ウマ、劣等感、ファーザー・コンプ レックスなど ) でもよい。 したがって、カセはアヤを生むと 同時に、オタカラ、カタキといった ものとも連動している。ひとつひと つの要素を個別に考えるのではな 敵役のことで、「オタカラ」を奪お ~ く、演繹的であれ、帰納的であれ、関 うとする側や、主人公の目的を妨げ ~ 連性を持って案出することが望ま る存在。恋愛モノでは「恋敵 ( 色】しい。主人公の抱えるカセに無関係 敵 ) 」。ただし、キャラクターである ~ なカタキをキャラクターとして配 必要はない。主人公の目的達成に対 " しても、ドラマティックな盛り上が する障害となればよいので、内部か ~ りは期待できないということだ。 ら主人公の心を侵害するもの ( トラ 作劇上は弓削がクライマック スへ向けての敵として機能す るが、物語全体を通して、イヅナと 対峙するのは形代である。カタキは テーマと密接に関わり合う存在がい 活劇やサスペンスにおいては、敵対、 する側はオタカラを主人公から奪う ( または与えない ) 。これはヒッチコッ クのいう「マクガフィン」に近い。 ヒッチコックによれば、マクガフィ ~ 月 , 玄 - 条 ンは「どんな物語にも現れる機械的な 主人公にとって、なにものにも代え ~ 要素だ。それは泥棒ものではたいてい がたく守るべきもの ( または獲得すべネックレスで、スパイものではたいて きもの ) をいう。主人公の目的であり、 い書類」であり、物語の中では重要だ 主人公に欠けているもの ( カセ ) を満た【が、あくまでも物語を進行させるため すものだ。 の道具にすぎない。 笠原はこれを「サッカーの試合にお【しかし、笠原のいうオタカラは主人公 けるボール」にたとえている。絶えず ~ のカセにつながっており、アヤを生み 取ったり奪われたりすることで、ドラ ~ 出すための象徴でもある。笠原の弁に マがどんなに波乱に富んだものであっ ~ よれば、オタカラは抽象的な〈愛〉と ても、核心部分が簡潔明快に観客に理 ~ いったものでもよい ( ただし、物語上でふ = 解される。つまり、どこを追いかけてい は主人公にとっての〈愛〉を具体的に表 し , ししカかわかるわけだ。 す「オタカラ」をつくっておく ) 。 主人公に一番大切なものとし て、本作ではヒロインの一人、 スイネをオタカラとした。骨法十箇 条的には反則だが、彼女を助けるこ と ( 自分にしかできないことを行う こと、必要とされること ) がイヅナ のモチベーションになると考えた。 形代が、覚醒したイヅナと 同じ力を持っていることを 示す部分をミッドボイントとした。 ここは物語の折り返し点であり、形 代が今後イヅナに関係してくること を暗示している。 スイネの秘密や、肉体の移 植をもっと引っ張ることも できたが、本作ではあえて早い解決 を選んだ。彼が成すべきことは悩む ことではなく、何かをしたいと考え、 決意することだと設定した。本作で は「自信を得た少年が才能を自覚的 に用いていく」ことを主眼にしてい るので、壁を前にしたストレスより は「俺 }—DLULLJU 」と呼ばれるカタ ルシスを重視している。 つまり、進退ギリギリの瀬戸際に 立った主人公が性根をみせて運命や 宿命に立ち向かう決意を示す場面 だ。笠原によれば、「ここがないと先 のドラマは視界ゼロとなり、どこに 辿り着くか観客には見当がっかなく 正念場のこと。 なってしまう」。 明智光秀が秀吉への援軍として出 ドラマが複雑化していく際に、サ 陣する際、首途の盃を前にして、突 " ンボウの場面をつくっておけば、そ 然、三方冖サンボウ〕を逆さに打ち返 ~ こで物語がどこへ向かっていくかが し「敵は本能寺にあり ! 」と叫ぶ場面】明瞭になる。 に由来する。 カョ 角 1 形代に呼び出されたイ ツナは、壊れた機装心 臓を見せられ、その特 別な力について教えら ~ ( ~ れる。 形代はイツナを仲間に 、誘うが、、、イツナはその 」・ = 言葉に危険なものを感 じ、拒絶する。 キリネは死合で弓削を 斃す。 弓削の身体を形代が直 す。ィッナはその能力 がタダユキのものと同 》一一じだと気づく。 形代とキリネが一触即 発の状態となるが、ス ィネが発作 ( 拒絶反応 ) を起こしてしまう。 ィッナは形代に促さ れ、 ~ ( 倒れたスイネを運 ぶキリネを追う。 カタキで い目的達成を阻め ィッナはキリネの隠し ていた箱に昨日の少女 の肉体をみとめる。 キリネはスイネが肉体 を奪われ、機装戦騎の 中に意識を封じられて いると教える ( 肉体の 部分が足りないため、 機械との間に拒絶反応 が起こり、スイネは苦 しんでいる ) 。 府スイネを助けたいと願 うイツナはタダユキの 協力を得て、機装戦騎 へスイネの肉体を移植 する。 オタカラを つくれ ! サンボウで 決意を描け ! ミ ポイント ドキドキ : P2 ① 4 P22 ① P229 ッ深夜、オカリナの音色 に誘われ、地下へ潜っ たイツナ。 , 打ち捨てられた機装戦 騎たちのために鎮魂の 曲を奏でるスイネに会 う。 何もできなかった自分 と機装戦騎の残骸を引 き比べ、イツナはスイ ネを助けたいとあらた ノめて決意する。 朝のカフェテリアで茂 武から弓削の失踪を聞 かされ、捜索隊として キリネとスイネが向か う。 円 6 ① 円 15 弓削の失踪 形代との対峙 心の闇読 転換となるエピソード 違いを 描く ! キャラクターを同席、あるいは立ち 聞きさせ、情報を共有させる。 こうした特徴から、日本文学研究 家の亀井秀雄はこの手法を「語りの 経済性冖エコノミー〕」と評した。馬 史可 琴も稗史七則に先座って、自作の評 事情の説明などをくどくどと繰答集『犬蛭子評判記』において、地の り返すことを避けるため、その場の ~ 文での説明が長くなることを避け 会話に参加していない人間に立ちるため、セリフで短くまとめる手法 聞きさせるテクニック。地の文では ~ を「縮地の文法」として提案してい なく、登場人物のセリフとして説明 ~ る。 。させる。 省筆の手法は物語の舞台が拡大 し、キャラクターが重要な場面に居 ) 馬琴は「作者の筆を省くが為に、 看官〔みるひと〕も亦倦〔またたいく合わすことができない際に有効だ。 しかし、この手法を頻繁に使うと、 っせ〕ざるなり」と記している。 省筆の変形としては、「偸聞〔たち】都合よく重要な情報が外部からも ぎき〕」と呼ばれるものがある。これ】たらされる展開が続いてしまい、 は、地の文で記すと長くなりがちなキャラクターが行動しながら情報 事柄を、当事者や関係者のセリフの【を得ていく形にならない。また、偸 中で要約して語らせるものだ。ま ~ 聞や「闕窺〔かいまみ〕」 ( 現場を垣間 た、その場合、キャラクターが伝聞】見る ) といった手法は御都合主義の で話を聞けば繁雑な感は否めない。 誹りを受けかねない。 そこで、当事者たちの会話にその 語りを 省く ! 派手な場面が続いたので、し んみりとした場面とした ( オ リン的な要素としても考えていた ) 。 スイネが心情を吐露することでイヅ ナの決意を裏打ちし、次のプロック へ繋ぐ。 の人は同じけれども、その事は同じ からず」「事は此彼相反冖あいそむ〕 きて、おのづらに対を做すのみ」 : わかりにくいけれど、要するに 0 同じような展開を立場を変えて繰 り返させる手法。 同じ展開であっても、シチュエー たとえば、 < がを捕える話が ションを反対のものにするテク " あったら、逆にが < を捕える話も ニック。 入れておく。こうすることでキャラ 「照対は、牛をもて牛に対〔つい〕すクターの立場の変転や、反応の違い るが如し。その物は同じけれども、】を描き出すわけだ。 その事は同じからず。又反対は、そ 形代に対してイヅナが物体 を開いて攻撃する場面から 唐突な印象を減ずるため、入学式に 同じく機匠である形代が机を展開さ せて空中に乱舞させる場面を入れて おいた。同しことを立場をかえて行 う反対の援用である。 形代は、この場にはいないタ ダユキについて言及する。こ こでサププロットとしてのタダユキ の話はカの使い方を巡る形代との対 立によって、メインプロットへ回収 される。 「力をいかに使うか」という 部分で、形代の誘惑をイヅナ の精神的な危機と見做した。 スイネの肉体が奪われた経緯 についてはキリネの独白調と した。これは会話として提示した場 合、緊張感が損なわれることや、分 量の関係での配慮による ( なので、 省筆の技法を採用したわけだ ) 。
2 2 こんなところにいてもいいの かと思っている ( 自信を持て ない ) イヅナが、スイネの専属に選 ばれてしまう。この展開によって彼 女たちの抱える問題にイヅナは否応 なく、巻き込まれていくことになる。 法。 当初、エミリは設定されてお らす、執筆時に機匠について 説明しやすいよう、あらたに盛り込 まれたキャラクター。キャラを最小 限の人数で組んでおいても実際に書 きはじめると増えていく。 タダユキはメインのキャラ クターとして本作には登場 しないが、イヅナの内側にいる彼の 存在との関係性をサププロットとし て想定している。 サププロットの構築 所詮、物語の理解などは、目の前 にある情報を受け止めることが中心 で、印象の強弱によってバッフアさ れた以前の情報で補完することで成 " 立しているにすぎない。したがって、 軸を増やせば増やすほど、理解が困・ 難になっていく。 だから、サププロットはメインの キャラクターとの関係性でつくって いくべきだし、そうでないと受け手 のほうの情報整理がうまくできなく なってしまう。サブプロットが終盤 において本筋へ回収される必要があ るのも、このためだ。 ておくことをいう。ここでいう趣向よ 今【とは歌舞伎浄瑠璃の作劇用語で、作 品の背景として選ばれた類型的な 「世界」に対し、作者が当時の事件か ら取り入れたり、創作したりして盛 り込む劇的工夫を指す。 伏線に近いが、より間接的なもの 「襯染」と書いて「しんぜん」と読む。 「襯染は下染冖したそめ〕にて、此間に【と解したほうがよいだろう。展開を 理解するための情報を事前に出して いふしこみの事なり」 重要な事柄の趣向を出すために、【おく、設定の事前説明として捉える 数回前から事物の原因や経緯を入れ ~ とわかりやすい 脇役の分担があることを常に意識せ よ、ということ。主役が脇役に、脇役 が主役になるといった形で役割を変 えることもある。これは物語上の視 点移動や、誰が中心になってそのエ 禪」史七彎 ピソードが動いていくかをちゃんと 「主客」は能楽のシテ ( 主役 ) 、ワキ ( 脇】考えるうえで、意識しておくべき原 役 ) の意味。エピソードことに主役・ ~ 則。 視点をタダユキ ( 脇役 ) とし て、イヅナ ( 主役 ) を描くこ とで、この。フロックは主客が入れ替 わったものになっていると見做して もよいだろう。 過去の物語はそのままではか なり長大になってしまうた め、場面によって展開させる手法で はなく、省筆を用いることにした。 回想的に挿入したが、一一人称を用い、 タダユキがイヅナへ語りかける形で 情感を持たせるよう配慮してある。 女教師が機装戦騎への生体移 植に言及する部分は、「謎」 に関連したことを言及する襯染の手 物語の軸を 意識する ! 事前に 情報を出す ィッナたちがいなく なった後、機装心臓が 暴走し、女教師を遅う。 葦矢の働きで事なきを 得る ( 原因がイツナの 特別な力だとわかって いる ) 。 機装心臓の暴走はイヅナの特 別な力を示す伏線でもある。 ー ' 寮住まいのイツナのも とへスイネとキリネが 押しかけ、同居するこ とになる。 機匠のオリエンテーれ「 ションでイツナはエミ リたちとともに、機装 心臓を扱う。 だが、イツナは何をし ていいかわからす、戸 惑う。 円① 3 小学生のころ、仲間は ずれになっていたイツ ナはタダユキと出会 う。 タダユキは「魔法使い」 のような力で怪我をし ていた猫を助ける。 家に車が突っ込んでき てイツナは死にかける が、タダユキは彼を助 け、自分の力を託した。 機装心臓の暴走 ィッナの過去 オリエンテーション 1 カフェテリアの P ① 19 カフェテリアで弓削は ィッナばかりか、キリ一【、 ネやスイネを揶揄す る。 ィッナはスイネを人形 とは思えないと主張す る。 弓削とキリネの対立は 死合へと発展する。 契約の儀 ( 機装戦騎を 整備する専属機匠を決 める儀式 ) 。 冖同じ新入生の機匠・ エミリが教える〕 機装戦騎・《ファイヤー アゲート》を持っ名門 機師の弓削は、キリネ に敵愾心を剥き出しに している。 、イツナは無名の機匠で ありながら、名機・ス ィネの専属に選ばれて しまう。 円 11 転換となる 工ビソード ヤフレで ー存在感を増せ ! 「稗史七則」は滝沢馬琴が記した作劇テクニック 江戸時代の手法だけど、みんなが無意識のうちに 使っていたりもする基本中の基本ー 初めての夜 オリンで 感動させる ! そこで、トラブルをつくる。これは 序破急を意識した構成 ~ 邪魔する人間が現れるという形でも・ しいし、「謎」でもいい。 プロットを立てやすいログライン < 地点から O 地点へ向かうとき、 は、中盤以降の絵 ( 何をするか、ど ~ 直接、向かわせるのではなく、地 んな場面があるか ) が出てくるもの ~ 点を経由させる。それも、 0 地点へ だ。ここに自分の泣きツボ、燃えッ向かう道がなんらかの障害で塞がっ ボといったものがあるなら、あとはているために、迂回する羽目になる そこへ向けて組み立てていけばい : 作劇とはそうしたものだ。何事 もなく、 < から O へ向かうと予定の ただ、作劇初心者のつくる物語の【消化作業にしかならない。 特徴は、「転」「結」しかないという ここで障害を突破することも地 ものが多い。「起」「承」で積み重ね ~ 点へ迂回するのと同じことだ、何も たものが「転」でひっくり返るとい ~ 起こらないことは ( そして、そこに 演出的な意味がないときは ) 描く必 う構成ができてない。常に、すとー ん、すとーんと流れていく。 要のないことだということを肝に銘 これを解消するには、「トラブル ~ じておこう。 ただし、留意すべきは、こうした をつくる」と「トラブルに決着をつ ける」を意識することだ。いってみ ~ トラブルがトラブルを起こすための れば「承」は風呂敷を広げていく過 " トラブルにならないようにすること 程。主人公が目的達成のための行動 ~ だ。あくまでも主人公の目的達成を をするだけでは、ここに波乱はない。 阻む事件でなければならない。 主人公の気持ちをいったん下げて から上げてやることで、振れ幅をつ くってやるわけだ。 失意の中にある主人公が描かれる つイ ことを、「鬱展開」といって敬遠する ト鹵条 ・読者もいるが、ヤブレの場面がない ャブレは「破れ」であり、乱調をい " と、主人公の存在感が希薄になった う。物語の途中にある失敗や危機、落】り、平板な印象を与えることになる。 ち目がこれにあたる。 ャ。フレでの気持ちを引っ張る ことで、ここをオリンとした。 する。つまり、感動的な場面という ことだ。 笠原はこれを、ヤプレの後、ヤマ の一歩手前あたりに配置するよう 提案している。 帋弘ト鹵条。冫 主人公の気持ちをャプレで落と 昔、「母もの映画」といわれた作品 ~ し、オリンをきっかけに奮い立ち、 では、母子の別れの場面で感動を盛】サンボウで決意し、ヤマへと向かう ・ : おそらく、笠原の骨法十箇条で り上げるためにバイオリンが奏で 一番効果的な配置の仕方がこの流 られた。「オリンをコスる」などとい われ、笠原の「オリン」はここに由来【れだろう。 亠豊 ャプリ 角 角 前後の。フロックをつなぐ形 メ。でひねることがこの部分の 目的。前段までで才能の片鱗を表し たイヅナだが、それでもうまくでき ないというのがトラブル。 このエピソードの目的はイヅナを 落ち込ませる ( ャプレ ) ことだが、 それだけで終わってしまうと読者に はストレスになってしまうため、暴 走のエピソードで「本当はすごいこ とができる」ということを匂わせる ようにした ( 彼自身の気持ちは上が らないが、 読者の側に一定の安堵感 を与える ) 。 これを強調するための序破急は次 の通りーーー機匠と機装心臓について の説明 ( 序 ) / 機装心臓を扱えない イヅナ ( 破 ) / イヅナの知らないと ころで機装心臓が暴走 ( 急 ) ャブレを有効に使用するな ら、転のプロックにある「心 の闇」がよいだろう。しかし、本作 では主人公を早い段階で精神的に持 ち上げてやりたいと考えていたの で、あえて承のプロックに配した。