琵琶湖で進化した生き物たち ゆうしゅ 琵琶湖の生物相の特徴は、固有種が多く タモロコ ( 岡山県産 ) 含まれていることです。固有種の多くは、 G 宿 0 0 内 00 宿 d020 ー 西日本にひろく生患する種です。 沖合いと岩礁という琵琶湖に新しくできた 環境にうまく適応して生活しています。 これに対して、入り 江や内湖、クリークや 河川には、固有種の近 タモロコ ( 琵琶湖産 ) 縁種がすんでいます。 G れ“ 0 ′ on e10 00 ー 琵琶湖のタモロコは、ほかの地域の ものに比べ、ホンモロコよりはっきり と区別できます。内湖や周囲のクリーク にすんでいて、底生動物などを食べ ています。 分化・進化 タモロコは、琵琶湖で沖合型の 固有種ホンモロコとヨシ帯型の タモロコとに分化し、 湖の中ですみ分けています。 ホンモロコ ( 琵琶湖産 ) G 0 内 00 れ 0 住を川“を 琵琶湖にしかいません。沖合で動物 プランクトンを食べて生活していま す。産卵期には、ヨシのしげる内湖や ないわん 内湾に群れをなしておしよせ、ヤナギ の根などに卵を産みつけます。 琵琶湖で進化した生き物たち 100 万年ほど前、今の琵琶湖を中心とした近江盆地が沈降域になり、土 砂がたまるようになりました。当時はまだ大きな湖がなく、今の堅田丘陵 あたりに沼沢のような小さな湖ができました。この湖を堅田湖と呼んでい ます。 40 万年ほど前から、湖西の山地にそった断層の活動が活発になり、比良 山や比叡山が高くなりました。それと同時に琵琶湖の地域が沈みだし、広 くて深い琵琶湖ができました。新しい環境の出現によって、琵琶湖だけに すむ固有種が進化しました。 魚類の固有種とその近縁種 固有種 近縁種 ビワマス アマゴ ワタカ ホンモロコ カワヒガイ ビワヒガイ カワヒガイ スゴモロコ コウライモロコ ニゴロブナ ゲンゴロウブナ イワトコナマズ ウッセミカジカ イサザ タモロコ アプラヒガイ ギンブナ ギンブナ ナマズ ナマズ カジカ ビワコオオナマズ ハス 近縁種をもたない魚たち およそ 40 万年前の古琵琶湖 ( 堅田湖 ) には、ワタカの仲間や直接の祖先種がすん でいましたが、現在は絶滅してしまい、近くの水系にも分布していません。 みかた ハスは、三方湖にも生息しているため、琵琶湖の固有種とはいいませんが、ハス 属は琵琶湖と三方湖以外では日本に生息せず、大陸にしか分布していません。 これらの魚たちは、広く分布していたものが、その後に起こった様々な環境の変 化によって他の地域から姿を消したのでしよう。 ウキゴリ ワタカ ー 24 -
ゆうしゅ 内湖の魚と琵琶湖の固有種 琵琶湖にしかすんでいない固有種とよばれる魚は現在 14 種類が知られています。 固有種の多くは琵琶湖の岩場や沖合いで生活していますが、これらの内、ホンモロ コやニゴロブナ・イサザは、内湖・ヨシ原におもにすんでいるタモロコやギンブナ・ ウキゴリと祖先を同じくする近縁種です。 《琵琶湖の固有種 ( 亜種 ) 》 ホンモロコ イサザ ニゴロブナ ゲンゴロウブナ 《内湖にすむ近縁種》 タモロコ ウキ ギンブナ 固有種とその近縁種の関係 ) 内湖・ヨシ原の漁法 春から初夏にかけておもにコイ科 魚類の産卵期をむかえます。ふだん 沖合いで生活しているホンモロコや ニゴロブナ・ゲンゴロウブナが産卵 のためにヨシや水草の茂った岸辺に やってきます。これらの魚をねらっ てタッペ漁や小糸網漁などさまざま な漁が行われます。 小糸網漁 ー 109 ー
琵琶湖の主ビワコオオナマズ ビワコオオナマズは琵琶湖の北部に広がる岩礁地帯をおもにすみかとしています。 この魚は夜行性で、昼間は岩陰に潜んでいて、夜間に泳ぎ出てホンモロコやビワマ スなどをおそって食べます。 このように琵琶湖沖合いにも暖かい表層と冷 たい深層の 2 つの異なる環境があります。また、 湖段とよばれる沿岸と沖合いの深みに棚があり、 それぞれに異なった生き物が生息しています。 これらの環境中で、沖合いの表層にはゲンゴロ ウブナやコアユが群れで生活しています。また、 沖合いの深層にはイサザやビワマスが分布し、 湖段にはホンモロコやニゴロブナといった固有 種がすんでいます。 琵琶湖北部の竹生島周辺の岩礁地帯 日本で最大のナマズ ビワコオオナマズは琵琶湖だけにすんでいる 日本で最大のナマズです。成長すると全長 120cm 、 体重 20kg 以上になります。日本にはこのほかに 琵琶湖にだけすんでいるイワトコナマズと全国 に広く分布するナマズの 3 種のナマズがいますが、 ビワコオオナマズは他の 2 種にくらべて全長で約 2 倍の大きさがあります。 産卵するビワコオオナマズ ナマズ ビワコオオナマズの産卵 ふだん岩場にすむビワコオオナマズ も、 5 月から 7 月の産卵期には大雨が 降ったあとに岸辺の浅瀬に押し寄せて 真夜中に産卵します。 ビワコオオナマズの稚魚
せんしん 鮮新・更新世 5 圓 ~ 30 万年前 古琵琶湖と中国には 同じ魚たちが すんて・いました 中 国 日本 コイ類 クルター類 クセノキプリス類 日本にクルター類の ワタカの祖先が あらわれました コイ類 クルター類 クセノキプリス類 9 せんしんせい 鮮新世のはじめや * 河期に、人陸と 日本列島はつながりました コイ類ま見 在 日 本 中 国 類 ス キ ノ ク 0 日本ではワタカだけ尓 生き残りました コイ類 クルター類 クセノキプリス類 コイ類 クルター類 クセノキプリス類 中国て・はたくさんの 種類に分小れ、 繁栄しています 0 日本てはすべて せっ′ , つ 絶滅しました クルター類 クセノキプリス属 いんとうし 咽頭歯 コイ科の魚たちは、あごに歯がないかわりにのどに歯 があります。これを咽頭歯 ( 黄色 ) と呼びます。 咽頭歯の形の特徴から、その歯をもっていた魚の種類 を決めることができます。 ( ホンモロコの稚魚、体長約 lcm ) カマッカ亜科ワタカ属メガロプラーマ属 コイ科魚類の咽頭歯化石
岩場から沖合にすむ魚たち 琵琶湖の沖合には、水深が 70m 以上もある深い水域が広がっています。また、琵 琶湖の北には岩礁地帯が発達しています。ビワマス・ホンモロコ・ゲンゴロウブナ・ ニゴロブナやビワコオオナマズなどの固有種の多くはここをすみかにしています。 冲合の水温分布と魚たち 10 10 水深 (m) 40 巧 加 25 30 沖の白 / 多景島 北 竹生島 沖島 堅田 0 南湖 大津 8 月 産根 琵琶湖の等深線 コアユ ゲンゴロウブナ 夏・冬の水温分布の違い イサザ 岩場にはビワコオオナマズ・イワトコナマ ズ・アプラヒガイなどの固有種がひそんでい ます。これらの沖合いや岩場で生活する魚た ちも、産卵期には岸辺にやってきてヨシや小 石などに卵を産みつけます。 産卵するイサザ 琵琶湖の沖合いは 70m から 100m の水深があります。夏には温かい 水と冷たい水が表層と深層にわか れるため、表面は暖かくても深く なるにしたがってしだいに水温が 低下します。水深 15m より浅い表 層では 20 ℃から 28 ℃、水深 20m よ り深い層では 8 ℃から 15 ℃と水温 が大きく異なります。 ビワコオオナマズ イワトコナマズ アプラヒガイ ー 1 1 0 ー
琵琶湖の小さな生き物 琵琶湖にはコイやフナなどの大型の 魚たち以外に、ボテジャコとよばれる タナゴの仲間やメダカなどの小さな魚 あるいは貝類・エビ類など小さな生き 物がたくさんすんでいます。また、巣 をつくるかわった習性をもっ魚たちゃ 最近琵琶湖へ移りすんだ移入種なども います。 琵琶湖の岸辺 琵琶湖の岸辺の生き物 琵琶湖の岸辺には、メダカやウキゴリ・カワバタモロコなどの小さな魚たちゃ、テナガェビやスジェ ビなどのェビの仲間、あるいはヒメタニシ・オオタニシなどの巻き貝の仲間がすんでいます。 岸辺は小さな生き物のすみか ヨシや水草の茂る岸辺は姿を隠すところが多 く、また、餌となる生物も豊富で多種多様な生 きものがたくさん見られます。しかし、最近メ ダカやカワバタモロコなどの小魚たちは岸辺の 環境変化などで琵琶湖ではほとんど見られなく なってしまいました。 編を一 メダカ カワバタモロコ タニシの仲間にも見られる変化 淡水の貝としてはなじみ深いタニシの仲間に は、オオタニシ・マルタニシ・ナガタニシとヒ メタニシの 4 種が琵琶湖に分布しています。し かし、オオタニシやマルタニシ・ナガタニシの 3 種は、琵琶湖ではほとんど見られなくなりま した。かって岸辺では目立たなかったヒメタニ シが、琵琶湖のいたるところで増えています。 琵琶湖固有の小さな生き物 アプラヒガイやビワヒガイ・ウッセミカジカ・ホンモロコなどの魚たちやイケチョウガイやササノハ ガイ・セタシジミなどの二枚貝は琵琶湖固有の生き物です。 ビワヒガイ アプラヒガイ の の マルタニ 、ノ ナガタニシ オオタニシ ヒメタニ ン ウッセミカジカ セタシジミ ー 1 1 4 ー
琵琶湖の変化 みなさんもよくご存じのように、匕 琶湖をとりまく環境は、ここ数十年に わたって大きく変化してきました。わ たしたちの行為が、湖岸や水質を変化 させているのです。また、そのような 変化にともなって、もともと琵琶湖に すんでいた生き物たちのなかには、数 が減ったものがいくつも見られます。 いっぽうで、数を増やした生き物もい ます。さらに、琵琶湖にそれまですん カましハらレ、しゅ でいなかった生き物 ( = 外来種 ) の中 せ・レ、たレ、けし・、 にも、数を増やし、生態系の中で重要 な位置を占めるようになっているもの がいます。 ここではできるだけ新しい情報を取 湖岸の変化 自然湖岸・ヨシ帯の減少 人工湖岸の増加 「環境」 へった 生き物 、岸の群落 水産生物 セタシジミ イケチョウガイ ホンモロコ ニゴロブナ イサザ り入れるように努力しました。しかし、 わたしたちが引き起こしてきた変化は、 自然のゆるやかな変化と比べてあまり にも急速です。したがって、今、見ら れる琵琶湖の生態系は、決して安定し た状態ではないと思われます。さらに 今後もいろいろな生き物が琵琶湖に侵 入してしまうことでしよう。ですから、 ここで示した内容には、すぐに「古く」 なってしまうものがいくつも含まれて いるはずです。何か新しい「変化」に 気づかれた方は、ぜひお知らせくださ い。みなさんひとりひとりの目による 発見が、新しい大きな変化を見つける ことになるかもしれません。 水質の変化 河川からの栄養塩類の流入 「富栄養化」の傾向 外来種の侵入 意図的な導入・放流 不測の随伴・混入 ・生態系の変化 ふえた 在来種生き物 カワウ ュスリカ類 外来動物 プランクトンオオクチバス 大量発生 プルーギル アオコ・赤潮ヌマチチプ カワヒバリガイ 外来植物 オオカナダモ コカナダモ ー 102 ー
琵琶湖の魚たちとそのすみか 琵琶湖の環境は周辺に点在す る内湖やヨシ原と沖合の深い水 域に大きく 2 つに分けることが できます。内湖やヨシ原にはギ ンブナやタモロコ・ナマズなど 琵琶湖以外にも生息する淡水魚 の多くが生活しているのに対し、 岩場から沖合いにはビワコオオ ナマズやニゴロブナ・ホンモロ コなどの固有種がおもに生活し ています。 琵琶湖の沖合にある白石 周辺の水深は 60 ~ 80m に達する 季、ー 1 西の湖のヨシ帯 琵琶湖や田んぼの小川など私たちに身近な水辺は、ヨシが生えていたり砂浜であっ たり、深くて広いところや流れが速い場所などさまざまな環境があります。そこに はそれぞれの環境にうまく適応して生活している魚や昆虫など多くの生き物を見る ことができます。また、淡水の生き物は、私たちの身近で生活しているため、なじ み深いものが多いのですが、その一方で、身近な環境は、人の手が加わりやすく、 すみ場が奪われるなどして少なくなり、絶滅の危機にさらされているものが少なく ありません。 ー 1 07 ー
あどがわ きたふなき 北船木 ( 安曇川町 ) 漁師の一年 ~ 漁カセギと祭り ~ ⑩カットリヤナの大正月 ①仕こみ祝い カットリヤナをつくることをシコミ ( 仕こみ ) 、またはヤナジコミといい 耒のヤナ組では、毎年、大 ます。支流の北川筋のヤナは、規模も小さいので暮れのうちに終了しますが、 正月の三が日、ヤナ係がカットリ 本流の南川筋は年が明けた 1 月 8 日すぎから始まります。その期間は、ミズ おみき ヤナのカットリ口に鏡と御神酒 キリ ( 水切り ) といって、ヤナの上で川の流れをせき止めます。以前は、南 をそなえて年神まつります。 川の場合、作業に 1 カ月はかかりました。 シコミが終了すると、昔からのしきたりで、シコミ祝いのふるまいが行 ひるめし われます。以前はヤナ小屋の前の広場にむしろをしき、酒と魚と昼飯が出 さかな ました。肴は小魚のつくだ煮と酒かす汁でした。 ひもと ひもむす 紐解き紐結 とお神応を供えた正月のカットリヤナ いせまい の伊勢参り ばんわけよかわざ 3 月 1 日には番分 ( 四河座が 1 年で交互に漁をするための順番を決める ) を うじがみおひやくとう 行い、氏神に御百灯をあげます。明治維新以前には、番分に先だって、「紐解 ぎしきわかみや げんりやく き紐結び」の儀式が若宮神社で行われました。これは、元暦元年 ( 1184 年 ) に あどがわみくりやせんじ 安曇川御厨へ宣旨がくだされて以来、行われてきました。伊賀番が宣旨の 四河座では、戦前まで、 1 月 7 日 ひつぎ おさめられた櫃の紐を解き、参列者一同で拝します。つぎに、南番がおさ に伊勢神宮へ使いを送る行事があ めて櫃の紐を結びます。 りました。これは、その年の豊漁 と村内安全を祈願するためです。 代参者はかならず、塩づけの「あ じうのうきん めのうお」と亠納金を持っていき さんにち きたふなき 北船木の漁業スケジュ ー丿レ アメノウォ 安曇川 南川 琵 琶 北川 南川 カットリヤナの大正月 1 月四河の勢参り 仕込み祝い 2 月 立神事 5 月” 湯立神事 6 月 9 月 10 月 11 月 12 月 シシ、、、ヒキ アユのほか、イサザ、エビ、モロコ 解き損結び オイサテ 】アユのほか、ハス、ウグイ“アメノウォ . ( 四ッ手組 ) ア ュ・ モロコ、フナ、コイ、ハス二ワタカ】 カットリヤナ ア・ ュ・ コイトア、、、 ハリアミ ( ハリヤナ ) オキ・スクイ ハス、アメノウォ ハス、モロコ一 ・ ( エリ組 ) 〕 ( 村の共有、ヤナ組 ) 立神事 安曇川載退祭 ハリアミ ( ハリヤナ ) シジミヒ・キ 金比樂 ー 50 ー
よみがえれ ! 日本の淡水 身近な淡水魚には、めつきり減ってしまったり、絶滅の危機に瀕しているものが 少なくありません。また、天然記念物の指定を受けている種類も多く絶滅が心配さ れています。 少なくなった淡水魚 日本の淡水魚の中で、かっては比較的多く見ら れた魚でも、イトウやオヤニラミ ッポン / ヾラ タナゴなどの魚たちは、現在ではほとんど見られ ずその姿を消しつつあります。 オヤニラミ ヒナモロコ ニッポンバラタナゴ イトウ 保護の必要な淡水魚 ( 天然記念物 ) 学術上貴重なため、法律によっ て保護することが決められている 種類が天然記念物です。ミヤコタ ナゴ・イタセンパラ・アユモドキ・ ネコギギなどは天然記念物に指定 されています。 滅んでしまった魚 クニマスは秋田県の田沢湖にだ けすんでいたサケ科の魚です。 1940 年に発電のために田沢湖に引かれ た水が強い酸性であったため、水 質が悪くなり滅びました。 保護と増殖 淡水にすむ生き物たちの中には、すんでいる環境が悪化して 産卵場がなくなったり、他から入ってきた魚に食べられるなど して急激に少なくなった種類がたくさんいます。私たちにとっ て、これらの魚たちの生息環境を守ったり、改善するなどして 保護することは大切な活動の 1 つです。 ウシモッゴ アユモドキ イタセンバラ ネコギギ ウま庫水に水や滅 ゲ頃兵きどき薬て ト年と湧な湧農っ 、よた は部のぼ ョ四西りんたりにし ミ、南た田したどま トで市あやまつない ミ魚都町池いなてま ナの京上るでく立し ミ科は氷あんなめで オで県のすが埋ん クニマス 秋田県田沢湖町教育委員会協力 ミナミトミョ 生息地の調査 ー 1 22 ー