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検索対象: 生物多様性国家戦略2010
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1. 生物多様性国家戦略2010

れらの主体が連携して活動できるような仕組みづ くりや、国民が自ら体験・参画することによってその 重要性を実感できる機会づくりが必要です。 これらを踏まえ、 2010 年 ( 平成 22 年 ) のわが国 での COPIO 開催に向けて以下に示す施策を「い きものにぎわいプロジェクト」として強力に進めま す。また、その一環として、企業などの事業者が 生物多様性に配慮した活動を自主的に行う際の 指針となる「生物多様性民間参画ガイドライン」 ( 平 成 21 年 8 月公表 ) や、地方公共団体による生物多 様性地域戦略の策定を促進するための「生物多 様性地域戦略策定の手引き」 ( 平成 21 年 9 月公表 ) の普及広報・活用促進などを図ります。 【具体的施策】 〇国、地方公共団体、経済界、メディア、 NGO 、有 識者などの官民の関係者によるパートナーシッ プの場として、国際生物多様性年国内委員会 を設置し、生物多様性に対する社会の認識を 高めるとともに、多様な主体の連携と各主体の 取組を強力に推進します。 ( 環境省 ) 〇生物多様性の重要性を一般の人々の生活や企 業活動の中に浸透させていくため、さまざまな 活動とのタイアップによる広報活動を展開すると ともに、生物多様性に関するイベントなどを開 催することにより、市民レベルでの関心を盛り上 げます。 ( 環境省 ) 〇特に 2010 年 ( 平成 22 年 ) は、わが国で COPIO が 開催されるとともに、国連の「国際生物多様性 年」であることから、「国際生物多様性の日」 ( 5 月 22 日 ) を中心として、さまざまなイベントなどを 開催することにより、生物多様性の社会への浸 透を図ります。 ( 環境省 ) 〇生物多様性をより端的に分かりやすい言葉で 表現したコミュニケーションワード「地球のいの ◆◆ 234 ち、つないでいこう」をロゴマークとともに普及し ていくことで、国民に広く生物多様性について の認識を広めていきます。 ( 環境省 ) 〇広く国民に対して、生物多様性に関するさまざ まな情報発信を行うため、著名人などによって 構成される「地球いきもの応援団」について、メ ンバーの拡充を行うなど、活動を推進・強化し ます。 ( 環境省 ) 〇日常生活における生物多様性の保全と持続可 能な利用に資する取組を分かりやすくリスト化 して公表することにより、国民ひとりひとりの自主 的な行動を促すような具体的な提案を行いま す。 ( 環境省 ) 〇生物多様性に配慮した「賢い消費者 ( スマート コンシューマー ) 」を育成するため、国民が商品 の購入やサービスの選択など、日々の消費活動 などを行う際に、生物多様性に配慮した商品 などであることを判断する目安や、行動によって もたらされる生物多様性への影響に関する情 報提供を行います。 ( 環境省 ) 〇毎年、生物多様性の状況及び政府が生物多様 性の保全と持続可能な利用に関して講じた施 策などを明らかにした生物多様性白書を作成 し、国会に提出するとともに、全国各地で白書 を読む会を開催することなどにより、広くその普 及に努めます。 ( 環境省 ) 〇「生物多様性」という言葉の「意味を知ってい る」「意味は知らないが、言葉は聞いたことが ある」人は、平成 21 年度に内閣府が行った世 論調査では全体の 36 % でしたが、その認知度 を平成 23 年度末までに 50 % 以上とすることを目 標とします。 ( 環境省 ) 〇「生物多様性国家戦略」の「内容を知っている」 「内容は知らないが、聞いたことがある」人は、平 成 21 年度に内閣府が行った世論調査では 20 %

2. 生物多様性国家戦略2010

推進し、生物多様性分野における国際的なリー ダーシップを発揮する必要があります。 1 . 国際的リーダーシップの発揮及び アジアなど周辺諸国との連携 【施策の概要】 「生物多様性条約」 ( 1992 年 ( 平成 4 年 ) 採択 ) の もとでは、締約国会議 ( COP ) 、科学上及び技術 上の助言に関する補助機関会合 (SBST T A : Subsidiary Body on Scientific, Technical and Techn010gicaI Advice) などにおいて、条約の実 施に係るさまざまな決議、勧告が行われており、 例えば、 2006 年 ( 平成 18 年 ) の COP8 では、 2010 年目標達成状況の把握のための個別目標の組み 込みや、民間部門の条約への参画を促す決議が なされました。わが国も条約の締約国 ( 1993 年 ( 平成 5 年 ) 締結 ) として、これらの決議、勧告に基 づく取組を実施する必要があります。 また、 2010 年 ( 平成 22 年 ) の COPIO の開催を契 機に、国別の生物多様性総合評価を実施するな ど国内外での積極的な取組を行うとともに COPIO で採択される 2010 年以降の新たな世界目 標 ( ポスト 2010 年目標 ) の設定に向けた議論に貢 献します。 1 . 1 生物多様性条約 COPI 0 の開催と 次期世界目標の設定 【現状と課題】 2 010 年 ( 平成 2 2 年 ) に愛知県名古屋市で COPIO が開催されます。また、 COPIO とあわせて、 生物多様性条約のもとに位置付けられる COP ー MOP5 が開催されます。 2010 年 ( 平成 22 年 ) は、 「 2010 年 ( 平成 22 年 ) までに生物多様性の損失速 度を顕著に減少させる」という生物多様性条約に おける「 2010 年目標」の目標年であり、 COPIO では、 ◆◆ . 248 目標の達成状況の評価と、「ポスト 2010 年目標」を 含む新たな条約戦略計画が採択される予定で す。「 2010 年目標」は、初めての世界共通目標とい う点で大きな意義がありましたが、目標が抽象的 で明確さに欠ける、客観的、数値的な状況評価 のための手法が確立されていないなどの点で課 題があり、「ポスト 2010 年目標」では、明確で行動 志向的な目標が求められています。また、その他 の重要議題として、「遺伝資源へのアクセスと利益 配分 ( ABS ) 」や、カルタへナ議定書における「遺伝 子組換え生物等の国境を越える移動から生じる 損害についての責任と救済」などが予定されてい ます。 COP の議長国は、慣例上、開催国が務め ることになっており、わが国は、開催国・議長国と して国際的なリーダーシップを発揮し、会議を成 功に導く責務があります。また、 2012 年 ( 平成 24 年 ) の COPII までの間、 COP 議長国として世界の生 物多様性に関する取組を主導していく役割を担 っています。 しかし、国内では、「 2010 年目標」も含め、生物 多様性条約、締約国会議 ( COP ) や補助機関会合 ( SBSTTA ) などにおける議論の状況や決議、勧 告などについては、認知度が低いことから、一層 の情報提供が必要です。 今後、さまざまな主体との対話を行いながら、 2010 年 ( 平成 22 年 ) の COPIO に向けた準備を行う とともに、生物多様性分野における国際社会での 取組をより積極的に進めていく必要があります。 【具体的施策】 〇今後とも、締約国会議などにおける決議・勧告 を踏まえた国内対策の充実に努めるとともに、 生物多様性条約関連会合 ( COP 、 SBSTTA 、 各種作業部会など ) への参加を通じて、効果的 な国際枠組みづくりを進める、他の締約国にも

3. 生物多様性国家戦略2010

で世界第二位の活動資金の拠出を行うなど積極 が国が提唱した東アジア酸性雨モニタリングネット 的に本活動に参画しています。また、国内の専門 ワーク (EANET) は、 2001 年 ( 平成 13 年 ) 1 月から本 家が科学技術的見地から調査及び審議する 格稼働を開始し、現在東アジアの 13 か国が参加 「 GBIF 技術専門委員会」を設置しています。 しています。 EANET では、共通の手法により酸性 国内データベース拠点の設置と運用について 雨の湿性沈着、乾性沈着、生態影響 ( 土壌、植生、 は、 2004 年 ( 平成 16 年 ) 度より大学共同利用機関 陸水 ) のモニタリングを行い、精度保証・精度管理 法人情報・システム研究機構国立遺伝学研究所に に基づく質の高いデータを収集、解析、評価し、 拠点を設け国内の標本データ提供に対応し、また 酸性雨に関する調査研究を行うなど国際的な取 2005 ( 平成 17 年 ) 度より独立行政法人国立科学博 組の推進を図っており、酸性雨の状況に関する各 物館が、地域の特徴ある生物多様性に係る調査 国共通の理解を形成しています。また、 EANET 研究及び標本の収集・保管を行っている国内の自 に参加する途上国に対して、技術ミッションやワー 然史系博物館などと協働して拠点を設け、標本デ クショップの開催など、技術協力を実施し、モニタ ータを提供しています。また、 GTI-Japan ノードは リング技術などの能力向上に貢献しています。 ヨーロッパや北米などでは、酸性雨による森 GBIF のデータブロバイダのひとっとして、 GBIF ネ ットワークにデータを発信しています。 2010 年 ( 平成 林・土壌・湖沼における生態系への影響が報告 22 年 ) 2 月現在、 GBIF では、 316 のプロバイダが提 されていますが、急速に工業化・都市化している 供する 1 億 9 千万件超のデータが利用できます。 東アジア地域においても、近い将来、酸性雨が深 刻化することが懸念されています。 【具体的施策】 【具体的施策】 〇 GBIF 技術専門委員会における議論を踏まえ、 〇今後も、酸性雨による生態系への影響の早期 今後も GBIF の活動に積極的に取り組んでいく 把握、実態解明に努めるとともに、東アジアにお ため、科学技術振興機構バイオインフォマティク ス推進センターにおいて、生物多様性データベ ける酸性雨の影響を未然に防止するため、さら に EANET 活動を推進していきます。 ( 環境省 ) ースを構築するとともに、わが国における GBIF の活動状況を掲載するホームページを設けて 3.10 北西太平洋地域に関する対応 【現状と課題】 文部科学省、内閣府、経済産業省、農林水産 閉鎖性の高い国際海域の環境保全のため、国 省、環境省 ) [ 再掲 ( 2 章 5 節 2. 6 ) ] 連環境計画 (UNEP) が「地域海計画」と呼ばれる 環境協力を世界の各地域で進めており、わが国 3.9 東アジア酸性雨モニタリング の周辺海域では、 1994 年 ( 平成 6 年 ) に日本、中国、 ネットワーク (EANET) 【現状と課題】 韓国及びロシアの 4 か国で日本海及び黄海の海洋 環境を協力して保全していくために「北西太平洋 近年、急速に工業化・都市化している東アジア 地域海行動計画 ( NOWPAP ) 」を採択しました。 地域における酸性雨の生態系などに対する影響 NOWPAP の各プロジェクトの実施に責任を持ち、 を未然に防止するため地域共同の取組として、わ ◆◆第 2 部第 2 章 横断的・基盤的施策 第 4 節国際的取組 26 / ◆◆

4. 生物多様性国家戦略2010

活動を推進していくために、地域活動センター ( RAC ) が各国に配置されています。わが国には、 「特殊モニタリング・沿岸環境評価に関する地域 活動センタ—(CEARAC) 」が設置されました。 日本周辺の海洋沿岸環境を有効に利用・管理し ていくためには、 NOWPAP の関係国などが連携・ 協力して取り組んでいくことが求められています 【具体的施策】 〇わが国は、 NOWPAP の事務局である RCU( 地 域調整部、富山と釜山に共同設置 ) のホスト国 であるとともに、主に CEARAC への支援を通じ、 リモートセンシング技術を活用した海洋環境モ ニタリングシステムの整備、環境影響調査などを 実施し、海洋環境汚染の観点から生物多様性 の保全の向上を図ります。 ( 環境省 ) 〇 NOWPAP においては、新たな活動の柱のひと っとして海洋ごみ問題への対策や、陸域起因 の海洋汚染対策のための河川と沿岸域の統合 管理に関する取組を推進することで、生物多様 性の保全の向上を図ります。 ( 環境省 ) 3. 1 1 地球規模侵入種プログラム ( G 旧 P ) 【現状と課題】 地球規模侵入種プログラム (GISP:Global lnvasive Species Programme) は農業と生物科 学に関する情報を提供する政府間機関 (CAB- lnternational) 、国際自然保護連合 (IUCN) 、米国 の自然保護団体であるネイチャー・コンサーバン シー (The Nature Conservancy) 及び南アフリ カ国立生物多様性研究所 ( SANBI) の 4 つの機関 が共同で運営し、世界の侵入種に関する事例を 集め、これに対する最適な予防と管理計画を検 討し、手法の一覧をつくることを目的としています。 GISP は、これまでに侵入種の課題の評価、侵入 ◆◆ 268 種の対応戦略、最適な予防と管理のための事例 集及び暫定的なデータベースを作成してきました。 【具体的施策】 〇 GISP への協力を進めることを検討します。 ( 環 境省 ) 3.12 地球観測に関する政府間会 ( GEO ) 【現状と課題】 平成 15 年 6 月に工ビアン ( フランス ) で開催され た G8 首脳会議において、環境保護と経済発展を 両立させる観点から地球観測の重要性が強調さ れるとともに、地球観測に関する閣僚会合の開催 が合意されました。この合意を受けて、 3 回にわた って地球観測サミットが開催され、平成 17 年 2 月に 「全球地球観測システム ( GEOSS : Global Earth Observation System of Systems) 10 年実施計画」 ( 以下「 10 年実施計画」という。 ) が承認されました。 「 10 年実施計画」は、①人工衛星や地上観測な ど多様な観測システムが連携して地球を包括的 に観測するシステムを 10 年間で構築すること、② 9 つの社会利益分野 ( 災害、健康、エネルギー、気 候、水、気象、生態系、農業、生物多様性 ) に対 する GEOSS の達成目標と具体的手法を明確にす ること、③「 10 年実施計画」を推進するための国際 的な枠組みを設立することを柱としています。 そして、「 10 年実施計画」を承認した多くの国の 努力によって、地球観測に関する政府間会合 (GEO : Group on Earth Observations) が設立 されました。 GEO は、 GEOSS に関連して、能力開 発などを目的としたワークショップなどを開催する ほか、「 10 年実施計画」を具体的に実施する年次 作業計画を作成し、 GEO 加盟国及び参加機関は、 これらの作業計画に沿って各国・機関の自発的な 貢献に基づき、「 10 年実施計画」で掲げる目標を

5. 生物多様性国家戦略2010

日本海洋データセンター ( JODC ) では、わが国の 総合的海洋データバンクとして、国内外の各機関の 海洋観測データの有効利用を図るため、各種海洋 データ・情報を一元的に収集・管理・提供しており、 1985 年 ( 昭和 60 年 ) からは、海洋生物データ ( 主と してプランクトンデータ ) の収集・管理・提供を行っ ています。海洋生物データは、海洋生物種を分類 学上の体系に基づきコード化した「海洋生物分類 データ」と海洋調査機関などから提供された観測 データを収録した「海洋生物観測データ」のそれぞ れのデータベースにより管理されています。 【具体的施策】 〇日本海洋データセンターへの海洋環境・海洋生 物データの集積を推進し、政府部内の連携を 一層強化します。 ( 国土交通省 ) 2. 1 1 国立公園における自然環境情報の 整備 【現状と課題】 国立公園の管理運営を行うための自然環境情 報などは十分整備されているとはいえない状況で す。管理運営を行うための基盤となる科学的情報 の収集・整備を進め、国立公園の管理運営に適 切に反映してく必要があります。 【具体的施策】 〇国立公園の管理運営に必要な科学的情報に ついては、関係行政機関、研究者、地域の専 門家などの協力を得て収集し、これらの情報を 踏まえた国立公園の適切な運営管理を進めて いきます。 ( 環境省 ) 研究・技術開発の推進 【施策の概要】 ◆◆ 280 平成 18 年度から 22 年度までの 5 年間において、 政府が重点的に推進することとされている「第 3 期 科学技術基本計画」 ( 平成 18 年 3 月、閣議決定 ) に 基づき策定された「分野別推進戦略」 ( 平成 18 年 3 月、総合科学技術会議決定 ) では、実現すべき 個別政策目標として「持続可能な生態系の保全と 利用を実現する」、「わが国発のバイオマス利活用 技術により生物資源の有効利用を実現する」が挙 げられています。前者の生態系の保全と利用に 対応する生態系管理技術研究領域では、「生態系 の構造・機能の解明と評価」、「生物資源利用の 持続性を妨げる要因解明と影響評価」、「生態系 保全・再生のための順応的管理技術」、「生物資 源の持続可能な利用のための社会技術」の 4 つ のプログラムを設定し、国内の生物多様性・生態 系研究の連携を強化して実施することとしていま す。後者のバイオマス利活用については、持続可 能型の地域バイオマス利用システム技術の必要性 が盛り込まれています。 また、生物多様性基本法では、国は生物多様 性に関する科学技術の振興を図るため、研究開 発の推進などの措置を講ずるものとされました。 これらも踏まえ、下記に示す施策を実施してい きます。 3.1 環境分野における調査研究 【現状と課題】 [ 地球環境保全等試験研究費 ] 地球環境保全等試験研究費は、関係府省の試 験研究機関が実施する環境保全などに関する試 験研究費を環境省が一括計上し、その配分を通 じて国の環境保全に関する試験研究の総合調整 を図るものです。生物多様性の存立や維持メカニ ズムの解明、希少種の絶滅防止に必要な生息域 内・生息域外保全手法や人工繁殖技術に関する

6. 生物多様性国家戦略2010

◆◆◆第 2 節◆◆◆ 生物多様性から見た 国土のグランドデザイン 生物多様性から見た国土のとらえ方 わが国の生物多様性は、地形・地質や気候な どの自然的基盤と、その上に積み重ねられてきた 人々の長い年月にわたる暮らしの営みによって形 づくられてきたものです。わが国の国土は、陸域 と海域に大別されますが、生物多様性の観点、 つまり生物相と人間の活動の関係から、以下の 7 つの地域に区分することが考えられます。 ①奥山自然地域・・・・・・相対的に自然性の高い地域 ②里地里山・田園地域・・・・・・①と③の間に位置す る自然の質や人為干渉が中間的な地域 ( 人工 林が優占する地域を含む。 ) ③都市地域・・・・・・人間活動が集中する地域 ④河川・湿原地域・・・・・・各地域を結びつける生態 系ネットワークの軸となる水系 ⑤沿岸域・・・・・・海岸線を挟む陸域及び海域 ⑥海洋域・・・・・・沿岸域を取り巻く広大な海域 ⑦島嶼地域・・・・・・沿岸域・海洋域にある島々 2 基本的な姿勢 現在豊かな森林の生態系が見られる明治神宮 の森も、 100 年先を考えて新たに人の手でつくら れてから 100 年近い年月を経て今のように豊かな 森になりました。生物多様性の保全と持続可能な 利用が両立する「自然共生社会」の実現のために は、自然生態系が回復していくのに要する時間を 踏まえ、少なくとも 100 年という歳月で考えることが 重要です。このため、生物多様性の保全と持続 可能な利用に携わる多様な主体が長期的視点に 立って取組を進められるよう、生物多様性から見 た国土のグランドデザインを、 100 年先を見通した 共通のビジョンとして示すことが必要です。 まず、生物多様性から見た国土のグランドデザ インを、 100 年先を見通して考えるうえでの基本的 な姿勢を、「 100 年計画」として以下に掲げます。 ①一方的な自然資源の収奪、自然の破壊といった 自然に対する関わり方を大きく転換し、人間の 側から自然に対して貢献をしていくことにより、 人口が増加を続けた過去 100 年の間に破壊し てきた国土の生態系を、人口が減少に向かう 次なる 100 年をかけて回復する。 ②総人口の減少により国土の利用に余裕を見出 せる中で、地域資源を最大限に活用し、地域 固有の自然や文化に根ざした個性的で魅力的 な地域づくりを目指す。 ③とりわけ一次産業従事者の減少・高齢化により 現在の国土管理の水準を維持できない地域が 生じることや、集約型の都市構造への転換、社 会資本の維持や更新のための投資が増大する ことなどを通じて国土利用の再編が進む中で、 国土管理に必要な投資の重点化・効率化に加 えて、自然との共生を重視したエコロジカルな 国土管理を進める。 ④国土全体にわたって自然の質を着実に向上さ せることを目指す。その際、さまざまな取組の効 果が発現するには長期間を要することから、順 応的な態度が欠かせず、鳥獣による農林業被 害の問題などについては、人と自然のより良い バランスを、社会的な合意を得つつ段階的に取 り戻していく姿勢が欠かせない。 ⑤ 100 年の間に、自然環境や社会経済の状況の 変化に応じて、取組の内容や方法を柔軟に見 直すという順応的な態度には、科学的データの 集積という裏付けが必要であり、人々の意識や 行動様式の変化も重要な要素となる。 100 年と 63 ◆◆ ◆ 節続物部 生首様第 物な往 3 多利の章 様用保 性の全 、か目及 、ら標び たを

7. 生物多様性国家戦略2010

び田園地域や里地里山の整備・保全を推進しま す。また、農業は食料の生産に加え多様な生きも のを生み出す活動であるとの視点に立ち、国民 が生きものとふれあい、農業と生物多様性の関係 に対する認識を深める取組を推進し、農山村の 活性化を図ります。 森林は、わが国の国土の 3 分の 2 を占め、自然 林から人工林までさまざまなタイプの森林が多様 な野生動植物が生息・生育する場となるなど国土 の中で生物多様性の重要な構成要素となってい ます。これら森林生態系の生産力に基礎を置く林 業は、森林資源の利用が持続可能な形で行われ ることにより、生物多様性の保全を含む森林の有 する多面的機能の発揮に寄与します。このため、 森林計画制度の的確な運用や民間の第三者機 関が取り組む森林認証制度を通じ、林業・木材 産業の活性化による間伐などの森林の適切な整 備・保全を、関係者との連携により推進します。 また、水産業は豊かな海や河川・湖沼の恵みの 上に成り立っている環境依存型の産業であるた め、生産力を支える生態系の健全さを保つことが 必要であり、海洋や河川・湖沼における生物の多 様性の確保が重要です。ことにわが国の沿岸海 域は古くから人間活動との関わり合いが深く、採 貝・採藻などの漁業活動を行ってきました。このよ うな、自然生態系と調和しつつ人手を加えることに より、高い生産性と生物多様性の保全が図られて いる海は一般的に「里海」として認識されるように なっており、今後とも適切に保全することが必要で す。このため、里海を含む海洋全体の生物の多様 性の保全とその持続可能な利用を通して、国民の 健全な食生活を支える水産物を将来にわたって安 定的に供給するとともに、力強い水産業と豊かで 活力ある漁村の確立を推進します。 【多様な野生生物をはぐくむ空間づくり】 地域に固有の種や生態系を保全し、種の絶滅 を避けることは、種の多様性の劣化を防止するた めに最優先で取り組むべき課題のひとつです。 のため、絶滅のおそれのある種の状況の把握と減 少要因の分析を行い、その状況を改善するために 必要な措置を種ごとに明らかにするとともに、国内 希少野生動植物種の指定による保護の効果を評 価して、その効果が認められるものは、その措置を さらに推進し、十分な効果があがっていない場合 は、その要因を分析して効果的な保全対策を種ご とに明らかにするなど、種の保存法の施行状況の 評価を踏まえ、効果的な対策を講じます。 また、種の絶滅のおそれを低下させていくため には、個々の種に着目するだけでなく、重要な地 域を特定して重点的に対策を講じていくことも検 討しなければなりません。絶滅のおそれのある種 が集中する島嶼地域など、生物多様性の保全上 重要な地域 ( ホットスポット ) を特定し、地域の関 係者と協力して地域全体の生物多様性を保全・ 再生するような制度や手法の検討を進めます。 特に、トキやコウノトリ、ツシマヤマネコ、ヤンバ ルクイナなどの保護増殖を進め、それらの野生復 帰を進めていくことは、多様な野生生物をはぐくむ 空間づくりの象徴として重要です。広葉樹の大木 のある森林や水田などに依存するトキをはじめと した鳥類やッシマヤマネコなどの野生復帰を進め るためには、生物多様性の保全に配慮した農林 業とそれらを通じて餌となる多くの生きものをはぐ くむことが必要です。冬場や田植え前の早い時 期に水田に水を張る冬期湛水や早期湛水による 有機栽培などの取組が各地の水田で見られるよ うになっており、マガンの飛来で有名な宮城県の 蕪栗沼周辺では、こうした取組により多様な野生 生物が見られるようになっています。トキの野生復 85 ◆◆ 持生は 続物部 。・可多 利の章 用保 の全 ~ 基

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沼、河川、海岸、海域などの水辺地、地形・地質が つつ適正な保護と利用を推進します。 特異な土地、野生動植物の生息・生育地などで一 国内の各種法律に基づくこれらの指定地域の 定のまとまりを有している地域のうち、その自然環境 一部は、「特に水鳥の生息地として国際的に重要 を保全することが特に必要な地域です。指定され な湿地に関する条約」 ( ラムサール条約 ) や「世界 た地域においては行為規制、保全事業などを計画 の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」 的に進めることによって保全を図っています。 ( 世界遺産条約 ) に基づく国際的な保護地域にも 都道府県自然環境保全地域は、自然環境保全 登録 ( 又は記載 ) されています。わが国の世界自然 地域に準じる自然環境を有する地域のうち、その 遺産地域においては、関係行政機関や地元関係 自然環境を保全することが特に必要な地域であ 者からなる地域連絡会議や、さまざまな分野の専 り、都道府県により保全が図られています。 門家からなる科学委員会の設置などにより、合意 これらの地域は、極力、自然環境をそのまま維 形成と科学的知見に基づく保全管理を進めてお 持しようとする地域であり、自然公園その他の自然 り、わが国の保護地域の先駆的な取組といえま 環境の保全を目的とする地域とあいまって、国土 す。特に、順応的管理の考え方のもとに漁業者の の生態系ネットワークの核となる部分を形成し、 自主規制を基本として漁業資源の維持を図りな 生物多様性の保全にとって重要な役割を担って がら海域の生物多様性の保全を目指す知床世界 自然遺産地域海域管理計画の事例なども参考に います。 自然環境保全法については、平成 20 年度に、 しつつ、漁業をはじめとする多様な利用との両立 「自然公園法」と併せて、法の施行状況などを踏 を目的とした、地域の合意に基づく自主的な資源 まえた必要な措置の検討を行いました。この結果 管理の取組や海域保護区などの生物多様性の保 を踏まえ、平成 21 年 6 月に、自然公園法と併せて 全施策のあり方について検討を行います。 自然環境保全法の改正を行い、目的規定に生物 1 . 自然環境保全法に基づく保全 多様性の確保を明記するとともに、海上を含めた 海域を保全対象とした海域特別地区制度や事業 【施策の概要】 計画に基づき積極的に生態系の維持回復を行う 「自然環境保全法」に基づく保全地域には、同 生態系維持回復事業制度を新たに創設しました。 法により国が指定する「原生自然環境保全地域」 及び「自然環境保全地域」と、同法に基づく都道 府県条例により、都道府県が指定する「都道府県 1 . 1 原生自然環境保全地域及び 自然環境保全地域 自然環境保全地域」があります。 【現状と課題】 原生自然環境保全地域は、原生状態を保持し 平成 22 年 3 月現在、 5 地域の原生自然環境保全 一定のまとまりを有している地域のうち、その自然 地域 ( 5 , 631ha ) 、 10 地域の自然環境保全地域 環境を保全することが特に必要な地域であり、自 ( 21 , 593ha ) が指定されていますが、総指定面積 然の推移にゆだねる方針のもと、厳格な行為規 は国土の 0.1 % 以下であり、決して広いとはいえす、 制などによって保全を図っています。 優れた自然環境をすべて包含しているわけでは 自然環境保全地域は、優れた天然林が相当部 分を占める森林や優れた状態を維持している湖 ありません。また、これらの地域では、シカによる ◆◆第 2 部第 1 章 国土空間的施策 第 2 節重要地域の保全 1 03 ◆◆

9. 生物多様性国家戦略2010

天然記念物及び史跡名勝天然記念物指定基準」 【具体的施策】 に基づいて行われます。名勝には、人為的に構 〇わが国の人間と自然との関係についての文化的 成された人文的名勝と、自然の働きに由来し歴史 な所産を保護する観点から、各地域の風致の多 や文化に支えられた風致景観を対象とする自然 様性や生物の多様性の核となるような特色のあ 的名勝とがあり、自然的名勝では古くから著名な る景観や自然地域を対象として、自然的名勝・天 風致景観に加えて、土地の風土や伝統的な土地 然記念物の指定を推進します。 ( 文部科学省 ) 利用のあり方、信仰や行楽の対象地などにも重点 5.1.2 保存管理計画と復元・再生 が置かれています。天然記念物についても、日本 の自然を特徴づける動植物とともに、長い歴史を 【現状と課題】 持った文化的な活動によりつくり出された二次的 周辺地域をも含めた一体的な保存管理を行う な自然を対象とするものも多くあります。このような ため、広範な関係者の参加により、保存管理のた 人間と自然との関係を文化的な所産として多面的 めの方向性や具体的措置、関係者の役割分担な にとらえ、他の文化財と一体的に位置付ける点で、 どを定めた保存管理計画を個別に策定し管理に わが国の文化財体系は世界的にユニークなもの あたることが有効です。たとえば、二次的自然を となっています。平成 22 年 3 月現在、自然的名勝は 景観要素・対象とする自然的名勝や天然記念物 150 件、天然記念物は 980 件が指定されています。 では、群落遷移の進行を阻止するための措置を 自然的名勝や天然記念物の適切な保護を図る 実施したり、天然記念物において限られた地域に ため、現状を変更する行為などを規制するとともに、 のみ分布する固有の動植物などの個体数の減少 保存管理事業として地方公共団体などが実施す や、外来動植物に対応するため、天然記念物ア る、現況把握や保存対策のための調査・検討、保 ユモドキ、イタセンパラ、ミヤコタナゴなどの淡水魚 存管理計画の策定、動植物の保護増殖、植物群 の生息域外での増殖や特別天然記念物コウノトリ 落の管理・復元、指定地の買い上げなど、各種事 の野生復帰の促進、外来種の除去などの事業が 業に要する経費への国庫補助が行われています。 地方公共団体などにより実施されますが、保存管 天然記念物については、制度発足後 80 年余を 理計画を策定して計画的かっ段階的に事業に取 経る中で、指定対象に偏りが見られること、生物 り組むことにより、適切な回復や復元を図ることが 群集として動植物を一体的にとらえた指定がなさ 可能となります。 れてこなかったこと、保護の体系化に欠けている こうした取組の推進のためには、関係機関の連 ことなど、さまざまな課題が指摘されています。 携や地域住民の参加など多様な主体の参画が必 れらの課題を解決し、保護制度の充実への指針 要となることから、適切なマニュアルの作成や人 を得るため、平成 10 年度以降多くの専門家の協 材育成、学習施設や飼育施設の設置などの総合 力を得て調査研究を実施し、平成 15 年度末には、 的な支援が必要となります。 生物多様性の保全への一層の寄与にも配慮しつ っ制度の充実を目指す報告がなされています。 ◆◆第 2 部第 1 章 国土空間的施策 第 2 節重要地域の保全 【具体的施策】 〇指定された地域については、地域の自然を踏 まえた文化的な遺産として地方公共団体などと

10. 生物多様性国家戦略2010

かくらん 依存する森林は、伐採や自然の攪乱などにより時 間軸を通して常に変化しながらも、全体としては、 一定の面的広がりにおいて、その土地固有の自然 条件、立地条件下に適したさまざまなタイプの植 生が存在し、さまざまな遷移段階の森林がバラン スよく保全されることにより、生物多様性の確保に 寄与していることを踏まえ、森林の適切な整備・ 保全を推進することが重要です。 このような農林水産業と生物多様性の関係に ついては、十分に理解をされているとは言えない ことから、農林漁業者、消費者をはじめとした国 〇地域別の生物多様性保全の取組 【具体的施策】 民各層の理解を得ることが必要です。 ◆◆ 126 り、里海などの生物多様性への影響を低減す 産活動も農薬・肥料を適切に使用することによ てきます。また、田園地域・里地里山における生 養塩類はサケなどの遡上によって森林に運ばれ ど、生物多様性に寄与しています。また、海の栄 きものである海藻や植物プランクトンを育てるな 域を流れる川を通じて、海へ供給し、里海の生 るとともに、栄養塩類などを、里地里山や田園地 源かん養機能や土砂流出防止機能などを有す 「森は海の恋人」と呼ばれるように、森林は、水 〇森・川・海を通じた生物多様性保全の推進 洋における漁業」として詳述 ) ③里海・海洋の保全 ( 第 1 章第 9 節に「里海・海 ②森林の保全 ( 第 1 章第 5 節に詳述 ) 詳述 ) ①田園地域・里地里山の保全 ( 第 1 章第 6 節に す。 ( 農林水産省 ) 物多様性を保全する施策を総合的に推進しま く状況に的確に対応するため、次に掲げる生 農林水産業・農山漁村と生物多様性を取り巻 ることが可能です。このように、森林、田園地 域・里地里山、里海などは相互に関連しており、 森・川・海の生態系全体を通じた生物多様性保 全を行う必要があり、森・川・海を通じた生物多 様性保全を推進します。 ( 農林水産省 ) 〇遺伝資源の保全と持続可能な利用の推進 ( 第 2 章第 1 節、第 2 節に詳述 ) 農林水産業にとって有用な遺伝資源の保全と 持続可能な利用の推進と遺伝子組換え農作物 などの規制によるわが国の生物多様性の確保 を図ります。 ( 農林水産省 ) 〇農林水産分野における地球環境保全への貢献 ( 第 2 章第 4 節に詳述 ) 国内外におけるわが国の経験と知見を活用し、 持続可能な農林水産業に対する国際協力を推 進し、砂漠化防止、水資源の持続可能な利用、 地球温暖化対策などの地球環境保全に積極的 に貢献します。 ( 農林水産省 ) 〇農林水産業の生物多様性指標の開発 ( 第 2 章第 5 節に詳述 ) 農林水産業が立脚する生物多様性保全は、国 民に安全で良質な農林水産物を安定的に提供 するためにも必要不可欠です。 しかしながら、環境保全型農業をはじめとする 農林水産関連施策の実施にあたっては、生物多 様性に配慮しつつ行っているものの、その効果 を定量的に把握することが可能な科学的根拠 に基づく指標は開発されておらす、これらの農林 水産関連施策を効果的に推進するうえで、指標 の開発が必要であり、生物多様性指標の開発 を検討し、農林水産業が生物多様性に果たす 役割を明らかにするとともに、国民的及び国際的 な理解を深めることを推進します。 ( 農林水産省 ) 〇生物多様性保全を重視した農林水産業への理 解促進