分布 - みる会図書館


検索対象: 多様な生物との共生をめざして 生物多様性国家戦略
79件見つかりました。

1. 多様な生物との共生をめざして 生物多様性国家戦略

性の鳥類が多いことが一つの特徴である。また、伊豆諸島、小笠原諸島、南西諸島等は 各々の島特有の鳥相を有しており、亜種レベルでの固有性も高い。これまでにリュウキュ ウカラスパト、ミヤコショウビン、ダイトウミソサザイ等 13 種・亜種が絶滅したほか、ア ホウドリ、トキ、イワシ等 27 種・亜種の絶滅が危惧されている。 ( 3 ) 爬虫類 北海道を含む日本本土に生息する爬虫類の多くは固有種であるが、先島諸島の爬虫類は 台湾・南中国のものと共通性が高い。海性爬虫類ではアオウミガメ、タイマイ等の繁殖地 の分布北限は日本にあり、アカウミガメについては、西部太平洋地域での主要な繁殖地で もある。トカゲ類では伊豆諸島のオカダトカゲに代表されるように、特に島嶼での減少が 著しい。これは、イタチやマングース等本来分布していなかった肉食獣の移人によって補 ( 4 ) ・類 食されている結果である。キクザトサワヘビの絶滅が危惧されている。 限ってみても、これまでにカドメクラチビゴミムシ、コゾノメクラチビゴミムシの 2 種が れされており、比較的データの多いトンボ類、セミ類、チョウ類及びガと甲虫類の一部に 広く知られているが、近年の生息環境の変化や消滅に伴い多くの種が絶滅したり脅威にさ 類の適応、分化、進化、行動等を考える上で世界的に見ても貴重な種を多数産することが から 10 万種程度に達すると予想されている。多様な自然条件に恵まれた日本列島は、昆虫 リスで確認された種は 23 , 000 種であり、研究が進めは我が国の昆虫の種類はおそらく 7 万 我が国でこれまで確認された昆虫類は約 30 , 000 種であるが、 250 年の研究史をもつイギ ( 6 ) 昆虫類 タナゴ等 16 種・亜種等の絶滅が危惧されている。 おり、これまでにクニマス、ミナミトミョの 2 種が絶滅したほか、イタセンパラ、ミヤコ の多くが、水質や生息環境の悪化、外来種・移人種の侵人によって危険な状態におかれて した本州中西部で種類が多く、北にいくほど種数は減少する。分布の限られている淡水魚 るが、種や亜種の段階では我が国固有のものが少なくない。西日本、特に琵琶湖を中心と 純淡水性魚類はアジア大陸東部との類縁性が高く、属の段階ではほとんどが共通してい 相を有している。およそ 200 海里以内に分布する種として 3 , 000 種以上が報告されている。 平洋岸固有種、南方系魚類、広域遊泳性魚類及び深海性魚類等から構成される豊富な魚類 多様な生態系を有する我が国の沿岸域は、暖流及び寒流の影響を受け、北方系魚類、太 ( 5 ) 魚類 減している。 サンショウウォ等の絶滅が危惧されている。その他イモリやダルマガェル等も全国的に激 水路の消失等に伴い、平地性のサンショウウォ類やカエル類が著しく減少しており、アベ く関わっているものと考えられている。近年、湧水の消失あるいは水田の乾田化による用 しい。これは移動能力の乏しさと山系が発達し水系が数多く分断される我が地形が大き サンショウウォ類が多いことが特徴として挙げられ、各地で固有な種・亜分化が著

2. 多様な生物との共生をめざして 生物多様性国家戦略

3 . 哺乳類の分布図 哺乳類分布図 第 4 回自然環境保全基礎調査 ( 1993 ) 0095 ッキノワグマ & な尾ね s ~ んれ 911 メッシュ 分布パターンを表している 哺乳類分布図 第 4 回自然環境保全基礎調査 ( 1993 ) 94 ヒグマ U 4 s 34 0 メッシュ 分布パターンを表している 択捉島 国後島 択捉島 / 国後島 ′色丹島 、 : ・′・歯舞諸島 礼文島 利尻島 礼文島 利尻島 ク色丹島 ・歯舞諸島 奥尻島 奥尻島 佐渡 0 佐渡 ヒグマ ・大島 三宅島 八丈島 た ・・大島 三宅島 八丈島 ッキ / ワグマ 隠岐 壱岐“ 甑島列島、、 大隅諸島一種子島 喝喇列第・ 、徳之島い - 彪・い : 沖永良部島 ”大東諸島 ん . - ・ . 沖縄島南大東島 久米島 、宮古島 ト 4 石垣島 与那国島西表島 壱岐、・・プエ、 . , 島列島才 . ( 甑島列島 / 大隅諸島 : 01 種子島 ・屋久島 イ大 も徳之、 ・・ , 3 中永良部島 ー大東諸島 沖縄島南大東島 久米島 与那国島西表島 ・鳴島 ・島島 原、 - 父島 、母島 : 硫黄島 、尊、父島 、母島 ぐ硫黄島 吐喝喇列島 : ん 哺乳類分布図 第 4 回自然環境保全基礎調査 ( 1993 ) 0129 ニホンカモシカ C なカれ ) 川な云カ郷きか 匚 063 メッシュ 分布パターンを表している 哺乳類分布図 第 4 回自然環境保全基礎調査 ( 1993 ) 0054 ニホンサル 1 . 091 メッシュ 分布パターンを表している 宮城県社鹿半島、茨城県などから新 情報。調査が必要。 択捉島 国後島 / ′色丹島 歯舞諸島 択捉島 国後島 / 礼文島 利尻 礼文島 利尻島 色丹島 諸歯舞諸島 奥尻島 奥尻島 隠岐 ニホンカモシカ 佐渡 0 佐渡 0 島 八 ー第 ニホンザル ! 大島 三宅島 八丈島、 隠岐 壱岐・ 五島列島才・ 甑島列島、、ミ丿 を種子島 大隅諸島・ 0 屋ス島 吐喝喇列島 : 大。、 。徳之島 - ・ , : 沖永良部大東諸島 ... 沖縄島南東島 久米島 久米島 先島。第島、、宮古島 ル物。第、宮古島 石垣島 石垣島 与那国島西表島 与那国島西表島 ( 注 ) 1 つのメッシュは 2 万 5 千分の 1 地形図一枚の大きさを示している。 199 対当 五島列島才 島列島 一種子島 大隅諸島・ 0 ・屋久島 吐喝喇列島・ ・、ゞ徳之島 ・ , い、沖永良部大東諸島 沖縄島南大東島 島島 、父島 跚島 ・硫黄島 原、父島 、母島 硫黄島 ( 環境庁作成 )

3. 多様な生物との共生をめざして 生物多様性国家戦略

第 1 部生物多様性の現状 第 1 節自然環境の特性 我が国の国土はユーラシア大陸の東縁辺に位置し、日本海をへだて大陸とほば平行に連 なる弧状列島からなる。面積は約 38 万扁であり、北緯 20 度 25 分から北緯 45 度 33 分まで緯度 差 25 度 8 分、南北に約 3 , 000km 、気候帯としては亜熱帯から亜寒帯まで含む。南からその 規模において世界最大の海流の 1 つである黒潮が、北から親潮等が流れている。 世界で最も新しい地殻変動帯の 1 つである日本列島は、種々の地学的現象が活発であ る。地形は起伏に富み、火山地・丘陵を含む山地の面積は国土の約 4 分の 3 を占める。山 地の斜面は一般に急傾斜で谷によって細かく刻まれている。山地と平野の間には丘陵地が 各地に分布する。平野・盆地の多くは小規模で山地の間及び海岸沿いに点在し、河川の堆 積作用によって形成されたものが多い。 機構は湿潤であり、季節風が発達し、その影響が顕著で四季の別が一般にはっきりして いる。前線の活動に伴う夏と秋の雨や冬の豪雪は、世界の平均を上回る降水量を我が国も たらしている。本州では脊梁山脈を境に気象の違いが顕著であり、冬期において太平洋側 は比較的乾燥しているのに対して、日本海側は多雪地帯を形成する。また、日本列島は中 緯度帯に存在するため南北の気候の差が大きく、平均気温で見ると、北海道の網走で約 6. 0 ℃、沖縄の那覇で約 22.4 ℃となっている。さらに、起伏量が大きく急峻な地形は我が 国き気候を一層変化に富んだものとしている。 日本列島を取り巻くこのような環境の現況は生物多様性の高さを保持する条件となって いるが、過去の気候変動等に伴い大陸との間で連続と分断を繰り返してきたことも、現在 の生物多様性の成立に影響を与えた大きな要因である。 第 2 節生態系の多様性の現状 本節においては、陸上における生態系を大まかに指標すると考えられる植生の分布状況 土壌的な要因による様々な極相群落が点在している。 樹林がほば帯状に配置される。垂直的な推移もこれとほば同様である。さらに、地形的・ 相に着目すれば、水平的には南から北に向かって常緑広葉樹林、落葉広葉樹林、常緑針葉 第 1 節で述べた自然条件のもとに成立する植生は、本来大部分が森林である。気候的極 1 植生の概況 を中心に生態系の多様性の現状を概観する。 5 の現存植生図が整備されている。本植生図に記載された植物社会学的な群落分類の凡例は 我が国においては、自然環境保全基礎調査の結果から、全国土を覆う 5 万分の 1 レベル 的に我が国の生物多様性を高める方向に働いてきたと考えられている。 営みによってその大部分は代償植生に置き替わっている。この様な代償植生の一部は結果 一方、現実に存在する植生は自然現象による攪乱も含め、特に有史以来、人間の様々な

4. 多様な生物との共生をめざして 生物多様性国家戦略

要約 1 生物多様性は全人類の生存に不可欠な資源である 地球には豊かで多様な多数の生物が生息している。これらの生物の遺伝的多様性、そして生物相互の、 また生物とその物理的環境との関係が、地球という惑星の生物多様性を創り出している。この生物多様性 は、地球本来の生物的資本であり、あらゆる国に貴重な機会を与えるものである。生物多様性は、人間の ーズや環境の変化に社会が適応してい 生活を支え、願望を満たすために必要な財とサービスを供絵し くことを可能にする。このような資産を保護し、科学技術を用いて継続的に探究することは、世界の国々 が持続可能な形で発展していくための唯一の方法である。人間社会の倫理的、精神的、文化的、宗教的価 値は、この複雑な方程式の欠くことのできない部分である。 ( 1 ) 限られた知識基盤 現存する生物多様性の分布と規模は 35 億年を超える種分化・移動・絶滅・最近では人間活動の影響を含 む進化の産物である。地球上に生息する種の総数は、近年の推計でも 700 万種から 2000 万種までの幅がある が、私たちは、より実際に近い推定値として 1300 万種から 1400 万種の範囲とするのが妥当だと考えてい る。このうち、学術的に記載されているのは 175 万種であり、植物や脊椎動物は全体の 5 分の 1 を占めてい るにすぎない。あまり研究されていない生物のグループには、細菌・節足動物・菌類・線虫類が含まれ る海洋や地下に生息する種は特によく知られていない。 己載されている 175 万種にしても、完全な記載が存在するわけではなく、これらの種の繁殖生物学・個体 数・生体内化学物質・生態学的な必要条件・生態系における役割などに関する私たちの理解は、著しく不 完全でつぎはぎだらけなものである。種内の遺伝的多様性が十分に調べられている種は、基本的に、人間 の健康・科学研究・経済的利用に直接の重要性が認められるものに限られており、その数は極めて少な 0 一三ロ ( 2 ) 自然の適応能力に対する脅威 種や遺伝子の多様性は、攪乱や長期的な気候変動を含む環境変化に対して抵抗し、回復するための生物 群集の能力に影響を及ぼす。種内の遺伝的変異は進化や、その場所の環境条件に対する野生個体群の適 応、さらに人類に直接大きな貢献をしてきた家畜や作物の育種の発展の究極の基盤である。種内の遺伝子 の多様性、生態系に内包される種の多様性、ある地域における生態系の多様性の消失は、環境のさらなる 攪乱を招集し、地球の生態系が供給してくれる財とサービスが深刻なまでに減少していくという状況を更 に進めていく。 生物多様性に対する人間活動による悪影響は劇的に増大しており、持続可能な開発の根源自体を脅威に さらしている。人間が環境を改変している速度、その改変の程度や、それが種の分布・個体群密度・生態 のシステム・遺伝的変異に対してもたらしている影響は、人類史上かってないものであり、持続可能な経 済発展や生活の質に対する深刻な脅威となっている。生物資源と多様性の消失は、私たちの食糧の供給・ 木材・医薬品・エネルギー資源やレクリエーション・観光の機会を脅かし、河川の流量の調節・土壌浸食 「 2 生物多様性は人間の活動によって、かってないほど急速に破壊されている 141

5. 多様な生物との共生をめざして 生物多様性国家戦略

貝 料 資料 1 ・・・・・世界の生物多様性アセスメント ( 政策立案者のため の概要 ) 資料 2 ・・・・・生物多様性条約 資料 3 ・・・・・生物多様性条約の制定経緯 資料 4 ・・・・日本の生物多様性の現状 1. 2. 3. 4. 絶滅危惧種のリスト 植生区分別の分布状況 哺乳類の分布図 サンゴ群集の分布状況

6. 多様な生物との共生をめざして 生物多様性国家戦略

イ 相の面からは、我が国は 6 つに区分される世界の動物区のうち旧北区に属し、九ナ日 本以北の地域の動物相はユーラシア大陸との類縁性が高い。また、屋久島・種子島と奄 美大島との間に引かれる渡瀬線より南の地域は移行帯域であり、隣接する東洋区の要素が 网められ、台湾や東南アジアとの近縁種が多い。渡瀬線以北の地域は津軽海峡に引かれる 山い プラキストン線によって 2 つの亜区に区分され、北側はシベリア亜区、南は満州亜区に 含まれる。 我が国の動植物相は、約 38 万という狭い国土面積の割には豊富である。高等植物の種 数について、我が国とほば等しい国土面積を有するドイツ ( 35 万 7 千扁 ) と比較した場 合、ドイツの種数が 2 , 682 種であるのに対し、我が国は 5 , 565 種を有している。哺乳類につ いて見ると、ドイツが 76 種に対し我が国は 90 種、また爬虫類では、ドイツが 12 種に対し我 が国では 63 種が生息している ( 種数の比較は WCMC, 1992 ー 1993 による ) 。また、日本 り筒植物相は固有種あるいは固有亜種の比率が高く、特にこの傾向が顕著てある琉球列 島と小笠原諸島は東洋のガラパゴスと呼ばれることも多い。 このような多様性に富んだ生物相が形成された背景として、まず我が国の国土がユーラ シア大陸に隣接し、緯度、経度ともに 20 度以上、距離にして 2000km 以上に広がっていると いう地理的な条件があげられる。新生代第四紀に繰り返された氷期と間氷期を通じて、間 宮、宗谷、津軽、朝鮮、対馬、大隅、トカラ、台湾等の海峡は陸地化と水没を繰り返し、 これに伴い様々な経路での大陸からの動植物種の侵人及びその後の分布の分断や独立化が 生じた。さらにこのような気候変動は植生の変化をも伴い、水平方向だけでなく、垂直方 向にも生物種の分布の拡大、後退、孤立化をもたらした。これらの結果、日本列島には大 陸の南北から多様な動植物種がもたらされただけではなく、固有種への分化や大陸では絶 滅した種カ畩存種としている残る等の現象が生じた。また、山岳地の多い複雑な地形や、 モンスーンの影響を受ける変化に富んだ気象条件も、豊かな生物相を支えている。 しかしながら、近年の各種人間活動の圧力は自然環境の急激な変化をもたらし、湿原等 の特定の生態系の減少や種の減少・絶滅等、種の多様性を脅かす事態が進んでいる。環境 庁等の調査による我が国動植物種の現状を別表に示したが、かなりの数が絶滅のおそれの ある種としてランクされていることがわかる。 主要な分類群についての特徴は次のとおりである。 ( 1 ) 哺乳類 大型哺乳類は種類数も少なくカモシカを除けは種としての固有性は高くないが、本州で 普通に見られる小型哺乳類の多くは我が国固有である。これまでにニホンオオカミ、工ゾ オオカミ、オキナワオオコウモリ、オガサワラアプラコウモリ、ニホンアシカの 5 種・亜 種が絶滅したほか、ニホンカワウソ、イリオモテヤマネコ、ツシマヤマネコの 3 種は絶滅 が危惧されている。そのほかアマミノクロウサギ、ツシマテン、オガサワラオオコウモリ 等の小型哺乳類やゼニガタアザラシが危険な状態に置かれている。 ( 2 ) 鳥類 渡り鳥等多くの種は季節に応じて国内外を移動している。世界的にみて我が国が重要な 繁殖地、あるいは越冬地になっている種も少なくない。周囲を海に囲まれているため海洋 12

7. 多様な生物との共生をめざして 生物多様性国家戦略

Box 3 世界の生物多様性アセスメント 世界の生物多様性アセスメント (GBA) の実施が、地球環境ファシリティ (GEF) によって承認さ れたのは 1992 年のことである。 1993 年 3 月に国連環境計画 (UNEP) が、目的と暫定的な枠組みを作 成するための準備部会を招集した。 1993 年 5 月、 UNEP は GBA プロジェクトを承認した。次いで、 GBA 連営部会の初会合が開かれ、同アセスメントの進行理念と目次案を承認した。生物多様性に関連 する主な問題について 13 のセクションに分けて取り組むことになった。 * 序 * 生物多様性の特徴 * 生物多様性の規模と分布 * 生物多様性の生成・維持・消失 * 生物多様性と生態的機能ーーー基本原則 * 生物多様性と生態的機能ーーバイオームの分析 * 生物多様性の目録とモニタリング * 生物多様性アセスメントのための情報基盤 * データや情報の管理と伝達手法 * バイオテクノロジー * 生物多様性に対するヒトの影響 * 生物多様性の経済的価値 * 生物多様性の保全と、その構成要素の持続可能な利用に向けた施策 各セクションはそれぞれ専門の科学者チームによって統括された。広範囲の地理的な配分が行われ、 先進国と途上国の見解がバランスよく反映されるように、各セクションには最大 4 名のコーディネー ターと多数の筆頭著者が選ばれた。全部で 50 カ国以上から、総勢 400 名を超える専門家が正式に参加し た。各チームは、それぞれに作業委員会を開いて、各セクションの企画・執筆について議論した。草稿 は各分野の専門家によって精細にレビューされた ( レビュー担当者の指名には、各国政府や各種団体の 支援が要請された ) 。合計 80 カ国以上、 1100 名を超える科学専門家にコメントを求めた結果、 500 を超え る評価コメントが書面で寄せられた。そして、改訂を加えた GBA の各セクションと本書『政策立案者 のための概要』の原稿は、 1995 年 6 月にパナマシティで開かれた総合的レビューのための作業委員会で 検討された。 この『政策立案者のための概要』 (SPM) は、全 GBA の中から政策立案者に対し特に関係の深い示 唆を与える部分を抽出したものである。内容には、人間社会における生物多様性の大切さ、生物多様性 の分布と規模、人間活動が生物多様性に及ほ。す影響、生物多様性の変化がもたらす結果、生物多様性の 保全と持続可能な利用、その利用から生じる利益の公正で公平な配分などが含まれている。 SPM は政 策に関連する情報を提供するが、政策を勧告するものではない。 2 生物多様性は人類の繁栄に不可欠である一 人間社会は、必須の財とサービスを得るために、広範囲にわたる生物資源とその多様性に依存してい る。直接的な利用には、食物・衣服・住居と燃料の原材料・医薬品の生産がある。間接的な利用とは、大 気組成の維持や、集水域や沿岸の保全、土壌生産力の維持、老廃物の分散・分解・循環など、多種類にわ たる生態系のサービスを受けることである。これに加えて、倫理的・美的・精神的・文化的・宗教的思考 に基づく受動的利用 ( 利用しないこと ) は、人類にとっての生物多様性の重要性の諸側面を裏付けてい る。多くの文化では、これらの価値を経済的価値以上ではないにしても、それと同等のものと位置づけて 149

8. 多様な生物との共生をめざして 生物多様性国家戦略

4 . サンゴ群集の分布状況 第 4 回自然環境保全基礎調査の一環として、環境庁 が平成 2 年から 4 年にかけて実施したサンゴ礁調査の 結果、次のことが明らかになった。 ①南西諸島海域におけるサンゴの分布地域の面積 ( サンゴ群集面積 ) は、約 34 , 000ha 。サンゴの分布 地域を、サンゴの被度 ( 生きているサンゴの面積割 合 ) 別に区分した結果、被度 5 % 未満が分布地域の 61. 3 % を占め、サンゴ群集の大部分は被度の低いも のであった。 ②小笠原群島海域に小規模なサンゴ礁が存在してお り、この海域のサンゴ分布地域の面積 ( サンゴ群集 面積 ) は 456ha である。 ③本土海域には地形としてのサンゴ礁は存在しない が、サンゴ群集は分布しており、 0. lha 以上の被度 5 % 以上のサンゴ分布地域の合計面積は約 1 , 400ha である。また、巨大なサンゴ群体として、コブハマ サンゴ ( 徳島県 ) 、シコロサンゴ ( 高知県 ) 、広範囲 な単一高密度群落として、ェダミドリイシ ( 静岡 県 ) 、ムカシサンゴ ( 徳島県 ) 、オオスリバチサン ゴ ( 宮崎県 ) が記録された。 ・現存サンゴ群集 口調査対象都県 現存サンゴ群集 ( 本土海域、小笠原群島海域 ) 被度別サンゴ群集面積 ( 本土海域 ) 単位 : ha ( % ) 度 県 名 一三ロ 5 ~ 25 % 25 ~ 50 % 東 424. 6 ( 100. の 0. 2 ( 0. の 只 静 岡 和 歌 山 50. 4 ( 44. 2 ) 6. 6 ( 5. 8 ) 島 5. 8 ( 81. 7 ) 0. 8 ( 11. 3 ) 愛 媛 13. 4 ( 11. 4 ) 42. 1 ( 35. 8 ) 知 3. 0 ( 8. 7 ) 7. 6 ( 22. の 崎 長 9. 5 ( 62. 9 ) 5. 6 ( 37. 1 ) 本 * 16. 5 ( 14. 9 ) 94. 6 ( 85. 1 ) 大 分 60. 2 ( 45. 3 ) 21. 3 ( 16. の 宮 崎 202. 7 ( 69. 3 ) 75. 4 ( 25. 8 ) 鹿児 島 112. 8 ( 69. 2 ) 47. 7 ( 29. 3 ) 898. 9 ( 63. 6 ) 301. 9 ( 21. 4 ) * 熊本県のサンゴ群集には部分的に被度 50 ~ 75 % のものが含まれる。 なお、千葉県、神奈川県、三重県、島根県のサンゴ群集は調査基準 ( 面積 0. lha 以上、被度 5 % 以上 ) に満たない ため未掲載。 75 ~ 100 % 50 ~ 75 % 424. 8 ( 10 の 0. 5 ( 10 の 113. 9 ( 10 の 7. 1 ( 10 の 117. 7 ( 10 の 34. 6 ( 10 の 15. 1 ( 10 の 111. 1 ( 10 の 133. 0 ( 10 の 292. 7 ( 10 の 163. 0()0 の 1413. 5 ( 10 の 0. 5 ( 100. の 16. 8 ( 14. 7 ) ワ 3 0- 8 -0 LO 「ーワ」 LO っ LO -1 1-n り乙イ 1 り乙り乙 44 C.D イ 1 11. 9 ( 34. 4 ) 51. 5 ( 38. 7 ) 14. 6 ( 5. の 2. 5 ( 1. 5 ) 183. 5 ( 13. の 一三ロ 29. 2 ( 2. 1 ) 200

9. 多様な生物との共生をめざして 生物多様性国家戦略

Box 5 複雑な生態的相互作用から得られる直接的利益の事例 種間の複雑な相互作用からどのように生態系の財が得られるかを示す事例として、南米北部とメキシ コに生息するウラニア・フルゲンス (Uraniafulgens) という昼行性の蛾の例がある。この蛾の幼虫 は、 Om. 〃 le 。属のジャマイカ・コブナツツの幹と蔓だけを食べる。幼虫の個体数が局所的に高い水 準に達すると植物は著しく落葉し、この落葉が引き金となって、幹と蔓で防御作用のある毒性の化合物 が生産される。ある場所で毒性化合物によってこの植物の味が蛾の好みに合わなくなると、蛾は新しい 地域に移動し始める。この場合、この HIV ウイルスに対する抑制効果が実験的に確かめられている。 植物の毒性物質は、植物と蛾の相互作用の結果として、しかも蛾の個体数が一定の域値に達したときだ け生産される。 1993 年に、米国で使われた医師の処方箋が必要な医薬品の上位 150 種類中約 80 % は、天然の物質をモデル とした合成物質、天然物質を加工した半合成物質、そして数例の天然成分であった。これとは対照的に 例えば中国では、薬草から作られる伝統薬 ( 漢方薬 ) が、近年消費された薬剤の 40 % を占めている。 世界銀行の推定では、全世界における観光に関係した活動は、年間 2 兆米ドルに迫っている。 - , 工コ ツーリ、ズムは観光産業の最も急成長の分野として台頭している。 1988 年には 2 億 3500 万人がエコ・ツーリ ズムに参加し、関連する経済活動は 2330 億米ドルに上ると推定されている。このエコ・ツーリズムの半分 以上は動物に関係したものであった。 3 生物多様性はどこにどのくらいあるか ? 存する生物多様性の分布と規模は 35 億年の進化の賜物であるそれには、種の形成・移動・絶滅が伴 い、近年ではこれに人間活動の影響が加わるようになった。生物多様性の現時点での分布と規模は、生物 群集の多様性、種の多様性、遺伝的多様性という三つのレベルで捉えることができる。 ( 1 ) 生物群集の多様性についてはまだ十分に知られていない 生態系とは、一つの統合された単位として機能する生物の集まりとその環境のことである。森林は生態 系である。朽ちてゆく倒木・池・川・放牧地・山脈全体も生態系であり、地球という惑星自体も、生態系 である。生態系は、ごく微小な場から生物圏まで様々な規模で存在するものであり、その中の種の組成・ 構造・機能は、時間とともに絶え間なく変化している。生態系は、互いに移行したり、より大きな生態系 単位の中に組み込まれていることもある。 生態系は往々にして、土壌型や気候、標高などの物理環境の変化や、動物相や植物相の変化と一致する 境界線で区切られている。これまでに様々の分類体系が考案されており、生物区 (bioregion) や生態系に ついて各々に幾分異なる形で定義しているが、大局的には多くの類似性も認められている ( 図 3 ) 。生態系 の定義は、通常、特定の目的をもって行われるものであるので、生物群集の多様性を測定するために画一 的に適用できる手段は存在しない。このように生物群集の分類と境界の決定は困難が伴うが、比較的大き な規模では、湿地や熱帯林など様々な種類の生態系の分布や規模についてのいくっかの尺度がある。 ( 2 ) 種の多様性の規模と分布 最近の推定によると、種の総数は 700 万 ~ 2000 万の範囲にあるとされる。このうち、実用的な推定値とし ては 1300 万 ~ 1400 万種が妥当と考えられている。学術的に記載されている種の数は 175 万であり、このう ち、ほほ。 5 分の 1 弱が植物と脊椎動物である ( 表 1 、図 6 ) 。記載されている 175 万種にしても、全般にわ たる包括的な記録が掲載されているわけではない。多くの場合、種が最初に公式に記載された場所は、著 153

10. 多様な生物との共生をめざして 生物多様性国家戦略

* 生態系 (Ecosystem) 生物間の相互作用、生物と物理環境の相互作用を有するある限定された地域 に存在する個体、個体群および種の集まり。 * 生物群集 (EcoIogical community) 特定の地域に生息している種の集まり * 生息地 (Habitat) 特定の種を取り巻く生物的環境と物理的環境 ◆生物体の多様性 (Organismal diversity) : 地球上に生息する種の総数は、 1300 万から 1400 万程度だ と推定されており、このうち記載されている種の数は 175 万種しかない。ごく普通に見られる一年生の 草本から深海溝の細菌までの様々な種の膨大な多様性、系統発生上の関係を反映する分類体系による整 理、それらが示す複雑な変異と分布の様式ーーこれが生物多様性の実体である。種内の繁殖集団は他と 区別される個体群を形成する。植物・鳥類・哺乳類・魚類・爬虫類・両生類など私たちにもっとも親し みのある種は、推定総種数の 3 % にしか過ぎず、種の大半は、昆虫類・クモ類・菌類・線虫類および微 生物に属している ( 図 2 ) 。 ◆遺伝的多様性 (Genetic diversity) : 同じ種に属する個体間の遺伝的な差異が、種間でみられる多様 性の基礎をなしている。分子レベルの研究によって、ほとんどの種に遺伝的変異性が豊富に見い出され ることが明らかになった。実際に、ほとんどすべての種の個体は、遺伝的に異なっている。遺伝子の多 様性は、単一の遺伝子から明白な複数の遺伝子座の特性まで、様々なレベルで説明することができる。 これらは個体群内、ならびに、個体群間の遺伝的変異性として現われる。遺伝的多様性の総量と分布は 種によって大きく異なっており、その仕組みについては十分には解明されていない。しかし、種内の遺 伝的多様性は環境状況の変化に適応するために必要であることは、十分に確認されている。 昆虫類 * 菌類 クモ類 * 脊索動物 甲殻類 * ーー軟体動物 原生生物 その他 植物 線虫類 藻類 細菌 ウイルス 図 2 主な分類群の推定種数の比率 1 . * は節足動物に含まれる分類群 2. 脊索動物には、哺乳類、鳥類、爬虫類、 魚類、両生類が含まれる。 147