とうに数々の有害物質が無害になるのか。私たち見学者たちからはいろいろと質問が出た。小型の設備を顧 客の排出源に設置して処理を行うことが特徴で、「そんな小規模施設で採算がとれるのか、との質問も出た。 また、「分解の結果、二酸化炭素は排出されない」とされていたが、金属を溶かすために大量のエネルギ 1 を使うわけだから、熱源からの二酸化炭素の排出は、石油や石炭などの化石燃料を使う限りは避けられない 「ほんとうに、 0 による処理からは廃棄物が出ないのか」というⅢ リいには、「現段階では、排気ガスが 発生しているため処理装置 (scrubbe 「 ) を使用している」ということで、焼却灰も出ているとのことだった。 シャッテン氏は、「実証運転の進捗は少し遅い (going slowly) 」とコメントしていた。私たちは、魔法のよ うな話を聞きつつ、いくばくか腑に落ちない気持ちを抱いて、モルテン・メタル・テクノロジ 1 社の実証プ ラントを後にした。 その後の経過をみると、同社では九五年から九六年にかけて、第一号および第二号の本格的な商業べース のプラントが稼働した。また、九六年初頭には日本企業二社とも家庭ごみ焼却灰の処理を目的とする合弁企 業を設立したという。だが、九七年半ばに到るまで、同社の経営は必ずしもうまくいっていない。九六年度 ( 九六年一二月期 ) の業績は、当初見込を下回り、六一二〇万ドルの純損失を計上した。九七年一月—六月 も半期で四九三〇万ドルもの純損失を出している。 今や、技術を使ったビジネスの成功可能性については悲観的な見方が大勢になっている。一時は三 〇ドル台に達していた同社の株価は、九七年一〇月一〇日現在、六ドルを切っている。廃棄物を魔法のよう に無害化処理することはやはり容易なことではなかったようた。しかし、学生が開発した技術をもとに設立 した企業が、数年で株式店頭公開してしまうところに、アメリカの若い頭脳の凄さを見ることができる。そ 114
[ 著者略歴 ] 森哲郎 ( もりてつろう ) 四引年福岡生まれ。東京外国語大学中国語学科卒業後、東洋経済新報 社に入ネ土週刊東洋経済や会社四季報などの記者として欧州・アジアの 経済、土兤嵬竟問題、廃棄物問題、企業の環境対策、コンビューター業 界などについての記事を勃筆。データバンクでは海外進出企業などの調 査を担当。 円 93 年 8 月 ~ 95 年 5 月フルプライト奨学生として米国・エール大学林学 環境学スクール修士課程に留学。 円 96 年月から株式会社 KPMG センチュリー審査登録機構環境審査 部に勤務。国ド環境規格である旧 0 000 関連の業務に従事。 著書「土環境の事典」 ( 共著、三省堂、円 92 年 ) アメリカの環境スクールーー開かれた教育システムの体験 OMORI Tetsuro 円 98 初版発行ーーー - ー 1998 年 1 月 10 日 森哲郎 鈴木荘夫 株式会社大修館書店 〒田ト 8466 東京都千代田区神田錦町 3-24 電話 03 ー 3295 ー 62 引倶及売部 ) 03 ー 3294 ー 2355 併部 ) 振替 0 田 90 ー 7 ー 40504 ー、ド川牙勝攵 装丁者 三松堂印刷 印刷所 製本所ーーーー関山製本 ISBN4 ー 469 ー 24420 ー 1 Printed in Japan 本書の全部または一部を無断で複写複製 ( コヒ。ー ) することは , 著作権法での例外を除き禁しられています。 著発発
川章一修士プロジェクトへ結実〔会年春学期〕 川・ 1 思い切った挑戦に辛勝 ! ーー数理経済学Ⅱ 川・ 2 環境ーーー行政・企業の管理 川・ 3 文明・文化を論じたーー社会理論と環境 川・ 4 ノードハウス教授は名教師ーーーマクロ経済学 川・ 5 自分にしては上出来ーー資源経済学の修士プロジェクト 川・ 6 収穫大きかった二年間 ☆コラム私の修士プロジェクト論文の概要 Ⅱ章一環境スク 1 ルは役に立つか 卒業生たちの意見 「ほ , ル ) 、つにい ) し学校」ーークリスティン ( アメリカ ) / 「講義も、図書館も、クラ スメートもすばらしい リコ ( プラジル ) / 「学生はお客」に好感 ック ( デンマーク ) / に「理論と実務のジレンマ」を感じたーーーマイク ( ア メリカ ) / 「多くの点で不満」 アイシャ ( アメリカ ) / エールで得た知識・経験 ・人脈を活用ーーー阿部さん 卒業生の進路 ・ 3 コーホン・スクール長に聞く 11 11 187 200 170 ロ 5 187 162
を襲う地球環境間題」といった内容の記事を書いた。 社会主義経済の企業と同しように、多くの自然環境は「みんなのもの」であり、つまり「環境は誰のもの でもない という点がやっかいだった。誰のものでもないからこそ、保全が難しい。例えば、二酸化炭素の 捨て場所としての大気圏や、汚水の捨て場所としての海洋などは、誰のものでもないから汚染物質が野放図 に捨てられやすい。環境経済学によると、人類全体で共有している地球環境は「国際公共財」とされ、河川 など地域の環境も「公共財」だ。公共財は、①財やサービスの消費に対して料金を払わない人をその消費か という一一 也の人の財の消費量を減少させない、 ら効率良く排除できないし、②ある人の財の消費量の増加がイ つの性質を持っという。公的権力などで規制しない限りは、汚染物質は「捨て得」となってしまうわけで、 この問題の解決は難しそうだった。 留学への挑戦を決意 記事を書くうちに環境問題に対する興味がさらに深まった。環境問題に関するイベントへの参加の機会も 増えた。九〇年には、企業と協力して環境問題に取り組む ( 非営利組織 ) であるバルディ 1 ズ研究会 の設立準備の活動に参加した。バルディーズ研究会は、企業と市民が協力しながら環境問題に取り組むこと を目的として九一年に設立された。会の名前は、企業の環境原則である「バルディーズ原則」に由来する。 また、九一年に設立された、企業などの環境監査を研究する環境監査研究会というグル 1 プにも参加し、環 境監査に関する書籍の出版プロジェクトに参加させてもらった。 個人的な生活にも、「環境趣味」が入り込んた。いっからか、私は割り箸節約のために箸箱を持ち歩くこ 8
とも多くなった。デパ 1 トに惣菜を買いに行くのに、時には自前の弁当箱を持って行くようになった。割り 箸や包装容器を使わないで済んだと思うと無性に嬉しくなるのである。根っからの貧乏性なのたろう。 その後、環境と人間の経済活動の調和を図ることを訴える主張が多く聞かれるようになった。同時に「企 という声が内外で高まっていった。企業は、ある地域への 業活動も、地球環境への配慮をせざるをえない ロ 1 カルな環境問題を起こさないたけでなく、人類全体の「持続可能な発展」に貢献することを求められる よ一つになった。、、 こみ問題も、焼却能力や最終処分場の不足などが各地で深刻化してきていた。 「二一世紀にかけて、大量生産・大量消費社会が見直されていかざるをえない状況のなかで、ごみ問題を 含む環境問題は、企業や消費者の収人や行動様式に大きな影響を与えることになるだろう。」こうした関心 から、私は、企業の環境管理やごみ問題を含む環境問題に関する記事を、経済や企業活動との関連のなかで、 たびたび書くようになった。だが、記事を書いていくうちに、環境と経済の両立を考えるうえで、環境経済 び 学、企業の環境管理、廃棄物管理などのさまざまな分野の知識の不足を痛感するようになった。「もっと本学 という気持ちは日増しに強くなり、こうした知識をしつかり学ぶために「大学院に進学 済 格的に勉強したいー 経 レ」 したい」と考えるようになった。 環境経済学関係の書籍や論文などの筆者をみると、環境経済学の専門家はアメリカやイギリスに多いこと境 がわかった。どうせ大学院に行くなら、留学しようと考えた。アメリカ人やイギリス人と環境と経済の両立 について思いっきり議論もしたいと思った。こうして私は留学への挑戦を決意した。一九九〇年のことだっ序 9
えたいという狙いがあった」という。 のアイデアの多くは一九七〇年代から & に資金援助をしてきた石油会社の oozooo ( コ ノコ ) 社から来ていたという。同社は、環境重視の経営を実践するデ = ポン社系列の石油会社で、経営問題 と環境問題を合体させたプログラムを求めていた。は、も ともとはと & の合同で始まったものだが、合同学位 課程とはされず、 & 単独のプログラムとして、コノコ社が サポートする形で始まった。ちなみに、デューク大学やミシガン 大学の環境スク 1 ルでも、九〇年代前半に相次いで、企業の環境ラ 生 先管理を学ぶためのプログラムを開設した。これらはビジネススクロ 1 ルとの合同学位課程となっている ( Ⅱ・ 1 節も参照 ) 。 理 ャ Ⅱプル 1 ワ 1 教授。最管 の初代のプログラム長はゲー丿ー = 初の生三人は九一年に卒業したが、プルーワー教授は、 2 環 章で紹介したように、九一年にミシガン大学天然資源・環境スク業 マ ールのスクール長となるためにエ 1 ル大学を去った。九一年の夏 から次ののプログラム長になったのが、固形廃棄物管理の章 講義 ( 9 ・ 1 節 ) を教えるチャートウ先生だった ( 写真参照 ) 。水 ーテン教授は、アカデミック 5 文学 ( 5 ・ 3 節 ) を教えるポールⅡバ ( 学術面の ) コーディネーターになった。
一 8 一・ 11 —プログラム創設 「企業は悪者」の認識が変わった -8 一・ワし 「産業エコロジー」を重視 研究会 8 ・ 3 改善要請を行った学生グループ 8 ・ 4 エキスパートの連続講演や環境戦略の役割演技ゲームも開催川 足りない「市場開拓」 企業の役員クラスのための短期コース 〔九四年秋学期〕 9 章一未知の分野にも挑戦 政策論議も数値計算も大いに楽しむーー固形廃棄物管理の諸側面 アドバイザーの許可をとるのに苦労 / 実際の政策参加に基づいた講義 / 楽しかっ た清掃工場立地のシミュレ 1 ション 9 ・ 2 修士プロジェクト論文のー 丿ーサルに活用ーーー企業の汚染予防への取り組み 自動車のとの出会いが修士プロジェクトに発展 4 9 ・ 3 環境リスクの理解に重要ーー環境疫学 「毒物学か疫学をやりなさい」 / 初心者がいきなり論文の批評” 9 ・ 4 初めてわかった ミクロ経済学理論と政策 9 ・ 5 これは難しい 環境と天然資源についてのワ 1 クショップ ロ 6 128 ロ 0 に 3 158 141 次 目
ら、前述のように、九五年に森林科学修士課程を卒業した学生数は、九三年に森林科学修士課程に入学した 学生数よりもかなり増えている。 この「森林」という名称にはあまり深い意味はない。森林科学修士は、私がとることになった学位だが、 私は林学関係の授業にはあまり興味がなく、結局一つもとらなかった。環境学修士に移ることを試みたこと もあったが、「天然資源経済学・政策という専攻課程がこの森林科学修士課程のなかにあるのだから」とい うアドバイザーの指示で、結局は移らなかった ( 4 ・ 4 節参照 ) 。 伝統ある林学修士 (Maste 「 of F 。「 2 「 y ) 林学修士課程は、森林の運営・管理を行う林学の実務家 (practitioners) を養成するための職業教育 ( p 「。「。 2 。 n 三 4 = d 一ワ ) を行う課程である。この修士課程は、欧米諸国においてもっとも歴史のある林学課程 で、一九〇〇年以来、森林管理の専門家の養成を続けてきたとされる。 & の学校案内には、誇らしげ に「早期の北米の林業従事者のほとんどすべてが、そのルーツをエールに持っている」と書かれている。最 初の一一一人のアメリカ農務省林業局 (USDA F 。「 2 service) 局長のうち、九人が当校の出身だという。 カリキュラムは森林資源管理と政策決定の最先端で働きたい人たちのために組み立てられており、 「生態 系の生物学的な基礎に根差した真に学際的なアプローチをとることによって、資源管理教育を新しいレベル へと高めている」 ( 学校案内 ) という。本課程の卒業生のほとんどは、森林関連の一般的な実務家や管理担 当者からスタートし、管理職を経て、政策決定者などになっていくそうである。具体的な就職先としては、 ①政府・公共機関 ( 環境保護庁、農務省林業局など ) 、②国際的な開発機関や環境保護団体、③企業および 2
表 8.3 ー EM 春の連続講演 (The lndustrial EnvironmentaI Management spring Lecture series) 1994 年 1 月 27 日 AT & T 社技術環境研究副社長 , B=R= アレンビー博士 ( Dr. Braden R. AIIenby, Research Vice President, TechnoIogy and Environ- ment, AT&T) 「産業ェコロジー : 環境問題解決のための企業の再定 義」 2 月 17 日ゼロックス社環境配慮デザインおよび資源保全担当マネージ シャック = アザル博士 ( Dr. Jack Azar, Manager OfEnvironmen- tal Design and Resource Conservation) 「ゼロックス社における製品 開発の責務 (product stewardship) 」 3 月 24 日ダウ・ケミカル社環境改善担当マネージャー S = ノーセン氏 ( 、 /lr. scott Noesen, Manager, Environmental lmprovement, Dow Chemical Corporation) 「企業の意思決定におけるライフサイクル・ アセスメントの利用」 4 月 14 日シューラー・インターナショナル ( 独 ) 最高経営責任者 p = ザポジ氏 (Mr. peter zaboji, Chief Executive Officer, Shoeller lnterna- tional) 「環境にやさしい物流 (Eco-logistics) : 廃棄物ゼロの包装への 挑戦」 1995 年 1 月 17 日マサチューセッツ工科大学「技術・ビジネスと環境」プログ ラム長 , J = 工ーレンフェルド博士 ( D 「 . John Ehrenfeld, Director, Technology, Business, and the Environment Program, Massachusetts lnstitute of Technology) 「産業の共生 (lndustrial Symbiosis) : ある企 業の廃棄物が別の企業の原材料 ( Feedst 。 ck ) となる」 1 月 31 日デュラセル社環境問題・労働安全衛生担当副社長 , D = バレ ット氏 (Mr. David Barrett, Vice President, EnvironmentaI Affairsand Occupational Health and safety, Duracell, lnc. ) 「供給ルートのグリ ン化 : 環境パフォーマンス改善のための供給者との協力」 2 月 14 日ュナイテッド・パーセル・サービス社企業環境問題担当マネ ーシャー , R = シュナイダー氏 ( Mr. R0bert snyder, Corporate Envi- ronmental Affairs Manager, United parcel service) 「製品を取り戻 す : U P S のメーカー公認回収サービス (Authorized Return Ser- vice) 」 2 月 28 日サープ社環境・衛生担当取締役 , B = スウェイナー氏 ( Mr. Bo Swaner, Director, Environment and HeaIth, SAAB Autom0biIe AB) 「メーカーが責任をとる : スウェーデンにおける自動車リサイクル」 133 8 章「企業の環境管理」プログラム
■資金援助 (FinanciaI Aid) ◇「各種の専門家会議に参加する修士コース生に対して部分的支援ができます。正式な発表を行うか、他の 機関からの補助金を受けている学生に優先的に割り当てます。三月—八月までの期間の会議に関する締め切 りは二月一七日です。 これは各種の学会などへの参加のための援助だが、少額とはいえ一般的な奨学金もある。卒業生や各種 企業、団体からの寄付などを財源に、毎年合計数万ドルの & の奨学金が学生に割り当てられる。私は、 二年目に二〇〇〇ドルを支給してもらうことができた。この他にも、分野や応募資格を限ったものがほとん どだが、外部機関が提供するさまざまの奨学金がある。 ー学生からのお知らせ (Students' Announcements) ◇「今週末の ( 国際熱帯雨林学会 ) の開催のためにボランティアが必要です。掲示板に名前を書き 込んでもらうか、ロビン、 リディア、またはテレックに連絡してください。」 学生たちは、にしい中、ボランティアによってこういう会議の運営を行っていた。また、コミュニティ 活動などのボランティアに積極的な学生も多かった。には、地域社会との交流のなかで環境保護に 取り組む都市資源イニシアテイプ (Urban Resources lnitiative) という組織がある。この組織を通じて、毎 年の夏に、低所得層が多い都市地域 ( ポルティモアなど ) に行って、住民と協同で環境保護活動に取り組む 学生グル 1 プもいた。コーホン・スクール長も、毎年、夏にはこうした活動に一部加わっていた。環境社会 学を学ぶ学生たちが、ニューヘイプンの市民、子どもたちと強力して、ゴミが散乱している廃運河の跡を有 118