タイ北部フィールドワーク実習報告 村上和夫 ( 観光学部 ) 大学院教育改革プログラムにおける海外フィールドワーク教育 多様な学部の出身者や異なる国々の外国人学生が集まる観光学研究科では、観光研究に関する専門知識や研究方法の基盤を初年時に集団で 学ぶ必要がある。それがなければ、学生は学んで来た学問領域の知識や方法を、学ぼうとする観光研究の前提においてしてしまう可能性がある。 ディシプリン型学問の大学院が学部と一貫教育で結ばれ、先端研究の教育が個別に行われるのと異なる点である この点は、フィールドワークにおいても同様である。観光研究が応用領域である場合、それは地域や企業への提案を考察するための機会であっ た。しかし、観光研究では、研究として地域や企業あるいは産業を説明することがまず最初になされなければならない ツーリズム・イノベータの戦略的育成をめざす大学院教育改革プログラムでは、従来に替わるフィールドワークの方法を実践的に検討し大 学院の観光教育に活かすプロジェクトを実施している。以下の事例を次頁より具体的に紹介する。 大学院 23 「交流文化」フィールドノートタイ北部フィールドワーク実習報告
交流文化 立教大学観光学部編集表紙写真 / 松岡宏大 C 〇 N T E N T S 02 04 22 28 36 38 40 44 45 特集 観光グロっヾル vs. ローカル Tourism,Global vs. Local ニセコ & ハクバ スキー場のニューカマーが教えてくれたこと 小長谷悠紀 ( 長野大学 ) 現地報告 観光を通じた草の根国際協力 漁業の町ニゴンボ ( スリランカ ) から 古川舞 ( 海外青年協力隊 ) Pie し d note 8 「交流文化」フィールドノート 大学院 GP タイ北部フィールドワーク実習報告 訪日旅行市場の発展段階と誘客活動 中国と台湾での体験論から 平田真幸 ( 日本政府観光局 ( JNTO ) 海外プロモーション部次長 ) 観光における「全体と部分」 小沢健市 読書案内 観光のグローバル化とローカル化をめぐって 『大真面目に休む国ドイツ』『哈日族なせ日本か好きなのか』 学部国際交流の現場から 04 インド観光次官、新座キャンバスへ マラヤ大学と学部間協定を締結 観光教育イニシアテイププログラム 在外研究通信 05 変わるハワイ 庄司貴行
次号予 2009 年 6 月刊行予定 特集 温泉クロニクル 父流文化 08 2008 年 12 月 25 日発行 発行人 編集人 デザイン 印刷 豊田由貴夫 大橋健一 望月昭秀、戸田寛 こだま印刷株式会社 問い合わせ先 立教大学観光学部 〒 352 ー 8558 埼玉県新座市北野 1 ー 2 ー 26 TEL 048 ー 471 ー 7375 http://www.tr.rikkyo ・ ac. jp * 本誌掲載記事の無断転載を禁じます。 ISBN 4 ー 9902598 ー 5 ー 8 ◎ 2008 Rikkyo University, College ofTourism. printed in Japan. 筆者紹介 ( 50 音順 ) 小沢健市 ( おざわ・けんいち ) 観光学部教授 1998 年 4 月より現職。経済学博士。主な論文に「観光振興によ る経済効果について」『自治体学研究』神奈川県自治総合研究 センター ( 第 94 号、 2007 年 3 月所収 ) 、「観光のインパクトと統 48 スリランカのリゾ - ト地ニゴンボで観光振興に取り組む。 配を担当。 2008 年より国際協力機構の青年海外協力隊に参加。 旅行、視察・研修旅行、スポーツ競技大会観戦ツアーなどの手 務。ヨーロッパ、中東、アフリカを扱う。修学旅行、企業の報償 立教大学観光学部卒業後、 2003 年よりランドオペレーターに勤 青年海外協力隊員 古川舞 ( ふるかわ・まい ) 業モデル ~ 上海市を対象として」。 務めた。近著は「揺籃期市場における訪日旅行商品開発の事 で観光行政・政策、観光マーケティング ( ゼミ ) の非常勤講師も て中央道ツアーの開発・誘致を手掛ける。立教大学観光学部 北海道」、九州テーマパークツアー、 JNTO 上海事務所長とし 修士課程卒業。日本観光協会台湾事務所長として「冬以外の 米国オレゴン大学地理学科、筑波大学教育研究科 ( 地理教育 ) 海外プロモーション部次長 ( アジア担当 ) 日本政府観光局 (JNTO) 平田真幸 ( ひらた・まさき ) ってきた。 ーリズムや先住民運動・環境運動に関する民族誌的調査を行な 地域研究。主にタイ北部の山地民カレン社会のあいだで、エコッ 了。博士 ( 観光学 ) 。専門領域は、文化人類学・観光人類学・タイ 1977 年生まれ。立教大学大学院観光学研究科博士後期課程修 立教大学観光学部プログラム・コーディネーター 須永和博 ( すなが・かずひろ ) メントの研究。 業における新商品開発組織とイノベーション・プロセス・マネジ ーマン・リソース・マネジメント。近年の研究テーマは、観光産 2002 年より現職。専門は産業社会学、経営組織論およびヒュ 観光学部准教授 庄司貴彳テ ( しようじ・たかゆき ) 博士 ( 観光学 ) 。専門は観光・レジャーの文化研究。 り現職。 ( 学部改組前の 2006 年度は産業社会学部助教授 ) 。 後期課程修了後、立教大学観光学部助手をつとめ、 2006 年よ リーアナウンサーを経て、 1998 年立教大学観光学研究科入学。 1989 年立教大学文学部史学科卒業後、岩手放送株式会社、フ 長野大学環境ツーリズム学部准教授 小長谷悠紀にながや・ゆき ) 合観光学会編『新時代の観光』 ( 第 8 章所収 ) 同文舘、 2007 年。 源としての Common P06 Resource の有効利用へ向けて」総 計」『統計』 ( 第 57 巻第 12 号 ) 、 2007 年 12 月所収 ) 、「観光資
観光人類学とフィールドワーク 須、水和博 ( 観光学部プログラム・コーディネイター ) 観光が地域社会にもたらす影響は、経済的側面のみならす、社会的・化をもった、カレン、モン、ラフ、アカ、リス、、 , 、エンなど、一般に「山 文化的・政治的側面など、非常に多岐にわたる。 , ) うした観光がも 地民」と呼ばれる少数民族が暮らしている。特に、山地民の色鮮や たらす様々な影響について、多様な側面から総体的に明らかにする学かな民族衣装は、平地に暮らすタイ系民族との差異を強調する際に 間が、観光人類学である。観光人類学の最も特徴的な点は、調査対しばしば言及される。こうした山地民の固有の生活文化や民族衣装は、 象とする社会における長期間の綿密なフィールドワークである。実際 1970 年代以来、先進諸国のツーリストを惹きつけており、トレッ に研究対象となる人々のなかに人り込んで調査を行い、文献調査、 一 = たキング・ツアーと呼ばれる、山地の村々を訪ね歩くエスニック・ツー けでは得られない、五感を通したみすからの体験を学間的分析の基 リズムが盛んである。現在では「山地民」は、タイ北部を紹介するガ 礎におく調査法。それが観光人類学を特徴づけている、フィールドワー イドブックや観光ポスターには欠かせない観光資源ともなっている クと呼ばれる調査法である。 我々は、こうした観光化が山地民社会に与える影響について考える こうした調査法は、教室内の座学で学習するだけでは不十分である。 ために、タイ北部の山地民村落を訪間した。 むしろ実際に観光の現場へ出かけていき、現地の人々の声に耳を傾け、 山地の村でのフィールドワーク 様々な現象を観察し、時にはそれに参加し、考察するといった現場で の経験が不可欠である。 最初に訪れたのは、タイ北西部、 , 、ヤンマー国境に位置しているメー 観光学研究科では、文部科学省大学院教育改革プログラムに採択ホンソン県のカヤン族と呼ばれる人々の集落である。カヤンは、俗に「首 された「ツーリズム・イノベーターの戦略的育成」プロジェクトの一長族」とも呼ばれ、一部の女性が首に真鍮を巻きつけることで知られ 環として、博士前期課程の大学院生 6 名を対象に、 2008 年 1 月ている。その視覚的な他者性から多くのツーリストを惹きつけ、この 日 52 月 5 日にかけて、タイ北部チェンマイ県・メーホンソン県にお村にも数多くのツーリストが訪れる。このカヤンの観光化については、 いて、フィールドワーク実習を行なった。 彼らが、 , 、ヤンマーの政情不安からタイ側に逃れてきたある種の「難民」 であることも手伝って、しばしば「人間動物園 (human zoo ) 」と批判 タイ北部とい一つフィールド されてきた。つまり、カヤンの人々は、一方的にツーリストのまなざ タイ北部の山間部には、多数派のタイ系民族とは異なる独自の文しにさらされ、カヤンの人々の主体性が抑圧されているというのであ 4 っ乙
マラヤ大学と学部間協定を締結 20087.17 クアラルンフル 光学部はマレーシアのマラヤ大学人文社会 学部および言語学部との間で学部間協定 を締結し、二〇〇八年七月一七日ホー・コ クチュン高等教育省副大臣臨席の下、クアラルンプル のマラヤ大で豊田由貴夫学部長が協定書に署名した。 クアラルンプルの郊外に立地するマラヤ大学は、 一九四九年に設置された同国最古の大学でその前身は 一九〇五年にまでさかのばる。現在では一二学部、学 生数一一七〇〇〇名を誇る、同国屈指の有力大学である。 観光学部と同大学人文社会学部および言語学部との 間では、交換留学、教員の研究交流をはじめ、セ、 , 、 ナーの共催など広範な共同プログラムの展開が予定 されている。また今回の協定に基づき、経済産業省 と文部科学省が進める「アジア人財資金構想」の枠 組みを活用し、同大学学生が立教大学に留学し卒業後、 日本で就職するプログラムも提供する予定である。 今回の協定締結で、先に提携したマレーシア科学 大学 (USM 、ペナン州所在 ) とあわせて、観光学部は マレーシアの社会人文系、工学系双方の最高学府と の交流プログラムを樹立したことになる。マラヤ大 学とは相互留学を含めた学生交換と社会科学・人文 科学部門での研究協力が期待され、マレーシア科学 大学との間では観光計画、地域開発など観光プラン ニングを中心とする研究協力を強力に推し進めてい くこととなった。 マラヤ大学で協定書に署名する豊田由貴夫学部長 つ」 4
立教大学観光学部 観光学科 / 交流文化学科 立教大学観光学部は 2006 年 4 月、これまでの観光学科に加え、 交流文化学科を新設し、 2 学科体制に移行しました。フィール ドを世界に拡げ、リアリティに満ちた学びの場を提供するオン リーワンの観光教育を目指します。 あ 4 第ー 学部の紹介や入学案内については http://www.tr.rikkyo.ac ・ jp 立教大学観光学部 〒 352-8558 埼玉県新座市北野 1 ー 2 ー 26 TEL 048 一 471-7375
観光教育イニシアプフログラム Tourism Education lnitiative at Rikkyo 亠教大学観光学部は 2007 年度後期より経済 2 年 6 カ月間 ) 観光に関する専門知識と実務に関する知 産業省と文部科学省が共催して実施するア 識、さらには日本企業で活躍するためのビジネス日本語 や日本ビジネスの知識について立教大学で学びます。 ジア人財資金構想に ( 株 ) ジェイティービー ( 株 ) 日本航空、 ( 社 ) 日本ツーリズム産業団体連合会、 外国人留学生だけを隔離する形で授業を行なうこと は必すしも効果的であるとは考えられませんので、一般 そして、日本スターウッド・ホテル ( 株 ) と共に「観光教 の日本人学生の中から本プロ 育イニシアティブ」コンソーシ グラムに強い関心を抱く優秀 アムを形成し参加しています。 これは、優秀な外国人人財が な学生を選抜し、留学生の相 談にのりながら互いに切磋琢 日本の観光業界の中枢で活 磨し共に学ぶことができる学 躍することを目指し、企業と大 生をメンター学生として採用 学が共同して外国人留学生 し受講させています。現在は を育成する産学共同プロジェ 観光学部所属の学生のみか クトです。国費留学生として ら採用していますが、本プロ 採用される本プログラム参加 グラムにメンター学生として 留学生は、日本企業あるいは 是非とも参加したいという他 日系企業に就職することを前 学部の学生さんたちにも可能 提としているため、従来の日 ならば募集範囲を拡大してい 本政府支給国費留学生とは くことを検討しています。 異なり、プログラム修了後の このアジア人財資金構想 帰国や進学は原則的に認め のプログラムは 2011 年度ま られていません。 で続きますが、その 採用に当たっては、立教大 後は各コンソーシア 学観光学部の教員がアジア ムのプロジェクトが 各地を訪れ、学部間協定校から推薦を受けた応募者を 事業として自立する 面接した上で本プログラムへの参加意欲の強さや日本 ことを求められてお 企業への就職意思を確認し、日本語運用能力や学業の り、何らかの形で、本 総合成績、さらには、日本企業での就労適合性などの プログラムの実施を 観点から評価・選考したうえで文科省へ政府支給国費 留学生の候補者として推薦します。国費留学生として採 通して得た利点やノ ウハウを大学の中で活用できるようにしていきたいと 用された優秀な留学生は試験を経た上で学部編入生あ 考えておりますので、皆様御協力の程宜しくお願い申し るいは博士課程前期課程大学院生として 2 年間 ( 大学 上げます。 院生の場合は特別外国人学生としての半年間を含めて 44
4 学部国際交流の現場か このコーナーでは観光学部が行う国際交流の現場を随時報告していきます。 、り へ ス ン ャ キ 座 次 観 ン イ 本とインドの観光交流は古くは官 (p 「 incipal s 。。「ミ「 y ) バルマ女史 (Ms. Rasl 】 imi 日本人バックパッカーの聖地と ve 「 (a) の訪日もその支援活動の一環として の技術協力により実施された して、また、仏教徒にとっては 次官の本学への訪問目的は日本の学生世代 お釈迦様の聖地として広く認知されてきた が、近年は特に経済交流の隆盛に伴いビジネのインドへのイメージや旅行の実態の聞きと ス客が大幅に増加している。そのような背り調査、さらにインドの高等教育機関での観 景のなか、インド・シン首相と元小泉首相光教育において立教大学観光学部のカリキュ との間で観光分野における日本の支援が約東ラムや授業内容を参考としたい旨であった。 ・、ール州観光次観光学部生のなかには既にインドの旅行経 され、今回のインド観光省ヒノ 験があり、世界遺産や人々のやさしさなどに感 動した反面、インフラの整備や環境、衛生事 情、治安間題などにまだまだ多くの課題があ ることが指摘された。他方、未経験者のなかに は憧れの一方で「インド人はお風呂に人るか ? 」 などという素朴な疑間や食事などへの不安が発 せられ、次官の適切なアド。ハイスが述べられた。 観光次官は学生から日本の若い世代が持っ 史インドのイメージ ( 誤解から生じる悪い印象も 女 マ 含め ) がよく把握できたので今後のプロモー ション戦略の参考とするという意見とともに 次 インドの観光教育においても立教の観光学 州 部を参考とし、職業訓練的な教育に偏重せす、 よりアカデ、 , 、ツクかっ総合的なカリキュラム 省 観を目指したいという積極的な発言が行われた ン ( 國玉勝一 ) 。 4
交流文化 観光グローバル vs. ローカル 一まを 立教大学観光学部編集 特集
ISBN 4 ー 9902598 ー 5 ー 8 〔化 08 ◎ 288 学観光学部 . 聞 D. ÅNGG\JNG