の生産や廃棄まで考えると、他の環境負荷を増やしたりして逆効果になるのではないか」という仮説を検討 することだった。 実際にこれに類する政策は日米で存在している。米国では、大気汚染緩和のために、自動車引退加速 (accele 「 ated vehicle retirement) プログラムという、排気ガスの汚染度が高い旧型車を市場価格以上の値段 で買い取る政策を検討する州や企業があった。日本では、一九九三年に大都市圏で施行されたいわゆる ZO* 法によって、排出規準を満たさない旧年式のトラックなどは、一定年数経過後は車検を通らなくなっ た。こうした規制は、自動車の走行中の大気汚染をいかに減らすかというところだけに目が向けられていて、 廃車を早めることや、自動車の生産が増えたりすることによる環境負荷の変化は、視野に人っていないよう クラスでの発表では、粗つほい手書きのグラフを描いて論文の基本構想を紹介した。自動車の車齢ごとの 台数を想定し、車齢が高いほど型式が古く排出ガスの汚染濃度が高いと想定した場合、自動車の寿命を強制 的に変えると、製造・走行・廃棄の三つの段階の環境負荷の合計がどう変わっていくかを計算できるはすだ というアイデアである。 私の発表を聞いたあるクラスメートが貴重な情報を教えてくれた。前年の固形廃棄物管理の講義で、同学 年でスイス人のトーマスⅡクネッヒト (Thomas Knecht) さんが、自動車のライフサイクル・アセスメント (—ÄO<) についての論文を書いたというのだ。とは、原材料段階から使用段階、そして廃棄する段 階までの環境負荷について調査し、影響を評価する分析法た。ひとつの製品の環境負荷がより包括的に判断 できるわけである。これはまさに私のアイデアに必要なデータだった。さっそくトーマスに論文を見せても 152
表 9.1 「固形廃棄物管理の諸側面」の講義スケジュール ( 月・水曜日の午前 10 時 ~ 11 時 15 分 ) 9 月 7 日講義の概観。変化しつつある固形廃棄物管理の現状。 9 月 12 日最終処分 : 埋立処分技術 (DisposaI: landfill TechnoIogy) 9 月 14 日最終処分 : 埋立処分場の環境影響とその緩和方法 ( Landf Ⅲ lmpacts and Mitigation Measures) 9 月 19 日中間処理 : 概観 , ごみ焼却技術 (processing: Overview, com- bustion Technologies) 9 月 21 日中間処理 : ごみ焼却による環境影響とその緩和 (combustion lmpacts and Mitigation Measures) 9 月 26 日中間処理 : コンポスト ( 堆肥 ) 化 (Composting) 9 月 28 日中間処理 : 分別済みの廃棄物と混合された廃棄物のリサイク ル (RecycIing Separated and Mixed waste Streams) 10 月 3 日回収 : 回収システムの概観 ( Co Ⅱ ection : Overview of CoIIec- tion Systems) 10 月 5 日回収 : 資源の回収 (MateriaIs collection) 10 月 7 日 1 日かけての見学旅行 ( 全員参加 ) 10 月 10 日発生 : 廃棄物の発生源と回収する資源の選択 ( Generati 。 n : waste Sources and Materials Choice) 10 月 12 日発生 : 廃棄物の抑制と排出者料金 (Generation: waste pre- vention and User Fees) 10 月 17 日経済学 : 資金調達と廃棄物処理費の料金設定の選択肢 ( Ec 。 - nomics: Financing and pricing S01id waste Options) 10 月 19 日経済学 : 処理システムのコスト推計 (Economics: system Costing) 10 月 24 日政策 : 廃棄物の流れのコントロール (policy: flow control) 10 月 26 日立地 : 入門と理論 (Siting: lntroduction and Theory) 10 月 31 日立地 : シミュレーション演習 (Siting: Simulation Exercise) 11 月 2 日立地 : フォローアップほか ( Fo Ⅱ ow - up and lssue Analysis) 11 月 7 日その他の廃棄物の流れ : どのように定義され , 規制されるか (Other waste Streams: HOW They Are Defined And Regulated) 11 月 9 日有害廃棄物の管理 (Hazardous waste management) 11 月 14 日 , 16 日固形廃棄物管理の優先順位は正しいか 11 月 28 日拡張された生産者の責任 (Extended Producer ResponsibiIity) 11 月 30 日政策の解決策および ( 学生による ) 講義の評価 145 9 章 未知の分野にも挑戦
時間に開設されていた「陸上生態系のパターンとプロセス、という講義を強く勧められた。陸上生態系の講 義は、夏のモジュールで「植物種の識別、を担当したトムⅡシッカマ教授が行う名物講義。頻繁に野外実習 を行って、生態系調査の基礎を学ぶ重要で人気のある講義である。私もその重要性は大いに理解しており、 アドバイザーの強力な指導を受けたので、やはりこっちをとるべきなのだろうかと迷ってしまった。しかし、 友人たちからの「ごみ問題に興味があるならとるべきだ」「シッカマ教授の講義は毎週の見学旅行で大変だ よ」といった助言を聞いて、やはり固形廃棄物管理のほうをとりたくなった。このため、再びメンデルソン 教授を訪ね、「固形廃棄物管理は、修士プロジェクトのためにも重要です」と主張し、また日本の放送大学 で「環境科学」の講義をとり、「生態学」も聴講したことを強調した。教授には、「それならいいだろう」と、 ようやく許してもらえた。ルールはあるが、理由があれば融通も効くのが & である。 実際の政策参加に基づいた講義 この講義は、固形廃棄物政策に関する研究、提一「〔、論文 ()o 「 king pape 「 ) の刊行などを行う & の 固形廃棄物政策プログラムの活動の一つと位置づけられている。アメリカの固形廃棄物管理の実際の手法を、 見学、コスト計算、ロールプレイイング・ゲームなど臨場感あふれる形で学ぶことができ、の講義 のなかでもっとも楽しかった。 講義の目的は、以下の三つだった。①自然科学および社会科学で現代の固形廃棄物管理の実際についてカ ギとなる諸問題を特定する、②固形廃棄物管理を、経済学、政治学、化学、生物学および工学を含む数多く の分野からの概念と技法を統合しながら、学際的な見地から検討する、③さまざまな講義、課題 ( 宿題 ) 、 142
ドルの純損失を計上していたが、株式市場から集めた資金はすでに五億ドルを超え、九三年二月に一四ドル だった同社の株価は、実際に溶解金属槽でこの技術を実証するためのリサイクル研究開発施設がオープンし た九四年九月には約二三ドルに達していた。 の技術は、このリサイクル研究開発施設 ( 実証プラント ) において、実演されていた。は、 融解金属槽を使って、 ( ポリ塩化ビフェニール ) から電子基盤まで、さまざまの有害廃棄物を有用な 原料に変換するのだという。廃棄物は、摂氏一三〇〇度—一八〇〇度近い高温の融解金属槽に注人され、そ の触媒作用によって、分子構造が切断され、化合物がばらばらの元素に分解される。しかも、理論的には燃 焼による排気ガスや焼却灰も全く出ないということだった。方式は、燃焼による焼却と違い、焼却で 発生する窒素酸化物、硫黄酸化物などの有害物質はほとんど発生せず、しかも有用な物質が得られるという」 生 特長を持っている。猛毒のダイオキシンも、発生に必要な条件がないため発生しないという説明だった。 これらの元素は、すでに市場が存在する気体、セラミックや金属の製造に使われる。は、規制値を学 超えている有害な化合物を完全に分解するわけで、行政機関、化学廃棄物や石油化学廃棄物を排出する会社の 以 や、廃棄物処理業者への市場拡大が期待されていた。 義 また、放射性廃棄物も処理の対象になりうるということで、アメリカのエネルギー省が注目している、と講 も報道されていた。シャッテン氏は、「処理後の物質は高レベルの放射性廃棄物となるかもしれないが、容章 積が減るからモビリティ ( 移動可能性 ) が増える」とコメントしていた。 施設の現場では、数メ 1 トルほどの大きさの銀色に光る融解金属槽を見せてもらったが、写真は厳禁で、 実際に溶けた金属が見えるわけでもない。 ものすごいエネルギーを消費するこの「魔法の入れ物」で、ほん
政策論議も数値計算も大いに楽しむーー、固形廃棄物管理の諸側面 戦 、も ( ン mu 一 ( ぎ一 e Aspects 0f S01id 「 aste Management) 野 アド・ハイサーの許可をとるのに苦労 分 私はごみ問題に関心があったため、入学前から、 & の固形廃棄物管理の講義はぜひとってみたいとの 思っていた。この講義は、九三年秋学期にこれを学んだ友人たちの評判もとても良かった。アメリカに来て未 みると、一般の人々の大量消費・大量廃棄の生活スタイルがある一方で、 7 ・ 2 節でみたように、ごみ問題章 とい一つ」持ちはさらに強ま への取り組みが進んでいる面もあった。アメリカで廃棄物管理を学んでみたい、 っ , 」 0 ードルが待ち構えていた。アドバイザーのメンデルソン教授には、同じ ただ、この講義をとるためにはハ 。章一未知のに 〔九四年秋学期〕
に & に人学した。大学時代は微生物化学を学び、卒業後そのまま環境行政や環境科学を学ぶために & に入学した。現在は大手コンサルティング会社であるパシフィックコンサルタンツ社の生活環境部 で廃棄物関連の業務に携わっている。同部は、国内や発展途上国での廃棄物埋め立て処分場の設計やリサイ クル・プログラムの立案などを行っている。 & を選んだ理由は、エール大学が国連関係に強く、また同校が充実した環境関係のカリキ、ラムを 持っと考えたからだ。阿部さんは、「エ 1 ル大学で学んた二年間は、私のキャリアの中で重要な役割を果た している」と語っている。 & で得たものは大きく分けて三つある。 ①廃棄物管理の基礎知識。廃棄物管理の講義によ「て、阿部さんは、廃棄物管理の社会的および技術的側か 面を学び、コンサルタントとして働いていける確信が持てるようになった。 ②環境管理の実践のためのノウ ( ウ。夏のインターンシップでは、 & と沖繩駐留のアメリカ海兵隊僘 との共同リサイクル・プログラムに参加した。ここで、リサイクル・システムを作り上げる実務的ノウハウ を得ることができた。この経験が、多くの都市でリサイクル・システムづくりを行「ている現在の仕事に活一 ス 境 かされている。 ③世界に広がるネットワーク。多くのクラスメ 1 トがいたおかげで、世界〈のネットワ 1 クが広が 0 た。 ごみ問題は世界各国で起きているため、阿部さんは海外で仕事をすることも多いという。 & で知り合障 った人たちが世界に散らばっているため、情報を集めたり、マーケティングを行「たりするのに役に立「て 0 ノ
テラス研究所 (Tellus lnstitute) の廃棄物専門家、ジョンⅡシャール氏の特別講義が行われた。固形廃棄物 8 管理、特に家庭ごみの処理で望ましいとされている優先順位とは、技術・経済・環境の三つの側面から総合 1 的に考えて、①発生源でごみを減らす、②可能な部分はリサイクルかコンポスト化を行う、③焼却または埋 め立て、の順番であるとされていた。この優先順位は、多くの環境保護主義者、企業、そして行政担当者の 支持するものだが、「発生源でのごみ削減やリサイクルはコストが高すぎる」といった批判の声もあったと い一つ。シャール氏は、。 こみ焼却の出すさまざまな環境汚染物質の単位当りの社会費用を推計したうえで、そ れぞれの処理方法の総合的評価・比較を行った結果、この優先順位の妥当性を改めて検証したのである。私 のアドバイサーのメンデルソン先生は「テラス研究所の汚染の経済評価のやり方は間違っている」と批判し ていたが、その基本的な手法は修士プロジェクトにも大いに参考になった。 課題⑤は論文を選んだ。テーマは、この学期に選択した「企業の汚染予防への取り組み」 ( 9 ・ 2 節 ) への レポートと共通だったが、チャートウ先生には决く認めてもらった。「企業の汚染予防への取り組み」のレ ポートのかなりの部分を流用し、廃棄物に焦点を当ててこの問題を考えた。これで多少楽をすることができ、 修士プロジェクトにより多くの時間をさくことができた。 なお、巻末資料 1 の九七 / 九八年度の講義題目一覧では、この固形廃棄物管理の講義は無くなっている。 チャートウ先生に問い合わせたところ、固形廃棄物管理については、現在は「テクノロジー社会の環境側面 (Environmental Aspects ofa Technological SocietY) 」 ( 資料 1 の 6 ・ 3 ) の中で触れられている。また清掃工 場の立地問題については、「産業エコロジ 1 (lndustrial Ec 三 og を」の中に含められているそうだ。その理 由はなんと、「リサイクルが主流となり、また埋め立て処分場の不足が無くなってきたこともあって、実際、
および見学旅行を通して、また個別のテーマを深く掘り下げて提示することを通して、理論と実際を結び付 ける。 講師は 8 章で紹介したを率いるマリアンチャートウ ()a 「 ian Che 「 tow) 先生とウィリアム日ス ミス (William H. smith) 教授の二人。チャートウ先生は、一九七〇年代に資源回収会社 (waste Recove 「 y 一 nc. ) に勤務した後、コネチカット廾資源回収局 ( connec ニ c ミ Resou 「 00 R000V0 「 Y Auth0 「 (を) に勤務。ま た、コネチカット州のごみ問題諮問委員会の役員を務め、同州のごみ政策策定で重要な役割を果たしてきた 人だが、気さくで明るい人だった。講義の半分以上をチャ 1 トウ先生が教え、スミス教授が科学的な知識で これを補完するといった構成だった。スミス教授は、副スクール長でもあり、物質科学 (mate 「 ial science) 、 生態毒物学 (eco-toxicology) が専門だ。スミス教授は、固形廃棄物の処分の過程で発生する有毒物質対策 戦 や清掃 ( ごみ焼却 ) 工場や廃棄物最終 ( 埋め立て ) 処分場など処理施設の技術といった分野を中心に講義し ていた。 しろいろあった。必読文献は、二冊の厚い論文集と & の廃野 学生がこなす課題 (assignments) は、ゝ の 棄物政策プログラム発行の論文、ジョン日シャール ( 」 ohn schall) 「固形廃棄物管理の優先順位は正しいか 知 ( D00 : he solid W ラ M 当 emen ( Hiera 「 chY M 0 se ラ 0 ~ 」 ( 一九九二年一〇月 ) を読むことだった。毎回未 の講義で四—六編の論文を読む必要があったが、一字一句読んでいる時間はとてもないので、面白そうなと章 ころだけよく読んで、後はざっと飛ばして読んだ。 議諭こ参加すること、②政策問題の発表、③宿題、 / ィー一一口一ごロ この他に要求されていたのは、①授業の予習を一丁ゝ、 ④清掃工場立地の演習 ( 一〇月三一日 ) 、⑤関連する固形廃棄物管理についての論文または持ち帰り試験
。この見学でも、既存 住民の原発へのイメージも良いものとはいえず、もはや原発の新設は行われていない の原発の運転に対して住民の理解を得ることがいかに必要とされているかがよくわかった。 廃棄物を消減させるーー・モルテン・メタル・テクノロジー社 九四年一〇月一四日、モルテン・メタル・テクノロジー (Molten Metal Technology, lnc. ) という会社 ( 本社・マサチューセッツ州ウォルタム ) の施設にも見学に行った。固形廃棄物管理を教えるマリアンチャ ートウ先生を含む見学者の一行十数名は、校有ワゴン車で、二時間ほどかけてマサチューセッツ州フォ 1 ル (Fa11 Rive 「 ) の同社のリサイクル研究開発施設に到着した。 同社は、八九年設立の、企業や行政向けに廃棄物のリサイクルと減量化サービスを行う会社だ。触媒利用 の抽出処理 (catalytic Ext 「 action p 「 ocessing =OQO-) という技術を開発し、成長企業が名を連ねるナスダ ック (Z<ooQ<C= 店頭市場 ) に株式をあっという間に公開した。この事業を起こしたのは、当時マサチ ド大学在学中に有害物質の少ない燃 ューセッツ工科大学 (ä—æ) の博士課程で学んでいた学生とハ 焼技術を開発していた若い事業家たった。 私たちに説明、案内をしてくれたのは、同社の法務担当取締役のロバートⅡⅡシャッテン氏。プレゼンテ ーヘッドによるスライドやビデオを使って、 O 技 ーション・ルームに通された私たちに対して、オー 術の素晴らしさについて、手慣れた様子で説明してくれた。当時、同社は創業後わずか四年だったが、同社 についての記事を掲載した『ビジネスウィーク』誌は、「その独自のアイデアが実用可能な技術であるとい うことを急速に証明しつつある」と報じていた。九三年度の売り上げはわずか四七〇万ドルで、一一三八万 112
1 節 ) 。 6 その後、夏休みは日本に帰国して、データ集めを行った。。 テータ集めの困難さから当初考えていた対象と 1 する製品を変更し、自動車についての分析をすることに決めた ( 7 ・ 1 節 ) 。九四年秋学期には、テーマを 「自動車の寿命を強制的に変えると環境面を含めた費用・便益はどのようになるか」という問題の分析に決 めた。強制的な廃車や年式の古い自動車を高く買い取ることで古い自動車の寿命を短くして大気汚染を減ら そうとする政策が日米で実施または検討されていることを知ったことがきっかけだった ( 9 ・ 2 節 ) 。つまり、 ある製品に対する環境政策 ( 規制 ) を実施するうえでの、望ましい政策の立て方の一つのアイデアを提起し ようとしたものだ。 日本のトラックにかかわる環境問題を対象としたので、休暇で日本に帰るたびごとに不足するデータを集 めた。九四年秋学期の後の冬休みには、 ) しろいろな環境負荷を金額で評価して比べられるようにするために、 環境負荷の経済評価データとして使う環境対策コストのデータなどの収集に努めた。環境負荷の経済評価を 自分でやると、それたけで大きな研究プロジェクトになってしまうので、代替データを使うことを許しても らったのだ。 冬休みが終わって、「企業の汚染予防」や「廃棄物管理」の講義で前の学期に書いた論文をメンデルソン 教授に見せてアドバイスを求めた。私のやり方は、五〇年という期間をとって、その中で、さまざまな自動 車寿命の変更のケースを入力して、計算を行うものだったが、先生には「馬鹿げている (stupid) 、と言わ れてしまった。先生は私のモデルが数学的に美しくないと指摘し、寿命を強制的に短くするとすぐに均衡が 成立すると想定した、より単純な「美しい数学モデルを作るアイデアを授けてくれた。