一つ - みる会図書館


検索対象: 啄木歌集
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1. 啄木歌集

、夜半の雨杉生の墓に燐焚いて人をおどせし頃を思ひぬ ( 燐 ) 岩かげの牡蠣の殼なる牡蠣の身のせまき世にかも人を戀ふれば ( 蠣 ) 長月も半ばになりぬいつまでかかくも幼き戀するものか ( エレキ ) ポンプの水さとほとばしる心地よさ暫しは若き心してみる ( ポンプ ) かず多き願の中にその一つ殊に強くも欲りするものか ( 願 ) 耳うつをえ解く間もなみ火の如き巽あがりの風音をきく ( 巽 ) カくは苦しきものにかありけむ ( 心中 ) 戀ふらくはいつの世よりの習はしにゝ 美しきみよげの入もよく見れば少しは猿に似たるをかしさ ( 貌 ) 忘れじと堅くも神に誓ひてしならずなじかはかくも戀ふらむ ( 堅 ) 書の月大煙突ゅ渦卷ける煙の末に淡くかかれる ( 煙 ) ふつふっと妻が額にわき出づる汗をかぞへて暑き夏かな ( 額 ) 一夜妻よく泣く人を手にまきて寢がてに明けしをかしき夜かな ( 分 ) 日もすがらほほゑむ入と夜もすがらよく泣く人と二人娶らむ ( 娶る ) ほこりかに人に語りて耻とせぬ淺き戀をも見習ふものか ( 損 ) うら枯れて何かわびしき前栽の雨見るほどに老いし頃かも ( 老 ) ( 明治四十一年十月十日夜 ) 十月二十三日作

2. 啄木歌集

186 おも 思ふこと盗みきかるる如くにて、 むね っと胸を引きぬ ちゃうしんき 聽診器より。 看護婦が徹夜するまで、 わが病ひ、 わるくなれともひそかに願へる。 びやうるんき 病院に來て、 つま 妻や子をいつくしむ まことの我にかへりけるかな。 もう嘘をいはじと思ひき それは今朝 ひと 今また一つ嘘をいへるかな。 かんごふ やま われ ぬす てつや うそ ねが

3. 啄木歌集

( 明治四十一年七月四日 ) 七月七日作 沖をゆく一つ一つの帆をかぞへ我をかぞへぬ君と知れども 夏の雨人ぞなっかしそばぬれて窓の小鳥も日もすがら鳴く 何しかも我いと悲し鳥よ鳥な鳴きそ鳴きそ我はかなしき つねならぬ心おばゆとそれだにも言ひえず我はそらごとを書く づことも知らぬ濱邊にこの心よく知る人のありしと惑ふ あはれはれ風とならばやそよとだにかのうたたねの髪に吹くべ 今宵君その黒髪に香たいて眠りてあれな夢に往かまし もた 目をつぶり嵐の前の靜けさの心地にありてわれは默しき 七月九日作 わが生れし日より眠れる胸の鳥さめて羽ばたきき七日眠らず とみかうみやがて今日かっ君を思ふ我を我かと怪しみてあり 一默々と物を念じて今日もまた暮れにたるらし灯もて來よ 四故もなく笑みぞ洩れつるおどろきてあたり見巡しややに安んず おなじ街ゆきかへりしてゆきずりのその四度目に笑みし人はも ぼうと吹く船の汽笛は三方の山にこだまし我が上におっ よたびめ あかり

4. 啄木歌集

248 庭の木の七本撼れど一本も動かず地に坐して涙す 少女子を狩りにゆかむと立っときにかならず見たる小さき鏡よ 赤き筆もて我が歌を消したまふ毎に一すじ胸に裂隙入る 限りなく淺猿しきものここにあり避けよと呼びて君が手をとる われ君に追はると知りておなじ路日毎に逃げて十餘日あり つはりの聲を交へぬ言葉もてただ一言をいはむと願ふ 四度名をよべど答へずこたへずば我死ぬ日まで答へずてあれ 知る人の數盡く欺きて欺きえざるもの一つあり とんとんとまたとんとんと聞きしことなき音壁に傳はりてゆく ひねもす と黒き壁の面にちょうくもて白點をうち眺む終日 方形の石に對角線を書き其交點を針をもて掘る 大木の枝ことごとく伐りすてし後の姿の寂しきかなや たまだれ 雨の夜あまり繁くて數へむとすれど能はず軒の玉滴 のこりたる三升の米とり出でて其三粒を佛前に置く おち はだし 跣足なる乞食の爺に物こはれ一つの沓を泣きて與へぬ たぐひなき暑さ來れり午後の二時寒暖計は破裂して落っ 永しへに鳴りてやまざる音樂を聞けと時計を指さしていふ

5. 啄木歌集

250 父母のあまり過ぎたる愛育にかく風狂の兒となりしかな なれ 神よ神この日ばかりはただ爾に賴む外なし吾兒は病す 一髪の危機今去りて兒は生くとかける文みて泣笑ひする いと重く病みて搜せぬと文よめど夢に見る兒は笑みて痩せざり ふ君にまた泣く やめる兒をこの一心に癒さむと勇ましく、 重く病むその兒の母よ君もまた生れざりける世をば戀ふるや やみなか 妻と子と父と母とは各々に手ランプをもて暗中を來る ただ一つ家して住まむ才能をわれにあたへぬ神を罵る あらの 我時々見知らぬものに誘はれて曠野の中に捨てられて泣く つの年いつの時にか我はかのかの靑空にとぶことを得む いと高くとぶかの影を捉へむとひねもす馳せて家に歸らず 今日切に猶をさなくて故さとの寺にありける日を戀ふるかな われ父の怒りをうけて聲高く父を罵り泣ける日思ふ 母われをうたず罪なき妹をうちて懲せし日もありしかな 赤手もてかの王城の城門をひらかむとすと腕はさすれど われ入にとはれし時にふと母の齡を忘れて涙ぐみにき 母よ母このひとり兒は今も猶乳の味知れり餓ゑて寢る時

6. 啄木歌集

317 ナ 長ぎ友三年のうちに三度來ぬ 長く長く忘れし友に會ふごとき・ 長月も半ばになりぬいつまでか 汝が痩せしからだはすべて謀叛氣の・ 泣くがごと首ふるはせて手の相を 亡くなれる師がその昔たまひたる・ 毆らむといふにれとつめよせし・ 何故かうかとなさけなくなり、弓、、い 夷らかに麥の靑める丘の根の・ なっかしき故鄕にかへる思ひあり、・ なっかしき各の朝かな。湯をのめば、・ 夏來ればうがひ薬の病ある 夏休み果ててそのまま歸り來ぬ 何思ひけむーー玩其をすてて、おとなしく、・ 何、 力、かう、書いてみたくなりて、。ヘンを取りぬー 何がなく初戀人のおくつきに 〔何がなしに頭のなかに崖ありて〕・ 何がなしに息ぎれるまで驅け出して 何がなしにさびしくなれば出てあるく・ 何がなしに肺が小さくなれる如く 何か一つ大いなる惡事しておいて、・ 何か一つ騷ぎを起してみたかりし、・ 何かひとっ不思蟻を示し人みなの・ 何事か今我つぶやけり。かく思ひ、 何事も思ふことなくいそがしく 何事も思ふことなく日一日 何事も金金とわらひすこし經て ・全何すれば此處に我ありや時にかく・ 何となく、 案外に多き氣もせらる、・ 何となく汽車に乘りたく思ひしのみ ・大三何となく自分をえらい人のやうに 何もかもいやになりゆくこの氣拝よ。 何もかも行末の事みゆるごとき・ 何やらむ穩かならぬ目付して : 一奕名のみ知りて縁もゆかりもなき土地の なみだなみだ不思議なるかなそれをもて 波もなき二月の灣に白塗の 五四汝三度この咽喉に劍を擬したりと・ 名は何と言ひけむ。﨡は鈴木なりき。・ : 一一 0 一一何となく明日はよき事あるごとく : 一交何となく、今朝は少しくわが心・ 何となく、今年はよい事あるごとし。 何となく、自分を嘘のかたまりの : 三呈 にぎはしき若き女の集會の・ 西風に内丸大路のさくらの葉・ 庭石にはたと時計をなげうてる ・ : 一大四 : 四大 : 五五 : 四四

7. 啄木歌集

264 やよ雲雀さはな鳴きそね若草の海に抱きて沈む人あり もと高き際より靑き瓶一つ我をめざしてましぐらに落っ 我思ふ君が心はいと深しかの松の葉の廣きごとくに はてしなき原のも中に埋れたる黄金の牛は掘る人を待っ あやまたずまともに君を見る故に我天地の正道にあり 千載に一度あるべき大亂を起さむとして君に謀りぬ 百年もおなじきさまに祭壇の火影うっせり神の鏡は 千とせまへそのまた千年前よりも流れし川の今も流るる 限りなく高き柱の二本の根にはさまれて動くあたはず 岸の木の根にロつけて流れゆく水の如くに去れるのみなり 石よ石見ればやかなしひたど、の芦邊の波にひる時もなし 胸の中俄かに起る早鐘の千を數へて昏睡に人る 灯に迷ひこし紫の蛾はおちぬ扇づかひのゆるき御手に 野がすみに、 もりて再びかへらざる覺めざる人と覺めざる人よ めあは 鼻長き人と右手のみ大いなる人と胸せ我を指さす ありとある物の味ひなめつくしかく爛れぬと我舌を出す ( 明治四十一年七月十六日ー十七日 )

8. 啄木歌集

285 ( 明治四十一年 ) 夢枕ゅめとも知らであらはなる君の言葉を怖れけるかな ( 夢枕 ) おとし その御ロすこし開かば貶めむ疎みそめむと待つにあらなく ( 貶 ) 腐るべき卵とつひに孵るべき卵とありて相似たるかな ( 孵る ) 山と山あひだに春の霞ひくごとき隔てはありてまたよし ( 隔 ) れくる涙をもてし滲ませし文はふたたび書かぬものかも ( 溢 ) 赤煉瓦ひろく敷きたる大道の殊にさびしき眞晝時かな ( 敷 ) 春の夜の巷に立てばそぞろ行くその概ねの若き眉はも ( 概ね ) 生死の危き境すでに去り我等安けし別れたるゆゑ ( 境 ) 實らざる花ゅゑ敢て摘めといふそを解きがたき謎として經ぬ ( 實 ) 貯へのみちたる庫の戸のごとも堅く口をばとざしてありき ( 貯 ) 冬椿氷のなかに咲く如き靄のあしたの忘られぬかな ( 椿 ) ふつふっと側への人の額に湧く汗をかぞへて暑き夏かも ( 額 ) ( 明治四十一年十一月「明星ー申十 ) 十一月七日作 かきあつめ焚ける落葉のほとばりに音なくふれる秋の雨かな 手をとれば何事もなし革命の日をまっ如く待ちてありしが びすとるを内ふところに入れありく男をみればおそろしきかな いきしに ぬか

9. 啄木歌集

蹴悄然として前を行く我を見て我が影もまたうなだれて來る 一刹那雷のやうなる哄笑を頭上に聽きて首をちちめぬ 我いまだおのが子を食ふ牛を見ずまた見ず我を愛でぬ女を 一線の上に少女と若人と逢ひてももとせ動かむとせず わが父は何に怒るや大いなる靑磁の瓶を石上に撃っ 祭壇のまへにともせる七燭のその一燭は黒き燭 わが若き日を葬りて築きたる碣にくちづく君は日も夜も その群にふと足袋一つ穿ける人あるを見出でて驚きて去る わが少女室ゆく鳥の影見つつ消ゆるを見つつ膝に死ににき 鐵壁を攀ちてやうやく頂上に上れる時に霧またく霽る まだ人の足あとっかぬ森林に人りて見出でっ白き骨ども 凄まじく山鳴りどよみ既にして一葉おつる音だにもせず 大空の一片をとり試みに透せどなかに星を見出でず けふくぐわっここのか 今日九月九日の夜の九時をうつ鐘を合圖に山に火を焚く 茫然として見送りぬ天上をゆく一列の白き裳のかげ さかばしら 柱みな逆柱なる家建てて二人すめども何ごともなし しる 九十九里つづける濱の白砂に一滴の血を印さむと行く いちえふ をみな

10. 啄木歌集

近くしてかついと遠し君が目はかの大空の星に似たれば ( 近 ) 大方の物の嘆きは知りはてつ心今日より何をまねばむ 萬代に動かぬ山も時ありて夜察に泣けり嵐すさぶも 白き星しらしら降るやさにあらずあけぼのの空鳩群れて飛ぶ 春の雪はだらに殘る山路を靑幌したる馬車一つきぬ はこぶね ただよへる方舟見ればむくろ二つ枕ならべぬ眠るごとくに ( 盛 ) 橄欖の森に沿ふ川五日ほどさかのぼり來て舟捨てにけり ( 溯 ) 門邊なる木に攀ちのぼり遠く行く人の車を見送りしかな 故もなき怒りをおぼゆかかること漸く多し怒り死なむぞ ひぐるま をとめ 晩秋の窓のもとにて向日葵の實を噛みくだき少女と語る をなご 神多き國に生れて春秋の祭見るまに女になりぬ をさ 故鄕の谷の谺に今も猶こもりてあらむ母が梭の音 この三とせ何か我せし泣く人にそがひになりて眠るを學びぬ 年 一わが醉はすでに全し死になむと泣くを聞きつつ海思ふほど 昨日かく今日かくはたや明日もまたかからむ我に倦める悲み 明 大あらし國内の鐘のことごとく鳴りぞ出でたる心よきかな きつつき 7 樗の木ふと物いひぬ啄木鳥よさはな啄きそ我の臍の邊 あふち よろづよ