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検索対象: 地域に生きるミュージアム : 100人で語るミュージアムの未来Ⅱ
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1. 地域に生きるミュージアム : 100人で語るミュージアムの未来Ⅱ

で新たなビジネスが参人してきたか、といった具合です。価値の計測は個々のプロジェクトレベルで 行われることもあれば、特定の文化施設に関してということもあります。もしくは、町や地域、芸術 形式などのようにいくらか集合的なレベルを対象とする場合もあります。 これらはすべて、多くの落とし穴や実務上の難しさをはらんでいます。一つは相関関係と因果関係 の区別が難しいという問題です。ある子どもがよい行いをするようになったとして、それがミュージ アムに行ったからなのか、コンピューターゲームをしたからなのか、誰にわかるでしよう ? 二つ目 は、文化体験の主観的性質に関連します。ある子どもたちにとってはよかった体験も、別の子どもた ちにも同じ影響を与えるとはかぎりません。三つ目の問題は客観性があるかどうかです。研究の多く は文化施設が自らを正当化するために行われています。 ただ、このような難しい側面がありながら、この一〇年の間に文化に関わるあらゆる分野で、この 「手段的価値」を証明するためのおびただしい数の研究がなされてきました。すでに多くの事例が知 られていると思いますが、ご存知ない方は、英国の博物館協会やアーッカウンシル、または米国の主 要な助成団体のウエプサイトをご覧になるといいでしよう。 〇共同体的価値 ここで私が「共同体的価値Ⅱ一 ns ( 一 ( u ( 一 ona 一 value 」と呼んでいる、三つ目の価値を見てみましよう。 文化施設の活動全般に関わる、ミュージアムにとって重要な価値です。文化施設は公共領域の一部で あり、それらの施設が何を行うか、どのように行うかによって価値が生み出されます。文化施設は市 民との相互作用の中で、人々が相互に信頼することや、公正で平等な社会に生きているという感覚を 53 基調講演Ⅱ「民主主義社会における文化の価値」 ( ジョン・ホールデン )

2. 地域に生きるミュージアム : 100人で語るミュージアムの未来Ⅱ

りがたい手応えだと思っています。参加された方は皆ご自分 ・「アーカイブズ」分科会の成果 なりの宿題を持ち帰られたと思いますし、私自身も、たとえ アーカイブズ分科会を全体として振り返りますと、企画者ば図書館関係者を中心に運営している研究会に関わり、デジ タル文化資源の活用に関わる議論を行っていますが、 の手応えとしては、一定の成果はあったと思っています。 ジアム・サミットに参加したことが議論を深めていったこと アーカイフズという、これまでのミュージアム・サミット を強く感じています。 の中ではおそらくあまりなかった視点が人ったことは、非常 に重要だと思います。連携というのは、言葉としては 2 ・「選ふ、残す / 遺す、伝える、使う」 よく言われますが、理論面や組織間の話が先行してしまいが ーー背後にある主体の多様性 ちです。しかし、今回は分科会にミュージアム関係者ととも に、実務者も含めたアーカイブズ ( 公文書館 ) とライプラリー 、にーも・内 ミュージアム・サミットの最後に分科会のメンパ ( 図書館 ) の分野の方々が実際に参加されたことで、具体的な 容を諮って成果報告を行った際に、三点を報告しました。ま 議論や顔の見える関わりが得られたと思います。 ず一つは、分科会のタイトルである「選ぶ、残す、伝える、 消化不良感がないかと言えば、もちろんそれは否めません が、それはこのようなシンポジウムでは常につきまといま 使う」という一一一一口葉に関わる議論です。この言葉の選択につい ては、企画グループ長として私が提案し、最終的に決めたも す。しかし、ある種の理解、共有と相互の関係構築が進み、 のですが、それをめぐっていくつか議論がありました。まず、 それがきちんと持続しているようだ、ということは非常にあ テーマ O グループ長報告 岡本真 ( アカデミック・リソース・ガイド株式会社代表取締役・プロデューサー ) 151 テーマ C : グループ長報告

3. 地域に生きるミュージアム : 100人で語るミュージアムの未来Ⅱ

なく、まさしく胸襟を開く雰囲気のなか参加者全員で傾聴した経験も、その優れた内容とあいまって、 今回のサミットを成功に導いた一因であったと思います。 第一日目の池澤夏樹氏よる講演は、ミュージアムの熟達した利用者、達人といってもよいかもしれ ませんが、というものが、どれほど豊かに、そこから夢想をつむぎだし、さらにそこを出発点に旅に 出て世界を直接体験することができるのか、という参加者のだれもがそうしたすばらしさを人生のあ い一つなら る時点で知ったからこそ、ミュージアムに直接的・間接的に関わるしごとを選んだはずの、 ばわたしたちの「原点」を改めて教えてくれる感動的な話であったと思います。この原体験の共有が なければなにごともはじまらない そう聴衆に感じさせずにはおかない力と熱がしつかりと込めら れていて、飄々とした語り口ながら、ときにイラクやアフガニスタンでの戦争や略奪といった深刻な 問題にも触れつつ、まさしく優れたミュージアム・ユーザーの謦咳に直接触れる、愉院に溢れた味わ い深く示唆に富んだ内容であったと思います。 この基調講演を受けて、自分たちのミュージアム体験を各テープルに分かれた参加者同士で語りあ うフロア・ディスカッションを経て、一部同時平行しながら分科会を開始したことで、参加者は、な ぜ自分はミュージアムが好きなのかという、自分自身の根拠を新鮮な気持ちで確認し、それぞれの現 実に横たわる問題点をよりいっそう身近に感じながら、分科会でそれらを掘り下げ、現場で役立つよ うないくつかの具体策を浮きばりにすることができたのではないでしようか。 一方、二日目のジョン・ホールデン氏の講演では、イギリスでの文化政策の立案に関わった豊富な 経験を背景に、文化施設であるミュージアムにとっての「文化」を再定義するために有効な枠組みが 提示されました。「本質的価値」「手段的価値」「共同体的価値」の三角形というスキームは、今回の 「アド・パルナッソス再び」 ( 水沢勉 ) 207

4. 地域に生きるミュージアム : 100人で語るミュージアムの未来Ⅱ

仮想評価法は確かに有効ですが、この手法はあまりに還元的で「本質的価値」の全体像を隠してし まうと個人的には感じています。それよりも、オーストラリアの文化経済学者デヴィッド・スロス ビー教授の、精神や感情といった価格のつけられない価値に言及している学説に私は注目していま す。教授はその学説の中で、無形ではあっても市場価値を超えたものが存在していること、また、個 人の文化的体験の本質的な主観性についても認めています。スロスビー教授の本は、日本語にも翻訳 されています ( 『文化経済学人門】創造性の探求から都市再生まで』日本経済新聞社、二〇〇一一年 ) 。 〇手段的価値 対照的に、一一つ目の「手段的価値 =instrumental value 」は客観的な概念を扱うもので、本質的価値 とは異なる考え方が必要となります。そこでは文化は、たとえば経済再生や成績の向上、患者の回復 時間の短縮など、別の目的を達成するための手段としてとらえられます。これらは文化の波及効果で あり、実際にはほかの方法でも同じような結果が得られることがあります。 文化が経済的、社会的な意味で社会にとって役立っことは皆さんご存知かと思います。たとえば、 ミュージアムやギャラリーの新設により、周辺地域の経済活動が活性化されるといった経済再生が起 こりえます。また、観光産業への影響もあります。英国の観光名所トップテンの内、実に九ヶ所が文 化に関連するものです。病院に絵画を飾ったり、美術クラスを設定したり、アーティストや学芸員が 学校や刑務所、老人ホームなどを訪れることによっても、それぞれの場所で効果が得られるでしよう。 「手段的価値」を測るには客観的な利益をとらえる必要があります。一定の期間内の観測可能な変 化について間うのです。子どもたちの態度は改善されたか、再犯率は減少したか、画廊ができたこと 第 1 部いま、ミュージアムに求められること

5. 地域に生きるミュージアム : 100人で語るミュージアムの未来Ⅱ

今日は「なぜ、創造カか」というタイトルで、ホールデン すが、資金の大部分を助成金として多様な文化団体やプロ さんが講演された、「文化の価値」の背景について、多少な ジェクトに配分しています。配分の責任は、無報酬の評議委 りともお話しできればと思います。 員たちから成る統治機構としての評議会 ( カウンシル ) で決定 されます。実務は、専門職であるスタッフが担います。政府 —イギリスの文化政策か与える影響 とアーッカウンシルの間には、芸術の自由と独立を重んじ、 「アーッカウンシル」に関わる動き 政治・行政が芸術を過度に統制することを避ける「アームズ・ レングスの原則」が存在しています。政府は芸術に対し資金 まず、第一点ですが、最近、英国の文化政策の影響や、文提供を行いますが、その使途や助成を受ける芸術の内容につ 化に関して世界的な動向と絡めた議論が、大きく起きてい いての判断は専門家に任せ、意思決定からは一定の距離を置 るように思います。日本においても文化庁や自治体などで、 くという原則を遵守し、アーッカウンシルは助成決定に関し 「アーッカウンシル ( 芸術評議会 ) 」を設立しようという動きが 独立性を保っています。 生まれてきています。 こういった考え方が日本でも議論されるようになってきて 「アーッカウンシル」とは、文化政策推進の主体となる機 いる、ということです。アーッカウンシルには文化政策や芸 関です。英国では、一九九七年に文化省が創設される以前は、 術の各分野の専門家が集まってきて政策を決定、あるいは方 アーッカウンシルが文化政策を担っていました。アーッカウ針を考えていく役割があります。もちろん、このアーッカウ ンシルは、政府から補助金が拠出されて活動している団体で ンシルのスタッフは、専門家ーーたとえば美術館についてで 解説 なぜ、創造カか ? 菅野幸子 ( 国際交流基金情報センタープログラム・コーディネーター ) 部 第 れ め 求 ム ア ジ ュ

6. 地域に生きるミュージアム : 100人で語るミュージアムの未来Ⅱ

人ります。であればミュージアム・サミットのミュージアムは従来の美術館に限定せず、大震災で のではないか。 公共の文化施設は一様に被災した状況を考えると、図書館などにも館種を広げていい ミュージアムの内と外を結びつけるのは神奈川県の第三セクターである我々財団の役割でもあるし、 各館に共通する課題を討議することによって、かえって美術館なり博物館固有の間題点も浮かび上 がってくるのではないか、と考えてみました。 なんといってもこの試みが成功するか否かは、分科会次第です。そこで分科会を構成するため、三 つほどの要件を決めました。 まずはそれぞれの分科会を仕切るグループ長をだれにするのかです。委員長はミュージアム・サ ミットの当初から監修者をお願いしている大原美術館の高階秀爾館長、埼玉県立美術館の建畠晢館 長、兵庫県立美術館の蓑豊館長になっていただいたので、グループ長は中堅で実務に詳しく多様な ネットワークをもっ方々に打診しました。その結果、マネジメントでは東京都美術館の佐々木秀彦交 流係長・学芸員、リテラシーは国立科学博物館の小川義和学習企画・調整課長、アーカイブズはアカ デミック・リソース・ガイド株式会社代表取締役の岡本真プロデューサー、企画とパプリック・リレー ションは千葉市動物公園飼育課の並木美砂子主査にお願いすることができました。 皆さん、いずれも一線でばりばりと仕事をされている方々で超多忙です。にも関わらず、分科会メ ーの人選、現状分析から何をどう扱い、当日はどんな組み立てをして一定の結論に導いていくの か等々、討議を重ねてくださいました。サミットへ向けての準備は、五月末ぐらいからはじめ一一月 あたりをピークに二月の開催間際まで、半年以上にわたっています。今回のサミットが成功したとの 評価を得るならば、それは知恵と工夫をしてくださったこのグループ長の皆さんの力量にあったと感 227 おわりに

7. 地域に生きるミュージアム : 100人で語るミュージアムの未来Ⅱ

グループワークまとめ グループワークまとめ 177 丁ーマ D 「海の見える町・心のふるさと美術館」 テーマ D グループ 1 コンセプト コミュニティー放送 グループ 2 新しい出会い 学校との連携 展示 イベント 「地域コミュニティーと人間回復ーアートで語って癒します」 5 万人の町民にコミュニティー放送で呼びかけ、館長を選挙で選ぶ。 美術館が地域コミュニティーの核となるように、イベントを開催。 4 月・地域の若者 によるレストランをオープン、スケッチ大会。 5 月・町内対抗運動会。 8 月・盆踊り 大会、元の学校の同窓会。 「心のふるさと美術館」 1 部屋に 1 点、 4 ~ 6 月に 3 回に分けて作品展示。作品それ ぞれに絵本の読み聞かせ、「昔を語ろう」、アートスポット巡りなどイベントを行う。 7 ・ 8 月に全作品を展示、 9 月にベストワンを 1 点だけ展示。アート市も行う。 高校生以下の児童約 5 , 000 人全員を美術館に招待。 居住地域や世代を越えた町の住民や元住民のあいだの交流。 「海猫町立・海の見える小さな美術館」 リニューアルの基本方針地元の人が地元に向けて、「町の宝」と思える夢のある美術館を作る。 海猫町の状況 運営体制 プログラム 新しい出会い グループ 3 大都市から少し離れた海の見える小さな町。小学校 8 校、中学校 6 校、高校 2 校。 七割ほどの世帯が三世代同居。 365 日開館 ( 10 時から 18 時、土曜日 20 時 ) 。入館料は高校生以上 200 円、町民は 無料 ( 年間パスポートの発行 ) 。寄付の募集、募金箱の設置などするが、基本的な財 源は町の予算。アウトリーチに参加した人も含めて 1 万人の利用者を目指す ( 入館者 数だけで評価しない ) 。 基本方針は「やらないより、やったほうがいい」。「来てもらう系」町民からガラクタ や古着を集めて、収蔵作品を再現する ( 日常生活のなかにアートがあることを感じ る ) 。地元出身作家のルーツを探り、利用者が作品キャプションを書く。学芸員が作 品への「想い」を解説。「押しかける系」駅、役場、病院、学校、商店街、どこにでも 作品をもって見せに行く。長期プランとして、コンセプトの一貫した収蔵作品に整え ていく。既存作品を売却した利益で地元の若手作家を育成。 美術好きに限らず、町の誇りである美術館をサポートするボランティアを登録。 「海の見える町・心のふるさと美術館」 基本コンセプト プログラム 「 WantedF. B. 冂作品収集から広がる人とのつながり FBI は「ふくろう市立・美術館・インステイチュート」の略。作品の「捜索願い」を出 し、地元の作品、作家の情報を求める。地元作家の情報を収集する一方、ボランティ ア募集にもなる。元の学校の卒業者全員に DM を送り、作品を持ちよる同窓会を開 催。学芸員と専門家のコメントと作品を持ってきた人が想いを語るプレ・イベント。 「 WANTED 展」収蔵作品 4 点を、それまで集めた情報とともに展示。作品にまつわる ストーリーの脚本を募集し、選ばれた作品を舞台上演 ( 地元の市民劇団の協力 ) 。