活動 - みる会図書館


検索対象: 「自然史博物館」を変えていく
67件見つかりました。

1. 「自然史博物館」を変えていく

普及の輪を広げていってくれることが期待できます。 自分の興味に沿った学習や活動を展開していくリピーターは、個人 個人が個別に学習・活動を進めていくよりも、同じ興味を持った人た ちと集団を形成することで、さらに効果的に活動を展開することがで きます。そうしたユーザー集団が博物館の周囲に形成されることで、 さまざまな博物館活動もより効果的に展開することができるようにも なります。形成されたユーザー集団は、博物館活動を展開するうえで のパートナーとして、そしてあらゆる局面でサポーターとして、博物 館にとってなくてはならないものになります。そうしたユーザー集団 の代表的なものが友の会です。 2 友の会の意義と限界 博物館はもちろん個人で利用することができます。展示を見たり、 行事へ参加したり、研究などの目的で収蔵資料を利用するなど、個人 単位で博物館を効果的に活用することは可能ですし、どんどん積極的 に活用してもらうことが望まれます。しかし個人ではなく、友の会の ようなユーザー集団の一員になることで、博物館をより有効に利用す ることができる部分も少なくありません。 友の会は、博物館にとって最大のユーザー集団です。ある程度以上 に育った友の会は、博物館の普及教育事業のターゲット集団として重 要な位置を占めます。博物館側からすると、顔の見える対象があり、 ューザー側の意見の汲み上げも容易になるので、普及教育事業を効果 的に展開できるようになります。博物館のパートナー、サポーターと してまず思い浮かぶのも、友の会です。 博物館の普及教育活動において、しばしば友の会が中心にすえられま す。結果として、友の会の会員は、効率よく博物館の提供するサービス を受け取ることができます。博物館側としても、積極的に博物館を活用 しようとするユーザーには、友の会への入会を勧めることになります。 このように博物館と友の会は相互依存度を高め、それが博物館のさ 3-2 博物館とサークル 85

2. 「自然史博物館」を変えていく

に、サークルというステップアップの方向性を知ってほしいというの が、当初からの大きな目的でした。 0 サークルと市民、友の会と市民 サークルが一同に集まって、文化祭のように出展するというスタイ ルを考えたときから、友の会をはじめとする団体にすでに入っている 人だけでなく、自然史に興味を持ちながらもそうした団体に関わって いない人たちに、さまざまな活動をしている団体の存在を知ってもら うことも、大きな目的の一つになりました。各団体の活動の意義や成 果を、より多くの人に知ってもらうことも大切ですが、できれば何ら かの形でその活動に参加してもらえるように働きかけたいと考えまし た。多くのサークルは、活動をささえる資金や人材面の不足に悩んで います。一方で、さまざまな活動に関わりたいという人は多くいます。 両者の出会いの場があれば、より多くの人に活動の場を提供し、サー クル活動を活性化することができるでしよう。 博物館と関わりのあるサークルが、博物館コミュニテイへの窓口で あると考えると、いわばさまざまな窓口を取りそろえて、できるだけ 図 1 大阪の自然史博物館友の会だけでなく、近隣の博物館友の会も出展した 98 第 3 章地域との連携

3. 「自然史博物館」を変えていく

まざまな活動を効率よく進めていくうえで、重要な役割を果たします。 その関係は、単に普及教育活動に留まらず、資料収集保管、調査研究 といった活動を含めた博物館活動全般に及びます。すなわち、博物館 が効果的に活動を展開していくには、ユーザー集団としての友の会の 存在は不可欠なのです。むしろ博物館と友の会と分けて考えるよりは、 博物館と友の会を一つの博物館コミュニティとみなし、そのコミュニ ティ単位でさまざまな博物館活動の展開を考えていくことが望まれる のです。 しかし、博物館コミュニティが活動を展開していくうえで、その構 成要素が博物館と友の会だけでは、いくっか不十分な点がでてきます。 友の会は、当然ながら博物館との距離がきわめて近く、博物館を舞台 に、あるいは博物館学芸員を活用しての活動が中心となります。よく も悪くもその活動には、博物館の影響が強く現れます。その結果とし て、活動の多様性が減る傾向があります。たとえば、たまたま学芸員 の興味のある分野ばかりに力を入れたり、博物館以外の場での活動が あまり行われないなどです。資金面や運営を担う人材面での博物館へ の依存度の高さも時として問題となります。 また、人数の多い友の会には、相当数の初心者が含まれます。必然 的に、友の会の活動は初心者向けが中心になります。すそ野を広げる という意味では、それは望ましいことです。しかしその反面、あまり 一般的でない特定の分野だけを取り上げた活動、あるいは高度な専門 知識を必要とする活動が、展開しにくくなります。 これは、友の会に入り、学習を進めていくなかで、さらに高度な専 門知識を求める層に対して、友の会が十分に応えられないということ を意味します。また、特定のフィールドや博物館以外の場での活動に 興味を持った層に対しても、友の会は十分に応えることができません。 こうした層が友の会から、ひいては博物館コミュニテイから離れてし まうとしたら、これは博物館コミュニティが活動を進めるうえでの大 きな問題です。 86 第 3 章地域との連携

4. 「自然史博物館」を変えていく

大阪市立自然史博物館の活動の特徴は、これらの利用者の中で、友 の会や、 ( 4 ) のカテゴリーに入るようなアマチュア、自然関連団体 を重視している点にある、といえるかも知れません。一般市民向けの ものを重視して、専門的な行事を否定する社会教育施設もあるかも知 れません。それに対して私たちが友の会やアマチュアを重視している のは、やがて彼らが指導者となって各人によって普及プログラムが展 開され、それぞれの地域の学校・地域住民に活動が広がっていくとい うことを事実として知っているからです ( p. 84 の 3 ー 2 、 p. 110 の 3 ー 4 参昭 ) 。 3 教育機能活用推進事業で目指したもの 2002 年から 2004 年にかけて、大阪自然史センターは文部科学省 の「教育機能活用推進事業」の委託を受け、博物館とともに事業を実 施しました。自然史センターと博物館は日常的に様々な事業で連携を していますが、この委託事業を通じて両者が示したかったのは、自然 を見つめる活動において自然史博物館が「学校」や「地域」を結ぶ中 核となっていることを確認し、「学校」・「地域」を対象とした教育プ ログラム・博物館活動を、受け手の視点から再構築して充実を図るこ とでした。先ほどの利用者カテゴリーでいえば、 (1) の学校との連 携、そして ( 2 ) の近隣地域の住民との連携、さらには ( 4 ) の、隣 接地域のアマチュアを介した各地域との連携をはかったことになりま す ( 3 ) は博物館の特別展、 web や広報活動を通して実現をめざす方 針です。具体的には以下のような事業展開をしました。 学校向けに、 1 ) 遠足利用者向けの利用改善 2 ) 教員向け情報提供の充実 3 ) 総合的な学習の時間・教科学習用の学習支援 そして、地域向けに 4 ) 気軽にリピーター利用を進めるための工夫 6 はじめに

5. 「自然史博物館」を変えていく

図 4 フェスティバルの準備を するスタッフと学芸員 図 5 出展を準備するジュニ ア自然史クラブ。学生 たちにはまさに文化祭 準備だ 3-3 大阪市自然史フェスティバル 2004 のたくらみ 105 させるために、次のステップを考えていく必要があります。 バルだけでなく、せつかく構築・強化されたネットワーク自体を定着 一過性という部分が少なくありません。イベントとしてのフェスティ 一定の成果が得られたと思います。ただし、イベントという性格上、 このように博物館コミュニティのネットワークの強化という目的は、 る効果があるようです。 ルする場があるということ自体が、それぞれの団体の活動を活性化す いるわけですが、その成果を発表する、あるいは団体の活動をアピー

6. 「自然史博物館」を変えていく

図 3 恐竜を扱う博物館は、近畿では少ない。有力なコンテンツ ( 4 ) 近隣・隣接地域のアマチュア、自然関連活動をしている団体 高い目的意識と期待とを持って来館する利用者層です。博物館の活 動、学芸員の知識を含め深く高度な利用をしている利用者層になります。 おおざっぱに分けましたが、ここに例として上がっていない人々も、 この類別の周辺に位置づけられるだろうと考えています。友の会、大 阪自然史センターの会員は (1) 、 ( 2 ) 、 ( 3 ) のカテゴリーに属してい た利用者が徐々に興味を高め、 ( 4 ) に移行する中間的形態だと考え ています。いわゆる博物館ボランティアも ( 4 ) のアマチュア同様高 い目的意識を持った利用者と位置づけることができるでしよう。ボラ ンティア活動は博物館を活用して自らの知識や社会的交流を高めてい ただくための活動としての側面があるからです。 ( 1 ) は小中学生な どを念頭にしましたが、美術や生物などを専門に学ぶ学生や研究者も 重要な利用者です。 はじめに 5

7. 「自然史博物館」を変えていく

おわりに 0 つなぎ役としての NPO の重要性 2002 年に出版した『「地域の自然」の情報拠点自然史博物館』は、 西日本各地の博物館学芸員自らが、共同事業を通して自然史博物館の 今日的なあり方を探り、あるべき姿を再定義する試みでした。それは 自然史系博物館の機能を学術的あるいは社会教育的な役割をふまえっ つ、さらに自然の保全や再生をめざす環境の情報拠点として、活動の 場として社会的に機能する姿といえます。 この議論をふまえ、大阪市立自然史博物館は二つの NPO の輪の中 に自らを位置付けて活動を展開しています。すなわち、地域に根を張 り大阪周辺の自然好きと博物館とを結びつける「特定非営利活動法人 大阪自然史センター」、そして環瀬戸内地域 ( 中国・四国地方 ) 自然史 博物館ネットワーク推進協議会の理念と経験を受け継ぎ、さらに未来 の自然史博物館活動を開拓して行くべく設立された「特定非営利活動 法人西日本自然史系博物館ネットワーク」の二つです。博物館は、 市民のために存在する教育・学習施設であり、より多くの市民と、よ り緊密な連携のもとでこそ、よりよく機能できると考えています。そ のためには、こうした広く、強いつながりを持っための「つなぐしか け」が重要だと考えています。博物館側に連携を強く意識するしつか りとした担当者と、博物館の外にはあっても博物館と市民の間にあっ て様々な調整、サービスの提供を行う「つなぎ役」の両者がいること によって、効率的でスムーズな事業展開が可能になる、というのが私 たちの得た教訓です。 本書は主に 2004 年までの活動 ( 科学系博物館教育機能活用事業 ) を中心に、その試行錯誤にまみれた経験を事業ごとにまとめたもの です。上述の二つの NPO との連携の上で、様々な対象と博物館とを おわりに 125

8. 「自然史博物館」を変えていく

わけです。詳しくは『「地域の自然」の情報拠点自然史博物館』をご 読ください。 私たちは広島での活動もふまえて、自然史系博物館の意義とあるべ き姿を改めて示す活動に、それなりの意義と手応えを感じていました。 こうしたことから、今回、 NPO 法人西日本自然史系博物館ネットワ ークの設立にあたっても、私たちの活動を実際に示していくシンポジ ウムを開催したいと考えていました。 シンポジウムの開催地候補は当初からいくつかありました。西日本 にも自然史系の中核施設がないところはいくつかあります。代表的な のが、京都と奈良です。京都は京大博物館、府立植物園、市立青少年 科学センターなどいくつかの施設があるのですが、来館者や生徒の支 援に活動が限定されていたりと、なかなか地域活動の中核になってい ないのが現状です。また、やはり自然史系博物館のない「東京や名古 屋でやってアピールするのはどうだろう」という案もまじめな検討の 課題になりました。総会やその後の理事会などの議論を経て、最終的 には奈良県橿原市での開催となりました。 橿原市での開催となったのにはいくつかの理由があります。まず第 ーに、県立など中核的な自然史系部門をもった博物館がなく、一方で 地元では「県立自然史博物館をつくる会」などの運動が継続されてい たこと。第二には、 2004 年 3 月には、西日本自然史系博物館ネット ワークのメンバー館でもある橿原市昆虫館が奈良県下唯一の自然史系 登録博物館となるタイミングにあたり、当面は昆虫館を中心に活動を 盛り立てていけると考えたからです。吉野・大峰・大台ヶ原・そして 春日山・吉野川と、奈良県下の豊かな自然を見つめ、継承していくた めには、自然史系博物館を活用した市民の学習活動を活発にしていく 必要があるところです。奈良の県民世論を刺激するのは大変重要なこ とに思われました。第三に、橿原市昆虫館には大阪同様、人々の輪が きちんとできあがっていたことです。橿原市昆虫館には、 1998 年に 結成された友の会 (2003 年に NPO 化 ) があり、自分たちの博物館 1 1 8 第 3 章地域との連携

9. 「自然史博物館」を変えていく

の関わりは、意義があります。 博物館と関わりを持っことによって、サークルは部屋や実体顕微鏡 など博物館のさまざまなスペースや機材を利用することができます。 また、博物館が収蔵している標本や本、情報といった資料もしかるべ き手続きをふめば利用可能です。 各サークルは、友の会や他のサークルと関わりを持っことによって、 新たな人的資源を獲得できる可能性があります。活動のためのアイデ ィアや意欲を分かち合うこともできるでしよう。 いわば、博物館コミュニティに加わっていくことは、個々のサーク ルの活動を活性化するうえでも、大いに意味のあることなのです。し かし、このことは残念ながら必ずしも多くのサークルに知られている わけではありません。博物館との関わりを持ち、すでに博物館コミュ ニティの一員といっていいサークルにおいてすら、博物館の上手な利 用の仕方や、友の会・他のサークルのつきあうことのメリットが理解 されていません。こうした現状を少しでも改善しようと計画されたの が、大阪自然史フェスティバルです。その詳細については、 3 ー 3 「大 阪自然史フェスティバル 2004 のたくらみ」を参照してください。 図 5 サークルのなかには、 IOO ~ 400 名規模の講演会を実施する能 94 第 3 章 力を持つものも多い。また、学会や全国規模の研究会にもサー クル同様に博物館と共に活動している団体が少なくない 地域との連携

10. 「自然史博物館」を変えていく

つなぐ事業を展開してみました。「学校 ( 教員 ) と博物館」をつなぐ、 さらに「子どもと博物館」をよりよくつなぐ、そして、地域で活動す る「市民団体と博物館」の連携の三つのつなぎを重視しました。いず れも連携にこだわったのは博物館がもっている情報 ( コンテンツ ) に はそれなりの自負があったからともいえます。学芸員が長年の活動を 積み上げた博物館には、いずれもほかでは得られない、地域の魅力的 な情報が秘められているはずです。活用しないのはもったいない。 これまでも私たち学芸員はこうした地域の魅力を様々な努力で発信 しようと勤めてきました。それでも、博物館の情報発信は残念ながら まだ社会に満足がいくほどに行き渡ってはいません。学校教育にすら、 博物館がうまく利用されているとは言い難いのが現状です。今回「つ なぐ」ことにこだわったのは、よりよく伝わるようにするためにはど うすればいいのか、に注力したかったからです。子どもにできるだけ 魅力的であるように、より教員に使いやすく、地域の市民団体から信 頼される、それぞれ迷いながら実践を試みたものです。この実践には、 大阪自然史センターの教育スタッフや事務局などの多くのスタッフが 大変重要な役割を果たしました。学校教育連携や児童の活動支援、デ ザインや IT といった、それぞれのスキルを持ち、何よりも自然や博 物館を「伝えること」に熱意を持って取り組んでくれた彼らを抜きに 学芸員だけではこれだけ広汎な「つなぎ」はとても実現できていない はずです。本書に書いたような取り組みは、博物館の持つ学術面の専 門性と、自然史センターの学校教育連携や児童教育をバックにした実 現能力が連携し一体化することで、一気に具体化していったのです。 タネを明かしてしまえば、本書にはすごい IT 技術も、あっとおど ろくようなキャンペーンも登場しません。博物館にとっての市民との 連携は、普及教育活動をまっとうに発展させていった先のものである と、今改めて感じています。その意味で、本書に登場するのは学芸員 と NPO のスタッフがまっとうに博物館活動に取り組んで格闘した中 間到達点に過ぎません。これも今風に言えば市民との協働なのかも知 126 おわりに