汚染 - みる会図書館


検索対象: アメリカの環境スクール : 開かれた教育システムの体験
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1. アメリカの環境スクール : 開かれた教育システムの体験

図 6.1 汚染削減の費用と利益 費汚染削減の総利益 用 益 汚染削減の総費用 「最適な汚染量」がある この講義の大きなポイントがⅡの外部性の理論のところ で教えられる「汚染にまつわるすべてのコストを最小化せ 聞よ」という黄金律 (goldenrule) だ。この「コストには汚 染による被害のコスト ( 社会へのコスト ) と汚染を減らすた めのコストが含まれている。 減 この黄金律から、教室でも議論になりやすい「最適レベル 染 の汚染」という考え方が出てくる。「汚染を完全に除去する 汚 のは経済的にみて常に望ましいことではなく、最適な汚染の用 を レベルが存在する」という考え方だ。 黄金律を言い換えると、「汚染削減の純利益 (net p 「。ョ ) 講 を最大化せよ」ということになる。汚染削減の総利益と総費外 レ 用の差である純利益が最も大きくなる「汚染削減レベをを ク 探すのである ( 図 6 ・ 1 参照 ) 。図のように、縦軸に金額、横 ス 軸に汚染の削減量をとる。つまり横軸を右にいくほど、汚染 章 の削減が多くなる。二つの曲線が右のほうで交わる点より右 側で汚染がゼロになると考える。 8 汚染削減のためにかかる総費用は、図の「汚染削減の総費

2. アメリカの環境スクール : 開かれた教育システムの体験

らった。この論文は、すばらしい情報源を紹介していた。ドイツの『シュテルン』という週刊誌が掲載した、 自動車のライフサイクルの各段階で排出される多数の環境負荷のデータが紹介された記事である。さっそく 彼にたのんで、ドイツ語の原文をコピーさせてもらった。トーマスが一一一口うように、興味本位の面もあって、 厳密な調査ではなかったが、他にない貴重なデータなので使うことにした。大学時代に第二外国語として学 んたドイツ語の知識はほとんど使いものにならなかったので、とりあえすトーマスの翻訳を使って分析を進 めた。 このドイツの自動車のデータと、夏休みに集めた自動車価格の推移などのデータを使って、初歩的・仮説 的な計算を行った。走行からの大気汚染物質は生産年が古いほど多くなることを、暫定的に推定した。そし て五〇年の期間をとって、寿命が現状よりも長い・短いという両方の場合について、大気汚染物質や、廃棄 戦 物などがどのように変わるかを調べた。足りないデータは、感謝祭の休暇に日本に帰った際に集めた。一年 目にとったコーホン・スクール長のクラスで学んだ「数量的方法」の知識がとても役立った。 結果は、寿命を縮めると大気汚染物質は減るが、やはり廃棄物は増えるという結果が出た。ただ、環境汚野 の 染物質の経済評価は行わなかったので、総合的な損得を考えることはできず、それぞれ物質別の影響を個別 知 に考えるしかなかった。しかし、この論文をアドバイザ 1 のメンデルソン教授に見せて、多くのアドバイス未 章 をもらった。こうして修士プロジェクトの骨格が固まることになる。

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ルティング会社であるア 1 サー・・リトル (A 「 thurD. Little) ん さ社に人社し、二年間アメリカで、三年間ドイツで働いた。ドイツ時 ク 弋こよ、買収の対象になっている東欧企業が過去に起こした土壌汚 テ 染などについての調査を行った。その後、大学院に入ることにした ス が、企業の環境管理を学ぶがあり、自分で自分のカリキ = ラ ンムを作り上げることができるという点に惹かれて、に入学 イ することにしたとい一つ ス 彼女が選択した講義は、地理情報システム、毒物学、 ク無機化学、国際環境問題、で開講されていた組織行動論、化 学工ンジニアリング学部で開講されていた大気汚染および水質汚染 などだ。経済学に時間を費やしていなかったら、私もとっておきたかった講義が多い。クリスティンは & かなり満足している。ほんとうにいい学校だ、という。「いくっカ での二年間について「全体的には、 しいクラスメートがたくさんいた」からだ。ただ、、い服できるような「良師 の講義はずいぶん良かったし、 (mento 「 ) 」にはめぐり合えなかったという。「生態学系の古参の教授陣は古い考え方を維持したいと思って いるようだが、『新しい考え方の教授をもっと雇え』と言いたい」と指摘している。確かに、伝統ある林学 や生態学が専門の先生たちのなかには、急速な改革に反発している人たちもいると聞いたことがある。ただ、 クリスティンも予想していたように、新たな風は着実に吹き込んでいる。ロ 1 スク 1 ルなどの他の学部との 兼任教授や環境経済学の講師、そして最近の産業エコロジ 1 の教授の採用なども、コーホン・スク 1 ル長が 皿い 6 ど 188

4. アメリカの環境スクール : 開かれた教育システムの体験

用」の曲線のように、初めは同しだけ削減の量が増えてもそれほど総費用は増えないのに、削減の割合が増 えるほどに、同じだけ削減するための費用の増加分 ( 限界費用Ⅱ総費用曲線の傾き ) が増えていく、つまり カープが急になっていくと想定する。 一方で、汚染削減によって得られる総利益は、図の「汚染削減の総利益」の曲線のように、初めは同じだ け削減の量が増えると、削減がもたらす総利益は大きく増えるのに、削減の割合が増えるほどに、同じだけ 削減することによる利益の増加分 ( 限界利益Ⅱ総利益曲線の傾き ) は減っていく、つまりカープは緩やかに なっていくと想定する。こうして、総利益から総費用を差し引いた純利益は、二つの曲線の傾きが等しくな る図点で最大になるというわけである。 このモデルを基礎として、税金をかけることによって汚染削減の目的を達成しようという場合や、汚染す る権利を売り買いする場合、汚染削減の技術レベルの違う複数の企業で汚染削減を行う場合など、さまざま な場合についての分析方法を学んでいった。この講義も、の補習を受け、先生とのオフィスアワー に質問して宿題を次々とこなしていくことで、講義内容が着実に理解できていった。 「費用をうんとかけても汚染はゼロまで減らしたほうがしし。 ゞゝ ) よすだ」という当然の疑問もあるだろう。だ が、私の解釈によれば、減らすかどうかは人々がどこまでその環境汚染の削減を重視しているかにかかって いる。その環境問題が非常に影響が大きく、わすかな環境の改善にでも多額の費用を払うつもりがあれば、 総利益曲線自体が大きく上に伸びて、汚染ゼロに近いところが最適点になることもありうる。 ただ、汚染削減の利益をどう計るかは難しい問題だ。汚染削減が完璧さに近づくことに対して、地域の住 民がどれだけ利益を感じているかを調査することは簡単ではない。あるいは、国民全体、地球上の人類全体、 8

5. アメリカの環境スクール : 開かれた教育システムの体験

を襲う地球環境間題」といった内容の記事を書いた。 社会主義経済の企業と同しように、多くの自然環境は「みんなのもの」であり、つまり「環境は誰のもの でもない という点がやっかいだった。誰のものでもないからこそ、保全が難しい。例えば、二酸化炭素の 捨て場所としての大気圏や、汚水の捨て場所としての海洋などは、誰のものでもないから汚染物質が野放図 に捨てられやすい。環境経済学によると、人類全体で共有している地球環境は「国際公共財」とされ、河川 など地域の環境も「公共財」だ。公共財は、①財やサービスの消費に対して料金を払わない人をその消費か という一一 也の人の財の消費量を減少させない、 ら効率良く排除できないし、②ある人の財の消費量の増加がイ つの性質を持っという。公的権力などで規制しない限りは、汚染物質は「捨て得」となってしまうわけで、 この問題の解決は難しそうだった。 留学への挑戦を決意 記事を書くうちに環境問題に対する興味がさらに深まった。環境問題に関するイベントへの参加の機会も 増えた。九〇年には、企業と協力して環境問題に取り組む ( 非営利組織 ) であるバルディ 1 ズ研究会 の設立準備の活動に参加した。バルディーズ研究会は、企業と市民が協力しながら環境問題に取り組むこと を目的として九一年に設立された。会の名前は、企業の環境原則である「バルディーズ原則」に由来する。 また、九一年に設立された、企業などの環境監査を研究する環境監査研究会というグル 1 プにも参加し、環 境監査に関する書籍の出版プロジェクトに参加させてもらった。 個人的な生活にも、「環境趣味」が入り込んた。いっからか、私は割り箸節約のために箸箱を持ち歩くこ 8

6. アメリカの環境スクール : 開かれた教育システムの体験

表 9.2 「企業の汚染予防への取り組み」の講義スケジュール ( 水曜日の午後 1 時半 ~ 4 時 ) 9 月 6 日どうして汚染予防が必要なのか ( Why Do we Need Pollution Prevention?) 9 月 13 日制度的および市場的汚染予防政策ーーー 2 つのマクロな観点 (lnstitutional and Free Market pollution prevention Policies¯Two Macro Perspectives) 9 月 20 日制度的汚染予防政策と市場的汚染予防政策を比べるためのい くつかのキーポイント (some Key Notions to Compare the lnstitu- tional and Free Market POIIution Prevention POIicies) 9 月 27 日企業の汚染予防戦略 ( Corporate Pollution Prevention strat- egies) 10 月 4 日汚染予防 : 薬品業界にとっての試練 (pollution prevention: A Challenge for the Drug lndustry) 10 月 11 日薬品業界における汚染予防のトレンド : コネチカット州の製 薬メーカーへの見学旅行 ( po Ⅱ ution Prevention Trends in the Drug lndustry: Field Trip t0 a Pharmaceutical Company in Connecticut) 10 月 18 日企業の汚染予防のトレンド (Trend in Corporate Pollution Prevention) 10 月 25 日薬品会社の汚染予防戦略についての 2 つのケーススタディ (Two Case studies of Drug Companies' P011ution Prevention strat- egies) ニュージャージー州の薬品会社からゲスト・スピーカー ( 講 11 月 1 日 演者 ) を招待 11 月 8 日ニュージャージー州政府の環境計画局 ( N J - D E P ) からゲ スト・スピーカー ( 講演者 ) を招待 11 月 15 日汚染のない繁栄 ? (Prosperity Without PoIIution?) 11 月 29 日企業の汚染予防への取り組みー - 一学生による発表 ( ターム・ ーについて 10 ~ 15 分で簡単に発表 ) ◆休講 : 11 月 22 日 151 9 章 未知の分野にも挑戦

7. アメリカの環境スクール : 開かれた教育システムの体験

表 6.1 「環境経済学」の講義項目 ( 月・水曜日の午前 8 時半 ~ 10 時 ) I 導入 (lntroduction) A 本講義の目的 (GoaIs 。「 the course) B 初級厚生分析 (Elementary Welfare AnaIysis) Ⅱ汚染の理論 ( po Ⅱ ution Theory) A 外部性の理論 (Externality Theory) B 汚染管理の道具 ( po Ⅱ uti 。 n control Tools) C リスク分析 (Risk Analysis) D 動学モデル (Dynamic Models) Ⅲ経験的証拠 (EmpiricaI Evidence) A 大気・水の拡散モデル (Dispersion Model) B 処方と反応 (Dose Response) C 価値評価 (valuation) Ⅳ政策への応用 (Policy/Applications) A 固定排出源からの汚染 (Stationary source Pollution) B 移動排出源からの汚染 (Mobile Source pollution) C 水質汚染 (water Pollution) D 石油流出 , 固形廃棄物 , および有害廃棄物 (OiI spills, solid waste, & Toxic Wastes) E 地球規模の汚染 ( G bal Pollution) 将来世代にとっての利益をどう考えるか という問題もある。利益を計る範囲を広 くすれば、総利益曲線の形は変わってく ることになる。こうして、環境からの被 害や利益の量を経済的に評価することが 非常に重要になってくる。前学期の講義 と同様、環境の経済価値評価の利点や限 界について、この講義でも詳しく触れら れた。 用 活 を もちろん、こうしたモデルの背景には、 総費用や総利益の変化が図のような単純講 な増え方、減り方をする、など単純化の外 レ ための前提がある。現実には、汚染物質 ごとの技術開発状況や人々の意識などにク よってそれぞれの曲線の形は複雑なもの 章 となる可能性がある。 環境問題のほとんどが人類の「経済 . 8 発展からもたらされている以上、お金を

8. アメリカの環境スクール : 開かれた教育システムの体験

アメリカでは ( 一般 ) 廃棄物は大きな問題ではなくなってきた」からだという。 修士プロジェクト論文のリ ーサルに活用ーー企業の汚染予防への取り組み (Corporate Adaptation ( 0 pollution prevention) この講義は 8 章でみた企業の環境管理プログラム (—æä) に含まれるゼミナール (Seminar in the pro- gram on lndustrial Envi 「 onmental Management) だった。講師はドイツ人の訪問研究者 (visiting fellow) で あるエルナⅡ日カーラーールエーディ (Erna E. Karrer-Rueedi) 先生たった。 企業の環境管理に対して、真っ向から理論的に取り組む講義である。シラバスには「こむずかしい」こと 戦 がたくさん書いてあった。この講義の目的は、企業の環境汚染予防への取り組みを、主に二つの側面から検 討することだという。一つは「マクロのレベル」、つまり大きな視点から、「制度的政策 (institutional pol- icy) 」と「市場的政策 ()a 「 ket policy) 」という二つの理論的アプロ 1 チによって、企業がなぜ汚染予防に野 取り組むかを説明する枠組みを提供すること。もう一つの「ミクロのレベル」からは、企業によって実行さの れた汚染予防戦略を、革新者 (innovato 「 ) 、分析者 (analyze 「 ) 、反応者 ( 「 eacto 「 ) 、防衛者 (defende 「 ) な未 章 どの戦略の典型タイプ (strategic ideal type) に分類しながら考察するとされていた。 企業の汚染予防の戦略形成は、「社会経済的、政治的、および環境の状況そのもの、そしてそれが『制度 的政策』によって支配されるか、『市場的政策』によって支配されるかによって、変わってくる」。この問題 9 を、先生の研究テーマである薬品業界の汚染予防への取り組みに焦点を当てて検討するとされた。

9. アメリカの環境スクール : 開かれた教育システムの体験

表 9.3 9 月 6 日 9 月 8 日 9 月 13 日 tion) 9 月 15 日 「環境疫学」の講義スケジュール ( 火・木曜日の午前 10 時 20 分 ~ 11 時 45 分 ) 人門 環境疫学の基礎 : 暴露と疾病 (Exposure and Disease) 環境疫学の基礎 : 交絡と相互作用 (Confounding and lnterac- 環境疫学の基礎 : バイアスがもたらす誤差 (Errors Which 9 月 20 日環境疫学の基礎 : 検定力の考慮 ( p 。 wer consideration) 9 月 22 日環境疫学の基礎 : フォローアップ調査 ( Fo Ⅱ ow - up study) Bias Estimate) Radiation = E M F ) と発ガンリスク , アスベストと肺ガン 11 月 15 日物理的発ガン物質 : 非イオン化放射線 (Non-ionizing 11 月 10 日物理的発ガン物質 : イオン化放射線 (lonizing Radiation) 11 月 8 日物理的発ガン物質 ( Physic 引 carcinogens) : 基本原則 11 月 3 日化学的発ガン物質 : PCB 類 , DDT, BHC のリスクほか 11 月 1 日化学的発ガン物質 (Chemical carcinogens) : 基本原則 10 月 27 日水質汚染と人体の健康 (solid waste Dump), および埋立処分場 ( Landf Ⅲ Sites) と人体の健康 10 月 25 日有害廃棄物サイト (Hazardous waste Site) , 廃棄物処分場 10 月 20 日中間試験 (Midterm Examination) 10 月 18 日大気汚染と人体の健康 : ( 屋内空気の汚染 : 間接喫煙 ) 10 月 13 日大気汚染と人体の健康 : ( 屋内空気の汚染 : ラドン ) 10 月 11 日大気汚染と人体の健康 : 実験的および疫学的証拠 大気汚染の発生源 , 性質 , およびレベル 10 月 6 日大気汚染と人体の健康 ( Air Pollution and Human Health) 10 月 4 日環境疫学の基礎 : ェコロジカル調査 (Ecological study) Rati0 study =PMR study) 9 月 29 日環境疫学の基礎 : 比例死亡率調査 ( Pr 。 p 。 rti 。 n Mortality study) 9 月 27 日環境疫学の基礎 : ケース・コントロール調査 (case-control 最終試験 ( Fin 引 Examination) 復習 12 月 1 日 ~ 8 日学生の発表 (Student presentation) リスク・アセスメント ( 危険の評価 ) 疾病のクラスター : 原発付近の白血病のクラスター 疾病のクラスター (Disease Cluster) : 理論と実践 11 月 17 日 11 月 22 日 11 月 29 日 12 月 14 日 12 月 16 日 155 9 章 未知の分野にも挑戦

10. アメリカの環境スクール : 開かれた教育システムの体験

介して経済と環境を結び付ける環境政策の重要性は否定できない。環境経済学は、まだまだ実際の政策に適 用されるケースは多くないが、その用途は今後増えていくだろう。例えば、ある環境汚染物質の排出を抑制 するために、排出量に応じた税金をかけるのと、従来のような排出規制を行うのと、どちらが社会にとって 望ましいかの判断に、単純化したモデルを参考にすることもできる。 また、ある環境汚染物質を減らすために環境上の政策を行った時に、他の環境汚染物質の排出が増えてし まうとしよう。この政策はいいか悪いか。例えば、一九九五年の割り箸生産量の九〇 % は端材・間伐材では ない原木を使う輸人品だった ( 藤原信『このままだと「年後の森林。はこうなる』 ) が、海外の森林を保 護するために割り箸を使うことを法律で禁止したらどうなるか。この場合、海外の森林が保護される一方で、 塗り箸を洗うために、若干の水と洗剤が使われて、国内の河川や近海の水質も一定量悪化すると考えられる。 ここで、海外の森林の一定量と国内の水資源・水質汚染の一定量とどちらが大切かを、両方の量をお金に換 算することで、ある種の比較が可能になる。 当初の研究計画を修正 学期後半のある日、メンデルソン教授に修士プロジェクトについて相談に行ったところ、「修士プロジェ この提案を書けば、 クトのテーマの提案 (proposal) は大切だから、これをきちんと書くようにしなさい。 環境経済学の講義内プロジェクトは免除しよう」と言われた。この講義のプロジェクトは、本来グループで 行うことになっていたが、私は一人で「天然資源経済学・政策コースーの修士プロジェクトのテーマの提案 を書けばよいことになった。 6 8