特定非営利活動法人 - みる会図書館


検索対象: 「自然史博物館」を変えていく
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1. 「自然史博物館」を変えていく

おわりに 0 つなぎ役としての NPO の重要性 2002 年に出版した『「地域の自然」の情報拠点自然史博物館』は、 西日本各地の博物館学芸員自らが、共同事業を通して自然史博物館の 今日的なあり方を探り、あるべき姿を再定義する試みでした。それは 自然史系博物館の機能を学術的あるいは社会教育的な役割をふまえっ つ、さらに自然の保全や再生をめざす環境の情報拠点として、活動の 場として社会的に機能する姿といえます。 この議論をふまえ、大阪市立自然史博物館は二つの NPO の輪の中 に自らを位置付けて活動を展開しています。すなわち、地域に根を張 り大阪周辺の自然好きと博物館とを結びつける「特定非営利活動法人 大阪自然史センター」、そして環瀬戸内地域 ( 中国・四国地方 ) 自然史 博物館ネットワーク推進協議会の理念と経験を受け継ぎ、さらに未来 の自然史博物館活動を開拓して行くべく設立された「特定非営利活動 法人西日本自然史系博物館ネットワーク」の二つです。博物館は、 市民のために存在する教育・学習施設であり、より多くの市民と、よ り緊密な連携のもとでこそ、よりよく機能できると考えています。そ のためには、こうした広く、強いつながりを持っための「つなぐしか け」が重要だと考えています。博物館側に連携を強く意識するしつか りとした担当者と、博物館の外にはあっても博物館と市民の間にあっ て様々な調整、サービスの提供を行う「つなぎ役」の両者がいること によって、効率的でスムーズな事業展開が可能になる、というのが私 たちの得た教訓です。 本書は主に 2004 年までの活動 ( 科学系博物館教育機能活用事業 ) を中心に、その試行錯誤にまみれた経験を事業ごとにまとめたもの です。上述の二つの NPO との連携の上で、様々な対象と博物館とを おわりに 125

2. 「自然史博物館」を変えていく

さらに広範な自然史系博物館園および学芸員、関係する個人の参加を 得てネットワーク事業を発展させていく」ことを目指しています。ま た、「法人は博物館や学芸員も含めて広く参加者を募り、企画展・巡 回展などの共同事業およびさまざまな事業についての情報の交換・共 有にとりくむ」としています。 発起人による定款、事業計画等の原案作成を経て、 2003 年 9 月 10 日に西日本自然史系博物館ネットワーク設立総会が大阪市立自然 史博物館において開催され、 15 館園から 27 名が出席しました。以 後、この総会での決定に基づき、事務所の所在地となる大阪府に対し て NPO 法人としての認証申請手続きを進めているところです。 また、ネットワークの設立に因んで、自然史系博物館の活動の楽し さ、社会的意義・役割を広く関係者・市民にアピールする「西日本自 然史系博物館ネットワーク設立記念シンポジウム」を、文部科学省の 委託事業「科学系博物館教育機能活用ネットワーク推進事業」の一環 として 2004 年 2 月に奈良県橿原市において開催しました ( 特定非営 利活動法人大阪自然史センターと共催 ) 。この時点で西日本自然史系博 物館ネットワークの正会員数は 56 名、参加館園数 26 に達しています。 5 草の根の博物館ネットワーク もともと特定非営利活動法人 (NPO 法人 ) は、その団体の趣旨に賛 同する万人に門戸を開いていることを必要条件としています。西日本 自然史系博物館ネットワークは、そのような意味で博物館関係者だけ でなく博物館に関心のある市民の誰もが参画することのできる、開 かれた組織です。ネットワークを構成する会員には、正会員 ( 個人 ) 、 博物館会員および賛助会員の 3 種類を設けていますが、議決権を持 つ会員 ( 法人で言うところの「社員」 ) は正会員です。この点において、 ーっひとつの博物館を構成員としている日本博物館協会や全国科学博 物館協議会のような協議体とは大きく異なります。運営・事業には博 物館学芸員だけでなく、広範な博物館関係者、博物館に関心のある市 1 1 4 第 3 章地域との連携

3. 「自然史博物館」を変えていく

はじめに 一地域の「自然の情報センタ」として 機能するために 橘麻紀乃 ( 大阪自史センター ) 久間大輔 ( 大阪市立自然史物館 ) 1 自己紹介ー大阪市立自然史博物館と特定非営利活動法人 (NPO 法人 ) 大阪自然史センター 図 1 大阪市立自然史博物館 はじめに 1 から構成されています。大阪各地の自然から地球の生い立ちまで、様々 報センター」の中にある「大阪の自然誌」展示室と特別展示スペース とナウマンホールに加え、 2001 年にできた新館「花と緑と自然の情 物館です。「自然と人間」の関わりをテーマにした 5 つの常設展示室 長居公園にある、生き物、化石、地質といった自然をテーマにした博 大阪市立自然史博物館は、大阪市の南部、スポーツ施設が集積する

4. 「自然史博物館」を変えていく

な自然のふしぎや大切さを、子どもにも、大人にも伝えています。土 日の親子連れ、そして平日の学校団体や、植物園とともに楽しむ市民 でにぎわっています。 博物館には植物分類学、甲虫目の分類、脊椎動物化石などそれぞれ 2 はじめに この友の会を母体にして 2001 年に設立された NPO 法人です。「広く 特定非営利活動法人大阪自然史センター ( 以下、自然史センター ) は、 たのです。 て知られる基礎には、常にこの「友の会」が重要な役割を果たして来 示されるとおり、大阪市立自然史博物館がアマチュア活動の舞台とし のナチュラリストー自然の達人たち」 ( 大阪市立自然史博物館 2005) に の会で縁をもった人のつながりが大きな要素になっています。「なにわ たアマチュアの力は大きく、 3 章に述べるような地域との連携にも、友 い手としても大きな役割を担ってきました。実際、友の会で育成され る歴史を持ち、人材育成の上でも、大阪の自然関連情報を蓄積する担 も多く、数千人のコミュニティとなっています。友の会も 50 年を超え すが、だいたい 1700 から 2000 世帯。家族ぐるみで活動に参加する人 ュニティは大阪市立自然史博物館友の会です。会員は年により変動しま さまざまな人の輪が何重にも取り巻く博物館において、最大のコミ 博物館を取り巻くコミュニティにあると考えています。 大の特色は、実は施設ではなく、この 50 年の活動を経て形成された 時代を含めると、その活動は 50 年を越えています。この博物館の最 ていますが、かって靭公園脇にあった「大阪市立自然科学博物館」の 物館です。この博物館が長居公園にできてから既に 30 年以上が過ぎ 備があり、さらに長居植物園が隣接する、近畿の中核的な自然史系博 伝えるために、館内には 110 万点を超える標本が収納され、研究設 す。博物館は展示室だけではありません。大阪の自然を知り、後世に べる NPO のスタッフなど数多くのスタッフが協力して運営していま ッフ、電気技術スタッフ、清掃、警備、改札・案内、そしてあとに述 の学術分野を担う学芸員が館長以下 16 人います。その他に事務スタ

5. 「自然史博物館」を変えていく

図 2 2003 年 3 月の発起人会 ( 右奥が初代理事長、故那須考梯氏 ) ④自然史系博物館の存在意義そのものを社会にアピールできる。 当事者の間では、文部科学省の事業委嘱が終了した後も手弁当でよ いからこの事業を継続しようということで意見が一致しました。そし て 2003 年 3 月に高知県立牧野植物園に 12 館園から 20 名の博物館 関係者が集まり、事業の継続と社会的認知を図るために NPO 法人化 する方向で「環瀬戸内」ネットワークを継承していく組織を立ち上げ ることを決め、発起人会を発足させました。設立趣旨は『「学校」・「地 域」と自然史博物館』 (2003 年、特定非営利活動法人大阪自然史センター 大阪市立自然史博物館編集発行、 p. 51 ) に掲載されています。 4 西日本自然史系博物館ネットワークの設立へ 法人組織の名称は新たに「西日本自然史系博物館ネットワーク」と することになりました。趣旨にも述べられているように、この組織は 「環瀬戸内」ネットワーク事業が遺した「貴重な経験と成果を継承し、 3-4 より広域の地域間をつなぐ 1 13

6. 「自然史博物館」を変えていく

「自然史博物館」を変えていく 2009 年 6 月 24 日第 1 刷 編者 発行者 発行所 発行 大阪市自然史博物館・大阪自然史センター 大阪市自然史博物館 〒 546-0034 大阪市東住吉区長居公園ト 23 TEL 06-6697-6221 FAX 06-6697-6225 URL http://www.mus-nh.city.osaka.jp/ 特定非営利活動法人大阪自然史センター TEL 06-6697-6262 FAX 06-6697-6306 URL http://www.omnh.net/npo/ 高田信夫 高陵社書店 〒 101-0064 東京都千代田区猿楽町 2-8-10 TEL 03-3292-7408 FAX03-3292-7409 URL http: 〃 www.koryosha.co.jp/ 印刷・製本 / 三美印刷株式会社 @20 ( ) 9 Osaka Museum of Natural History and Osaka Natural History Center ISBN978-4-77 Ⅱ -0975-9 C3034 Printed ⅲ Japan

7. 「自然史博物館」を変えていく

にとり組み、大阪市立自 然史博物館の事業の進展 に寄与することを通して、 市民の自然に対する理解 を深めることを目的とす る。」と定款 3 条に定め られています。 る活動」「文化、芸術又図 2 観察会の様子 はじめに 3 れます。大阪市立自然史博物館の活動に即してわかりやすく整理し直 博物館の役割には収集保管・調査研究・教育普及・展示があるとさ ー自然史博物館の活動と利用者 2 誰に向けて、普及教育・サービスを行うか すことで、多様な連携事業を実施しています。 が、活動目的を常にすりあわせ、その上に博物館と協力協定書を交わ と成長しつつあります。財政、統治機構は博物館から独立しています タッフとをもった、実社会の中で活動を展開する実力を持った組織へ するボランティア集団ではなく、事業を行うための収入確保と事業ス 阪自然史センター 2002) に詳しく書かれています。意欲のみに立脚 この NPO 設立経緯については『「学校」・「地域」と自然史博物館』 ( 大 もおこなっています。 く、ミュージアムショップの運営、ボランティア活動、出版事業など 会から発展を図ったものです。友の会事業を円滑に経営するだけでな 実務スタッフとをもった安定した団体として、任意団体であった友の 公益を目的として事業の発展を図る独立の組織です。法人格と経営・ はスポーツの振興を図る活動」、「環境の保全を図る活動」などを掲げ、

8. 「自然史博物館」を変えていく

まざまな活動を効率よく進めていくうえで、重要な役割を果たします。 その関係は、単に普及教育活動に留まらず、資料収集保管、調査研究 といった活動を含めた博物館活動全般に及びます。すなわち、博物館 が効果的に活動を展開していくには、ユーザー集団としての友の会の 存在は不可欠なのです。むしろ博物館と友の会と分けて考えるよりは、 博物館と友の会を一つの博物館コミュニティとみなし、そのコミュニ ティ単位でさまざまな博物館活動の展開を考えていくことが望まれる のです。 しかし、博物館コミュニティが活動を展開していくうえで、その構 成要素が博物館と友の会だけでは、いくっか不十分な点がでてきます。 友の会は、当然ながら博物館との距離がきわめて近く、博物館を舞台 に、あるいは博物館学芸員を活用しての活動が中心となります。よく も悪くもその活動には、博物館の影響が強く現れます。その結果とし て、活動の多様性が減る傾向があります。たとえば、たまたま学芸員 の興味のある分野ばかりに力を入れたり、博物館以外の場での活動が あまり行われないなどです。資金面や運営を担う人材面での博物館へ の依存度の高さも時として問題となります。 また、人数の多い友の会には、相当数の初心者が含まれます。必然 的に、友の会の活動は初心者向けが中心になります。すそ野を広げる という意味では、それは望ましいことです。しかしその反面、あまり 一般的でない特定の分野だけを取り上げた活動、あるいは高度な専門 知識を必要とする活動が、展開しにくくなります。 これは、友の会に入り、学習を進めていくなかで、さらに高度な専 門知識を求める層に対して、友の会が十分に応えられないということ を意味します。また、特定のフィールドや博物館以外の場での活動に 興味を持った層に対しても、友の会は十分に応えることができません。 こうした層が友の会から、ひいては博物館コミュニテイから離れてし まうとしたら、これは博物館コミュニティが活動を進めるうえでの大 きな問題です。 86 第 3 章地域との連携

9. 「自然史博物館」を変えていく

館 情報センター 会議室 集会室 実習室、子 図 1 ある土曜日の博物館の催事情報 サークル活動と普及活動の充実を見ていただけるだろう がサークルを立ち上げることもあります。そもそも個々の学芸員は、 サークルを立ち上げることが推奨されています。 こうしたなかで、大阪市立自然史博物館の周辺では、昔から数多く のサークルが活動してきました。学芸員が事務局や連絡先になるなど、 活動の中心的部分を担っているサークルだけでも、 20 を下りません。 なんらかの形で、博物館や学芸員個人と関わりを持ちながら活動して いるサークルは IOO を越えます。 すでに述べたように、博物館周辺で活動しているサークルができる 経緯にはさまざまなものがあります。博物館とは関わりなくできて現 在博物館との関わりを持ちながら活動しているサークル、友の会の中 でできたサークル、博物館や学芸員の調査研究プロジェクトに端を発 するサークル。博物館では、自然発生にまかせつつも、博物館の弱点 を補うようなサークルを積極的に育成してきている経緯があり、特定 の目的を持って博物館が戦略的に立ち上げたサークルもあります。さ 3-2 博物館とサークル 89

10. 「自然史博物館」を変えていく

わけです。詳しくは『「地域の自然」の情報拠点自然史博物館』をご 読ください。 私たちは広島での活動もふまえて、自然史系博物館の意義とあるべ き姿を改めて示す活動に、それなりの意義と手応えを感じていました。 こうしたことから、今回、 NPO 法人西日本自然史系博物館ネットワ ークの設立にあたっても、私たちの活動を実際に示していくシンポジ ウムを開催したいと考えていました。 シンポジウムの開催地候補は当初からいくつかありました。西日本 にも自然史系の中核施設がないところはいくつかあります。代表的な のが、京都と奈良です。京都は京大博物館、府立植物園、市立青少年 科学センターなどいくつかの施設があるのですが、来館者や生徒の支 援に活動が限定されていたりと、なかなか地域活動の中核になってい ないのが現状です。また、やはり自然史系博物館のない「東京や名古 屋でやってアピールするのはどうだろう」という案もまじめな検討の 課題になりました。総会やその後の理事会などの議論を経て、最終的 には奈良県橿原市での開催となりました。 橿原市での開催となったのにはいくつかの理由があります。まず第 ーに、県立など中核的な自然史系部門をもった博物館がなく、一方で 地元では「県立自然史博物館をつくる会」などの運動が継続されてい たこと。第二には、 2004 年 3 月には、西日本自然史系博物館ネット ワークのメンバー館でもある橿原市昆虫館が奈良県下唯一の自然史系 登録博物館となるタイミングにあたり、当面は昆虫館を中心に活動を 盛り立てていけると考えたからです。吉野・大峰・大台ヶ原・そして 春日山・吉野川と、奈良県下の豊かな自然を見つめ、継承していくた めには、自然史系博物館を活用した市民の学習活動を活発にしていく 必要があるところです。奈良の県民世論を刺激するのは大変重要なこ とに思われました。第三に、橿原市昆虫館には大阪同様、人々の輪が きちんとできあがっていたことです。橿原市昆虫館には、 1998 年に 結成された友の会 (2003 年に NPO 化 ) があり、自分たちの博物館 1 1 8 第 3 章地域との連携