としょぐら ~ ・、カまノ 學校の圖書庫の裏の秋の草 黄なる花咲きき 今も名知らず はなち 花散れば まづ人さきに白の服着て家出づる われにてありしか あね こひびと 今は亡き姉の戀人のおとうとと なかよくせしも かな 悲しと思ふ 夏やすみ果ててそのまま かへ 歸り來ぬ わか け , し 若き英語の教師もありき なっ ひと はなさ しろ ふくき あき くさ
212 灯ともしてやがてまたよむ經のみ聲尊みてらの戸により聞きぬ ほそき / \ 情のきづないや細く小雨さながら闇におくりぬ 紅ふくむみ袖やおもきらふたげのたけのくろ髪おばしまの君 わかち 宵ひと夜あけの焔のもえて今朝冷えしの若血腕のふるひょ さびしげの裳裾ゃながき秋のみ神か細きこゑを松の稍に もやの袖おぼろのそらの春の神歌やめすらむ月姫のみや ゆり 野の花の淸きにしかぬ世のえよきたれや君の二十八宿 ( 星の歌の中に ) ひともと 今日の秋かぜよあめよの野の中にすくせやなにぞ一本女郎花 ゆりのそのにふと見てゑみし人よその紅絹の袖ロただ紅かりき ととせ 十年朽ちて入ゆかざりし堂の戸の隙より洩るる白檀の烟 あけ タ照の紅きむらさき朱の雲いろさまん \ に思ひおもふ吾 見ずや君そらを流れしうるはしの雲のゆくへの理想のみ國 花ひとっさけて流れてまたあひて白くなりたるタぐれの夢 なにか神のささやく如きここちしてそぞろ思ひにさまよひゆきぬ あきの夜のそぞろの夢よおばしまにうすむらさきのもすその女神 今日の秋泉の水にもたえの子つきじのあまきなさけを知りぬ 野の月に冴えしや銀の笛の音の淸しさびしのそぞろの調べ
268 我あまり醉ひてあばれて海中に投げ人れられき袋せられて ( 著し ) 幻の霞ひく野をよぎる間に我が半生は歩みつきにき われ一人なきて走りぬ賑へる巷に大の吠えて追ふゅゑ われつねに一人歩みぬわが父の葬りの日にも遠き旅にも わが船は積みぬ女人のいつはりを紅の緖に貫ける珠數ども かがやける瞳何見るかの空のその一ところ渦卷くを見る 來む世には泣くといふことなき國に生れてしがな我ら二入は 人一人えむとするなるいと小さき願ひも遂げずいっか老いけむ 山たづねそのいただきの石の上に父が黄金の沓見出でにき ふと深き怖れおばえぬ昨日まで一人泣きにしわが今日を見て 見よ今日もかの靑空の一方のおなじところに黒き鳥とぶ 笑むといふはた泣くといふ世の常の心に慣れて父となりにき 月明き秋の海邊の白砂に高く笑ひてかなしかりけり ただ一人海に向ひて高らかに歌ふさびしき人となりにき うみふなよそひ 筑紫なる下り松濱その濱のあかっき湖に艤せよ いと若き萩の芽にふく紫の朝の小雨に髮洗はまし きぬ よきものの數にかぞへて新らしき衣も髪こき人妻の目も によにん くっ
144 はすぬま 白き蓮沼に咲くごとく かなしみが 醉ひのあひだにはっきりと浮く かべ わかをんなな 若き女の泣くをきく たび あき 旅の宿屋の秋の蚊帳かな 取りいでし去年の袷の し なっかしきにほひ身に沁む はつあき 初秋の朝 気にしたる左の膝の痛みなど なほ つか癒りて あき かふ 秋の風吹く しろ やどや あさ さ ひざ あはせ み
8 雨つよく降る夜の汽車の しづくなが たえまなく雫流るる 窓硝子かな 眞夜中の くちあんえき お 倶知安驛に下りゆきし をんなびん ふる 女の鬢の古き痍あと あき かの秋われの持てゆきし しかして今も持てるかなしみ なみき アカシャの街にポ。フラに あき かを 秋の風 吹くがかなしと日記に殘れ あ まどガラス まよなか さつぼろ ふ きす よ きしゃ
110 な ごおと鳴る凩のあと かわ ゆきま 乾きたる雪舞ひ立ちて はやしつつ 林を包めり そらちがはゆを 空知川雪に埋れて み 鳥も見えず はやし 岸邊の林に人ひとりゐき せきばく 寂寞を敵とし友とし ゆき 雪のなかに なが いっしゃ 5 ・おく 長き一生を送る人もあり きしゃ いたく汽車に疲れて猶も きれぎれに思ふは 我のいとしさなりき きしペ われ てき こがらし ひと とも た ひと なほ
わすき 忘れ來し煙草を思ふ ゆけどゆけど やま ゆき きしゃ 山なほ遠き雪の野の汽車 あか うす紅く雪に流れて いりひかげ 入日影 きしゃ 曠野の汽車の窓を照せり はら 腹すこし痛み出でしを しのびつつ ちゃうろ 長路の汽車にのむ煙草かな のりあひ へいしくわん 乘合の砲兵士官の けん 劍の鞘 な がちやりと鳴るに思ひやぶれき あらの さや とほ きしゃ ゆき なが まど の
何がなしに さびしくなれば出てあるく男となりて みつき 三月にもなれり やはらかに積れる雪に うづ 熱てる頬を埋むるごとき こひ 戀してみたし かなしきは いちねん 飽くなき利己の一念を 持てあましたる男にありけり 手も足も 室いつばいに投げ出して しづ やがて靜かに起きかへるかな なに へや をとこ ゆき をとこ
り 0 こころきた おほどかの心來れ あるくにも 腹に力のたまるがごとし ただひとり泣かまほしさに 來て寢たる やどや 宿屋の夜具のこころよさかな 亠久よさは こじき 乞食の卑しさ厭ふなかれ しか 餓ゑたる時は我も爾りき 新しきインクのにほひ 栓拔けば 餓ゑたる腹に沁むがかなしも はらちから あたら せんぬ とき はら な われ
をさなき時 くそぬ らんかん 橋の欄干に糞塗りし 話も友はかなしみてしき しゃうがいつま おそらくは生涯妻をむかへじと わらひし友よ 今もめとらす あはれかの めがね 眼鏡の縁をさびしげに光らせてゐし をんなけうし 女教師よ 友われに飯を與へき その友に背きし我の 性のかなしさ さが はなしとも そむ とき あた われ ひか