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検索対象: 啄木歌集
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1. 啄木歌集

ふと路にあひて手をとりありしのみ肓ひし人と肓ひし人と ゆくといふ寢むといふよし歸らむといふ更によしやがて死ぬらむ 靑草の中に眠れる少女子の胸の上這ふ紅き蜥蜴よ ( 青 ) 靑嵐さと草なびき白百合を折りて飛び立っ鷲の瞳よ ( 靑 ) 夙く起きてあらしの朝の庭の隅見出でぬ大き黒き袋を ( 袋 ) 銅鑼太鼓耳を聾する中にゐて我はさけたる笛ふくみける 君を見て避けむとひとりつと入りし森に今かっ我は迷へり 紅き血の小さき足音陽に燃えぬ夏の大路の白き埃に 今日一日夏の都をゆく人はおほ天地に居處もなし たへがたき冱寒來れりわれら皆こごえ死なむと一夜眠らず ( 氷 ) 黑髪ぞ日にけに落ちぬいかがせむ死なむばかりに病みしならねど ふづかひ 今日もまた何か我待っ文使に逢ふらむ心地森にさまよふ かくれ住む吾家の庭の白百合の先づほのめきて夏の夜明けぬ 年 あざれたる鮒の目に似る目の色の汚れを戀といふべくば云へ 十 四すでにして我また長き思出の中の一人を思出にける 夏草の曉露に諸脛をぬらすにまさるよき事もなし 入すまぬ館の庭の蓬生の中に見出でし紅き小手鞠 ひとひ とかげ

2. 啄木歌集

119 えびいろ ふる 葡萄色の てちゃう 古き手帳にのこりたる とき あひびき かの會合の時と處かな とき よごれたる足袋穿く時の 気味わるき思ひに似たる おもひで 思出もあり わが室に女泣きしを せうっ ト説のなかの事かと おもひ出づる日 らうたうさ 浪淘沙 ながくも聲をふるはせて たび うたふがごとき旅なりしかな へやをんなな こゑ おも こと ひ ところ

3. 啄木歌集

246 すでにして我また多き思出の中の一人を思出にける 枕邊の瓶の白百合その中に一輪赤し我は慰む もの借りて未だ返さぬその人の娘に似たり我は逃げにき かくれて 三つの窓その何れより見ゆるやとわが眼ひまなし墻に 勸工場目をひく物のかず / \ をならべて見する故によろこぶ とけなき日のわが友は今も猶したしき如く我に物言ふ 初めよりいのちなかりしものの如ある砂山を見ては怖るる まなす 瀁薔薇 わが友は北の濱邊の砂山のはまなすの根に死にてありにき 女らよ我醉ひにけり衣みなすてて躍らむいかに歌ふや やよ柱カ角せむやといひて汗出づるまで推せど動かず 饒舌の人よりのがれ歌はざる花に對 ~ どいまだ足らはず かの入とかの人しらべ迷ふ時來りし故に君をとりにき 鼻少し曲れるひとと髪赤き入に戀はれて泣きて怒りぬ らうがはし我をとりまき爭ひぬ歌ふことなき少女子の群 それゆゑに我なほかくも老いざりと數々の名をいひてほこれる われ切に切にねが ~ り遠方にはなれて思ふ名のみ知る戀 くわんこうば ちからかく かめ むか

4. 啄木歌集

わが母の腹に人る時われ嘗て爭ひし子をこの日見出でぬ ただ一目見えて去りたる彗星のあとを追ふとて君が足踏む 身構へてはったと我は睨まへぬ誰そ鬼面して人を嚇すは しりぞ もろともに死なむといふを卻けぬ心安けきひと時を欲り 野に誘ひ眠るを待ちて南風に君を燒かむと火の石を切る 日くれがた先づきらめける星一つ見てかく遠く來しを驚く をとめ 待てど來ず約をふまざる少女みな殺すと立てる時君は來ぬ 水晶の宮の如くに數知れぬ玻璃盃を積み爆彈を投ぐ 百萬の雲を一度に壓しつぶす大いなる足頭上に來る 君に逢はず森を出でむと豹よりも大なる蜘蛛の網にかれる 風すこし枝に騒げり老木の槲試みに一葉を投ぐ 「エ人よ何をつくるや」「重くして持つべからざる鐵槌を鍛つ」 風樓に滿てり人みなさかづきを置けども未だ大雨來らず 一我怖る昨日枯れたる大木の根に見出でたる一寸の穴 をとめご 無事にゐて倦むを知らざる少女子は早くも我に倦まれけるかな かんすゐ 誰そ雲の上より高く名をよびてわが酣睡を破らむとする われ君を殺さむかくも戲れし宵より君は我を怖れず はりはし

5. 啄木歌集

238 わく 1 」 若子らは手とりゑ笑ひ歌うたひ橋をよぎりぬ吹雪する夜も もの言はぬつれなし人は火の消えしすとうぶに似て凭れど冷たき にの 肚に一の大いなる玉得っと云ひ仄に紅める君が頬を吸ふ 手に手をとり君ともいはぬ一時のありし日故に忘れずと泣く ( 明治四十一年一月二十九日「釧路新聞」 ) 花の下たもとほる子は行きずりの袖の香りに物言はせけり 春の鳥深山木出でて鳴くといふ日にこそ君が庵は訪はまし 冬の日はほのかながらも温かき思出のごと窓に照りぬる 〇 たうたうと胸の鼓の鳴るを聞き物をも言はず盃を見る あめっち 天地にすがる袖なしおのづから手は汝にゆくあはれ盃 「君よいざ死なまし」かくも我醉ひて物思ふ人の膝に枕す 北の海鯨追ふ子等大いなる流氷來るを見ては喜ぶ かすが 春日なる若草山の若草の萠え出し頃と君を訪ねぬ ( 明治四十一年二月二十一日「釧路新聞」 ) 雪のごと櫻花散る日なりけり君と手をとり山路ゆきしは 春の山うぐひす鳴けば一しきり花散りすぎて日こそかぎろへ なれ

6. 啄木歌集

270 ( 明治四十一年八月八日 ) 徹夜百首會吟於千駄ヶ谷 夏三月かたりてつきぬ思出に富む人なれど錢は持たざり ( 錢 ) 一人ゐて思ふこと多き夜なるかないたづらに明き月に對ひて ( 徒ら ) 今の世の淸女を見まくはろばろと都にこそは上り來にけれ ( 女の許につかはしける ) 今も猶戀に死ぬ入ありかかる大事は史書に記すべかりける ( 歴史 ) 年若き今の世の我も古への老いし旅人も讚ふるは酒 ( 今の世 ) すでに三日見ずて過ぎけるその人を最も遠き星と呼びける ( 最 ) 美しきもの永久にありとせばかかる心も死なざるものか ( 美 ) 後の日を語りきそへる中にゐてかなし我のみ思出をいふ ( 談 ) もち 望の夜の月のごとくにまどかなるはた靜かなる戀なきものか 誰ぞと名をとはれて答ふ天地に似るものもなき我に名はなし ( 名 ) かかることあるもよからむと直ならぬ心に帽をおきてかへりぬ わが宿の障子ことごと張りかへし日より今年の秋立ちにけり ひとひ かかる事常にもがもな今日一日爲すことなしに心足らへる 深きこと我を見つむる少女子の黒き瞳にロ 汝くものぞなき 曇りたる空の面を減茶苦茶に槍もて突かば魚か降り來む ( 曇 ) たびと

7. 啄木歌集

290 南枝集 うつくしき敵のなかに一人ゐし若きがほどの誇りをおもふ 日もすがら繩綯ふ如く日もすがら同じこと思ひ漸く倦みぬ けむ 煙草の煙ゆるやかに這ふ天井を眺むることが癖のやうになりぬ 既にして靜かに思出づる日となりき七月ばかり經しのち ひとこと 一言に足るべかりしを戀ふればやまはりくどくも言ひつつありき ( 明治四十二年一月十四日「ス・ハル」一ノ ll) 〇 同じこと釣瓶落しにたたみかけ逢ふたびに泣く根気にまけぬ ( 疊 ) 我妻のびんすきてみゆる圓き禿それにまされる目の毒はなし ( 毒 ) つも逢ふ赤き上衣をきてあるく男の眼この頃気になる ( 衣 ) をかし / 、肓目は大にほえられて杖ふりあげてわっと泣き出ぬ ( 盲 ) その前に大口あけてあくびする迄の修業は三年もかからむ ( 修 ) 家を出で野こえ山こえ海こえてあはれどこにか行かむとおもふ ( 越 ) 我よりも強き女の手とりしが蓋し第一のしくじりなりき ( 第 ) 君に告ぐ敢てまた世の女に告ぐ我は男の權利もて戀ふ ( 告 ) 戀人の花簪を盜みたる時より盜む癖がっきにき ( 簪 ) かたき

8. 啄木歌集

124 くらし いそがしき生活のなかの とぎをり もの 時折のこの物おもひ たれ 誰のためぞも しみじみと かた 物うち語る友もあれ かた 君のことなど語り出でなむ 死ぬまでに一度會はむと 言ひやらば ぎみ 君もかすかにうなづくらむか とき 時として ぎみ 君を思へば やす こころ 安かりしらにはかに騷ぐかなしさ きみ もの いちどあ さわ

9. 啄木歌集

129 あたら つくづくと手をながめつつ おもひ出でぬ じゃうず キスが上手の女なりしが さびしきは 色にしたしまぬ目のゆゑと 赤き花など買はせけるかな ほん 新しき本を買ひ來て讀む夜半の そのたのしさも 長くわすれぬ 旅七日 かへり來ぬれば あか わが窓の赤きインクの染みもなっかし なが たびなのか はな まど て をんな め し よは

10. 啄木歌集

ほかげ 燈影なき室に我あり はは 父と母 かべ 壁のなかより杖つきて出づ たはむれに母を背負ひて かろ そのあまり輕きに泣きて 三歩あゆまず 飄然と家を出でては くせ 飄然と歸りし癖よ 友はわらへど ちち せき ふるさとの父の咳する度に斯く 咳の出づるや 病めばはかなし さんぽ とも へうぜん へう懸ん かへ はは われ たび