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検索対象: 啄木歌集
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1. 啄木歌集

碎けてはまたか ~ しくる大波のゆくら / \ に胸をどる洋 ( 石の卷を懷ふ ) 二首 うみ くる、雲をはてを何所としらずして洋覆ふ幕に想ひ入りぬる 濁る波にたヾよひ出でむ想ひぞもうき草つひに紅ならぬ ( 十首出鄕 ) ゆくかた 關を出でて何所としらぬ羽のちから行方なりとて暗指させし さと 行く秋のちる葉憐み留めんとてあわたゞしうも追うて出る鄕 秋の山のにしききて行く我なれば泣きまさゞりしたらちねの胸 くさわかば 踏む道のしもがれ草ぞわれによきかくてか ~ らむ日の草嫩葉 虹の輪のたかき仰ぎてか ~ り見てかざすは秋の詩の袖なりし 暫しさめて再び入らむ聖き夢ゅめはとこし ~ 幸あらむ者 わかれなりとうす紫の袖そめて萬代われに望みかけし人 枯葉見て星を仰ぎて幸の世のみじかかるべき旅をさぶしむ 高き世の高きのぞみと思 ~ ばのこの旅立に辛かりし涙 み文みてその夜がたりを思ひ出て思ひかへして涙に朽つる ( 花鄕兄 ~ ) ( 明治三十五年十一月五日日記 ) ゆく秋の落葉戀ひてぞ朽つるま、あわただしうも追ひし門出や 亂れてぞみ胸そめてぞ姫紫苑秋むらさきの濃きめし玉 ~ ( せっ子さま ~ か ~ し ) ( 明治三十五年十一月六日日記 )

2. 啄木歌集

262 みづみづしこの黑髪に一すぢの白きまじゅる日を信ぜんや つねに我いつはるゆゑにいと拙き汝がいつはりも責むるすべなし その言葉皆疑ひて猶我を愛し給ふと疑はずあり 「何故に手をばとらざる」「見よそこをわが亡き父に肖し人ぞゆく」 われ時に君を殺して國外に遁げなむとしき無事をいかりて ロすこしあきて眠たるを見たるより疎みそめにし君と告げえず 七月十日作 ただ白く白くふる ~ て立ちのばるほそき煙も大空にゆく 陶然と醉ひつる入と陶然と醉ひつる人とありしのみなり 神の山獸の山のその峽にいとうづたかし戀の屍 七月十一日作 高室の雲にしあらば朝にけに汝が家の上を動かざらまし 今日もかくはたや明日またかくあらむ我に倦みにきされば君にも 鳥となり我てふもののいましめをのがれて遠くかけりいなまし すでにして殘れる年を數へむと笑みぞ消えにき今日の悲しみ 籠の鳥ふとなきやみぬ驚きて怖れて君が手より離るる わが涙いまだ干なくに思出は君より君に肖ざる子にゆく かひ まづ

3. 啄木歌集

朝霧のほのになりゆく思出をすればやかなし老の迫るや しろかみ なびき寢しわが黒髪の落髮にまじる白髪をよく見れば憂し 七人のその一人をも忘れざる今日をよしともかなしとも見る をさな 物みふくめさとせどきかず寢むといふ稚びたるを愛でて手捲ける さにずら 狹丹摺ひ明けゆく海を一すちにいざ帆をはらむ君がいそべへ やは もの怨む若きひとみのうるほひに見恍けてあれや柔き枕に 千駄ヶ谷歌會の作のうち みたり 三入戀ひ右と左に抱けどものこる一人は抱くすべなし 亂れざる髪と冷たき手をもてるそのかの人も子をば生むてふ 相向ひ千萬年も物いはぬ山の如くにありけりその夜 手なふれそ我火を病めり手なふれそのがれよいざと君を追ひゆく ( 明治四十一年七月十六日作 ) 徹夜會席上作 年 何人も讀むことしらぬ文字を我學ばむとして君に來りぬ 十 初卯の日そのタベより燃えそめし山巓の火ぞ消ゆる事なき 明 おどろきぬふと我が前に大いなる赤毛の獸うづくまる見て 登りたる人なき山の絶頂に立ちて帽子をふれるひとあり

4. 啄木歌集

みちのくの涯には來ぬれ蕗の葉の下に家する人もあらなくに と高き窓に住まばや初雁のこゑをさやかに先づ聞かむため あまぐも ほのぼのと明けゆく庭に天雲ぞ流れきたれるしら梅散るも よき事か否かかかるは御心にみづから判じ給ふべからむ それもこれも皆君といふ源に來て今日とけし謎なりしかな 大いなる黒き袋ぞ魚のごと室を泳げり風きそひ吹く ( 袋 ) 醒むる期も知らぬ眠りに入りなむと枕ならべしそのかの一夜 ものごり やごとなき髪のゆらぎに落ちにたる櫛踏み折りし物懲もしき し かいふは菊など活けむ瓶にしも入りねと強ふる君が心か 形あるもの皆くだき然る後好むかたちに作らむぞよき ( 碎 ) 幾山川遠き津輕の早潮の瀬戸をへだてて我等かっ戀ふ しる 二十三ああわが來しは砂原か印しし足の跡かたもなし ( 跡 ) 同じかることを思はむ悲みの盡きずもあれば泣くも泣かぬも あけ たまぐっ 年 一病む人も朱の珠履塵はらひ庭に立たしき春の行く日に 謳その初め相見し庭の一本の桐を枯れざる樹とも呼びにき 明 紫のにほへる衣に重ねたる裘こそ見よげなりけれ かりそめに草の名ききし入ゅゑに今日も我來っここの草山 ひともと かめ かはごろも びとよ

5. 啄木歌集

256 をとめ 夜の家に人りて出でざる三人の少女の下駄をもちてわれ逃ぐ いなづま 相抱くとき大空に雲おこり電光きたりなかを劈く 落ちて死ぬ鳥は日毎に幾萬といふ數しらず稻は實らず 餓ゑし犬皆來て吠えよ此處にゐて肉をあたへぬ若き女に われ死なむかく幾度かくりかへしさめたる戀を弄ぶ入 をとめ 千人の少女を人れて藏の扉に我はひねもす靑き壁塗る 限りなく高く築ける灰色の壁に面して我ひとり泣く 白き鳥っと水出でて天室に飛べりその時君を忘れぬ ひもすがら君見ず餓ゑしわが心大熱の火に黒麺麭を燒く おほぐっ よよと泣く君と破れし大沓と背負ひて我は隣國に遁ぐ 無しと知るものに向ひておほごゑに祈りてありぬ故涙おっ はんげつ りごとせず われ天を仰ぎて歎ず戀妻の文に半月かへ あなかなし かかる最後もありやとて新婚の日の我を弔ふ をみなら 笑はざる女等あまた來て彈けどわが風琴は鳴らむともせず 憂きことの數々あるが故に今君みてかくは泣くと泣く人 にんどう ふるさとの君が垣根の忍冬の風を忘れて年七つ經ぬ 來るごとにもてこし花をもて來ざる日のみいささか君を疎んず だいねっ つんざ をみな

6. 啄木歌集

蹴悄然として前を行く我を見て我が影もまたうなだれて來る 一刹那雷のやうなる哄笑を頭上に聽きて首をちちめぬ 我いまだおのが子を食ふ牛を見ずまた見ず我を愛でぬ女を 一線の上に少女と若人と逢ひてももとせ動かむとせず わが父は何に怒るや大いなる靑磁の瓶を石上に撃っ 祭壇のまへにともせる七燭のその一燭は黒き燭 わが若き日を葬りて築きたる碣にくちづく君は日も夜も その群にふと足袋一つ穿ける人あるを見出でて驚きて去る わが少女室ゆく鳥の影見つつ消ゆるを見つつ膝に死ににき 鐵壁を攀ちてやうやく頂上に上れる時に霧またく霽る まだ人の足あとっかぬ森林に人りて見出でっ白き骨ども 凄まじく山鳴りどよみ既にして一葉おつる音だにもせず 大空の一片をとり試みに透せどなかに星を見出でず けふくぐわっここのか 今日九月九日の夜の九時をうつ鐘を合圖に山に火を焚く 茫然として見送りぬ天上をゆく一列の白き裳のかげ さかばしら 柱みな逆柱なる家建てて二人すめども何ごともなし しる 九十九里つづける濱の白砂に一滴の血を印さむと行く いちえふ をみな

7. 啄木歌集

314 死ぬことを拝薬をのむがごとくにも・ 死ぬばかり我が醉ふをまちていろいろの 死ぬまでに一度會はむと言ひやらば・ 死ね死ねと己を怒りもだしたる 自分より年若き人に半日も・ しみじみと物うち語る友もあれ・ しめらへる煙草を吸へばおほよその 師も友も知らで責めにき謎に似る・ 十月の朝の空氣にあたらしく・ 十月の産病院のしめりたる・ 小學の首席を我と爭ひし・ 正月の四日になりてあの人の・ 小心の役場の書記の氣の狂れし・ しらしらと水かがやき千鳥な しらなみの寄せて騒げる函館の・ 知らぬ家たたき起して遁げ來るが ちりちりと、燭の燃えつくるごとく・ 城址の石に腰掛け禁制の 白ぎ皿拭きては棚に重ねゐる・ 白き蓮沼に朕くごとくかなしみが 眞劍になりて竹もて犬を撃っ 義常のおどけならむやナイフ拝ち・ しんとして幅廣き街の秋の夜の・ ス : 六七 : 充 : 九五 水蒸氣列車の窓に花のごと・ 水品の玉をよろこびもてあそぶ 吸ふごとに鼻がびたりと凍りつく・ すがた見の息のくもりに消されたる・ 過ぎゅける一年のつかれ出しものか、・ すこやかに脊丈のびゆく子を見つつ、 すずしげに飾り立てたる硝子屋の・ すっきりと醉ひのさめたる心地よさよ ! すっぽりと蒲團をかぶり、足をちちめ、・ ストライキ思ひ出でても今は早や・ 砂山の裾によこたはる流木に・ 砂山の砂に腹這ひ初慧の・ するどくも夏の來るを感じつつ 阜れあへる肩のひまよりはつかにも・ セ 寞寞を敵とし友とし雪のなかに・ 宗次郎におかねが泣きて口説き居り・ そうれみろ、あの人も子をこしらへたと、・ そを讀めば愁ひ知るといふ書焚ける・ 底知れぬ謎にむかひてあるごとし・ そことなく蜜柑の皮の燒くるごとき・ その親にも、親の親にも似るなかれ

8. 啄木歌集

ひと夜さに嵐來りて築きたる すなやま この砂山は なに 何の墓ぞも はらば すな すなやま 砂山の砂に腹這ひ はっこひ 初戀の いたみを遠くおもひ出づる日 すなやま すそ 砂山の裾によこたはる流木に み あたり見まはし 物言ひてみる すな . し のちなき砂のかなしさよ さらさらと ゅび 握れば指のあひだより落っ にぎ よ とほ あらしぎた きっ ひ

9. 啄木歌集

313 こころよく人を讃めてみたくなりにけり こころよく我にはたらく仕事あれ・ 心より今日は逃げ去れり病ある 不來方のお城のあとの草に臥て・ こそこその話がやがて高くなり こっこっと空地に石をきざむ昔・ ことさらに燈火を消してまちまちと 事もなく且っこころよく肥えてゆく コニャックの醉ひのあとなるやはらかき・ このごろは母も時時ふるさとの この四五年空を仰ぐといふことが この次の休日に一日寢てみむと・ この日頃ひそかに胸にやどりたる・ 小春日の曇硝子にうつりたる・ こみ合へる電車の隅にちちこまる・ 古文書のなかに見いでしよごれたる・ 小奴といひし女のやはらかき・ 今夜こそ思ふ存分泣いてみむと・ サ さいはての驛に下り立ち雪あかり・ 先んじて慧のあまさとかなしさを 酒のめば鬼のどとくに靑かりし 酒のめば刀をぬきて妻を遼ふ 酒のめば悲しみ一時に湧き來るを・ 札幌にかの秋われの拝てゆぎし・ 「さばかりの事に死ぬるや」「さばかりの さびしきは色にしたしまぬ目のゆゑと 三味線の絃のぎれしを火事のごと・ さらさらと雨落ち來り庭の面の・ さらさらと水の脣が波に鳴る さりげなき高き笑ひが酒とともに さりげなく言ひし言葉はさりげなく・ シ : ・一潮かをる北の濱邊の砂山の・ 〔自が才に身をあやまちし人のこと〕 叱られてわっと泣き出す子供心・ 時雨降るごとき音して木俾ひぬ ちっとして黒はた赤のインク吸ひ ちっとして寐ていらっしゃいと子供にでも・ ちっとして、蜜柑のつゆに染まりたる・ しっとりと酒のかをりにひたりたる しっとりとなみだを吸へる砂の玉 しっとりと水を吸ひたる海綿の ・ : 一三實務には役に立たざるうた人と・ 死にし見の胸に注射の針を刺す・ 死にしとかこの頃聞きぬ戀かたき・ 死にたくてならぬ時ありはばかりに 死にたくはないかと言へばこれ見よと ・・三 0 : 三七 : 大四 O ユ廴プし ・・三へ : 兊 : 究

10. 啄木歌集

( 明治三十五年十一月二十日 ) 冬木立 ふとさめし瞳とぢてぞ安かりし夢のゆくへの闇をおもひぬ はても無うながれて水はかへりこず神に終りのさばき拒むよ あめ みちのく 岩間よぢて天のよそほひ地のひびき朝のひかりの陸奥を見る ( 明治三十五年十二月第三「明星」七 ) 攻瑰 旅は君胸のわかきにふさはずよみだれて雲の北にとき夢 雲をよびて落つる光に袖かさむ甲斐なく祕めし我花冷ゆる 彫りし花は光うつらぬ古壁なりきまばろし雲の影黒うちる ちから 瞑りゆく胸に無限の威とはず暮るる野雲を古調にほこる 枝にふれてうせぬる風のゆくへしらに迷うて落つる袖の葉か森 袖を掩へ世の智に迷ふ胸ひめて歌に秋しるタ花の蝶 五蓬踏みて叫ばむ友の野にありや燃ゆる焔のタ雲の秋 三しゆる鞭の亂れ心を琴にふみて脆き響に果敢な雲見る ( 明治三十五年十二月「盤岡中學校校友會雜誌」 ) 地に下りて秋の霜ふむ蝶や身やかくて寒さのたへ難き世や