わが泣くを少女等きかば 病犬の 月に吠ゆるに似たりといふらむ 何處やらむかすかに蟲のなくごとき こころ細さを 今日もおほゆる やまいぬ つき と暗き おも あなこころす 穴に心を吸はれゆくごとく思ひて ねむ つかれて眠る こころよく われ 我にはたらく仕事あれ それを仕遂げて死なむと思ふ な と め しごと し むし
て どうなりと勝手になれといふごとき わがこのごろを おそ ひとり恐るる。 手も足もはなればなれにあるごとき ねざめ ものうき寐覺ー ねざめ かなしき寐覺ー みすばらしき鄕里の新聞ひろげつつ、 ごしよく 誤植ひろへり。 今朝のかなしみ。 たれ われ 誰か我を おも ぞんぶんしか 思ふ存分叱りつくる人あれと思ふ。 なに こころ 何の心ぞ。 かって しんぶん ひと
186 おも 思ふこと盗みきかるる如くにて、 むね っと胸を引きぬ ちゃうしんき 聽診器より。 看護婦が徹夜するまで、 わが病ひ、 わるくなれともひそかに願へる。 びやうるんき 病院に來て、 つま 妻や子をいつくしむ まことの我にかへりけるかな。 もう嘘をいはじと思ひき それは今朝 ひと 今また一つ嘘をいへるかな。 かんごふ やま われ ぬす てつや うそ ねが
278 一人泣くそのたのしみにかへらむといふまでなりと言ひて別れぬ わが森に人り來るは誰そ高らかに歌うたひ靑き馬車を驅りつつ わかうど 旭子ののぼるが如く雄雄しかるわが若入は森を出できぬ 春の雨三日ほど降りて萠えいでし名もなき草も紅く蕾みぬ 戀がたきやよ來て我と鬮を引け神はひとりを選びたまはむ わが戀をうた。、 カふべくば朝來り明るくなるも不可思議とせよ 今日のみの春の日低しすこしだに早くな撞きそ寺寺の鐘 ものいみ 花の下われを呼ぶ子をあなかまといひて避けきぬ物忌の日に 音もなく雪降りくるを大空に眞白き鳥の死ぬやと思ふ ( 音 ) 淺綠くゆる木の間に三日月のほのめくほどに思ひそめてき ( 三日月 ) すくなくも春さりく れば草も木も花咲くほどの心もて思ふ 朝霧の中飛ぶ鳥の影よりもややさやかにぞ思ひなりぬる 風こそは物よく知らね萬人の胸にも入りつ出っ吹くなれば ゑみ わが笑を君の涙に消しゆきて殘るところはいささかもなし かかる日のかかるタにかかる事ありて別ると待ちしならねど 手なふれそ毒に死なむと君のいふ花ゅゑ敢て手ふれても見む ( 毒 ) をとめふらここ わが少女鞦韆に乘りひもすがら動きてあれや捉へがたかり ( ぶらんこ ) ばんにん
8 あたら め なにおも 何思ひけむ 物もちゃ 玩具をすてて、おとなしく、 そば わが側に來て子の坐りたる。 くトしもら わす お菓子貰ふ時も忘れて、 にかい 二階より まち ゆきき なが 町の往來を眺むる子かな。 新しきインクの匂ひ、 し 目に沁むもかなしゃ。 あを つか庭の青めり。 ひとところ、疊を見つめてありし間の その思ひを、 かた 妻よ、語れといふか。 つま とき たたみみ にほ
山に居て海の彼方の潮騷を聞くとしもなく君を思ひぬ 物いはぬつれなし人とただ二人あれば日長し春ならなくに ( 明治四十一年二月二十七日「釧路新聞」 ) 冬の磯 冬の磯氷れる砂をふみゆけば千鳥なくなり月落つる時 君を見て我は怖れぬ我を見て君は笑ひぬその夕暮に 一輪の紅き薔薇の花を見て火の息すなる唇をこそ思へ 釧路潟千鳥なくなる夜の波の此月影を忘れずと言へ 月のほり海しらみ \ とかがやきて千鳥來啼きぬ夜の磯ゆけば ももくさ たよわ むらさきの花こそ咲きぬ百草の中に選りたる手弱の莖に とや 春の雨夜の窓ぬらしそぼふれば君が來るらむ鳥屋に鳩な おほみづ 頬にったふ涙のごはぬ君を見て我が魂は洪水に浮く 何しかも泣くやと間へど君いはずいざと手とれど君は笑はず 年 ( 明治四十一年三月「釧路新聞」 ) 十 火の如き少女っと出づ虚なる都の響き轟たる中ゅ 明 手に手をとりふと他を思ふ東の間に一人死ぬべき末期を怖る ( 明治四十一年五月十七日千駄ヶ谷歌會 ) さうび
188 おと第′と 藤沢といふ代議士を 弟のごとく思ひて、 泣いてやりしかな。 何か一つ あくじ 大いなる惡事しておいて、 きもち 知らぬ顏してゐたき氣持かな。 ちっとして寐ていらっしゃいと こども 子供にでもいふがごとくに しゃ 醫者のいふ日かな。 ひょうなう 氷曩の下より まなこを光らせて、 寐られぬ夜は人をにくめる。 なに おほ ふちさは ひと した かほ ひか よる おも ひと
184 びやうゐん 病院に入りて初めての夜といふに すぐ寐人りしが、 物足らぬかな。 何となく自分をえらい人のやうに 思ひてゐたりき。 こども 子供なりしかな。 ふくれたる腹を撫でつつ、 病院の寐臺に、ひとり、 かなしみてあり。 ものた なに びやうゐんねだい うご 目さませば、 からだ痛くて 動かれず。 よあ 泣きたくなりて夜明くるを待つ。 じぶん はら ひと
242 流氷の山にかこまれ船ゆかず七日七夜を君をこそ思へ またとなき心ひとつを捧げゐて猶足らじかも身の溲せにける うつむきてまた物言はずかくてしも別れじとするわりなき宵よ 別れきて若草かをる山行けばうぐひす啼きぬ驚きて聞く さカ 物怖づる性にもあればあざやかにゑわらふ人をみて遁れける 醉ひしれしこのひと時に千萬の年もへよかし思ふことなく はるかなる海の彼方の島に似て相見る日なし思ひっかれぬ あか / \ と血のいろしたる落日の海こそみゆれ砂山來れば 逢ふといふそのうれしさに暗がりの磯の木原もおそれずといへ しゅこ 我がどちは心おくべき家もなし手をとる子なし酒壺に枕す ざ舞はむかざす櫻の一枝と君がみ手とる我醉ひにけり 春の海ああその沖をゆく舟のたよりもきかず君のこひしき うたたね 春の鳥なく日の山のかげともに若草しいて假寢ぞする 君來らず盃を見てゆふぐれの海の景色に心すさぶも 春の雨をちかた入の涙にしこころ濡るるとわりなきタ ( 明治四十一年六月十六日「心の花ー十二ノ七 ) 六月二十三日夜半より曉まで
271 ( 明治四十年 ) 女書煙草しかして手ごた ~ のある敵一人あらば足りなむ ( 仇 ) かかるをも悲しとせざる心をば君より得っといひて別れぬ 手初めに先づ富士山をくづさむと我言ひ君は睛やかに笑む 戀あるは戀に死ぬらむ才あるは才に死ぬらむすべて死ぬらむ ( 才 ) 時すでに熟せりとして天日にまづ第一の矢を放ちける ( 天 ) 今も猶春くる毎にしきしまの大和の國は櫻ぞ咲きける はたたがみ 來む世には霹慮神とも生れ來て心ゆくまで鳴りて死になむ 木も草もはた少女子の目の色も衣も異る國に來にけり ( 木 ) わが思ふ靑き靑き花いづらにか咲くらむ君の目にぞうつれる ( 眼 ) 遠方に三度ばかりも鶏なきて夏の夜明けぬ萱草の原 ( 萱草 ) かかる日は白き蛇など來て指をかめなど思ふうつけたるかな ばんり まどかなる月の照る夜は靜かにも萬里が歌を誦してありなむ 物の屑あつめて焚ける煙さへ天にのぼれりたゆたひもなく ( 屑 ) 一夜をこめてかくも寢らえぬ心をば昔の人も嘆きてありけり ( 夜をこめて ) しののめの空の下には時じくにうす紫のしづくするらむ ( しづく ) あかあか 明々と月てる大路大跨に歩みてゐたり一人の肓人 ( 肓 ) 大いなる都の中に我のみはなすこともなし死なむと思ふ ふみ かけ めしひ