討メンバーに加わっていただき、検討委員会を組織して進めていくこ とにしました。検討委員には、 TM ネットワークに呼びかけて手を挙 げた方のほか、大阪市の小・中学校教育研究会理科部会にも推薦を依 頼して、合計 4 名の教員にお願いしました。それに博物館の担当学芸 員、 NPO 大阪自然史センターの教育スタッフを加えて作業を進めま 0 4 回開催した検討委員会では、貸出キットの実際の内容、貸出・返却 の方法など、博物館職員だけで検討したのでは判断がつかない学校の事 情に配慮した、具体的な内容を話し合うことができたと考えています。 標本貸出キットの内容については、学芸員から提案したり、教員か ら候補として希望が出されたものとしては、「セミのぬけがらしらべ セット」「大阪のテントウムシ検索用標本セット」「校庭の雑草調べセ ット」「ほ乳類の頭骨比較標本 ( イヌとシカ ) 」「鳥のふんの中の実を調 べるセット」などがありました。 筆者からは博物館での担当分野である岩石標本を、理科の教科単元 で使いやすくしてもらおうと、「大阪の川原の石ころセット」を提案 しました。 2002 年度中に、それぞれについて担当学芸員が試作品を作って委 員会で検討した結果、 2003 年度に「川原の石ころ」のキットを製作 することになりました。 5 思いつきのきっかけ 筆者が、貸出キット「川原の石ころ」を作成することを発想したの は、 2002 年 9 月はじめに小学校教員からの相談電話があいついだこ とがきっかけとなっています。 「教科書に出てくる石ころの標本を貸してほしいんですが、あります よね ! 」というリクエストが 1 件と、大阪市の南に隣接する堺市の小 学校からの「教科書が変わって、地学の単元を大きく教えなくてはな らなくなったんですけど、石の見分け方がわからないし、近くの川原 40 第 1 章学校・教員へのアプローチ
1 、一学校と博物館をつなぐ イ左久簡大、 ( 大阪市立自然史博物館学芸員 ) 体の皆様に下見と見学予約をお勧めしています。利用校数を把握して に春と秋は遠足利用が多く、博物館では、安全な見学のために学校団 毎年、 450 校前後の小中学校が自然史博物館を利用しています。特 1 遠足利用者向けの利用改善ー遠足利用をもう一歩進めるために 章では以下の 2 つの取り組みを紹介します。 教員とのコミュニケーションの回路を開くことから始まりました。 1 と学校側の思いは、しばしばすれ違ってしまいます。学校との連携は、 せん。しかし、博物館側の「このように利用してほしい」という思い 博物館と学校の連携が唱えられたのは決して最近のことではありま 安全な人員配置をするこ とと、教員の皆様に見学 時の状況を知っていただ き、スムーズで楽しい見 学をしていくための手順 をご理解いただくためで す。 4 月初旬と 9 月上旬 には、多くの教員が下見 に来館します。通常は個 別対応していますが、ピ 図 1 1 2 学校の先生を集めての下見説明会 第 1 章学校・教員へのアプローチ
ちょうど研究授業で使用させていただいたので、ほかの教員の意見 も書かせていただくと、 ◎観察キットもとても観察しやすく ( 切っているところ ) よかった。 ◎観察キットもいいが、実際の川原の石がほしいなあ。 とのことでした。 1 1 まとめ 今回紹介した「貸出用標本キット」は標本作製業者などに委託せず に、館内で手作業で作成しました。そのために教員からの要望に応じ てアレンジし直したり、仕様を変更することが容易です。利用後のア ンケートなどから、より使いやすいキットにバージョンアップしてい くことも必要でしよう。 さっそく 2005 年度からは、教科書に「発展的内容」が取り入れら れており、中学校理科では、深成岩・火山岩ともに従来通りの 3 種類 ずつが掲載されるようになっています。中学校での利用を考えると、 岩石種を増やす必要があるでしよう。 一方、博物館と学校との連携を考えるとき、博物館側のスタンスを どうとるかは、課題として残ると考えられます。当館の場合には、学 校から児童・生徒を「丸投げ」されるのではなく、「教員への支援」 に重点を置いて、教員による主体的な取り組みが進むことを期待して います。それが双方にとってよりよい結果を残すと考えるからです。 「大阪の川原の石ころキット」を使用した教員の感想に顕著に表れて いますが、授業を参観した教員からは「観察キットもいいが、実際の 川原の石がほしいなあ」という、博物館側へ「すべてお任せ」の丸投 げの姿勢が見られます。一方で、博物館の研修プログラムに参加した 教員のように、勤務校近くの川原の石ころを使う授業案を計画し、自 ら石ころの採集に出かけるという、積極的な姿勢がみてとれます。 48 第 1 章学校・教員へのアプローチ
7 石ころセットの作成 標本については、石ころそのままではなく、座りのよいように岩石 カッターで切断し、生徒が観察しやすいように切断面を研磨すること にしました。 作業工程は以下の通りですが、専門知識と作業に危険が伴う 1 は筆 者が行い、 2 以下は事業経費によるアルバイトで対応することで、大 量製作を可能としました。 ラベリング、箱詰め 2 . 石ころの切断面の研磨 (#200 、 #600 、 #1000 、 #3000 の研磨剤 ) 1 . 石ころの選定・大型岩石カッターによる切断 3 . 1 -3 標本貸出キットの作成と運用 43 っています。 とができ、理科の授業で行われるグループ学習にも対応できる数とな リと 4 個収まる大きさでした。コンテナ 1 箱に 8 セット分を収めるこ 偶然の産物ですが、プラスチックコンテナには段ボール箱がピッタ 石」』 ( 「荒川の石」編集委員会 1999 ) をセットして完成です。 ック『地学ハンドブックシリーズ 1 1 「川原の石のしらべ方荒川の ール箱と、教員向けの解説付きシート、石ころ調べのためのガイドプ 構がついた小型のプラスチックコンテナに、石ころ標本が入った段ボ れ、 2 セットごとに小型の段ボール箱に詰めました。フタにロック機 リ袋に入れたうえで、 7 ~ 8 種類を 1 セットとして厚手のポリ袋に入 石ころ標本は、研磨面が傷つかないように 1 つずつチャック付きポ ることになります。 る心配がなく、地学が専門でない教員でも、安心して種類分けができ に木工ボンドを塗布しました。これにより、貸出中にラベルがはがれ ころ標本にラベルを貼り付けた上に、ラベルがはがれにくくなるよう 採集地ごとに異なる色のテープで岩石種ごとの番号をプリントし、石 ラベリングにはラベルライター ( キングジム社製テプラ ) を用いて、
当館で実施している「総合的な学習支援プログラム」は多くの教員 に参加してもらって、自らが積極的に教材開発を行い、授業計画の新 しいアイディアを考えてもらうことも目的でもあるので、役割を十分 に果たしているのではないかと考えられます。博物館側が全てを行う のではなく、博物館の研修プログラムに参加することがきっかけとな って、教員自らが授業内容に工夫し、改善することを目指しているか らです。 より多くの教員に博物館が実施するプログラムに参加してもらえる ように広報の問題も含めて、工夫していきたいと考えています。 50 第 1 章 学校・教員へのアプローチ
る感想も見られました。 3 アンケート結果から得た活動の指針 ■遠足下見の説明会を教員と博物館の接点に変える 遠足等の団体見学をする前に、教員が当館に足を運んでくれます。 遠足の下見ということでいえば、安全上の観点や手続きの説明で十分 なのですが、これは、博物館と学校双方のコミュニケーションにとっ て実にもったいない状況でした。博物館側から、何に注目してほしい のか、どのように利用してほしいのかという情報発信をし、そして学 校側が遠足当日の混雑と混乱の中でどのように不満を抱えているの か、状況・問題点が職員に伝わらない状況がありました。大阪自然史 センターとの協働は、しがらみのない外部の立場から状況を解きほぐ し、博物館の事務方や学芸方、そして学校に対しても「コーディネート」 を試みるものでした。その実践として行った 2 年間にわたるアンケ ートの結果は、少なくとも解決すべき現状を見せてくれるものでした。 学芸員とともに学校と博物館の連携をはかる TM 委員会を作り、遠 足下見の説明内容に改善を図るとともに教育スタッフをバックアップ する体制を作りました。 2003 年度からは下見説明に教育スタッフが 入るようにし、 2004 年からはさらに深く関わるようにしました。教 育スタッフからは、博物館本館のほかに新館 ( 情報センター ) も見学 できること、情報センターではコンピューターや図書で調べものがで きること、混雑する期間や時間帯は限られており、見学日時を少しず らせばグループ活動ができること、その際は画板の貸出や学芸員への 質問も余裕を持って対応可能であることなどを説明しています。どの 時期が混んでいること、どう対処すれば要望が可能になるのかという ような情報を示すことで、アンケート結果で最も要望の多かった混雑・ グループ活動への対応をすすめています。これらの情報は Web 上に 学校への「博物館利用のすすめ」と「よりスムーズな利用提案」をめざして 23 度の春は、既に説明を受けた後に見学日時を繁忙期から外してグルー も掲載し、少しずつではあっても働きかけは進んでいます。 2004 年 1 -2
3 TM ネットワーク 上記のようなプログラムを取り組み始めたものの、参加者が少ない ことや、博物館からの情報が先生に届いているのかという不安が出て きました。また学校現場の意見や要望を直接取り入れながら、博物館 における支援プログラムなどを実効あるものにする方策はないかと考 えてたどり着いた解答が、 TM ネットワークの設立でした。 教員 (Teacher) と博物館 (Museum) のネットワーク ( 通称 TM ネ ットワーク ) ということです。当初は、 40 名ほどの教員がネットワ ークに登録して、事務局 ( 博物館 ) でニュースレターを発行して、学 習プログラムや教員向け観察会の案内などを連絡していただけでした が、遠足見学の下見の説明会の中で、遠足時の注意事項とともに、博 物館で行っている TM ネットワークや教員向け研修プログラムも合わ せて紹介するように工夫することで、プログラムの参加者やネットワ ーク登録数が増加してきています。 ニュースレターの内容も、観察会の連絡だけでなく、学校側の情報 や教員の研究事例なども含めた双方向な内容を目指してきています。 4 標本貸出キットの作成 2002 年度からは、学校の授業で利用可能な標本貸出キットの開発 を始めました。 自然史博物館には大阪の自然に関する、観察会などのプログラムの 実施や実物標本・ガイドブック・インターネットコンテンツなどが用 意されています。しかしこれらの多くは、博物館で学芸員が指導する ことを前提として開発されています。そのために学校でそのまま利用 できるようには設定されていません。 これらの素材を学校教育で活用するには、児童・生徒の学年や教科 単元の内容を加味し、学習計画への翻訳が必要で、またそうすること で効果的な学習効果が期待されます。 標本貸出キットの開発にあたっては、小・中学校の教員にも企画検 1 -3 標本貸出キットの作成と運用 39
もちろんすべての学校で、「自分たちの学校周辺の自然環境」をテ ーマとして総合学習に取り組むわけではなく、またそれらがすべて博 物館に相談に来るわけでもありません。そこでさまざまな依頼が舞い 込む前に、博物館としての主体的な方針を決定することにしました。 それが、これまでにもたびたび紹介してきた「総合学習支援プログラ ム」です。次にあげる 4 項目を基本としています。 1 ) 学芸員によるテーマプログラム ( 児童・生徒向け ) 「総合的な学習の時間」に自然史博物館を訪れた児童・生徒に対して、 各分野の学芸員が、設定したテーマに基づく展示の解説、レクチャー 実習などを行います。 2 ) 身近な自然観察研修プログラム ( 教員向け ) 学校の授業で校庭、公園、河川敷など身近な場所を利用したさまざ まな自然観察ができるよう、教員を対象とした実地研修を実施します。 3 ) 自然史博物館の利活用の研修 ( 教員向け ) 自然史博物館の展示や諸事業を、「総合的な学習の時間」や完全週 休 2 日制に伴う体験学習に活用するための、教員を対象とした研修会 を随時実施します。 4 ) ビオトープづくり支援 自然史博物館の構内にビオトープゾーンを設け、学校でのビオトー プづくりに役立てるようにします。 要点は、博物館に来てもらうことを前提として「出前授業」は行わ ないということと、教員の支援を前面に打ち出したことです。「学校 から博物館に出かける」ということは時間的にも経済的にも制約があ り、逆の博物館から学校へ出て行く「出前授業」に対する要望が高い であろうことは十分に承知しているのですが、モデル事業的な実施は ともかく、通常業務とのかねあいから全ての要望にこたえていくこと は不可能だという判断です。 38 第 1 章学校・教員へのアプローチ
ークシーズンには、午後中ずっと、 30 分ごとに説明会を行うほどに なります。この説明会は、もともと行政的な手続きや安全に見学して もらうための禁止事項の説明が中心となっていました。展示見学の手 順や生徒への注意事項、お弁当場所やトイレなどに関するアナウンス が中心でしたが、せつかくの学校現場の教員の皆さんに博物館に触れ ていただくチャンスです。そこで 2003 年度より遠足の諸注意に加え、 博物館が学校に対して行っている支援事業を教育スタッフが説明する ことにしました。 よりよく利用される博物館にしていくためには、博物館の立場で P R するだけでなく、教員側が博物館に何を求めているのか、何が利 用の障害になっているのかを探る作業が重要になります。このため、 2002 年秋と 2003 年春 ~ 秋に来館した学校にアンケート調査を行い ました。その結果、学校が博物館をどう利用したいのか、何を期待し ているのか、といったものが見えてきつつありました。これについて は、 1 ー 2 で詳しく示していきます。結論を先に示しますと、これら の要望への対応として、子ども向けの展示解説パネルの作成 ( 2 ー 2 ) が生まれ、また博物館の紹介ビデオの貸出、学習用ワークシートの提 供など、新たなサービスを順次はじめています。 2 総合的な学習の時間・教科学習用の学習支援 教員と博物館の接点を作ったうえで、サービスを拡充しました。ま ず、学芸員から児童・生徒に向けた直接の対話です。担当の教員と学 芸員が打ち合わせをしたうえで、来館した児童・生徒に学芸員がテー マに基づく説明をしたり質問に応じたりするという、その学校・学年 だけのオーダーメイドでオリジナルな授業を展開しました。博物館に 来る、という児童にとっての特別な体験をより印象づけることをねら い、博物館ならではの展示や標本を用いた事業です。 しかし、こうした活動をすべての学校、すべての教室で展開するに 1 - 1 学校と博物館をつなぐ 13
図 2 講堂で学芸員が中学生に博物館の概要を説明している は、大阪は学校の数が多すぎ、学芸員の数はあまりに少ないのが現 状です。そこで、教員の皆さんに身近な自然観察のノウハウの提供 し、どのような材料を使ってどんな着眼点で学習させたらいいか、と いったテクニックを学んでもらう観察会・実習を開始しました。野外 で火山灰の観察をしたり、公園でセミの抜け殻を集めてセミの種類か ら環境を考えていくといったものです。さらには、博物館の標本や書 籍、ビデオなどの貸出をはじめています。これらの取り組みについて 1 ー 3 で紹介していきます。 1 4 第 1 章 学校・教員へのアプローチ