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検索対象: 生物多様性国家戦略2010
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1. 生物多様性国家戦略2010

上に豊かなものとするとともに、人類が享受する生 態系サービスの恩恵を持続的に拡大させていく」 という目標を掲げています。 また、短期目標 ( 2020 年 ) では、生物多様性の 損失を止めるために、 2020 年までに、「生物多様 性の状態を科学的知見に基づき地球規模で分 析・把握する。生態系サービスの恩恵に対する理 解を社会に浸透させる」、「生物多様性の保全に 向けた活動の拡大を図る。将来世代にわたる持 続可能な利用の具体策を広く普及させる。人間 活動の生物多様性への悪影響を減少させる手法 を構築する」、「生物多様性の主流化、多様な主 体の参画を図り、各主体により新たな活動が実践 される」の 3 つを提示しています。 短期目標を達成するために掲げた個別目標の 達成手法の例としては、わが国の先進的な事例 のうち、他の国の取組にも活用が期待されるもの、 わが国として各国の目標達成を技術面や資金面 で協力できる可能性があるもの、国際機関や国際 NGO などによる取組が期待されるものなどを提案 します。具体的には、地域の多様な主体との協働 による住民参加型の国立公園管理の手法を提案 し、世界的な保護区の拡大や管理の充実を目指 すことや、国際機関、国、地方公共団体、企業、 学識経験者、 NGO 、市民、先住民などの多様な 主体の取組を促すための行動計画やガイドライン などを提示し、これらの主体による参画・協働・活 動を促進することを目指しています。 2. わが国の目標 ポスト 2010 年目標の日本からの提案は、生物多様 性条約の目的達成に向け、 COPIO の議長国として、 世界に先駆け意欲的かっ実行可能で具体的な提 案を行い、目標達成に向け必要な支援を行ってい くことで、世界の生物多様性の確保に貢献すること を目指すものです。それとともに、わが国の生物多様 性保全施策の推進にあたっての基礎ともなるもので す。このため、ポスト 2010 年目標の日本提案をもとに、 わが国の生物多様性の状況や自然的社会的特性 を踏まえ、豊かな生物多様性を将来にわたって継 承し、その恵みを持続的に享受できる「自然共生社 会」を構築するための目標として、 2050 年を目標年と する中長期目標と、中長期目標を達成するため、お おむね 10 年で達成すべき短期的な目標として、 2020 年を目標年とする短期目標を掲げます これらの目標は、本戦略の計画期間を超えるも のですが、第 4 章第 2 節「基本戦略」やそれに沿 った第 2 部行動計画に記された具体的施策の実 施を通じて、この国家戦略の計画期間の間にも、 その達成に向けて着実に成果を上げていくこと が必要です。 なお、ポスト 2 010 年目標については、今後、 COPIO での採択に向けて、国際的な議論が進め られていきます。また、 COPIO 終了後には、決定 されたポスト 2010 年目標への対応をはじめ、わが 国の生物多様性政策について、さらなる対応の充 実・強化が必要になると考えられます。このため、 ポスト 2010 年目標の国際的議論を通じて得られた 知見や COPIO の成果などを踏まえ、 COPIO 後に、 本戦略の見直しに着手するものとします。 【中長期目標 ( 2050 年 ) 】 〇人と自然の共生を国土レベル、地域レベルで広 く実現させ、わが国の生物多様性の状態を現 状以上に豊かなものとするとともに、人類が享 59 ◆◆ でに 生物多様性の損失を止めるために、 2020 年ま 【短期目標 ( 2020 年 ) 】 させる。 受する生態系サービスの恩恵を持続的に拡大 ◆ な性 3 利の章 用保 の全

2. 生物多様性国家戦略2010

③の目標は、国際的な視点や国民のライフスタイ ルの転換といった点も含めて、わが国の社会経済 的な仕組みを考えていくことが重要です。 3. わが国の生物多様性総合評価 これらの目標を着実に達成していくためには、 わが国の生物多様性の状況を、国民の生物多様 性についての認知状況や生物多様性の保全活動 への参画状況など、社会経済的な側面も踏まえて 総合的に評価し、その達成状況を適切に評価し ていく必要があります。わが国の生物多様性総合 評価は、これまでに地球規模で行われたミレニア ム生態系評価 ( MA ) や地球規模生物多様性概況 第 2 版 (GBO 2 : Global Biodiversity Outlook 2 ) に学びつつ、生態系と生物多様性の経済学 (TEEB : The Economics of Ecosystems and Biodiversity) の取組を参考としながら、わが国の 自然条件や社会経済的な状況に応じた手法で取 り組みます。また、第三次環境基本計画 ( 平成 18 年 4 月 ) の生物多様性の保全のための取組分野に おける取組推進に向けた 9 つの指標や、生物多 様性条約締約国会議で採択された決議の中で例 示されている指標も参考にしながら、わが国の生 物多様性の変化の状況や各種施策の効果などを 把握するためのさらに分かりやすい指標の開発を 進めます。わが国の生物多様性の総合評価は、 平成 20 年度から生物多様性総合評価検討委員会 において検討を進めており、平成 22 年の国際生 物多様性の日 ( 5 月 22 日 ) までに取りまとめを行う予 定です。その後、 COPIO における成果や国内外 の調査研究の進展を踏まえた対応が必要です。 また、こうした総合評価を行う中で、生物多様性 の危機の状況を具体的に地図化し、危機に対す る処方箋を示すための診察記録 ( カルテ ) として活 用すると同時に、生物多様性の保全上重要な地 域 ( ホットスポット ) を選定することを通じて、優先 的に生物多様性の保全を図るべき地域での取組 を進め、生物多様性の損失速度を顕著に減少で きるよう努めます。 わが国と世界の生物多様性とのつながりも考え ると、ポスト 2010 年目標の達成など健全な地球生 態系の保全・再生への積極的な貢献や世界の生 物多様性の状況の悪化を防ぐための配慮は、わ が国の責務です。わが国で実施する国レベルの 生物多様性の総合的な評価について、 G8 各国に も実施を呼びかけるとともに、その手法について アジア地域を技術的に支援します。 また、 COPIO で採択されるポスト 2010 年目標を 受けて、わが国の生物多様性の総合評価のあり 方について、指標と併せて改めて検討し、再評価 することが必要です。 さらに、生物多様性への影響や生態系サービ スの持続可能な利用の観点から、人口減少社会 の到来を見据えた都市と農山村の関係について 複数の予測シナリオに基づく分析を行うことも重 要です。 なお、今後もこうした総合評価を継続的に行うに は、その基礎としての生物多様性に関する科学的 データを充実させていく必要があります。わが国に おいては、自然環境保全基礎調査などの長年の 調査により一定のデータが集積されてきているとこ ろですが、持続可能な生態系の保全と利用が政 策目標として取り上げられた第 3 期科学技術基本 計画 ( 平成 18 年 3 月 ) とも連携を図りつつ、各省や自 然史系博物館とのデータの共有などの連携強化 や速報性の向上を図るとともに、これまで比較的 データが少なかった中・大型哺乳類の生息数や生 息密度の把握、里地里山や沿岸・海洋域に関す るデータの集積に努める必要があります。 6 1 ◆◆ 第 持生 1 続物部 可多 能様第 な性 3 利の章 用保 の全 標ひ。

3. 生物多様性国家戦略2010

ます。したがって、遺伝資源の取得に対して各国 て、資源保有国との国際的取組の実施などに が厳格な規制を行うことは、企業などの遺伝資源 より、資源保有国への技術移転、わが国企業 の取得と利用の意欲を減退させる結果となります。 への海外の微生物資源の利用機会の提供など バイオ関連の研究開発は、 21 世紀最大の科学 を行い、微生物資源の「持続可能な利用」の促 的成果を生み出すのではないかとされており、バ 進を図っていきます。 ( 経済産業省 ) イオ関連産業は、人類の生活と産業構造に有用 〇独立行政法人製品評価技術基盤機構による二 な変化をもたらす可能性を有する重要かっ魅力 国間の取組として、インドネシア ( 平成 14 年 ) 、べ 的な産業です。わが国の企業は、バイオ産業の トナム ( 平成 16 年 ) 、ミャンマー ( 平成 16 年 ) 、タイ 基礎である遺伝資源を適正かっ積極的に活用し ( 平成 17 年 ) 、中国 ( 平成 17 年 ) 、モンゴル ( 平成 たビジネスを展開したいと考えていますが、上記 18 年 ) の 6 か国の政府機関及び傘下の研究機 のような状況により困難となっています。このような 関との間で、信頼関係を築きつつ、微生物資源 状況は、資源保有国にとっても、遺伝資源から生 の保全と利用に関する文書を作成し、海外の まれ得る利益を獲得することが困難となることを 微生物資源の保全と持続可能な利用のための 意味し、結果として資源保有国及び利用国双方 取組を実施しています。これにより、資源保有 にとって不利益をもたらす事態を招いてしまうおそ 国に遺伝資源の保全や収集、利用に関する技 れがあります。 術を移転するとともに、海外資源へのアクセスル このような状況を踏まえ、わが国としては、企業 ートの確保及び資源国との合意に基づく資源 や研究者などの遺伝資源の利用者が、生物多様 移転とその利用により、わが国の企業に遺伝資 性条約の目的のひとつである公正かっ衡平な利 源の利用の機会を引き続き提供していきます。 益配分の原則をよく理解し、遺伝資源保有国の信 ( 経済産業省 ) 頼を得て、遺伝資源保有国との良好な関係を築 〇独立行政法人製品評価技術基盤機構による多 いて、長期間にわたって遺伝資源を円滑に取得 国間の取組として、日本、韓国、中国、インドネ し、利用することができる環境を整え、遺伝資源 シアなど 12 か国による微生物資源の保全と利 の保有国及び利用国双方が利益を享受できるた 用を目的としたアジア・コンソーシアムを設立 ( 平 めの方策を推進する必要があります。「遺伝資源 成 16 年 ) し、各国の遺伝資源機関とのネットワー の利用から生じる利益の公正かっ衡平な配分」 クの構築により、人材育成、保存されている遺 のあり方については、 COPIO までのできるだけ早 伝資源の共有化などの取組を引き続き実施し い時期に、国際的枠組みの立案・交渉に関する ていきます。 ( 経済産業省 ) 作業を完了させることが期待されています。わが 〇国立遺伝学研究所、理化学研究所「バイオリソ 国がこれまで遺伝資源保有国との間で築いてき ースセンター」及び国立大学等の研究室が、基 た協力関係に基づき、国際的な枠組みを構築し 礎・基盤研究用微生物の収集、保存、提供を ていくことが重要だと考えています。 行っています。また、平成 14 年より、文部科学省 「ナショナルバイオリソースプロジェクト」におい 【具体的施策】 て基礎・基盤研究に重要な 6 種の微生物資源 〇独立行政法人製品評価技術基盤機構におい に焦点をあて、中核的拠点を整備し、収集、保 22 / ◆◆ ◆◆第 2 部第 2 章 横断的・基盤的施策 第 2 節遺伝資源などの 持続可能な利用

4. 生物多様性国家戦略2010

あることが欠かせません。人間はその生物多様 性を保全しつつ、持続可能な方法で海洋の生物 資源を利用していかなければなりません。 わが国において、木材は昔から多く利用されて きました。世界遺産の法隆寺をはじめ伝統的な 建築物は木でつくられており、私たちの居住に木 材は欠かせない材料でした。また、農機具をはじ めとするさまざまな道具も木材を利用してつくられ ており、生活に欠かせないものでした。このように わが国は、森林に恵まれた環境を活かし、木材 をその種類や性質に応じて生活の中に多様な形 で取り入れた「木の文化」をつくってきました。 また、化石燃料が普及する前には、わが国の工 ネルギー源の主体は薪炭でした。日常的に炊事、 風呂、暖房などの燃料として利用されていた薪炭 の使用量は、石汕などの化石燃料の普及により 大幅に減少しました。 現在でも、住宅を建てる際には木材が大量に 使われており、木材はやすらぎのある住空間を創 造するうえでのひとつの重要な要素として再認識 されつつあります。また、暖房の燃料としても、ま だ少ない数ではありますが、木材を細かくして固 形化したペレットを使うストープの普及が拡大す るなど見直されてきている地域もあります。さらに、 現代は、紙を大量に消費しており、そのためにも 大量の木材が使われています。私たちの生活を 営むうえで、昔も今も生物多様性の構成要素のひ とつである森林からの恵みである木材は必要不 可欠なのです。 このほか、絹、羊毛などの動物繊維、綿、麻な どの植物繊維も、それぞれの特徴を活かして衣 料をはじめさまざまな用途に用いられ、私たちの 生活に欠くことのできない重要な役割を果たして います。 私たち日本人は、食料は約 6 割を、木材は約 8 割を海外から輸入しており、世界の生物多様性の 恵みを利用して暮らしています。世界的には、過 剰な耕作や放牧など資源収奪的な生産による土 地の劣化、過剰な伐採や違法伐採、森林火災な どによる森林の減少・劣化、過剰な漁獲による海 洋生物資源の減少などの生物多様性の損失が進 んでおり、海外の自然資源を利用するわが国の消 費が輸出国の生物多様性の恩恵の上に成り立っ ている面もあることに、国民ひとりひとりが気付くこ とが大切です。また、地球規模で生物多様性の 損失が懸念される中、食料、木材などの資源の 多くを輸入するわが国としては、窒素循環など物 質収支の観点も含め、国際的な視野に立って自 然環境や資源の持続可能な利用の実現に努力 する必要があります。 わが国に水揚げされた水産物は、わが国が資 源を利用する優先権を持つ排他的経済水域など でとられたものだけではなく、公海や協定に基づ き他国の排他的経済水域内でとられたものも含ま れています。わが国で消費される魚介類の半分 程度が輸入されていること、世界中の海がつなが っており、広く移動する魚類が多くあることなどの 点も含めて、地球規模の海洋の生物多様性に依 存しているのです。 【生きものの機能や形の利用】 ・医薬品 生きものの機能や形態は、それぞれの種に固 有のものです。このような性質は、遺伝により、次 の世代に受け継がれていきます。それぞれの種 が持つ DNA 上の遺伝情報は、 40 億年という生物 進化の歴史の中で創り上げられてきたものです。 私たち人間は、その長い歴史に支えられたさまざ まな生きものの機能や形態の情報を、さまざまな 23 ◆◆ ◆ 2 生 1 節物部 生い様第 物の性 1 支念 る

5. 生物多様性国家戦略2010

考え方のもとに漁業者の自主規制を基本として漁 業資源の維持を図りながら海域の生物多様性の 保全を目指す知床世界自然遺産地域統合的海域 管理計画の事例や持続可能な漁業のために設定 された愛知県イカナゴ漁業における順応的禁漁 区の事例などを参考にしつつ、漁業をはじめとす る多様な利用との両立を目的とした、地域の合意 に基づく自主的な資源管理の取組や海域保護区 などの生物多様性の保全施策のあり方について 検討を行います。 わが国の沿岸域では、漁業に携わる人々によ る資源管理など、地域コミュニティによる利用・管 理が行われてきました。現在でも、日本海北部の ハタハタ漁で網目の大きさの制限などの自主的な 取組を含めた資源管理が行われているように、地 域が中心となって、沿岸域の保全を通じた持続可 能な資源管理につなげることが必要です。その際 自然海岸の保全、閉鎖性海域などの水質汚濁対 策、上流域の森林づくりを進めるなど、人々がそ の恵沢を将来にわたり享受できる自然の恵み豊 かな豊饒の「里海」を再生していきます。 また、繁殖地など重要な生息地の保全や混獲 回避技術の開発・普及をはじめとする海鳥、ウミ ガメなどの移動を考慮した広域的、国際的な取組 など国内外のネットワークの視点を踏まえた取組 を強化します。 海洋汚染による生態系への影響や漂流・漂着ご みの誤飲などによる動物への影響を避けることも 重要です。このため、周辺海域の海洋汚染の状 況を継続的に把握し、重金属類、有害な化学物 質や赤潮発生の対策を通じて海洋汚染の防止を 図ります。漂流・漂着ごみに関しては、状況の把 握、国際的な対応を含めた発生源対策、被害が 著しい地域への対策を推進することにより沿岸・ 海洋域における生物多様性の保全に寄与します。 ヾ、 4. 地球規模の視野を持って行動する わが国の生物多様性は、海や空を介して周辺 の各国とつながっており、また、わが国は自然資源 の多くを輸入しており、世界の生物多様性に影響 を与えています。そうした地球規模の視野を持っ ことが重要であり、世界の生物多様性の保全に ついてリーダーシップを発揮し、国際的な連携を 進めていくことがわが国の責務です。 また、 2010 年 ( 平成 22 年 ) に COPIO が、愛知県 名古屋市で開催されることから、開催国・議長国 として国際社会において主導的な役割を果たして いくことが期待されています。わが国は、ポスト 2010 年目標の検討などの世界の生物多様性の将 来を左右する主要議題において、国際的な議論を リードし COPIO を成功に導くとともに、わが国の特 性を踏まえた国際貢献を具体的な姿で示します。 さらに、生物多様性の保全のため、つながりの 深いアジア太平洋地域を中心とした国際協力な ど地球規模の生物多様性への視野を持って行動 していきます。 【 COPI 0 の成功と新たな戦略計画づくりへの 貢献】 2010 年 ( 平成 22 年 ) の COPIO は、愛知県名古屋 市で開催されます。わが国は、地球規模の視野 を持って、 COP 議長国として COPIO を成功させま す。 COPIO では、主要議題として、条約の戦略計 画の改定が予定されており、 2010 年目標の達成状 況の評価結果を踏まえたポスト 2010 年目標をはじ めとする条約に基づく世界の取組の方向性が議 論されます。わが国は、ポスト 2010 年目標につい て、関係者と意見交換を行いながら検討を進め、 率先して日本から目標を提案することで、 COPIO における国際的な議論をリードします。日本から の提案では、世界が広く人と自然の共生を実現す 91 ◆◆ 持生 = 1 続物部 利の章 用保 の全 、基及 針

6. 生物多様性国家戦略2010

管理を効果的に行える場合もあります。わが国で は、限られた国土の中でのこうした資源管理を通 じた持続可能な利用が生物多様性の保全につな がってきたのです。このような自然との共生に関す る旧来からの智恵に改めて目を向け、現代社会に おいて、資源の循環利用の視点を持ちつつ、工 コツーリズムやバイオマス利用の活性化なども含 めて、地域住民のほか、都市住民、企業、 NGO な ど多様な主体の参加による新たな共同利用・管 理のシステムの再構築を進めています。 わが国の里山に見られるような資源の持続可 能な利用・管理の事例は、世界各地でも見ること ができます。一方で、多くの場所では資源の収奪 的な利用や人口増加により、持続可能な利用・管 理が実現できす、そこで暮らす人々の暮らしが脅 かされていることも事実です。また、気候変動に 伴う異常気象の農作物への影響や、穀物価格の 高騰による食糧危機がこの問題に拍車をかけて います。 このため、わが国がっちかった自然共生社会づ くりの智恵をベースに、世界各地にも存在する自 然共生の智恵や伝統を合わせて、「人と自然の共 生と循環に関する智恵の結集」、「伝統知識と現 代の科学知識の融合」、そして、地域の人々など が資源の共同管理を行う「新たなコモンズの創造」 の三つの考え方を基本とし、自然資源の持続可 能な利用・管理のための世界共通理念を取りまと めます。さらに、その実現のための指針などを提 示し、それらに基づく取組を推進します。これらを 「 SATOYAMA イニシアテイプ」として世界に向け て発信し、 COPIO を契機に多様な主体の支持・ 参加を得た国際協調の枠組みを設立することで イニシアテイプを世界的に推進し、問題の解決に 貢献していきます。 こうした「 SATOYAMA イニシアテイプ」に基づ く取組は、気候変動に対する地域の生態系の安 定性を高めることなどを通じて安定的な食料や燃 料の供給にも寄与し、人間の福利の向上にもつ ながるものです。 また、日本における自然との共生の姿を世界に 分かりやすく発信することも重要であり、特に、美 しい自然を将来に継承しつつ地域社会と共存す る日本型国立公園のシステムや多様な形で保全と 利用が調和した美しい森林をはじめとする持続可 能な農林水産業などわが国の先進的な取組を世 界各国に発信し、アジア各国を中心に地域の状 況に応じて支援を行います。 【生物多様性の総合評価や温暖化影響を含む モニタリングなどの実施】 国際的な生物多様性の評価によれば、世界の 生物多様性の損失速度は多くの指標において依 然として悪化傾向が改善されておらず、条約が掲 げた生物多様性の損失速度を顕著に減少させる という 2010 年目標については、その達成が困難な 状況にあります。 わが国としても、このような国際的な評価の取 組と併せて、日本の生物多様性がどのような状況 であるか、生物多様性の施策がどのくらい進展し、 その効果がどれくらいかを的確に把握しなければ なりません。国家戦略は、毎年点検を実施し、施 策の実施状況を報告していますが、 2010 年 ( 平成 22 年 ) 時点におけるわが国の生物多様性の全体 像を把握するため、科学的知見に基づき、社会経 済的側面も踏まえたうえで総合的に評価を行いま す。その際、わが国の生物多様性の状況や施策 の効果を総合的に把握するための指標について、 各省とも連携して開発します。こうした総合評価を 行う中で、生物多様性の危機の状況を具体的に 地図化し、生物多様性の保全上重要な地域 ( ホ 93 ◆◆ 持生 利の章 三用保 の全 : 基及 。本び 針

7. 生物多様性国家戦略2010

◆◆◆第 3 章・◆◆ 生物多様性の保全及び 持続可能な利用の目標 本章では、第 1 章の生物多様性の重要性と理 念を背景とし、第 2 章の現状と課題に対応して、 目指すべき目標について示します。ます、生物多 様性に関する国際的な目標の動向と 2010 年以降 の新たな世界目標 ( ポスト 2010 年目標 ) の設定に 対するわが国の考え方 ( 日本提案 ) を示します。次 に、それらの考え方をもとに、わが国において「自 然共生社会」を構築するための中長期目標と短期 目標を掲げ、それらとの関連で、わが国の生物多 様性の状況を表す総合評価の実施について記述 します。さらに、 100 年といった長期を見据えて目 指すべき目標像としての国土、地域、社会の姿を、 生物多様性から見た国土のグランドデザインとし て具体的なイメージとともに示します。 ◆◆◆第 1 節◆◆◆ 目標と評価 1 . 生物多様性条約 2010 年目標と 次期世界目標 生物多様性条約の採択から 10 年目にあたる 2002 年 ( 平成 14 年 ) に開催された COP6 において 「 2010 年 ( 平成 22 年 ) までに生物多様性の損失速 度を顕著に減少させる」という 2010 年目標が採択 されました。 2010 年 ( 平成 22 年 ) は目標年にあたり、 現在、生物多様性条約事務局において、その達 成状況の評価が行われていますが、達成は非常 に困難な状況といわれています。 2010 年 ( 平成 2 2 年 ) にわが国で開催される ◆◆ 58 COPIO では、 2010 年目標の達成状況などを踏ま えて、 2010 年以降の目標であるポスト 2010 年目標 を含む新たな生物多様性条約の戦略計画の策 定が主要議題として予定されています。わが国は、 COPIO の議長国として、国内外の専門家や NGO などの多様な主体の意見を聞きながら、世界の 共通目標にふさわしいポスト 2010 年目標の案を諸 外国に先駆けて提案することで、国際的な議論を 主導していきます。 【ボスト 2010 年目標の日本提案】 2010 年 ( 平成 22 年 ) 1 月に、わが国は生物多様 性条約事務局に対して、ポスト 2010 年目標の日本 提案を提出しました。 2010 年目標には、達成に向 けた具体的な手法が提示されていないほか、達 成状況を客観的に評価する手法がないなどの改 善すべき点が指摘されていました。このため、わ が国からの提案では、 2050 年を目標年とする中長 期目標と、中長期目標を達成するため、 2020 年を 目標年とする短期目標を設定しています。さらに これらを達成するために、より具体化した複数の 個別目標を定め、個別目標を達成するための具体 的な手法とそれらの達成状況の進捗を測定する ための指標を提示しました。 中長期目標 ( 2050 年 ) では、地球規模で生物多 様性の損失が止まらないという厳しい状況が予想 される中で、全締約国、全ての人々が共通に追求 する将来の理想像として「人と自然の共生を世界 中で広く実現させ、生物多様性の状態を現状以

8. 生物多様性国家戦略2010

生態系モニタリングを進めています。モニタリング 本情報図である縮尺 2 万 5 千分の 1 植生図につ サイト 1000 による調査結果はさまざまな生物多様性 いては、国土の約 50 % ( 平成 22 年 3 月現在 ) を整 保全施策に活用されていますが、近年問題となっ 備している状況ですが、平成 24 年 3 月までに国 ている地球温暖化による生態系への影響を具体 土の約 6 割とするなど早期の全国整備を進めま 的に把握するためには、高山帯など温暖化の影響 す。 ( 環境省 ) がより顕著に現れる生態系における継続的な調査 〇わが国に生息・生育する動植物種の分布に関 の実施、気象条件など物理・化学的要素と生物的 する継続的な情報収集を行うほか、陸域に比 較して生物相に関する基礎的情報の把握が進 要素との関係のよりきめ細かなモニタリン久航空 んでいないわが国の海域における自然環境デ 写真、人工衛星などの利活用によるリモートセンシ ング技術導入など広域的な把握や速報性の向上 ータの収集整備などを関係省庁が連携して実 施します。 ( 環境省、関係省庁 ) のための統合的情報解析・提供システムの整備を 〇一般市民のほか、調査研究機関、民間団体、 はじめ、地球規模の観点からより総合的なモニタ 専門家などを含む多様な主体の参画により、地 リング体制を整備・構築することが必要です。また、 球温暖化の影響による野生生物分布の変化を 本事業を各地域における具体的な保全施策につ なげていくためには、関係地方公共団体と、調査 はじめ、身近な自然環境に関する観察情報の 実施に係る情報共有及び調査結果の共有におい 収集を呼びかける市民参加型調査を実施し、 て密接に連携協力していくことが必要です。 わが国の生物多様性の保全の重要性について 普及啓発を図るとともに、自然環境データの広 【具体的施策】 範な収集体制の構築を図ります。 ( 環境省 ) [ 再 〇「生態系総合監視システム」の一環として「モニ 掲 ( 2 章 3 節 1. 1) ( 2 章 6 節 1. l)] タリングサイト 1000 」事業において、温暖化影響 〇シカやクマをはじめ、わが国の生態系や農林水 がより顕著に現れる高山帯をはじめ、わが国を代 産業に大きな影響を及ばす鳥類・哺乳類のきめ 表するさまざまな生態系の変化の状況をより的確 細かな保護管理施策を進めるため、これら特 定の野生動物に係る重点的な生息情報の収集 に把握するために、継続的に調査を実施します。 ( 環境省 ) [ 再掲 ( 2 章 1 節 1. 2 ) ( 2 章 6 節 1. I)] 及び生息密度・個体数推定に関する調査を推 〇リモートセンシング技術の利活用などによる広域 進し、経年的な変動も明らかにしていきます。 的生態系モニタリングを実施し、各省などのデ ( 環境省 ) [ 再掲 ( 2 章 1 節 2. 4 ) ] ( 環境省 ) [ 再掲 ータの共有、相互利用の推進などの連携強化 ( 2 章 1 節 2. 4 ) ] や速報性の向上を図り、わが国の自然環境の 〇モニタリングの実施にあたっては、専門家、 NGO 、ボランティア、地方公共団体をはじめ、多 様な主体の参画・協力を得て、効果的かっ継 続的な調査の実施を行う体制を構築するととも に、得られた自然環境情報の集積と解析結果 2 / 5 ◆◆ ◆◆第 2 部第 2 章 横断的・基盤的施策 第 5 節情報整備・技術開発 2.2 生態系総合監視システム 【現状と課題】 「モニタリングサイト 1000 」では、約 1 , 000 か所の 調査サイトを設置し、研究者、地域専門家、 NGO などの参加のもと、わが国の代表的な生態系 ( 森 林、里地里山、陸水域、沿岸域など ) の長期的な

9. 生物多様性国家戦略2010

食料、木材の多くを海外の生物多様性に依存し たすためにも、わが国の目標達成状況を把握する ている日本では国民生活へも大きな影響を与えま 必要があります。このため、生物多様性の総合評 す。さらに、気候変動に伴う異常気象による農作 価を引き続き実施することにより、わが国の生物 物への影響や穀物価格の高騰などが、この問題 多様性の現況に関する総合評価の手法の確立 や、日本の生物多様性の現状や動向を評価し、 に拍車をかけています。 このため、わが国にとって、また国際社会全体 国民に分かりやすく伝えること、具体的な施策や にとって、地域の環境が持っポテンシャルに応じ 生物多様性国家戦略の見直しに活用することが た持続可能で循環的な自然資源の利用を通じて、 必要です。また、総合評価の実施結果を踏まえ、 自然共生社会づくりを進めていくことが、低炭素社 2010 年 ( 平成 22 年 ) の COPIO 開催国として、諸外 会づくりや循環型社会づくりとともに、持続可能な 国に生物多様性についての総合評価実施を促す 社会を構築するうえで不可欠です。 ことを通じ、わが国の国際的なリーダーシップを わが国には、里地里山に代表されるように、自 発揮する必要があります。 然を単に利用するだけでなく、上手く利用しなが 【具体的施策】 ら協働して守り育てていく智恵と伝統があります。 また、アジアをはじめ、世界各地にも自然と共生 〇多数の専門家の参加により生物多様性の総合 するための伝統的な自然資源の利用形態や社会 評価を実施し、分かりやすく取りまとめ、発表し システムがあります。こうした智恵や伝統を現代に ます。 ( 環境省 ) [ 再掲 ( 2 章 5 節 1. 1)] おいて再興し、さらに現在の科学知識を融合し、 〇生物多様性の総合評価の成果は COPIO で発 発展させて活用することにより、世界各地の自然 表し、他国にも、国レベルの生物多様性総合評 条件と社会条件に適した自然共生社会を実現し 価の実施を呼びかけます。特にアジア・太平洋 ていくことが必要です。このため、「自然共生社会 地域には技術的な支援や経験の移転を行いま の実現」という長期目標のもと、農林水産業など、 す。 ( 環境省 ) [ 再掲 ( 2 章 5 節 1. 1)] 人間活動の影響を受けて形成・維持され、世界 中に広範囲に分布する二次的自然地域における 1 .3 SATOYAMA イニシアテイプの 自然資源の持続可能な利用・管理を進めるため 提案・発信 【現状と課題】 の取組を「 SATOYAMA イニシアテイプ」として世 界に向けて発信し、さらに、 COPIO を契機に多様 世界には、社会経済活動において短期的な生 な主体の支持・参加を得た国際パートナーシップ 産性を重視するあまり、現地の気象、土壌及び水 を設立することでイニシアテイプを世界的に推進 理的な条件を考慮しない、もしくは自然の回復カ していくことが問題の解決につながります。 を超えた収奪的な農業活動、過剰な伐採と伐採 、地の放置、家畜の過放牧などにより、各地域に特 このような生物多様性の持続可能な利用の確 有で多様な生態系の劣化及び喪失が進んでいる 立は、生物多様性条約締約国会議をはじめ、生 物多様性に関する国際的な議論においても、先 地域が見られます。その結果生じている地球上の 生物多様性の損失は、渡り鳥の減少などわが国 進国、途上国に共通する重要な課題となっており、 その課題解決に貢献すると考えられます。 の生物多様性の損失につながることはもちろん、 二一口 ◆◆ 250

10. 生物多様性国家戦略2010

ることを目指し、目標の進捗状況を測るための指 標と併せて、個々の目標の具体的な達成手法を 示します。また、この目標が広く共感、共有されて、 生物多様性の社会における主流化が図られるこ とで、その達成に向けて多様な主体が自ら行動 する社会の実現を目指します。 そのほか、「遺伝資源へのアクセスと利益配分 (ABS : Access and Benefit-Sharing) 」に係る国 際的枠組みに関する議論については、わが国とし て、国際的な遺伝資源の利用実態を踏まえ、生 物多様性の保全と持続可能な利用に資するため に、遺伝資源の取得を容易にし、その利用から 生ずる利益の公正かっ衡平な配分に資するよう な枠組みとなるよう、議長国としてリーダーシップ を発揮します。また、 COPIO に先行して開催され るカルタへナ議定書第 5 回締約国会議 ( COP ー MOP5 ) における「責任と救済」については、締約 国会議の開催国として、遺伝子組換え生物等に 対するさまざまな立場を持つ各国にとって実施可 能な内容となるよう検討作業に参加します。 COPIO の成功に向けて、 NGO や市民社会の幅 広い参画を図っていくことが重要です。このため、 幅広い関係者が参画する「生物多様性条約第 10 回締約国会議及びカルタへナ議定書第 5 回締約国 会議に関する情報共有のための円卓会議」を開 催したり、全国各地において対話の場を設けるこ とにより、 NGO を含む多様な主体の情報交換や 連携・協働を推進します。 さらに、 COPIO に併せて開催される予定の「生 物多様性国際自治体会議」は、地域の生物多様 性にとって重要な役割を担う地方公共団体がそ の重要性を共有し、パートナーシップを構築する またとない機会です。地域レベルの生物多様性 保全の取組を国際的な動きとして広めていくた め、地方公共団体の取組を積極的に支援します。 ◆◆ 92 また、 COPIO や国際生物多様性年を契機とし た経済団体の取組の強化も重要です。日本経済 団体連合会などと協力しながら、わが国で行われ ている生物多様性の保全と持続可能な利用に自 主的に取り組む企業の動きを世界中に広げるた め、「ビジネスと生物多様性イニシアテイプ」のよう な枠組みの構築に取り組みます。 なお、 2012 年 ( 平成 24 年 ) の COPII までの期間、 わが国は COP の議長国を務めることになります。 わが国は、議長国としての国際的なリーダーシッ プを継続して発揮し、議長国期間以降も、生物多 様性の保全と持続可能な利用に関するさまざまな 日本の先進的な取組を国内外に発信しつつ、ポ スト 2010 年目標の達成のために国際的な取組を 主導していく必要があります。 【里地里山など自然資源の持続可能な利用・ 管理のための世界共通理念の構築と発信】 わが国には、降雨量や四季に恵まれたモンス ーン気候の中ではぐくまれた特有の自然観や長い 間の農耕生活につちかわれた自然と共生するさま ざまな智恵と伝統があります。それらは、そうした 自然に手を付けずに守る保護ではなく利用しな がらはぐくむといったわが国の自然観や経験に基 づくものといえます。 例えば里山においては、田畑に入れるたい肥 や燃料を得るために、多くの地域で入会権などに 基づいて、将来にわたって資源を得ることができ るように採取できる場所・期間、場合によっては採 取の方法なども地域の自治組織により定められ、 共有の資源 ( コモンズ ) として利用・管理されてい ました。海においても、同様に水産資源を地域に おいて厳しく管理をしている事例が今でも見られ ます。地域の人々が自主的に行うこれらの取組は、 法律に基づく規制に比べ、生物多様性の保全・