ツ可を 2 種内の多様性 林、サバンナ、低木林、砂漠である。これらの生態系では気候、土壌等の環境条件に応じ る。すなわち、屬ツツ下気寒帯・帯第帯草原、薀帯多雨林、物帯多雨 相観及び機能的観点からは、世界の陸上生態系を次の 10 区分に大きく分けることができ アの 6 区に区分される。 一方、世界の動物相にいて中日 - 北、 ( 新」気第享芽ピラ、新熱帯、オーストラ - リ 半球では北半球のように緯度による植生配列をそのまま対応させることはできない。 植生配列を、低地から高地への垂直的な植生配列に対応させることができる。しかし、南 当するものがほとんどみられない。垂直分布をみると、北半球では南から北への平面的な 北半球のような広大な砂漠帯はない。また、気候的には暖帯がなく、常緑広葉樹林帯に相 る。植生の水平分布をみると、南半球は海洋の面積が大きいため、気候は海洋性であり、 全北、旧熱帯新熱い南アフりカにーストラリテ、朝極あ 6 つの区系界に区分され 今日の世界の植物相は、地史的背景や温度、降水量、光量等の気候要因等を踏まえて、 概観は次のとおりである。 の環境特性に応じ、さまざまに進化、分化しつつ成立している。生物地理的な生物群系の 地球上には、特殊の環境の地域を除き、動植物が分布している。これら動植物相は地域 1 生態系の多様性 第 4 節世界の生物多様性の現状 に保全していくためには、現状を正確に把握し問題点を抽出することが急務である。 様性が把握きれないまま、多くの地域個体群等が消滅している。今後遺伝的多様性を適正 の構造や攪乱等の現状は、我が国においても十分に把握されていない。現状では遺伝的多 しかし、遺伝的多様性の保全は、生を性保全の中でも地較的新 0 い概念であり、そ ては、遺伝的多様性の低下が懸念されている。 た、生息環境の悪化や、移人種との競合等によって個体数が著しく減少している種につい にある個体と野生個体の種内交雑等によって遺伝的多様性が低下している例も多い。ま ている。個体の人為的な移動・移人による地域個体群の遺伝子の攪乱、栽培または飼育下 近年、人間活動によってさまざまな面から遺伝的多様性が低下していることが指摘され り絶滅のおそれが高いとされている。 類 5 、淡水魚類 7 、昆虫類 1 、貝類 5 、十脚類 1 ) の地域個体群が、地域的に孤立してお している。「日本の絶滅のおそれのある野生生物 ( 1991 ) 」によれば、 32 ( 哺乳類 13 、両生 ることが重要であるが、現在、さまざまな人為的な影響により、地域個体群の消滅が進行 性を保持している。種内の遺伝的多様性を保全するためにはこうした地域個体群を保全す 間では、一般に地域ごとに適応した異なる遺伝子を持っており、種内における遺伝的多様 同一の種と分類される中にあっても、島嶼や山地等、地理的に隔離された地域固体群の することは生物多様性を保全する上での重要な課題である。 すべての種は種内に遺伝的多様性を保持しており、この遺伝子レベルでの多様性を保全
表 1 主な分類群の種の概数。 10 万種以上が存在すると推定される生物分類群。比較のために脊椎動 物、その他を並記してある ( 単位 : 100 の。 分類群中の種 己載されてい 群 の推定総数 る種の数 ( 1 ) 400 1 , 000 1 , 500 200 400 320 400 150 750 8 , 000 200 50 250 13 , 620 一三ロ 類 分 11 「ー ル イ ス菌類図 ウ細菌 生 動物 ' ' 原 類 ' ( 2 ) 冫架 物 類 線 類 甲 類 ク 類 昆 動 物 軟 体 動 物 椎 脊 他 ( 3 ) そ 注記 : 1 ・今日認められている記載種の推定数 2 . 原生動物と藻類は広義の概念を採用 3 . 大部分は研究例の少ない動物分類群 Box 6 生物の分類ー一生物多様性を認識し、理解するために欠かせな い道具 種や遺伝的変異を発見し、記載し、分類することは、私たちが生物多様性の「在庫」を調べ、それを 取り扱い、それについて伝達し、そのパターンを記述し、分析することを可能にする。種・属・科・目 ・綱・門、そして、動物・細菌・真菌・植物・原生生物のいわゆる五界へと生物を分類していく作業 は、生物相互の系統的、進化的な関係に基づいて行われる。これらの分類は多分に予測的なものではあ るが、分類学が提供する枠組みは、進化上の関係について参照したり、概説するための道具でもある。 例えば、この関係を応用して類似の用途に使える種を見い出すことができる。貴重な抗ガン剤として用 いられる化合物タクソールは、本来、北米産セイヨウイチイ ( s い e し I ) の小さな個体群か ら発見されたものであた。科学者たちは、同属の他種にもこれが存在する可能性を予測し、その結 果、普通に生育しているヨーロッパ産セイヨウイチイ ( 佖ェリ s わ。 cc のからタクソールの前駆物質 を持続可能な商業的規模で抽出することができた。分類情報は農業に対する病害虫の地理的発生源を探 索するために頻繁に用いられており、それによて、潜在的な生物的制御剤の発見にいた。ている。分 類学的考察はまた、保全管理の戦略に重要な役割を果たす。例えば、ある対象種がひとつの進化系統の 唯一の生き残りなのか、他の多くの種と密接に関係している種なのかを考えることは重要である。 虫殻モ虫 の 一三ロ ( 3 ) 種内の遺伝的変異がどのくらいあるのか十分に知られていない それぞれの種には膨大な量の遺伝情報が含まれており、同じ種内の個体群の遺伝的構成が大きく多様化 していることも多い。精細な種の生殖様式によれば、個体群内部の変異性が個体群相互間と同等かそれ以 上になる場合もある。しかし、ほとんどの遺伝子の生成物質や機能について私たちは、いくっかの例外を 155
いた場合、熱帯の閉鎖林に生息する種の 4 ~ 8 % が今後 25 年間に絶滅するの推測もある。 湖沼、河川、湿地等淡水域の生態系は最も脅かされている生態系の一つであり、淡水魚 の 5 分の 1 は絶滅したか、その危機にあるとされる。汚染、移人種が特に大きな脅威と なっている。 【用語解説】 種の総数 : 地球上に存在する生物種の総数については、様々な推定値が示されている が、生物多様性国家戦略の決定直後の 95 年 11 月に国連環境計画が発表した「世界の生 物多様性アセスメント」によれば、 700 万 ~ 2 , 000 万種の範囲を示しながら、妥当な推 定値は、 1 , 300 万 ~ 1 , 400 万種とされている。また、既知の種数は約 175 万種とされて いる。 国際自然保護連合 (IUCN) : 1948 年に設立された自然保護と天然資源保全のための国 際団体。国家 ( 68 ) 、政府機関 ( 92 ) 、 NGO ( 618 ) が会員となっており、 6 千人を超 える科学者の協力を受けて、世界の自然環境保全分野で高い評価を受けた活動を実施 している。日本政府、環境庁、国内自然保護団体 ( 14 ) が会員となっている。 3 種内の多様性 一般に、生息数が減少し近親交配の頻度が高まると、種内の遺伝的多様性が低下し、奇 形率の増加、生存率の低下等、様々な障害が生じることが知られている。例えは、米国フ ロリダ半島のピューマでは、個体数が減少し遺伝的多様性が低下することで、尾の奇形等 の障害が出ている。遺伝的多様性を維持し、」固体群を安定的に維持するためには、交配可 能な性的成熟個体が適切な性比で一定個体数以上生息することが重要である。 また、作物の病虫害防止や生産性改良のためには、病虫害抵抗性を持った遺伝子や高生 産性遺伝子の導人が常に必要である。 1991 年にプラジルで発生した柑橘類の潰瘍病の流行 は、オレンジの木が遺伝的に均質であったことが被害を大きくした主要因であった。こっ したことからも、栽培する作物が遺伝的に偏らないようにするとともに、作物の原種を野 生の状態で保全することを通じ、その遺伝的多様性を維持しておくことがきわめて重要で ある。
生物多様性条約の制定過程 1 月景 地球の生物種の 40 ~ 90 % が熱帯林に生息するといわれているが、 1980 年代には年間推定約 1540 万 ha 、実 に日本の国土の 4 割に相当する面積の熱帯林が減少していた。多くの未知の生物種の絶滅を伴って熱帯林 が急速に減少している現状は大きな問題となり、 84 年に国際自然保護連合 (IUCN) は、野生遺伝資源の保 全を目的とした条約草案の作成に着手した。 2 条約交渉会議 こうした動きを背景に、国連環境計画の管理理事会 ( 理事国は日本を含む 58 ヶ国 ) は 87 年に生物多様性 保全のための新たな条約の必要性を検討することを決め、 89 年からは政府専門家による条約に盛り込むべ き事項の検討を開始した。 90 年からは正式な条約交渉会議が開かれ、 92 年 6 月の国連環境開発会議 ( 地球 サミット ) までに条約を採択すべく、交渉が進められた。条約正文は 92 年 5 月にナイロビで採択された。 3 条約の内容についての主要な議論 ( 1 ) 条約の目的 当初、条約の目的は生物多様性の保全であった。持続可能な利用は広義の「保全」の範疇に入るとの理 解であった。しかし、条約交渉の過程において、開発途上国側が、生物資源の持続可能な利用は生物多様 性の保全と開発途上国の発展を両立させるために重要なものであり、保全と持続可能な利用を併記すべき であると強く主張し、条約の第 2 の目的となった。 また、遺伝子改変生物の安全性確保やバイオテクノロジーの移転促進などバイオテクノロジー関連の規 定の検討に際し、開発途上国側は先進国が途上国にある遺伝資源を利用して開発した薬品等から生じた膨 大な利益が適正に遺伝資源の原産国に還元されるべきと主張し、これが条約第 3 の目的となった。 ( 2 ) グローバルリスト 交渉会議で検討されていた条約草案には、グローバルリスト、すなわち、生物多様性保全の観点から国 際的に重要な種や生息地などを指定したリストについての条文が含まれていた。これは、全地球的視点か ら、優先的に保全を図るべき種や生息地等を指定し、条約の枠組みを通じて保全のための資金や技術を提 供しようとするものであった。しかし、開発途上国とスウェーデンが保全の優先順位は各国が国内事情を 踏まえて独自に決定すべきであり、国際的な干渉は認められないとの強い反対の立場をとったため、条文 内容について全く議論されることなく、削除された。結局各国は、条約附属書に示された基準を参考に生 物多様性の保全上重要な種、生息地等を特定し、監視を行うこととなった。 ( 3 ) バイオテクノロジーの技術移転 当初、先進国側は生物多様性保全に役立つものに限ってバイオテクノロジーの移転の促進を図る規定を 考えていたが、遺伝資源の利用から生じた利益の配分が条約目的に追加されたのと同様に、開発途上国側 の主張により、特に限定されずにバイオテクノロジー一般を対象として技術移転の促進が盛り込まれるこ ととなった。 194
* 生態系 (Ecosystem) 生物間の相互作用、生物と物理環境の相互作用を有するある限定された地域 に存在する個体、個体群および種の集まり。 * 生物群集 (EcoIogical community) 特定の地域に生息している種の集まり * 生息地 (Habitat) 特定の種を取り巻く生物的環境と物理的環境 ◆生物体の多様性 (Organismal diversity) : 地球上に生息する種の総数は、 1300 万から 1400 万程度だ と推定されており、このうち記載されている種の数は 175 万種しかない。ごく普通に見られる一年生の 草本から深海溝の細菌までの様々な種の膨大な多様性、系統発生上の関係を反映する分類体系による整 理、それらが示す複雑な変異と分布の様式ーーこれが生物多様性の実体である。種内の繁殖集団は他と 区別される個体群を形成する。植物・鳥類・哺乳類・魚類・爬虫類・両生類など私たちにもっとも親し みのある種は、推定総種数の 3 % にしか過ぎず、種の大半は、昆虫類・クモ類・菌類・線虫類および微 生物に属している ( 図 2 ) 。 ◆遺伝的多様性 (Genetic diversity) : 同じ種に属する個体間の遺伝的な差異が、種間でみられる多様 性の基礎をなしている。分子レベルの研究によって、ほとんどの種に遺伝的変異性が豊富に見い出され ることが明らかになった。実際に、ほとんどすべての種の個体は、遺伝的に異なっている。遺伝子の多 様性は、単一の遺伝子から明白な複数の遺伝子座の特性まで、様々なレベルで説明することができる。 これらは個体群内、ならびに、個体群間の遺伝的変異性として現われる。遺伝的多様性の総量と分布は 種によって大きく異なっており、その仕組みについては十分には解明されていない。しかし、種内の遺 伝的多様性は環境状況の変化に適応するために必要であることは、十分に確認されている。 昆虫類 * 菌類 クモ類 * 脊索動物 甲殻類 * ーー軟体動物 原生生物 その他 植物 線虫類 藻類 細菌 ウイルス 図 2 主な分類群の推定種数の比率 1 . * は節足動物に含まれる分類群 2. 脊索動物には、哺乳類、鳥類、爬虫類、 魚類、両生類が含まれる。 147
物直 ~ ・■ー、ー 様影 多的 澱物為 生人 人間社会 図 1 人間社会と生物多様性の相互作用 Box 1 生物多様性とは何か ? 生物多様性条約では、生物多様性を次のように定義している。『すべての生物 ( 陸上生態系、海洋そ の他の水界生態系、これらが複合した生態系など、生息又は生育の場のいかんを問わない ) の間の変異 性をいうものとし、種内の多様性、種間の多様性及び生態系の多様性を含む。』。簡単にいえば、生物多 様性とは、世界中に様々な生物が存在していることであり、生物の遺伝的組成や生物が構成する群集も 含まれる概念である。生物多様性は動的なものであり、種の遺伝的組成は長い間には、自然や人為の淘 汰圧に反応して変化する。生物群集内の種の出現と個体数も、生態的・物理的な要因に応じて変化する (Box 2 ) 。 ◆生態系の多様性 (EcologicaI diversity) : 生態系はそれぞれ独立して存在するものではなく、連続 体である自然の異なる部分を示すための概念である。一般に、森林・草原・湿地・サンゴ礁などの用語 が生態系を表わすのに用いられているが、その境界や広さの規模はそれぞれの分類の目的に応じて異 なっている。 一般的に使われている用語 : * バイオーム (Biome) 特徴的な植生と気候によって類型される大陸規模での生物群集の類型 146
および人工増殖されている動物・植物・菌類・微生物の種の保全を補完するものではあるが、個体群の維 持には向いていない。 生息地外の保全施設は、栽培品種や家畜の品種を改良し維持するための繁殖プログラムに必要な遺伝物 質を供給しているが、特に熱帯地域においては、直接的な経済価値を持っ既知の種の収集でさえ極めて不 十分である。この例外には、主要作物、人間や作物に対するある種の病原体、科学研究に用いられる「標 準生物」などがある。ほとんどの生息地外の保全施設 ( とりわけ植物園、動物園、水族館 ) は、生物多様 性についての大衆の意識を高めるほか、繁殖生物学・遺伝学・系統分類学などの分野の基礎・応用科学研 究に素材を提供している。図 15 には、世界の植物種分布と植物園数の関係が反比例している様子が示され ている。すべての生息地外の施設は、潜在的に、病虫害や、火事・洪水などによる物理的ダメージと、経 済や政策の変化に弱い。 種の再導人と生息地の再生・回復は、生物多様性を再構築するためにより重要な役割を果たすようにな るであろう。これらの作業は、生息地内の取り組みと生息地外の取り組みの双方に依存している。生物多 様性の持続可能な利用の処方箋が完全な成功を収めることはあり得ない。そして、既に私たちは、「持続可 能でない行為によって傷つけられた生態系を、その財とサービスの供給が納得のいく程度にまで回復する 状態に戻すことが必要とされる」状況に至っているのである。いくっかの種・生物群集・生態系のサービ スを再生させる努力は依然として技術的、生態学的問題に直面しているものの、再生の方法論は急速な進 歩を示している。この中で再生や回復の優先順位を決めることは、困難な課題である。特に、財とサービ スの供給量を納得できる程度に維持するために、これらの活動に対して継続的な補助金を必要とする場合 には、きわめて困難なものになる。 ( 4 ) 生物多様性の持続可能な利用 生物多様性の持続可能な利用は、社会・経済の持続可能な発展のための前提であるとするのが昨今の考 え方である。正しく行われるならば、持続可能な利用は、生態系とその構成要素から財とサービスが継続 的に供給されることを保証する。生物多様性を持続可能な形で利用するためには、生態系・その構成要 素・そこに作用する社会経済的圧力を基本的に理解しておくことが不可欠である。手付かずの生態系のプ ロセスについての知識を活用した資源管理行為は、往々にして、そのような知識に基づかないものよりも 効果が上がり、経済的ですらある。例えば火災などの自然の攪乱の頻度をモデルとした林業活動は、多く の森林生態系に結び付いた生物多様性を維持する最善の機会を提示しているようである。漁業では、魚類 個体群のより優れたモニタリングによって漁獲量の持続可能性が高められ、海洋の生物多様性が保全され る希望が与えられている。 持続可能な利用を確実に実施するためには、社会・経済的手法の方が、技術的手法より重要かもしれな い。例えば、明確に定義された所有権や土地利用制度を付与したり、認知することは、持続可能な林業や 漁業にとって極めて重要である。特に関心が寄せられているのは、森林・淡水・海洋生態系の過剰利用に 終止符を打っために、現行の「自由利用」の体制を公平な手段を用いて、民間・地域社会・その他の所有 制度に置き換えることである。 多くの伝統的資源管理システムは、生物多様性保全と構成要素の持続可能な利用を効果的に達成してい る。伝統的農業を営む小規模農民たちは、長い時間をかけて品種の多様性を創造し、また、遺伝的多様性 をとりしきってきた ( 図 16 ) 。伝統的な農業形態は、特に途上国では、作物と家畜の遺伝的多様性の最大の 貯蔵庫である。伝統的農業生態系における作物遺伝資源の農地内保全は、環境に対する植物たちのダイナ ミックな適応を持続する潜在力によって、比類のない利益を提供している。特に多様化された農業地域で 174
「生物資源」には、現に利用され若しくは将来 利用されることがある又は人類にとって現実の若 しくは潜在的な価値を有する遺伝資源、生物乂は その部分、個体群その他生態系の生物的な構成要 素を含む。 「バイオテクノロジー」とは、物乂は方法を特 定の用途のために作り出し乂は改変するため、生 物システム、生物又はその派生物を利用する応用 技術をいう。 「遺伝資源の原産国」とは、生息域内状況にお いて遺伝資源を有する国をいう。 「遺伝資源の提供国」とは、生息域内の供給源 ( 野生種の個体群であるか飼育種乂は栽培種の個 体群であるかを問わない。 ) から採取された遺伝 資源乂は生息域外の供給源から取り出された遺伝 資源 ( 自国が原産国であるかないかを問わな い。 ) を提供する国をいう。 「飼育種乂は栽培種」とは、人がその必要を満 たすため進化の過程に影響を与えた種をいう。 「生態系」とは、植物、動物及び微生物の群集 とこれらを取り巻く非生物的な環境とが相互に作 用して一の機能的な単位を成す動的な複合体をい つ。 「生息域外保全」とは、生物の多様性の構成要 素を自然の生息地の外において保全することをい つ。 「遺伝素材」とは、遺伝の機能的な単位を有す る植物、動物、微生物その他に由来する素材をい つ。 「遺伝資源」とは、現実の乂は潜在的な価値を 有する遺伝素材をいう。 「生息地」とは、生物の個体若しくは個体群が 自然に生息し若しくは生育している場所又はその 類型をいう。 「生息域内状況」とは、遺伝資源が生態系及び 自然の生息地において存在している状況をいい、 飼育種乂は栽培種については、当該飼育種乂は栽 培種が特有の性質を得た環境において存在してい る状況をいう。 「生息域内保全」とは、生態系及び自然の生息 地を保全し、並びに存続可能な種の個体群を自然 の生息環境において維持し及び回復することをい い、飼育種又は栽培種については、存続可能な種 の個体群を当該飼育種又は栽培種が特有の性質を 得た環境において維持し及び回復することをい つ。 「保護地域」とは、保全のための特定の目的を 達成するために指定され又は規制され及び管理さ れている地理的に特定された地域をいう。 「地域的な経済統合のための機関」とは、特定 の地域の主権国家によって構成される機関であっ て、この条約が規律する事項に関しその加盟国か ら権限の委譲を受け、かっ、その内部手続に従っ てこの条約の署名、批准、受諾若しくは承認乂は これへの加人の正当な委任を受けたものをいう。 「持続可能な利用」とは、生物の多様性の長期 的な減少をもたらさない方法及び速度で生物の多 様性の構成要素を利用し、もって、現在及び将来 の世代の必要及び願望を満たすように生物の多様 性の可能性を維持することをいう。 「技術」には、バイオテクノロジーを含む。 第 3 条原則 諸国は、国際連合憲章及び国際法の諸原則に基 づき、自国の資源をその環境政策に従って開発す る主権的権利を有し、また、自国の管轄乂は管理 の下における活動が他国の環境乂はいずれの国の 管轄にも属さない区域の環境を害さないことを確 保する責任を有する。 第 4 条適用範囲 この条約が適用される区域は、この条約に別段 の明文の規定がある場合を除くほか、他国の権利 を害さないことを条件として、各締約国との関係 において、次のとおりとする。 (a) 生物の多様性の構成要素については、自国 の管轄の下にある区域 (b) 自国の管轄乂は管理の下で行われる作用及 び活動 ( それらの影響が生ずる場所のいかん を問わない。 ) については、自国の管轄の下 にある区域及びいずれの国の管轄にも属さな い区域 第 5 条協力 締約国は、生物の多様性の保全及び持続可能な 利用のため、可能な限り、かっ、適当な場合に は、直接に又は適当なときは能力を有する国際機 関を通じ、いずれの国の管轄にも属さない区域そ の他相互に関心を有する事項について他の締約国 と協力する。 第 6 条保全及び持続可能な利用のため の一般的な措置 締約国は、その個々の状況及び能力に応じ、次 のことを行う。 (a) 生物の多様性の保全及び持続可能な利用を 目的とする国家的な戦略若しくは計画を作成 し、又は当該目的のため、既存の戦略若しく は計画を調整し、特にこの条約に規定する措 置で当該締約国に関連するものを考慮したも のとなるようにすること。 (b) 生物の多様性の保全及び持続可能な利用に ついて、可能な限り、かっ、適当な場合に は、関連のある部門別の乂は部門にまたがる 計画及び政策にこれを組み人れること。 第 7 条特定及び監視 締約国は、可能な限り、かっ、適当な場合に は、特に次条から第 10 条までの規定を実施するた め、次のことを行う。 (a) 附属書 I に列記する区分を考慮して、生物 183
要約 1 生物多様性は全人類の生存に不可欠な資源である 地球には豊かで多様な多数の生物が生息している。これらの生物の遺伝的多様性、そして生物相互の、 また生物とその物理的環境との関係が、地球という惑星の生物多様性を創り出している。この生物多様性 は、地球本来の生物的資本であり、あらゆる国に貴重な機会を与えるものである。生物多様性は、人間の ーズや環境の変化に社会が適応してい 生活を支え、願望を満たすために必要な財とサービスを供絵し くことを可能にする。このような資産を保護し、科学技術を用いて継続的に探究することは、世界の国々 が持続可能な形で発展していくための唯一の方法である。人間社会の倫理的、精神的、文化的、宗教的価 値は、この複雑な方程式の欠くことのできない部分である。 ( 1 ) 限られた知識基盤 現存する生物多様性の分布と規模は 35 億年を超える種分化・移動・絶滅・最近では人間活動の影響を含 む進化の産物である。地球上に生息する種の総数は、近年の推計でも 700 万種から 2000 万種までの幅がある が、私たちは、より実際に近い推定値として 1300 万種から 1400 万種の範囲とするのが妥当だと考えてい る。このうち、学術的に記載されているのは 175 万種であり、植物や脊椎動物は全体の 5 分の 1 を占めてい るにすぎない。あまり研究されていない生物のグループには、細菌・節足動物・菌類・線虫類が含まれ る海洋や地下に生息する種は特によく知られていない。 己載されている 175 万種にしても、完全な記載が存在するわけではなく、これらの種の繁殖生物学・個体 数・生体内化学物質・生態学的な必要条件・生態系における役割などに関する私たちの理解は、著しく不 完全でつぎはぎだらけなものである。種内の遺伝的多様性が十分に調べられている種は、基本的に、人間 の健康・科学研究・経済的利用に直接の重要性が認められるものに限られており、その数は極めて少な 0 一三ロ ( 2 ) 自然の適応能力に対する脅威 種や遺伝子の多様性は、攪乱や長期的な気候変動を含む環境変化に対して抵抗し、回復するための生物 群集の能力に影響を及ぼす。種内の遺伝的変異は進化や、その場所の環境条件に対する野生個体群の適 応、さらに人類に直接大きな貢献をしてきた家畜や作物の育種の発展の究極の基盤である。種内の遺伝子 の多様性、生態系に内包される種の多様性、ある地域における生態系の多様性の消失は、環境のさらなる 攪乱を招集し、地球の生態系が供給してくれる財とサービスが深刻なまでに減少していくという状況を更 に進めていく。 生物多様性に対する人間活動による悪影響は劇的に増大しており、持続可能な開発の根源自体を脅威に さらしている。人間が環境を改変している速度、その改変の程度や、それが種の分布・個体群密度・生態 のシステム・遺伝的変異に対してもたらしている影響は、人類史上かってないものであり、持続可能な経 済発展や生活の質に対する深刻な脅威となっている。生物資源と多様性の消失は、私たちの食糧の供給・ 木材・医薬品・エネルギー資源やレクリエーション・観光の機会を脅かし、河川の流量の調節・土壌浸食 「 2 生物多様性は人間の活動によって、かってないほど急速に破壊されている 141
種が長期的に存続する可能性をより定性的に評価する方法は、 IUCN ( 国際自然保護連合 ) の類型を用い るものである。絶滅のおそれのある種とは、偶然のまたは決められた環境要因やそれ自体の稀少性によっ て近い将来絶滅する可能性が高いと考えられる種を指す。地域別の推定は、個体数・個体数の動向・潜在 的脅威などについて十分な知識が得られている種を考慮しつつ、生息地の消失予測を外挿して算出され る。世界中で絶滅が危惧されている種数の推定最低値は、 1994 年には、動物が約 5400 種、植物が約 2 万 600 0 種であった ( 表 3 ) 。鳥類の 11 % 、哺乳類の 18 % 、魚類の 5 % 、植物の 11 % が、絶滅のおそれのある種に 区分されていた。どの程度絶滅のおそれがあるかを示す類型区分の変更は、生物学的要因のみならず、そ の種に関する知見とデータ入力率を反映しているが、こうした種の類型区分の経時変化を分析した調査で は、鳥類と哺乳類の 50 % が今後 200 ~ 300 年の間に絶滅することが示唆されている。しかしながら、記載さ れている 175 万種の大半と記載されていない数百万種の現状評価は一切行われていない。 表 3 WCMC で「絶滅のおそれのある種」に分類された種数 (WCMC では「絶滅危惧種」「危急種」 「稀少種」「未確認種」に分類される種を「絶滅のおそれのある種」としている )(WCMC Pers. comm 1995 ) 未確認種 絶滅のおそれのある種 絶滅危惧種 危急種 稀少種 Vulnerable lntermediate Threatened Endangered R. are 哺 乳 類 177 199 類 188 241 虫 類 爬 44 88 生 類 両 32 32 類 魚 158 226 無 脊 椎 動 物 702 582 物 3 , 632 5 , 687 ( 3 ) 遺伝的多様性も侵食されつつある 新品種の世界的な普及によって置き換えられてしまった作物種や家畜の系統は、種子銀行、野外の遺伝 子銀行および生息地外施設で、精子・卵子の低温保存によって、あるいは、農場内保全プログラムを通じ て生息地内で保全されている。例えば、植物の種子のコレクションでは、約 400 万の標本により、少なくと も総計 1 万種が保有されており、このうち約 300 万の標本はわずか約 100 種に関連したものである。しかし ながら、コレクションの生存可能性を保っために定期的に種子を発芽させる作業などの適切な管理に必要 な資金の不足のために、遺伝資源の消失は生息地外コレクションにおいても続いており、全コレクション が消失の危機に直面していたり、既に失われてしまった事例もある。遺伝子銀行に保管されている野生種 の標本はきわめて少ない。生息地外のコレクションが、もはや新しい環境条件に対応して進化することの できない存在であるという認識を持っことが極めて重要である。進化し続けることができるのは野生個体 群のみであり、私たちが必要とする「不断に進化する遺伝子集団」を持っているのは野生個体群だけなの である。このほか、生息地外で保全されている品種の使い方についての文化的情報がなくなっていること も極めて深刻な問題である。 ほとんどの野生種については、遺伝的に区別される個体群の消失やその結果としての遺伝的侵食の状況 に関する情報はほとんどない (Box8)0 これらの個体群ーっひとつが、独特の遺伝子、遺伝子の組み合わ せ、または適応能力を秘めているかもしれない。すでに絶滅の危機に瀕している種は、個体群の消失に よって遺伝的多様性をある程度失っていると考えられる。このほか、移人種の遺伝子によって遺伝的組成 が変えられてしまった野生個体群もある。個体群の大きさの減少は、一般に、遺伝的多様性の消失率を高 め、特に交雑する種の適応能力を大幅に低下させる。 一三ロ Total 533 862 257 133 934 2 , 647 26 , 106 68 176 43 14 304 941 5 , 302 89 257 55 246 442 11 , 485 161