり、手をふりながら女が駆け寄ってくるのだが、誰が誰だか全然わからない。目 の前にきた彼女の顔を、じ 1 っとにらみ、ぶ厚い化粧の下の素顔を想像して、やっと誰だかわか るといった具合であった。学校を卒業して、「これから、きれいになるぞー」という意気込みは わかる。しかし、どうしてあれもこれもと、ありったけの化粧品を塗りたくるのか、わからなか った。なかには、顔面が色盲の検査につかう、色紙みたいになっている子もいたのである。男の 子は、彼女たちを見て、あっけにとられ、おびえた目をしていた。私もその恐ろしい姿を見て、 「ああはなるまい」 と心に決めたのであった。 その「ああはなるまい」が災いしてか、私は二十二歳で就職するまで、化粧をしたことがなか った。できればしないで済ませたかったのだが、次長に呼ばれて、 「少しは化粧をしろ」 といわれてしまったので、仕方なくやったのである。しかし、いざやってみると、化粧という のは異常に手間がかかることがわかった。ファンデーションを塗るためには、下地クリ 1 ムをつ けたほうがいい。下地クリ 1 ムをつける前には乳液、おまけに化粧水に「柔軟」と「収斂」の一一 種類があるのを知ってビックリした。土台造りから完成まで、約二十分かかった。世の中の女は 毎朝こんな手間をかけているのか、と思った。昼間は上司にこき使われ、へとへとになって帰る 130

10. 半径500mの日常

れているから、体型がこうだから何を着ても似合わないというのではなくて、デザインを選びさ 着えすれば、ちゃんと体型をカバ 1 できるんだなあと納得できるのだ。 水 い 似合わない水着と体型をカバーしてくれる水着とでは、見た感じが全く別人のような印象を受 な 越けるものさえあった。私は体型を目立たせたくないから、変にデザインに凝るよりも、スク 1 ル ま水着や競泳用水着のように、水着の原点みたいな型のほうがいいのではないかと思っていたのだ が、この雑誌のグラビアを見たらそうではないようだ。だれにでも似合いそうで、実は欠点をあ たらわにしてしまっていた。ずん胴の人は特に悲惨だった。あれはもともとプロポ 1 ションのいい っ 人だけに似合うもので、あちこちに難ありの人には、ちょっと小細工がしてあるもののほうが、 よ け目をごまかせていいということも、この雑誌を見てわかったのである。 心「なるほど」 よ 私は深くうなずいた。そしてこの水着選びの話を、体が弱いといって私の誘いを拒絶した友だ し ちに話した。すると彼女は、 水 プ「本当に運動したい人は、いちいちそんなこと考えてないわよ。泳いでいれば腕とか足しか見え アないんだから。運動をしたい人は水着を買うより先に、スポ 1 ックラブに足を向けるんじゃない 工の」 シ という。しゃなりしゃなりとホテルのプールサイドを歩くのではなく、ガッ。ハガッ。ハと泳ぐの 167