ー」よ一つ、か そして最後に、分科会の議論と今回のサミット全体を俯 瞰的に見てみたいと思います。 図 1 「これからのミュージアムのあり方」は、今回のサミッ トの準備段階でお示ししたものです。分科会で主に話題に なったのはのマネジメント、の拠り所です。先程指摘し たようにのガヴァナンスまで掘り下げられませんでした。 そして分科会のリテラシーと分科会の。ハプリックリレー ションでは、のマネジメントとのフォーラムの重なる部 分が議論されたのではないでしようか。そして分科会 C) の アーカイブズでは、のコレクションについてより広い視点 で、連携を視野に議論されました。 この図式は一つの提案にすぎませんが、今回のサミットの 議論と今後のミュージアムのあり方を考えるときの参考にな れば幸いです。 第 2 部ミュージアムの価値の実現をめぐって 102
ときに、どれぐらいの未来を想定すべきなのか、という議論 ミュージアム、ライプラリー、アーカイブズ ( *-2 ) も出ました。確かに一〇〇年後、一〇〇〇年後という話もあ の連携が進んでいることではないでしようか。アーカイブズ るし、あるいは明日役に立つものをとっておくというような の分科会で連携を含めた議論がなされたことは、非常 感覚もありうるのではないか。歴史的な時間の中で何かを残 によかったと思います。この分科会は、グループ長の岡本さ していくという重大な使命感のようなものと同時に、今日の んがグイグイと引っ張り、ユーストリームを使って議論その ものもアーカイプするということで、たい〈ん緊張感のある楽しさを明日友だちに伝えるという行為も一つのアーカイプ であるわけです。アーカイプと呼べるすべての行為、あるい 議論が行われたのではないかと思います。オーソドックスな はそこに込められた考えや意義がすべて震災と結びつけられ 議論の進め方で、とても真剣な、かなり突っ込んだ専門的な 議論が行われたのではないでしようか。岡本さんから何か補てしまう、震災に巻き取られてしまうということは、アーカ イブズを広める上でよいこともありますが、一方でアーカイ 足はございますか ブズの持つ意義や可能性を極端な一面だけに閉じ込めてしま うという不安は感じています。そういうこともあり、分科会 岡本】震災のお話が出ましたが、震災によってアーカイプに の中では震災も含めて幅広い討論ができてよかったと思いま 対する認識が非常に高まったと同時に、扱いが難しくなった す。それは、参加者の方々の多様な視点をとにかく持ち込も とも感じました。アーカイプという一言葉の認知度が社会的に うという姿勢のおかげなのかなと考えております。 広がったこと自体はおそらくよいことだと考えられるのです が、一方で災害に関するデジタル写真のアーカイブズに対し 栗原【では最後に、「企画と。ハプリック・リレーション分科 てのみ認知が進むということは、けっしてよいことではあり ません。ミ、ージアムにおけるアーカイブズの問題も、歴史会」の蓑委員長。私が見ていた中ではもっとも積極的にグ ループワークで発言されていたように思いますが、いかがで 資料の間題も、日常を記録していくということも、同じよう 1 レよ一つ、か に重要だと考えています。 分科会の中で、あるものを「未来に残していく」といった ミュージアムの価値の実現をめぐって 198 第 2 部
りがたい手応えだと思っています。参加された方は皆ご自分 ・「アーカイブズ」分科会の成果 なりの宿題を持ち帰られたと思いますし、私自身も、たとえ アーカイブズ分科会を全体として振り返りますと、企画者ば図書館関係者を中心に運営している研究会に関わり、デジ タル文化資源の活用に関わる議論を行っていますが、 の手応えとしては、一定の成果はあったと思っています。 ジアム・サミットに参加したことが議論を深めていったこと アーカイフズという、これまでのミュージアム・サミット を強く感じています。 の中ではおそらくあまりなかった視点が人ったことは、非常 に重要だと思います。連携というのは、言葉としては 2 ・「選ふ、残す / 遺す、伝える、使う」 よく言われますが、理論面や組織間の話が先行してしまいが ーー背後にある主体の多様性 ちです。しかし、今回は分科会にミュージアム関係者ととも に、実務者も含めたアーカイブズ ( 公文書館 ) とライプラリー 、にーも・内 ミュージアム・サミットの最後に分科会のメンパ ( 図書館 ) の分野の方々が実際に参加されたことで、具体的な 容を諮って成果報告を行った際に、三点を報告しました。ま 議論や顔の見える関わりが得られたと思います。 ず一つは、分科会のタイトルである「選ぶ、残す、伝える、 消化不良感がないかと言えば、もちろんそれは否めません が、それはこのようなシンポジウムでは常につきまといま 使う」という一一一一口葉に関わる議論です。この言葉の選択につい ては、企画グループ長として私が提案し、最終的に決めたも す。しかし、ある種の理解、共有と相互の関係構築が進み、 のですが、それをめぐっていくつか議論がありました。まず、 それがきちんと持続しているようだ、ということは非常にあ テーマ O グループ長報告 岡本真 ( アカデミック・リソース・ガイド株式会社代表取締役・プロデューサー ) 151 テーマ C : グループ長報告
2 日目 二日目は、前日の報告の補足に引き 続き、グループワークを行いました。 分科会参加者は 5 つのグループに分か れて議論し、その間、前日の報告者は ローテーションで各テープルをまわ 議論に加わりました。 分科会 O では、グループワークのア ウトブットの形式を事前に定めること はしませんでした。各グループに求め られたのは、八〇分間の討論で、「選 ぶ」「残す / 遺す」「伝える」「使う」 という四つの行為すべてを話題にあげ て考えることと、結論だけを記録する のではなく、議論の過程で取捨選択さ れたものも含めて、その過程を記録す ることです。 グループワークの後、それぞれのグ ループで話しあったことのまとめと発 表が行われました ( 各グループのまとめ は、頁以下参照 ) 。 阜いにめ・製盟 罅第鷓いい当 第を 0 まい 0 リ ミュージアムの価値の実現をめぐって 130 第 2 部
ますと、クリスチャン・ポルタンスキーの作品とか、ある います。ふだんミュージアムに足を運ばない人たちが、マン いは河原温の《デイト・ペインティング》や杉本博司の《海 ガや映画、あるいはドラマなどを見てミュージアムのことを 景》といった作品など、独創的、創造的な仕事でありながら、 わかってくれるとよいと思います。いろいろなやり方で現場 アーカイブズとしての性格も持つものがあります。そのよう の苦労であるとかミュージアムの裏方であるとかを知っても な議論を包みこむところまで踏み込めれ ) ) ( ししなと、夢を見らうよう、今後ますます努力するべきではないでしようか。 ています。下手をするといい加減な思いっきになりかねない 一般市民のこ、ゝ 尸ーし力にこのミュージアム・リテラシーを ~ 咼め ので、今は発想をお話しするにとどめますが、美術館も広い るか、それについて分科会でも議論があったと思いますが、 意味ではアーカイブズであり、それはさまざまなドキュメン グループ長の小川さんから何か補足はありますか ? トを蓄積する施設であると同時に、その展覧会なり美術館の 活動なりがある種の創造性を帯びてくることの説明にもなる 】先程、建畠委員長からお話がありましたが、館種が異 のではないかと考えています。このようなことも、これから なる機関が集まったことで非常に大きな。ハワーが得られたと 継続して議論していければと思います。 感じました。このように館種が違うメン、、ハーで、ミュージア ム・リテラシーという一言葉について共通に話す場を持てたこ 栗原】ありがとうございました。私も「緩慢なる市民革命」 とは、一つの大きな成果だと思っています。 とは名言だと思っておりました。皆さんにも、建畠さんのご 分科会では、まず本質的価値とは何かという点についての 意見を踏まえた実践をお願いできればと思います。 議論があり、その本質的価値がどのようにして手段的価値や 私も市民革命を進めるべく細々ながら頑張っておりまし 共同体的価値に移っていくのか、という議論になりました。 て、日本ミュージアム・マネジメント学会で一昨年は「マン その価値が移っていくプロセスをつなぐのが、ミュージア ガに見るミュージアム」、昨年は「映画に見るミュージアム」 ム・リテラシーなのではないかと私は考えています。そのプ という発表をしました。次は「小説に見るミュージアム」を、 ロセスを分科会に参加した皆さんにも踏んでいただいたのだ 池澤夏樹さんの作品なども紹介しながら発表したいと考えて ろうと思います。残念ながら時間がなくて完全にまとめきれ 第 2 部 ミュージアムの価値の実現をめぐって 194
くミュージアム・サミット当日にいたるまでのさまさまなステップ〉 回 -f3 回 4 つの企画クループ フ回のミュージアム・サミットでは、 4 つの分科会を設けました。事前に企画グループを構成し、分科会の「ねらい」、 当日のスケジュール、議論の方法や当日利用する資料などについて、何度か打合せをしました。企画段階から、白熱した 議論が展開されていました。 企画クループ長会議 本書 75 頁の概念図にあるように、それぞれの分 科会テーマが今回のサミットでどのような位置づ けになるかを、グループ長同士で共有するため、 事前会議の機会をもちました。この日は、当日の 進行や事務局体制などについても確認を行いまし 運営委員会 サミット当日までに、各分科会の委員長を構成メ ンバーとする運営委員会を、 2 回開催しました。 第 1 回は、過去のサミットを振り返り、今回の 方向性を決める議論を行い、 2 回目は、企画グ ループが準備した企画内容について、大局的な見 地から意見交換をしました。
「話題提供」を、大阪市立自然史博物館の山西良平館長に依 どのような間いを立てたらよいか、それすらわからな 頼しました。大阪市立自然史博物館は、市民参加が盛んな活 そんな不透明な時代にふさわしいコミュニケーションの 動で知られ、さまざまなネットワークのもと、多様な活動を あり方をどう考えるか。二年前に行われた第四回のミュージ 展開しています。山西氏は同館の学芸員出身、現場たたき上 アム・サミットでワールド・カフェの手法を取り人れたのは、 げの館長です。実践に裏打ちされた取り組みや知見に満ちた そうした意識があったからではないでしようか そこで分科会の企画グループでは、進行のしかたを綿密に報告をいただき、グループ討議の呼び水となりました。 話しあいました。多くは初対面の三〇人弱の参加者の関心を 2 ・参加者とその関心テーマ 集約し、濃密な議論をして、具体的かつ効果的なアイデアを 出し、その結果を参加者全員で共有する。限られた時間でで 分科会の趣旨ではまた、参加者に次のようにも呼びかけま きるよう、議論を導き出す過程に留意しました。とはいえ内 した。 容を誘導するような仕掛けはしません。議論の枠組みはつく 「キーワードは『当事者』。職員、ボランティア、利用者、 りましたが、中身については「出たとこ勝負」です。 研究者など立場の違いを問いません。この問題を我がことと してとらえ積極的に関わろうとする人を歓迎します」。 共通の土俵で議論するために〕事前の資料送付と話題提供 これに応えて二四人が集まりました。年齢も異なり、ボラ 多様な参加者が対等に対話するのがミュージアム・サミッ ンティア、学芸員、行政職員、館長、さまざまな領域の研究 トのユニークな点です。とはいえ何らかの共通の上俵がなけ 者、助成団体・など所属とミュージアムと関わる立場 れば話がかみあいません。そこで国内外で「ミュージアム・ もさまざまです。海外からの方もおられました。 マネジメント」とされている事項を選んだ資料を、決定した ーによる課題の発表に続 話題提供、企画グループのメン。ハ 参加者に事前に送りました。この分科会で扱う「ミュージア き、参加者による討議を開始。まず自己紹介と関心あるテー ム・マネジメント」の領域を確かめるためです。 マをキーワードで紹介してもらいました。その後、キーワー また、参加者を触発し、議論の方向性を示唆するための ミュージアムの価値の実現をめぐって 92 第 2 部
るミュージアムの基本的価値であり、それらのバランスを取 りながら経営をしていく必要がある。参加者は、これらの基 本的価値のパランスを取りながらミュージアム・リテラシー を高める企画について議論してきたと言えよう。 さらに、分科会で議論された社会や文化のあり方が、一一一 世紀の新たなミュージアムの価値創造の可能性を暗示してい る。私は、これらの基本的な価値に加え、市民とミュージア ムの批判的相互理解による、協働・協創的価値が重要である と思っている。未曾有の震災を経験し、社会的課題に対し て、人と人、人と社会のつながりの中で協働、協創して、解 決することが求められている。三つの価値 ( 個人的価値、社 会的価値、学術的価値 ) をつなぎ、人々が協働体の一員として 存在することを意識し、知を獲得し、共有し、創造する過程 に価値を見いだし、その結果、個人が成長し、社会が文化的 に成熟していくことにつながる。それは、時代とミュージア ムを取り巻く文脈により動的に進化し続ける価値である。変 化する社会と個人をつなぐ動的なプラットフォームとして、 ミュージアムには今後どのような機能や役割が求められるの か。私たちは、ミュージアム・リテラシーという「終わりの ない旅」に踏み出し、議論を続けていこう。 【引用文献】 ・佐藤学、二〇〇三】「リテラシーの概念とその定義」「教育学研究」第七〇 巻三号、二九二ー一二〇一頁 ・ Stapp, C., 一 984 【 "Defining Museum Literacy", 0 ミミミ b 誉 R き 0 、・ ts, 9 ( 一 ). 3 ム . Reprinted in: Nich01s, SK. 1992 'Patterns in Practice: Selections from the Journal of Museum Education',Walnut Creek: Left Coast Press, 112 ー・ = 7. 川義和、二〇一〇】「科学系博物館の社会的役割の変化とミュージアムリ テラシー」『科学系博物館における学校利用促進方策調査研究報告書ーー教員の ミュージアムリテラシー向上プログラム開発』 ( 財 ) 全国科学博物館振興財団 【参考文献】 〇博物館教育の観点からの議論の整理 ・長崎栄三、二〇〇六【「科学技術リテラシー構築のための調査研究ーーサプ テーマ 1 】科学技術リテラシーに関する基礎文献・先行研究に関する調査報 告書」国立教育政策研究所 〇博物館行政の観点からの議論 ・山西良平、二〇〇八】「公立博物館の在り方をめぐって」「博物館研究」 四三巻一二号、二一ー二五頁 〇博物館利用に関する能力についての議論 ・佐藤優香、二〇〇三】「 ミュージアム・リテラシーを育むーー学校教育にお けるあらたな博物館利用を目指して」「博物館研究」三八巻二号、六ー一〇頁 ・田邊玲奈・岩崎誠司・亀井修・小川義和、一一〇〇五】「異分野の博物館連携 によるミュージアム・リテラシーの育成ーー国立科学博物館の上野の山ミュ ジアムクラブを事例に」『日本科学教育学会年会論文集』一一九号、一三ー一四頁 ・」川義和、一一〇〇九【「科学系博物館と大学の連携による人材養成プログ ラムの課題と展望・・ー米国の科学系博物館における教員養成・研修プログラム を事例に」『科学技術コミュニケーション』五号、六九ー七八頁 127 テーマ B : グループ長報告
ミュージアム・サミットの参加者に、議論のたびにいつでも実践的な有効性を発揮する参照点の役目 を果たしてくれたと思います。もちろん、その、、ハランスこそが肝心な点であることは、ホールデン氏 が繰り返し冷静かっ明晰に指摘し、強調された通りであり、そのことが参加者の間題意識をいっそう 鮮明にするのに役立ったにちがいありません。 二人の講演は、その後のわたしたちの多くの議論のガイドライン、まさしく基調を形成するのにみ ごとに機能したといえるでしよう。池澤氏は「本質的価値」を参加者一人ひとりのうちにあらためて 自覚させ、ホールデン氏は、文化そのものが凝縮している作品や資料本位に ( 「本質的価値」ばかりを ) 考えがちな内部の関係者が抱く偏りに対して、「手段」「共同体」という文化の社会性への広がり、す なわち外部への注意を、二日目の議論を再開する前に、鮮やかに喚起してくれたのです。 四つの分科会 〇ミュージアム・マネジメント 「マネジメント」の分科会では、ミュージアムの設置者が掲げたミッションが往々にして空文化し ていること。そして、このすべてを起動させる最初のスイッチの存在がミュージアム内部の人たちに もしつかりと共感と理解をもって共有されていないこと。さらには、それが明文化されていない場合 さえ往々にしてあること。そうした現実を踏まえて、「ガヴァナンス ( 統治機構 ) 」「マネジメント ( 経 営者 ) 」「オペレーション ( 現場 ) 」が実効力をもって連動するヴィジョンをどう形成し、ミュージアム 内外のステークホルダーと連携するかが問われているという現実認識が明確化されました。博物館協 総括に代えて 208
会の提出した指針「対話と連携」は旧聞に属しますが、ミュージアムの内外で、「対話と連携」が必要 なことがますます現在明らかになったことがこの分科会でしつかりと示されたと思います。それぞれ の施設が開設されたときのミッション ( それがないという事実の確認も含めて ) からはじまって、設置 者である首長や国家の統治機構に携わる国会議員〈の有効な働きかけのあり方まで、「マネジメント」 を現場から国政までを含めて幅広く検証し、議論したところにこの分科会の意義があったと思いま す。今後は個別の事例をさらに踏み込んで議論の対象にして問題点を具体的に把握し、そこから翻っ て「モデルなき世界」のなかで、一見「成熟した社会」の体裁と整えているかにみえる日本で、ミュー ジアム・マネジメントのあり方全体をもう一度考えるというステージが必要とされているのではない でしょ一つか 〇ミュージアム・リテラシー 「リテラシー」の分科会は、ミュージアムを利活用する基本的な能力を議論の対象にしたことによっ て、ホールデン氏のいう三角形の価値の図式が機能する前提が検討されたといってよいと思います。 市民参画型社会が、ミュージアムとともに、社会全体の文化の向上を目指すためには、批判的相互理 解が市民とミュージアムの双方に、つまり、ミュージアムの内外の人々に不可欠であることが、「リ テラシー」という考え方を導人することによって明確化される。そのことの現代的な意義を改めて間 うことに本分科会は貢献したと思います。 そして、この分科会の参加者が多様なリテラシーのあり方を現場での体験に基づいて提供してくれ たことによって、リテラシーがけっして固定的で静的なものではなく、動的であり、絶え間なく進化 209 「アド・パルナッソス再び」 ( 水沢勉 )