319 引越しの朝の足もとに落ちてゐぬ、・ びっしよりと盗汗出てゐるあけがたの・ ひでり雨さらさら落ちて前栽の 人ありて電車のなかに唾を吐く・ 人がいふ鬢みほっれのめでたさを・ 人がみな同じ方角に向いて行く・ ひと塊の土に涎し泣く母の・ 人氣なぎ夜の事務室にけたたましく・ 人ごみの中をわけ來るわが友の・ ひとしきり靜かになれるゆふぐれの 人といふ人のこころに一人づっ ひとところ、疊を見つめてありし間の 人とともに事をはかるに適せざる 人並の才に過ぎざるわが友の・ ひとならび泳げるごとき家家の ひと晩にかせてみむと、梅の鉢を・ 人ひとり得るに過ぎざる事をもて・ 人みなが家を持ってふかなしみよ・ ひと夜さに嵐來りて築きたる・ 皮膚がみな耳にてありきしんとして 非凡なる人のどとくにふるまへる 百﨡の多くは酒をやめしといふ。・ ひやひやと夜は藥の香のにほふ・ ひややかに淸き大理石に春の日の・ ひややかに罎のならべる棚の前・ : 一大病院に人りて初めての夜といふに・ 病院に來て、妻や子をいつくしむ・ 病院の窓によりつつ、いろいろの ・八三 病院の窓のゆふべのほの白き・ 剽輕の性なりし友の死顏の・ : 一七 0 病室の窓にもたれて、久しぶりに・ 憲然と家を出でては融然と・ 氷嚢の下よりまなこを光らせて、 氷嚢のとけて温めば、おのづから・ 漂泊の愁ひを敍して成らざりし・ ・ : 一三五 平手もて吹雪にぬれし顏を拭く・ ひる寐せし兒の枕邊に人形を・ フ ふがひなきわが日の本の女等を・ ふくれたる腹を撫でつつ、病院の・ : 八五藤沢といふ代議士を弟の・ 二晩おきに夜の一時頃に切通の・ 二三こゑいまはのきはに微かにも 二日前に山の繪見しが今朝になりて・ ふと思ふふるさとにゐて日毎聽きし ふと深き怖れを覺えちっとして・ ふと見ればとある林の停車場の 船に醉ひてやさしくなれるいもうとの ふるさとを出て來し子等の相會ひて・ : ・一七五 : 突 : 三 0 七 : 大四
3 しめ 何かひとっ不思議を示し 人みなのおどろくひまに 消えむと思ふ 人といふ人のこころに しうじん ひとり 一人づっ囚入がゐて うめくかなしさ しか 叱られて こどもごころ わっと泣き出す子供心 その心にもなりてみたきかな ぬす おも 盗むてふことさへ惡しと思ひえぬ こころ 心はかなし かくれ家もなし なに ひと ひと こころ な ひと お あ
264 やよ雲雀さはな鳴きそね若草の海に抱きて沈む人あり もと高き際より靑き瓶一つ我をめざしてましぐらに落っ 我思ふ君が心はいと深しかの松の葉の廣きごとくに はてしなき原のも中に埋れたる黄金の牛は掘る人を待っ あやまたずまともに君を見る故に我天地の正道にあり 千載に一度あるべき大亂を起さむとして君に謀りぬ 百年もおなじきさまに祭壇の火影うっせり神の鏡は 千とせまへそのまた千年前よりも流れし川の今も流るる 限りなく高き柱の二本の根にはさまれて動くあたはず 岸の木の根にロつけて流れゆく水の如くに去れるのみなり 石よ石見ればやかなしひたど、の芦邊の波にひる時もなし 胸の中俄かに起る早鐘の千を數へて昏睡に人る 灯に迷ひこし紫の蛾はおちぬ扇づかひのゆるき御手に 野がすみに、 もりて再びかへらざる覺めざる人と覺めざる人よ めあは 鼻長き人と右手のみ大いなる人と胸せ我を指さす ありとある物の味ひなめつくしかく爛れぬと我舌を出す ( 明治四十一年七月十六日ー十七日 )
かなしきは 喉のかわきをこらへつつ とき よざむ 夜寒の夜具にちちこまる時 われあたま 一度でも我に頭を下げさせし 人みな死ねと のりてしこと われ 我に似し友の二人よ ひとり 一人は死に ら , ひとり いまや 一人は牢を出でて今病む あまりある才を抱きて 妻のため おもひわづらふ友をかなしむ つど ひと つま いちど ふたり
明治三十四年 ( 十六歳 ) 秋草 人けふをなやみそのまま闇に人りぬ運命のみ手の呪はしの神 ささかにのそれより細き夢の糸たどるもよしな詫びしれし今 日はおちぬ雲はちぎれぬ月はいまだタのそらのさながら吾は を枕よこよひの夢はかたらざれなうらみうれたみさてはうれしの 世も人ものろはじさては怨みまじ理想のくものちぎれてし今 たまはれのみこゑよほそき春の宵を花より出でて歌ねびる神 あけ 見ずや雲の朱むらさきのうすれ / \ やがて下りくる女神のとばり ( タの歌の中に ) 聖歌口にほほゑみうたふ若き二人二十歳の秋の寂しさをいはず うかれ出て小道の闇をたどり / \ 人のまがきに花を折りにき 四ひかりありて野邊の闇路に光ありて姿の哀れ照らししの宵 みどの 三火かげあかき御殿の戸ぼそそとあけて琴ひくみ手をうかがひょりぬ さらでそのただかりそめの惑ひょとそとほほゑみし君や悶えの 二十とせを懸想になきし入二人江の東に曉の月見る はた はたち さだめ
232 君が目の猛火の海にわが投げし小貝の一葉行方知らずも いと冷たき窓の硝子に春雨す我は涙すあはつけ人に うつくしき子は鏡みるたびに反逆心を養ひにける 寂寞の大森林を一人ゆきふと來方をわすれし思ひ 二十三ああ日の下に新しき事なし我は猶君を戀ふ 目をつぶり手カつよくかき抱き心弛みてあらぬ子を思ふ 山上の寂寞に居ぬ南風の吹けばすこしく人の戀しき かづ わが被く三千丈の白髪は誰ぞ培ひし答へたまへよ 人妻はいと面憎しくれなゐの木の實の皿をわが前に置く つれづれに古書ひもとけば君に似て古き臭すいとはしきかな ( 明治四十年七月「紅百蓿」七 ) わづらひ 幾人のこころに叛き飄然と北にすすみぬ煩もなし 「親を見ずいづくに行くや」大空に怪しき聲すふためきて逃ぐ 乳足りて泣く子は默すことごとに足らはぬ我は叛逆にゆく とこしへに人の人らざる森林の大木の手にまかれてぞ寢む 若やかに彼の波どもは歌ふらく日に日に吸はむ汀の少女 この怒とかんすべなしたはれ男の群にやと投ぐ一くわいの火を たちから こしかた ひとは
268 我あまり醉ひてあばれて海中に投げ人れられき袋せられて ( 著し ) 幻の霞ひく野をよぎる間に我が半生は歩みつきにき われ一人なきて走りぬ賑へる巷に大の吠えて追ふゅゑ われつねに一人歩みぬわが父の葬りの日にも遠き旅にも わが船は積みぬ女人のいつはりを紅の緖に貫ける珠數ども かがやける瞳何見るかの空のその一ところ渦卷くを見る 來む世には泣くといふことなき國に生れてしがな我ら二入は 人一人えむとするなるいと小さき願ひも遂げずいっか老いけむ 山たづねそのいただきの石の上に父が黄金の沓見出でにき ふと深き怖れおばえぬ昨日まで一人泣きにしわが今日を見て 見よ今日もかの靑空の一方のおなじところに黒き鳥とぶ 笑むといふはた泣くといふ世の常の心に慣れて父となりにき 月明き秋の海邊の白砂に高く笑ひてかなしかりけり ただ一人海に向ひて高らかに歌ふさびしき人となりにき うみふなよそひ 筑紫なる下り松濱その濱のあかっき湖に艤せよ いと若き萩の芽にふく紫の朝の小雨に髮洗はまし きぬ よきものの數にかぞへて新らしき衣も髪こき人妻の目も によにん くっ
、夜半の雨杉生の墓に燐焚いて人をおどせし頃を思ひぬ ( 燐 ) 岩かげの牡蠣の殼なる牡蠣の身のせまき世にかも人を戀ふれば ( 蠣 ) 長月も半ばになりぬいつまでかかくも幼き戀するものか ( エレキ ) ポンプの水さとほとばしる心地よさ暫しは若き心してみる ( ポンプ ) かず多き願の中にその一つ殊に強くも欲りするものか ( 願 ) 耳うつをえ解く間もなみ火の如き巽あがりの風音をきく ( 巽 ) カくは苦しきものにかありけむ ( 心中 ) 戀ふらくはいつの世よりの習はしにゝ 美しきみよげの入もよく見れば少しは猿に似たるをかしさ ( 貌 ) 忘れじと堅くも神に誓ひてしならずなじかはかくも戀ふらむ ( 堅 ) 書の月大煙突ゅ渦卷ける煙の末に淡くかかれる ( 煙 ) ふつふっと妻が額にわき出づる汗をかぞへて暑き夏かな ( 額 ) 一夜妻よく泣く人を手にまきて寢がてに明けしをかしき夜かな ( 分 ) 日もすがらほほゑむ入と夜もすがらよく泣く人と二人娶らむ ( 娶る ) ほこりかに人に語りて耻とせぬ淺き戀をも見習ふものか ( 損 ) うら枯れて何かわびしき前栽の雨見るほどに老いし頃かも ( 老 ) ( 明治四十一年十月十日夜 ) 十月二十三日作
市に人りて名なきすぐせをはづべしや花の高きぞ風つよき者 しもざむ 霜寒の筆の趣き市にたへずねがはく神の詩の花たびね さらば君さらば劍の犧をしもここなる市の人にさぐれとか 地に咲かん花の命にうらぶれて市のタの塵を辿る子 めざす方におごりあるべき世と思ひ愛の帆章追うて漕ぐ海 杉にこもる祠タベにそばっ雨ぬるる袂に相よりし欄 ( 明治三十五年十一月一日日記 ) 人の胸に人の心臟を掩ひあへで乞ひしは秋の花にちる夢 秋の胸の悲しみ細き雨のタ旅はかなげの吾は戸に立っ むくろ 眼をとぢて立つや地なる骸の世辿る暫しの瞬きょ戀 小萩咽ぶ雨しめやかに黄昏れぬ愁ひて一人秋をゆく笠 ももは 迷ひては秋の心を風にとひぬ百葉誘うて何地へにぐる ( 明治三十五年十一月二日日記 ) いざさらば又のあしたの思出に叫ばん者よ詩の黄眷 三花枯れの友の世多き黄眷を天なる蝶の羽ぞ羨みし 瞑る花の風にめざめし瞳上げてふと巨虹の光よぶ朝 若くして人の世に見る才まねばずかくて胡蝶の羽摧くタ こころ あめ おほにし じるし
247 、君 か舌 な 人國 る が見 こ度 ーよ隣 と故住文 の君蒲逃 愚 し高 と如 い度 カゝ 今白 な み行 る 爾物 イ可日 ま花石追 い群 よ と 呼ず び て 人大 限手 べ十 や だ怖忘貪 っ と輪 く て來 ずむ し大君水 猶ー 7 る人 の る來 は媼要 ぬ ( 明治四十一年 ) 愚饒女 の い何一 か さ の は な り し を れ て 歸 を を ふ わ が の 日 も た よ き 袖 見 ゆ 笛 き て け り 七わ な き ま む と く 交 り て 日 や怖一見ー 人 り 年 月リ て 返 り と な か り し を ム ぐ みィ の 路 : 天 よ り 眼 の ノ、 道 あ り て 跨 る 歳「 し て 窓早團 く 多 き よ り 拔 け り の 吹赤動 こ寢ー た る た ち ま ち と な り 無 廣 く あ た づ ま で ぐ オし ど 我 を ひ て く る の み な る し て 聞 け い づ れ も 意 0 味 あ が と わ 心、 ば臟火 を り 水 日日 か盤栗し な ら て し冷許 を た盛少 る の罌け木 わ れ て知す ら ぬずー 君 が 冫立 き よ る ゑ み の も ゆ る 躄をだ の を 持 ち り の 女 子 そ、 ゆ く と わ れ の も し 倚 と い づ れ 古 き や し か が か く つ は ら ず い ふ を 聞 き る る の 第 ) る を 願 は ず 人 を ふ と 七 あ ま れ ど も わ れ は れ 中 の 人 を の と な く ろ ろ の た の し み を ら と て 日 カゝ く 生 く