「自然史博物館」を変えていく Renovation 0fLocal Natural History Museum 大阪市立自然史博物館 大阪自然史センター 高陵社書店
「自然史博物館」を変えていく Renovation ofL 瓢 Natt11 、瓢 History Museum 大阪市立自然史博物館 大阪自然史センター 高陵社書店
2 ー 4 次のサービスへ 「子どすワクツョップ」という語りの模索ー 各大輔イ大阪市立自然史博物館学芸員 ) 愿尹大阪自然史センター義育スタ、 , フ ) 、 0 2 ー 1 にも書きましたが、大阪市立自然史博物館での来館者たちは会 話に満ちています。昆虫や化石に驚きの声を上げ、大人は「こんなん いたなあ」と昔を語り、自らの知識で熱く語るお父さんの姿があります。 来館者向けのサービス、特に子どもたちや親子に向けたサービスを 考えるときに、私たちが考えたのは、この会話のじゃまをしたくない、 ということでした。学芸員を含め、人が介在することにより、文字パ ネルの文章とは大きく異なる学習効果が期待できます。自然史博物館 でも、公開の市民向け講座の一部に展示室を利用することはしばしば ありますし、イベントとして学芸員による解説を行うことがあります。 でも、へたをするとせつかくの能動的な学習を打ち消し、受け手にさ せてしまう。ただ実施しただけでは逆効果な時もあるのです。もちろ ん、学芸員には語りたいメッセージがどの展示に関してもたくさんあ ります。けれども美術系の展示と異なり、自然史博物館の展示室には 既にたくさんの文章が掲げられています。来館者をこれ以上メッセー ジで満腹にさせるべきではありません ( 「キッズバネル」も、大概は 既存のパネルと置き換えていく形で展示していきました ) 。 大阪市立自然史博物館では開館以来、別の方法を大切にしてきまし た。メッセージを流し続けるのではなく、展示フロアに「普及センター」 として学芸員が常駐する窓口を設け、展示の疑問や、自然に関する様々 な質問に答えてきたのです。来館者の能動的な、自発的な問いを待 74 第 2 章子どもに楽しく、きちんと伝えるために
大阪市立自然史博物館の活動の特徴は、これらの利用者の中で、友 の会や、 ( 4 ) のカテゴリーに入るようなアマチュア、自然関連団体 を重視している点にある、といえるかも知れません。一般市民向けの ものを重視して、専門的な行事を否定する社会教育施設もあるかも知 れません。それに対して私たちが友の会やアマチュアを重視している のは、やがて彼らが指導者となって各人によって普及プログラムが展 開され、それぞれの地域の学校・地域住民に活動が広がっていくとい うことを事実として知っているからです ( p. 84 の 3 ー 2 、 p. 110 の 3 ー 4 参昭 ) 。 3 教育機能活用推進事業で目指したもの 2002 年から 2004 年にかけて、大阪自然史センターは文部科学省 の「教育機能活用推進事業」の委託を受け、博物館とともに事業を実 施しました。自然史センターと博物館は日常的に様々な事業で連携を していますが、この委託事業を通じて両者が示したかったのは、自然 を見つめる活動において自然史博物館が「学校」や「地域」を結ぶ中 核となっていることを確認し、「学校」・「地域」を対象とした教育プ ログラム・博物館活動を、受け手の視点から再構築して充実を図るこ とでした。先ほどの利用者カテゴリーでいえば、 (1) の学校との連 携、そして ( 2 ) の近隣地域の住民との連携、さらには ( 4 ) の、隣 接地域のアマチュアを介した各地域との連携をはかったことになりま す ( 3 ) は博物館の特別展、 web や広報活動を通して実現をめざす方 針です。具体的には以下のような事業展開をしました。 学校向けに、 1 ) 遠足利用者向けの利用改善 2 ) 教員向け情報提供の充実 3 ) 総合的な学習の時間・教科学習用の学習支援 そして、地域向けに 4 ) 気軽にリピーター利用を進めるための工夫 6 はじめに
1 ー 2 学校への「博物館利用のすすめ」と 、、、「よりスムーズな利用提案」をめざして ー , 麻起乃ヌ大阪自然史センター教育スタッフ ) 、 1 はじめに 学校や保育園・幼稚園による遠足利用は、子どもたちが初めて博物 館を訪れるチャンスとなっています。実際、中学生以下の利用者のう ち、遠足等による学校団体利用の占める割合は 42.5 % ( 平成 14 年度 ) 図 1 遠足やピークシーズンの館内 1 -2 学校への「博物館利用のすすめ」と「よりスムーズな利用提案」をめざして 15
つなぐ事業を展開してみました。「学校 ( 教員 ) と博物館」をつなぐ、 さらに「子どもと博物館」をよりよくつなぐ、そして、地域で活動す る「市民団体と博物館」の連携の三つのつなぎを重視しました。いず れも連携にこだわったのは博物館がもっている情報 ( コンテンツ ) に はそれなりの自負があったからともいえます。学芸員が長年の活動を 積み上げた博物館には、いずれもほかでは得られない、地域の魅力的 な情報が秘められているはずです。活用しないのはもったいない。 これまでも私たち学芸員はこうした地域の魅力を様々な努力で発信 しようと勤めてきました。それでも、博物館の情報発信は残念ながら まだ社会に満足がいくほどに行き渡ってはいません。学校教育にすら、 博物館がうまく利用されているとは言い難いのが現状です。今回「つ なぐ」ことにこだわったのは、よりよく伝わるようにするためにはど うすればいいのか、に注力したかったからです。子どもにできるだけ 魅力的であるように、より教員に使いやすく、地域の市民団体から信 頼される、それぞれ迷いながら実践を試みたものです。この実践には、 大阪自然史センターの教育スタッフや事務局などの多くのスタッフが 大変重要な役割を果たしました。学校教育連携や児童の活動支援、デ ザインや IT といった、それぞれのスキルを持ち、何よりも自然や博 物館を「伝えること」に熱意を持って取り組んでくれた彼らを抜きに 学芸員だけではこれだけ広汎な「つなぎ」はとても実現できていない はずです。本書に書いたような取り組みは、博物館の持つ学術面の専 門性と、自然史センターの学校教育連携や児童教育をバックにした実 現能力が連携し一体化することで、一気に具体化していったのです。 タネを明かしてしまえば、本書にはすごい IT 技術も、あっとおど ろくようなキャンペーンも登場しません。博物館にとっての市民との 連携は、普及教育活動をまっとうに発展させていった先のものである と、今改めて感じています。その意味で、本書に登場するのは学芸員 と NPO のスタッフがまっとうに博物館活動に取り組んで格闘した中 間到達点に過ぎません。これも今風に言えば市民との協働なのかも知 126 おわりに
な自然のふしぎや大切さを、子どもにも、大人にも伝えています。土 日の親子連れ、そして平日の学校団体や、植物園とともに楽しむ市民 でにぎわっています。 博物館には植物分類学、甲虫目の分類、脊椎動物化石などそれぞれ 2 はじめに この友の会を母体にして 2001 年に設立された NPO 法人です。「広く 特定非営利活動法人大阪自然史センター ( 以下、自然史センター ) は、 たのです。 て知られる基礎には、常にこの「友の会」が重要な役割を果たして来 示されるとおり、大阪市立自然史博物館がアマチュア活動の舞台とし のナチュラリストー自然の達人たち」 ( 大阪市立自然史博物館 2005) に の会で縁をもった人のつながりが大きな要素になっています。「なにわ たアマチュアの力は大きく、 3 章に述べるような地域との連携にも、友 い手としても大きな役割を担ってきました。実際、友の会で育成され る歴史を持ち、人材育成の上でも、大阪の自然関連情報を蓄積する担 も多く、数千人のコミュニティとなっています。友の会も 50 年を超え すが、だいたい 1700 から 2000 世帯。家族ぐるみで活動に参加する人 ュニティは大阪市立自然史博物館友の会です。会員は年により変動しま さまざまな人の輪が何重にも取り巻く博物館において、最大のコミ 博物館を取り巻くコミュニティにあると考えています。 大の特色は、実は施設ではなく、この 50 年の活動を経て形成された 時代を含めると、その活動は 50 年を越えています。この博物館の最 ていますが、かって靭公園脇にあった「大阪市立自然科学博物館」の 物館です。この博物館が長居公園にできてから既に 30 年以上が過ぎ 備があり、さらに長居植物園が隣接する、近畿の中核的な自然史系博 伝えるために、館内には 110 万点を超える標本が収納され、研究設 す。博物館は展示室だけではありません。大阪の自然を知り、後世に べる NPO のスタッフなど数多くのスタッフが協力して運営していま ッフ、電気技術スタッフ、清掃、警備、改札・案内、そしてあとに述 の学術分野を担う学芸員が館長以下 16 人います。その他に事務スタ
アンケート集計結果 内訳 : 小学校 1 1 9 校・中学校 1 9 校・高等学校 1 校・その他 ( 養護諸学校 ) 5 校 問 1 : 遠足に大阪市立自然史博物館を利用したのは何回目ですか ? 28 第 1 章学校・教員へのアプローチ 全校種 3 47 32 39 小学校 30 24 3 図 7 問 1 の集計結果 問 2 : 今回の行事で利用した施設はどこですか ? 160 140 120 学 1 00 校 数 80 校 60 40 20 0 本館 図 8 問 2 の集計結果 情報センター 中学校 1 5 植物園 ロ初めて ロ 2 、 3 回目 ロ数年に一度利用 ロほぼ毎年利用 ロ無記入 ( 単位 : 校 ) ( 複数回答 ) ロその他 ロ中学校 ロ小学校 その他
図 3 恐竜を扱う博物館は、近畿では少ない。有力なコンテンツ ( 4 ) 近隣・隣接地域のアマチュア、自然関連活動をしている団体 高い目的意識と期待とを持って来館する利用者層です。博物館の活 動、学芸員の知識を含め深く高度な利用をしている利用者層になります。 おおざっぱに分けましたが、ここに例として上がっていない人々も、 この類別の周辺に位置づけられるだろうと考えています。友の会、大 阪自然史センターの会員は (1) 、 ( 2 ) 、 ( 3 ) のカテゴリーに属してい た利用者が徐々に興味を高め、 ( 4 ) に移行する中間的形態だと考え ています。いわゆる博物館ボランティアも ( 4 ) のアマチュア同様高 い目的意識を持った利用者と位置づけることができるでしよう。ボラ ンティア活動は博物館を活用して自らの知識や社会的交流を高めてい ただくための活動としての側面があるからです。 ( 1 ) は小中学生な どを念頭にしましたが、美術や生物などを専門に学ぶ学生や研究者も 重要な利用者です。 はじめに 5
第 3 章地域との連携 3 ー 1 3 ー 2 3 ー 3 3 ー 4 3 ー 5 博物館が地域に根付くしかけ 佐久間大輔 博物館とサークル ー博物館コミュニティの幅を広げる一 和田岳 ( 大阪市立自然史博物館学芸員 ) 大阪自然史フェスティバル 2004 のたくらみ ・・ 82 ・・ 84 ・・ 95 一地域やサークルとの連携を強化し、博物館のコミュニティを活性化する一 和田岳・橘麻紀乃・西澤真樹子 ( 大阪自然史センター教育スタッフ ) ・ 中原まみ より広域の地域間をつなぐ ー西日本自然史博物館ネットワーク発足にあたって一 山西良平 ( 大阪市立自然史博物館館長・ 西日本自然史博物館ネットワーク事務局長 ) 広域ネットワークと地域ネットワークをつなぐ・ 日比伸子 ( 橿原市昆虫館学芸員 ) ・佐久間大輔 おわりに ・・ 1 10 ・・ 1 1 7 ・・ 1 25 カバーイラスト : 西澤真樹子 10 目 次