らには地域を構成する人材として「市民」が想定できる。 領域—は、教員と学芸員のミュージアム・リテラシーを 示している。領域Ⅱは、市民 ( 利用者 ) と学芸員のミュージ アム・リテラシーを示している。領域Ⅲは、市民と教員の ミュージアム・リテラシーを示している。領域Ⅳは、市民と しての基本的な資質能力 ( 生きるためのカ、コミュニケーショ ン能力など ) を示している。領域Ⅱにおいて、利用者側から 見たミュージアム・リテラシーとは、ミュージアムを理解し、 主体的に活用する素養を示す。 カ 能 て ーレ ュ レ」 員 芸 学 「学校」 教員としての資質能力 領域い を領 領域卅、。 , 領域 , 第地域亠 市民としての素養 学校がミュージアムを利活用する際に、その間をつなぎ、展 開する能力を「教員のミュージアム・リテラシー」と考える。 さらに学校教員が地域の学習資源を活用する能力を「地域活 用力」 ( 領域Ⅲ ) と考えられる。 分科会では、。ヘン図の市民 ( 領域Ⅱ ) 、教員 ( 領域—・Ⅲ ) 、 学芸員 ( 領域—・Ⅱ ) の立場からミュージアム・リテラシーに ついて話題提供をお願いした。 ( 2 ) アウトブット 分科会で期待されるアウトブットして、以下の四点を目標 とした。 5 アム側から見た 和ミュージアム・リ 1 ) ミュージアム・リテラシーを議論することで、ミュージ テラシーとは、 アム・学校・公民館などの使命が異なる機関をつなぎ、共通 成用者のミュージア の土台で議論できる。 構 のムへのアクセシビ 2 ) ミュージアム・リテラシーという考え方は館種・領域を ラリ一一アイ に配慮超えて共通の上台で何を目指しているのかという理念や目標 し、その主体的活 について議論できる。 ア用と地域参画力を 3 ) ミュージアム・リテラシーという考え方を導人すること 一促す運営の能力を により、博物館運営と人々の博物館理解のあり方を参加者そ 示す。また、領域れぞれの立場から明確にする。 図 —とⅢにおいて 4 ) 何のためのミュージアム・リテラシーか、その先にある 119 テーマ B : グループ長報告
人々もミュージアムを積極的に主体的に活用して豊かな人 から面白い」と提言していた。教員のミュージアム・リテラ 生をつくるためのミュージアム・リテラシーの進化の姿」で シーは、学校の博物館活用能力であるが、その向上のために あり、今後の進むべき方向性の一つである。特に「リテラ は、学校と博物館が相互に違いを理解し、対話をすることが シーは固定したものではなく、進化が欠かせない。市民は大切であり、「型」を先行するのではなく、子どもたちが社 知を介してミュージアムから学び、体験するとともに、市会にある多様な資源に触れて、新しい「型」を作り出すこと 民からも知的資源の提供や協力ができる相互関係の構築を が重要であろう。 することが大切であり、それこそが高めあう、市民とミュ 端山聡子氏には、学芸員の立場から、社会教育、生涯学習 ジアムの関係性である」と述べていた。ミュージアム・リテ という視点から話題を提供してもらった。特に公民館、図書 ラシーは、社会の変化、市民のニーズ、 ミュージアムのミッ館、博物館の比較は興味深いものがあった。公民館の教育活 ションを踏まえ、市民とミュージアムのより良い関係、相動の原点は、「教える者と教えられる者が上と下に対立する 互理解、協働・協創を目指して変化していくものと考えら ようなものではなく、お互いに師となり、弟となって、導き れる。ミュージアム・リテラシーの動的な側面が強調され あう、相互教育」のかたちにあるという。現代的な解釈をす た話題提供であった。 れば、相互学習、協働学習、対話による学習であろう。また 小野範子氏には、神奈川県の中学校での美術教員、教育委 ミュージアムのコレクションについても提一一一一口があった。社会 員会、そして教頭としての経験から話題を提供していただい と市民のニーズが変化していく中で資料の収集の範囲や方法 た小野氏の話題は、なぜ博物館を活用するのかという根源 をどのように策定していくのか。相互学習・対話という観点 的な問いからはじまり、学校教育の現状、活用の事例、今後 から考えると、従来のコレクション対象と収集体系について のあり方について、提言があった。小 野氏は「これから、学再考することも重要な視点であると感じた。 校と博物館が連携するには互いを理解して対話をすることが 三人の話題提供を受けて、ミュージアム・リテラシーは変 大事」や「学芸員と教師がちょうどよい間合いを保つこと。 化するものであり、社会と人々の変化を踏まえ、進化するも 博物館の学校化でもないし、博物館の学校化でもない。違う のととらえることができる。またミュージアム・リテラシー 第 2 部 ミュージアムの価値の実現をめぐって 122
会の提出した指針「対話と連携」は旧聞に属しますが、ミュージアムの内外で、「対話と連携」が必要 なことがますます現在明らかになったことがこの分科会でしつかりと示されたと思います。それぞれ の施設が開設されたときのミッション ( それがないという事実の確認も含めて ) からはじまって、設置 者である首長や国家の統治機構に携わる国会議員〈の有効な働きかけのあり方まで、「マネジメント」 を現場から国政までを含めて幅広く検証し、議論したところにこの分科会の意義があったと思いま す。今後は個別の事例をさらに踏み込んで議論の対象にして問題点を具体的に把握し、そこから翻っ て「モデルなき世界」のなかで、一見「成熟した社会」の体裁と整えているかにみえる日本で、ミュー ジアム・マネジメントのあり方全体をもう一度考えるというステージが必要とされているのではない でしょ一つか 〇ミュージアム・リテラシー 「リテラシー」の分科会は、ミュージアムを利活用する基本的な能力を議論の対象にしたことによっ て、ホールデン氏のいう三角形の価値の図式が機能する前提が検討されたといってよいと思います。 市民参画型社会が、ミュージアムとともに、社会全体の文化の向上を目指すためには、批判的相互理 解が市民とミュージアムの双方に、つまり、ミュージアムの内外の人々に不可欠であることが、「リ テラシー」という考え方を導人することによって明確化される。そのことの現代的な意義を改めて間 うことに本分科会は貢献したと思います。 そして、この分科会の参加者が多様なリテラシーのあり方を現場での体験に基づいて提供してくれ たことによって、リテラシーがけっして固定的で静的なものではなく、動的であり、絶え間なく進化 209 「アド・パルナッソス再び」 ( 水沢勉 )
アム・リテラシーの向上を目的としてプログラムの開発を 6 ・まとめ 行ってきた感があるが、ミュージアム・リテラシーは個々人 で異なる傾向・考え方を示していると考えるのが妥当であろ 本分科会を通じて、ミュージアム・リテラシーというキー う。むしろ地域の社会的課題に対し、個人が持っさまざまな ワードが館種の異なるミュージアムやさらに使命の異なる学見識や経験をお互いに補いあって、人と人が協働して課題を 校・公民館などをつなぎ、共通の土台で目標ゃあり方につい 解決するような、社会全体のミュージアム・リテラシーを高 て議論できた。分科会の個人の取り組みとグループワークを めることが重要である。ミュージアム・リテラシーは時代と 通じて、最初にミュージアムの利用者として参加者の立場を とともに変化する動的な能力であり、市民とミュージアムの 明らかにし、利用者から見た課題を抽出した。その結果、フ 相互作用の過程でもあり、さらに多様なミュージアム・リテ ラットな空間を作り出し、さまざまな立場の参加者が同じ目 ラシー観があると考えられる。そう考えた場合、個々人が 線でミュージアムを語ることができた。利用者の立場から出持っミュージアム・リテラシーをつなげ、交流する活動が ミュージアムに求められているのではないだろうか てきた課題は、現実感があり、参加者皆が納得できる課題で あった。その課題をミュージアム側が解決していく過程で、 ホールデン氏の提唱する三つの文化的価値 ( 本質的価値、 参加者自身が成長し、ミュージアム・リテラシーを高めるこ 手段的価値、共同体的価値 ) を今回の分科会のアウトブットと とができたのではないかと思う。さらに最後の発表とワーク 比較してみると、本質的価値は個人レベルで体験できる価値 シートづくりを通じて、何のためのミュージアム・リテラ で、個人的価値と言い直しても良いかもしれない。手段的価 シーなのか、その先にあるものを参加者それぞれの立場から 値は、ミュージアムの社会的インパクトに相当するもので、 明確にすることができた。 測定が可能であり、ミュージアムの評価対象になりやすい社 ある班の成果発表の中で、リテラシーは目標ではなく、個会的価値と一一一口える。共同体的価値は、課題として取り上げた 人が多様なリテラシーを持っことを前提に、それらをつなげ専門性など、一義的には博物館組織としての学術的価値を意 るプログラムの企画提案があった。これまで個人のミュージ 味するであろう。この三つの価値はいつの時代にも要求され ミュージアムの価値の実現をめぐって 126 第 2 部
るミュージアムの基本的価値であり、それらのバランスを取 りながら経営をしていく必要がある。参加者は、これらの基 本的価値のパランスを取りながらミュージアム・リテラシー を高める企画について議論してきたと言えよう。 さらに、分科会で議論された社会や文化のあり方が、一一一 世紀の新たなミュージアムの価値創造の可能性を暗示してい る。私は、これらの基本的な価値に加え、市民とミュージア ムの批判的相互理解による、協働・協創的価値が重要である と思っている。未曾有の震災を経験し、社会的課題に対し て、人と人、人と社会のつながりの中で協働、協創して、解 決することが求められている。三つの価値 ( 個人的価値、社 会的価値、学術的価値 ) をつなぎ、人々が協働体の一員として 存在することを意識し、知を獲得し、共有し、創造する過程 に価値を見いだし、その結果、個人が成長し、社会が文化的 に成熟していくことにつながる。それは、時代とミュージア ムを取り巻く文脈により動的に進化し続ける価値である。変 化する社会と個人をつなぐ動的なプラットフォームとして、 ミュージアムには今後どのような機能や役割が求められるの か。私たちは、ミュージアム・リテラシーという「終わりの ない旅」に踏み出し、議論を続けていこう。 【引用文献】 ・佐藤学、二〇〇三】「リテラシーの概念とその定義」「教育学研究」第七〇 巻三号、二九二ー一二〇一頁 ・ Stapp, C., 一 984 【 "Defining Museum Literacy", 0 ミミミ b 誉 R き 0 、・ ts, 9 ( 一 ). 3 ム . Reprinted in: Nich01s, SK. 1992 'Patterns in Practice: Selections from the Journal of Museum Education',Walnut Creek: Left Coast Press, 112 ー・ = 7. 川義和、二〇一〇】「科学系博物館の社会的役割の変化とミュージアムリ テラシー」『科学系博物館における学校利用促進方策調査研究報告書ーー教員の ミュージアムリテラシー向上プログラム開発』 ( 財 ) 全国科学博物館振興財団 【参考文献】 〇博物館教育の観点からの議論の整理 ・長崎栄三、二〇〇六【「科学技術リテラシー構築のための調査研究ーーサプ テーマ 1 】科学技術リテラシーに関する基礎文献・先行研究に関する調査報 告書」国立教育政策研究所 〇博物館行政の観点からの議論 ・山西良平、二〇〇八】「公立博物館の在り方をめぐって」「博物館研究」 四三巻一二号、二一ー二五頁 〇博物館利用に関する能力についての議論 ・佐藤優香、二〇〇三】「 ミュージアム・リテラシーを育むーー学校教育にお けるあらたな博物館利用を目指して」「博物館研究」三八巻二号、六ー一〇頁 ・田邊玲奈・岩崎誠司・亀井修・小川義和、一一〇〇五】「異分野の博物館連携 によるミュージアム・リテラシーの育成ーー国立科学博物館の上野の山ミュ ジアムクラブを事例に」『日本科学教育学会年会論文集』一一九号、一三ー一四頁 ・」川義和、一一〇〇九【「科学系博物館と大学の連携による人材養成プログ ラムの課題と展望・・ー米国の科学系博物館における教員養成・研修プログラム を事例に」『科学技術コミュニケーション』五号、六九ー七八頁 127 テーマ B : グループ長報告
委員長 〈分科会〉テーマ ミュージアム・リテラシー 建畠晢 ( 埼玉県立近代美術館長 ) 企画グループ・話題提供 高めあう市民とミュージアム / 川義和 ( グループ長 / 国立科学博物館学習・企画調整課長 ) 小野範子 ( 茅ヶ崎市立小和田小学校教頭 ) 今回の未曾有の大震災に際し、市民が地域の課題に対して主体的佐藤優香 ( 国立歴史民俗博物館助教 ) に取り組み、対話を通じて協働して解決していくことの重要性があ端山聡子 ( 平塚市社会教育課学芸員 ) 話題提供 らためて認識された。このような社会変革の時代にあって、ミュー ジアムは議論をオープンにして人々の対話を促進し、市民とミュー 西田由紀子 ( よこはま市民メセナ協会会長 ) ジアムの創造的相互作用 ( ミュージアム・リテラシー ) を高め、両者 の協働・協創による市民参画型の社会の実現に寄与することが求め られている。 この分科会では、市民が単にミュージアムが提供するものを受け 取るだけでなく、自らの社会に必要な場としてミュージアムの価値 を主体的に読み解き、かっ働きかけて、ミュージアムと相互に作 用するあり方 ( Ⅱミュージアムと市民が高めあうミュージアム・リテラ シーのあり方 ) を考察する。 ミュージアム関係者 行政職員 大学教員 / 研究員 分科会参加者 21 名 〔内訳〕 ミュージアム関係者 ( 館長、 学芸員など ) : 9 名、大学教員 / 研究 員 : 4 名、企業関係者 : 1 名、行政職 員 : 2 名、学生 ( 大学、大学院 ) : 2 名、 文化団体など : 1 名、教員 ( 高校 ) : 1 名、その他 ( ボランティアなど ) : 1- 名 第 2 部ミュージアムの価値の実現をめぐって国
アムも独善性を修正することができるだろうと思います。市た。今回の議論がたい〈ん豊かになったのは、美術館、自然 史系と歴史系の博物館、文書館、図書館といった、ふたんは 民社会の側のミュージアムに対するリテラシーが、学芸員、 一堂に会せないような人たちが、同じテーマのもとに集合し あるいはミュージアムの側の、社会に対応するためのリテラ て議論を交わすことができたことが大きいと思います。もち シーを涵養していくだろうという前提があります。これが、 ろん専門家だけで集まれば問題もおのすと共有され、すぐに 分科会の背景となる考えであったように思います。 専門的な話に人っていけるという良さはあるのですが、今回 ただ、肝心の「市民」とは何かということは、はっきりし てないわけですね。とりあえず地域社会の住民や納税者と考は幅広い意味でのミュージアムの関係者が集まったことで、 えることができますが、ミュージアムには観光客も来ます美術館の人間である私にとっても刺激的でしたし、文書館や 自然史系の博物館の方にとっても、何か得るところがあった し、外国人も来ます。あるいは市民意識というものが、地域 のではないかと想像いたします。 しかし、 ~ 巾 住民に涵養されているわけでは必ずしもない 最後に一つだけ、別の分科会になりますが、私も強い関 民社会を前提としてミュージアムは成り立っている以上、 心を持っているアーカイブズについて付け加えておきます。 ちょっと順番は逆になりますが、事後的であれ市民と呼ばれ アーカイプは、これから非常に重要な問題になってくると思 る人々を創出していかなければ、ミュージアムは生き延びら います。私は「創造のためのアーカイプ」と言っているので れないだろうと私は思います。それをちょっとキザな言葉で すが、アートで言えば、アーティストにとっての生産の現場 すが、「美術館による緩慢なる市民革命」という言い方をし におけるアーカイプの意味というものにも踏み込めるのでは たことがあります。あくまでもミュージアムは、社会的な基 ないかたとえば古くはフロペール、あるいはヴァルター 盤の中で位置づけられることによって健全なあり方をするは べンヤミンの。ハサージュ論などは、アーカイブズとして一つ ずです。そういう意味で、「リテラシー」とは非常に刺激的 の作品が成り立っているわけです。このように、アーカイプ な視点になりうると思います。 自体が創造行為として成り立っているのではないかという発 分科会は、そのように非常に有益かっホジテイプに、最終 しいと思います。わかりやすい例を出し 想が、もっとあると、 的には美術館、博物館というものを肯定する方向で進みまし 一三ロ 全
ミュージアム・リテラシーを このような認識をもとに、 の側面があると指摘されている〔佐藤学、二〇〇三〕。大学の教 養教育としてのリテラシーは、いろんなものを読んで、自分市民とミュージアムの相互作用の過程と考え、今回分科会 のテーマを「高めあう市民とミュージアム」とした。市民が でかみ砕いて、文化として楽しむ力である。その後、中等普 ミュージアムを利用し、その内実を理解し、時には批判し、 通教育において基本的な読み書き能力がリテラシーである、 ている。私は、社会の変化に対応支援する一方、ミュージアムが市民のニーズを理解し、その という理解が現在まで続い してリテラシーの意味が変わっていくものだと考えている。 ニーズを踏まえつつも、時には使命と葛藤し、互いに協働し リテラシーの現代的意義をもう一度探らなければいけない時 て、よりよい地域社会・文化を創造していくことが、ミュ ジアム・リテラシーの目指すものである。それには、批判的 期になってきている、というのが今回の分科会の趣旨でもあ る。近年の議論では、「—ができること」という能力を前提思考力の育成による個人の自立と、社会における対話と協働 が必要である。そこでは市民とミュージアムが緊張関係にあ に議論されることが多く、これらには変化する社会において る中で相互理解を進めることになる。本分科会では市民と 知識を活用し、課題を解決する能力という含意がある。 ミュージアムの批判的相互理解をミュージアム・リテラシー さて最初にミュージアム・リテラシーを定義したスタップ と考えた。 によれば「基本的なミュージアム・リテラシーとは、資料を 解釈する能力を意味し、十分な『ミュージアム・リテラシー』 ミュージアム・リテラシーの構成 とは、博物館の所蔵資料やサービスを、目的を持って自主的 図 1 は、ミュージアム・学校・地域におけるミュージア に利用する能力を意味する」「博物館側は、利用者が展示や 出版物、活動から図書館、研究コレクションや職員の専門家ム・リテラシーの構成要素と範囲を示している。「地域」は 「ミュージアム」と「学校」を包含する概念であるが、地域に としての知識まで、目的を持って自主的に博物館のすべて おける教育的役割を担う機関として、「ミュージアム」と「学 の資源を利用することができるようにすべきである」〔 Stapp, 校」に焦点化した。また「ミュージアム」を主に構成する人 c し 984 〕としており、利用者のみに要求される能力ではなく、 材として「学芸員」、学校を構成する人材として「教員」、さ ミュージアム側にも必要な能力である。 ミュージアムの価値の実現をめぐって 118 第 2 部
り、「背景となる考え方」では、具体的な提案を生み出す元 的価値を基軸にしたミュージアムの潜在的可能性に関する課 になる社会的背景やミュージアムの課題などに対する考え方 題が見受けられた。参加者には、ミュージアムが学術研究の 場であり、組織としての専門性を高め、研究成果と学術的資を整理して記載する項目である。さらに「利用者にもたらさ 料を継承していくことが基本であるとの認識があった。 れるもの」「ミュージアムにもたらされるもの」「その先に見 える未来、どんな文化が生み出されるか」の項目は、この提 5 ・課題別グループワーク「ワークシートの活用」 案の結果、利用者やミュージアムにもたらされるものを記載 し、さらにそのミュージアム・リテラシーの先にある社会や 抽出された課題別に班をつくり、 活動を開始した。課題に 文化のあり方を共有するねらいとなっている。従来のワーク ショップではともすると、個々の事業・企画のアイデアのみ 対して、参加者個人がアイデア ( 仕組み、プロジェクト、イベ ントなど ) を付箋紙に記人し、提案した。次に模造紙に付箋 で終始し、共有すべき理念の議論がないことがある。逆に、 紙を貼付しながら、その案の背景、利用者のメリット、地域個々のミュージアムの置かれている文脈を無視して、理念的 社会への意義、ミュージアムにもたらされるメリットを議なアイデアのみで議論が進む場合もある。本ワークシートで はこのような過去の議論の事例を踏まえ、各ミュージアムの 論し、班の中で具体的な案を選んだ。最後にワークシート ( 理念・活動企画書 ) の項目にアイデアを記人し、完成させて、 文脈と将来の社会・文化のあり方を踏まえた具体的な提案と 班別に成果を発表した。 することで、理念を共有した上で、各個人が企画を持ち帰り、 このワークシートは、班活動において、ミュージアム・リ 所属する機関への応用ができるようにした。 グループワークでは、対立する概念を共存させる解決方法 テラシーの理念の共有と具体的な事業の提案を行うための シートである。今回企画グループにおいて工夫し、新たに を考えていくことで、利用者側とミュージアム側のミュージ アム・リテラシーを高める企画を提案した。各班の発表 ( 前掲、 開発したツールである。記人すべき項目には、「想定される ミュージアム」「具体的な提案」があり、具体的な企画提案 頁以下 ) では、対立した概念を共存させ、さらに一歩進めて を求めるものである。一方、コンセプトを記人する項目もあ新たな価値創造に取り組む企画を提案した班もあった。 125 テーマ B : グループ長報告
このような課題は、公的な機関だけでは解決することは困 難で、市民一人ひとりの参画とそれぞれの意見に基づいた合 ( 1 ) ミュージアム・リテラシーとは 意形成が必要である。それは、一人ひとりが課題に対し、自 立的に判断し、対話を通じて、合意形成し、協働して解決し ・市民参画型社会における自立と協働 ていく市民参画型社会の実現への過程である。このような状 分科会では、ミュージアム・リテラシーについて議論し 況の中で美術館、歴史博物館、科学博物館、動物園などの た。一日日の池澤夏樹さんの基調講演は刺激的で、震災後の ミュージアムがどのように振る舞い、社会的役割を果たすべ 日本の文化をどのように創生していくかについて、私たち ミュージアム関係者に課題を突き付けられた感があった。震きであろうか。本分科会では社会におけるミュージアムの役 割を「対話を促進することにより、市民とミュージアムの相 災後、社会的状況は変わってきた。公的な機関の発表や科学 互理解が高まり、自立した個人が地域の課題に対して協働し 技術に対する不信感の現れか、主婦が近所の公園や通学路に て解決していく市民参画型地域社会の実現に寄与する」とし 線量計を持って放射線量を測定している様子が報じられてい て、議論を進めた。 る。しかし、別の角度から見れば、科学から縁遠い一般の人 が、放射線量を自ら調べ、その結果を近隣の役場などに伝え、 相互作用としてのミュージアム・リテラシー 放射線量の高い地域が確認されるようになった。一般の人が リテラシーには、「教養」としてのリテラシー ( 大学の教養 科学技術に対し、疑問を持ち、課題解決に向けて取り組んで 教育 ) と「読み書き能力」としてのリテラシー ( 中等普通教育 ) いる姿こそがリテラシーを高めることにつながる。 ・分科会提案 テーマ グループ長報告 川義和 ( 国立科学博物館学習・企画調整課長 ) Ⅱ 7 テーマ B : グループ長報告