第 3 章生物多様性の構成要素の持続可能な利用 農林水産業はもとより、医薬、食品、発酵等の分野において動植物や微生物は広く人類 にとって有用な資源として利用されている。特に、近年のバイオテクノロジーの進展に伴 い、野生生物の遺伝資源としての潜在的価値への関心が高まっている。 さらに、多様な生物の生息の場である自然環境は、美しい自然景観や多様な野生動植物 の存在によって、人々に精神のうるおいややすらぎを与え、また登山、ハイキング、キャ ンフ。、ノヾ ードウォッチング等各種の野外レクリエーションや観光活動のフィールドとし て、大きな資源価値を有している。 以上のような生物多様性の各構成要素の利用に当たっては、利用対象としている生物自 体の将来にわたる安定した存続を保証しつつ資源としての持続可能な利用が図られるとと もに、併せて生態系全体における生物多様性の維持にも十分な配慮が講じられる必要があ る。 第 1 節林業 1 基本的考え方 森林の生物多様性の構成要素は、森林生態系、その森林内に生育・生息する植物、動物 や土壌中等の微生物の群集や種、個体群、個体、遺伝子等各レベルにおいて多種多様であ る。それぞれの森林が成立する立地状況や環境の多様さともあわせて、森林生態系は地球 上の様々な生態系の中でも最も複雑なものの 1 つである。また、森林は生物資源の宝庫、 遺伝資源の源泉としてだけではなく、木材、燃料や食料の供給、水資源のかん養、炭素の 吸収・貯蔵等の多様な役割・機能を持ち人間にとっても大切な生態系の 1 つである。 人間が森林の生物多様性の構成要素を利用する形態には様々なものがあるが、その中で も森林に生育している樹木等を人間が建築材や燃料等として利用するために取り出してく る産業としての林業は、森林の生物多様性の構成要素を利用するという点で最も大きな位 置を占めている。 森林の生物多様性の構成要素を利用するに当たっては、森林が果たしている多様な役 割・機能を維持し、これら構成要素を将来にわたり持続可能な利用を行っていくことが重 要である。このためには、原生的な森林を保全するというだけではなく、人間が利用して いる森林とその生物多様性の構成要素についても、利用しながらその多様性を維持するた めの努力を行うことが重要である。森林の生物多様性の保全とその構成要素の持続可能な 利用のためには、森林の状況に応じた適切な保育、伐採の実施等適正な森林管理が必要で ある。これまで山村では、その豊富な森林資源を活用した林業生産活動が地域経済を維持 してきた。また、このような林業生産活動に動機付けられた森林整備が営々と行われたこ 我が国は、南北に細長く、温帯を中心に亜寒帯から亜熱帯に及ぶ幅広い気候帯の下にあ るためには、林業生産活動の振興を図るとともに、その基盤である山村地域の振興が不可 とによって、森林資源が造成されてきた。保全と持続可能な利用を将来にわたって継続す 欠である。
第 4 章生物多様性の構成要素等の特定及び監視 第 1 節生物多様性の構成要素の特定及び監視 1 自然環境保全基礎調査等 : 「自然環境保全法亠に基づき 1973 年より実施している自然環境保全基礎調査により、生 態系や動植物の生息状況等、我が国の自然環境について、現況及び経年変化の把握を定期 的に行っている。この調査結果に基づき、全国の 5 万分の 1 現存植生図をはじめ、各種の 自然環境や動植物分布等に関する地図や数値データが整備されている。 1994 年からは、生物多様性調査として、我が国のほばすべての野生動植物 ( 分類が十分 に進んでいない一部のものを除く ) に関する分布の概要を把握するための種の多様性調査 及び重要な生態系が成立している地域を対象に生態系の構成要素及びその構造を総合的に までの知見が極め 把握するための生態系多様性地域調査を新たに開始した。ー会後は、 - ーー て乏しい地域個体群の遺伝的特性等の遺伝子レベルの多様性についても、調査を進めるこ とが必要である。 また、「種の保存法亠に基づき指定された国内希少野生動植物種については、その生息 又は生育の状況、その生息地又は生育地の状況その他必要な事項について定期的に調査を 実施し、その結果を種の保存に係る施策に活用することとしている。 今後は、自然環境保全基礎調査及び生物多様性調査の充実を図る。また、生物多様性保 全のための基礎的情報の収集等のためのネットワーク化を推進するとともに、標本の管理 機能を備えた生物多様性センターの整備にいて検討し、生物多様性に関する情報の収ー第一 集、整備及び提供のための体制等の整備を図る。その際、様々な主体が必要な情報を共有 することが生物多様性の保全と持続可能な利用の促進につながるとの観点から、積極的に 情報提供を行うことが重要である。 特に絶滅のおそれのある種、希少な種等については、現地調査等の結果を踏まえたレッ ドデータブックの作成を行うこととしており、動物について既に作成済みで、植物につい ては現在作成中である。今後は、定期的な改訂を行うとともに、データシステムの整備も 行う。 2 森林 森林生態系における生物多様性の構成要素の特定及び監視は、各省庁の調査研究や大学 研究者等の研究を通じた形で行われているほか、森林の管理者が管理行為の一環として 行っている。 森林生態系が厳しく保護されてい原生自然環境保全地や然環境保全地 ! において でに亠 は、定期的に自然生態系に関する総ロ的な調査が実施されてお データが蓄積されている。また、国立公園の特別保護地区等 MAB 計画に基づく生物圏 ー、 -- -. ーこおいても、様々な調査研究が積み重ねられている。 国有林においては、「保護林設定要領」等のガイドラインを設け、その中で、①我が国 93
の多様性の構成要素であって、生物の多様性 の保全及び持続可能な利用のために重要なも のを特定すること。 (b) 生物の多様性の構成要素であって、緊急な 保全措置を必要とするもの及び持続可能な利 用に最大の可能性を有するものに特別の考慮 を払いつつ、標本抽出その他の方法により、 ( a ) の規定に従って特定される生物の多様性 の構成要素を監視すること。 (c) 生物の多様性の保全及び持続可能な利用に 著しい悪影響を及ほ。し又は及ぼすおそれのあ る作用及び活動の種類を特定し並びに標本抽 出その他の方法によりそれらの影響を監視す (d) ( a ) から ( c ) までの規定による特定及び監視の 活動から得られる情報を何らかの仕組みに よって維持し及び整理すること。 第 8 条生息域内保全 締約国は、可能な限り、かっ、適当な場合に は、次のことを行う。 (a) 保護地域又は生物の多様性を保全するため に特別の措置をとる必要がある地域に関する 制度を確立すること。 (b) 必要な場合には、保護地域乂は生物の多様 性を保全するために特別の措置をとる必要が ある地域の選定、設定及び管理のための指針 を作成すること。 (c) 生物の多様性の保全のために重要な生物資 源の保全及び持続可能な利用を確保するた め、保護地域の内外を問わず、当該生物資源 について規制を行い又は管理すること。 (d) 生態系及び自然の生息地の保護並びに存続 可能な種の個体群の自然の生息環境における 維持を促進すること。 (e) 保護地域における保護を補強するため、保 護地域に隣接する地域における開発が環境上 適正かっ持続可能なものとなることを促進す (f) 特に、計画その他管理のための戦略の作成 及び実施を通じ、劣化した生態系を修復し及 び復元し並びに脅威にさらされている種の回 復を促進すること。 (g) バイオテクノロジーにより改変された生物 であって環境上の悪影響 ( 生物の多様性の保 全及び持続可能な利用に対して及び得るも の ) を与えるおそれのあるものの利用及び放 出に係る危険について、人の健康に対する危 険も考慮して、これを規制し、管理し乂は制 御するための手段を設定し乂は維持するこ と。 (h) 生態系、生息地若しくは種を脅かす外来種 の導人を防止し乂はそのような外来種を制御 し若しくは撲滅すること。 (i) 現在の利用が生物の多様性の保全及びその 構成要素の持続可能な利用と両立するために 必要な条件を整えるよう努力すること。 (j) 自国の国内法令に従い、生物の多様性の保 全及び持続可能な利用に関連する伝統的な生 活様式を有する原住民の社会及び地域社会の 知識、工夫及び慣行を尊重し、保存し及び維 持すること、そのような知識、工夫及び慣行 を有する者の承認及び参加を得てそれらの一 層広い適用を促進すること並びにそれらの利 用がもたらす利益の衡平な配分を奨励するこ と。 (k) 脅威にさらされている種及び個体群を保護 するために必要な法令その他の規制措置を定 め乂は維持すること。 (l) 前条の規定により生物の多様性に対し著し い悪影響があると認められる場合には、関係 する作用及び活動の種類を規制し乂は管理す ( a ) から ( I) までに規定する生息域内保全のた めの財政的な支援その他の支援 ( 特に開発途 上国に対するもの ) を行うことについて協力 すること。 第 9 条生息域外保全 締約国は、可能な限り、かっ、適当な場合に は、主として生息域内における措置を補完するた め、次のことを行う。 (a) 生物の多様性の構成要素の生息域外保全の ための措置をとること。この措置は、生物の 多様性の構成要素の原産国においてとること が望ましい。 (b) 植物、動物及び微生物の生息域外保全及び 研究のための施設を設置し及び維持するこ と。その設置及び維持は、遺伝資源の原産国 において行うことが望ましい。 (c) 脅威にさらされている種を回復し及びその 機能を修復するため並びに当該種を適当な条 件の下で自然の生息地に再導人するための措 置をとること。 (d) ( c ) の規定により生息域外における特別な暫 定的措置が必要とされる場合を除くほか、生 態系及び生息域内における種の個体群を脅か さないようにするため、生息域外保全を目的 とする自然の生息地からの生物資源の採取を 規制し及び管理すること。 (e) (a) から ( d ) までに規定する生息域外保全のた めの財政的な支援その他の支援を行うことに ついて並びに開発途上国における生息域外保 全のための施設の設置及び維持について協力 すること。 第 10 条生物の多様性の構成要素の持続 可能な利用 締約国は、可能な限り、かっ、適当な場合に 184
れらの問題意識を組み込むために急速に発展している考え方が適応的管理である。適応的管理には 3 つの 基本的要素がある。 * 管理行為としての干渉は、それによって、系の不確実性が減少するように、実験的な方法で意図的に行 われる。 * 干渉前および干渉中の十分なモニタリングは、管理行為としての干渉の結果を検知することを可能に し、それによって管理者が過去の経験に学ぶことを可能にする。 * 管理行為としての干渉は、管理者・地域社会・その他の構成員にフィードバックされることにより改善 される。 ( 5 ) 研究・モニタリング・情報普及の重要性 高度の科学的研究とモニタリングは、各国が、生物多様性とその構成要素から利益を得、これらを持続 可能な方法で管理する上で必須のものである。特に、研究とモニタリングを行うべき分野には次のものが 理解するため。 含まれる。 * 生態学的研究 : 財や生態系のサービスの供給を維持しているプロセスを理解するため。 * 踏査、目録作成、分類学的研究 : 新しい生物を発見し、関連する生物の特徴やそれらの変異パターンを 176 異なる利用者の間で必要となる情報の流れを概念図に示したものである。 とは、国家間の技術上の格差を埋め、情報管理へのより効率的なアプローチの開発を支援する。図 17 は、 チメディアなど新たな道具は、情報の伝達をさらに促進するであろう。技術的選択肢を慎重に分析するこ 各国レベルおよび全世界レベルで情報の人手と交換に新しい道を切り開いている。また、電子出版やマル 強化と分散を促進し、意思決定者に対する支援の質をより高めるであろう。情報ネットワークの拡大は、 用・管理手法に新しい選択肢をもたらした。自国語を用いる使いやすいソフトウェアは、管理システムの る利益が情報提供のコストを賄うように改める必要がある。情報技術の急速な発展は情報の入手・その利 も帰因している。これらの方針については分析しなければならないし、必要ならば、情報の利用から生じ は、必ずしも技術上の問題ではなく、情報の所有と管理についての方針の相違、組織間のライバル意識に 生物多様性について膨大な情報が存在しているが、これらの情報を人手することは容易ではない。これ 管理行動を起こすことを可能にするため。 * モニタリング計画 (Box 13 ) : 常に変動する生物多様性と構成要素の状況を判定し、必要なときに適切な
の解明や保全に資するための自然環境保全に関する研究等を推進する。 4 農林漁業関連 我が国農林水産業・農山漁村は従来から食料の安定供給のほか、自然環境の保全、国土 の均衡ある発展等多面的な役割を果たしてきた。しかし、近年、国民の環境問題への社会 的関心が高まる中、環境保全をより重視した農林水産業の確立が求められており、農林水 産省が 1992 年 6 月に公表した「新しい食料・農業・農村政策の方向」 ( 新政策 ) でも、環 境保全型農業の確立のための研究開発の推進や地球環境問題解決のための技術開発が重点 的に推進すべき領域に挙げられている。 農林水産省の試験研究については、環境と調和した持続的な農林水産業の一層の発展に 資するため、 1993 年 8 月に「農林水産分野における環境研究推進方針」を公表し、研究の 重点化方向を明らかにした。この中で重点研究推進事項として、環境保全型農林水産技術 の開発、海洋汚染対策、熱帯林等の保全、野生生物との共存、生態系構成要素の評価・特 性解明及び動態・相互作用の解明等をあげている。このうち、生態系の多様性、種の多様 性及び遺伝的多様性の保全対策に関連する研究の推進方向は次のとおりである。 ( 1 ) 農業関係 自然生態系と調和した生産技術の確立と地球的視野に立った農業の持続的・安定的発展 に資するため、これら構成要素の特性解明等の研究を推進する必要がある。また、長期的 視点に立ち、自然生態系との調和を図りつつ、食料生産の持続的発展を図る農業に資する ため、農業生態系を構成する生物的・非生物的要素の動態、これら要素間の相互作用とそ の機構、物質・エネルギー動態等を解明し、これらの相互作用を積極的に利用する技術の 確立を目指す必要がある。 このため、地球環境の変動によって生じるさまざまなインパクトが農業生態系に与える 影響を総合的に解析し、農業生態系への影響予測手法の開発を行う。 また、農業生態系の仕組みを解明し、各構成要素の分類・同定法を確立するとともに生 物相の生理的・生態的特性を解明し、遺伝資源の評価と利用技術の開発を推進していく。 さらに、環境資源の総合的な利用・保全技術の開発に資するため、その賦存量を把握 し、環境生物について特性の解明と機能の評価を地球的規模で行うとともに、生物の変異 と適応機能について地球的規模での研究を推進する。 ( 2 ) 林業関係 森林生態系の多様性、種の多様性及び遺伝的多様性の保全対策を立てるためには、環境 変化や人間の営為が森林生態系の構成要素に及ばす影響を明らかにし、また、森林の減少 等による種の減少や絶滅が危惧されている生物の実態を解明することが必要である。ま た、林木等の遺伝的多様性の維持機構を明らかにすることが必要である。 このため、森林生態系の仕組みを解明し、森林生態系を構成する生物相の生理的・生態 的特性と、これを支える立地環境の特性並びにそれらの相互関連を解明するとともに、自 然災害及び人間活動によって生じるさまざまなインパクトが森林生態系に与える影響を総
第 5 節バイオテクノロジーによる遺伝資源の利用 1 基本的考え方 89 環境影響評価に関する研究を実施するとともに、環境保全研究に有用な環境汚染の防止及 また、国立環境研究所においては、環境保全のためのバイオテクノロジーの活用とその による高効率二酸化炭素固定化技術等の研究開発が進められている。 ギー源である水素の光合成細菌による高効率生産技術、地球温暖化防止のための微細藻類 素に分解される ( 生分解性の ) プラスチックの微生物による生産技術、クリーンなエネル 環境保全型技術としては、通商産業省において、環境中で微生物によって水と二酸化炭 られている。 計測・評価技術としては、微生物や酵素を利用したバイオセンサー等の研究開発が進め を修復するための技術開発を進めている。 母 ) を環境修復等へ利用するための技術開発を、農林水産省では農耕地等の農林水産環境 発を行っている。国税庁醸造研究所では、科学技術庁指針に則した組換え体微生物 ( 酵 を、通商産業省において、バイオレメディエーションの安全性評価手法の検討及び技術開 メディエーションの健全な利用の促進に資するため、環境影響評価手法等についての検討 能力を活用するバイオレメディエーションが注目されており、環境庁において、バイオレ リクロロエチレン等の有害物質による土壌・地下水系の汚染等に、微生物等の分解・浄化 微生物、植物を用いる研究開発が積極的に行われており、特に、近年問題となっているト 環境浄化技術としては、土壌、地下水、海洋、大気等における汚染物質の分解・浄化に ている。 は既に実用化されているほか、脱硫や脱硝等の排ガス処理への応用も研究開発が進められ 汚染防止技術としては、有機性汚濁に対する廃水処理 ( リンを含むもの等 ) 等について れる。 野としては、汚染防止技術、環境浄化技術、計測・評価技術、環境保全型技術等が考えら 及び環境の各分野で大きな役割を果たすものと期待されている。その環境保全への応用分 アジェンダ 21 第 16 章にうたわれているように、バイオテクノロジーは農業、人間の健康 2 環境保全への応用 る。 することにより、生物多様性の構成要素たる遺伝資源の持続可能な利用を進めるものであ 我が国においては、以下のような様々な取組が行われており、これらの取組を一層促進 十分な配慮を払うことが必要である。 は、今後の議論を踏まえつつ、遺伝資源の利用から生する利益の公正かっ衡平な配分等に 影響を及ばさないように配慮することが必要である。また、遺伝資源の提供国に対して 用形態であると言える。しかしながら、遺伝資源の利用に際しては、野生の遺伝資源に悪 ら大きな可能性を引き出すことができることから、生物多様性の構成要素の持続可能な利 バイオテクノロジーを用いた遺伝資源の利用は、一般にわすかな量の野生の遺伝資源か
の基本認識に基づき、各国がそれぞれ自国の生物多様性の保全に努めるとともに、地域 的、世界的な協力を通じて、相互に連携を保ちつつ、各国の保全施策や国際的な保全事業 の実施促進を図ることが重要である。 3 生物多様性の保全及び持続可能な利用に際しての考慮事項 ( 1 ) 生物多様性の保全 生物多様性の保全に際しては、以下の点を考慮する必要がある。 ア地域の自然特性に応じた保全 し自然性の高い地図こおいては、人為の排除や適切な人為の働きかけにより、生物多様性 の保全を図ることが必要である。特に、生態系が劣化している場合には、回復のために適 切な働きかけが重要である。なおン発行為等の人為の結果として生息・生育種数が増え ることがあるが、この場合、生態系のバランスが崩れる等、生物多様性保全上の問題とな らないように十分に留意することが必要である。 一次的自然が中心の地成においては、地域の自然の現状に応じて、生物多様性の維持や 向上を図ることが重要である。二次的自然の多くは継続的な人為の働きかけの結果、維持 されている。このため、その保全を図るには人為による働きかけが維持継続されるよう十 分な配慮が必要である。 また、然を大きく改変して成立している地域たおいては、地域に残された生物多様性 の維持回復や向上を図ること、さらには、生物多様性の減少した地域における多様な生物 生息空間等の再生・創出を図るために、生態系の再生・修復及び公園・緑地等の整備を積 極的に行うことが重要である。その際、生物多様性の保全のためには、その地域に本来生 息・生育する種が普通に見られる状況を今後とも維持するよう十分な配慮が必要である。 イ科学的知見 ~ , 情報の充実ー。… 動植物の分布、野生動物の生息地として重要な自然生態系の分布及びその保全の状況に ついての情報は、生物多様性保全を図る上での基本的な情報であるが、現時点ではわずか しか把握されていない。また、生物間の多様な相互関係、生物多様性の維持機構等、生物 多様性についての現在の科学的知見・情報は、生物多様性の保全を進めるために十分なも のではない。このため、調査研究の促進、情報の収集整備の促進等を図りつつ、保全対策 の充実を図ることが必要である。 ( 2 ) 生物多様性の構成要素の持続可能な利用 生物多様性の構成要素の持続可能な利用に際しては、以下の点を考慮する必要がある。 ア科学的知見の充実 生物多様性の構成要素に対する利用圧が自然の再生産能力の許容範囲内にあることにつ いて、的確な把握が必要であり、このための調査研究を進める。 イ予防的対応 生物多様性の構成要素に対する利用圧が自然の再生産能力の許容範囲内にあるか否かに つき、不明の部分がある場合には、十分な余裕を持った対応が必要である。 ウ伝統的な利用形態の適正評価
いる。実に、世界の宗教の大部分が、生命の多様性を畏敬しその保全を心がけるべきことを説いている。 生物多様性によるとされる様々な経済的価値の類型を Box4 に示した。 Box 4 経済的観点から捉えた、生物多様性の価値 利用価値 * 直接価値 = 人間社会の = ーズを満たすための生物多様性の諸構成要素の価値。食物・燃料・医薬品 エネルギー・木材などのような需要を満たすための、遺伝子・種・生物群集・生物学的プロセスの消費 的利用。 レクリエーシン・観光・科学・教育活動などのような、生物多様性の構成要素の非消費的利用。 * 間接価値 = 経済や他の社会活動を支える生物多様性の価値。この価値は、生物学的生産性・気候調整 ・土壌生産力・水や大気の浄化を支えている生態系のサービスの維持に対する生物多様性の役割に由来 している。 * 選択価値 = 人々が生物多様性を将来、直接的に使うか、間接的に使うかの選択肢を保持するために支 払う意思のある、いわば保険特約である。生物多様性にかかわる情報や科学に関する選択価値は、準選 択価値と呼ばれる。 利用しないことの価値 ( 非利用価値 ) 又は受動的価値 非利用価値乂は受動的価値は、友人・親類縁者・その他の人々に対する利他主義 ( 代償利用価値 ) 、 将来世代に対する利他主義 ( 遺贈価値 ) 、ヒト以外の種や自然一般に対する利他主義 ( 存在価値 ) に由 来している。これらは、道徳的、倫理的、精神的、宗教的思考によて動機づけられることがある。 * 代償利用価値 = 現世代の他の構成員が生物多様性のある要素を利用する権利を保証するために、人々 が支払う意思を持っ対価 ( もしくは手放す意思のある利益 ) 。 * 遺贈価値 = 将来世代が生物多様性のある要素を利用する権利を保証するために、人々が支払う意思を 持っ対価 ( もしくは手放す意思のある利益 ) 。 * 存在価値 = 生物多様性のある要素が存在し続けることを保証するために、人々が支払う意思を持っ対 価 ( もしくは手放す意思のある利益 ) 。存在価値は、しばしば内在的価値とも呼ばれる。 ( 1 ) 間接利用価値 : 財とサービスの供給の維持 生態系が財とサービスを供給する能力は、農業生態系・森林・放牧地・サンゴ礁など、それぞれで異 なており、適正でない管理は、生態系の財とサービスを供給する能力を弱めてしまう。ある特定の生態 系が、水の浄化や老廃物の分解吸収をする湿地のような必須のサービスを供給しているような地域では、 これらの生態学的機能を著しく阻害しないために、その地域内でその生態系が十分な大きさを保っことが 重要である。結果として、十分に管理されていない活動は、生態系を劣化させかねない。例えば、森林や 他の自然植生の転換は往々にして土壌浸食と川床の堆積を引き起こし、結果として、土壌生産力・水生 生物・洪水防御力の消失を招いてきた。同様に、多くの乾燥・半乾燥地域における大規模な生息地の劣化 が、砂漠化の増大を導くことが示されている。 150
医薬品分野への応用 農林水産業における利用 醸造における利用 発酵工業における利用 ・・・ 93 6 5 4 3 92 第 6 節その他の利用 第 4 章生物多様性の構成要素等の特定及び監視・・ 93 第 1 節生物多様性の構成要素の特定及び監視 1 自然環境保全基礎調査等 2 森林 3 海洋等の水域 第 2 節生物多様性に影響を及ばす活動等の特定及び監視・・・ 1 生物多様性に影響を及ばす活動等 2 森林における特定及び監視 3 海洋等の水域における特定及び監視 第 5 章共通的基盤的施策の推進・・ 第 1 節奨励措置・・・ 1 経済的な奨励措置 2 社会的な奨励措置 ・・・ 95 ・・・ 97 第 2 節調査研究の促進 98 1 2 3 4 5 基本的考え方 地球環境保全調査研究等総合推進計画 国立機関公害防止等試験研究費による研究の促進 農林漁業関連 バイオテクノロジー関連 第 3 節教育及び普及啓発・・・ 1 基本的考え方 2 各種の取組 第 4 節影響評価及び悪影響の最小化・・・ 1 基本的考え方 2 社会資本整備に当たっての配慮 第 6 章国際協力の推進・・ 第 1 節情報の交換 第 2 節技術上及び科学上の協力 1 基本的考え方 ・ 103 ・ 107 ・ 110 110 111
蕀鋻区ャ 4 、亠ミ Ø川 7 ミて プ 0 。 科の数 900 800 700 600 500 400 300 200 0 0 ト (l トÅ犬 5 < 大 .4 . ト ト ( 一ミ 4 川厭 7 ミて 田 0 300 200 地質年代 ( 百万年 ) 図 8 大量絶滅の概要。それぞれの大異変に影響を受けた動物の主要グループを示している。 ( 出典 : Given. D. 1992. P % 切力な〃乃じ e 召 / 〃厩 Co げル Timber press, Oregon ) ず生産力と収量の消失という重大な危険をもたらすのである。窒素固定の場合のように、その能力のない 種構成をもっ生態系に新しい能力を導人することは、必ず生態系の構成と機能に劇的な影響を及ほ。す。ノ、 ワイのいくっかの場所に、窒素固定能がある樹木を導人したことによって、栄養塩類供給と火災頻度が高 まり、植物群落の構成が全く異なるものに変わり、従来から生育していた種の個体群が急速に失なわれて いった。遺伝的多様性が限られた系、特に作物では、しばしば侵人や導人の影響を最も受けやすく、病原 体の導人がもっとも懸念される。 島嶼や構成種が比較的少ない北方林などの生態系は、構成種が豊かな熱帯林などの生物群系と比べて、 種の移人による影響を受けやすいようである。このため、生態系プロセスの破壊に結び付く移人種の定着 が起こる可能性は、前者の方が高いと推測されるすべての気候帯の淡水生態系も淡水生態系も、侵入や 導人に特に敏感であるようである。一般的に、火・干ば・過放牧・広範囲にわたる皆伐などのように 他の環境要因による攪乱やストレスにさらされた地域は、移人種に開放された生息地と資源を与える。 こで移人種が繁茂するか否かは、移人種自体の生物学的特性と遭遇する在来種の生物学的特性しだいであ 0 400 600 164