眞夜 - みる会図書館


検索対象: 啄木歌集
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1. 啄木歌集

320 ふるさとを出でて五年、病をえて、・ ふるさとに入りて先づ心傷むかな・ ふるさとのかの路傍のすて石よ・ ふるさとの空遠みかも高き屋に・ ふるさとの村醫の妻のつつましき・ ふるさとの父の咳する度に斯く ふるさとの土をわが踏めば何がなしに・ ふるさとの停車場路の川ばたの ふるさとの寺の珥のひばの木の ふるさとの寺の御廊に踏みにける・ ふるさとの訛なっかし停車場の・ ふるさとの麥のかをりを懷かしむ・ ふるさとの山に向ひて言ふことなし 古新聞 ! おやここにおれの歌の事を・ 古手紙よ ! あの男とも、五年前は、・ 〔解剖せし蚯蚓のいのちもかなしかり〕・ へ へつらひを聞けば腹立つわがこころ 燈影なき室に我あり父と母・ ほそぼそと其處ら此處らに蟲の鳴く・ ほたる狩川にゆかむといふ我を ほとばしる喞筒の水の心地よさよ・ : ・一九一一類にったふなみだのごはす一握の・ ほのかなる朽木の香りそがなかの ・大三類の寒き流離の旅の人として・ : 七八 ポロオヂンといふ露西亞名が、何故ともなく、・ 本を買ひたし、本を買ひたしと、あてつけの・ ぼんやりとした悲しみが、夜となれば、・ : 七四 マ : 七五 : ・一九三舞へといへば立ちて舞ひにきおのづから・ 卷煙草口にくはヘて浪あらき・ まくら辺に子を坐らせて、まじまじと・ : 九五 枕辺の障子あけさせて、空を見る・ : 七五 負けたるも我にてありきあらそひの 眞白なる大根の根の肥ゆる頃・ 眞白なるラムプの笠に手をあてて・ ・契眞白なるラム。フの笠の瑕のごと マチ擦れば二尺ばかりの明るさの・ 松の風夜晝ひびぎぬ人訪はぬ・ ・一三待てど、待てど、來る筈の人の來ぬ日なりき、・ 窓硝子塵と雨とに曇りたる・ 眞夜中にふと目がさめてわけもなく・ 眞夜中に供知安驛に下りゆきし・ 眞夜中の出窓に出でて、欄干の まれにあるこの平なる心には ・ : 一 0 三 : ・一五四 : ・一大四 : 犬

2. 啄木歌集

148 こひ あはれなる戀かなと つぶや ひとり呟きて ひをけ 夜半の火桶に炭添へにけり 眞白なるラム。フの笠に 手をあてて ものおも 寒き夜にする物思ひかな みづ 水のごと からだ 身體をひたすかなしみに わぎ ゅふべ 葱の香などのまじれるタ とき 時ありて ねこ 猫のまねなどして笑ふ み - そち 三十路の友のひとり住みかな さむ ましろ すみそ わら

3. 啄木歌集

秋の風我等明治の靑年の危機をかなしむ顏撫でて吹く 時代閉塞の現状を奈何にせむ秋に人りてことに斯く思ふかな 地圖の上朝鮮國にくろぐろと墨をぬりつつ秋風を聽く 明治四十三年の秋わが心ことに眞面目になりて悲しも ( 明治四十三年九月九日夜「創作」一ノ八 ) 十月十三日夜 一三こゑロ笛かすかに吹きてみぬねられぬ夜の窓にもたれて むらさきの袖たれて空をみあげゐる支那人の目のやはらかさかな わが手とりかすかに笑みて死にし友その妹も病むと今日きく きす 酒のむが瑕にてありしそのかみの師のあやまちを今日はわれする ととせ とし子とは君が名なりき十年のち今は我子につけて呼べる名 何よりもおのれを愛し生くといふさびしきことにあきはてにけり 〇 けな 三人がみな恐れていたく貶すこと恐れえざりしさびしき心 四雄々しくも死を恐れざる人のこと巷にあしき噂する日よ 死 病める兒のむづかる朝の食卓よ旅をおもひて箸をはこべり ふたみ

4. 啄木歌集

用のある人のごとくに家を出で上野の山に來て落葉踏む 子のために買ひしおもちゃの機關車をもてあそびたる朝のひと時 ( 四十三年十二月「ス・ハルー二ノ十一 I) ヒ一ニチクルシクナリヌアタマイタシキミノタスケヲマッミトナリメ ( 明治四十三年十二月二十六日宮崎大四郎宛 ) 明治四十四年 ( 二十六歳 ) っと暗き小路を出でて街燈を見あげし女下谷の女 つるはし 眞夜中の電車線路をたどり來て鶴嘴を打っ群をおそるる 寂寞として東京の夜の更けし頃あ、、かの話聲何を語るぞ ( 明治四十四年一月「秀才文壇」十一ノ一 ) 方角 謀叛気の起る夜ほどわがいのち惜しき時なしかなしき時なし ( 明治四十四年一月「創作」二ノ一 ) 今年も 今年こそ何か気味よき事せむと今年も誓へり元日の朝

5. 啄木歌集

8 雨つよく降る夜の汽車の しづくなが たえまなく雫流るる 窓硝子かな 眞夜中の くちあんえき お 倶知安驛に下りゆきし をんなびん ふる 女の鬢の古き痍あと あき かの秋われの持てゆきし しかして今も持てるかなしみ なみき アカシャの街にポ。フラに あき かを 秋の風 吹くがかなしと日記に殘れ あ まどガラス まよなか さつぼろ ふ きす よ きしゃ

6. 啄木歌集

275 ( 明治四十年 ) 西方の室の眞白き雲の上誰ぞ泣くらしき秋の風吹く ( 明治四十一年九月五日 ) 平野宅徹夜會 瀧夜の庭を埋めて梨の花降りしきる下に琵琶ひきにけり ( 琵琶 ) 大輪の白菊さけるそが下に蓆しかせつ月入らむまで ( 菊 ) ただ一人野邊にもとほり藪かげに歌ふ小鳥に物いひてみる ( 藪 ) 古の歌の聖もくさめして見けむかかくも傾く月は ( 嚏 ) 啄木鳥は何の鳥ぞも千代かけて歡樂山の山の邊に住む 置洋燈手を出し舌を出すとみてうたたねさめぬ夜ぞ更けたんな 小みなび ほととぎす 神無備の杜のほとりの郭公今もよ啼かめ古へのごと いね 夜の鳥夜毎に來啼く森近に家しぬればや寢らえず夜頃 啄木鳥の木つつく音を心あてに君をたづねて森にさ迷ふ 草摺の衣よろしもうち繁る草に臥し日の心おもほゅ わたごろも 一櫻こそ春の王子なれくれなゐの綿衣きておよずけ給ふ うぐひす 一枝折り二枝折りて三枝の梅折るときに黄鳥のなく わが爲さむこと世に盡きてあはれかく日毎物をば思へるものか 空の色褪むる日あらば刷毛をもて塗れよと海は青き水湛ふ びと ふた みつ

7. 啄木歌集

( 明治三十七年二月十三日 ) 雛の夜 大鐘を海に沈めて八百潮に巨人よぶべき響添へばや しら甕を胸に羅馬の春の森上っ代ぶりのわが妻わかし 枯花に冬日てるごとわが歌ににほひ添ふとか戀燃えてくる あめ 光さす天の柔羽の夢ごろも我をめぐりて春の夜下りぬ 小桔梗はすてて眞白の雛菊を妻に撰りつと「秋」の息鋧し ( 明治三十七年三月「明星」辰三 ) 我心二つ姿とならび居て君がみもとにとはに笑ままし ( 明治三十七年秋上野さめ子宛 ) 明治三十八年 ( 二十歳 ) 凉月集〔せっ子夫人と連名〕 まどろめば珠のやうなる句はあまた胸に蕾みぬみ手を枕に 靑梅は音して落ちぬほととぎす聽くと立つなる二人の影に 薄月に立つをよろこぶ人と人饒舌なれば鳥ききそれぬ 宵闇や鳥まっ庭の燈籠に灯人れむ月のほのめくまでを やはは

8. 啄木歌集

231 ( 明治四十年 ) 春月は高士臥すなる大林の若芽する夜にさしそひにける ( 明治三十九年三月十三日日記 ) 明治四十年 ( 二十二歳 ) 汗おぼゅ津輕の瀨戸の速潮を山に放たば青嵐せむ 朝ゆけば砂山かげの綠叢の中に君居ぬ白き衣して タ浪は寄せぬ人なき砂濱の海草にしも心埋もる日 面かげは靑き海より紅の帆あげて來なり心の磯に 海をみる眞白き窓の花蔦の中なる君の病むといふ日よ みなせ 早川の水瀨の舟の靑の簾を斑に染めぬ深山の花は 何處よりか流れ寄せにし椰子の實の一つと思ひ磯ゆくタ 燈籠に灯入れて夜の鳥待っと靑梅おつる音かぞへ居ぬ つはりて君を戀しといひけるといつはりて見ぬ人の泣く日に ( 明治四十年五月十一日日記 ) 曾保土 人らしき顏してすぐる巷人のひとりびとりを嘲みて行く日 戀を得ず酒に都に二の戀に人はゆくなり我虚無にゆく こうじん みやま きぬ あざ

9. 啄木歌集

289 ( 明治四十二年 ) 正行寺記念歌會作ー故玉野花子女史忌日にー 燐寸をすり眞暗き路になげてみぬ消えたるあとのさらにおそろし 何事か大事を一つ企てし如し君みし後の心は はなやかにそがひの窓の外にうたふ聲をききつつ涙流れき かの女羞づべきことをことさらに眞面目に言ふもをかしくありき 春の暮戀なき人もそれとなく戀ふるが如き眼してありきぬ 再びと相逢ふことのなかるべき人にまじりて春の街ゆく 久しくも思出でざりし人の名を思ひ出す時は、フれしかりけり 大木の幹に耳あて小半時何も思はでありしをかしき 山路ゆけば馬車の轍ににじられし赤き櫛ありき秋の木曾路に 赤き花いれて名書かぬ袋五年まへに贈りたりしが 緩やかにたばこの煙天井にうづをまけるを眺めてありき 何事かいと聲高にあげつらふ二人にあひて怖れし君かな 障子一重それをあくれば化物の出るかとおそれ冬の夜いねず ( 明治四十二年一月十四日 ) かなしげに巷の家の高低の泳げるなかに冬の日の舞ふ ( 明治四十二年一月二十六日「國民新聞」 )

10. 啄木歌集

おのが時來るとやうにも高歌して秋を迎へぬ物思ふ人 一片の玉掌におけば玲瓏として秋きたるその光より おほぎみ 若き日はかへることなし燭を增せ我も舞はむと大王泣くも ( 明治四十一年十月「明星ー申九 ) 觀潮樓歌會作 烏羽玉の夜に包まれて立っ山のもだせる心人知るらめや ( 夜 ) 猿の子の木より落ちたる驚きに似たり今かく君を忘れて ( 落 ) 七人の中の一人のだきしめし髪の長きをよしと思ひぬ ( 髪 ) とある時とある處の白砂に指もてかきし名とも思ひき ( 指 ) あるところの砂に指もて書きしより長くその名の心にありき ( 指 ) 黄金の香爐があるらし東海の空はくゆれる春のあけぼの ( 香 ) 老人の諍ひするは醜くかり髑髏と髑髏相物むがごと ( む ) わが鼻は日に / \ 脹れぬ今は目もかくれぬ君をみぬが悲しき ( 脹る ) 年 小鼠のききと皿噛む音寒き夜半の埋火戀しかりけり ( 鼠 ) 十 四 ( 明治四十一年十月三日 ) 明 千駄ヶ谷徹夜會作 時計の音チクタクとひびく眞夜中の廊に往來す重き足音 ( 時計 ) いっぺん いさか