表 2. 2b F & ES 環境学修士課程の上級研究分野 ( advanced study areas) ①生態系の科学と管理 (Ecosystem science and Management) 生態学などを応用して環境・天然資源管理の問題を解決する方法の修 得に重点を置いている。卒業生は生態学専門家 ( ec 。 1 。 gist ) として , 天然 資源管理や環境保護の促進 , 生態学・環境教育 , 土地利用計画 , 生態学 的リスク評価などに取り組むことを想定。代表的なテーマとしては , 生 物地球化学的な物質循環 , 食物連鎖の中のエネルギーの流れ , 生態系の 生産性と持続可能性 , 風景のなかの生態系などがある。 ( のイ呆全生物学 (Conservation Biology) 生物の多様性を保全するために , 進化・固体数・群落・生態系に関す る生態学 , また遺伝学 , 生物地学などの原理を応用する。卒業生は , 保 全生物学専門家として動植物の保護や損なわれた生物居住環境・生態系 の復旧などを行う可能性が想定されている。保全科学 , 保全政策 , およ び保全と開発という 3 つのテーマがある。 ③海浜・集水域システム (Coastal and Watershed Systems) 高地の集水域と河口域のつながりなどに焦点をあてる。自然界と人間 活動による , 水の量・質や時点別入手可能性への影響や , その結果とし てもたらされる陸上と水中の生態系の変化が研究対象だ。卒業生は , 水 文学専門家 (hydrologist) や水中化学専門家 ( aquatic chemist), 水資源シ ステム・アナリストあるいは海洋・水資源管理などの分野で働く可能性 が想定されている。 ④環境政策と環境管理 (Environmental policy and Management) 資源・環境の政策と管理に関係する自然科学と社会科学が同時に学べ る課程で , 環境衛生 (Environmental Health), 産業環境管理 (lndustrial Environmental Management) ( 8 章参照 ) , 政策分析 ( po ⅱ cy Analysis) という 3 つのテーマに分かれている。卒業生は , 環境政策分析 , 産業の 環境管理 , 環境衛生政策などの分野に進むことが想定されている。 ( ①ネ土会生態学と地域開発 (social Ecology and Community Development) 天然資源についての政策・管理・利用の問題を , 時系列 , 管理 , 文化 などの側面から分析する訓練をする。例えば資源管理の決定がどのよう に地域社会・社会集団・国家・国際的利害などに波及するか , といった 問題を扱う。卒業生の進路としては , 環境保全政策・開発政策 , 社会・ 地域の林学 ( soci 引 and Community Forestry), 環境教育・コミュニケー ションおよび公園・自然保護地区の設計・管理などの分野を想定。 出所 : 1997 年 6 月現在の F & ES のインターネット・ホームページ。 30
して、数十年以上前に設立された林学スクールあるいは資源学スクール ( 学部 ) がその前身である。 その後、日本では一九五〇年代後半から水俣病やイタイイタイ病などの公害問題が発生し、アメリカでは、 農薬による環境汚染を告発したレイチェルⅡカーソンの『沈黙の春』が一九六二年に発表されて大きな反響 を呼んだ。こうして六〇年代初頭に、アメリカで環境重視の動きが本格的に始まり、六〇年代末にかけて、 環境への関心は大きな政治・社会運動へと発展した。七〇年四月一三日には、アースディ運動が始まった。 アースディとは、当時スタンフォード大学の自治委員長だったデニスⅡヘイズ氏が、地球と地域の環境を守 ろうと呼びかけた運動である。この日、全米で二〇〇万人以上が環境保護を訴えるさまざまのイベントに参 加し、その後も毎年、日本を含め世界各国でおびたたしい数のイベントが行われている。七〇年代初頭には 環境保護庁 (æ=<) も設立され、水質、大気などの連邦環境規制も整備された。このころ、エ 1 ル大学と デューク大学の林学スクールは、相次いで、その校名に「環境」を加え、「林学環境学スクール」となった。 八〇年代のアメリカでは、環境政策の多くが経済に対する不必要な重荷であると考える人が増え、公衆の 環境保護への支持は衰えた。環境問題に関する議論は、「雇用対環境」という問題に焦点が当てられること になった。希少な生物を保護するために、開発を中止して失業者を増やすことが望ましい政策かどうか、と いった論争が行われることになった。 その後、九〇年代に入ると、オゾン層破壊や地球温暖化といった地球環境問題の顕在化を背景に、アメリ カ社会の環境問題への関心は再び高まった。伝統ある林学スクールや資源学スクールが、個別の専門分野の 垣根を越えた学際的な環境学の教育を強化し始めた。ミシガン大学の天然資源スクールは名称に「環境」を 加え、デューク大学の林学環境学スクールは校名から「林学」をはずして「環境スクール」とした。また、 2
企業の役員クラスのための短期コース チャ 1 トウ先生がプログラム長への就任後に提案したのは、エグゼクテイプ課程を作って、外から 企業の役員クラスの人々を集めることだった。企業の環境リーダーシップ・セミナ 1 ()o 「 po 「 ate Envi 「 on_ mental Leadership semina 「 ) が始まったのは九二年の春 ( 九一 / 九二年度 ) で、その後毎年、行われている。 & がコーホン・スクール長のもとで企業との関係をより強めていこうとしていたこともその背景にあ った。企業人の大半は環境分野の正式な教育を受けたことはない。弁護士や化学の専門家はいるだろうが、 しれない。足りないのは卒業生のための「市場開拓」だとチャートウ先生は考えている。 8 との合同学位をめざす学生の多くは、エネルギーに興味を持ち始めているという。初期の卒業生も 1 コノコやユナイテッド・テクノロジーズ、ゼネラル・エレクトリック (e ) などで活躍している。また、 卒業生の就職先は企業には限らない。環境保護団体も企業の環境問題にかかわることが多くなってき ている。環境保護庁や環境保護団体、国際機関などで活躍している卒業生もいる。の知識はこうした 非営利機関 (Z=o) で、企業とともに環境問題を解決していくために活かすこともできる。コンサルティ ししカらだ。 ングも一部の卒業生にとって人気がある。仕事の内容が刺激的で収入も ) ただ、産業エコロジーという先端的な理論に重点を置きつつある & のプログラムが、ほんと うに実社会が必要とする環境管理者を育成するためには、改善すべき点が多い、という卒業生もいる ( Ⅱ 1 節参照 ) 。
として知られるエール大学校有林を一部伐採するという提案を即座に拒絶することを要求した。問題となっ ているのは、主としてイモリと赤背サンショウウォ (red ・ backed salamander) を食べて生きているイモリ クイという小鳥の生息に対して、伐採が影響を与える可能性だ。この鳥は、北部ニューイングランド地方で は普通に見られるものであるが、最近コネチカット州の保護が必要な生物種のリストに加えられていた。 この記事には、伐採推進派である「腕利き木こり組合」と急進的環境保護団体であるアースカーストの中 間のさまざまな立場をとる六つのグループが登場する。地元の町の役人、 & の卒業生およびモジュー ル参加中の & の学生という三グループは、環境保護の必要性を理解しつつも、エ 1 ル大学の土地にお ける林業経営を維持することも同様に大切だと考えている。残りの「自然保護に関心を持っ市民委員会」 (Concerned Citizens Committee for Conservation Ⅱ (O) など三つの自然保護関連の団体は、アースカ 1 ス トほど急進的ではないが、イモリクイの保護のほうを重視している。 記事の描くシナリオによると、エール大学の被信託人たちは八月一九日の午後一時にエール・マイヤーズ の森に集まり、八つの団体による専門家証言を聞くことになる。被信託人会議議長のジェームスⅱギブスは 解決すべき問題についてこう語る。「問題は、木の天国の環境が基本的なイモリクイ生息地の基準を満たし ているかどうかだ。超えていなければ、議論の余地なく腕利き木こり組合の伐採提案を却下できる。伐採は ・ : 科学的な結論がわれわれの管理 不可育オ 旨、こ。しかし、超えていれば、提案を詳細に検討する必要がある。 上の決定を助けてくれることを祈っている」。これが、私たちモジュールの参加者が取り組むべき演習課題 よ」っ一」 0 / 十ノ こうして、八つのグループに分けられていた参加者は、それぞれ以上の八つの団体の一つに扮することに 2
ことを多くの民間団体が懸念していることを知った。そこで同社は八九年に、前例のない広範な環境管理計 画を策定することを決定した。計画原案については、関係団体の意見を聞き修正作業を続けた。 こうして修正版の環境管理計画ができあがり、九〇年五月に同社は、この管理計画案に対する意見を聞く ために、政府関係者、先住民、エクアドルおよびアメリカの環境保護団体を東部ェクアドルの熱帯林の中の リオ・ナポ川にある水上ホテルに招待して四日間の会議を開催することにした。こうした会議は、エクアド ル内でも石油業界においてもかって開催されたことはなかった。 我々のシミュレーション演習は、午前九時から三時間で、前半はリオ・ナポ会議のロールプレイイングが 行われた。参加する我々学生は、コノコ社の経営者とエクアドル政府、先住民、エクアドルまたはアメリカ の六つの実在する環境保護団体のどれかの役割を事前に割り当てられた。事前に私たちに与えられた課題は、 ますハ ード・ビジネススクールが発行したケーススタディの資料 ( 二〇ドルで市販 ) の導人部 ( パー <) を読むことだった。一七ページにわたるこの資料には、詳しい背景情報が書かれていた。この問題の経 緯、デュポン社と石油産業の関わり、エクアドルの石油産業、コノコ社のエクアドルへの進出の経緯、プロ ックにかかわる環境間題、周辺の熱帯雨林の状況、コノコ社の環境管理計画策定の経緯、石油産業・エク アドル・コノコ社などに関する各種統計デ 1 夕、現地の地図、そしてそれぞれの団体の立場・活動について の説明などである。私が割り当てられたのは、アメリカの環境保護団体、熱帯雨林行動ネットワ 1 ク (Rainfo 「 est Action Netwo 「 k =X<Z) だった。この資料によれば、は廩重な妥協的なやり方よりも 創造的なラディカルなやり方を好むとされていた。 また、第二の課題として、「自分たちのグループが五月のリオ・ナポ会議に出席すべきか、出席するなら 134
格を制定していくことになった。 環境への貢献を重視する企業が増えるにつれて、環境保護団体など市民の側にもすべての企業を敵視する 1 風潮に変化が始まった。「企業を敵視するのでは問題は解決しない。市民と企業が協力してこそ、環境問題 の緩和が可能になる」と考える人も増えてきた。序章と 1 ・ 2 節で紹介したバルディーズ研究会が一九九一 年に日本で設立された目的も、市民と企業の協力だった。 一方、 & においては、その使命は「次の世代の環境問題分野のリーダーを養成すること」とされて いたものの、八〇年代半ばまで、産業界 ( ビジネス ) には実際のところあまり注意が払われてこなかった。 & の学生の間でも、企業は環境を破壊する「悪者」という見方が常識であり、ビジネス自体に興味を 持っ学生はほとんどいなかった。卒業後は、企業にはほとんど就職せす、もつばら政府機関・環境保護団体 ・林業関係などに就職していた。 しかし、当時のジョンⅡゴードン (John Gordon) ・スクール長 ( 注 ) は、早くも一九八〇年代末に、この ような「企業は環境を破壊する悪者」の時代の終わりを感じ取っていた。強く感じていたのは「企業経営の 面からも環境問題をとらえなければ、世界の環境管理の問題において、置いてきばりになってしまう」とい うことだった。こうして (lndustrial Environmental Management Ⅱ産業環境管理 ) プログラムが一 九八〇年代末に始められた。プログラム ( 以下は、「企業経営者が直面する複雑で多面的な 環境問題に対処するための統合された技法を教授すること」を目的にしている。マリアン日チャートウ (Marian Chertow) ・プログラム長によると、「環境問題の将来を考えると、企業は最大のプレーヤ 1 だ。だからそれに対応したカリキュラムを作って、企業が次世代の環境を管理する方法に対して影響を与
demic discipline) が主導的役割を果たさないようになっている」という点だ。 プルーワ 1 氏によれば、これらの三つのスクールには歴史的なつながりもある。エール大学の & の 数人の卒業生がデューク大学の環境スクールで教えている。 & の卒業生は、ミシガン大学の & にはプルーワー氏がおり、ミシガン大学の他の学部にも数多くいるという。林学においてミシガン大学と デューク大学もつながっている。「三校の間には、友好的な競争という伝統がある」とプルーワ 1 氏は言う。 以下では、ます、私が行くことにしたエール大学の & について詳しく触れ、それからミシガン大学と デューク大学の環境スクールについて紹介する。なお、これら三校の連絡先およびインターネット・ホーム ページについては巻末資料 4 を参照。 エール大学の林学環境学スクール エール大学の林学環境学スクールは、一九〇〇年にエール林学スクール (Ya1e F 。「 2 Sch001) として設 立された。設立責任者のひとり、ギフォード日ピンショー (Giffo 「 dPinchot) 氏は、セオドア日ルーズベルト ヒンショ 大統領の政権で活躍し、アメリカ農務省林業局 (USDA Fo 「 est Service) の初代長官となった。。 氏は「天然資源の保護 (conse 「 vation of natu 「 al 「ワ ou 「 c ワ ) 、という一一一口葉をつくり、保護 (conse 「 vation) を 「現在と将来の世代のための地球の賢明な利用」と定義した。このピンショー氏の資源保護ビジョンを教育 と実務の現実に置き換えることがエール大学の林学スクールの使命とされてきた。以来、同校の卒業生は三 五〇〇名を超えている。七二年には「林学が広い意味で人類の利益ための生態系の科学的かっ長期の管理に 6 2
4 章でも紹介したように、自転車などの盜難はエール大学では深刻な問題だった。 ■キャリア開発オフィス ()a 「 ee 「 Development Office =020) ◇「ワシントン・キャリア・デーは二月一〇日です。ナンシーかピーターに事前に申し込んでください。」 ◇「ニュー・イングランド / ポストン・キャリア・デーは二月二四日にポストンのユニオン・クラブで開催 します。参加希望者は申し込んでください。 キャリア・デーとは、卒業生の就職活動の便を図るために大都市に企業関係者と & の学生を集め て開かれているものである。 g-v & co の学生がワシントンやポストンに準備した会場に集まり、そこに企業 の採用担当者を招いて、面談を行う。デューク大学の環境スクールとの共同開催も始めていた。同じエール 大学でも、ビジネススクールに相当するのほうでは、数多くの企業が大学を訪問して採用活動を行っ ていたが、 g-v & にわざわざ来てくれる企業はあまり多くなかった。「こっちから出かけないと、企業が 会ってくれないんだから、 & もまだまだだよーと、友人がばやいていた。 ◇「世界自然保護連合 (*>OZ) および世界銀行のインタ 1 ンシップの申し込み締め切りは二月一五日で す。環境保護庁 (æ ) は二月二二日、サスマン・フェローシップ (sussman FeIIowships) は二月二三 日、ジュビッツ (Jubitz) は二月二八日です。」 ◇「アトランティック環境センター (QLF Atlantic Center fo 「 the Environment) の夏のインターン その後に面接を行います。二月六日までに シップに関する説明会を二月七日火曜日の午後一—二時に行い、 申し込むこと。ユナイテッド・テクノロジーズ社の環境衛生・安全部門の夏のインターンの面接を二月二二 116
■資金援助 (FinanciaI Aid) ◇「各種の専門家会議に参加する修士コース生に対して部分的支援ができます。正式な発表を行うか、他の 機関からの補助金を受けている学生に優先的に割り当てます。三月—八月までの期間の会議に関する締め切 りは二月一七日です。 これは各種の学会などへの参加のための援助だが、少額とはいえ一般的な奨学金もある。卒業生や各種 企業、団体からの寄付などを財源に、毎年合計数万ドルの & の奨学金が学生に割り当てられる。私は、 二年目に二〇〇〇ドルを支給してもらうことができた。この他にも、分野や応募資格を限ったものがほとん どだが、外部機関が提供するさまざまの奨学金がある。 ー学生からのお知らせ (Students' Announcements) ◇「今週末の ( 国際熱帯雨林学会 ) の開催のためにボランティアが必要です。掲示板に名前を書き 込んでもらうか、ロビン、 リディア、またはテレックに連絡してください。」 学生たちは、にしい中、ボランティアによってこういう会議の運営を行っていた。また、コミュニティ 活動などのボランティアに積極的な学生も多かった。には、地域社会との交流のなかで環境保護に 取り組む都市資源イニシアテイプ (Urban Resources lnitiative) という組織がある。この組織を通じて、毎 年の夏に、低所得層が多い都市地域 ( ポルティモアなど ) に行って、住民と協同で環境保護活動に取り組む 学生グル 1 プもいた。コーホン・スクール長も、毎年、夏にはこうした活動に一部加わっていた。環境社会 学を学ぶ学生たちが、ニューヘイプンの市民、子どもたちと強力して、ゴミが散乱している廃運河の跡を有 118
( 〔〕内は筆者注 ) 。 卒業生は社会に貢献できるか & における二年間の修士課程を終えた卒業生は、社会に対して十分な貢献ができると思います コーホン環境管理の分野では、米国内、そして世界全体でも、今、非常にダイナミックな変化が起きて いる。米国の法体系も今この瞬間にもどんどん変化を遂げている。企業は、法律が変わったことによる面も 大きいが、以前より社会的責任に目覚め、自発的に環境問題に対応するようになってきた。環境対策に積極 的に取り組むことでコスト削減も実現できる。こうした根本的な考え方の変化が当校卒業生への需要の増加立 にもつながってきた。 つまり、政府も企業も変わりつつある。大きな全国的環境保護団体は、法律の変化の過程にも大きな影響 レ を与えたが、自らの役割についての再検討を始めている。人気を失って会員の数が大きく減り、財政的に苦一 しくなったものもあるようだ。分裂も進んでいる。多くの地域レベルの環境団体が設立され、企業や政府たス けでなく、全国的環境団体を批判する状況も生まれている。 これらのそれぞれの変化のなかで、 & が輩出すべき卒業生とは、我々の伝統を大切にしつつ、同時章 に柔軟性を持ち時代の変化に迅速に対応していく能力を持つ人材だ。ここで必然的に学際的アプローチが重 要になる。科学を理解するとともに組織行動学、経済学、政治学、そしてもちろん社会学の面から環境問題 0 2 を理解することも重要になる。この点では、私は & の提供している教育についてはかなり満足してい カ