イレッドデータブック掲載種のモニタリング調査 : 絶滅のおそれの高い種を中心 に、その的確な保護対策が講じられるように、生息状況や生息環境等の継続的なモニタリ ングを行う。 また、調査研究の推進に当たっては、国の機関の連携、地方公共団体との連携、民間団 体及び専門研究者との連携によるネットワークの強化を図る。 3 鳥獣の保護管理 鳥獣は、自然環境を構成する重要な要素の一つであり、自然環境を豊かにするものであ ると同時に、国民の生活環境の保持・改善上欠くことのできないものであり、広く国民が その恵みを享受するとともに、永く後世に伝えていくべき国民の共有財産である。このた め、生息環境の整備、野生鳥獣の捕獲の規制等鳥獣の保護管理の充実強化を図っていく。 ( 1 ) 鳥獣保護事業の推進 野生鳥獣の保護は、鳥獣の生息状況等に即して計画的に進める必要がある。このため、 「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」に基づく鳥獣保護事業計画に即して、鳥獣保護区の設 定、人工増殖及び放鳥獣、普及啓発等の保護事業を積極的に推進する。 ( 2 ) 野生鳥獣の捕獲の規制 我が国に生息する野生鳥獣は生態系維持の観点から保護を図る必要がある。野生鳥獣の 捕獲については一定の制限をしており、狩猟については、捕獲できる鳥獣を、生息状況等 から 47 種類としているほか、猟期の制限、捕獲数の制限、休猟区の設定等により規制を加 え、野生鳥獣の保護を図っているところである。 今後とも生息状況等科学的知見に基づいて、狩猟等による捕獲の規制を適切に進める。 ( 3 ) 野生鳥獣の保護管理 ア野生鳥獣は、鳥獣保護区の設定、管理を中心とする生息環境の整備、捕獲の規 制、適正な個体数管理によりその保護管理を推進することが必要である。 特定の種の生息数の増加により、農林業被害や生態系への影響が懸念される場合等に は、捕獲による個体数調整、被害防除施設の設置、生息環境の整備等を総合的に推進す る。また、狩猟が野生鳥獣の生息数コントロールに一定の役割を果たしていることから、 狩猟の適正な管理を進める。 イ西中国地域のツキノワグマ等保護に留意すべき地域個体群の保護等のため、生息 数の維持、生息環境の整備、農林業被害の防除、地域住民への普及啓発等の方策を含めた 保護管理計画の策定・実施に努めている。 野生鳥獣の生息状況等の調査・研究 進めることにより科学的知見の充実を図り、それに基づき、野生鳥獣の保護管理を進め 今後とも、野生鳥獣の生息地域、生息数、生息環境、生態等に関する調査研究を ( 4 ) る。 ウ
第 4 節保護地域周召豐開発の適正化 1 基本的考え方 我が国の保護地域には必すしも生態系保全の観点から十分な面積を有していないものが ある。また、湿原等保護対象の生態系に周囲 ( 湿原では主に上流部 ) の広大な地域の開発 行為が大きな影響を及ばす場合がある。 こうした保護地域においては、保護対象の自然を適切に保護するために、保護地域の周 辺地域の開発を適切に誘導することが必要である。 保護地域の周辺地域に何らかの規制がある場合には、保護地域の保全にも資するように その適切な運用を図ることが重要である。 また、保護地域内の生物多様性に大きな影響を及ばす行為が行われないように、周辺地 域の管理者及び土地所有者の理解と協力を得ることが必要である。このため、ます、保護 地域の生物多様性への理解を深めるために関連情報の積極的な提供等により普及啓発に努 めるとともに、特に周辺地域の開発行為が保護地域に影響を及ばすおそれのある地域につ いては、関係者を含めた連絡調整のための組織の設置等により、関係者の理解と協力の下 に保護地域の周辺地域の開発が適切に行われるように努める。 さらに、必要に応じて、保護地域の生物多様性を保全するための広域的な環境管理の指 針作成や奨励措置についても検討する。 2 各種取組 ( 1 ) 森林 第 1 節で記述した国有林の「保護林」に外接する森林においては、「保護林設定要領」 業を行うこととし、一堡埜内 2 第の効果的 , な維持形成を図る。 「保護林」の中でも「森林生態系保護地域」については、 UNESCO の「人間と生物圏 計画」 (MAB 計画 ) の考え方を参考にしつつ、森林生態系の厳正な維持を図るべき地区 ( 「保存地区 ( コア ) 」 ) と、保存地区の森林に外部の環境変化の影響が直接及ばないよう 緩衝の役割を果たすべき地区 ( 「保全利用地区 ( バッファーゾーン ) 」 ) とに区分してい る。この「保全利用地区」は、自然条件等に応じて、森林の教育的利用や、大規模な開発 行為を伴わない森林レクリエーションの場として活用することとしている。保全利用地区 においては、人り込み者が一部地域へ集中することを防止するとともに原生的な森林の中 で森林の働きと森林との接し方を学ぶ機会を提供することを目的として、良 ) 休 みー案内板等の教育用施設を整備するとともに、パンフレッりを 2 置里資を , 一 - ー して積極的な普及啓発に努める森林生態系保護地域バッファーゾーン整備事業」を実施 ( 2 ) 農地 している。 42 貴重な野生動植物の宝庫である湿原を、周辺農地の影響から保全するために、農地から
前文 地球上には、地域の気候や土壌等の条件に応じて、熱帯から寒帯まで、海洋・沿岸地域 から高山帯まで、様々な生態系や生物の生息・生育環境が広がっており、そこには、 300 万から 3 , 000 万またはそれ以上の生物種が存在するといわれている。また、同一の種で あっても、分布地域や生息・生育環境の違い等によりその遺伝的特性の相違は小さくな こうした生物多様性は、地球上に生命が誕生して J) 来、 40 億年の歴史を通じて形成され たものであり、人類の生存基盤をなすとともに 、々な価値を有する重要なものである が、人間活動によって著しく減少していること。懸念されている。このため、現在及び将 を持続可能なものとする必要性が国際的 来の世代のために生物多様性を保全し、そ に強く認識されるに至った。国連環境計画 (UNEP) を中心に国際条約の作成が検討さ れ、 1990 年から条約交渉が開始された。作成された「生物の多様性に関する条約」 ( 以下 「生物多様性条約」という。 ) は、 1992 年 6 月の国連環境開発会議 ( 地球サミット ) にお いて 157 カ国により署名され、 1993 年 12 月 29 日に発効した。我が国は、 1993 年 5 月 28 日に 生物多様性条約を受諾し、 18 番目の締約国となった。 1995 年 10 月現在の締約国は 128 カ国 である。 「生物多様性条約」第 6 条には、生物多様性の保全及び持続可能な利用を目的とする国 家戦略の策定に関する規定がある。同条約が発効し、その実施に向けた取組が各国で進め られていることから、我が国としても、新たに国家戦略を策定し、「生物多様性条約」の 実施に関する我が国の基本方針及び今後の施策の展開方向を国の内外に明確に示すことが 合意された。また、我が国における環境保全施策の基本的事項を定めた「環境基本法」に おいても、生物多様性の確保は環境保全施策の策定及び実施に関する指針の一つに位置づ けられており、同法に基づき策定された環境基本計画 ( 1994 年 12 月 16 日、閣議決定 ) にお いても本国家戦略を策定することとされた。 このため、条約の実施促進を目的として 1994 年 1 月に設置された関係省庁連絡会議 ( 11 省庁の局長クラスで構成。議長は環境庁自然保護局長。 ) が中心となって国家戦略 ( 原 案 ) を作成し、 1995 年 8 月に国民の意見聴取を行った。その結果を受けて、所要の修正を 行い、 1995 年 10 月 31 日に「地球環境保全に関する関係閣僚会議」において国家戦略が決定 された。 この国家戦略は 4 部構成である。第 1 部では、基本認識として、我が国及び世界の生物 多様性の現状にふれ、第 2 部では、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する我が国の 基本的考え方及び長期的な目標を示した。また、第 3 部では、自然環境の保全や生物資源 の利用に関連する現行施策を生物多様性の保全と持続可能な利用の観点から整理し、条約 の実施のための今後の施策の展開について示した。最後に第 4 部では、国家戦略の実施体 制と各主体の連携、各種計画との連携、及び国家戦略の点検と見直しについてふれ、国家 戦略の効果的な実施を確保するために必要な方策を記した。この国家戦略の実施主体は政 府であるが、生物多様性の保全と持続可能な利用は国民の社会経済活動の全般に関わるも のであることから、地方公共団体、事業者及び国民においても、積極的自発的に取り組む ことが期待される。 1
第 4 節自然環境関連の諸条約の実施 1 諸条約との連携強化 「生物多様性条約」と関連する他の多数国間の国際約束としては、特に水鳥の生息地と して国際的に重要な湿地の保全を目的とし、各締約国が促進すべき保全のための諸措置を 定める「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」 ( ラムサール条約 ) 、 絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存を図るため、希少種の国際取引 ( 輸出人及び海 からの持込み等 ) の規制について定める「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引 に関する条約」 ( ワシントン条約 ) 、文化遺産及び自然遺産を人類全体のための世界の遺産 として損傷、破壊等の脅威から保護し、保存するための国際協力の確立を目的とする「世 界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」 ( 世界遺産条約 ) 、南極地域の環境を包括 的に保護するための「環境保護に関する南極条約議定書」等がある。また、我が国が締結 している渡り鳥等の保護に関する二国間条約や協定も本条約と密接に関連している。 これらの条約等と本条約は、それぞれ対象、保護の態様等に差異があるものの、ともに広 い意味での自然環境保全、野生動植物及びその生息地等の保護を目的とするものである。 「生物多様性条約」は、第 1 回の締約国会議を了したはかりであり、今後の数次の締約 国会議を経て、条約に基づく活動を早急に軌道にのせる必要があるが、既に先行して地球 環境保全の課題達成に向け機能しているこれらの関連条約等と本条約がよく連携をとり、 地球環境保全の課題達成に向け取り組んでいくことが肝要である。 2 諸条約の実施 「ラムサール条約」の実施のため、国内においては、湿地生態系保全のための保護地域 の設定の推進を図るとともに、特に、国際的に重要な湿地については条約上の登録湿地と するよう努めている。また、国際的には、特に我が国に渡来する水鳥類の渡りのルート上 に位置するアジア地域において、湿地の現況調査や普及啓発を進める等により、アジア諸 国における条約批准の促進や湿地保全への協力に努めている。今後とも、国内外の湿地保 全のための取組を進め、「ラムサール条約」の実施促進を図る。 「ワシントン条約」については、附属書 I ~ Ⅲに掲げられている種の輸出人の規制を 「外国為替及び外国貿易管理法」の「輸出貿易管理令」及び「輸人貿易管理令」並びに 「関税法」に基づいて行っている。さらに、「ワシントン条約」の附属書 I に掲げる種及 び二国間の渡り鳥保護条約等で絶滅のおそれのある鳥類とされた種については、「種の保 存法」に基づき、国内での取引規制を行っており、こうした国内法の適切な運用によりこ れらの条約等の実施を推進していく。 「世界遺産条約」については、自然遺産として登録された白神山地と屋久島の保護管理 を進めるため、関係省庁が協力して統一的な管理計画の策定を進めるともに、開発途上国 にある自然遺産地域の保護管理を支援するための国際協力を実施している。今後とも、国 内外の自然遺産地域の保護管理のための取組を進め、「世界遺産条約」の実施促進を図 る。 119
いくっかの種は、生態系の正常な機能遂行に重要な役割を果たしていることが知られているが、ほとん どの種については、それぞれが果たしている生態学的役割は解明されていない。現実に、数種の菌根形成 菌が植物による土壌中のリン酸の吸収を調節しているように、その個体数密度とは比較にならないほど重 要な役割を果たしている種もある。このような「キーストーン種」の消失は、その生態系の生産能力を著 しく低下させる。 ある生態系の地理的位置および他の生態系 ( 類似したもの、異なるもの ) との空間的関係は、しばしば 重要な検討すべき事項である。例えば、サンゴ礁・マングロープ林・コンプ群落などは、隣接する陸生生 態系を波から守る緩衝効果を持ち、このようにして大規模の土壌浸食を引き起こすような嵐の影響を緩和 する ( 図 4 ) 。川岸や湿地は、水が小川や河川に流れこむ前に水質を浄化する。これらの地域で適切な植生 を維持する方が、類似した植生を他の場所で維持するよりも、この生態系のサービスを維持するための効 果は高い。同様に、多くの哺乳動物や鳥類には、大規模な生息地域や分断された小さな生息地を結ぶ回廊 状の生息地が必要である。生息地の分断の程度と、生息地の間の連絡の程度は、動物が食物を捜し回り、 隠れ場を見つけ、繁殖を成功させる能力に影響を及ほ。すことがある。植物の場合は、生態系の空間配置 が、種子や花粉の拡散とその後の繁殖に影響を及ほ。すことがある。 財とサービスが長期にわたり持続的に供給されるためには、生物多様性を特定のレベルに維持し、環境 要因や管理行為による攪乱に対する継続的な適応能力を確保することが必要である。このことは、種内の 遺伝子の多様性、生態系内の種の多様性、地域内の生態系の多様性について当てはまる。例えば、気候変 動に対する反応はしばしば種によって異なるため、気候の変化が、ある地域のいくっかの種の淘汰を引き 起こし、その一方で、他の種は存続し、繁栄さえするかもしれない。 ・熱帯湿潤林 日亜熱帯雨林 / 疎林、温帯雨林 / 疎林 ■温帯針葉樹林 / 疎林 ロ熱帯乾燥林 / 疎林 ・温帯広葉樹林 ■常緑硬葉樹林 圏温暖地砂漢 / 半砂漢 ■熱帯草原 / サバンナ ロ温帯草原 ■島嶼混交生態系 ロツンドラ群集 ・山岳混交生態系 ・寒地荒原 ■湖沼生態系 図 3 (b) 世界の生物地理的区分 (Udvardy, M. D. F. 1975. びな s 電〃 / 厖 ん ogeog カん / カ % の化 s / 厖肥 0 . IUCN' Morges Switzerland に基 づいて作成 ) 151
第 2 部 第 1 節 生物多様性の保全と持続可能な利用のための基本方針 基本的考え方 1 生物多様性の定義とその様々な価値 生物多様性は、「生物多様性条約」第 2 条において次のとおり定義されている。 「すべての生物 ( 陸上生態系、海洋その他の水界生態系、それらが複合した生態系その 他生息又は生育の場のいかんを問わない。 ) の間の変異性をいうものとし、種内の多様 性、種間の多様性及び生態系の多様性を含む。」 すなわち、生物多様性とは、生物が遺伝子レベル、種レベル、及び生物の相互関係の複 合体としての生態系レベルで変異性を保ちながら存在していることである。 こうした生物多様性は、人類の生存基盤である自然生態系を健全に保持し、生物資源の 持続可能な利用を図っていくための基本的な要素であり、遺伝、科学、社会、経済、教 育、文化、芸術、レクリエーション等様々な観点からその価値が認識されている。 2 生物多様性の保全及び持続可能な利用の重要性及び必要性 地球上で最も生物多様性に富んだ地域といわれる熱帯林は、国連食糧農業機関 ( FAO ) の調査によれば、 1981 年から 1990 年までの 10 年間に毎年 15.4 万 k ( 日本の国土面積の約 4 割に相当 ) の割合で減少した。海の熱帯林に例えられるサンゴ礁についても、近年急激に 状況が悪化している。世界のサンゴ礁の 10 % がかなり劣化し、それを遙かに超える割合の サンゴ礁が危機的状況にあると推定され、この状況が続けば、 21 世紀中に世界のサンゴ礁 資源のほとんどは失われると予想される。このように世界の生物多様性の喪失及び減少が 急速に進んでいる。 我が国においても、これまでに種や地域個体群が絶滅しており、また、各種開発行為に よる生息地の減少や劣化、さらには、移人種による生態系の攪乱等によって、生物多様性 の喪失や減少が進行している。 また、我が国の国民の重要な蛋白源である水産資源についても、養殖業を除く海面漁業 の生産量が戦後ほば一貫して増加していたが、 1984 年の 1 , 150 万トンをピークに、マイワ シ資源の減少、遠洋漁業の後退等により減少し、 1992 年には 800 万トンを下回った。ま た、底魚類を中心に我が国周辺の資源状態は総じて低水準にある。 こうした状況下において、現代の大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済活動や生 活様式のあり方を問い直し、生産と消費のパターンを持続可能なものに変えていく必要が あるとの基本認識に立って、生物多様性を保全し、その構成要素の持続可能な利用を図る ことは、現在の世代はかりでなく、将来の世代の可能性を守るためにも、極めて重要な課 題である。 それぞれの地域の生態系は相互に密接に関係しつつ全体として地球の生態系を形成して いるものであり、生物多様性も地域レベルから全地球レベルまで密接に関連するものであ る。したがって、世界の生物多様性の保全のためには、人類も地球生態系の一員であると 20
トを設置した日光宇都宮道路 ( 栃木県 ) や、ミズバショウの群生する湿原を保護するため に橋脚を立てない橋梁形式を採用した道央自動車道 ( 北海道 ) 等をあげることができる。 イ今後の展開 このようなエコロードの整備をこれまでにも増して一層強力に推進していくため、 1994 年 1 月に建設省一体となってとりまとめた「環境政策大綱」ではエコロードを環境リー ディング事業の 1 っとして位置付けている。また、都道府県ごとの道路管理者等からなる 協議会が 1994 年 9 月にとりまとめた「地域道路環境計画」においても、 1997 年度末までに 一般国道 108 号鬼首道路や一般国道 158 号安房峠道路等約 200 箇所においてエコロードの整 備を推進していくこととしている。 またこのような整備にあわせて、設置された施設が実際に動物に利用されているか、移 植された植物が在来の植物相にどのような影響を与えているか、地域の生態系と調和して いるか等の追跡調査を実施しその効果を確認する必要がある。 いすれにしても自然環境の保全は、地域の実状に応じた地道な活動の継続によって達成 されるものであり、しかも、目にとまる動植物のみならす、生態系全般にいたるまで心を 配らなければならない課題である。「道を動物や植物等自然界の目で見つめる。」このよう なエコロードの取組に今後とも積極的に取り組んでいくこととしている。 ( 2 ) 多自然型川づくり ア概要 河川事業の実施に当たっては、従来より生物の生息・生育環境に配慮しつつ事業を進め てきたところであるが、 1990 年 11 月に「多自然型川づくり」実施要領を作成し、河川改修 等を実施する際に、河川が本来有している生物の良好な生育環境に配慮し、あわせて美し い自然景観を保全・創出する「多自然型川づくり」を推進している。 「多自然型川づくり」の具体的な実施内容としては、魚類の生息のために重要な瀬と淵 の保全・創出、魚道を設置する等魚が上り下りしやすい環境の整備、魚類や水生植物が生 息しやすくするための空隙の多い水際環境の保全・創出、水域から陸域への連続性の確 保、護岸表面の覆土による緑化及び景観への配慮等がある。 イ今後の展開 多自然型川づくりをより一層強力に推進するため、「環境政策大綱」では多自然型川づ くりを環境リーディング事業として位置づけており、また、 1995 年 3 月に出された河川審 議会答申「今後の河川環境のあり方について」においても、本事業を生物の多様な生息・ 生育環境の確保のため推進すべき施策として位置づけている。これらに従い、今後の河川 事業において多自然型川づくりを全国の河川を対象に幅広く取り人れていくこととしてい る。 ア概要 港湾においては、従来より、港湾計画の策定に当たっての環境アセスメントや、緑地、 海浜等の環境施設の整備を着実に実施してきたところであるが、自然環境の保全や生物・ 生態系との調和等新たな要請に的確にこたえていくために、運輸省では、将来世代への豊 108
第 4 部戦略の効果的実施 第 1 節実施体制と各主体の連携 生物多様性国家戦略は、「生物多様性条約」を受けて、生物多様性の保全と持続可能な 利用に関する我が国の基本方針と施策の展開を示したものである。したがって、その実施 は政府が中心となって行うものであるが、生物多様性の保全と持続可能な利用は、国民の 社会経済生活の全般にかかわるため、政府のみならす、地方公共団体、事業者、国民がそ れぞれ環境基本法に規定された責務を踏まえ、国家戦略に示された方向に沿って、共通の 識の下に、互いに協力して行動することが肝要である。また、地域における取組の促進 い口 が生物多様性の保全と持続可能な利用のために特に重要であることに配慮する必要があ る。 国は、関連する閣僚会議や関係省庁連絡会議等の場を通じて緊密な連携を図り、国家戦 略に示された施策を総合的かつ計画的に実施する。 地方公共団体は、国家戦略に示された方向に沿いつつ、地域の自然的社会的条件に応じ て、国に準じた施策やその他の独自の施策について、これを総合的かつ計画的に進めるこ とが期待される。 事業者及び国民においても、生物多様性の保全と持続可能な利用の重要性を認識し、事 業活動の実施及び日常生活に際して、生物多様性の保全と持続可能な利用に十分配慮する とともに、国家戦略に示された方向に沿って、自主的積極的に行動することが期待され る。 国民や事業者により組織され、環境保全活動を行う非営利的な民間団体は、公益的な視 点から組織的に活動を行うことにより、環境保全に大きな役割を果たしている。これらの 団体は、生物の調査や自然教育の推進への貢献等、今後、生物多様性の保全と持続可能な 利用の分野でもより一層の活躍が期待される。 国は、これらの主体と連携して施策を実施するとともに、これらの主体が行う生物多様 性の保全と持続可能な利用のための活動を支援すること等により、第 2 部に示された長期 的な目標の達成に向け努力する。 また、世界の生物多様性の保全と持続可能な利用の促進を図るため、「生物多様性条 約」の実施促進に関して、先進諸国と協力するとともに、開発途上諸国に対して支援を進 める。 第 2 節各種計画との連携 国家戦略の実施は、環境の保全に関しては環境基本計画の基本的な方向に沿って行う。 生物多様性の保全と持続可能な利用に密接に関連する国の基本方針又は計画としては、 「自然環境保全法」に基づく自然環境保全基本方針、「種の保存法」に基づく希少野生動植 物種保存基本方針、 , 「林業基本法」に基づく森林資源基本計画等がある。これらの基本方 針及び計画は、生物多様性の保全と持続可能な利用に関しては、国家戦略に示された方向 を踏まえて実施するとともに、国家戦略と相互の連携を図るものとする。 120
第 2 節生物多様性に影響を及ぼす活動等の特定及び監視 1 生物多様性に影響を及ぼす活動等 我が国の生物多様性に影響を及ばす乂は及ばすおそれのある主要な活動としては、以下 の 4 種の活動があげられ、それぞれの活動についての把握状況は次のとおりである。 ( 1 ) 生態系、自然生息地の減少をもたらす面的開発行為 ( 住宅地開発、土地の造成に よる形質の変更、観光施設等の開発、自然林の開発行為等 ) 自然環境保全基礎調査として実施されている植生調査等や各種の政府統計、許可申請等 により定期的に把握がなされている。 ( 汚水排出、化学肥料・農薬の不 ( 2 ) 生態系、自然生息地の第鮑毟些を = 当安 : す鑽勳 適切な使用、酸性雨の原因行為等 ) 各種統計資料からある程度の把握は可能であるが、生物多様性に及ばす影響について は、今後、調査研究の充実が必要である。 ( 3 ) 生態系の攪乱を引き起こす移人種の導人一 特に著しい影響を及ばしているケースを除き、全国的な実態は明らかではない。このた め、移人種の分布、生息及び影響に関する実態把握が必要であり、早期把握に努める。 ( 4 ) 特定の種の過剰オー -. ( 特定の昆虫やラン類等の乱獲等 ) 個々の活動を特定することは困難であるが、違反行為の発見や情報収集等によりその推 定は可能である。 今後は、それぞれの活動が生物多様性に及ばす影響及びその緩和方策についての研究を 進めるとともに、生物多様性に影響を及ばすおそれのある活動の特定についても調査検討 を行うことが必要である。 2 森林における特定及び監視 国有林においては、「国有林野管理規程」「森林保全管理業務実施要領」等に従い、盗 伐・誤伐、火災、病虫害、林地崩壊等の森林被害、鳥獣保護区における狩猟、高山植物等 の採取・損傷、森林環境の汚染等、生物多様性の保全及び持続可能な利用に対し悪影響を 及ばしまたは及ばす可能性のある現象、行為を特定するとともに、森林官等の営林署職員 による巡視や立木販売地における跡地検査等の業務の遂行を通じてその発見、防止及び影 響の監視に努める。 また、民有林においては、保安林や人林者が多い森林を対象として林野火災を始め貴重 な植物の盗採、林地の汚染等森林が受ける各種被害を未然に防止するとともに 一旦発生 した被害を最小限にくいとめるため、森林保全巡視員 ( 緑のレンジャー ) 等を配置して森 95 漁業対象資源に対して、過度の漁獲努力量が加えられないように、「漁業法」、「水産資 3 海洋等の水域における特定及び監視 林パトロールによる監視活動を実施している。
Box 8 サケ・マス類の遺伝的多様性の喪失 野生種において遺伝的多様性が様々なレベルで失われていく経緯は、サケ・マス類の魚の事例によく 示されている。これらの魚は、遺伝子構成が典型的で、局地的な適応の出現が詳細に記録されている。 サケ・マス類の数種では、汚染・ダム建設・その他の水利用のために何百もの地域個体群が絶減してし まったか危機に瀕している。いくっかの種で、個体群内部の遺伝的多様性が喪失した原因は、少数の個 体を親とする孵化放流プログラムが普及したことにある。これに加えて、野生個体群が生息する環境に 在来でない個体群 ( 養殖されたものを含む ) が意図的あるいは偶然に放流されたことによって、個々の 個体群の遺伝的特徴もあいまいになった。このように、サケ・マス類のいくっかの種では、種内・種間 の遺伝的侵食が起きている。加えて、いくっかの放流事例では、サケ・マス類のある種から別の種の遺 伝子集団にまで遺伝子の伝達が引き起こされている。 6 生物多様性の減少が生態系にもたらす結果 こでは、生物多様性の様々な形での消失が財とサービスの持続的供給に及ぼす結果を説明する。 ( 1 ) 生物群集の変化と断片化 特別に保護されている地域を除いて、現存の生物群集がある程度断片化されることは避けられない。ほ ぼすべての事例で、断片化は本来の生息地における在来種の多様性を低下させている。最も失われやすい 種は、大型の肉食動物やその他の大型で広い行動領域を必要とする種である。次に失われやすいのは、分 散能力が弱く分断されたパッチ状の生息地にコロニーを形成することが困難な種である。生息地が断片化 されても生き残る可能性が高い種は、頻繁に攪乱されるつぎはぎだらけの環境に最も適応したものであ り、これらは、遷移の初期に現れる種や、簡単に分散できる種である。このように、生態系の断片化は、 分散・侵入能力が高く、成長が早く、生活環が短いなどの特性を有する「日和見的な」種が優占する生態 系の出現を導びくと考えられる。このような生態系は、栄養塩類・窒素・炭素が失われ易いこと、落葉・ 落枝が良質でその分解速度が速いこと、空間構造が相対的に単純であること、元の生物群集と比較して草 食動物からの防御が低いことなどの特徴がある。 生息地の変化・断片化・消失は、生態系の財とサービスの供給に様々な影響を及ぼしてきた。新しい農 業生態系が大面積にわたって造られれたことで、食料生産は飛躍的に増大した。他方、このことはもとも とあった生物群集の衰退をもたらし、生態系が環境の変動に対応して、生産性を維持する能力を低下させ ることにもなった。植物の種の構成や、重要な植物の栄養素の循環に必要な微生物群の変化によって、土 壌生産力の大幅な変化が加速される。ある植物種の消失や、森林に覆われた集水域などの重要な生物群集 の消失は、生態系の土壌浸食の調整能力が保水能力を低下させる。森林や低木地から草原へ転化すると川 の流量が劇的に増加する。そして、これが集水域の上部で起こる場合は、洪水や土砂の堆積の増加に対処 するために、ダムなどの流水量調整措置を講じる必要性を高めることになる。 稲作農業生態系面積とその収量の増大は、特にアジア地域で膨大な数の人々に食料を供給してきた。と 同時に、米作面積と家畜頭数の増加は、大気中のメタンの濃度の増大に寄与しており、それは地球温暖化 にも関係している。それほど確証は得られていないが、熱帯地方における窒素系肥料投人量の増大が窒素 酸化物 ( 温室効果の非常に高いガス ) の濃度を高める一因となっている可能性もある。生息地の大規模な 変化は、その地域の気候にも影響を及ぼし得る。アマゾン西部では、森林の消失がマラリアの大流行に結 び付いた。これはマラリアの媒介生物である蚊の新しい生息地が生まれ、罹患しやすい人間集団の人植数 162