スリランカ - みる会図書館


検索対象: 交流文化 volume 08
7件見つかりました。

1. 交流文化 volume 08

5 れ スリランカという国名を聞いて、はっきりと したイメージを思い浮かべることが出来る方 は多くないかも知れないイギリス統治時代 観光を通じた から一九七一一年まで続いた旧国名「セイロン」 ならば、紅茶の産地としてご存じの方も多い のではなかろうか 草の根国際協力 スリランカ、旧名セイロンはインド亜大陸の 東南、インド洋に位置する島国である。面積 漁業の町一一ゴンポ ( スリランカ ) から は北海道の八割ほど、アダムスプリッジと呼ば れる島弧をはさんで南インドのタ、くル・ナドウ 文古川舞写真古川舞、松岡宏大 州と向き合っている。国民の約七割はインドに スリランカのニゴンボではニ 00 五年より日本の円借款による観光 起源を持つアーリア系のシンハラ人であり、約 振興プロジェクトが進行している。国際協力機構の青年海外協力隊 一八 % を占める南インド系のタ、 , 、ル人、約八 % として観光開発に携わる観光学科 on が同地の現状を報告する。 のイスラム教徒などからなる多民族国家であ る。宗教的にはシンハラ人の大半が南方上座 部仏教 ( 小乗仏教 ) 信者である。このためプー 〔現地報告〕 CHINA DIA SRILANKA 15 特集観光グローバル vs. ローカル観光を通じて草の根国際協力

2. 交流文化 volume 08

タンなどの例外を除けば、南アジア唯一の仏教に立ち人らない限り危険にさらされる可能性任地は事実上の首都コロンボから北へ三〇キロ、 圏であり、世界的にも上座部仏教の中心地ではかなり低い。しかし ; TE と政府軍による国際空港から七キロに位置する漁業の町・ニ ある。その他の宗教として、ヒンドウー教、キ三〇年にわたる断続的戦闘状態とテロが、観ゴンボである。漁業に加え、町の北にはリゾー リスト教、イスラム教が存在している。しかし光地・スリランカのイメージに暗い影を落としトホテルが建ち並び、観光産業も盛んである。 複雑な民族構成、宗教事情はかならすしも安ていることは否定できない。現在でも時折流ニゴンボでは二〇〇五年より、日本の円借 定的とは言いかたし れるテロのニュースは「危険な国」というイメー 款による観光振興プロジェクト、 TRIP (Tou 「 ism Resou 「 ces lmp 「 ovement p 「 oje ロ ) か進行中である 六つの世界文化遺産と一つの自然遺産 このプロジェクトはニゴンボの他にも三カ所の スリランカの基本的な産業は、農業と繊維 地方都市でインフラの整備を中心に実施され 製品である。ことにセイロンティーと呼ばれ ており、さらにコロンボとキャンディでは人材 像 る紅茶は有名で、狭い国土ながら中国、イン 以育成のプログラムも行われている キ っ に次ぐ世界第三位の茶生産国である。また ニゴンボでは、魚市場の整備、オランダ統 立 観光も産業上大きな位置を占めている。主 っ治時代から残るハ、 , 、ルトン運河の改修・浚渫、 要な観光地は、文化三角地帯といわれるア 諠市内の景観美化 ( 道路の改修 ) が行われている。 ロ 出 これに付随して、外国人 ( 特に日本人 ) 向けの ヌ一フータフ一フ (Anuradhapu 「 a) 、ポロンナルワ の ン 観光資源の開発や提示・演出の仕方、観光客 (polonna 「 uwa) 、古都キャンディ (Kandy) を結ん グ た一帯と、世界遺産の港湾都市ゴール (Ga11e) 誘致の方法を提案することが私の役割である。 か、らコロンボの南マウント・ラビニア (Mount 漁勤務先はプロジェクト実施機関であるニゴンボ Lavinia) あたりまで延々と続く海浜リゾートで 市役所であり、行政が観光振興のために果た あろう。この一一つの地域を中心に仏教遺跡などジを再認識させ、その払拭は容易なことではすべき役割についての提案も、あわせて期待さ れている。 六つの世界文化遺産と一つの自然遺産が集中し ている。世界的にも例の少ない高水準の観光 漁業の町・ニゴンポ 観光の現状把握 資源の集中度といえよう。 スリランカは概して治安が良く、シンハラ人現在私は国際協力機構の青年海外協力隊員 ニゴンボに赴任し、ます実施したのは観光の とタ、 , 、ル人は共存している。北部の戦闘地域として、スリランカで観光開発に携わっている。現状把握であった。しかしニゴンボにとって観

3. 交流文化 volume 08

にロ 1 津波被災者のために赤十字の資金 で建設されている住宅 2 市役所で行 われたプラスチックゴミ分別セミナー 3 ニゴンポ市役所 4 ビーチに投棄さ れたゴミ 5 ホテルのキッチンに設置さ れたポード「 5S 」 ( 5S とはスリランカの 衛生教育で使われている。日本の言葉 「整理、整頓、清掃、清潔、躾」。学校 や市役所などに書かれているのもよく 見かける )

4. 交流文化 volume 08

交流文化 立教大学観光学部編集表紙写真 / 松岡宏大 C 〇 N T E N T S 02 04 22 28 36 38 40 44 45 特集 観光グロっヾル vs. ローカル Tourism,Global vs. Local ニセコ & ハクバ スキー場のニューカマーが教えてくれたこと 小長谷悠紀 ( 長野大学 ) 現地報告 観光を通じた草の根国際協力 漁業の町ニゴンボ ( スリランカ ) から 古川舞 ( 海外青年協力隊 ) Pie し d note 8 「交流文化」フィールドノート 大学院 GP タイ北部フィールドワーク実習報告 訪日旅行市場の発展段階と誘客活動 中国と台湾での体験論から 平田真幸 ( 日本政府観光局 ( JNTO ) 海外プロモーション部次長 ) 観光における「全体と部分」 小沢健市 読書案内 観光のグローバル化とローカル化をめぐって 『大真面目に休む国ドイツ』『哈日族なせ日本か好きなのか』 学部国際交流の現場から 04 インド観光次官、新座キャンバスへ マラヤ大学と学部間協定を締結 観光教育イニシアテイププログラム 在外研究通信 05 変わるハワイ 庄司貴行

5. 交流文化 volume 08

光は主要産業であるにも関わらす、人込客数、えば今度は書類をなくしてしまったと言う。書大幅に減ると理解していたが、ツアーオペレー ホテル軒数など、基本的統計さえ整備されてい類が手元にあっても健康の問題で記人が難しターとの契約がある比較的大規模なホテルで はツアーの前・後泊などトランジットの宿泊が 宿泊客数なんて数えていないからわからな なかった。市役所は以前ホテルを対象に質問票 、どこの国から来たのかなどお客には聞かなあり、一年を通じて一定の集客があることが明 を配布したとの , ) とだが、四 5 五件しか回収で らかになった。方、ニゴンボの宿泊施設の半 : など彼らの言い分はいくらでもある。し きす、断念してしまったとのことである。 必要なデータを集めるため、市役所同様、かし歩き回って話を聞くうちに顔見知りも増数を占める個人経営のゲストハウスでは、私が 訪問したローシーズンは、全室空室というとこ 質問票を配布したが、回収のために同じ宿泊 ろも少なくなかった。ニゴンボの宿泊施設は経 施設を何度もしつこく訪問することとした。結 営的にも分極化している。 局回収できたのは配布したうちの八割のみで またゲストハウスとひとくくりにしても、そ あったが、それでも五カ月を要した。観光によ れぞれ対応が全く異なるのが面白い。あから る地域振興にとって、観光関連の統計は不可欠 さまに迷惑そうな顔をするところ、経営が苦 であるが、ごく簡単な統計を人手するだけでも、 え しいと言いながらも、紅茶や冷たい飲み物を ニゴンボでは多くの労力と時間が必要である。 ご出して話し相手になってくれるところ、そうか このデータ集めのみで赴任から五カ月が過 の と思えば「うちの息子に日本で働くビザを出 ぎてしまった。宿泊施設は全部で四〇軒ほど 作 ュ シ してくれないか」「部屋の工事をするお金をく 1 レ , 〃ナよ . い 0 ; 調査開始前は一カ月もあれば充分だ れないか」と、こちらの意図を全く理解して と考えていた。非常に非効率なデータ収集で イ ラ くれす、勝手な要求をするところまで様々で はあったが、それなりに得るところも少なく ある。しかしこれらの対話から、ニゴンボの人々 なかった。スリランカで活動することがどうい うことなのかを知ることができたという意味え、様々な立場の地元の人々との関係も出来の本音がかいま見えてくる。 ゲストハウスに限らす会う人会う人が「生 で、この調査から活動を始めたことの意味は上がっていった。ニゴンボの素顔を知るという 活が苦しい。物価は上がるのにこの収人では 点で、この調査は大きな財産となった。 大きかった。 やっていけない。市役所が何もしてくれない」 ホテルのマネージャーにアポイントを取って、 ニゴンボの人々の本音 と口を揃えて言う。それでもあまり悲壮感が 当日にリコンファームをしても、いざ訪問する ないのが不思議だ と出かけていると言われる。やっと会えたと思 当初四 5 一〇月はローシーズンで観光客が 19 特集観光グローバル vs. ローカル観光を通じて草の根国際協力

6. 交流文化 volume 08

必要であると感じている。 を結ぶと信じて続けてい , ) うと考えている ハード中心の観光振興 ただ、私の任期は市役所職員のモチベーショ 青年海外協力隊の観光協力 とはいえ、観光地ニゴンポが抱える間題は明ン向上を待っていてはくれない何とか市役所 白である。観光客の滞在期間を延ばそうと思っの意識改革、モチベーション向上を少しでも進日本では旅行会社で手配の仕事をしていた。 ても、彼らを惹き付ける観光的魅力が、現在めて行かなければならない とはいえ一人での仕事そのものは辛いながらも面白かった。た のニゴンボにはないスリランカ南部のビーチ活動には限界があり、外部に協力者を得て外 オいくつものツアーを同時に担当し、終わっ リゾートに対して、残念ながら優位性を見い たツアーを振り返る間もなく次々と送り出す、 だすことは困難である。それでもニゴンボには という作業が延々と続くことが少し空しくも あった。 他の町にはない特徴がある。カタマラン ( 双胴船 ) での漁業風景はその一つであろう。また八割が ある程度仕事に慣れて来た頃、自分が本 カトリック信徒であるこの町の雰囲気はスリ 当にやりたいことは何なのかを考えてみたと ゴ ランカの他の町とは多少異なっている。こうし き、思いあたったのが海外へ出てみることだっ た特徴を生かしていけば、ニゴンボ独特の魅力 た。その後、たまたま青年海外協力隊に「観 集 をつくり出すことも不可能では無かろう。 、チ光業」の職種を見つけた。協力隊には子供の 一方観光資源開発のみならす、観光地・ニゴ 頃から興味があり、見つけてから応募をする フ ンボの今後の発展は、リゾートエリアの観光産 までは早かった。しかし社会経験は五年弱のみ、 ス 業従事者に加えて、漁業関係者、市街地の商店、 旅行会社勤務とはいえこれまで観光開発に携 テ ホ 住民の協力なくしては実現できない。それら「 わった経験はない。観光開発の知識は大学時 異なる立場の住民を調整する市役所の役割は 代の机上の知識のみであった。全く初めての実 大きい。しかし観光振興プロジェクトの実施機側からも改革を迫る必要がある。現在の私に体験に、焦りばかりが募り、自分の知識不足や 関である市役所の関心は、施設整備などハー できることは、多くの人に会って意図を伝えて欠点を痛感させられる毎日である。しかしニ ド面が中心で、接遇改善、住民意識の改革な いくことである。アポなしで突然おしかけ ゴンボの人々と一緒に、できることから少しす どソフト面の重要性は認識されていない まて自らの素性を語り、少しすっ協力者を増っ進めて行こうと考えている。 す重要な課題は市役所自体の意識改革であろやそうと努力している。まだまだ効果を挙 う。同時に市役所内でのモチベーション向上がげたとは言えないものの、地道な努力が実 4 0

7. 交流文化 volume 08

次号予 2009 年 6 月刊行予定 特集 温泉クロニクル 父流文化 08 2008 年 12 月 25 日発行 発行人 編集人 デザイン 印刷 豊田由貴夫 大橋健一 望月昭秀、戸田寛 こだま印刷株式会社 問い合わせ先 立教大学観光学部 〒 352 ー 8558 埼玉県新座市北野 1 ー 2 ー 26 TEL 048 ー 471 ー 7375 http://www.tr.rikkyo ・ ac. jp * 本誌掲載記事の無断転載を禁じます。 ISBN 4 ー 9902598 ー 5 ー 8 ◎ 2008 Rikkyo University, College ofTourism. printed in Japan. 筆者紹介 ( 50 音順 ) 小沢健市 ( おざわ・けんいち ) 観光学部教授 1998 年 4 月より現職。経済学博士。主な論文に「観光振興によ る経済効果について」『自治体学研究』神奈川県自治総合研究 センター ( 第 94 号、 2007 年 3 月所収 ) 、「観光のインパクトと統 48 スリランカのリゾ - ト地ニゴンボで観光振興に取り組む。 配を担当。 2008 年より国際協力機構の青年海外協力隊に参加。 旅行、視察・研修旅行、スポーツ競技大会観戦ツアーなどの手 務。ヨーロッパ、中東、アフリカを扱う。修学旅行、企業の報償 立教大学観光学部卒業後、 2003 年よりランドオペレーターに勤 青年海外協力隊員 古川舞 ( ふるかわ・まい ) 業モデル ~ 上海市を対象として」。 務めた。近著は「揺籃期市場における訪日旅行商品開発の事 で観光行政・政策、観光マーケティング ( ゼミ ) の非常勤講師も て中央道ツアーの開発・誘致を手掛ける。立教大学観光学部 北海道」、九州テーマパークツアー、 JNTO 上海事務所長とし 修士課程卒業。日本観光協会台湾事務所長として「冬以外の 米国オレゴン大学地理学科、筑波大学教育研究科 ( 地理教育 ) 海外プロモーション部次長 ( アジア担当 ) 日本政府観光局 (JNTO) 平田真幸 ( ひらた・まさき ) ってきた。 ーリズムや先住民運動・環境運動に関する民族誌的調査を行な 地域研究。主にタイ北部の山地民カレン社会のあいだで、エコッ 了。博士 ( 観光学 ) 。専門領域は、文化人類学・観光人類学・タイ 1977 年生まれ。立教大学大学院観光学研究科博士後期課程修 立教大学観光学部プログラム・コーディネーター 須永和博 ( すなが・かずひろ ) メントの研究。 業における新商品開発組織とイノベーション・プロセス・マネジ ーマン・リソース・マネジメント。近年の研究テーマは、観光産 2002 年より現職。専門は産業社会学、経営組織論およびヒュ 観光学部准教授 庄司貴彳テ ( しようじ・たかゆき ) 博士 ( 観光学 ) 。専門は観光・レジャーの文化研究。 り現職。 ( 学部改組前の 2006 年度は産業社会学部助教授 ) 。 後期課程修了後、立教大学観光学部助手をつとめ、 2006 年よ リーアナウンサーを経て、 1998 年立教大学観光学研究科入学。 1989 年立教大学文学部史学科卒業後、岩手放送株式会社、フ 長野大学環境ツーリズム学部准教授 小長谷悠紀にながや・ゆき ) 合観光学会編『新時代の観光』 ( 第 8 章所収 ) 同文舘、 2007 年。 源としての Common P06 Resource の有効利用へ向けて」総 計」『統計』 ( 第 57 巻第 12 号 ) 、 2007 年 12 月所収 ) 、「観光資