以前は、学校の博物館利用というと、遠足や校外学習の見学先のひ とっとして考えられていたくらいではなかったでしようか。 その状況に変化の兆しが見られだしたのは、いうまでもなく「総合 学習」の登場です。それまで博物館というのは、「展示を見学する」 ための施設でしかなかったのが、児童・生徒が質問したり、調べ学習 をするためのツールとして認知されだしたのです。また博物館には「学 芸員」という専門知識の宝庫のような研究者がいるということも、知 られるようになったのです。 総合学習の本格的な導入に前後する時期の、混乱 ( ? ) や自然史博 物館の対応については、『「学校」・「地域」と自然史博物館』や『「地 域の自然」の情報拠点自然史博物館』に詳しく述べられています。 これらの解説でもふれられているような、一つの学校の多数の生徒か ら、同じ内容の質問が電話でかかってきて回答を求められたりという 事例は他府県の博物館施設でも多数見られたようです。 2 総合学習に向けて 総合学習のキーワードである、地域・環境・地元の施設や人材の利 用などということを考えると、どのような展開になっていくのか、博 物館側では不安が大きくなっていました。 ちなみに、大阪市内 24 区には市立の小学校 299 校・中学校 129 校と養護諸学校がありますが、当館の利用は市内だけに限られませ ん。大阪府下まで広げて考えると、国公私立合わせて小学校が 1051 校、中学校が 526 校にのぼります。さらに隣接する奈良県には自然 史系博物館がなく、過去に総合学習による利用実績もあることから、 守備範囲はさらに広がることになります。総合学習に限ったとしても 小学校 4 学年 ( 3 年生以上 ) と中学校 3 学年、それぞれで平均して 3 ~ 5 クラス、さらにそれらがグループに分かれて・・ と考えていく と、およそ天文学的な数字を対象にする必要があるのではないかと目 眩がする思いでした。 1 -3 標本貸出キットの作成と運用 37
来館目的は小学校の遠足利用が圧倒的でした。遠足目的の来館 97 校のうち、毎年来館しているのは半数近い 43 校でした。中学校はや 公 / 、糸 はり総合的な学習の時間に利用している傾向があり、遠足十糸 合十教科学習などの複数回答が多くみられました。また中学校は大阪 市「 Let's go プラン事業」 ( 校外教育活動支援事業。事業を受けた学校・ 学年が半日から 1 日を使って市内の施設回りをするパターンが多い ) の一 環として訪れた学校も目立ちました。そのため、「大阪の施設を調べる」 といった目的で来館し、当館以外にほかの市内施設を利用・見学して いる学校が多くあります。 博物館の利用理由としては予想通りですが、「展示を見せる」「学習 に有効な展示」が大半を占める結果となりました。また、「交通の便 のよさ」「昼食・トイレ休憩」「 ( 中学生以下と引率教員が ) 無料」とい う点も魅力的なようでした。 ・小学生の見学形態は従来通りの遠足スタイル ( 問 5 、 p. 30) 小学校では 91 校が団体見学、そのうち遠足目的での来館は 85 校 でした。大半が遠足で来館し、列を作っての団体見学をしている現状 です。ただし、小学校のほとんどが遠足シーズンの繁忙期に来館して いるため、グループ活動をしたくてもできなかった学校が多いという のが現実です ( 後述 ) 。 一方、中学校は 1 校を除くほとんどの学校がグループ毎の見学を 行っていました。来館時期も繁忙期を外している学校が多く、はじ めからグループ活動をするために来館している様子がうかがえまし た。また、遠足と総合的な学習の時間を含めての来館が多く、総合的 な学習の時間などの調べ学習のためにグループ活動をしていることが 分かります。ーっ注意したほうがよいのは、グループ毎に来館した 場合、学校側が団体予約をしていない可能性がある点です。今回の 調査は団体予約をした学校を対象にしたため、例えば「 6 人 1 班で計 3 班が班毎に来館、引率者なし」のような場合、学校側が予約をして 18 第 1 章学校・教員へのアプローチ
心を持たせたかった。 ・植物について調べる。 ・大阪の地学関係の実物・資料をまとめたものがほしかった。 ・大阪の博物館を学ぶというテーマで実施し、自然科学系の博物館とし て活用。 問 7 : こ来館の前に、事前学習を行いましたか ? 無記入 3 % 行わない 31 % 行った 66 % 図 1 2 問 7 の集計結果 問 8 : 事前学習を行われた学校のみお答え下さい。その内容はどのような ものでしたか ? ( 複数回答 ) 表 1 問 8 の集計結果 高校 その他 小学校 中学校 計 25 5 1 1 自作ワークシート、プリントでの学習 博物館のビデオを鑑賞 博物館のホームページを閲覧 図書の利用 その他 学校・教員へのアプローチ 32 第 1 章 31 4 1 6 0 4 ら ) っ 0 つ」 2 31 27
1 、一 3 標本貸出ットの作成と運用 イ、、・ = 、イ阪市立自然史博物館研究副主幹 ) 36 第 1 章学校・教員へのアプローチ どテーマの一つに選ばれていた時期もありました。 なります。博物館関係のシンポジウムなどでは、必ずといっていいほ の連携 ( 博学連携・博学融合 ) ということが言われだしてから久しく 学校教育と社会教育の連携 ( 融合 ) 、あるいは博物館と学校教育と 1 博物館と学校 標本貸出キットの作成と、その素材を利用しての実施例を報告します。 ここでは、学校との連携事業のひとっとして博物館で取り組んだ、 など、博物館と学校のよりよい連携の必要性が求められています。 総合的な学習の時間 ( 以下、総合学習 ) や教科理科における調べ学習 学生が、多数存在することが分かります。また展示の見学だけでなく、 このように、学校を通じて自然史博物館と接する機会をもつ小・中 60 % となります。 校団体による見学が 40 % 、個人による見学 ( 親子での見学など ) が 98 , 582 人 ( 49.4 % ) となっていることが分かります。そのうち、学 成 16 年の実績でみると、総入館者 199 , 756 人のうち小・中学生が この内訳を見ると、およそ半数を小・中学生が占めています。平 られます。 示を見学し、大阪の自然について学ぶきっかけともなっていると考え 大阪市立自然史博物館では、年間 20 万人ほどの入館者があり、展
問 9 : ワークシート類を作成された方へ。作られた際、何を参考資料にし ましたか ? また、差し支えなければ作られたワークシートを 1 部、 この用紙と共にお送りいただけると幸いです。 小学校 ・パンフレット、下見時に貰ったプリント、以前貰った資料など ( 8 件 ) 。 ・下見時に展示物を見ながら作った問題といただいたスクラッチクイズ の間題のカードからとった間題で作ったが難しすぎた。 ・館の HP ・理科のプリントで簡単に説明 中学校 ・下見 ( 2 件 ) 問 10 : 貸出ビデオ「ようこそ自然史博物館へ」をご覧になった学校はそ の使いみち、感想をお書き下さい。 小学校 ・あらかじめ大まかな学習をすることによって興味づけができた。 ビデオが少し古かったのが残今 ノ 0 よ、 0 ・遠足説明会での事前学習。子どもたちが興味を示し、遠足をさらに楽 しみにしていた。 ・学年で見た。分かりやすいと思う。 ・学年別で全員で視聴。 ・事前にビデオを見ておけば目的を持って見学できる。ビデオを見なが ら「あっこんなんあるんや」「大きそう」と反応があったので効果あ ったと思う。 ・事前の指導のため。 ・事前学習で使用。展示内容が分かりやすく理解できた。 ・ビデオとしてはとても昔に作られた感じがした。 ・展示内容を知らせるため。内容は 3 年生には少し難しいように思わ れる。 1 -2 学校への「博物館利用のすすめ」と「よりスムーズな利用提案」をめざして 33
ークシーズンには、午後中ずっと、 30 分ごとに説明会を行うほどに なります。この説明会は、もともと行政的な手続きや安全に見学して もらうための禁止事項の説明が中心となっていました。展示見学の手 順や生徒への注意事項、お弁当場所やトイレなどに関するアナウンス が中心でしたが、せつかくの学校現場の教員の皆さんに博物館に触れ ていただくチャンスです。そこで 2003 年度より遠足の諸注意に加え、 博物館が学校に対して行っている支援事業を教育スタッフが説明する ことにしました。 よりよく利用される博物館にしていくためには、博物館の立場で P R するだけでなく、教員側が博物館に何を求めているのか、何が利 用の障害になっているのかを探る作業が重要になります。このため、 2002 年秋と 2003 年春 ~ 秋に来館した学校にアンケート調査を行い ました。その結果、学校が博物館をどう利用したいのか、何を期待し ているのか、といったものが見えてきつつありました。これについて は、 1 ー 2 で詳しく示していきます。結論を先に示しますと、これら の要望への対応として、子ども向けの展示解説パネルの作成 ( 2 ー 2 ) が生まれ、また博物館の紹介ビデオの貸出、学習用ワークシートの提 供など、新たなサービスを順次はじめています。 2 総合的な学習の時間・教科学習用の学習支援 教員と博物館の接点を作ったうえで、サービスを拡充しました。ま ず、学芸員から児童・生徒に向けた直接の対話です。担当の教員と学 芸員が打ち合わせをしたうえで、来館した児童・生徒に学芸員がテー マに基づく説明をしたり質問に応じたりするという、その学校・学年 だけのオーダーメイドでオリジナルな授業を展開しました。博物館に 来る、という児童にとっての特別な体験をより印象づけることをねら い、博物館ならではの展示や標本を用いた事業です。 しかし、こうした活動をすべての学校、すべての教室で展開するに 1 - 1 学校と博物館をつなぐ 13
いない様子が目立っていました ) 。 もちろん、これらのパネルを置くことで元々量の多かったパネルの 数が増えてしまう、という課題があります。大人でも全て読むのには かなりのエネルギーがいると思われ、これを機会に、解説パネル、サ イン、情報提供の仕方の再吟味が必要かもしれません。 ■事前、事後学習への対応 アンケートから見学の事前・事後に何らかの学習をしている学校が 多いことが示されました。遠足のしおり・ワークシートには館のパン フレット・手引き等が使われていましたが、元々のパンフレットが白 黒印刷を想定していないため、印刷が見づらいもの、質問内容が適切 でないものが多かったのも事実です。これらの対策としては、博物館 側からの積極的な素材提供が有効と考えました。団体説明時に、学校 の印刷機でも黒くつぶれず、しおり等に利用できるように線画で作成 した館内の見取り図を配布することにしました。また、遠足時に使え るようなワークシート類も数種作成しました。 ワークシートは、低学年には展示物の印象を強めてもらうための簡 単なもの、高学年や中学生には展示物を見て考えてもらえるもの、何 よりもワークシートを使うことで展示への理解が深まることを目的に 置きました。作成にあたっては、学芸員と教育スタッフ ( 橘・中原 ) が協力してあたり、デザインワークを行いました。ともすれば解説文 の丸写しで満足してしまいがちな見学・学習を変えていくような内容 を心がけました ( P26 参照 ) 。見取り図やワークシートは、混雑した 館内で広げて使うことはできなくても、事前の学習でイメージを広げ、 実際の見学で、「これが本物か」と理解を深めてもらうねらいもあり ます。博物館・ NPO 側からの積極的な提案で、少しずつ状況を変え ていっています。 事前学習のための素材提供も積極的に行っています。 2003 年春か ら博物館の紹介ビデオ『ようこそ自然史博物館へ』の貸出を始め、秋 1 -2 学校への「博物館利用のすすめ」と「よりスムーズな利用提案」をめざして 25
お ~ 育しリ ) しぜんし はん がっこう ねん くみ 小学生 ~ おまけジト なまえ ほんかん 本館・だい 4 てんじ室 ーさ 0 引、つかんは くるまえに あたしたちに いろぬ ) てねー どんなしよくぶつ をさか しつ ①パ、ナナ 0 トウモ 0 コシ ②リアン 図 5 事前学習ワークシートの例 ( これは小学校低学年用。 4 パターンを作成 ) 大市立 自然史は 0 かん ・ , 、学生ワクン尋 年 組 学校 クジラのホネクイ 0 なまえ 本館・第 3 てんじ室 1 はんて、、き示、し発のと 同じ蝌の市ネも さカ ( し 1 みよ ) 。 0040 召朝 0 “ . ““ . 2 かいのてんじようからは大きなホネが ぶらさがっているよ。だれのホネかな ? セミクラ ア・セミクジラ イ・ナガスクジラ ウ・マッコウクジラ ーまく : つんて つジうのホネたルけル も本館・ 1 階 オリエンテーションホール さかそら ①これは木じゃないよ。 大阪で見つかったクジラのホネなんだ。 どこの部分だと思う ? ② ナイスクッ マ , コうク ) 0 やく何メートル あるのかな ? ア・ 1 0 メートルイ・ 1 7 メートルウ・ 25 メートル 図 6 事前学習ワークシートの例 ( 小学校高学年用。これは非混雑期の利用を想定したもの。 4 ノヾターン、中学生用に 2 パターン作成した ) 26 第 1 章学校・教員へのアプローチ
・春の草木、花の観察。恐竜やナウマン象の化石の見学。 ・生物の進化について ( 特に化石 ) 。いろいろな生物について ( 恐竜、昆虫 ) 。 ・大阪の自然の移り変わりや土地の変化を見せるため。 ・大阪の自然誌について調べるため。博物館までの交通手段、経路を確 認するため。 ・大阪の昔の生き物を調べるため。 ・大阪の地層と化石。 ・大阪の地層の学習のまとめとして。 ・大阪市の自然の様子が見学できる。 ・展示物をベースにイメージをふくらませて空想画「博物館の思い出フ ァンタジー」を描くのに適している。 ・理科で学習した昆虫についての展示物や児童が興味を持ちそうな恐竜 についての展示などがあるのでワークシートを作って答えをみつけな がら見学した。 ・理科や科学に興味・関心を持つ。 中学校 ・古代の大阪を調べるため / 大阪の環境 ( 海など ) / 大阪の化石 ( 本校 のメインテーマは環境 ) 。 ・総合学習と遠足を絡めた。ポイントは学年に障害を持っている子がい ることから「障害学習」であった。障害者スポーッセンターを全員が 見学するポイントとし、後は 6 つの施設からグループで選択し各施設 を見学しながらバリアフリーについて調べることを目的とした。 ・私たちの住む大阪を知ろうという目的でグループ毎に調べ学習をした。 自然史博物館は大阪の歴史について興味を持っグループが見学、調べ ・自然 ( 草花 ) に親しみ環境間題を考える手だてとするため。 ・活動目標を生徒自ら決め、達成する力を高めるため。 ・自分の住んでいる地域にある自然に目をかける機会を与え、興味・関 1-2 学校への「博物館利用のすすめ」と「よりスムーズな利用提案」をめざして 31
図 2 講堂で学芸員が中学生に博物館の概要を説明している は、大阪は学校の数が多すぎ、学芸員の数はあまりに少ないのが現 状です。そこで、教員の皆さんに身近な自然観察のノウハウの提供 し、どのような材料を使ってどんな着眼点で学習させたらいいか、と いったテクニックを学んでもらう観察会・実習を開始しました。野外 で火山灰の観察をしたり、公園でセミの抜け殻を集めてセミの種類か ら環境を考えていくといったものです。さらには、博物館の標本や書 籍、ビデオなどの貸出をはじめています。これらの取り組みについて 1 ー 3 で紹介していきます。 1 4 第 1 章 学校・教員へのアプローチ