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検索対象: 多様な生物との共生をめざして 生物多様性国家戦略
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1. 多様な生物との共生をめざして 生物多様性国家戦略

の基本認識に基づき、各国がそれぞれ自国の生物多様性の保全に努めるとともに、地域 的、世界的な協力を通じて、相互に連携を保ちつつ、各国の保全施策や国際的な保全事業 の実施促進を図ることが重要である。 3 生物多様性の保全及び持続可能な利用に際しての考慮事項 ( 1 ) 生物多様性の保全 生物多様性の保全に際しては、以下の点を考慮する必要がある。 ア地域の自然特性に応じた保全 し自然性の高い地図こおいては、人為の排除や適切な人為の働きかけにより、生物多様性 の保全を図ることが必要である。特に、生態系が劣化している場合には、回復のために適 切な働きかけが重要である。なおン発行為等の人為の結果として生息・生育種数が増え ることがあるが、この場合、生態系のバランスが崩れる等、生物多様性保全上の問題とな らないように十分に留意することが必要である。 一次的自然が中心の地成においては、地域の自然の現状に応じて、生物多様性の維持や 向上を図ることが重要である。二次的自然の多くは継続的な人為の働きかけの結果、維持 されている。このため、その保全を図るには人為による働きかけが維持継続されるよう十 分な配慮が必要である。 また、然を大きく改変して成立している地域たおいては、地域に残された生物多様性 の維持回復や向上を図ること、さらには、生物多様性の減少した地域における多様な生物 生息空間等の再生・創出を図るために、生態系の再生・修復及び公園・緑地等の整備を積 極的に行うことが重要である。その際、生物多様性の保全のためには、その地域に本来生 息・生育する種が普通に見られる状況を今後とも維持するよう十分な配慮が必要である。 イ科学的知見 ~ , 情報の充実ー。… 動植物の分布、野生動物の生息地として重要な自然生態系の分布及びその保全の状況に ついての情報は、生物多様性保全を図る上での基本的な情報であるが、現時点ではわずか しか把握されていない。また、生物間の多様な相互関係、生物多様性の維持機構等、生物 多様性についての現在の科学的知見・情報は、生物多様性の保全を進めるために十分なも のではない。このため、調査研究の促進、情報の収集整備の促進等を図りつつ、保全対策 の充実を図ることが必要である。 ( 2 ) 生物多様性の構成要素の持続可能な利用 生物多様性の構成要素の持続可能な利用に際しては、以下の点を考慮する必要がある。 ア科学的知見の充実 生物多様性の構成要素に対する利用圧が自然の再生産能力の許容範囲内にあることにつ いて、的確な把握が必要であり、このための調査研究を進める。 イ予防的対応 生物多様性の構成要素に対する利用圧が自然の再生産能力の許容範囲内にあるか否かに つき、不明の部分がある場合には、十分な余裕を持った対応が必要である。 ウ伝統的な利用形態の適正評価

2. 多様な生物との共生をめざして 生物多様性国家戦略

れらの問題意識を組み込むために急速に発展している考え方が適応的管理である。適応的管理には 3 つの 基本的要素がある。 * 管理行為としての干渉は、それによって、系の不確実性が減少するように、実験的な方法で意図的に行 われる。 * 干渉前および干渉中の十分なモニタリングは、管理行為としての干渉の結果を検知することを可能に し、それによって管理者が過去の経験に学ぶことを可能にする。 * 管理行為としての干渉は、管理者・地域社会・その他の構成員にフィードバックされることにより改善 される。 ( 5 ) 研究・モニタリング・情報普及の重要性 高度の科学的研究とモニタリングは、各国が、生物多様性とその構成要素から利益を得、これらを持続 可能な方法で管理する上で必須のものである。特に、研究とモニタリングを行うべき分野には次のものが 理解するため。 含まれる。 * 生態学的研究 : 財や生態系のサービスの供給を維持しているプロセスを理解するため。 * 踏査、目録作成、分類学的研究 : 新しい生物を発見し、関連する生物の特徴やそれらの変異パターンを 176 異なる利用者の間で必要となる情報の流れを概念図に示したものである。 とは、国家間の技術上の格差を埋め、情報管理へのより効率的なアプローチの開発を支援する。図 17 は、 チメディアなど新たな道具は、情報の伝達をさらに促進するであろう。技術的選択肢を慎重に分析するこ 各国レベルおよび全世界レベルで情報の人手と交換に新しい道を切り開いている。また、電子出版やマル 強化と分散を促進し、意思決定者に対する支援の質をより高めるであろう。情報ネットワークの拡大は、 用・管理手法に新しい選択肢をもたらした。自国語を用いる使いやすいソフトウェアは、管理システムの る利益が情報提供のコストを賄うように改める必要がある。情報技術の急速な発展は情報の入手・その利 も帰因している。これらの方針については分析しなければならないし、必要ならば、情報の利用から生じ は、必ずしも技術上の問題ではなく、情報の所有と管理についての方針の相違、組織間のライバル意識に 生物多様性について膨大な情報が存在しているが、これらの情報を人手することは容易ではない。これ 管理行動を起こすことを可能にするため。 * モニタリング計画 (Box 13 ) : 常に変動する生物多様性と構成要素の状況を判定し、必要なときに適切な

3. 多様な生物との共生をめざして 生物多様性国家戦略

られている種であっても、生息地外保全のための収集はきわめて不十分である。事実、ある程度十分な標 本が整備されているのは、主要作物種・人間や作物に対する病原体・科学研究に用いられる「標準生物」 生息地の再生や回復は、そのために必要な素材である生物の供給とその生物の生息地外の増殖に依存し ているが、今後、劣化し、損傷した生態系を再構築するためにますます重要な役割を果たしていくことで あろう。 の数例だけである。 144 深めることは、意思決定プロセスを改善するために欠くことができない要素である。 入手方法と管理状況の改善を図るべきである。生物多様性に関係する問題について大衆を教育し、認識を ことに専念すべきであり、そのため、コンピュータ・データベースなどで現在世界的に利用可能な情報の っ科学者を特に開発途上国において数多く育成すること、そして、これらの国々の情報処理能力を高める 要な役割に新たな焦点を当てることである。国の研修プログラムや国際交流プログラムは、専門技能を持 関連において、資源管理の広範な諸側面、ならびに、生物多様性を適切なレベルに維持することがもつ重 研修の機会を提供するべきである。次世代の専門家の育成にあたって重要なことは、農林漁業の管理との 保護区の管理や、生物多様性の目録作成、各あらゆる種の生息地外の収集の充実と維持に関係する人々に 意欲と技能を持ち合わせる人々は、生物多様性の保全と持続可能な利用をうまく行うための要である。 ( 6 ) 各国の対処能力と専門技術力の育成 態系状態を経時的に測定するために必要である。 に重要である。モニタリングや目録づくりは、新たに発見される生命形態を適切に記録し、個々の種や生 保全するために、そのようなサービスの供給に生物多様性が寄与する仕組みをさらに研究することと同様 に重要である。生物多様性とその構成要素の利用について研究することは、生態系のサービスを永続的に 調査・目録作成・モニタリングを充実させることは、責任ある政策立案と責任ある管理を推進するため ( 5 ) 調査・モニタリング・目録の役割 費用を引き下げる効果がある。 域社会における利益配分は、耕作地・放牧地・工業用地など商業的な用途への転用を回避するための機会 から得られた利益の公平な配分は、地球上の生物学的な富を維持する誘因を生み出す前提条件である。地 収入と資産の公平な配分は、生物多様性を保全する戦略の重要な要素である。特に、生物多様性の保全 ( 4 ) 利益の公平な配分 律・経済・所有権・土地使用権の状況と、生物環境に左右される。 に行われなければならない。適切な均衡点がどこに見い出されるかは、それぞれの国に特有な、文化・法 化に対応していくためには、管理の柔軟性が必要である。適切な誘導策の導入と、管理政策の実施も確実 形で取り込まなければならない。基本的な生態的機能を維持しながら、社会的・生物的・物理的環境の変 テムには、社会的・経済的施策が技術上の配慮と等しく重要だという認識に立って、上記のことを明白な 生物多様性の持続可能な利用は、持続可能な社会的・経済的発展の成否を左右する鍵となる。管理シス ( 3 ) 生物多様性の持続可能な利用

4. 多様な生物との共生をめざして 生物多様性国家戦略

Box 13 生物多様性のモニタリング 生物学的モニタリングは、種・生物群集・生態学的システムの経時的な傾向と状態を評価することが できる。変革が必要であることを管理者や政策立案者に告げるための「フィードバック回路」をモニタ リング計画の中に設けることで、生物多様性の保全を強化することもできる。モニタリング計画の設計 は、監視する生態的プロセスや、関連する保全上の問題や管理上の問題に応じた規模とするべきであ る。局地的な活動や出来事が種や生態系に及ほ。す複合的影響を評価するためには、周辺地域を含む地域 規模・景観規模のモニタリングが必要になることも少なくない。同様に、渡り鳥などの特別な種を理解 し、効果的に管理するためには、国家規模と地球規模の評価が必要になる。モニタリング技術を改善し たり、新しい技術体系を試みるために、一定の期間毎にモニタリングプログラムを評価する必要があ る。 土地の被覆面積や、主な植生型の分布、特定のタイプの生態系のいくっかの機能の変化を監視するた めに、衛生や飛行機からのリモート・センシングを用いることもできる ( 図 18 ) 。この手法は、生態学 的標本抽出を階層化したり、より詳細な地上からのモニタリングを必要とする状況を見つけるために用 いることもできる。厳選された指標種は、他の数種の個体群ゃある種の生態系がもたらすサービスの状 況や傾向を効率良く監視する方法である。しかし、一部の指標種だけを使って、管理上必要な生物多様 性のすべての側面を監視することはできない。 ( 6 ) 各国の対処能力の育成と、国民の意識の向上 世界の大部分で、人材・制度・資金・基盤施設などの要素がしばしば不足している状況が見られるが、 目的を絞り込んだ投資と政策支援によってこれらを増強することはできる。多くの国では、既存の電気通 信の基盤施設が電子ネットワークを介した情報普及には不十分なものであり、その改善が急務となってい る。 意欲と技能を持ち合わせる人々こそが、生物多様性の保全と持続可能な利用を成功に導く鍵である。保 護区の管理を担い、生物多様性の目録を作成し、生息地外コレクションを充実させ維持する作業に取り組 む人々への研修を、適切なメカニズムによって実施するべきである。同様に重要なのは、森林・漁場・農 用地などの生物資源の管理を行う次世代の専門家に対する研修の重点を移して、生物多様性を適切なレベ ルに保っことの利益を強調することである。科学研究とモニタリングは継続的な重要性を有することか ら、あらゆる国に訓練された科学者が存在する状況を作ることがとりわけ重要になる。現時点の専門技能 の分布状況は、北側工業国に強く片寄っている。それゆえ、研修プログラムや国際交換プログラムでは、 開発途上地域で専門技能を持っ科学者を多数育成し、研究と管理に必要な道具を彼らに提供することに専 念すべきであろう。 科学研究とモニタリングは重要であるが、しかし、それ自体では十分でない。持続可能な形で生物多様 性を利用するための戦略にとって、大衆の理解と支持の欠如がしばしば有効な戦略の実施の制約要因とな る。 こでは、十分な知識を持つ人々による幅広い支持者層を形成することが必要であり、とりわけ地方 や国の経験と知識は、十分な知識を持っ市民を育てるために重要な役割を果たす。そして、自国の自然資 源の管理について十分な知識に基づく最善の判断を下せるよう、政府自体も生物多様性に詳しくなる必要 がある。 178

5. 多様な生物との共生をめざして 生物多様性国家戦略

第 2 節生態系及び自然生息地の保護 1 基本的考え方 ーをくイのに つ - しびし \ ' 自然性、希少性等様々な観点から重要性が認められる生態系及び自然生息地であって、 第 1 節の保護地域制度の対象となっているものについては、それぞれの制度に基づき、保 護管理のための措置が講じられている。しかしながら、生物多様性保全の観点からは関係 行政機関相互の連携の下にできるだけ多くの生態系及び自然生息地が保全されることが望 まれる。このため、保護地域制度の対象とならない生態系及び自然生息地に対しても、必 要に応じて様々な措置により適切な保全方策を図ることが重要である。 これまでも、国、地方公共団体及び民間において、土地買い上げによる保全、自然との ふれあいの場としての活用による保全、地域住民の自発的な参加による保全等、自然環境 保全のために様々な取組が進められてきたが、今後は、生物多様性の保全の観点を十分に 踏まえて、を . 闃坦 - 烋 ? 当鮑な参加と協を得つつ、れ弖の施策こ ~ 活動を一層充 実させる必要がある。 また、生物多様性保全について、、理週を当 2 鼓 - : -.. 寥 , 觜 ! 三お - け、る配慮や農林水 産業、鉱工業等の各種産業の活動に際しての配慮を徹底することも必要である。 ーぎー。 - ーー - - ー笙物多様性保全の観点から各種生態系、自然生息地の評価を行い、公表するこ とにより、生態系及び自然生息地における生物多様性の保全が適切に図られるように努め る。 河川、湖沼、湿原やサンゴ礁、干潟等の沿岸海域の生物多様性の保全については、陸上 の、動や集ノ士 た影響ば易合が多い - ことから、対象となる水域や 地域の保全を図るだけでなく、保護対象となる生物多様性に影響を及ばすおそれのある活 動を行う者等の関係者を含めた連絡調整のための組織の設歹により、関係者の理解と協 の下に対象地域の保全に影響を及ばすおそれのある活動が適切に行われ、生物多様性の 保全が図られるように努めることが必要である。 2 主要な生態系及び自然生息地の保護 ( 1 ) 森林における生態系及び自然生息地の保護 森林は、それ自体が陸域における生物の生息・生育上重要な生態系であり、そのうち原 始性の高い森林や自然景観のすぐれた森林、また野生動植物の生息地、特に保護を重視す べき森林等については、第 1 節で記述したように、自然環境保全地域、自然公園、国有林 の保護林等として保護が図られている。これら保護地域以外の地域の森林については、森 林法に基づく地域森林計画等において、貴重な動植物の保護のため必要な林分を「特定施 業森林」として指定し、これらの動植物の保護に配慮した施業方法等を定める。 また、保安林制度を通じて森林を保全するとともに、保安林以外の森林についても無秩 序な開発がなされないよう、林地開発許可制度の適正な運用に努めることにより、生態系 及び自然生息地の保護に寄与していく。 国有林においては、野生動植物の生息・生育環境の保全等自然環境の維持・形成に配慮 33

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り、世界の動物蛋白質需要も急増し、これに伴い、水産物の需給がひっ迫することが懸念 される。 しかしながら、地球上には、未利用の水産資源がまだ残されているので、生態系に十分 配慮をした上で、持続可能な方法によりこの残された貴重な水産資源を将来の蛋白資源と して賢く利用していくことが重要である。 このため、日本では、 1971 年に民間と国の共同出資により設立された海洋水産資源開発 センターが、農林水産大臣の定める基本方針に基づき、新漁場、新魚種の開発を行ってい る。 未利用資源の開発においては、科学的、技術的な不確実性がある場合、資源と環境に対 するダメージのリスクを少なくするための予防的措置が必要であり、海洋水産資源開発セ ンターの調査においては、特定の系群にのみ漁獲圧力がかかり悪影響を与えることがない よう DNA 分析等により対象資源の系群の解明に努めつつ、対象資源の資源量と生物学 的許容漁獲量の把握に努めている。また、混獲魚種についての情報を収集するため、漁獲 物の組成が調べられている。 今後とも、海洋生態系の保全に配慮しつつ、水産資源の持続的利用が可能となるよう調 査を進めていく方針である。 ( 2 ) 海洋生物資源の保全 ア海洋生態系の構成要素の保全 海洋生物は人類の食料等の供給源としても重要であり、適切な保護・管理を行えば、永 続的な利用が可能な資源である一方、生態系の重要な構成要素であり、また、自然環境の 重要な一部として、人類の豊かな生活に欠かすことのできないものである。この観点から 我が国としても海洋生物資源の保護は重要な課題であると認識しており、ワシントン条約 等の適切な運用を通じ、これら資源の保護に努める。 イ漁獲非対象生物の混獲対策 海洋生態系の維持・保存と有効利用を図る観点から、主対象生物の資源データのほか、 漁業の操業に伴う主対象生物以外の漁獲についても、漁船や調査船から洋上における多様 な情報・データを収集するよう努めているとともに、偶発的に捕獲される利用し得ない生 物に関し、その捕獲を最小化するための技術の開発促進、実用化を図っている。 ( 3 ) 鯨類資源への対応 我が国は鯨類資源についても海洋生物資源の保存と合理的利用の一環として捉える必要 があるとの立場から、国連環境開発会議 (UNCED) で合意された持続可能な利用の原 則に則り、科学的な調査研究に基づく鯨類資源の保存と合理的利用の原則が国際的に確立 されるよう努める。 国際捕鯨委員会 (IWC) の管理下にある大型鯨類については、科学的資源評価に基づ く鯨類資源の包括的評価により、 1982 年に IWC において採択された商業捕鯨一時停止 ( モラトリアム ) 決定が見直されるよう科学的情報の収集に積極的に取り組んでいる。 のため北太平洋及び南氷洋において鯨類目視調査並びに条約の規定に基づくミンククジラ の捕獲調査を実施しており、引き続き必要な調査の実施を検討していく。特に南氷洋にお

7. 多様な生物との共生をめざして 生物多様性国家戦略

を図っており、我が国の生物多様性の保全に寄与している。 ( 2 ) 天然記念物保護制度の充実 天然記念物が我が国の代表的な自然として国民の間に広く親しまれ自然環境の保護思想 のさらなる普及のための素材として機能しうること、生物多様性の保全にも寄与してきた こと等にかんがみれば、その一層の充実を図ることは、自然との共生の考え方の理解の促 進に大いに資するものと言える。 そのため、多様性に富んだ我が国の生物種の体系的な保護にも配慮した天然記念物の指 定の推進を図り、一方で適切な天然記念物の保護管理及びその活用による自然環境の保護 思想の普及啓発に役立つ施設の整備等を、地方公共団体等との連携も図りつつ一層推進す る必要がある。 なお、地域を定めすに指定されている 72 種の野生動物については、生息環境との一体的 な保護によってより適切な保護措置が期待できることから、一定の地域を定めた指定形態 への移行を検討することの必要性も指摘されている。 8 保護林等 国有林のうち、原生的な森林生態系等自然環境の保全を第一に図るべき森林について は、「国有林野経営規程」に基づき、「自然維持林」として区分し、原則として人為を加え ず、自然の推移にゆだねた保護・管理を行うこととしている。 1995 年 4 月 1 日現在、「自 然維持林」として区分された森林は、国有林総面積の約 18 % に当たる約 141 万 ha となって いる。 さらに、「自然維持林」の中でも、希少な野生動植物の保護、遺伝資源の保存等自然環 境の保全の上で特に重要な森林については、「国有林野経営規程」「保護林設定要領」等に 基づき、「保護林」に指定して積極的にその保全を図っている。保護林は、その保護を図 るべき対象や保護の目的に応じて、「森林生態系保護地域」「森林生物遺伝資源保存林」「林 木遺伝資源保存林」「植物群落保護林」「特定動物生息地保護林」「特定地理等保護林」「郷 土の森」の 7 種類に区分されており、 1995 年 4 月 1 日現在、合計で 787 箇所、約 47 万 ha が 指定されている。 これら「自然維持林」や「保護林」については、「国有林野経営規程」「保護林設定要 領」等に区域の選定・設定手続きや取扱いの指針を定め、適切な保護管理を図っていると ころである。具体的には、森林官等の営林署職員による巡視を通じた保護対象の状況の把 握や人り込み者に対する指導・啓蒙、山火事・病虫害等の被害の防除、大規模な林地崩壊 や地すべり等の災害の復旧措置等を実施しているほか、個別の保護対象の特性に応じて個 体の保護や生息・生育地の維持・保全に必要な措置を講じている。 7 種の保護林のそれぞれの概要は、以下のとおりである。 ( 1 ) 森林生態系保護地域 森林生態系保護地域は、我が国の主要な森林帯を代表する原生的な天然林、またはその 地域でしか見られない特徴を持っ希少な原生的な天然林を保存することにより、森林生態 第す新すま物新マ

8. 多様な生物との共生をめざして 生物多様性国家戦略

特に、遷移の途中にあるため多様な生物相が見られる里山林の適切な維持に配慮した整 備が必要である。 カ森林の国・公有化による保全の強化 国土保全上特に必要な保安林等の国による買人れ、滅失の危険に直面している保安林等 の都道府県による買人れを推進するとともに、地方公共団体が自主的に取り組む地域振興 等の観点から森林公園等の公の施設として保全・活用を図るための森林の取得、公益的機 能の維持・向上を図るための森林の取得を推進するため、財政上の支援措置を講じる。 ( 3 ) 森林によって提供される財とサービスの効率的な利用と評価の促進 ア木材の供給体制の整備と木材の有効利用の推進 ( ア ) 我が国の森林資源は、戦後の拡大造林により造成された人工林を中心として 着実に充実し、人工林の面積は 1 千万 h a に達し、その蓄積は毎年着実に増加している。 人工林の 8 割は、まだ保育、間伐を必要としているが、今後、適切な管理が行われた場 合、 21 世紀に向けて資源内容が一層充実していくものと期待されている。 一方、近年、建築基準の合理化等により木材利用の増大が期待されていること、木材利 用に対する消費者の要請が多様化していることから、木材の利用技術の向上や用途の開 発、普及等に対する取組を強化する必要がある。 こうした中で、地域材の利用の推進を図ることは、低迷している我が国の林業生産活動 の活性化、林業生産活動に大きく依存している山村の振興、森林の適正な管理を推進する 上でも重要な課題となっている。 このため、生産者と消費者が連携して行う地域材利用推進活動の展開や新技術で改良し た地域材の新たな用途への利用等によって地域から産出される木材の利用を推進する。 ( イ ) さらに、国内森林資源の利用を促進する観点から、需要者ニーズに応じて品 質の安定した製品を低コストで安定的に供給するための施設等拠点施設の整備、加工・流 通部門と利用部門との連携を促進するとともに、森林資源の減少、製品輸人の増加等需給 構造の変化に対応し、原料転換、製品の高付加価値化等、加工の合理化を推進する。 ( ウ ) 木材の効率的な利用を推進するため、木質製品の品質向上、木質廃棄物の再 資源化のための技術開発等を促進するとともに、樹木の抽出成分の利用技術、木材の熱可 塑化・液化等木材を高度に利用する技術及び耐久性等の多様な機能をもっ木質複合材料の 開発等を推進し、木材利用用途の拡大を図る。 ( 工 ) また、需要に見合った安定的な木材の供給を図るため、木材の長期的な需要 及び供給の見通しを明らかにするとともに、短期的な木材の需給動向等の的確な把握に努 める。 イ特用林産物生産の促進と森林保全に配慮した森林の総合的利用の推進 森林資源を活用し、山村の活性化等に資するため、きのこ等特用林産物の生産振興や加 工・流通施設等の整備を促進するとともに、森林の特性を活かした、従来からの森林レク リエーションの場としての利用に加え、森林浴の場としての利用、アウトドアライフの舞 台としての利用、教育の場としての利用等の保健・文化・教育的な面も併せた森林空間の 総合的な利用に対応した森林資源の整備、山村と都市との交流拠点の整備を推進すること としている。

9. 多様な生物との共生をめざして 生物多様性国家戦略

( 3 ) 規制遵守のための監視及び取締活動 沿岸・沖合水域においては、海上保安庁の巡視船艇・航空機、水産庁の取締船・航空機 及び都道府県の取締船等が、漁業関係法令違反の防止及び取締りのための活動を行い、特 に悪質かっ組織的な密漁事犯を重点とした取締を行う。 また、沿岸域における密漁防止のため、広範な取締協力体制の整備、密漁監視員活動の 強化育成等により密漁防止体制の整備を推進する。 ( 4 ) 資源管理のための各種規制、再編整備の推進 国内の海洋生物資源管理のため、違反者に対する厳しい処分も含めた漁業関係法令に基 づく農林水産大臣及び都道府県知事による許可制度を通した参人制限等の漁獲努力量規制 措置の実施や漁具・漁法・漁場等の制限措置を実施している。 資源水準が低調な状態で推移している漁獲対象資源については、漁業者による網の目合 い、操業期間、操業海域等の漁具・漁法、操業条件に関する自主的な資源管理措置を実施 するとともに、資源量と均衡のとれた漁獲量を実現する漁業生産体制の再編整備を図って いる。 ( 5 ) 生物多様性に配慮したっくり育てる漁業の推進 ア栽培漁業の推進 我が国周辺水域は、世界でも有数の生産力の高い好漁場であるが、近年、同水域の水産 資源は総じて低水準にある。このため、資源を適正に管理しながら利用する資源管理型漁 業への積極的な取組や栽培漁業等を中心とした資源増殖施策の展開によりこれら資源を回 復、増加させることが重要な課題となっている。 このうち、栽培漁業については、国民の需要、資源の状況等から資源水準の維持・増大 の必要性の高い水産動物について、種苗を大量に生産・放流し、これを経済的に適正な大 きさまで育成し、合理的に漁獲することで、我が国漁業生産の維持・増大と漁業経営の安 定を図るものとして、関連の技術開発、施設整備等が進められているところである。しか しながら栽培漁業が所期の目的を達成するためには、放流後の種苗が、天然の環境下で高 い率で生き残ることが必要であることから、この点に係わる生態系、種、遺伝子の多様性 に配慮して、当該漁業を推進していく。 イさけ・ます漁業の推進 さけ・ます類は日本の水産業及び食生活において最も重要な魚類の一つとして位置づけ らている。 国民のさけ・ますに対する強い需要にこたえるため、国としては北海道においては北海 道さけ・ますふ化場を中心とし、本州においては民間等が育成した稚魚に対し助成を行う 方式により、国・道・県・民間が一体になった体制によりさけ・ますの資源造成をおこ なっているところである。 現在、高位安定的な資源造成を図るとともに、より効率的なさけ・ますふ化放流事業を 実施するために、生物学的データの収集・技術開発及び指導を強化しており、さらに、最 近の需要の高級化・多様化に対応するため、サクラマス・べニザケ等の資源造成を実施し ているところである。

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伝統的な利用形態には持続可能な利用の観点から評価できるものがあるので、それらを 適正に評価するとともに、必要に応じて、その維持や応用の促進を図ることが重要であ る。 エバイオテクノロジー等の新技術の活用 生物多様性の構成要素の持続可能な利用においてバイオテクノロジー等の新技術が果た しうる重要な役割を認識し、その環境上適正な活用を推進する。 ( 3 ) 施策の検討及び実施 施策の検討及び実施に際しては、以下の点を考慮する必要がある。 ア地域特性 生物多様性の保全と持続可能な利用は、地域の自然的社会的特性を踏まえて、きめ細か く実施されることが重要である。このため、国土空間の地域類型に応じた施策を実施する ほか、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する地域計画の策定等についての検討が必 要である。 イ総合的計画的な取組 生物多様性の保全と持続可能な利用に関連する各種施策は、相互に密接に関連するもの であることから、各種施策の有機的連携を図る等により総合的かつ計画的な取組が必要で ある。 ウ各主体の積極的自発的な関与 生物多様性の保全と持続可能な利用は国民の社会経済生活の全般に関わるものであり、 各主体の積極的自発的な関与が必要である。 ェ国際的な視点 我が国の経済活動が世界の生物多様性に大きな影響を及ばしうることに留意し、悪影響 を及ばさないように努めるとともに、世界の生物多様性の保全と持続可能な利用のための 国際協力を進めることが必要である。 第 2 節長期的な目標 1 長期的な目標 生物多様性の保全と持続可能な利用のために、 21 世紀の半ばまでに達成すべき長期的な 目標は、次のとおりとする。 ( 1 ) 日本全体として及び代表的な生物地理区分ごとにそれぞれ多様な生態系及び動植 物が保全され、持続可能な利用が図られていること。また、都道府県及び市町村のレベル において、それぞれの地域の自然的、社会経済的特性に応じた保全と持続可能な利用が図 られていること。 ( 2 ) 将来の変化の可能性も含めて生物間の多様な相互関係が保全されるとともに、将 来の進化の可能性を含めて生物の再生産、繁殖の過程が保全されるように、まとまりのあ る比較的大面積の地域が保護地域等として適切に管理され、相互に有機的な連携が図られ ていること。